明治の向こう   作:畳廿畳

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たくさんのご感想ありがとうございました!


返信できずにいますが、全て丁寧に読ませてもらってます(キモい?)




とまれ、どうぞ










45話 横浜激闘 其の拾弐

 

 

 

 

 

攘夷、尊皇、倒幕、佐幕。

 

個人や諸藩の多種多様な思惑が複雑に交差し、徳川幕府治世下の平和な時代が激動の時代へと変貌した幕末期。

その最前線である京都にて、一人の男の一つの伝説が築き上げられていた。

 

曰く、その剣は最速にして神速。

曰く、その動きは怒濤にして流麗。

太刀筋はおろか、身体の運びすら目にも止まらないという。

 

多くの死体が積み上がり、多くの血が流れる戦場には必ずと言っていいほどに現れる最強の剣客。

狙われたら最後、冷酷なる意思と一刀のもとに斬り伏せられる最悪の志士。

 

小さな身体の優男。

左頬の十字傷と赤く長い髪。

 

修羅さながらに人を斬り、その血刀をもって新時代明治を切り拓いたその男は、動乱の終結と共にその伝説だけを残して人々の前から姿を消した。

 

その者こそが、人斬り抜刀斎。

 

 

「んふ、んふふ。その瞳、萎えてはいても鈍りはしないようだな。いや結構結構」

 

 

その人斬り抜刀斎こと緋村剣心と、人斬り刃衛こと鵜堂刃衛は激しい剣戟を繰り広げていた。

 

刀と刀がぶつかり合って金属音が辺りに響く。

刀が空を切って一陣の風が舞う。

 

だが剣戟とは云うものの、剣心は終始防戦一方だ。

暴風の如く迫り来る凶刃を刀で受け、捌く。

常に動き続け、時には刃を躱して、されど攻勢に転じることはない。

 

否、できないのだ。

 

 

「っ…!」

 

「どうした抜刀斎。そこの異人が気掛かりか?そのせいで全力が出せぬか?」

 

 

もし今攻勢に身を転じれば、西洋人女性の身を案じての半端なものになってしまう。

眼前の狂人に対して、それは危険すぎると判断したのだ。

 

つまり刃衛がいつその凶刃を再び西洋人女性に振るうか分からない以上、瞬時に反応できるような防勢を取る、という手段を選んだのだ。

 

 

だが。

 

 

「悩みの種ならいっそ排除してしまうか。さすれば貴様も往時の人斬りに戻るかもしれないなぁ!」

 

「なッ、止せ!」

 

 

戦闘に集中していない思考は、それだけで大きな隙になる。

剣心を押し、間合いから大きく突き放した瞬間を突き、刃衛が再びエミーに吶喊した。

 

刃衛のその背を見て、どくんと心臓が一つの雄叫びを上げた。

 

脳裏を過るは、過ぎ去った幕末(かこ)

闇に潜んで暗殺を繰り返していた時、或いは表に出て数々の戦争に参加していたとき。

今でも殺してきた人々の顔、そしてその時の情景を忘れたことはない。

 

その記憶のうちの何かと重なったのだろうか。

刃衛の背を見て、どうしようもなく焦燥が駆り立てられたのだ。

 

故に、その次の行動は迅速極まりなかった。

 

納刀ーーーからの前方への跳躍。

 

弾丸も斯くやと思わせるその撃ち出された身体は、一直線に刃衛の背中へと肉薄する。

 

 

 

飛天御剣流『龍巻閃』

 

 

 

弧を描く剣閃により巻き起こった旋風は、とぐろを巻いて飛翔する龍の如く。

 

刃はもとより、その風に触れれば無事では済まされない鋭さは、まるで龍の鱗には何人たりとも触れられないという逸話を表しているかのよう。

 

最速の剣を誇る、飛天御剣流。

その武技が満を持して解き放たれたのだ。

 

 

だが、響いたのは肉を切り裂き骨を断つ音ではなかった。

 

 

「ちっ!」

 

 

