明治の向こう   作:畳廿畳

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では、どうぞ






3話 西南戦争 其の参

 

 

 

 

刀と刀がぶつかり合う音が木々の間に木霊する。

 

 

「腐った魚の目をしていたくせして、存外にしぶとい。いや、生き汚いというべきか」

 

「ハァ、ハァ……お誉めに預かり光栄だよチクショウ」

 

 

クソ、言ってくれるぜ。

 

こちとらもう身体がボロボロで立っているのもツラいんじゃ。

 

あの牙突は左肩を抉って。

具足は全て斬り落とされて、身体中斬り傷だらけで。

刀は折れて体力は底を尽きかけて。

 

 

コイツに命を狙われてから既に5時間は過ぎてるが、そろそろ死神に首を掻っ浚われそうだ。

いや、狼に喉首を咬みきられる、の方が正しいか。

 

なんて、益体もない事を考えていたら奴が動いた。

 

 

「しッ!」

 

「ふッ、ぜぁ!」

 

 

大上段からの一撃を折れた刀で防ぎ、一瞬の停滞を突き赤鞘を思いっきり振るう。

 

当然そんな攻撃は当たるはずもなく、余裕を持って鞘は両断され、次いで奴が牙突の構えを取り

 

 

「…ッ!」

 

 

突き下ろす形の牙突弐式が放たれる。

 

その直前、足元に転がる死体が持つ刀を蹴り上げ、宙に浮かんだそれを掴み、そして折れた刀とともに十字の防御壁を成した。

 

そして牙突が刀二本の腹と衝突して、まるでトラックにぶつかった程のエネルギーが俺の身を襲った。

 

奴の突きは刀二本を突き破り、俺の脇を掠めていった。

 

 

「がはッ…!」

 

 

両腕が痺れて動かせない。

だから蹴足を叩き込もうとしたが、奴の挙動の方が速かった。

 

脇の下を抉っていった刀を力任せに振り、俺を薙ぎ払ったのだ。

 

 

「い、つぅ……!」

 

 

大地を転がり、上下左右と平衡感覚を失った俺は、落ちていた何かを杖代わりにしてフラフラと立ち上がる。

奴は悠々と近づいてきている。

 

クソったれ、余裕かましやがって。

てゆうか、俺はいったい何を杖に……?

 

チラとそれを見ると、どうやら政府軍兵士が所持していた鉄砲だった。

両軍の死体がゴロゴロ転がっているから獲物には事欠かないってか。

 

けど、それなら有り難ェ。

 

俺は直ぐ様片手で銃を構えて奴に向ける。

 

 

(チッ、フラフラとして狙いが定まらねェ。血が足りないのか、体力が尽きかけてるからか……はッ、両方か)

 

「どこを狙っている?」

 

「……あぁ?」

 

「どこを狙っていると聴いている。よもや足を狙っている訳ではあるまいな」

 

 

マヂかよ。

いや、たしか緋村剣心も拳銃の向きと引き金に掛かる指を見れば避けるのは容易い、なんて言ってたな。

幕末の最前線を生き延びた化け物どもは、そんなことも出来んのかよ。

 

 

「だったらなんじゃぁ。お(まん)の足ば潰せば、牙突も使えんじゃろが」

 

「足を狙うのは悪くない考えだ。だが今の貴様の状態で足を撃てるか?胴体ならいざ知らず、小さな的に当てられるか?」

 

「なら、さっくと当てるまでじゃ!」

 

 

距離は5mも無い。

俺は必中とはいかずとも、かする程度には当てられると踏んでいた。

 

 

嫌と言うほどに聞き飽きた銃声が響く。

 

硝煙で一瞬目の前が見えなくなる

 

 

その瞬間

 

 

 

「ぐあァァッ!」

 

 

 

苦悶の声を漏らしたのは、俺だった。

 

煙を突き破って奴が牙突を放ち、俺の左肩甲骨を貫いたのだ。

 

あ、これもう左腕使えなくなるんじゃね?

