皆さんの鎌足愛がすごい
さすがハーメルンや…
筆者も調子乗って完全趣味のR18を書いて遊んでました
とまれ、どうぞ
「よう……会いたかったぜ」
「あ、貴方は……!」
俺の足元で、俺を見上げる形で仰向けに倒れる鎌足が、呆然とした様子で、愕然とした様子で呟いた。
目を真ん丸にして、まるで死んだハズの人と遭遇したかのよう……って、あぁそうか。
正しく俺のことじゃないか。
たしか俺が横浜で焼かれていた場所に、外印がダミーの死体を棄てたんだ。
つまり、
あ~そのカードを切るのは惜しかったなぁ。
でも、今は贅沢を言ってられないからな。
「お互いに言いたいこと、訊きたいことはあるだろうけどよ--」
「あッ、当たり前でしょ?!貴方どうして……いえ、それよりも……うぐっ、」
「落ち着け、今はそれどころじゃないんだよ」
痛みからか、呻きながら起き上がり、詰め寄ってきた鎌足を制す。
ちらと空いた穴から壁の向こう、倉庫の中を見ると、そこは正しく死屍累々の状況だった。
その穴から、壁に寄り掛かって座っている誰かの肩が覗けた。
「宇治木か?」
「あぁ、やっぱりお前だったか……遅れて参上とはいい御身分だな」
「生きてたようで何よりだ。どうなった?」
「目的はほぼ達成した。残るはソイツだけだ」
「そうか……ご苦労。じゃあそこの倉庫内の確認と、最初に居た倉庫で俺が潰した敵勢力三人全員を探し出して捕縛して来い。早急にな。倒れて休んでる奴等は叩き起こして使え。死んでても生き返らせてから使え」
「クソ!人使いが荒すぎるぞッ」
「お前らの死ぬべき時は今じゃないからな。それと、一通り終わったら不知火を持ってこい。屋敷で貰った刀のことだ。あ、あとお前の上着寄越せ。寒い」
「……いつか絶対殺す」
俺の指示に不穏な言葉を漏らした宇治木はノロノロと立ち上がると、行動を開始した。
ぼす、と俺の顔面にぶつけられた上着をそのまま羽織り、俺は眼前の鎌足に向けて言った。
「さて……
「ッ! 私の名を……どうして」
「俺に訊きたいことがあるんだろう?なら提案だ。
「……は?」
つと目を向けた暗闇から、確かな歩調で此方に近付いてくる蒼紫を見つけた。
御庭番衆は鍛練によって総じて常人より目と耳がいいらしいが、正しくその通りのようだ。
暗闇でのアドバンテージは無いと見ていいだろう。
「あっちから近付いてくる奴がいるだろう?アイツは俺を殺そうとしてるんだが、このままじゃ俺は殺されちまう」
「へ、へぇ~。なら好都合じゃない。それなら今度こそ亡き者にできるわけね」
「あぁ、このままならな。だが、それでお前は許されるのか?襲撃者について、その首魁である俺が口もきけなくなって、それでお前はいいのか?」
「なッ、首魁?!」
「おうさ。此度の襲撃者共は全員俺の部下だ」
喫驚し、しかめっ面をする鎌足に対して俺は催促する。
「一応言っておくが、アイツは俺を殺すつもりだから、アイツと共闘して俺を潰す、てのは出来ねぇと思うぜ?十中八九俺は死ぬ」
「ぐ……!」
「もう時間が無ェぞ。ここで俺が殺られるのを見ているか、それとも一緒に鬼退治して対価として情報を得るか、どうするよ?」
これは賭けだ。
冷静に考えれば、俺じゃなくても宇治木らから十分に情報を絞れると分かるだろう。
そしてそれは、瀕死の宇治木らにとっては防ぎ様のない事態だから俺が阻止しなければならない。
そうなれば必然的に
それは非常にマズい。
ただでさえ蒼紫相手に敗色濃厚なのに、その上鎌足が加わったら敗北必至だ。
「……むぅぅ」
俺という極大の情報源をみすみす見逃すのは、やはり鎌足にとって見過ごせない事態らしい。
なればこそ。
「俺は死にたくないからアイツを撃退する。だが一人じゃ無理だから、お前の力が必要なんだ。お前は情報を得るために俺を保護する。そしてその為にはアイツを撃退する必要がある。ほら、共通の敵がいて、利害も一致しているんだぜ?」
自分の命を人質にして交渉するとか、我ながらなかなか様になってきたものだ。
内心で舌を出し、しかし結局鎌足からの返事を貰うより先に蒼紫が追い付いてしまった。
