ご感想にありましたが、オリ主の自己評価は限りなく低いです
自分の強さ等を正確に把握していない節があるのは仕様です
とまれ、どうぞ
刀をぶらりと下ろし、とんとんと軽く爪先を地に叩いて鳴らす。
正面左手に般若、正面右手に式尉、そして背後に癋見。
俺を中心に三人が三角形を描くように立ち、それぞれが得物を持って構えている。
これはマズいな。
この布陣もそうだが、コイツらそれぞれが遠・中・近距離戦を得意としていて、まさに理想的な人を選抜して俺にぶつけてきたのだからなおのことマズい。
しかも背後に遠距離戦を行う癋見がいるのだから、泣きっ面に蜂とはこのことだ。
けど、ま……
「逆に言えば、お前ら三人を一網打尽にできるんだ。リスクは高いがリターンも高い……おっと、日本語で言うなら、虎穴に入らずんば虎児を得ずってやつだ――受けて立つ価値は十二分にあるぜ」
そう言って、俺は眼前の二人に微笑みかけた。
努めて明るく、朗らかに。
そして、俺の笑顔を見て二人の肩が微かにブレた。
俺の笑顔に対する戸惑い、あるいは疑問、それら諸々が一瞬だけ頭に去来したのだろう。
その一瞬で充分だった。
瞬時に踵を返し、屋根瓦を踏み砕いて一気に癋見に肉薄する。
後方支援係を最初に潰すのは、戦争においてはもちろん、RPGゲームにおいてすら鉄則だ。
護衛がいないのなら、前線要員に無防備な背を見せてでも強襲すべきである。
「ッ?!」
ぐんぐんと距離を潰していくと癋見は驚愕の声を溢し、それでも咄嗟に螺旋鋲を再度構える。
早い。
慌てて何も出来なくなる青二才ではなく、きちんと修練の結果が実戦でできている様だ。
ならば、なおのこと此処でコイツも刈る!
そして、放たれた螺旋鋲は瞬きする間もなく、俺の目の前に迫り――思いっきり右手で
がんッ、という金属音が耳に響いたと同時に螺旋鋲は狙い過たず、癋見へと飛んでいった。
「な?!……ぐぅッ!」
弾丸を見極められるよう訓練してきたんだ(見極められるようになったとは言っていない)。
螺旋鋲程度なら見えるし、この右手があれば打ち返せる!
癋見の顔は愕然としたものから直ぐに苦悶の表情へと移り変わった。
自らが放った螺旋鋲が、そっくりそのまま返ってきて肩肉を抉ったのだ。
だが、これで戦列から落伍するとは思えない。
確実を期すため、もう片腕ももらい受け……ッ!
「……?!」
首筋に感じた急な悪寒に従い、上体を傾けながら振り向くと鼻先を白刃が過っていった。
般若が追い付き、首を刈ろうとしたようだ。
クソ、あと一歩のところで追い付かれたか。
この状況で癋見に追撃を掛けるのは愚策なれば、標的を変更だ。
「しッ!」
「……!」
左腕に持った刀を振るい、般若を迎撃する。
一、二、三四五と剣戟が奏でられ、六の横一閃の一撃を奴が跳んで躱した瞬間、今まで奴がいた所を黒くデカい塊が、瓦礫を巻き上げながら猛速で迫ってきた。
「う……ざってェ!」
再び右腕を振りかぶり、式尉の鉄球を躊躇なく渾身の力で殴りつける。
轟音が響くと、球は鎖にしたがって式尉のもとへと襲い掛かった。
それを尻目に、俺は眉をしかめて右拳を左手で包んだ。
い……でぇぇえ!
頑丈とはいえ感覚はそのままなんだ。
本来鉄の塊を殴れば拳は粉々になる。
殴り返せたとはいえその粉々になるほどの痛みはしっかりと感じるから、
なんて。
そんな弱音を内心で溢した瞬間、上空に逃れた般若がクナイを数本投擲した。
金属同士がぶつかった異音が立て続けに鳴り響き、ほとんどを切り払ったが、防御の空隙を突いた一本だけが俺の胸に突き刺さった。
「ぐぉ……!」
くそッ……またこれかよ!
痛みに竦んでこの失態とかホントにもう……!
なんだって俺はこんなにもッ……いや、違う。違う違う違う!
後悔は後だ、今はとにかく戦え!