 

なんて考えが脳裏をよぎり、勢いそのまま背中にぶつかる木々をへし折っていき、やがて止まった所に刀で縫い付けられた。

 

 

「牙突を封じる?違うな。貴様、怯えているな。人を殺すことに。だから足を狙ったんだ」

 

「ゲホッ、ぐ、うぅ……!」

 

 

刀をグリグリしながら奴が俺に至近距離で言ってくる。

 

がああぁぁ!

痛ェ、クソ痛ェ!

 

 

「戦場の血と死の臭いに当てられたか。技量は有っても精神は餓鬼のようだ。差し詰め、その腐った瞳は自己防衛の一種か」

 

「なん、ちゴチャゴチャと……」

 

「心を閉ざして我無娑羅に人を殺して、それで自身の精神を守っているとは、とんだ道化だ。自らが殺めた人のことを心から排除しようなど、ただの逃げだ」

 

「逃げてなど……!」

 

 

逃げてなんかねぇよ。

忘れられるわけねェだろうが。

 

彼らの末期の表情。

彼らの悲鳴と絶叫。

 

彼らを斬った感触。

 

どんなに呑み込んでも消化なんて出来なくて、どんなに吐き出しても捨てられなくて。

 

俺の中に、留まってやがるんだ。

 

 

「自らの心根からも目を背けるとは……いや、己の事を知ることさえしない阿呆か。前言撤回だ。貴様のそれは自己防衛ですらない。自分の事を正当化する愚さえ犯さない貴様は、もはや意志を持たない殺戮を繰り返す操り人形だ」

 

「……ッ!!」

 

 

不意を打つかのように、俺の頬が殴打される。

 

奴の刀が身体から抜かれ、フラフラとしながら俺はドッと仰向けに倒れた。

 

 

効いた。

 

今のは効いた。

 

 

 

拳にじゃない、あの言葉にだ。

 

 

 

 

人形

 

 

 

 

俺の意思で、俺の身体じゃないこの身体が動く。

 

そして(宿った心)は自らを閉ざして、人を殺し続けた。

 

 

それは、まさしくアイツの言う通り、人形ではないか。

 

俺がこの身体を、人形にしてしまったのだ。

 

 

「他の薩摩兵ならば、怒りと憎しみを込めて政府軍を殺してるだろう。すなわち、俺の心情に則り殺すべき相手となるだろう。だが、今の貴様はその価値すら無い。逆賊でありながら悪に成り得ない半端者めが」

 

 

 

そうだ。

 

怒りと憎しみを敵兵にぶつける。

 

そんなことを言っていた学友が居たけど、俺はそれに同意出来なかった。

 

今でもそうだ。

 

俺は怒りと憎しみ(そんなもの)なんか持っていないし、怒りと憎しみ(そんなもの)をぶつける道理も弁えていないから。

 

 

だからだろう、斎藤一を相手にして身も心もズタボロにされちまった。

 

 

人形だから、半端者だから。

 

だからコイツには歯が立たなかった。

 

 

 

 

「死ね。己の弱さを知ることもせず、空虚なままここで朽ち果てろ」

 

 

 

大の字になりながら、奴の振り上げる刀を呆と見遣る。

 

 

 

 

 

あぁ、ここで死ぬのか。

 

 

でも、これでいいのかも知れない。

 

これは、ある意味解放になるのではないだろうか。

 

 

不純物(おれ)取り除かれれ(死ね)ば、この身体は本当の狩生十徳に戻る気がする。

 

 

冥土で、かもしれないけど、それでも返すべきなんだ。

 

借りたものは返さなきゃだから。

 

 

 

 

ゴメンな、勝手に身体を借りて。

 

それと、ボロボロにしちゃってゴメン。

 

狩生十徳(あんた)の愛した薩摩隼人は皆夢半ばに潰えるけど、きっと皆胸張って黄泉に行くから。

 

 

だから、だから……

 

 

 

 

そして、刀が俺の首を両断する

 

 

 

 

 

 

 

--悄気(しょげ)たツラばして返すち言うがか--

 