驚きに意識が行くのも束の間。

刃衛と擦れ違い、再度エミーの前に草鞋の底を削りながら着地すると直ぐ様刃衛に向き直る。

 

 

「んふ、んふふふ。今のが噂に名高い飛天御剣流か。その片鱗、しかと見たぞ!」

 

 

未だ残響する金属音。

刃衛は龍の一撃をしっかりと刀で防いでいたのだ。

 

剣心の背後からの追撃を予期し、見えないながらも迎撃体勢を整えていたのだが、彼としては防ぐだけで反撃できなかったその速さに驚き、そして同時に歓喜していた。

 

やはり腐っても伝説の剣客。

骨に響く先の一撃は、しかと緋村抜刀斎の実力を語ってくれた。

 

 

「嬉しいぞ、抜刀斎。そのふざけた刀はいただけないが、技までは捨てていなかったようで幸甚……あぁ…もっと、もっとだ!もっとその飛天御剣流を!篤と俺に見せろぉ!!」

 

「…っ!」

 

 

生理的嫌悪感を駆り立てる言葉に、剣心は冷や汗を一つ流した。

 

とてもではないが、理解できない。

真実楽しそうに、自らに剣技を披露しろと言っているのだ。

そして、笑いながら剣を振りかざして吶喊してきている。

 

なれど、穢らわしくておぞましい言動と行動に相反し、強敵と呼ぶに相応しい実力を有している。

 

正しく不気味、正しく醜悪。

 

この男と長く刃を交えるのは危険でしかない。

身体的な危険度もさることながら、精神的に汚濁される危険性がある。

ならば、今までのような守り一辺倒になって時間を掛けるべきではない。

 

背後に控える女性が不安だが、幸か不幸か狂人は眼前の自分に集中したようだ。

なればこそ、こちらも打って出る!

 

瞬時に決意を固めた剣心は刀を振り上げると、突進してくる刃衛に狙いを定め、()()()()()()()()()()()()

 

爆音と共に地響きが辺りに轟く。

 

 

飛天御剣流『土龍閃』

 

 

それは、龍が地を這う有象無象を殺すために、その身を地に叩き付けたのかと思わせるほどの一撃。

その龍の一撃は、巻き上げた土や砂礫によって更に周囲一体を灰塵に帰すほどの威力。

 

その攻撃が今、刃衛を襲った。

数多の拳大の石礫(いしつぶて)が刃衛に向かって飛んでいく。

 

 

「うふ、うふわはあははは!」

 

 

それを、刃衛は哄笑しながら跳躍し、石礫群を飛び越えて難なく躱した。

人間離れした攻撃は、されど人間離れした跳力によって敢えなく空振りとなる……はずだった。

 

跳んで躱されることは、予測できていた。

 

天へと舞い昇る龍が如く、一陣の暴風が刃衛目掛けて肉薄する。

 

 

 

飛天御剣流『龍翔閃』

 

 

 

 

例えその攻撃を視界に捉えていようとも、下方からという体勢的に防御が不可能な死角からの一撃だ。

況してや刃衛は中空にいる身である。

 

回避も防御もなし得ない、絶体絶命の一刀。

全身の力と必倒の信念を刀に込めた渾身の一撃。

 

端から見れば、これで勝負は決まった。

誰の目から見ても刃衛は万事休すだった。

 

だが当の刃衛にとっては、昇り来る存在が龍であろうと人であろうと、することに変わりはなかった。

 

 

すなわち、それを踏み潰す。

 

 

「なっ?!」

 

 

今度こそ、驚きに身と心が支配される。

一度見た技ならいざ知らず、初見の攻撃を解され、ものの見事に足場とされたのだ。

 

轟音の後に生じる、一瞬の停滞。

 

見上げる剣心と、見下ろす刃衛。

 

刃衛のその姿は、正に天に在るべき己の足元に及ぼうとする不届き者を足蹴にする、というものだった。

 

真剣であれば出来ようハズもない芸当。

だが剣心の刀は峰と刃が入れ替わっている逆刃刀(さかばとう)