頭を振るい、マイナス思考を打ち払って現状を確認する。
大丈夫、クナイは胸骨で止まっている。
内臓には届いていない。
そこまで考え、痛みを堪えてそのクナイを引き抜いたとき、再び首筋がぞわりと震え上がった。
咄嗟に振り向くと同時に、悪寒の発信源に向けてクナイを投擲しようとすると、果たしてその正体は三度螺旋鋲を放とうとしていた癋見だった。
「「……!!」」
お互い一瞬制止し、直後に奴は螺旋鋲を、俺はクナイを放った。
互いの得物が空中で擦れ違い、得物を放って無防備な状態になった両者に襲い掛かる。
螺旋鋲は脇腹に、クナイは脛に突き刺さった。
「がッ……」
「な"……!」
いっづぅぅ……だから!怯むな!
意識を己に向けるな!
奴の動きはこれで封じたんだ、もう片腕かその首を落と……!
「どわッ!」
あぶなッ!
もう少し意識を痛みに向けてたら直撃してたぞ。
今度は背後から式尉が急接近してきて、殴り掛かってきやがった。
寸でのところで後頭部に迫ってきた拳を避けたが、微かに頬を切った。
「んのやろぉ!」
「餓鬼がぁ!」
再び奴の拳が唸りを上げて顔面に迫る。
それをダッキングで躱すと、鳩尾に拳を叩き付けた。
会心の一撃に手応えを感じるも直ぐ様頭頂部に衝撃を感じ、思わず片膝を盛大に落としてしまった。
「がぁッ!」
「ぬう!」
それでも、落とした膝をバネに渾身のアッパーカットを奴の顎に振り抜いた。
直後、そのカウンターパンチが穴の空いた横っ腹に突き刺さった。
ぐ、あぁぁ!
くそ、コイツ肉弾戦好きすぎだろう!
原作でもそうだったが、筋肉自慢が過ぎるんだよ!
そんなに筋肉の見せ場を作りたいならボディービルダーに転身しやがれ!
そんな激憤を内心で滾らせ、再び拳を振りかぶると、奴の頭上から般若が飛び掛かってきた。
その手には式尉が使っていた鉄球と、それに繋がる鎖が握られていた。
そしてその鉄球が般若の手から放たれると、果たしてそれは式尉の胸へと叩き付けられた。
「……は?!」
あまりの予想外の事態に頭が真っ白になった。
アイツは何を考えているんだ。頭にそんな一文が過った瞬間、その答えは直ぐに身をもって理解した。
高速で叩き付けられるは鉄の鎖。
それが俺の胴体に巻き付いたのだ。
あまりの事態に混乱した瞬間を突いた奇策に、為す術もなく絡め取られた。
そして見ると、式尉は痛がる素振りを見せず鉄球を見事にキャッチしていた。
しかも頭上からは刀を振りかぶって下りてくる般若。
やっべ!
そう思った直後にはしかし、俺の身体は動いていた。
屋根から飛び出したのだ。
俺の咄嗟の行動に今度は式尉らが目を丸くしていたのを空中で見掛け、そして直ぐに重力に従って身体が墜ちていった。
はッ、ザマァ。
三人との戦闘で舞台は屋根の縁まで移動していたため、ここから降りる算段もつけていたんだ。
そして落ち行く最中、空いた腹に手を捻り込む。
脇腹を抉ったままの螺旋鋲を抉り出すためだ。
「……っぅぅ!!」
取れ…取れ……たぁ!よっしゃあ!クソ痛ェ!泣き言言うなァ!
両腕を上体に巻き付けられている現状、手先で発射できるこれが大事な武器になるんだ。
痛みを代償にして手に入るのなら安いと思い込め!
そして予想通りに身体は鎖によって急にぐんと引っ張り上げられ、円運動によって地をスレスレに行きながら屋根へと舞い上がった。
「手こずらせるなァ!」
眼下では猛る式尉が鎖を引っ張り、その傍で刀を構えて今にも飛び上がりそうな姿勢の般若がいる。
このまま鎖を手繰り寄せられれば、何の抵抗も出来ずに殺されるだろう。
だが生憎となぁ。
こちとら鎖で身動き取れなくなるのは経験済みなんだ。
たかが上半身を固縛した程度で封じられると思うなよ!
