明治の向こう   作:畳廿畳

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GW中は実家にある原作を片手に執筆作業~
まぁ実家帰ってもやることないですからね~



では、どうぞ






30話 明治浪漫 其の拾肆

 

 

 

 

 

 

右手で逃がさないようしっかり雷十太の二の腕を掴み、連行を始める。

拘束具は持って来ていないから逃げられる不安もあるが、雷十太は呆然自失としているし、この右腕もそれなりに力があるからな。

ちょっとやそっとじゃ抜け出せ得ないハズだ。

 

そう思いながら、つと左肩に担いでいる義腕を見る。

その義腕は往時の面影などなく、ものの見事に()()していた。

 

そう。

この義腕は奴の飛飯綱の連発によって完全にオシャカになってしまったのだ。

拳部分がひしゃげてしまい、爪も数本が斬り落とされている。

義手ほどに神経が完全に通っているわけではないが、それでもかなり痛かった。

まぁあの時はテンションがおかしくなっていたから痛覚なんざ知覚していなかったが。

 

ただ、あのまま飛飯綱の迎撃を続けていたら、正直危うかった。

雷十太の心が先に壊れたからよかったものの、一歩間違えれば義腕が先に壊れていた。

それほどに奴の飛飯綱の連発は凄まじく、俺自身傷一つ負ってはいないが、それでもどちらかと云えば辛勝だったのだ。

決して楽勝だったわけではない。

 

やはり俺はまだまだ弱い。

 

由太郎くんにあんなに偉そうに言ったが、当の俺は強くなれるのだろうか。

鍛え、武器を身に付け、覚悟を決めているというのに、自分が強くなれている実感が全く湧かない。

 

このままで原作勢に追い付けるのだろうか……

 

クソ、一気に熱が冷めたからかマイナス思考に陥っちまってやがる。

 

何度も自分に言い聞かせているだろうが。

腐るな、俺が弱いことは俺が一番知っていることだろう。

腐っていたら行動が鈍って強くなる機会を逸してしまうだろうが。

強くなりたいのなら、四の五の思っている暇は無いハズだ。

 

 

俺は溜め息と一緒に内に燻る雑念を吐き出す。

 

そして小雨が降るなか雷十太を連行していると、傘も差さずに道の脇で佇んでいる一人の男が目に入った。

 

ていうか宇治木だった。

 

 

「事は無事に終わったようだな」

 

「……なんでおるん?」

 

「なに。今夜にでも血気盛んな上司が石動雷十太に夜襲を掛けるかもしれんと思い至ってな、それで様子を見に来たのだが……貴様も随分と面倒なことをするのだな」

 

「あん?」

 

 

俺の疑問の声に、宇治木は俺の背後を顎でしゃくって答えた。

 

 

「言ってやれば良かったではないか。お前が石動雷十太を師事した切っ掛けとなったあの事件は、全て仕組まれたものなんだ、と。お前はコイツに利用されてただけで、代えの利く駒でしかなかったのだ、とな」

 

「おい、なんで知っている?」

 

「コイツに真古流に誘われてから一通り調べてな。確証を得たのは、さっき道中に倒れてた門下生どもの口を割らせてからだ」

 

「そーかよ。けど、余計なことは言うなよ。由太郎くんにとって雷十太は、例え力に溺れ、殺人未遂や殺人教唆などの目に余る行動を取っていても、そして例え虚と偽りの救出劇であっても、恩人であり恩師なんだから」

 

「だから面倒だと言ったんだ。それがどうして、お前が恨みをぶつけられる必要性に繋がる。真実を告げなければ、こんな愚物を永遠に英雄視することになるぞ」

 

「俺の手前勝手だけどさ、最後まで彼の中ではコイツをヒーローで居させてやりたいと思ったんだ。真実を知っても辛い思いをするだけだろ。なら、そんな残酷な真実を告げる理由はない」

 

 

そんなものか、といまいち理解できない風に呟く宇治木に俺は続けた。

 

 

「ま、このまま雷十太を英雄視し続けるのは確かに危ない。脱獄の幇助でもされたら面倒この上ないからな。けど、だからと言って雷十太の本性を告げるのは間違っているから……だからまぁ、俺を敵視して、越えようとする目標に定めてくれればいいなぁと、思ったんだ」

