昨日は投稿できずスミマセンでした
お詫びと言ってはなんですが、今日は2話投稿しようと思います
あと温かい感想本当にありがとうございます
全ての文の一言一句を噛み締めております(キモい?)
なお、今話の前半に不愉快な描写があります
お気をつけて、どうぞ
「……ぁ、ぁぁ、ぁぁぁ、ぁぁぁあああ!!」
痛い痛い痛い痛い!
腕が、腕が痛い!
嫌だ、止めて、離して!
もう……殺してくれ!!
「ぁぁぁあああ!、ああアアア亜唖亞阿啞…!!!」
肩を誰かに抑えられ、暴れる身体を抑止される。
口に何かを突っ込まれ、くぐもった叫び声が頭蓋に反響する。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいい……
ぐちゃり、ぐちゃりと
ごりごり、ごりごりと
ぐちゃりぐちゃりごりごりごりごりみしみしぶちぶち
不快で吐き気が催される音と臭い、それが更なる痛みをもたらし、本当に気が狂いそうになる。
正しく地獄、正しく拷問。
もう何十時間も続く激痛に、嗄れた喉をさらに広げて叫び、枯れ果てたハズの涙はなお流れて。
こんな気違いなことを延々と続けなければならないのかと僅かに残った理性で考え、そういえばまだ断裂部を閉じていないということは、また開く作業があるのかと思い至って、本当に死にたくなって。
「がああああぁぁッ、ぁぁぁああぁぁぁあ!!」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
痛いのは嫌だ、苦しいのは嫌だ、辛いのは嫌だ。
もはや己が身体を律することが出来なくなった。
身体中の至る所にある拘束装置を引きちぎり、驚く外印の顔面を殴打して手術台から飛び降りる。
もう形振り構っていられなかった。
目につくすべてのものを殴り、蹴り、壊していった。
人形が、材料が、何かの臓物が、全てが忌々しかった。
壊して、壊して、壊して、壊してた片腕すら壊れて。
それでも壊して、壊して、自分の身体も壊していって。
もう何もかもがどうでもよくなって、自分を見失って。
己の血か、人形に内蔵してある血か、ともかくどちらかの血を大量に浴びながら、暴れ続ける。
人形の残骸が辺りに散乱し、机も、手術道具も、あらゆる物を形として残さないよう、徹底して壊して回って。
止めに入った外印のこめかみを無事な片手で掴み、そのまま後頭部を壁に叩きつける。
骨が潰れる音がして、手を離すと何の抵抗もなく外印だったものは地に崩れ落ちた。
俺は奇声を上げながら目に着くもの全てを壊していき
ついには己の心も壊れた音が聞こえて……
「む、目が覚めたか」
気が付いたら俺は呆と石造りの天井を見上げていた。
いつから天井を見ていたのか、記憶がかなり曖昧だ。
ついさっき意識が戻ったような気もするし、もうずっと見続けている気さえする。
俺は、いつから俺を見失っていた?
