明治の向こう   作:畳廿畳

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筆者はハガレンを漫画、アニメともに見たことがありません

描写する義手について「これじゃない」感に襲われてもどうか大目に見てあげてください


では、どうぞ










26話 明治浪漫 其の拾

 

 

 

 

 

 

 

 

携行武器において最も求められる要素は、当然その携行性だ。

兵器でもそうなのだが、例えどんなに強力な火器でも、求められる場所に運べなければなんら意味がない。

固定砲は、放った砲弾が戦場に届かなければ無用の長物と化すのだ。

小銃だって威力を求めすぎて馬鹿デカくなり、取り回しが利かなくなったら本末転倒だろう。

 

要は携行性を常に念頭に入れて大きさを考え、その上で威力の向上を図るべき、ということ。

 

その点、刀は模範解答とも言えるだろう。

斬馬刀とかいう奇天烈な刀も無いでは無いが、基本は決まったサイズがありきで、後に刀匠が精魂込めて刃を研ぎ澄まし、性能の向上を図る。

切れ味を増大させ、如何に人を効率よく斬れるかという一点のみを追求する。

 

武器、兵器とは押し並べてそうあるべきであり、そうあるからこそ一点のみに特化する姿は強く、そして美しく映る。

刀しかり、ナイフしかり。

戦闘機しかり、戦艦しかり、戦車しかり。

殺すことに、戦うことに特化したそれらに、どうしようもなく惹かれるのだ。

 

 

だが、一つだけ。

 

 

この正しき理屈に真っ向から、否、突き抜ける変態的理屈がある。

 

例え実用的でなくとも、例え実戦的でなくても、不出来な武器・兵器でも求めてしまう(さが)というものが、確かに存在する。

 

 

 

 

人はそれを、浪漫という。

 

 

 

 

「……いいなぁ(ホッコリ)」

 

 

右腕に装着した義手、否、兵器。

 

紫色の義手を改めて外すことなく、その腕に装着する(というか腕を嵌め込む凹部がある)形の巨大な右腕。

 

 

一言、デカい。

 

 

腕が二回り以上巨大で、右腕を内部に突っ込むその巨大義手は肩まで装甲が覆うほど。

こちらは紫の義手とは違い、かなりメカメカしくて色も真っ黒。

五指というか鋭利な爪五本が膝あたりから地に着くまで伸びていて、一本一本がどこか禍々しく見える。

上腕から肩にかけては色々な突起物や開口部、果てはファン(!)のような物まであり、腕の挿入口からは内部に多くの管が張り巡らせているのが覗けた。

 

なお、こちらの義手もかなり緻密に動かすことができるのが分かった。

しかもそれなりに重いのに、だ。

 

 

……が、使いどころが思いつかない以上、当分はお蔵入りかな。

百歩譲って大鎌ならまだいいとしても、これを装着して街中を歩くのは流石に目につき過ぎるし。

 

 

「それになにより……こんな重量物、大きな隙になるし」

 

 

超重量武器である斬馬刀を振り回す喧嘩屋よろしく、いいように原作主人公にあしらわれてしまう。

 

曰く、こういった重量武器は振り下ろすか薙ぎ払うかの二つしか戦法がなく、至極読みやすいとのこと。

真理だね。

いや、別に原作主人公と戦うつもりなんざ無いけど、生半可ではない相手にこれで挑むのは自殺行為でしかないということだ。

 

更に付け加えてメタ的なことを言うならば、こういった人一人を相手にするには過剰な武器を持つ奴ってのは、大概が噛ませ犬キャラなんだよな。

見かけ倒しとまではいかなくても、それを攻略する主人公勢にスポットライトが当てられるのが通例だ。

 

普通なら歯牙にも掛けないふざけた考察なんだが、生憎とここは漫画の舞台となった世界だ。

現実(リアル)ではあるのだけれど、変な法則とやらが無いとも限らない。

だってほら、金縛り使う奴とか斬撃飛ばす奴とか居るし。

現にオーバーテクノロジーの義手とか着けてるし。

 

浪漫に胸は熱くなるのだが、噛ませ犬はイヤだからなぁ……あ、義腕(もう此方は差別化を図るためにこう呼ぼう)があった箇所に手紙が有る。

 

なになに?