理屈の上では刃の無い刀を蹴ることはできる。

あくまで理屈の上では、だが。

 

それに何より特筆すべきは、初見で太刀筋を見極めるその眼と勘の鋭さ、そして逆刃とはいえ凄まじい衝撃をもたらされていたハズなのにものともしない身体の驚異的な頑強さだ。

 

 

「うふふ。殺意の無い剣筋など、例え真剣でもただの棒振りと変わりはないさ」

 

 

凶悪に歪む笑みを浮かべた刃衛は刀を振り上げ、その切っ先を剣心の額に定める。

 

攻守が交代した。

絶体絶命に陥ったのは、剣心の方になった。

 

如何に伝説の人斬り抜刀斎といえど、如何に神速を誇る飛天御剣流といえど、空中で至近距離からの刺突を完全に避けることは不可能だ。

 

しまった。

 

そう思うより先に強引に首筋を捻る。

直後、頭上より迫る狂人の刃先は耳を掠め、肩に抉り込んでいった。

 

 

「ーーーー!!」

 

 

空中という逃げ場の無い場所ならば、確実に龍の顎でもって噛み潰す。

そう確信していた。

 

だが、実際は違った。

 

龍の首すら両断し得る死神の鎌が、そこに待ち構えていたのだった。

 

 

「うふふふ。好い声、好い顔、好い感触!伝説の男の断末魔、斯くも心地好いとはなあ!」

 

 

血肉を貪るかのようにぐりぐりと剣先を弄ぶ。

だが喜悦に浸るのも束の間、バランスを崩した剣心につられて、彼もまた地へと落ちていく。

 

落ちる最中、剣心は抉り込まれている刀を素手で掴み、無理矢理引き抜いた。

そして背から地に落ちると同時に受け身を取って即座に距離を取り、片膝立ちの状態になる。

 

一方の刃衛は余裕からか、四本足で着地した体勢のまま舌舐めずりして剣心を見遣る。

その姿はあまりに気味が悪かった。

 

 

「く……っ!」

 

「どうしたどうした、人斬り抜刀斎。たかが肩に刃が刺さって片腕を動かしづらくなっただけだろう?うふ、うふふふ」

 

 

そんな痛みなど無視して殺り合おう。

 

言外にそんな期待を込めて挑発するのは、別の男を思うがあまり故。

痛みも限界も超越し、あらゆる箍も外した先にこそ、生と死がせめぎ合う楽しくて美しい世界があるのだから。

 

 

「それとも、今のお前はこの程度が限界なのか?なら、これはどうだろうなあ」

 

 

四つん這いのまま、その白黒逆転したおぞましい目を煌めかせて、剣心を()()

直後、身体の自由を奪う見えない重りのようなものが剣心の身体にのし掛かった。

 

 

(なッ?!…これ、はーー)

 

 

居竦みの術。またの名を、心の一方。

 

純度の高い“殺気”を視線に込めて相手にぶつける、という至って原理は簡明な術理である。

無論、行動の自由を奪える程の殺気をぶつけるなど常人になど出来るハズもなければ、ましてや呼吸困難に陥れる程ともなれば想像の埒外ですらある。

 

この技は西南戦争時、十徳も味わった苦いものだ。

 

当時、彼は唯一動いた手指の生爪を自ら強引に剥ぎ落とし、その痛みから解呪するという手段を断行した。

だが幕末の最前線を生き抜いた剣心であればこそ、瞬時に原理を理解して正当な手段でもって解呪に動いた。

 

 

「っ、喝!」

 

 

それすなわち、気合いによる殺意の相殺だ。

 

裂帛の気合いが殺意を凌駕したのだ。

 

 

「ほお。流石に抗うか。だが…うふふふ、随分と顔色が優れないようだ」

 

 

今まで多くの戦場にて常に殺意と害意にまみれてきたのだ。

今さら一人の狂人に叩き込まれる殺意を打ち負かすことなど、造作もない。

 

そのことに嘘も誇張もない……のだが。

 

 

「気付いているようだな。そう、あんなもの只のそよ風みたいなもの。徐々に徐々に濃度を高めていってやるさ。いずれは、あの男にした同程度まで上げていこう」

 

 

笑いながら向けられた殺意は、お遊戯みたいなもの。

 

そう直感したからこそ、まだまだ殺意の濃度が高くなるのかと理解して、そして今の身体の調子では抗い続けるのは至難だと思い至ったのだ。

今の肩の傷口を抑えて踞る状態では、出せる気合いもたかが知れている!