「ふ! ぜや!」
引き上げられ、宙に舞っている状態で刀と螺旋鋲を投擲する。
片や般若に、片や式尉に。
腕も満足に動かせず、況してや螺旋鋲なんて初めて触った身でありながら、それでも幸運にも両方とも狙い過たず二人に飛んでいった。
般若は刀で刀を弾いたが、式尉は螺旋鋲が見えなかったのか、避けきれずに太股を掠らせた。
そして回避に意識がいったためか鎖の張力は弛み、俺はそのまま弧を描くように二人の頭上を飛び越し――
「……え?」
螺旋鋲を構え、射つタイミングを見計らっていた癋見の直上に降り立つ直前――
「があぁぁ!」
その頭頂部に踵落としをブチかました。
踵を打ち抜いた瞬間、そして足元の屋根瓦に顔面から突っ込んだ瞬間において、耳をつんざく爆音が夜の静寂に轟いた。
ッし、これで確実に一人戦線離脱だ。
小柄な癋見では俺の渾身の蹴足は耐えられまい。
形勢は依然として不利だが、三対一より二対一の方が断然やりやすい。
しかも遠距離戦を行う相手を先に潰せたのだから、これは大きい。
当の癋見だが、死んではいないハズだから早めに此方で回収しておきたい。
いろいろと聞きたいことがあるし、なにより一人でも身柄を確保できれば
故に奴らに身柄を回収されて引き上げられるのだけは避けたいが、もしそうなってしまうならば原作キャラといえど関係ない。
後顧に憂いが生じる可能性は、徹底して排除する。
ただまぁ、警官相手にここまでしてオチオチと引き下がる選択をするとも思えんからな……しからば、だめ押しの挑発の一手で相手の行動を絞る。
「て、テメェ!」
「……」
愕然としている二人(一人はお面でよく分からないが)に対し、俺は鎖に巻かれたままの身体で再度相対し、嘲笑を浮かべる。
「なんだよ。俺を殺りに来たんだろ?ならやり返されることも考慮しとけよ。それとも、俺なら簡単に殺せるとでも考えていたのか?」
次いで、溜め息。
これ見よがしに落胆した風を装う。
「そう考えてた上でのこの
「んだとッ……!」
「侮るなよ、庭番ども。俺は毎日死ぬ目に会いながら、ずっと生きて、戦ってきてんだ。半端な実力者にくれてやれるほど、この首は軽くねぇんだよ」
式尉への意趣返しを言うや否や再度足を大きく振り上げ、俺の身と式尉の間に橋を作っていた鎖に叩き付けた。
必然、俺の身はその衝撃に攣られてたたらを踏み、式尉も虚を突かれて反応が出来なかったようで、鉄球を抱えたままバランスを崩した。
そして俺は腰から拳銃を引き抜くと、警戒の色を露わにした眼前の二人を他所に、叩き付けた足で固定している鎖に向けて全弾発砲した。
銃声の直後に金属の悲鳴を上げる音が響き、そんな異音が六度も続いた頃には狙い通りに鎖が断裂していた。
……え、拳銃あるなら初めから使えって?
でも癋見や式尉ならともかく般若には通用しなさそうだし。
持ち弾に限りがあるから、こういういざという時か、あるいは雑魚相手にだけ使うのが賢い使い方だろう。
それはともかく。
鎖の呪縛から解かれた俺は、それを解して立ち上がる。
全弾撃ち尽くした拳銃を捨て、ちゃり、と鎖を武器として携えることも忘れずに。
己が武器を台無しにされたためか苦虫を噛み潰したような表情をする式尉、その前に一歩踏み出した般若は―――
「……認識を改めよう」
そう呟き、直刀を背の鞘に戻す。
そして、一息に気を開放するかのように両の拳を腰回りに振り降ろし、それと同時に手の甲に仕込んでいた鉤爪が顕現した。
あれは、奴の真の武器だ。
それほど本気になったということか。
「貴様は全力でもって殺すべき相手だ。侮っていたことは素直に詫びよう……故に、ここから先は獲りに行かせてもらう」
「——はッ、上等だ。受けて立つぜ、庭番ども」
狂犬さながらに犬歯を剥き出しにして笑いながら、鎖を構えて俺も言った。
前哨戦は、どうやら本戦並みの熾烈さに移り変わりそうだ。
==========
「
「……」
場所は変わって倉庫街の一角。
ある廃倉庫に襲撃を掛けようとした宇治木らが急遽集まり、対応に苦慮していたのだ。
本来の手筈なら、廃倉庫をここにいる七人で取り囲み、そこで人の出入りを封じ、そして隊長の狩生が屋根を突き破って襲撃を掛け、それに乗じて廃倉庫を囲んだ隊員が乗り込む、となるハズだった。
だが、その当の狩生はどうやら不測の事態に見舞われたらしい。
最初は気付かなかったが、微かに聞こえた銃声で確信した。
先程までいた倉庫の屋根上で、狩生が何者かと戦闘状態に入った!
