明治の向こう   作:畳廿畳

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唐突などーでもいい暴露話


筆者がもし今の身で転生したら一番困ること

①コンタクトレンズ









25話 明治浪漫 其の玖

 

 

 

 

 

 

 

 

現場の処理をあらかた終えると、駆け付けた警官に引き継ぎを頼んで俺たちは署に向かった。

そこでボロボロの宇治木を有無を言わさずに医務室にブチ込んだ。

放っておけば治ると言ってたから、その言葉を信じたのだ。

実際、致命傷は見当たらなかったのは幸いだった。

 

医務室までの道中、奴の元部下で現同僚となった奴らを見つけたので、宇治木の世話をするようにと言い残しておく。

 

 

「さて。現職の警官に暴行、しかも殺す意思ありきでボコったんだ。結構な罪科でしょっぴく事は出来るが……」

 

 

そんなんじゃ俺の腹の虫は治まらない。

やっぱりお礼は上司である俺が直々にくれてやんないといかんからな。

 

てゆうか、警察を手に掛けて逃れられると思っているのだろうか。

パトロンとして取り込もうとしている塚山家(かなりの資産家らしく、石動雷十太はそこに食客として居る。後に乗っ取る予定の家)は警察の動きを封じれるほどの影響力はなかったハズなんだが。

 

それとも独自の汚いコネでもあって、それで動きを縛ろうと考えているのだったら、それは甘いよ?

東京警視本署筆頭の爪弾き者は変なしがらみも命令も関係なく、突っ込んで行くからな。

俺ってば最近本署内で白猫だなんて言われてるぐらいだから、人の言うことは聴かないかもしれないよ。

猫は家になつくと言われているからにゃ。

 

まぁそれは置いといて。

 

自由に動けるとは言っても、塚山家に行くのは明日以降だ。

準備をどうするかを考えなきゃならんし、なにより冴子嬢の容体も気になる。

大丈夫だと頑なに言っていたが、捻挫とかは時間が経ってから痛みに気が付くこともあるし、歩けずに四苦八苦している可能性だってあるのだ。

どうせ今日は非番だったのだ、もう帰ろう。

 

そう思って、脇目も振らずに廊下を早足で歩いていたのがまずかった。

 

 

「おや、狩生くん?どうして此処に居るのですか?」

 

「……やっべ!」

 

 

って、これは失礼か。

でも油断してたわ、完全に意識してなかったわ。

 

 

「……浦村さん」

 

「今日はお休みするようにと言ったはずですが、私との約束は守れなかったのですかな?」

 

「スミマセン。いや、違うんです。これにはちゃんとした事情がありまして……話します!話しますから、その怖い顔を止めてください!」

 

 

笑顔なんだけどね、目が薄っすらと開くんだよ、怒ると。

チラリと覗ける瞳がマヂで怖いんだって!

 

あ~でも、そうやって瞳だけで人に恐怖を与える術ってのは羨ましいな。

俺もぜひ身に着けたいもんだよ。

 

なんてどうでもいいことを考えることで恐怖心を誤魔化し、ペラペラと先ほどまでの事件を包み隠さず早口に説明した。

その間決して目を合わせることは出来なかったのは言うまでもないこと。

 

一通り説明が終わると、浦村さんは怒気の笑顔を潜めてため息を一つ吐いた。

 

 

「そう……でしたか。それは、謝らなければなりませんね。そんな事があったとは知らずに」

 

「いえ、そんな。むしろ冴子嬢を危険に巻き込んでしまったのですから、拳の一つや二つは甘んじてお受けしようとすら思っていました」

 

「そんなッ、滅相もない。話を聞く限り、狩生くんのおかげで大事に至らなかったようじゃないですか。感謝こそすれ、文句の一つすら言うハズがありませんよ」

 

 

ですから、ありがとうございます。

 

そう言って浦村さんは頭を下げた。

自分より立場が下な相手に一切の躊躇もなく頭を下げるなんて、ホントこの人は器量が広い。

 

俺は慌てて頭を上げてもらうように言ってから、続けた。

 

 

「それでも、もしかしたらお怪我をさせてしまったかもしれません。ですのでこれから帰って様子を伺おうと」

 

「そうですか。でも聞いたところ急ぐ必要も無さそうですし、一旦自部署の部屋に戻られたらどうです?なんでも、君宛に荷物が届いたそうですよ?」

 

「私宛、ですか?」

 

 

まったく身に覚えがないな。

俺宛に警察署に荷物を送る奴――あ、外印か!

 

義手が出来たのか?!

 

 

「分かりました、ありがとうございます!じゃあその荷を持ってから御見舞いに行ってきますね!」

 

「え、えぇ……冴子も心配してくれていると知れば喜ぶでしょう」

 

 

いやそれは無いと思いますよ?

彼女の俺の徹底的な嫌いっぷりを見れば、ウザがられるとしか思えないですし。

 

まぁそれはさておき。

冴子嬢には申し訳ないが、浦村さんの仰る通り急ぐこともないのは確かかもしれないから、少しだけ寄り道させてもらおう。

ちょっと、否、かなり楽しみにしていたんだよ?