 

 

「しッ!」

 

 

このままいいように心の一方を掛けられ続けてはいずれじり貧になる。

片腕が機能不全になっているが、気力と体力がまだある今の状態で勝負に出た方が目はある。

 

もはや短期決戦しか道はない!

 

そう判断した剣心は一気呵成に距離を潰す。

肩から迸る痛みを噛み締めて、片腕で刀を振るう。

 

それを悦楽の表情で迎え入れる刃衛。

 

嗤い、嘲り、振るわれる剣閃を尽く躱す。

紙一重で避け、皮一枚でやり過ごす。

笑い声を交えながら、舞踊のようにひらりひらりと刃を躱していく。

 

そして、思い出したかのように剣心の目を見て、その双眸に怪しげな光を灯す。

 

直後、ずしんと剣心の身体に重い凝りがのし掛かった。

その重さは先程の比ではなく、怒濤の攻勢が止まってしまった。

 

 

「ぐッ、…はああ!」

 

 

だが一瞬硬直したものの、直ぐに己の身体に喝を入れて解呪した。

そして流れるように攻撃を再開する。

 

 

「うふふ、うふわはあはははは!」

 

 

それでも、逆刃刀は刃衛の身に届かない。

もう一歩か、あるいは半歩か。

僅かその程度の距離が、どうしても届かないのだ。

 

大きく歩幅を取っているのに、まるで見透かされているかのようにその分だけ間合いを取られ、空振りを続ける。

 

そして、刃が二桁ほど空を斬ったとき、再度心の一方がその身に襲い掛かってきた。

二回目よりも重く強烈で、掛かった瞬間だけだが呼吸が止まってしまった。

 

 

「ぁ、ぁぁああ!」

 

 

直ぐ様気合いを総動員して押し退けたが、一呼吸分遅れての再攻勢。

大きな隙であったことは誰の目にも明らかだったが、しかし刃衛はそこに突け込まず、嗤いながら見ていた。

 

三度(みたび)剣心の逆刃刀による猛攻を、やはりというべきか刃衛は反撃することなく回避に専念する。

 

避け、躱し、いなして、やり過ごす。

 

そうして再び十回ほどの剣閃を見送った刃衛は、心の一方を更に強固にして剣心に放つ。

それを剣心は、先ほどよりも多くの時と労を掛けて解呪し、再々攻勢に打って出る。

 

剣心が攻め、刃衛が回避に専念する。

刃衛は時おり思い出したかのように心の一方を掛け、剣心はその都度気合いを込めて解呪する。

 

その解呪に掛かる時間は徐々にだが確実に伸びていき、心身の疲労が着実に積み重なっていく。

その様を嘲笑うかのように刃衛は眺め、醜悪な笑みを深くする。

 

 

そんな光景がどれくらい続いただろうか。

 

 

いつしか剣心は両膝と両手を着いて肩で大きく息をしていて、刃衛はそれを愉悦の表情で見下ろしていた。

 

精神を総動員しての心の一方の解呪は、斯くも心身に多大な負荷を掛けるのだ。

況してや剣心は殺し合いという第一線から身を引いて十と余年。

 

その消耗は、自分が予期していた減り具合よりも大きかった。

 

 

「んふ、うふふふふ。日本にその名を轟かせた伝説の人斬り抜刀斎よ。どうだ、明治のぬるま湯に心身共にどっぷりと浸かっていた代償の味は?」

 