「仲間がいたか……それなりの実力者のようだが、二対一に持ち込むため此処に逃げてきたのか」
「さてな。二対一になるかどうかは俺にも分からん」
そう答え、俺は鎖手甲を解く。
そして背負っていた大鎌を解き放ち、空気を切り裂くように振り回して、そして槍のように構えた。
後ろにいる鎌足から息を飲む音が聞こえた気がしたのは、気のせいじゃないだろう。
「それって……」
「お前が残した置き土産だ。それなりに使わせてもらってたんだが、後で返してやんよ」
鎌足に話をする傍ら、当の鎌足が加勢してくれない場合を考察する。
……ん、そうなったら本当に最悪だな。
だが、まぁ--
「ぜあッ!」
地を踏み抜く勢いで前足を踏み出し、大鎌を水平に振るう。
眼前の空気を薙ぎ払うようにして振るわれた大鎌はしかし、蒼紫を捉えることはなかった。
跳躍して躱したのだ。
此方を見下ろす形で大鎌を回避した蒼紫は、自重を利用した攻撃体勢に入る。
踵落としだ。
全力で振るった大鎌は当然簡単に戻って来ず、右腕を大鎌から咄嗟に離して奴の踵を受け止める。
眉をしかめたくなる音と痛みを噛み締め、空中にいる蒼紫に再度大鎌を振るう。
が、これもどういう原理か中空でヒラリと躱され、反撃がきた。
空気をぶち壊して振るう大鎌は一ミリたりとも蒼紫に掠らず、片や向こうの拳と足は着実に俺の身体を痛みつけていく。
小太刀も何度も頸動脈に迫り、その度に必死に避けるのだが、両首とも薄皮一枚持っていかれている。
これは紛れもなくマズい。
このままでは、数秒後に確実に死がもたらされるだろうと漠然と考えた。
つまり
故に
「あぁもう! 分かったわよコンチクショーー!」
背後から俺の頭上を飛び越えた一つの影が、蒼紫にぶつかった。
どん、と衝突音が響くと、蒼紫は後方へと飛ばされ、しかし難なく着地する。
一方の影は俺の眼前に背中を見せる形で着地し、得物を構えた。
鎌足だった。
「貴方の口車に乗るのは癪だけど、今は協力してあげる!だ・け・ど!後でちゃんと話してもらうかんね!」
「……ッはは」
乾いた笑みがポロッと溢れ、俺は鎌足の背に内心で礼を告げた。
鎌足が動いてくれなかったら、多分ガチで死んでたから。
心臓に悪い賭けだったが、なんとか命を繋ぎ止められてよかった。
鎌足の横に立ち、対となる形で俺も大鎌を構えると、横から質問が来た。
「で、アイツは何者なの?貴方とはどういう関係?」
「隠密御庭番衆頭目、四乃森蒼紫。依頼と勘違いが重なって、俺への殺害意欲が半端ない奴だ」
「御庭、番衆……なるほど。かなりの実力者なのね。それにしても、貴方への殺害依頼?そんなのがあったの?」
「人気者だからな。僻みと妬みで殺そうと躍起になる奴がよく居るんだ」
半目で呆れたように見てきた鎌足に対し、俺は肩を竦めて返した。
さて、お喋りはここまでにしようや。
状況はこれで整った。
大鎌使いの二手なら、蒼紫相手でも引けを取らないハズ。
即興で、しかも現状戦争状態の関係の俺らが組んだところでろくな連携も取れないだろうが、一人の時よりかは断然マシだ。
どれほどの戦いができるのかは全然想像できないけれど、やってやろうじゃないか。
==========
以前十徳は、大鎌による戦法は得てして隙が大きくなる、と断じた。
小兵相手ならどうとでもなるが、戦闘の心得を持つ者相手にはその隙があまりに致命的になる、と。
事実、それは正しい。
重量武器はその質量による一撃に重きが置かれるため、二撃目三撃目との繋がりが非常に稚拙となってしまう。
躱されれば致命的だし、取り回しにも難が多い。
例え鎌足がそれを補うために鎖を使っているのだとしても、完璧に弱点を埋められたわけでは決してない。
鍛練を怠らずにしてきた十徳としても、有象無象が相手ならば鎧袖一触とできるが、戦闘の熟練者に対してはどうしてもその弱点を突かれてしまう。
さっきまで蒼紫相手に劣勢を強いられていたのもむべなるかな。
そもそも鎌の形状は人を斬るに適していないのだ。
故に対人武器としては不適なのである。