 

 

『師よ、二種類の義手の着け心地は如何だろうか。もう御察しの通り、その小さい方の義手には師の神経の断裂部に特殊繊維を繋いで疑似神経を(かよ)わしている。思うように動かすことができるだろう。だが取り回しが便利になる反面、触覚も得られるゆえ過度な使い回しは痛覚を呼び覚ますぞ』

 

 

自分で考察しといてなんだけどさ、疑似神経てなに?

コイツもさも当たり前のように言ってるけど、自分が何言ってるのか分かってるのか?

取り合えず難しいこと言っておけば誤魔化せるとか思ってねェだろうな。

 

それにしても触覚か……確かに触っている実感が持てている。

これは日常生活はもちろん、戦闘面においてもかなり助かるな。

 

 

『さて、常備用の義手については特筆すべき点も無いから割愛させていただく。精々がそれなりに頑丈で、腕力がそれなりに増した程度だからね。戦闘用の義手についてだが、まぁ見た通り巨大だ。師のことだから、大きさによる不利点ばかりに目を遣っていると思われるが、巨大ゆえ多用な機巧を仕込むことができたのだ。そちらにも着眼してもらいたい』

 

 

師のことだから、てお前はいつの間にそんなに俺のこと詳しくなったんだよ。

ろくな会話をした記憶がないんだけど。

しかも合ってるだけに怖ぇよ。

 

 

『まぁそう怖がらないでくれ』

 

「あれ、これ手紙だろ?!なんで会話できてんの!?」

 

『さて、その腕の最大の武器といえば、当然その質量そのものだ。その巨腕で殴られれば誰であろうと一撃で意識が吹き飛ぶだろう。しかも指を鋭利な刃としているため、斬るにも良しときている。他にも色々とあるが、一つ一つは別の説明書に記してある。一読しておいてほしい。で、ここではその腕の動力について記そう』

 

「動力……?」

 

 

 

『最大の武器も当たらなければ意味はないだろう?小さい義手との接続により、その腕もそれなりに機敏に動かせるだろうが、それでも限度はある。故に促進機巧を内蔵させた。いや苦労したよ、旧幕海軍が所有していた回天丸、それに使われていた動力を引き揚げ、小型化させるのには』

 

 

 

 

 

 

……は?

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

回天丸

 

 

 

詳しくは覚えていないが、確かアメリカから旧幕府が買い取った外輪船で、旧幕府軍と新政府軍の最後の戦い、函館戦争まで活躍した軍艦だったか?

 

外輪船は当時では既に時代遅れのレッテルを貼られ、日本に売られたそうだが、それでも彼女は維新初期からずっと戦い続けた武勲艦だった。

確か砲弾を五十発以上受けながらも、たった一隻で新政府海軍を相手に戦ったと記憶している。

 

最後は当然沈んだハズだが、引き揚げた?

外印が?……んなバカな。

 

 

そんな外印のビックリ手紙を読み耽り、内容が真実か否か試したい気持ちに当然なったのだが、そこは必死に抑えて冴子嬢が向かったというお医者さんの所に赴いた。

 

結構時間が経ってしまったのだ。

日が暮れる前に冴子嬢と合流して帰宅しないとマズい。

主に御母堂にまた説教を頂くはめになるからだ。

 

と、その道すがら見たことのある三組の傘が目に映った。

 

 

「良かった、入れ違いにならなくて」

 

「あ、狩生さん。御心配をお掛けしてすみませんでした」

 

 

んんん?

幻聴か?今冴子嬢が俺に謝らなかったか?

 

 

「なんですか、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」

 

「――ハッ。いえいえ、なんでもありません。えぇ、ホントになんでも……御体はどうでした?」

 

「なにもありませんでした。かすり傷も打撲も」

 

「そうですか」

 

 

そっか、そっかぁ。

良かった。

怪我でもされてたら本当に浦村さんに顔向けができないからなぁ。

 

 

「では私たちはここでお別れね。帰路が違うし、御迎えも来られたようだし」

 

「そうだねぇ。じゃあ、狩生さん。冴子のこと、宜しくお願いしますね」

 

「そっか、家は別方向か。でも……」

 

「いいですっていいですって。狩生さんは冴子を送ってあげてくださいな」

 

 

むぅ、まぁ別に治安が悪いというわけでもないしな。

お言葉に甘えるか。

()()はどうやら、二人には見向きもしていないようだし。

 

 

「晴子ちゃん、乙葉ちゃん、今日はありがとうね。また明日」

 

 

冴子嬢がそう言うと、二人も笑顔で別れの挨拶を述べて去って行った。

 

