明治の向こう   作:畳廿畳

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ご無沙汰してます、畳廿畳です

多くの読者の方々に満足してもらえるよう、書いては消して書いては消してを続けること約二ヶ月…
これ以上やってもキリがないと思い、なんとか書き上げました


とはいえ、今話はいわゆる決戦前夜みたいなもの

多くの皆さんが待ちかねているであろう血戦(誤字に非ず)話は今夜の内に投稿します

それまで可能な限り粗を削っておきますので、どうか楽しみにお待ちください


では、どうぞ










47話 横浜激闘 其の拾肆

 

 

 

 

 

 

 

『おい、またアイツらだ…』

 

『あんまり近くに行くなよ。難癖つけられたら面倒だ』

 

『また人増えてね?ったく、数に物言わせる物騒な集団だぜ』

 

 

黙れ。

 

貴様らのような何処の藩出身かも分からない輩は、道の端を通っていればいいんだ。

道の中央は我ら薩摩の剣客に潔く譲ればよいのだ。

 

 

『刀なんて時代遅れなもん腰に引っ提げて、何を粋がってんだか』

 

『侍は西南の役で皆死んだんだろ?なら此処に居る奴等はなんちゃって侍か』

 

 

五月蝿い。

 

俺たちをあんな奴等と一緒にするな。

俺は今の境遇に満足している。

それをわざわざ捨てて、そして命も捨てるつもりで薩摩に戻るつもりなど毛頭ないわ。

 

剣客警官隊からも薩摩に帰って行った者も多数いたが、そんなとち狂った連中などもはや知ったことではない。

 

 

『で、役に行かなくて、それでも侍の真似事をしたい薩摩人がまた加わったのかよ』

 

『なんつうかさ、あそこってもう掃き溜めじゃね?』

 

 

好き勝手抜かすな。

 

俺たちは剣客だ。

剣に生き、剣に死ぬ。

それしかできないから、そうしたいから集っているのだ。

適材適所という言葉を知らんのか。

 

 

『そういやまた薩摩出身の警官が入ったんだってな』

 

『あの白い奴か。噂じゃ西南の役で薩摩軍(向こう側)にいた奴らしいぜ』

 

『へえ、じゃあ本物の最後の侍ってか』

 

『けどそれって危なくね?反乱分子を招き入れるって』

 

『さあな。上の考えることなんざ知らねぇよ』

 

 

最後の侍だと?

……ふん、結局は政府に寝返った腰抜けではないか。

どうせすぐに俺たちのとこに来るだろう。

人事部に行って異動願いでもするハズだ。

 

その話は多少気になるが、向こうが勝手に動いてくる。

敢えて気に留める必要もない。

 

 

 

 

 

だから何日、何週間経ってもその者が接触することが無かったことを、不思議に思うことはなかった。

そもそも俺としても覚えていなかったのだから、そのことにどうこう思うこともなかった。

 

 

だからこそ、()()を見たとき、思い出したのだ。

 

 

『どうした坊ちゃん、嬢ちゃん?迷子か?』

 

 

隅田川の納涼大会。

 

多くの人が川縁に押し寄せ、花火や夜景、出店を楽しむ行事だ。

維新のゴタゴタで中止がずっと続いていたが、西洋の花火技術の流入を切っ掛けに近年再開されたのだ。

 

そして、そんな大会に俺は来ている。

 

客としてではない。

見回りや案内人として、多くの警察官が駆り出さられるのだ。

だが、無論俺たち剣客警官隊はそんな雑事をするハズもなく、例え駆り出されても目的は別にある。

不埒な者を見つけ出し、刀の錆びに変えることだ。

 

こういう時や場所は、そういう輩も増えるから嫌いではない。

 

そういうわけで、今年も獲物を探して夜の祭りを巡回していたとき、ふと見つけたのだ。

 

長い白銀の美しい髪。

病的なまでに白い肌。

闇夜に煌めき浮かぶ、青い瞳。

 

噂に聞く白い薩摩人が、童子二人の視線に合わせて腰と膝を曲げ、話し掛けていたのだ。

 

 

『ひぐっ、…ひっく。おっとおと、おっかあ……いない』

 

『はな、泣いちゃだめなんだぞ。お兄が、いるから…ぐす、だいじょーぶだから。すぐに、見つかるから!』

 

 

泣きじゃくる少女と、涙を堪えながらもそれを慰める少年。

手を繋ぐ手は震えていて、しかし決して離すまいとぎゅっと握られていた。

 

 

『うん、うん。お兄ちゃん偉いな。ちゃんとお兄ちゃんしてて偉いな』

 

 