 

「人の心を思惑通りに動かせると思っているのか?」

 

 

俺は肩を竦めて、否と答える。

 

当然だ。

俺は人心掌握術や洗脳術なんざ持ってないし、カリスマなんてものも皆無だから、人の心を動かす事なんて至難の業だ。

俺にあるのは機巧仕掛けの右腕と、ほんの少しだけ大きな夢しかない。

 

主人公みたく回りに仲間が集まるような人間ではないし、その言葉で誰かを助ける事ができるとも思っちゃいない。

 

 

「しかし面白くないな。剣を持っていなかったとはいえ、俺が手も足も出なかった相手を無傷で制圧するとはな。その右腕に依るものもあるだろうが、実に面白くない」

 

 

確かに端から見たら俺の圧勝だったのだろう。

だが、もしこの義腕が無かったらどうなった?刀でもって相対していたら?

たぶん、負けはしなかっただろうが苦戦は免れなかっただろう。

由太郎くんを庇っての戦いとなれば、最悪もう一本の腕も落とされていたかもしれない。

そう思えるからこそ、やはり自分の弱さに辟易するのだ。

 

 

「安心しろ。明日から本格的にS捜査に注力するんだ。嫌でも経験を積んでいけるんだから、全員身も心も鍛えようじゃないか」

 

「……貴様がこれ以上の鍛練を必要とするとは思えんのだが」

 

 

宇治木が阿呆なことを言っているが無視。

 

石動雷十太の騒動は半日という超短期で解決したし、おまけに義手と義腕も手に入った(半日で後者を使い潰しましたが何か?)。

ならば、もうゆっくりする必要もない。

予定を繰り上げて、S捜査に臨むべきだろう。

 

志々雄真実を捕縛するため、まず奴の組織の力を削ぐ。

その段取りと構想は既に練り上げているのだ。

後は死に物狂いの行動に移すのみ。

 

 

さて、日本から害虫を駆除するため

 

身を粉にして国家に奉職しようじゃないか。

 

 

 

 

 

そのためには先ず、武器を揃えないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

私にとって狩生十徳は警戒よりも先に興味がそそられる人物だった。

 

 

突然現れた彼は、自らが形容できなかった欲望の正体を言い当てると、これまた突然自分の所業を言い当てた。

バレる要素などまったく無かったのに、僅かな疑念すら無い確信を持って武器の密売と阿片の密造を笑いながら言ったのだ。

 

加えて、あろうことか汚職をさせろとさえ宣った。

 

私を政界にのし上げるために政界人や財界人、警察や軍関係者を紹介し、阿片や武器の密売先を斡旋して影響力を広げる手伝いをするというのだ。

その見返りとして、(私にとって)僅かな小金と火器等の西洋物を要求してきた。

 

ぎぶあんどていくという関係を築けたことは素直に嬉しいが、それを押して尚やはり興味深い。

 

警察として私の違法行為を掴もうとしているのかと思えばそんなことはなく、肩透かしを喰らうほど深入りしてこないのだ。

もちろんバレるような事物は彼から遠ざけているが、それを探ろうと行動している様子はまったく見られなかった、と小間使いが報告してきている。

 

やはり、彼は私の所業を確信しているのだ。

している上で、本当にお互いが利用し合う関係を望んでいるのだ。

 

ふふ、彼は本当に面白い!

 

おっと、噂をすれば何とやら、こんな夜更けにも関わらず彼が来たようだ。

今日もまた中庭に雇い集めた浮浪人らの所に顔を出して話し込んでいたようですが、それも終わったようですね。

(あれはいったい何なのでしょうか)

 

 

「やぁ。よくいらっしゃいました!御待ちしておりましたよ」

 

「おう、いらっしゃったぜ。珈琲をくれ、珈琲を。最近舌が肥えたのか無性に飲みたくなるんだ」

 

 

開口一番の厚かましい要求に私は溢れる笑みを隠すことなく、秘書に出すよう命じた。

勝手にソファに腰掛けた彼の前に私も座り、出てきた珈琲を互いに飲んでから話を切り出す。

 