ならば、その大鎌を扱う二者が組んだとき、それはただの格好の的が増えるだけとなるのだろうか。
大きな弱点を抱えた二者はただの烏合の衆となるのだろうか。
その答えは十徳はもちろん、鎌足とて知らなかった。
十徳はともかく、鎌足は己以外に大鎌を扱う者を知らなかったため、そもそんな事を考えたことすらなかったのだ。
肩を並べて互いに大鎌を振るって戦う者がいるなど、想像だにしなかったのだ。
なればこそ、実際にそれを目の当たりにした当の二人の驚愕は、如何ばかりか。
片方が全身全霊で大鎌を振るい、土煙を上げながら空を切る。
屈んで躱した蒼紫は直ぐ様攻撃の体勢に入り、鎌を振るった後の隙を突こうとする。
が、それよりも早く残りの者が大鎌を盛大に振るう。
空気を叩き割る音を響かせながら、しかし何も捉えることは叶わず。
横に跳躍して躱した蒼紫は、二撃目を振るった者に対して攻勢に出るが、拳と小太刀の間合いまであと一歩というところで、最初の者が背後から大鎌を振るった。
「……ちッ」
蒼紫の整った涼しげな顔が曇り始めてきた。
大鎌による細やかな波状攻撃にイラついているのだ。
一人一人の隙を互いにカバーし合い、しかも不利点だった長いリーチがここにきて意味を成してきた。
大鎌の間合いを潰して急接近しようにも、そのあと一歩が遠い。
あと一歩で届くのに、その瞬間には別の攻撃に晒され、狙った相手は難なく間合いを取る。
一人だけなら与し易い相手だった。
だが二人になった途端、突如として強敵に変貌したのだ。
当人らは自覚が無いかもしれないが、何気に息の合った連携をしているのだから尚質が悪い。
「あっはははは!面白いわね!
「笑ってねぇで集中しろ!気ぃ抜いたら懐に入り込まれんぞ!」
「そうなる前に貴方が防いでくれるじゃない、あはははは!」
興奮度が右肩上がりの鎌足は顔を上気させ、哄笑しながら大鎌を振るい続ける。
その合間合間を縫うようにして、十徳も大鎌を振り回す。
互いの大鎌が奏でる轟音は凄まじく、何棟もの倉庫の壁に幾つもの亀裂を作り出し、所によっては崩壊せしめていた。
舞い狂う鎖分銅が、或いは鎌が突き刺さった地は例外なく陥没し、まるで爆撃を受けたかのような有り様だった。
「誰かと一緒に戦うことがこんなにも気持ちいいことだなんて!ねぇ貴方、これが終わったら私たちの所に来ないかしら?!私と組みなさいよ」
「生憎テロリスト共と仲良くする気は更々無ぇんだ。この共闘も利害の一致による一時的なものだ、勘違いすんな!」
互いに大鎌を振るいながら、その轟音に負けないよう声を張って叫び合う。
その様はまるで信頼し合っているコンビのようで、実際二人の連携の取れた攻撃によって蒼紫は防戦一方なのだから、敵対する人同士が、しかもその場凌ぎとして組んだとは到底思えないほどだ。
その連携は緻密にして大胆。
その攻勢は怒濤にして流麗。
避けられている蒼紫の運動能力と動体視力が異常なだけで、並みの強者でも容易く蹂躙せしむるほどに苛烈な攻撃の嵐だった。
だが
(嘘だろおい……!)
十徳の心中には次第に焦りが生まれていた。
一見して攻勢一方の二人が優勢のようだが、十徳に余裕は欠片も無かった。
蒼紫が攻撃に慣れ始めているように感じているからだ。
(一体どんな補正値が掛かってやがる!)
蒼紫の出鱈目ぶりな戦闘センスに心中で悪態を吐きながら、十徳はこのまま押し続けることの不毛さを感じ取った。
この勢いを削がれ、守勢に回されれば最悪だ。
二人で強者の意味を成す、ということは片方どちらかが欠ければ弱体化著しいということ。
十徳であれ鎌足であれ、単体で蒼紫と争うことになれば十中八九敗北は免れ得ないだろう。
相手が超一流であるが故に、共闘関係はある種の運命共同体になってしまっているのだ。
故に十徳は更なる賭けに出た。
徐々に覆されそうな勢いだが、ここまで押すことができているのは紛れもないチャンスなのだ。
しかも、恐らく最初で最後の好機。
これが覆るのを座して見守ることなど、できようハズもなかった。
「鎌足!