目標が襲撃を察知して逆撃を加えてきたのか。
あるいは第三勢力が加わってきたのか。
どちらであっても、とにかく今は確認と救援の為に戻るべきだろう。
そう判断したのだが、彼らにはそれが出来なかった。
異変を感じて廃倉庫の周りを囲っていた仲間を集めたまではよかったが、そこで宇治木らは身動きが取れなくなってしまったのだ。
何故なら―――
「なぁに~?さっきから黙ったまんまでどうしたのよ。関東一円の私たちの拠点を潰したのは貴方たちでしょう?ここでもその勢いのまま来るんじゃないのかしら?」
大鎌を掲げ、不敵に笑って挑発する敵が目の前にいるのだから。
襲撃予定の倉庫の門扉前に一人佇む大鎌を持った女人。
「それとも、私が外に来たことが想定外だったのかしら?自分より強い相手が居るとは思わず、恐怖で二の足を踏んじゃった?その髑髏のお面の下はいったいどんな顔をしているのかしらねぇ、っふふ」
事前情報にあった通り。
そして、狩生の右腕を奪った敵。
大鎌の鎌足。
業腹ながらも狩生の実力を認めている宇治木は、この場で目の前の女人と戦うことの厳しさを感じていた。
狩生の腕を落とすということは、当然かなりの実力があるということ。
おそらく自分では太刀打ちできまい、と考えていた。
「手下どもが回りにいると却って殺りづらいのよね。だからこうして私自身が出てきたわけなんだけど、あ、でも安心してちょうだい。簡単には殺さないわ。吐けること全部吐いてくれるまでは、じっくりとお姉さんがなぶってあげるから」
くすくすと笑う姿は艶やかで、巨大な凶器を持つ姿と相まってどこか幻想的な美しさがあった。
が、それに見惚れることなどあるハズもなく、宇治木は即座に判断した。
背後にいる部下全員に告げた。
「この女人は俺が抑える。貴様らは貴様らだけで当初の任務を遂行しろ。状況はすでに『戦闘』へと移っているのだ」
「うじッ……、ベータ……」
「
「ッ、分かりました。御武運を!」
そう言って駆け出した部下に対し、鎌足が逃がすまいと大鎌を構えた瞬間、腰より抜いた拳銃を宇治木が発砲し、一発の銃声が響いた。
そして、放たれた弾丸は弾頭がひしゃげ、からんと無造作に鎌足の足元に落ちる。
「あッぶな~。当たったらどうしてくれんのよ」
「……諸手を上げて喜んでやったさ」
宇治木が拳銃を構えたとき、鎌足は咄嗟にその銃口が向けられた己の部位を目視で割り出し、そこに鎖を持ってきたのだ。
そして予測通りの位置に放たれた弾丸を確と捉え、鉄製の鎖と強靭な筋力によって運動エネルギーを完全に奪い取ることに成功したのだった。
やはり拳銃程度では歯牙にも掛けられないか、と宇治木はぼやいた。
いつぞや狩生と話したとき、S捜査における最大の障壁の一つとなるだろう十本刀の存在について、その詳細を真面目に聞いていて正解だった。
超常の力を有している相手と戦うには、早々に己の常識を捨てるべきだと、今しがた認識した。
「あ~あ、行っちゃっ……あれ?逃げるんじゃないんだ。まだ私たちの拠点を潰すつもりだったんだ。で、貴方はさしずめ私の足止めか」
「ご明察。ここは貴様らの一大拠点なのだろう?なればこそ、もはや退くなどという選択肢はあり得ない」
「へぇ、随分と覚悟を決めているのね。でも、その代償は高くつくわよ?此処は今までのちんけな拠点とはワケが違うの。貴方たちを盛大に迎え入れる用意をしてあるのよ?」
「皆が覚悟の上だ。我々の命を懸けて、貴様ら全員を排除する」
「……正気?誰を相手にしているのか分かっていないのかしら?」
「そっくりそのまま返してやる。俺たちを相手にして、誰一人として生き残れると思うなよ」
状況『戦闘』とは、文字通りである。
部隊員が敵と戦いを始めたとき、全員が意識のスイッチを切り替えて『戦闘』を始める。
ただし、死ぬまで、である。
そもそも任務の性質上、彼ら特捜部はその存在を公にされることはない。
志々雄一派相手にはもちろん、世間一般にもだ。
川路大警視直々の辞令の後、直ぐ様本署を離れて関東に点在する志々雄一派の通信拠点を襲撃し回った理由の一つに、その存在を特定されないよう一ヶ所に留まらないようにした、というのがあった。
白猫隊などと揶揄される存在は、しかし誰もどこにいるか分からない幽霊部署である、という状況を作ったのだ。
これは、川路大警視が打った一か八かの奇策の一つである。