 

 

 

 

 

 

直前、それを両の掌で受け止めていた。

 

 

 

 

「……え?」

 

「ッ!……まだ生き足掻くか」

 

 

驚いたように斎藤が言うが、自分もかなり驚いていた。

 

真剣白刃取りをした事、出来た事にじゃない。

 

気のせいかも知れない。

 

けど、確かに聞いた。

 

頭に響いたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

--走れ--

 

 

 

 

 

--敵陣で()剣林弾雨でん、黄泉の国でん三途の川でん、先陣切って突っ走るのが(おい)じゃ、俺の生き様じゃ--

 

 

 

 

 

--そがい気落ちした心意気なんぞ、願い下げじゃ--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はは

 

 

カッコいいなぁ、この身体の嘗ての持ち主は。

 

 

そうだなぁ。

 

 

そんな奴に、殺されてから返すなんて許されないよなぁ!

 

 

「(コイツ、目が……)抗うつもりか?」

 

「あぁ、気付いたんじゃ。もし俺が此処で死ねば、そいこそ人形みたいな死体ば返すこつになる。そいは、そいだけは、絶対にすっだらあかん!」

 

 

 

そうだ。

 

(おれ)を殺した状態で身体を返したら、アイツはどう思う?

 

生粋の薩摩隼人はどう思う?

 

 

苦戦の果てに戦果を上げられなかったのならいざ知らず、自分を見失って失意のままに身体を返したら、それは侮辱じゃないか。

 

首の一つや二つ取らなきゃ許してくれそうにないんじゃないか、そう思うほどの豪気な性格を感じたぞ。

 

 

身体を捻り、思いっきり斎藤を蹴り上げる。

 

咄嗟の出来事、まさかの事態に初動が遅れた奴の鳩尾に渾身の蹴りが入った。

 

 

「ぐぅッ」

 

 

刀を離し、奴がブッ飛んだのを視認して俺も直ぐ様立ち上がる。

 

自分の顔を見なくても判る。

今の俺はかなり口角を吊り上げていることが。

 

 

「もしかしたら、何処ぞで奴は今ごろ俺ば殺さんほど憎んでるかもしれん。あの声は俺の都合のよか幻聴かもしれん。じゃっどん、あの声ば聞いてから、こんまま死んでやるんが、どうしても正解ち思えんくなったんじゃ」

 

「……何を言っている」

 

「判らんでもよか。ただ(おい)に抗う気力が、生きる気力が湧いてきただけの話じゃ。お(まん)やこん世界に負けたらいかん、勝たなきゃいかん。そう思ったんじゃ」

 

「(やはり見間違えではない。コイツ……)何故急に瞳が生き返ったのかは知らんが、それでどうする?気力を取り戻したはいいが、この実力差は気力だけでは覆せんぞ」

 

「ほうじゃろうなぁ。そんなこと(そがいこつ)、お前に言われんでも判っちょるわ。そいでも不思議なこつに、何でっか負ける気ぃがせんのじゃ」

 

「……なに?」

 

「俺は一人じゃなか。こん身体の強か想いが、俺の闘争心ば駆り立てるんじゃ。だからのぅ、斎藤一、覚悟せい」

 

 

そう言って俺は、足元に落ちている一振りの刀を拾い上げた。

ブン、と一振りして血糊を飛ばす。

 

誰か知らんが、使わせてもらうぜ。

 

それを片手で構えて、斎藤一を睨む。

 

そういえば奴との戦闘を始めてから、初めてかもしれないな。

この恐ろしい相手と対等に睨み合い、そして対峙するのは。

 

だからこそ、俺は腹に力を入れて、嫌味な程にニッと笑いながら言う。

 

 

 

 

「こっからが俺の本気ぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜあッ!」

 

 

白銀の太刀筋が一閃。

 

斎藤の眼前の空間を縦に斬ったそれは、狙い澄ましたかのように奴がくわえていた煙草を斬り落とした。

 

 

「……チッ」

 

 

