明治の向こう   作:畳廿畳

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お待たせしました
本編の再開です

少しだけストックが溜まりましたので上げていきます



では、どうぞ






34話 横浜激闘 其の壱

 

 

 

 

 

 

 

ぐわんと揺れて、明滅を繰り返す視界。

 

絶え間なくせり上げてくる吐瀉物を無理矢理飲み込み続け、それでも咳き込むと咳と一緒に喉から溢れ出る。

凍るような寒さが背筋を貫き、手足がガクガクと震えて止まらない。

咳も震えも止まらず、視界が汗と涙でボヤけて意識が朦朧とする。

臓腑の一つ一つが震えているようで、身体の芯から凍えてしまいそうな感覚に襲われて、それでも溢れ落ちそうな悲鳴と苦悶の声を必死に噛み殺して。

 

どれくらい堪え忍んだだろうか。

 

 

気付けば、嘘のように震えと悪寒が消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

「調子はどうかな、師よ」

 

「……サイコーに最悪だ」

 

「会話ができて何よりだ。義手の着脱は激しい痛みと不快感が伴うものなのだが、もう慣れたようだね」

 

 

クソったれ、慣れるわけねぇだろう。

 

義手を外す痛み、つまり疑似神経をちぎる痛みは普通に腕を失った時を思い起こすような激痛だし、それに加えて骨の中を抉り削られていくという言葉に表せない感覚に襲われて、それが何より気持ち悪いんだ。

それを自分の手でやらなければならないのだから、気が狂っても可笑しくない。

事実、痛みを堪える傍ら、気が狂わないよう必死に己を律していたのだ。

 

で、ついさっき外した直後に新たな義手を装着したのだが、当然この時も以前みたいに酷い不快感と酩酊感に襲われ、なかば半死半生の状態になった。

 

本署で始めて着けたときは辛うじて平衡感覚を保っていたが、今回は腕を外すという過酷な作業を先にしたからだろう、新たな義手を取り付けた時は本気で焦った。

視界は前後左右どころか上下の感覚も失い、気の迷いか色も認識することができなくなって、最後には堪えていたものを吐き出してしまった。

 

 

「五ヶ月前だったかな?突貫で作ったとはいえ、それなりの自信作を半日で全損させて送り返されたときの衝撃は今でも忘れていないよ。あんなになるまで使ってもらえたことを喜ぶべきか、即壊されたことを嘆くべきか、今でも答えが分からないからね」

 

「……悪かったよ。けど、仕方ないだろ。相手が相手だったんだから」

 

「まったく、師の日常はいったい何なのだろうね。そんなに殺伐とした日々を送っているのかい?……ま、なんであれ、やられっぱなしは癪なのでね。送り返されてからの毎日、その一本を作り上げるために日々を過ごしたと言っても過言じゃないよ」

 

 

そう言う外印の見詰める先には、俺が今しがた着けた右腕がある。

新式の義手を動作確認しているのだ。

 

新たに作られ、装着した義手は以前の義手と同じで普通の腕サイズだった。

色も紫の毒々しいままだし、操作感覚も変わらない。

 

逆に以前のものと違う点を挙げるとすれば、それは義腕と同じ蒸気機関が内包されているということだ。

外印は送り返された義腕に搭載していた蒸気機関をなんとか小型化し(!)、それを小さな義手に適用しようとしたらしい。

 

だが、流石のオーバーテクノロジスト(?)である外印であっても、機関を搭載させるだけで精一杯だったとのこと。

義腕は熱エネルギーを推進力に変えて殱腕撃として放っていたが、今回はそんなエネルギーの噴射口は着いていないし、そもそもエネルギーを変換する機器を取り付けることが出来なかったという。

 

つまり。

 

 

「熱は熱のまま腕に蓄積させる。熱せられた腕はそれだけで凶器になるし、温度が上がれば比例的にその腕の威力が上がるぞ」

 

 