西南の役で薩摩軍の側で戦っていた異端の侍は、予想通りに腑抜けだ。

あんなガキ相手に何を紳士ぶっていやがる。

慈しむように甲斐甲斐しく頭なぞ撫でおって。

 

あのような奴が、侍であったわけがない。

 

 

『はなちゃんも偉いね。大声で泣かないなんて、きっと将来は可愛いお姉さんになれるよ』

 

『ひぐっ、ひっく…ぅえ?』

 

『兄ちゃん、だれ?』

 

『お巡りさんだよ。君たちの味方の、スーパーお巡りさんだ』

 

 

朗らかに笑み、両手でそれぞれの頭を優しく撫でる姿は、きっと誰彼構わず優しい人なんだという印象を抱かせるだろう。

それが、無性に苛立った。

 

 

『おまわ…りさん?』

 

『そうさ。ほら、二人とも。僕の目を見てごらん?何色をしているか、僕に教えておくれよ』

 

『ぐす……え、と』

 

『え、あれ?』

 

 

遠目からでも分かるほどに、奴の目は一般とはかけ離れていた。

 

夜をちろちろと照らす他の小さな灯りに当たると、そこにぼんやりと青色の光彩が浮かぶのだ。

火の玉か、霊魂、或いは魂魄の類い。

若干のそんな知識があれば、遠目でその色を見るとそう勘違いしてしまうだろう。

輪郭がぼやければ、火影すらも幻視してしまうかもしれない。

 

けど、それにしてはあまりに綺麗すぎる。

仮に間違えても、不吉な印象は何故か抱かない、否、抱けない。

 

それは、きっとあの童子二人もそうなのだろう。

泣きじゃくっていた少女は涙を止め、涙を堪えていた少年もその力が抜け、二人ともまじまじと奴の目を覗き込んでいた。

 

現実の寂しさも悲しさも忘れ、目の前にある不思議で小さな“美”に、意識が奪われたのだ。

 

そして、二人の悲壮な顔が一転、花が咲いたような笑みになった。

 

 

『うわ~!きれ~、おそらのいろしてるよ?!』

 

『ホントだ!お空の色だ、おてんとうさまがいるときのお空の色だ!』

 

『お空……?』

 

 

きょとん、と目を瞬かせることになったのは奴の方になった。

数秒間、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして、そしてくつくつと込み上げてくる笑いを我慢する所作をし、遂には堪えきれずに声を上げて笑った。

 

 

『ふ、っふくく、あはははは。お空か~。うん、いい表現だ。そう言われたのは初めてだ。あははは、やっぱり子供の着眼点はスゴいな』

 

『え~、なんでわらうの?おそらのいろだよ、うそじゃないもん』

 

『ごめんごめん。正解を言われたから、凄いなぁと思って笑ったんだよ。うん。これから僕は、この目をお空の目って言うよ』

 

『お空の、目……?』

 

 

うん、と頷いて更に笑みを深くする男。

 

その笑い顔は、先程までの二人を安心させるための微笑みではない。

心底から笑い、心底から二人との会話を楽しんでいるからこその、深い笑み。

 

だからこそ、それを無自覚かつ本能的に察した童子は、ああも気楽に会話をしているのだろう。

 

 

『お空はずっと、君たちを見ている。僕の目は、ずっと君たちを見ていた。だから安心して?お父とお母はすぐに見つかるから、僕と一緒に探そっか』

 

『おっとおとおっかあにあえるの?!』

 

『いっしょに探してくれるの?!』

 

『もちろんさ。お空はずっと、ずっっと、広いんだよ?一緒に探せば直ぐに会えるさ』

 

 

そう言って、二人をそれぞれの肩に乗せて立ち上がる。

わ~とか、きゃ~とか言いながら、それでも笑いながら男の顔にしがみついてはしゃぐ童子二人と他愛のない話をしながら、男は迷いなく歩き出した。

 

その背中が人混みに紛れて見えなくなるまで、俺は見送っていた。

 

 

『宇治木さん?どうしたんですか?』

 

『ッ?!な、なんだ?!どうした!』

 

 

気付くと、後ろには部下全員がいた。

どうやら長いこと突っ立っていたようだ。

 

 

『い、いえ、宇治木さんこそ。呆と立っててどうしたんですか?体調が優れないのですか?』

 

『え、あ、いや。なんでもない!お前らこそ、呆と立っているな、とっとと巡回を続けるぞ』

 

 

俺があの男をずっと見ていた?……まあ、確かにそれは認めよう。

童子二人との掛け合いを終始見ていたのだから、そこは否定しない。

 

だが、ならばなぜ?