返す刀で斬り上げる。

斎藤が半歩下がるも、奴の制服のフックを見事破壊し、前をはだけさせた。

 

 

「……テメェ」

 

 

振り上げた刀を放棄し、左手に握っていたそれを右手に持ち変えて斎藤の眼前に突き出す。

 

握り締めていたのは、何処ぞの敵指揮官が所持していた拳銃。

 

それを連続発砲。

吐き出したのは六発の弾丸だが、音は早すぎて一発分しかしなかった。

 

すると、パキンと小気味良い音が鳴る。

奴の腰に差したままの短刀を破壊したのだ。

 

 

「さっきから……!」

 

 

弾をすべて吐き出した拳銃を足元に投げ捨てる。

それが地に着く直前、思いっきり斎藤の方に蹴飛ばした。

 

結果、それは斎藤の刀にぶつかり、奴の刀とそれを持つ手と腕が衝撃に負けて後ろに傾いだ。

 

その機を逃さず、俺はそのまま軸足でスピンし、一回転しての片足跳躍--からの飛び回し蹴り。

 

俺の足は斎藤の首元へと一直線に迫った。

 

だが

 

 

「ふざけてんのかァ!」

 

(おい)はいつでも大真面目じゃあ!」

 

 

辺りの木々を揺らす激突音。

 

俺の蹴った足と、奴の防いだ腕。

そこを中心に土煙が舞い上がり、空気が確かに震えた。

 

攻撃が通じなかったと判るや直ぐ様反対の足で奴の腕を蹴り、後方に退避。

 

四本足で着地して、奴を睨み上げる。

 

 

俺の目に写ったのは、牙突の構えをとる斎藤。

 

 

「ワンパターンはお前もじゃきぃ!」

 

 

俺の手元には先程放り投げた刀が図ったかのようにある。

 

それを拾って、構え、そして

 

 

奴の牙突が放たれた瞬間、俺も突貫して渾身の刺突を繰り出した。

 

 

「ガアアァァ!!」

 

 

奴の牙突は俺の頬を斬り裂いていき、耳を貫いていった。

 

 

(いったぁ……でも凌いだ!)

 

 

そして今度は俺がカウンターの要領で、被せるように突きを放つ。

 

だが、やはり奴の動体視力は尋常じゃない。

 

頭を捻って難なく避けられた。

 

 

そして互いが交差し、すれ違う。

 

 

草履の裏が発火するんじゃないかと思うほど地面を削り、スピードを殺していく。

 

後ろからも同じ音が聞こえるから、恐らく斎藤も減速中なのだろう。

 

 

(ってか痛い痛い痛い痛い!これ絶対足の皮ズル剥けてるって!)

 

 

あいつ、よおこんなん耐えられんなぁ!

 

てんなこたぁどーでもよくて、直ぐ様振り向き、お互いが構える。

奴は牙突の、そして俺も平突きの。

 

 

それぞれが地面を爆発させたかのように地を蹴り、強襲した。

 

 

「狂ったか。相討ち覚悟で俺の牙突を迎え撃つか!」

 

「おぉ、薩摩兵子(へご)で狂うとらん者は一人もおりもはんど!」

 

 

お互いの刺突がお互いの顔面に猛然と迫る。

奴は俺の渾身の一撃をギリギリでかわす。

 

相変わらず肉を抉られるのは俺だ。

 

俺の突きは奴の薄皮一枚抉ることさえ出来ないでいる。

 

 

 

けど、これでいい。

 

 

これでいいんだ!

 

 

再度お互いが交差し、距離が離れたこの瞬間こそ、俺の見出だした牙突攻略の糸口。

 

命懸けの突き合いは、すべてこの為なんだ。

 

 

 

着地して、刀を捨てての四本足でスピードを殺す途中、一丁の小銃を拾う。

 

左手の肩から激痛が生じるが、それを噛み殺して俺は滑りながら振り向き、構える。

 

 

突きの突進力は奴の方が断然上だ。

鋼鉄の壁さえ容易く粉砕するほどゆえ。

 

 

 

だから、その分減速に掛かる時間と距離も奴の方が長い。

 

 

 

この瞬間、この状況ならば!