外印曰く、腕の高熱化は腕力、すなわち武力の強化に繋がり、こと右腕に関する戦闘力はかなり底上げされるとのこと。

体温の上昇や筋肉の伸縮率、運動効率等々と小難しい事を言っていたが、要するに志々雄真実の全身火傷による体温の異常上昇が身体能力の向上に繋がっている、という理屈と同じらしい。

 

志々雄と同じて……いや、それよりもなによりも。

 

 

「おいおいおいおい……あの巨腕は排熱機構のおかげで『クソ暑い』で済んだが、こんな小さな腕に熱なんて込めたら腕の接合部が焼け爛れんぞ?!ひょっとした拍子で自分の身体に触っちまったら目も当てられねェぞ!」

 

「問題ないとも。熱は真空間を移動しないから、それを利用した物でちゃんと腕の接合面を覆っている。過度な負荷は禁物だが、使用上に問題は生じないさ」

 

「……ッ!?」

 

 

おまッ……本当に何者だよ!

その知識は明らかに時代を越えすぎてるぞ!

 

 

「危険性については重々承知している。だが、それを押して師にはこの腕を身に付けていてもらいたいのだ。我が芸術のため、多少の無理は承知で危険性を背負ってほしい」

 

「……それは、精神の上書きみたいな事も指しているのか?」

 

「ほう、もう気付いていたのか。師は流石だな」

 

「やっぱりか……変に気分が高揚したり、かと思ったら急に落ち込んだりして何かと思っていたんだが……外印。お前仮にも師を実験台にするのは--」

 

「それは誤解だ、師よ。私は師を実験台にはしていない。私は師の精神に、否、有り体に言えば『心』に惹かれたのだ。その心の変化を見たいのだ。どのような負荷を掛けると、どのような変化が訪れるのか、それを見たいのだ」

 

 

あぁ、つまり実験台じゃなくて被検体ってことねブッ飛ばすぞコノヤロー。

 

 

「聞いてくれ、師よ。例えば高名な絵画師が描いた画と、それを瓜二つに素人が倣した画を見比べると、その二つは確かに違うものに映るのだ。画はまったく一緒なのに、我々の目にはまったくの別物に映る、つまり本物がどちらかが分かるのだ。私はその差は、人の熱意というか魂というか、そういった目に見えない何かに起因していると考えている」

 

「……」

 

「私はそれを人形に取り入れたいのだ。人形は所詮、人形だ。如何に精巧に作り上げようと、同じ姿形をした人間が隣に佇めば、どちらが人形でどちらが人間かは直ぐに分かってしまう。それではダメだ、全然ダメなのだ!人形と人間の二つの存在の間には明確な一線が、否、大きな谷が有るのは分かっている。それを、私は乗り越えたいのだ!」

 

 

故に師の心からそれを学ばせてほしい、と外印は言った。

髑髏のマスクから覗き見える外印の瞳が、何かに取り憑かれたかのように薄黒く、蠢いていた。

その熱意は執念なんざ生温い、もはや怨念にすら感じ取れた。

きっと代々続く傀儡師(くぐつし)としての悲願を叶えんとする思いからきているのだろう。

 

その瞳を見て、俺は溜め息を一つ吐いた。

 

 

「……そいつは随分と遠い、きっと果ての無い道のりだぜ?」

 

「無論、承知の上だよ。だがそれは師も同じなのでは?」

 

「はッ、言うじゃねぇか」

 

 

弟子の反論に、それもそうだと気付かされてつい笑ってしまった。

 

うん、そうだ。俺たちは同じなんだ。

悲願を叶えようとする意気込みは、多分どっこいどっこいなんだろう。

執念だろうが怨念だろうが、そこに差異なんてありはしないんだ。

己が決めた道をひたすら征く俺たちにもまた、差異なんて無いんだろう。

 

ただ、俺みたいな平成生まれのクソ雑魚精神なんぞに何故そんな過度な期待をしているのかは甚だ疑問だがな。

 

 

少しだけ気分が軽くなった俺はよし、と掛け声をして椅子から立ち上がった。

 

さっき腕を脱着したときの痛みと気持ち悪さはもう無いし、動くのに支障は出ないだろう。

汗を拭い、新たな右腕に包帯を巻き、裸だった上半身に服を着込んでから装備一式を身に付ける。

 