 

あの平成の世ですらビックリなオーバーテクノロジーを持つ外印が、腕によりを掛けて作ると約束してくれた義手。

果たしてどんな物になっているのか、何も聞いていないからこそ今ワクワクしているんだ。

 

スミマセン、冴子嬢!

ご様子を伺いに行くのはもう少し後にさせていただきます!

 

ちょっとした興奮を抑えられず、俺は早足に自部署へと駆けだしていった。

 

 

 

 

そこで目にしたものは果たして、自分と同じくらいの大きさの桐の木箱だった。

 

ん、んん~?おっかしいなぁ。

外印からじゃないのか?

でも木箱の片隅にアイツの覆面の髑髏のマークが描かれているから、アイツからの物であることは確かなんだけどなぁ。

 

義手ってこんなにデカかったっけ?(困惑)

 

それとも義手以外の物を送ってくれたのだろうか……あ、木箱に紙が張り付けてある。

それを手に取って広げると、中に外印からの伝言が書いてあった。

 

 

『師よ、お待たせして申し訳ない。ここに義手が完成したので贈らせてもらった。中には常備用と戦闘用の二種類の義手が入っている。前者はともかく、後者は今後の師の活動を鑑みて勝手ながら作らせてもらった。なに、礼は要らんさ。久々に私が追い求める「機能美」から、かなり逸脱した方向性の物を作ることが出来たのだ。いっそ、それが清々しくて楽しいとすら思えてしまってね。張り切って作ったのだ、喜んでもらえると私としても嬉しいよ』

 

 

……やっぱり義手なのね。

 

いや、嬉しいよ?

感謝感激だし、本当に助かるのだが、その気持ちと同じぐらいの大きさの不安が生まれたんですけど。

 

二本入っているからって、それでも大きすぎだよ。

とてつもなく開けるのが怖くなってきたわ。

 

 

「……いや、アイツは良かれと?思って作ってくれたんだ。不安がるのは失礼……かな?うん、失礼だな。感謝の気持ち、感謝の気持ちが大事」

 

 

ブツブツと自分に言い聞かせるようにして膝をつき、寝かせられている木箱の蓋に手を掛ける。

たかだか贈り物の中身を確かめるだけなのに、深呼吸している自分てどうよ。

 

大丈夫、大丈夫。

入っているのはちゃんとした物のハズだ。

アイツも俺が喜ぶと信じている物を作り、贈ってくれたんだから。

 

アイツの先進的かつ前衛的な芸術作品は、確かに時代を先取りしている。

往時の人からは理解され得ないかもしれない。

 

だが何を隠そう、この俺ならッ。

未来に居た俺なら、その芸術性も理解できると思う!多分!

変態大国の変態文化を知っているんだ、味わったんだから!(卑らしい意味に非ず!)

 

 

 

 

「はあああぁッ――御開帳!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決意を胸に、勢いよく開けた木箱。

 

 

 

 

その中に有ったもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは―――義手?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

中には白い布で簀巻きにされた、何かかなりデカい物が一つ。

俺ぐらいの体格の人間(ざっくり165cmと自覚してる)と同じぐらいの大きさな気がする。

……マヂで?身体と同じ大きさの義手って有り得るの?

 

で、それとは別に隅に同じく白い布で簀巻きにされた小さい物が一つ。

こちらはちょうど腕の大きさのようだから、恐らくこれが常備用の義手なのだろう。

 

 

「まずは驚きの少ないであろう普通サイズの方を……」

 

 

そう言ってそれを手に取ると……重い。

腕ってこんなに重いのか。

それに、固い。随分と硬質な素材で作られているようだ。

まぁ人の皮膚が素材となっている物よりかは万倍マシだ。

例え防腐処理されるからと言っても死体から剥ぎ取った皮で包まれた義手なんざ、いくら高性能でも御免だからな。

 

 

「……ぅぉ」

 

 

白い布を剥がしていくと、そこに現れたのは紫色の義手だった。

 

正しく義手、THE義手みたいな感じの、人間味をまったく感じさせない、それでいてメカメカしいわけでもない、むしろ毒々しい色を放つ硬質かつ機巧的な右腕。

 

指もちゃんと五本あるのだが、これは動かせるのだろうか。

指や肘に力を加えるとちゃんと稼動するし、構造的には動かせるみたいだ。

 

ふむ、取り合えず着けてみるか。

俺はマントと袷、それと白シャツを脱ぎ、右腕の断裂部の包帯を巻き取って、接合部の機巧を空気に晒す。

そこに紫色の義手を近付け、そして嵌まり合う音が部屋と頭蓋に響いたーー

 

 

「……ぅおッ、がぁ!」

 

 

途端、形容しがたい不快感と酩酊感に襲われ、胃の内容物がせり上がってきた。

 

なん……だこれ!

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!