 

 

左腕はクソ痛くて、自分も相手も滑っているという最高(クソッタレ)な状態だが、それでも今が最初で最後のチャンスなんだ。

 

 

 

気張れやぁ!

 

 

 

 

 

 

 

そして、一発の乾いた銃声が響いた。

 

 

 

 

 

「「!! 」」

 

 

 

 

 

辺りから音が消えた気がした。

 

 

 

停止した斎藤がゆっくりと振り向いた。

 

 

その顔には超貴重な、少しばかしの驚愕の色が映っていた。

 

 

対する俺も目を見開いて驚いている。

 

 

 

弾が……

弾が見当違いの方に飛んでいったからだ。

 

 

 

でも

 

 

 

「当たった……」

 

 

 

幸運の女神は俺を見捨てなかった。

弾は斎藤の左上腕を貫いていったのだ。

 

 

「……チッ」

 

「ハッ……」

 

 

忌々しげに舌打ちする斎藤と、挑発するように短く笑う俺。

 

銃を捨てた俺はついでとばかりに帯に下げていた短刀や水嚢、兵糧袋、壊れて役に立っていなかった僅かな具足も外し、捨てた。

 

奴も肩に出来た銃創を一瞥してから、俺を睨んできた。

 

 

 

(ころころと戦法を変えやがって。しかも落ちてる得物を使うから反応が一拍遅れてしまう。巧妙というか珍奇というか)

 

(おぉ、怖ッ。メンチ切るってレベルじゃねェぞ、あれ。ビームが出る勢いだ。とまれ、だらりと垂れ下がったあの左腕…もう牙突は使えないだろう。まぁ斯く言う俺も発砲の衝撃で左腕が上がらなくなっちまったけどな)

 

(致命傷ではない……が、牙突は暫く使えんな。辺りも此方が押されて撤退を始めたから、ここが潮時だろう。抜刀隊の有用性も証明出来たし、地理も把握出来た。田原坂(ここ)の攻略も時間の問題だろう。だが今は--)

 

(損傷具合で言えば俺のボロ負けだ。今奴が引いても客観的に見れば勝利は奴の方にある。戦略的には此方の勝利ではあるけど、戦術的には引き分けだ。それに多分此方の被害も相当だろう、このまま続けばジリ貧だぜ。ただ今は--)

 

 

 

斎藤が右手で刀を構え、俺も先程投げた刀を拾ってある程度振り回し、そして構える。

 

 

((こんなに昂ってるんだ。そんな御行儀よく引くかよ、俺が/奴が!!))

 

 

 

アイツの表情が鬼気迫るものに変わった。

 

 

 

けど、それを見ても俺の心はまったく変わらない。

自分でも判る。

 

 

(おれ)は興奮に満ちているんだ!

 

 

地を蹴って、一瞬にしてお互いが間合いを侵し、そして互いに片手で刀を振るう。

 

悲鳴のような甲高い金属の衝突音が辺りに木霊するも、それを掻き消すかのように更なる衝撃音が二度、三度と響く。

 

刀がぶつかり合い、火花が弾け、汗が飛び散り、血が舞った。

 

避けて、斬って、防がれて、斬られて、躱して、距離を潰して。

 

 

一気呵成に刀を横に振るい、木の幹を両断した刃は受け止められ。

 

肌を掠める唐竹割りの一閃を身を捻って避け、見るとその刃は大地に亀裂を作っていて。

 

 

 

 

そんな化け物じみた剣客を相手にしても、俺はもう恐怖と動揺に囚われなくなった。

 

 

身体中に刻まれた斬り傷による痛みを感じることもなく、死が近くに来ている実感が乏しい。

 

 

今なお高まり続ける身を焦がすほどの興奮が、(おれ)を狂騒へと駆り立てる。

 

 

 

 

 

時間がどれ程経ってもなお、俺たちの奏でる剣戟は一向に止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







難しい




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