外印特製の武器も腰に備える。

 

 

「サンキューな、外印。腕とこれ、有り難く使わせてもらうぜ」

 

「うん。今度は大事に使ってくれることを願っているよ」

 

「善処する。けど、以前みたいに横浜の一画が火の海になるわけもねぇんだし、少なくとも一日二日でオシャカにはしないさ」

 

 

十本刀が横浜の通信拠点に配置されているだろうが、件の阿片を売り捌くため、その人員は限られているハズだ。

観柳の所に居る庭番が何人か来るとも思っていたが結局来なかったし、こんな人目の多い横浜に派遣されることも考え辛いから、これも杞憂というか肩透かしで終わってしまった。

だから恐らく、今回の横浜は以前より血腥(ちなまぐさ)くなることは無いと思う。

もちろん、十本刀との戦いは甘くないのは確かだが、そう一本も二本も腕を使い潰す気は毛頭ない。

 

 

「じゃあ、世話になったな。また暇があったら来るから、その時は宜しく頼む」

 

 

そう言って別れを告げた俺は以前と同じ外印の別荘の地下室を出て、一階に上がる。

扉をくぐると大きなラウンジがあり、そこの一人掛けソファーに一人の男がふんぞり返って座っていた。

 

ていうか宇治木だった。

 

 

「えらく小気味よい悲鳴と怒号だったな。完全防音と聞いていたが、結構な音量で聞こえたぞ」

 

「お前も一度経験してみ?自分の腕を自分で引きちぎって新しい腕にすげ替えるなんて、なかなか出来ない経験だぜ」

 

「結構だ。こう見えても俺は俺の身体に愛着があるのでな。生涯大事に使うさ」

 

「大丈夫だ。お前の身体はお前を見限っているから、そろそろ土に帰りたいとさ。特に左手、いい加減自分の(ピーー)だけを触るのは嫌だとさ」

 

「え゛、そうなのか?たまには右手でやるか……て、何をくだらないことを抜かすか!ちゃんと左手はお椀を持つのにも使っておるわ!」

 

 

なんて、互いに軽口を言い合いながら玄関から外に出ると、遮られるものの無い強い西日が俺たちを襲った。

 

時刻は既に夕暮れ時。

昨夜横浜に着いた俺と宇治木はその足で外印の所にお邪魔し、腕を交換したのだ(こう文字にすると改めて自分の身体が機械化されているんだなと実感する)。

ほぼ丸一日を費やしてしまったが、凡そ一月前から先行で横浜に部下たちを割いて送っているのだ。

俺個人が消費した時間に焦っても意味はない。

 

そして今は明治11年3月。

そう、ついに原作が始まるのだ。

 

関東一帯の志々雄真実の通信拠点は半分近く潰すことに成功した(あくまで計算上ではあるが)。

これで奴等の監視と行動にある程度の制限を掛けられたわけだが、それが果たして原作にどれ程影響を与えるのかは未知数だ。

原作がどうなろうと俺のすることに変わりはないためあくまで個人的興味ではあるが、はてさて吉と出るか凶と出るか。

 

と、玄関から小さな門までの道中に考え事をしていたら、その門の前に一人の男が佇んでいることにようやっと気が付いた。

 

 

「旦那。報告をしまさぁ」

 

「ん」

 

 

部下の一人だった。

 

長期遠征中、何度もコイツらを心身ともに潰して躾してきたため、それなりに扱いやすくなっていた。

旦那、兄貴、徳さん等と呼び名は個々人によってマチマチだが、総じて上下関係は身に付いたが故の呼称だ。

一度、春画で興奮しない俺を揶揄した輩がふざけた愛称で俺を呼んだが、笑顔で裸宙吊り亀甲縛りの刑に処してから皆大人しくなったのだ。

(俺の感性じゃあ今の春画で興奮なんぞするわけがないんだが)

 

 

「海運用倉庫街に目標と思しき集団を見つけてありまさぁ」

 

「倉庫街、か……」

 

「へい。そこにある一際オンボロの倉庫が、どうやら此処の拠点のようでさぁ。人員は、中に一際目立つ女人(にょにん)がいましたが、それを含めて最低で三十人と今までで最多。付近の倉庫からは人気も途絶え始め、大蔵省の見張り員も帰りました。その役人によると、その倉庫だけいつも夜遅くまで灯りが点いているとのこでさぁ」

 

「女人?」

 

 

聞き慣れない単語に、俺は眉をしかめて訝しげに問うた。

志々雄一派は男女共同参画を謳っていたっけか?