 

「先日発行されたジョン・ハートレーの事件の新聞を読みましたよ。狩生殿が横浜に行った一週間後に起きた事件ですよね?何か接点がお有りなのですか?それに、あの火災事件も」

 

「さてね。前者はただの密輸犯だ、俺には関係ない。むしろ後者が関係大有りだ。俺がいた店をいきなり爆破しやがったんだぜ?おかげで火傷を負っちまったよ」

 

 

そう言って狩生殿は、包帯を巻き付けた右手で自分の頬を指し示す。

 

ふむ、なるほど。

小間使いからは情報を得られなかったとの情報を得たのですが、その頬を見るに本当らしいですね。

 

 

「最初はアンタを疑ったんだぜ?用済みだからと口封じに出たかと思ったぐらいだ」

 

「とんでもない!私が重要なぱーとなーである貴方を殺すわけないじゃないですか。私たちは運命共同体なのですよ?手を取り合うことはあれど、後ろから殴ることなどあるわけないじゃないですか」

 

 

まったく、その考えは早計ですよ。

未だ利用価値のある貴方を殺すわけないじゃないですか。

今はまだ、ね。

 

 

「そういえば、この間の会合は上手くいきましたよ。貴方が紹介してくださった方とはもう仲良くなれました」

 

()()()ね……そりゃなによりだ」

 

「えぇ、お陰様で。これを基に更に友達を増やしていきますよ。あ、そうそう、忘れてました。こちら、先月分の譲渡金です。それから、あちらが例の物です」

 

 

そう言いながら私は分厚い封筒をテーブルに置き、次いで部屋の隅に置いてある木箱を指し示した。

大きさとしては、一辺が座布団ぐらいのものだ。

それが二つ。

内容物はそれぞれ異なっていて、一方は重いがもう一方はかなり軽い。

 

 

「あれは……ッ! 手に入ったのか!」

 

「えぇ。まだまだ米国でも知名度は低かったですから結構苦労しましたよ。弾も流通量が少ないですから、一緒に入ってるのを使いきったら当分補充は出来ないでしょう。もう一方も技術者に投資して完成させた物です。まだ世に出回る前の物を頂きました」

 

「感謝するぜ、観柳。俺の予想が当たっていれば、コイツは不可欠な武器になるんだ。有り難く使い潰させてもらう」

 

 

彼は封筒を懐に仕舞うと、木箱に歩み寄ってその表面を撫でながら呟いた。

はてさて、銃など横浜で簡単に手に入るのに、この銃のどこが彼の食指を刺激したのやら。

それに、あんなもの。

あんなただの銀紙みたいな物をいったい何に使うのでしょうか。

 

いやはや、世界の裏の事を知っていることには本当に毎度驚かせてくれますね。

なぜこんなものが作られている事を知っているのか、甚だ疑問ですよ。

 

その後、彼から次なるお友達候補を挙げてもらい、会合の場を設けてもらうよう約束したり、逆に私からは彼の欲しい物の入手について、その進捗状況を話したりとお互いに情報交換をしてお開きとなった。

生憎と自動車なる物は銀紙と違って開発が進んでおらず、手に入るのは当分先になることも伝えた。

 

 

軽い足取りで木箱を抱えながら部屋を出ていく彼を見送ると、私は堪えきれずに笑ってしまった。

 

 

「ふ、ふふふ、あはははは!なんと痛快で、なんと愉快!こんなにも早く政界進出が叶うとはいやはや、彼の手腕は見事ですなぁ」

 

 

まるで此方の意思を汲んでいるかのように、行動は迅速かつ的確。

しかも此方に余計に踏み込んで来ないから動きやすいことこの上ない。

相棒(ぱーとなー)としては素晴らしい人材ですよ。

 

えぇ、本当に彼は素晴らしい。

優秀とさえ言えるでしょう。

 

 

「 ただ、だからこそ……」

 

 

優秀すぎるお仲間というものはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(な~んて、今ごろ物騒な事を考えてるんだろうなぁ)

 

 

石動雷十太の身柄を本署に届けた俺は、その足で観柳邸に向かった。

必要となる物を頂戴するためだ。

 