彼女たちのカラフルな傘を少し見送ると、俺たちも帰路に就いた。

 

 

「随分と大きな荷物を背負ってますね」

 

「あぁ、これですか?本署に私宛に届いてたんです。ほら、これ。義手なんですよ」

 

 

そう言って俺は右腕を掲げて見せた。

もちろんサラシを巻いて素地は見えないようにしている。

紫色の腕とか、この銀の髪色よりも目立つから。

 

なお、冴子嬢が指摘したのは今背に負っている義腕のことだ。

別に署に置いといても良かったんだが、物が物だからな。

オーバーテクノロジーを注ぎ込んだこれが間違って世間に出回ってしまったら、恐らく歴史が超改編される。

それはそれでクソ面白そうなのだが、外印はそんな風に目立つことを嫌うだろうから、俺としてはむやみやたらに置き去りにする事はできなかった。

 

冴子嬢に対しても、この背の包みはこんな感じの腕がたくさん入ってるよ~と暗に示す。

……自分で言ってなんだが、それってもはやスプラッターだよな。

 

 

「義手……?」

 

「あ、えっと……代わりの腕ってことです。それっぽく作った腕を繋げて、代用するんです」

 

「へぇ。そんなものがあるのですか。寡聞にして知らなかったです」

 

 

そういやこの時代って義手はないのか?

 

 

「西洋じゃ四百年くらい前から有ったらしいですよ。義手どころか義足すら。戦争で腕や足を失った人が、なお戦い続けられるために」

 

「そ、そうなのですか」

 

 

専ら戦争用だ。

向こうじゃやっぱり、人を殺す技術の進展は早いのだ。

 

と、どうやら冴子嬢はおっかなびっくりでも義手に興味津々のようだ。

これもオーバーテクノロジーの塊だからな。

あまり詮索されるのは宜しくないのだが……なんか冴子嬢、随分と話し掛けてくるな。

どうしたんだろ。

 

 

「冴子さん……」

 

「なんですか?」

 

「……いえ。ほら、もう着きますよ。今日は色々とありましたから、ゆっくりなさってください」

 

 

何かありましたか、と聞こうと思って、止めた。

変に聞いたら、また今までのように戻ってしまう気がしたから。

何か心情に変化でもあったのかもしれないし、ただ自分で気付かずに素が出てるだけなのかもしれない。

余計な詮索は、しないようにした。

いいタイミングで家にも着いたことだし、俺は話を切り上げて中へと冴子嬢を誘った。

 

 

さっきから尾行してる奴の視線も気になるし。

 

 

冴子嬢を伴って帰宅した俺は御母堂に事情を説明し、謝った。

部下がしでかしたことは、上司の責任でもある。

怪我は無かったというのは結果論であり、危険に巻き込んだことに変わりはないのだから。

 

署長も交えてまた謝るつもりだが、先に話を通しておこうと思ったのだ。

すると御母堂は怒るどころかお礼を言って、頭を下げた。

 

予想はしていたけど、やはりというかなんというか。

 

 

その後、署長が帰宅されて夕食となり、事の顛末と義手が手に入ったことを説明した。

前者については既に話をしていたこともあったが、俺の謝罪とご両親のお礼の応酬でなかなか目の前の夕食にありつけなかったのはご愛敬。

 

やっとそれも一段落着いたら当然今度は義手について聞かれたが、それに対して俺は当たり障りのないようボロが出ない程度に曲げて話した。

製作者は横浜の友人であり、西洋の科学を習熟している者であること。

今後とも義手に限らず、何かにつけて協力してもらう予定であるから、変なものが今後も増えるかもしれないとも付け加えさせてもらった。

 

義腕についても隠し、厚かましくもなるべく触らないでほしいと話したが、ご両親は笑顔でこれを快諾してくれた。

 

その優しさが嬉しい反面、隠し事の多い自分に嫌気が指した。

 

 

蛇足だが、義手の動作確認の一環として右手で箸を使って食事した。

おかげでかなり時間が掛かってしまったのだが、冴子嬢の完食のタイミングも俺と同じだったから一人残っての食事にはならなかった。

 

はて、そういえば彼女が夕食を完食する姿を見るのは初めてだったかもしれない。

いつもは俺の近くにいるのが嫌だという空気を醸し出して直ぐに部屋に戻られるのに。

ふむ、どうやら普通に食べるとケッコー時間が掛かるようだな。

 