テロリストにしては随分と耳障りの良いことを掲げている。

 

 

「へえ、どうも旦那が持っているそれと同じような大鎌を背負っていた女人のようでさぁ。それが倉庫に入ったのが先刻で、おそらく責任者ないし指導者の立場にある人間のようとも報告が上がっていまさぁ」

 

「……あ?」

 

 

俺と同じ大鎌?

女人で、責任者ないし指導者の立場?

 

……ふはッ!

 

そんなの、誰かなど直ぐに分かるだろうが。

こんな不出来な物を武器として扱う阿呆など、この国に三人も居らんわ。

 

そうか……そうか、来てたのか。

()()()が横浜にまた来ていたのか!

また横浜で、今度こそ俺を殺しに来たというのか!

 

 

「は、はは、ははは、あッはははは!」

 

 

こいつは僥倖、こいつは天祐!

こんなにも早く奴に直接お礼を告げられる時が来るとは思ってもいなかったぜ!

 

そうだ。

ちょうどこの横浜の地で、俺は地獄の辛酸を味わった。

横浜の一画が火の海に沈んでいたそのど真ん中で、俺は鎌足による鎖鎌で身動きを封じられ、危うく消し炭に変えられるところだった。

生き残るために自らの腕を爆散させ、その拘束を解いて生き永らえたが、おかげで隻腕になって身体に火傷の疼きを埋め込まれた。

 

長期遠征中ずっと俺は自らを拘束した大鎌を背に負い、地獄の苦しみを一分一秒たりとも忘れないようにしていた。

弱い心を強くするため、常に痛みと苦しみを思い出す要因を身近に置いていたのだ。

 

そしていつか、この大鎌を奴に返してやると心に誓った。

そんな機会が、原作が始まるより前に訪れるとは。

こんな嬉しいことが他にあるだろうか?!

渦巻く殺意と怒気を押してこんなにも胸が踊っているんだ!

 

ふと、俺の突然の笑い声に目を丸くしている二人がいることを思い出し、咳払いをして告げた。

それでも、ひくひくと頬が上がってしまうのはどうしようもなかった。

 

 

「んん!重畳。時間が無いのは此処でも同じだからな、早速だが今夜にでも襲撃を仕掛ける。此処が最終地点だからもう先行して次の町に人を寄越す必要はないからな、全員による全力強襲だ。監視と情報の伝達を怠らないよう注意しろ」

 

「は、はッ!」

 

「ん。いつも通り日が暮れての実行とする。各自準備するよう伝えておけ」

 

 

はッ、と部下の一時は戸惑うような声音だったが最後は威勢の良い返事に安堵し、駆け出したその背を見送った後に宇治木に告げた。

 

 

「件の倉庫の中にいる女人とやらにはなるべく近付かないように徹底させておけ。かなりの実力者だからな、俺が刈る」

 

「それは構わんが……知り合いか?」

 

「あぁ。絶対にこの手で仕留めなければならない……恩人だよ」

 

 

そう呟いて、俺は右腕を握り締める。

その所作で宇治木は俺とその女人(本当は男なんだが)との関連性に気付いたのか、神妙な顔付きで一つ頷いた。

 

この五ヶ月間に及ぶ長期遠征で、コイツも心身ともにかなり鍛えられてきた。

その実力が原作勢に比べてどうなっているかは分からんが、少なくとも原作上の噛ませ犬(コイツが本来なるべきだった未来の姿のこと)とは比べるべくもないハズだ。

 