今日に限らず、今までもシャベルとか銃とか洋服とかを貰っている。

横浜から東京に戻ってからこっち、奴との取引を履行するために幾度か接触して奴とのお友達候補を斡旋して紹介したりしていたから、その見返り分はしっかりと頂いている。

 

あ、小金もね。

お陰でかなり贅沢ができるぐらいには貯まっ……ていたんだが、未来の知識を生かして装備を特注したから直ぐに吹っ飛んだ。ワロスワロス

 

 

 

……はぁ、閑話休題(現実逃避はここまでにして)

 

 

 

 

…………はぁ(クソデカ溜め息)

 

 

 

 

「…………にゃあ……」

 

「ふッ、ふふふふ、ふふふ……!」

 

「……あの、そんなに笑わないでくれる?」

 

「ごめ、御免なさい……!ふっくく、ぷふッ。あま、あまりにも似合いすぎて」

 

「……喜んでもらえて何よりだよチクショー」

 

 

俯き、視線を合わせずに肩を震わせながら笑いを堪えようとしているのは高荷恵嬢。

ここは観柳邸が一角、恵嬢の私室である。

 

観柳との打ち合わせを終えた俺は帰ろうとして、しかし廊下で恵嬢と擦れ違ったんだが、その時にお小言を言われた。

 

 

『……フン』

 

 

お小言じゃねぇな、これ。

なんかプイと頬を膨らませてそっぽ向かれて目を合わさずに擦れ違おうとしてなにそれ可愛いんですけど本当にありがとうございます。

 

じゃなくて。

どうやら今まで部屋に来てくれなかったことが、おこの原因らしい。

 

それについては、本当に申し訳ありません。

初めて彼女の部屋で話をした時に彼女の涙を見ていながら、薄情にもそれ以降とんと顔を出さなかったのだから嫌われても仕方ないよね。

むしろ激おこになってない分、彼女は本当に優しいよ。

 

原作キャラとは積極的に会うつもりはないと以前心中で吐露したが、流石に今の恵嬢を無視して帰ることはしたくなかった。

で、彼女の部屋にお邪魔して謝ったりしたんだが一向に機嫌を良くしてくれず、さてどうしようかと頭を掻いて辺りを見回したときに目に入った()()

俺が目を丸くしていることに、そして俺が見詰めていた先に何があるのかを悟った恵嬢は、あろうことか使用を強制してきたのだ。

 

何故こんなものがここにあるのかと震える声で問えば、似合うと思ったから作ってみたとのこと。

とびっきりの笑顔に豹変していたと付け加えよう。

そして彼女の背後におどろおどろしいオーラを感じた俺は、泣く泣くそれを頭に装着したのだった。

 

 

「ぷふふッ……ほ、本当に猫みたいね」

 

「白猫と揶揄されてるからね。もう色んな意味でぴったりだよ」

 

 

猫耳を着けた自分の姿を鏡で見たときは愕然としたわ。

銀色の髪に似た色の猫耳。

不貞腐れる顔で鏡に写った俺の顔は、正しくそこら辺に居る野良猫そのものだった。

墨で猫髭も描かれたし。

 

 

「あ~、笑った笑った!作った甲斐があったわ」

 

「そう言ってくれると俺も被った甲斐があったよ(自棄)」

 

「えぇ、ありがとうね。今度は尻尾を作っておくわ。次来たときには両方着けてね、仕事で多忙な可愛い白猫さん?」

 

「……ぐぅ」

 

 

癪だからぐうの音は出してやった。

とまれ機嫌が良くなったのでまずはひと安心だ。

 

 

「んんっ。御免なさいね、年甲斐もなく冷たくしちゃって」

 

「いやいや、謝るべきは俺の方だよ。本当に御免なさい。俺は口が達者じゃないからさ、上手くおしゃべりできる自信が無くて、くよくよ考えていたら今に至っちゃって……」

 

「そう……ううん、もういいわ。またこうしてお話ができたのだし、次も笑わせてくれる約束をしたことだし。それに、元気そうで良かったわ」

 

 

そう言って微笑む恵嬢は、本当に嬉しそうに声を弾ませていた。

 