 

食事を終えた俺はいつもの縁側へとやって来た。

雨が降っているので雨戸が閉められているし、禁酒を指示されているからいつも通りではなかったが。

 

 

「お部屋に行かれないのですか?」

 

 

雨戸に背を預けてそこに座り込み、呆と足元に置いてある蝋燭の火を眺めていると、なんと冴子嬢が来た。

しかも声を掛けてきた。

 

 

「日課ですからね」

 

「夜空も見れず、酒精も楽しめないのなら早めに寝ればいいじゃないですか」

 

「雨音に耳を傾けて呆とするのも好きなんですよ」

 

「年寄り臭い発言ですね」

 

 

確かにそうかもですね、なんて俺が答えるより先に、あろうことか冴子嬢が隣に座ってきた。

 

……え、マヂ?ホントに何かおかしいぞ?

帰り道の時といい夕食の時といい、一体どういう心境の変化だ?!

 

 

「何されてるんですか?冴子さんこそ、もう寝た方が宜しいのでは?」

 

「もう子供じゃないんですから。寝る時間は自分で決めますよ。ただ私は……私は、お礼を言っていなかったから」

 

 

あぁ、なるほど。

良心の呵責というか、罪悪感というか、そういったマイナス思考に囚われてるから、嫌々でも俺に近づいて話しかけて来てるのか。

 

本当、お人好しだな。

 

 

「礼は要りませんよ。部下の仕出かしたことは、上司の俺の責任ですから。あの事態は俺が謝りこそすれど、冴子さんにお礼を言われるべきことではないのですから」

 

「……でも」

 

「冴子さんは何も気に病む必要はありません。何も気にされず、俺には今まで通りで構いませんよ。感謝のお気持ちも、贖罪のお気持ちもご不要です。また今まで通りの日常に、戻りましょう」

 

「…………」

 

 

傍らに置いてあるお茶を一口啜り、俺は一息つく。

 

元通り、か。

お人好しの冴子嬢のことだ。

そう踏ん切りは着かないだろう。

けど、俺の事が心労になることだけは避けたい。

あんまし気乗りはしないが、嫌われるままの方が彼女にとってもいいのだから。

 

と、雨に耳を傾けながらそんなことを考えていると、彼女が口を開いた。

 

 

「私は貴方が嫌いです」

 

「えぇ、存じてま――」

 

「聞いてください。私の貴方に対するこの感情は、間違っているのでしょうか」

 

 

言葉を遮られ、二の句を継げずにいる俺。

これは、質問されているのだろうか。

でも、彼女は膝を抱えて目の前を見据えるだけ。

俺に答えを求めているようではなかった。

 

 

「分からなくなっちゃったんです。理由はなんであれ、貴方は私を守ってくれた。これからも、きっと守ってくれるのでしょう。そんな貴方に、こんな感情をぶつけるのがおかしい気がしてきたんです」

 

「……」

 

「空回りしているんでしょうか。貴方と別れた後、乙葉ちゃんに言われたんです。このままでいたら、きっと後悔するって。ちゃんと自分の内と向き合ってみなさいって」

 

 

聡明そうだとは思っていたが、乙葉ちゃんは思った以上に人の心に聡いようだ。

 

すごいな。

この時代は平成と違って、書物を通して人の心情を学ぶという機会がまったく無いからそういった事に疎いものだと思っていたのだが、偏見だったようだ。

 

 

「まだ、自分の気持ちに整理が付きません。貴方の事は嫌いなんですが……もう、それほど嫌う必要がないのではと、思うようにもなってきたんです。ただ、だからと言っても急に気持ちは変えられません。ですが、友達から頂いた助言を無下にもできません」

 

「……」

 

「ですから、まずはただ感謝の言葉を述べようと思ったんです。貴方の事は嫌いですが、貴方の私を助けてくれた行為まで嫌うのは違っていると思うのです。だから、私の感謝の言葉を、受け取ってはくれませんか?」

 

 

なんて、そう言って冴子嬢は此方をちらと見た。

 

たかだか感謝の言葉を述べるだけ。

たったそれだけのことなのに、どうして彼女はここまで真面目に考えて、お礼を述べようとしているんだ。

 

たった一言。

ただの一言なのに。

 

例え俺が謙遜して受け取らなかったとしても、逆に俺が折れて受け取ったとしても。

俺の心に芽生えるものは、何一つとして無いんだ。

 