そんな考えが頭をよぎる中、外印がお盆を持って近づいてきた。
そのお盆には大きなお椀が乗っていて、湯気を立てていた。
匂いからして、おうどんのようだ。
「しかし師の精神は本当に怪物だな。あの地獄を泣き叫ぶだけで耐え、身体は一寸たりとも動かさないのだから」
「……」
「起きるとは思わなかったが、師のことだからと念のため喉越しの良いものを作ってね。食べるかい?」
「……なあ」
誰の声だと、自分でも驚くほどに嗄れた声。
いったい俺は何時間叫び、泣き続けたのだろうか。
どれほどあの地獄を味わっていたのだろうか。
「どう……なった?」
喉が痛いのもあるが、喋る労力ですらかなり億劫に感じるほど今の俺は疲弊して憔悴しきっている。
端的すぎて曖昧な問いになってしまったが、外印はふむ、と顎に手を当てて丁寧に答えた。
「工作…もとい、手術は無事に終わった。師が微動だにしなかったおかげで予定より早く、都合二日と半分程度で済んだ。途中、気を失って五日ほど昏睡した後、今目を覚ましたのだが、記憶にないか?」
気絶して、五日の昏睡?……ハッ、あれだけ威勢のいいこと抜かしといて、なんともザマァねぇ話だな。
とはいえ、外印の口振りから察するに俺は今の今まで起き上がって暴れる事はおろか、身体を動かしてすらいないようだ。
なら、あの酷く現実味の合った出来事は夢だったのか。
深層心理で俺が求めた衝動と欲求が見せた願望か、妄想か。
どちらにしても気分のいいものじゃない。
自分の弱さをまざまざと見せつけられた気分で反吐が出る。
「あとの回復は師の生命力に依るだろう。食べて寝ることが一番の近道だと思うが?」
そう言っておうどんの入った器を差し出してくれた。
少し逡巡してから、俺は起き上がって有り難く受け取ることとした。
拘束具はすべて解かれていて起き上がるのに支障はないが、ずっと寝っぱなしだったためか、或いは血が足りないのか身体が鉛のように重く感じた。
それでも、重い腕をなんとか動かして熱い器を受け取る。
正直、悠長にしている時間はない。
俺にはやることがあるのだから、ここでこれ以上時間をロスするのは避けたいのだが…
そんな打算的な考えは、この鼻孔をくすぐり食欲を刺激する香ばしい匂いの前には意味を為さなかった。
出汁の効いた熱い汁を啜り、嗄れた喉に酷くしみて、とても痛かった。
もう痛くて痛くて、スゴく痛くて枯れたハズの涙がまた溢れてきた。
くそ……痛ェよ、痛ェよぉ
なんだって、こんなに痛いんだよ……
せめて冷やのうどんをくれよ、嫌がらせか。
こんなにしょっぱい味付けにしやがって、それなのにどうしてこんなに美味いんだよチクショウ……
「…ぅ…、ッぅぅ……ぅ……!」
麺しか具の無い質素でしょっぱいうどんが、どうしようもなく喉に沁みて、俺は無我夢中でお椀を傾け続けた。
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「義手が出来上がるのは、材料が揃えば一ヶ月かそこらだ。その頃にまた来るといい……いや、此方から送るとしよう。後で送り先を教えてくれ」
「……あぁ、ありがとう」
「ふふ、腕が鳴るな。どうせなら私生活用と戦闘用とに分けるか……となれば形は二の次で、必要なのは……ブツブツ」
なにか怪しげな事を呟き続ける外印を無視し、俺は手術台から降り立った。
あの後、うどんを完食したら余計にお腹が空いた俺は、更なる食べ物を要求して失った血と体力を回復させるために食に励んだ。
外印も律儀に応じてくれて、質素だが味は確かなものを作って(?)くれた。
なんだかコイツ、原作のようなおじさんには思えないのは気のせいか、と思いながらもメシをかっ込み続けた結果、なんとか身体は動く程度にまで回復した。
ならばもう寝ッ転がり続ける理由もないと考え、リハビリのために手術台から降りて歩くようにした。
無論、一歩一歩と歩を進める度に腕に激痛が走るが、最初と手術中のそれに比べればなんとか耐えられる。
痛いのも最初の数ヵ月程度だろう。
原作が始まるまでには支障をきたさないぐらいに落ち着くハズだ。
「……ッッ、」
ゆっくりと歩いているのだが、身体は勝手に横に傾いで真っ直ぐ進めず、遂には倒れてしまった。