志々雄真実率いる巨大なテロリストを相手取るため、敢えて警察組織から切り離した対テロ戦闘用の部隊を作り出したのだ。
切り離したとは、つまり独立させているということ。
手綱を握ることを最初から無視し、成果を自ら掴み取らせ、そして報奨も何も与えない。
勝手に動いて、国家の利を献上させ、されど警察はそれらを把握しない。
彼らが何をし、何を成し得、反面何を失ったのか、その一切を警察上層部は認識しない。
可能な限りの情報的接触を断ち、部隊の尻尾を誰にも掴ませないようにしているのである。
上意下達は存在せず、報連相さえかなぐり捨てた最小の戦闘特化部隊を世に送り出したのだ。
こんなもの、普通なら考えられない。
事後報告すら求めないなど、組織としてあるまじきケースだ。
ましてや行動の一切を問われない部隊を野に放つなど、正気の沙汰ではない。
以前、狩生に通達した独自裁量権の付与とは、斯くも異常なものなのだ。
そして、そうあれと命じられて作られた
自分たちの存在に関するあらゆる情報、そして自分たちが掴んで溜め込んでいる情報、及びそれを基に計画した独自の任務を悟られないよう、決して身柄と痕跡を抑えられないようにする。
そのため、戦闘は本来推奨されない。
殺される可能性もさることながら、拿捕されることが考えられるし、戦いの痕跡から自分たちの尻尾を掴まれる可能性があるからだ。
故に確実な目的の達成と、自分たちに関する一切の情報が漏れないという見込みが無い限り、軽挙妄動は控えるよう徹底されている。
敵に逃げられる事はもとより、目撃されることも忌避されている。
それが敵であることはもちろん、無関係な
志々雄一派の情報ネットワークがどこまで張り巡らされているか分からない以上、あらゆる可能性は根本から排すべきである。
だからこそ今までそうしてきたし、そしてこれからもそうするのは確実である。
ともあれ、「情報の秘匿性」と「任務の重要性」を天秤に掛け、後者が重要と判断された場合こそが彼ら特捜部が唯一戦闘を許される状況になる。
基本は戦いを忌避し、なれど一度戦うことを決めたならば最後の一人になっても戦い続ける。
徹底して、確実に敵を屠るため、全身全霊を懸けて死ぬまで戦う。
敵の逃走を許さず、目撃者も認めない。
逃げることを選択肢から除外し、隠密行動を前提とした部隊のアイデンティティーを擲ち、決死の覚悟で戦い続け、全戦力を用いてあらゆる存在を
当然、自分たちの存在も、その限りたりえる。
本当の意味での『絶滅戦争』なのだから。
故に、もし仮に。
戦闘の継続が困難になり、かつ任務の達成が不可能と判断された場合は。
あるいは不測の事態に見舞われ、足手まといになると悟った場合は、十徳が事前に下した最悪の命令を遂行することになる。
それすなわち、命捨てがまれ。
身命その全てを捧げて、任務に忠せよ。
身潰え命果つるその瞬間まで、己の存在が唯の屍に至るその瞬間まで、戦い続けろ。
さもなくば、未完で終える任務を彩る徒花となれ。
各自一つは隠し持っている処分用の炸裂玉を、使用せよ。
これは、志々雄一派との「生存するか、死滅するか」の極限闘争なのだ。
生き残ることによって得られる次のチャンスも
生き残ることによって後々に生じる不利益も
死体を差し出すことで一切合切をうやむやにする。
最後の一人になっても戦い続ける、あるいは自決をする姿を敵に見せしめ、その狂気の沙汰を印象づける。
そして、以降の行動と思考に自分達のような異常集団を念頭に置かせ、制限を掛ける。
恐怖と嫌悪を刻み付けるのだ。
「もとより命なんぞ惜しくはない。欲しけりゃくれてやるさ。だがな、既に戦いの火蓋は切ってあるのだ。貴様らの未来は、俺たちに殺されるか、俺たちの骸を拝むかのどちらかなのだ」
「……笑いはしないわ。以前、そうやって堂々と私と相対して大口叩いた奴がいてね。笑ってやったらものの見事に押し倒されちゃって、冷や汗を掻いた経験があるもの。だから、貴方の覚悟は認めるわ。その上で、貴方の覚悟もろとも切り刻んであげる」
「いい心掛けだ。ならば俺もその意気に応えよう。覚悟しろよ。もはや俺たちには進むしか道が無いのだから。前にしか退路が無いのだから、死に物狂いになるぞ」
ばさり、とマントが一瞬膨らむと一本の刀がすらりと伸び、切っ先を鎌足へと向けて宣する。
髑髏のマスクも投げ捨て、睨み付ける。
ここに、二つ目の戦いが開幕した。