それに、今のでも分かると思うが此方の思うところを理解してくれることもままある。

コイツとの阿吽の呼吸なぞ虫酸が走るのだが、仕事上はかなり有り難い。

有用な人材に化けてくれたことには、一先ず感謝だ。

 

 

「英字新聞社に寄ろうと思っていたんだが、予定を変更だ。俺たちは件の倉庫街を見て回って、実地で土地勘を身に付けておこう」

 

 

了解、と宇治木の返事を聞いてから俺たちも歩き出した。

 

幸い、その倉庫街は以前横浜に来たときに場所を把握していた(というか、以前ジョン・ハートレー一派を拘束した場所付近だった)ので迷うことなく視界に収める所まで来れ、仮に志々雄一派の工作員に見つかっても不審に思われない程度の様子を醸し出しながら、辺りを散策し始めた。

 

船に積んだ荷物は小舟に下ろされ、その小舟が倉庫街に至って荷物を倉庫に詰め込む。

そのため、小舟が行き来する支流は倉庫街に張り巡らされており、規模は小さいにしても若干水の都みたいな様相を呈している。

 

日が没し、国籍問わず殆どの人が仕事を切り上げていくとここの倉庫街は閉鎖され、大蔵省の役人数人のみが見張りとして残るだけとなる。

今となってはその見張りも帰ったらしいから、ここら一帯は既に無人の地となっているようだが……怪しいな。

以前なら夕刻であってもかなりの数の水夫や商人が忙しなく働いているのに、今日に限って早いうちから閑散としている。

 

ふぅむ……期せずして襲撃するための舞台が整っているな。

志々雄一派の計略か?

 

有り得ない話じゃない。

そのために鎌足が派遣されたと考えれば辻褄は合う。

何かしらの力を使ってここら一体を掌握し、通信拠点を襲撃していた犯人らを排そうと考えた結果であれば、頷ける。

 

であれば、ここらは既に奴等の掌の上……うん、上等じゃねぇか。

もとよりそのつもりで横浜を最後まで取っておいたんだ。

追加配置した兵力が本当に鎌足だけだってんなら、喜び勇んで刈り取ってやる。

 

 

「件の倉庫は……あそこか」

 

「ふむ、確かに一際老朽化が目立っている。あれなら闇夜で見間違うこともなさそうだ」

 

「逆に戦闘の余波で倒壊する可能性も考慮すべきだろうな……ん?」

 

 

そう宇治木と話していると、向かいから一人の水夫が此方に向かって歩いてきたのが目についた。

俺たちの周りには誰もおらず、男の目も俺たちを見据えていることから、目的が俺たちなのは明らかだ。

ここで一悶着起こすのはマズいなぁ、とぼんやりと思い、さてどうやって切り抜けるかと考察し始めたが、どうも水夫の鋭い眼光を見るに杞憂であることが分かった。

 

潜入した部下の一人だったのだ。

なるほど、その出で立ちなら辺りをキョロキョロ動いていても不審には思われないわな。

 

 

「……此方に」

 

 

部下はそう言葉を溢すと、背を向けて歩き出した。

その背に俺と宇治木は黙ってついていく。

 

黙々と倉庫街を練り歩いていくと、一つの倉庫に案内された。

聞くと、長らく誰も使っていない倉庫を見つけたため、そこで今は監視しているとのことだ。

 

中に入ると既に部下の全員が張り詰めていた。

彼らの瞳に疲労の色は見えず、変わりなく剣呑な空気を醸し出している。

 

うん、意気込みは変わらず上々。

 

これなら鎌足や他の十本刀相手でも、多少の時間稼ぎはできるだろう。

その稼いだ時間で、俺か宇治木が駆けつけられればいいのだから。

まぁ、一番酷に鍛えた宇治木といえど、ましてや俺といえど十本刀に勝てるという保証はないがな。

 

 

さてさて、いっちょ死に物狂いで働きますか。

 

 

今夜起きるであろう因縁の相手との戦いに、俺は静かに滾る心を押さえつけながら、ただひたすらに夜を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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