身体のバランスが上手くとれない。
真っ直ぐ歩けねェ……あぁ、そうか、腕の重み分だけ右半身が軽くなったのか。
だから左に歩が逸れるのか。
これはちょっと厄介だな。
食事における片腕の弊害は容易に思い付いたが、歩くことすら儘ならないとは思わなかった。
早いうちに慣れておかないと。
そこで、ふと
ある物を見つけて、目を見開いた。
「あぁ、それか。流石に現場に残しておくのは危険かと思ってね。苦労したが、なんとか土を掘り起こして運んできたのだよ」
ぎしり、と無い腕が痛んだ。
四つん這い、もとい三つん這いになった俺が見たもの。
それは地に置かれた巨大な鎌だった。
火傷の跡が残る頬と残った腕部がチリチリと痛み、自然と地に付いていた手が力んでいた。
「人形に持たせるのも一興かと考えたんだが実用的ではないしな、精々が観賞用ぐらいにしかーー」
「……ょこせ」
「ん?」
「これを……俺に寄越せ」
コイツを見れば嫌が応にも思い出してしまう。
あの時の地獄の業火の世界を。
忘れるはずもない、深い憤怒と絶望、そして生きるために足掻いた必死の覚悟。
見てて忌々しいし、触れればひとしお。
だが、それでも。
否、それゆえに……それだからこそ。
「いつか俺が返してやる……だから、俺が貰い受ける」
「ふむ……まぁ私に否やはないから、師の思うようにしてくれて構わない」
そう言われ、俺はその鎌を手に取って立ち上がる。
途端、無いハズの右腕が悲鳴を上げている気がしたが歯を喰い縛って無視する。
柄は鉄製(原作は木製だったが、後に軽量化を図ったのか)で、足ほど太い鎌の部分は柄から垂直に出ている形だ。
当然刃は内側にあり、酷く使い勝手が悪そうだ。
鎌も湾曲しておらず、直刀のように真っ直ぐ。
その大鎌は想像通り重く、まず片手じゃ満足に振り回すことは難しい。
重心は鎌の部分にあるため、鎌を地と水平に振るうのは至難の技だろう。
つまり、殺傷武器としてはまず役に立たないゴミ……のハズなんだが。
そんなゴミの武器に、俺は殺されかけた。
片腕を、失わざるを得なかった。
そう思うだけで歯痒く、悔しさで一杯になる。
なればこそ、こうして手にできるのなら、己のものにしなければならないんだと思う。
あの地獄をいつでも身近に置いておこう。
そうすれば、少しは弱い心を強くできるだろうから。
そして、これの扱いを習熟して、奴に返すんだ。
仕返しとか復讐とか、そんな大層な話じゃない。
地獄に慣れ、地獄を克服できた暁には、少しだけ自分の成長を見られるのではと、そう思ったんだ。
この身体に相応しい心に成長できるんじゃないか、と。
「人が扱うにしても実用的ではないと思うが?」
「右半身の重さが不足してんだ。これで補えればちょうどいい」
何か他にも言いたそうな外印に、背に負えるよう細工してもらうように促す。
まず全体を覆える布。
鎌の部分に重点的に施すようにして、それと俺が爆散させた鎖の交換を。
出来上がったそれを、鎌が下になるようにして背負い、持ち手とは逆の柄の先端(つまり鎌の方)から延びる鎖を不自然に見えないよう右腕の残滓に巻き付ける。
いったい俺はどんな風に見えるのだろうかと疑問に思うが、努めて無視する。
これで左に身体が傾くことはないから万事OKだ。
当然、大鎌を身に付けるまえに身だしなみは整えている。
外印の私服を頂戴し、ボロボロの着の身着と交換していたのだ。
さて。
多少フラつくが、リハビリを続けた結果ある程度歩けるようになったし、忌々しいが期せずして武装も手に入った。
ならばもう、惰眠を貪っている暇はない。
「もう行くのか」
義手の届け先を伝えて、外へと続く扉へと手を掛けようとしたとき、後ろから声が掛かった。
「これ以上時間をロスするのはいただけない。とっとと終わらせるべきことを終わらせないと」
「そうか……師よ、なにか私に聞くことはないのか?」
うん?……あぁ、そうか。
まがりなりにもコイツも十本刀の一人。
ある程度此度の事件にも噛んでいるのだろう。
いかんな、そんな大事なことを忘れていたとは。
「……じゃあ御言葉に甘えて。お前らの今回の目的は?」