 

腕から何かが体内に向かって侵食してくる感覚。

その何かが血管の一本一本、神経の一本一本、果ては図太い骨にまで()()()()()いき、まるで無理矢理繋がろうとしているかのよう。

繋がった途端、食い込まれた途端、このおぞましい感覚に背筋が凍えるほどの恐怖心を抱き、されどなんとか喉まで上がってきた吐瀉物を嚥下する。

 

がくがくと震える身体に必死に鞭を打ち、倒れないよう膝立ちで懸命に耐える。

冗談抜きで視界が激しく揺れ、明滅を繰り返すため前後不覚どころか上下の感覚も覚束なくなって。

 

そんな事態に襲われて、果たしてどれ程経っただろうか。

いつしか四つん這いになって地を延々眺めていたような気もするし、逆に数分数秒だったかのような気もする。

 

 

「……ッ、ぶはぁ!はぁ、はぁッ、ぜぇ、ぜぇ……!」

 

 

そして。

 

波が引いていったように、まるで夢でも見ていたのかと思うほど、綺麗さっぱり不快感は無くなっていた。

見下ろす地には大量に溢した汗の水溜まりがあり、それが先程の苦痛が嘘ではなかったと証明するのだが、その視界の端に……紫色の手の甲があった。

 

 

「はぁ、はぁ……あ、動いてーーー」

 

 

すとん、と腰を下ろして胡座をかく。

 

大きく息を吐き、汗を拭って人心地着いてからしげしげと右腕を眺める。

 

ぐるりと腕を回して四方八方から見て、時には光にかざしたり、時には叩いてみたり。

指を一本一本動かそうとして、それが本当に思った通りに動いて。

脳で動かそうと思うのと、実際に指が動くのにラグはなかった。

それは、すべての指もそうで、手首もそうだし、肘もそうだった。

本来あった右腕と、なんら遜色ない。

 

あまりの精巧かつ緻密な仕上がり具合に、喜びよりも先に恐怖した。

 

 

「マヂか……どういう機巧(からくり)してんだよ。ホント、アイツのビックリ技術には頭が上がらんわ」

 

 

でも、なんとなく分からないでもない。

 

さっき襲われた不快感の中に、神経の一本一本に何かが繋がる感覚があった。

もちろん、そんなの勝手なイメージだし、なんで神経に繋がったと分かったのかと問われても、なんとなく、としか答えられないぐらいに曖昧なものなんだけど。

もし、仮にあれが気のせいなんかじゃなくて、気持ち悪くなった原因が本当に繋がったからであるならば、この腕を精巧に動かせる理由にも繋がる。

 

いや……まぁ、ぶっ飛んだ話ではあるんだが、あの野郎は恐らく斬鋼線(外印の主武装。人形を操るのにも使うし、人を切り裂くのにも使う。一本一本は見えないほど細いらしい)を疑似神経にして、腕に残った神経の切れ端と再結合させたのだろう。

だから、斬鋼線なら脳の電気信号を抵抗なく義手へと伝達させることができ、タイムロスなく動かすことを可能たらしめている。

 

……なんてね。

 

勝手に御都合主義を妄想しましたけど、ぶっちゃけ理由はどうだっていい。

生身の腕と変わらずに動かせるという事実だけで、もう本当に有り難い。

 

殺し合いの最中においてはコンマ数秒が命取りにもなるのだ。

咄嗟に動かそうとするも間に合わず、それが原因で死んじゃいました、なんて間抜け過ぎるからな。

 

 

「あ~、でも……めっちゃ疲れたぁ。誰だよ、小さい方が驚きが少ないだろうなんて言ったのは」

 

 

俺だよ、知ってる。

まぁ驚きが割りと少なかったのは事実だから、あながち的外れな予想でもなかったみたいだけどな。

 

 

「っていうか、擬似的とはいえ神経を繋いじゃったらもう外せなくね?」

 

 

着脱不可なの?

それとも外す度にまた腕を捥ぐ痛みを我慢するの?

繋ぐときもさっきのをまた体験するの?

 

アカン、考えたらどんどん怖くなってきた。

一度試しに外してみるか?いや、またあの地獄を体験することになるかもしれないんだ。

そうホイホイと試すとか阿呆だろう。

 

クッソー、安易に着けるんじゃなかった!

興味本意と喜びに浮かれてまったく後先を考えなかったからなぁ。

 

……まぁ、もうやっちまったことは仕方がねぇやな。

うん、夜にまた考えよう。その時になって苦しもう。

 

 

「クソッタレめ……と、なると残すはこのどデカい方なんだが」

 

 

ここまできたらもう後は野となれ山となれ、だ。

 

えいや、といっそ吹っ切れた気持ちで布を剥ぐと、今度こそ驚いた、驚愕した。

 

 

 

多分、目が点になったことだろう。

 

 

 

 

 

「…………(絶句)」

 

 

 

 

 

 

弟子の芸術が爆発しすぎな件について。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











外したら何も見えなくなるけど、外さなきゃ目がえらいことになる……もしもの時に備えて眼鏡は持ち歩こうかな


ちなみにオリ主も平成ではコンタクトしてて、明治に来て狩生の身体になってから裸眼の素晴らしさに毎朝ハイテンションになってたりしてました

クソどーでもいいわ




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