「ぐッ、はぁ……はぁ、」

 

 

堪えきれないとばかりに嗤い声を溢す刃衛。

 

剣心は顎を苦しげに顔を上げ、荒い息を溢している。

肩口から溢れる血が腕を赤黒く染め、地に不気味な色の水溜まりを作り始めた。

 

 

「苦しいか?悔しいか?それとも怖いか?ん~?んふふふ……さぁて。その穏やかな顔、悲痛と苦悶に歪ませて削ぎ落としてやろう!!」

 

「…っ!」

 

 

大きく振り上げられる凶刃。

 

炎の色を反射して妖しく煌めくその刃を見上げ、剣心は苦渋に染まった顔を見せる。

 

 

が、直後に驚愕の色に染まった。

 

 

横合いから現れた男が、刃衛に斬りかかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肉薄し、剣と拳を縦横無尽に振るう男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四乃森蒼紫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御庭番式小太刀流『千紫万紅』

 

 

 

 

無数の剣閃と拳、或いは蹴足が刃衛に襲い掛かる。

 

その拳打は巌をも貫き、その蹴足は木をも薙ぎ払う。

人体の究極とは、このような身体を指すのかと思うほど。

 

十徳を苦しめた全身凶器の蒼紫の戦法が、無慈悲に刃衛に降り注ぐ。

 

殊に対個人戦において最多の技を一瞬にして繰り出すこの技は、正に圧巻の一言に尽きる。

 

 

だが、当たらない。

 

尽くを躱され、避けられる。

 

横合いからの奇襲さえ、歯牙にも掛けない様子だった。

 

 

空気を切り裂き、突き破る音が響くなか、遂に刃衛が小太刀を小さなバックステップで躱した直後、カウンターで大きく刀を振るう。

 

奇襲によって防戦一方だった刃衛の初めての反撃。

態勢を立て直されたのだ。

つまり、奇襲は効果を得られずに終わってしまった。

 

それを理解した蒼紫はダッキングで躱すと、距離を取る為に数歩下がる。

 

それを刃衛は追撃せず、忌々しげに見ていた。

 

 

「お前……何者だ?」

 

「隠密御庭番衆頭領、四乃森蒼紫。貴様が鵜堂刃衛だな?」

 

「……俺を知っているのか」

 

十徳(やつ)を調べていたとき、西南戦争時に奴と死闘を繰り広げた男がいたと知った。調べるのに随分と苦労したが……貴様のことだろう、鵜堂刃衛」

 

「ん~?んふふふ…そうか、そうかそうかそうか。お前も狩生の関係者か。うふふふふ、うふわはあはははは!そうかそうか!」

 

 

忌々しげな表情は一変し、歓喜に満ちた笑い声を上げる。

その高らかな笑い声は聞く者の底にまで響いた。

 

数秒か、数分か、数時間か。

赤く照らさせる夜空に響く哄笑が漸く収まると、刃衛は嬉々として話し出した。

 

 

「いかにも。薩摩の地で奴と死合いをしたのはこの鵜堂刃衛、この人斬り刃衛だ。うふ、うふふふ」

 

「やはりか……だが、それであれば話は早い。鵜堂刃衛、貴様は俺がここで殺す」

 

「ほう?」

 

「奴を殺すのはこの俺だ。お前にはもう二度と挑戦させん。ここら辺にいられると後々邪魔されそうだからな、排除する」

 

 

睨み付けながら蒼紫は言う。

それを聞いた刃衛は一瞬きょとんとし、次いで再度笑いを爆発させた。

 

ただその笑い声に、侮蔑の色は無かった。

 

 

「あっはははははは!そうかそうか、お前も奴に惹かれているのだな!そこの髑髏頭巾も、異国女人も、そしてこの俺も!皆が皆、奴に惹かれるが故にここに集ったのか!!うふわはあはははは」

 

 

天をも貫かんばかりに喉から笑い声が迸る。

本当に心の底から溢れ出る歓喜の感情を、ただただ爆発させていた。

 

 