 

「ところで狩生くん、その右腕は怪我をしているのかしら?良かったら診るわよ?」

 

「あ~大丈夫大丈夫。警察の医師に診てもらったから」

 

「ならいいのだけれど、随分と包帯を厚く巻いているわね。火傷?あ、そういえば頬にも火傷の跡があるわね。本当にどうしたの?」

 

「あはは、以前に任務でね。火中に突っ込んだんだけど、その時に軽い火傷をしちゃってさ」

 

 

俺は苦笑しながら、そっと右手をテーブルの下に持っていき恵嬢の視線から外した。

恵嬢は眉根を寄せて、そう、お大事にねと呟く。

 

当然だが、この腕を見せるつもりはない。

義手の存在を明らかにするのはマズいというのもあるが、理由のほとんどは心配されたくないからだ。

 

恵嬢はお人好しだから、俺が腕を亡くしたなんて知ったらきっと心配して色々と聞いてきたり、観柳邸に来てる間は世話をしようとしてくれる可能性がある。

 

その優しさは素直に嬉しいし、とても有り難い。

けど、それは絶対にダメなのだ。

今の恵嬢は自分の事でいっぱいいっぱいなハズだから。

 

 

「いや、俺の事よりも高荷さんの方だよ。高荷さん、少し痩せた?いや、というよりやつれた?」

 

「え、あ、そ、そう?おかしいわね、摂生には気を付けているんだけど……」

 

「以前よりも目の下のクマがはっきりと出てるし、食事も睡眠もよく取れてない?」

 

「だ、大丈夫よ!少しだけ忙しくなっただけで、また落ち着き始めたから直ぐに良くなるわ」

 

 

そう言って今度は苦笑いする恵嬢。

無理している様子がありありと分かってしまう。

 

阿片を作っている事への強い罪悪感。

そんな自分の境遇を変えなきゃと思っている反面、変える事によって己が身にもたらされるであろう死という観柳からの制裁に対する恐怖と焦燥。

 

逃げ出したいけど一人では無理。

仮に誰かに協力してもらったとしても、当のその人を巻き込むことになるだけという呵責。

 

優しいが故に、身を焼くほどに心が掻き立てられる今の現状は、いったいどれほどの心労だろうか。

俺では到底分かり得ないけど、それがひどく辛くて苦しい事なんだということだけは少しだけ分かる。

 

だからこそ、俺の事でさらに心労を増やしてほしくない。

出来ることなら今ここで観柳邸から彼女を拐ってやりたい。

観柳を含めて御庭番衆も一網打尽にし、彼女の心的負担を全て解消してやりたい。

 

けれど

 

 

(それが出来ればとっくにしているッ。けど、観柳を敵に回すことはまだできないんだ……!今、中途半端に観柳の影響力を広げた状態で敵対したらッ……それに)

 

 

なにより、()()()()()()()は自分を許しはしないだろう。

 

誰かの荷である事を極端に嫌う恵嬢はきっと、助けられる事を良しとしない。

それは生来の優しさゆえもあるだろうし、罪悪感ゆえもあるだろう。

助けるという選択肢は、今のお互いにとって悪手でしかない。

だけど……だけどッ。

 

恵嬢が一言、助けてほしいと言ってくれれば。

自分の生を望んでさえくれれば。

俺はすべての計画を捨ててでも、奴の影響下にある公職人すべてを敵に回してでもッ……!

 

 

俺は彼女を助けたい。

 

 

「高荷さん」

 

 

俺は努めて平静に、されど本気であることを瞳に示して告げる。

 

 

「うん?なにかしら?」

 

「約束通り、俺は待ってますから。自分の事を話してくれる日を。いつか貴女が自分を優先して、俺に……俺にッ、話してくれる日を」

 

「!……狩生くん」

 

 

 

 

 

 

 

「高荷さんに不遇は似合わない。貴女は御天道様の下に居るべきなんだよ。例え誰に否定されようと、例えご自身も否と思おうと、俺は、俺だけは断言する。貴女に不遇は似合わないから」

 

 

 

 

 

 

 








なお、猫耳と猫髭を取り忘れたもよう



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