「レオナ・マックスウェルを殺害すること。本来なら手下どもで十分だったんだが、功を上げたい鎌足と蝙也が出しゃばった形だな」
「なら、目的は達成した?」
「うん。奴等も引き上げるハズだろう。師についても心配はいらない。以前、墓から拝借した人骨を放っておいたから、奴等が調べれば師の死と誤認するだろう」
「至れり尽くせりだな、ありがとう。それで、お前の目的は?」
「特に無かったよ。私はもとより自由奔放にできる身ゆえ、今回もただ見物をしていただけだったんだがね」
「で、俺の今わの際の姿を目撃して近くで見物しに来た、と……。ま、とりあえず信じておくよ。話を戻すが、レオナ・マックスウェルを殺害した理由は?」
「ふむ……答える前に一つ。師は我々のことをどこまで知っている?」
当然の問いだな。
組織の存在を知っているかのような口振りだし、夷腕坊に入っている外印の存在を言い当て、しかも
どう考えても異常だ。地下組織を知りすぎている。
現在の警察でもそこまで知ることは不可能だろうし、端から見ると俺は謎の存在なのだろうな。
「組織については一通り調べあげた。が、当然分からないこともある。今回の騒動もそうだ。異国人を殺し、目立つ位置に死体を放置するなんざ……あぁ、見せしめか」
「御名答だ、師よ。レオナ・マックスウェルは組織に武器を流してくれていた協力者だったのだが、金に目が眩んで他の者にも流すようになったのだ。足が着くことを危惧した我々は、他の協力者への見せしめも兼ね、彼を殺すこととした」
納得。
そして理解した。
ここ横浜は奴等の温床なのだ、と。
つまり、監視の目みたいなものがあると考えた方がいい。
まだ横浜でやることはあるのだから、その目をどうにかしないとならない。
さて、どうするか……
「……外印。今回は本当に助かった。御礼と言ってはなんだが、俺の髪をくれてやる」
「うん?」
「人形に使えると思えばなかなかだと思うぜ。なにせこの色の髪はなかなか手に入らないだろ?」
ほお、と感嘆の息を洩らす声が聞こえた。
ふと机の上に置いてある小刀が目に入ったので、それを取って口に銜える。
そして後ろ髪をまとめて左腕に巻き付け、小刀を持って我ながら器用に髪を後頭部辺りで切っていく。
躊躇いもなく、頭皮に及ぶ痛みも関係なしに。
ざし、ざし、と。
そして最後の一本を切り終えると、久々に首筋が露になって涼しく感じた。
腕に巻き付いた髪を机の上に振り払い、今回のお代とさせてもらう……安いもんだよ、いやホント。
「……なるほど、これはいい。西洋では髪は魔力なるものが宿ると言われているようだが、これを人形に使えば面白いな。ふむ、確かに受け取った」
ホント、人形愛が強いな。
けど、今回はそのおかげで助かったんだ。
コイツに出会えたことといい、よく分からんがコイツの食指に触れたことといい、五体不満足になったものの生き残れたのだから俺も大概悪運が強い。
おまけに義手まで作ってくれるというのだから、感謝の念に絶えない。
そうだな。
落ち着いたらお礼を兼ねてコイツの人形作りに協力しようか。
なんてことを考えながら今度こそ扉に手を掛けた。
「じゃあな……世話になった」
「うむ。師の要望に沿う義手は必ず仕上げておこう」
外印の隠れ家から出ると、太陽が真上に来ていた。
時間を確認していなかったが、だいたい昼時のようだ。
見上げる空は青々と澄んでいて、雲一つ無い晴天だった。
あぁ。
俺にとって激動の一週間であっても、世界は関係なく回っていくんだな。
俺があそこで死んだとしても、明治は変わらず進み、そして平成へと至るのか。
……腐るな。
例え片腕がもげたところで、やることに変わりはないんだ。
片腕が使えなくなって、斎藤の引き上げる背を眺めるしかなかった後悔を。
最後の最後に意識を失って、浦村さんに助けられなければ刃衛に殺されていた雪辱を。
また腕を失い、意識も失った。
記憶さえ朧気で、我を忘れたときもあった。
ならばこそ。
同じことを繰り返している今、こここそが。
後悔と雪辱を噛み締めて乗り越えなきゃならない瞬間なんじゃねぇのかよ!
はぁ、と己の内に燻る熱を吐き出し、俺は手を握り締めながら再び横浜の町へと繰り出した。