「……だが、蒼紫といったか?その様で俺と死合おうとは妄言も甚だしいぞ。どこで遊んでいたのかは知らんが、その妄言の対価は高いものと知れ」

 

 

刃衛の言う通り、今の蒼紫は見て分かるほどに被害が大きかった。

 

額からは血を流し、被服は血や泥や煤で汚れ、いつもの涼しげな顔も時おり苦悶に歪む。

 

観柳の手勢は数が多く、戦をそれなりに経験している剣客侠客も複数いた。

おまけに回転式機関銃(ガトリング・ガン)を所持していたし、他の西洋火器も扱っていたのだ。

 

回転式機関銃(ガトリング・ガン)を所持する多数の敵を一人で制圧する。

言葉にすると簡素になってしまうが、その所業はもはや人の範疇に入らないだろう。

 

比較として挙げるならば一つ。

西南戦争時、回転式機関銃(ガトリング・ガン)を一丁使用する敵小隊を殲滅するため、十徳たち二十三人が襲撃に向かったことがある。

 

結果は惨敗。

 

一回目の正面強襲は、半数以上の死者を出しての敗走という形に終わってしまったのだ。

点による対人攻撃が主の小火器とは違い、線による対軍攻撃を可能足らしめる重火器は、それほどまでに危険な武器なのだ。

 

状況も何もかもが違うが、(こと)重火器を制圧するということを単身でやり遂げた蒼紫の実力は、やはり桁違いと言えるだろう。

 

だが、とはいえ流石の蒼紫でも無傷とはいかなかったようだ。

 

 

「確かに、今の俺は十全には程遠い。だからこそ、そこな男を出汁に奇襲を仕掛けたのだが……いや、もういい。いずれ血の臭いに誘われて奴が来るだろう。こうして話す時間も惜しい」

 

「うふふふ、うふふふふ!いいねぇ。単なる邪魔者ではなく、奴の関係者ならば大歓迎だ。奴との死合い舞台のため、この中でも一層目立つ墓標にしてやろう」

 

 

そう言って刃衛は両手を広げて、迎え入れるかのような悠々とした態度で蒼紫に近付いていく。

変わらない狂気に染まった笑顔を見せつけながら、着実に歩を進める。

 

一方の蒼紫は小太刀を構え、空いた手を握力を確かめるかのように動かしながら待ち構える。

体力の消耗も激しく、深手を負っている箇所からは激痛が走るが、身体を動かすにはまだ問題ない。

 

問題があるとすれば、眼前の敵の実力が予想より上回っていたことか。

修羅(じっとく)と死闘を演じるほどだから相当の実力を有しているとは考えていたが、実際はその予想を遥かに上回っていた。

 

今の肉体的状況から鑑みるに、決して楽な相手ではない。

そう考えると、先の失敗した奇襲はもしかしたら最初で最後の好機だったのかもしれない。

 

内心で歯軋りをするが、直ぐに心を引き締める。

 

どのみち刃衛(コイツ)を目撃して排除しない手など打つハズもなかったのだ。

この現場を、十徳を模した頭部を貫く刀が乱立しているこの現場を目の当たりにして、冷静でいられるハズもなかったのだ。

 

なればこそ、今は後悔するよりも戦術を練るのが先決だ。

 

と、思考していると、小柄な男が肩を並べて構えていたことに気が付いた。

 

 

「…何をしている?」

 

「あの男を止めるのなら協力する。お主も相当の実力者なのだろうが、その容態では厳しかろう」

 

「ふん」

 

 

勝手にしろ

 

 

 

 

蒼紫はそう答え、剣心と共に狂人を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








十徳だと思った?
ねぇねぇ十徳だと思った?!

残念、蒼紫でした~!



……いつになったら十徳は刃衛と剣心に会えんだよ(本音)

なお、蒼紫の技は全てオリジナルです

なんとな~く花の字の四字熟語が合うと思ったんです
それだけです







十徳「倉庫、支流の向こうじゃん。遠回りかよメンドクセー………ん?」



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