無い……はずだったんだ。

 

こんな覚悟を聞かされては、何も芽生えないわけがないだろう。

 

これほど重く、そして力強い感謝の言葉を、軽い気持ちで受け取れるはずがない。

ましてや拒否するべくもない。

 

彼女の言葉を、俺も誠意をもって受け止めるべきなのだ。

 

 

「……分かりました。そのお言葉、慎んでお受け――?!」

 

 

答えようとして、ふと一律の雨音の中に紛れて微かに近づいてくる馬匹と車輪の音が聞こえた。

 

 

「狩生さん?」

 

「しッ」

 

 

俺が突然喋るのを止めたことに訝しんだ冴子嬢はどうしたのかと問うてきたが、さらにそれを遮って口をつぐませた。

 

尾行者は俺たちが家に入ったのを確認したら潔く引き上げていった。

後の尾け方も素人だったし、冴子嬢もいたから捕らえることはしなかったが、どうやら間違ったか?

 

誰かを呼んで、その誰かが来たと判断すべきか。

 

俺は傍らに置いてあったポン刀を持って立ち上がると、冴子嬢にそっと言った。

 

 

「冴子さん、何も聞かずに今は俺の言うことに従ってください。直ぐにご両親と一緒に居間に行って、待機してて」

 

「え? え?」

 

「早くッ」

 

「は、はい」

 

 

俺の声にビクッと反応した彼女は、蝋燭を持って慌てて駆けて行った。

それを見送ることはせず、俺はゆっくりと玄関口へと向かった。

 

浦村家の屋敷はかなり立派で、玄関も広い。

面積で言えば12畳はあるだろうか。

平成の世での曾祖父母の実家と同じで、土足スペースがかなり広いのだ。

最悪の場合は、ここを使わせてもらう。

 

刀を抜き取り、左手で持って肩に乗せ、そして玄関戸の正面から扉を見据える。

 

 

「ごめんください」

 

 

そう声がして、戸が開いた。

現れたのは中年の男性、原作キャラではない。

 

 

「ッ?!」

 

 

一瞬、その男が俺の姿を見て、右手が懐の方へと動いた。

が、直ぐに自覚してその動きを止め、頭を下げて申し出た。

 

 

「夜分遅くに申し訳ございません。私、塚山家に仕える者でございます」

 

「家主に代わって聞きましょう。ご用件は?」

 

「はい。恐れながら狩生十徳殿とお見受けします。塚山家が食客、石動雷十太様が是非お会いしたいとのこと。どうか今よりお越しいただけますでしょうか?」

 

「斯様な時分に唐突ですね」

 

「なにぶん、火急の用事とのことです」

 

 

なんとまぁ、正攻法だこと。

 

何らかの接触はあるだろうと踏んでいたが、よもや正攻法だとはな。

いや、原作通りの気質の輩ならば、これしか手がないってことだろう。

 

 

「ッ、狩生くん!いったい何事ですか?!」

 

 

抜き身の刀を鞘に納めると、居間から血相を変えた浦村さんが飛び出してきた。

手にはちゃっかり拳銃を持っているし。

危ない危ないって。

 

 

「すみません、浦村さん。どうも私の早とちりのようでした。来客は塚山家の方のです」

 

「塚山家……?ということは、今日の一件についてでしょうか?」

 

「はい。本日の騒動につきまして、何卒狩生殿にお伝えしたいことがあるとのことで」

 

 

お伝え、ねぇ。

 

ま、建前なんて何だっていいんだけどね。

 

 

「分かりました。慎んでお伺いしましょう。準備をしますので暫しお待ちください」

 

 

そう言って俺は一旦自室に戻ると寝間着から動きやすい服装に着替え、義腕の入った包みを背負って部屋を出た。

 

 

「行かれるのですか?あまり良い予感がしないのですが……」

 

「なに、大丈夫ですよ。ここで俺に何かあれば一番に怪しまれるのは石動雷十太ですよ?そんな短絡的なことはしやしませんよ」

 

 

不安げな浦村さんを筆頭に、居間の襖から恐る恐る此方を覗く冴子嬢の見送りを背に、俺は草鞋を履いて玄関を出た。

 

 

 

 

だってほら、刀と拳銃を見ても僅かな動揺だけで済ませた、どう見ても堅気じゃない御者さんの馬車に乗るんだよ?

 

 

これほどスリルのある乗り物を、そうそう見過ごしたくないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 











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