「!」
十徳の言葉足らずな指示を、しかし鎌足は瞬時に判断して予備動作に入った。
鎌足もこのままでは不利になると、言葉にならない漠然とした不安を徐々に感じ取っていた為に、その言葉の真意を読み取れたのだ。
阿吽の呼吸と言っても過言ではなかった。
十徳の、周りの倉庫の壁を薙ぎ払いながら振るわれた鎖分銅を屈んで躱した蒼紫に対し、鎌足がその足元に向けて横一閃。
地を削る勢いで薙ぎ払われた大鎌は、やはり土煙を巻き上げるだけだった。
そこに蒼紫の姿は既になく、咄嗟に跳躍して上空へと逃れ、鎌足を見下ろしていた---のを十徳は確と捉えて、見下ろしていた。
「?!」
十徳は辛うじて残った倉庫壁部の支柱側面に両手両足を着け、降下襲撃体勢に入っていたのだ。
意識から外したわけではなかった。
視界から消えても、注意深く警戒していた。
だが、それでも。
意識の多くは足元に襲い掛かってきた鎌鼬さながらの大鎌に向けられていたし、十徳の攻撃によって舞い散った壁材にも向けられていた。
だからだろう、飛び交っていた壁材に紛れて十徳が支柱を猿の如く身軽に飛び登っていったことに気付かなかったのは。
大鎌を捨て、四本足で支柱天辺辺りから身体を地と水平に寝かして眼下を睨みつける姿は、白銀の姿も相まってあまりに異様だった。
十徳に気が付いて頭上を振り仰いだ蒼紫は一瞬虚を突かれ、されど直ぐ様迎撃体勢に入った。
そこに向けて
「があああ!」
爆音とともに支柱をへし折り、蒼紫へと飛び掛かった。
地響きと土煙が巻き上がり、鎌足の視界が一瞬にして零になる。
「ッ~~」
片腕を顔の前に置き、迫り来る土煙に抗う。
その間、何かと何かがぶつかり合う音が絶え間なく聞こえたが、二人の姿は杳として分からず、その音の正体も判然しなかった。
やがて土煙も晴れると果たして、先程十徳が青紫に襲い掛かった場所に二つのシルエットが見えた。
十徳と蒼紫が互いにがっぷりと組み合い、近距離で睨み合っていたのだ。
「…ぐ」
「…はッ」
微かな憎々しげの顔の蒼紫と、対照的な顔の十徳。
十徳が蒼紫の小太刀を持つ右手首を締め上げ、蒼紫もまた十徳の包帯に包まれた右手首を締め上げていた。
斯様な近距離とあらば、普通なら蒼紫有利と誰もが断じるだろう。
だが、この距離は近すぎだ。
拳打も蹴足も満足に放つことができない。
小太刀も封じられている。
むろん、攻撃手段が無いのは十徳も同じハズであるのだが
「ッ…!」
僅かに目を見開く蒼紫。
掴み上げている十徳の腕の感触もさることながら、その腕をへし折らんばかりに力を加えているのに、一向に折れる気配がないのだ。
骨の二本や三本など容易く折れる握力でもってしても、異音を溢すだけで決して折れない、曲がらない。
小太刀による斬撃がダメならと思ったのだが、予想以上の頑丈さに目を見張った。
そればかりか、徐々に動いて己の胸ぐらを掴み始めたのだ。
痛みを感じていない?精神が肉体を凌駕している?
いや、この時折
骨は折れていないようだが、確実に骨を折るほどの痛みは加わっているのだ。
だのに、この男はそれを呑み込んで、腕を動かしている!
「お前、言ったよな。俺は剣客じゃないって。あぁ、その通りだ。俺に剣の術理なんざ身に付いてねぇし、拳法のいろはもからっきしだ。お前らみてぇな武術集団を相手にするには荷が重すぎらぁ」
「貴様、いったい…!」
「けど、この距離なら武も技もへったくれもない。純粋な力がものを言う!覚えておけ、俺は
十徳が吠え、ぐん、と一気に腰を落とす。
そしてそのまま思いっきり地を蹴る。
左手で蒼紫の小太刀を持つ右腕を封じたまま、右手で蒼紫を押す。
「があああ!」
蒼紫の背の向こうには、損傷激しい倉庫の壁。
それが急速に迫ってきて、やがて--
轟音が空気を震わし、埃と土煙が再度巻き上がる。
だが、その衝撃は一度だけではない。
二度、三度……何棟もの倉庫の壁を、蒼紫の背でぶち抜き続けたのだ。
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