何かが俺を惹き付けたのか?

見続けてしまうほどの何かを、あの男から感じ取ったのか?

 

否だ、断じて否である。

あんな異人の血を引いたような穢らわしい輩なぞ、唾棄すべきものしか感じ得んわ。

 

…そうだ、俺は確かめただけなのだ。

薩摩を裏切って政府に寝返り、それでいて刀も所持しない半端者が、予想通り腑抜けで腰抜けなのだということを。

あんなそこら中の道端に転がる餓鬼二人に労力を割くなど、愚鈍の極みだ。

 

きっと戦うことも知らないボンボンなのだろう。

きっと剣林弾雨も知らない小姓風情だったのだろう。

 

あんな虫酸が走るほどの温い奴など、今後会ったら斬り殺してくれる。

 

ああ、それがいい。

温い性根を叩き壊し、少しは使える性格に矯正してやろう。

まかり間違って死んでも致し方ないだろう。

精々弱い自分の在り方を恨めばいい。

 

警官としての在り方を、徹底的に叩き込んでやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そう思っていた時期もあったな。癪だが、警官としての在り方を叩き込まれたのは俺の方だったわけだが)

 

 

十徳が出ていった扉を見つめ、物思いに耽ること気付けば数十分。

奴の煤けてボロボロになっていた背中を見て、ふと昔を回顧していたのだ。

 

(ぬる)い。

 

その所感は今でも抱いている。間違っていないと思っている。

だが、それでも奴は強かった。

 

否、違う。

 

()()()()()、奴は強かった。

 

反吐が出そうなほど穏やかで、背筋が痒くなるほど温くて。

それでも頭の先から股間までを貫く一本の芯はぶれることなく凛と在り続け、そして頑丈だった。

 

がむしゃらに、傷付きながらももがき、足掻き続けるその姿に。

決して振り返らずに先頭をひた走り、誰にも理解されない夢を追い求めるその背中に。

 

俺は、俺たちは。

 

どうしようもなく、惹かれたのだ。

 

きっとあのとき、奴の背を見続けたのは、そんな片鱗を感じ取ったからこそなのだろう。

そう思えばこそ、腑にも落ちるというもの。

 

あのときから、俺は奴の背を追う運命を感じていたのだろうか。

 

 

そんなロマンチシズムなことを考えていると、ふと傍らから微かな呻き声が聞こえた。

昏睡していた女郎が目を覚ましたようだった。

 

 

「ん。ここ…は……」

 

「記憶も飛ばされたか?なんなら武装勢力に与していた過去も飛ばされていれば御の字なのだがな」

 

「あんた、は……ッ、思い出した!」

 

 

混濁していた意識がはっきりしたのか、事態を思い出して唐突に立ち上がった。

が、直ぐに額を押さえて踞った。

 

 

「いっ……た~~!なにこれ。頭ガンガンする、ずきずきする!どんだけ力込めたのよ、あの馬鹿は…」

 

 

ふむ、どうやら額に盛大な衝撃を受けて気を失っていたらしい。

確かに小さな赤点がデコにあるが、異様に小さいな。

もしかしてデコピンか?……いや、まさかな。

 

 

「さて。生憎と貴様の容態に気を遣うつもりはない。聞きたいことがあるから、簡潔に答えろ」

 

「む……」

 

 

未だ踞る女郎を見下ろす。

 

狩生の考えなど知れた(ためし)もないが、今回はげに分からん。

何故コイツを抱き込むに至ったか…いや、そのことはもういい。

そう奴が決めたのだ、俺たちには否も応もないのだ。

 

 

「狩生は貴様を仲間に引き入れると言った。貴様には、その言葉に応えるつもりがあるのか?あぁ…予め言っておくが俺は貴様を仲間と認識しない。根絶するべき地下武装勢力の裏切りなど、そう易々と信じられんからな」

 

「……」

 

 

俺の言葉を聞き届けると女郎はスッと立ち上がった。

俺は無手のまま続ける。

 

 

「答えろ。国家に仇なす嘗ての組織を敵に回し、己が命を賭けて戦う気概があるか」

 

 

仮に、コイツが甘言で狩生を欺いたのならば、もとから組織から抜け出す気など無いのなら、ここで俺は殺されるだろう。

だが、それでも俺は頑として女郎から目を離さなかった。

 

女郎は、すっと両目を閉じた。

口も閉じ、額を押さえるため挙げていた腕も下げ、無防備な状態を晒す。

 

遠くから聞こえていた微かな騒音が、気付けば一際大きくなっていた。

きっと狩生が乱入したが故だろう。

 

何が起きているのかは知らんが、あんな状態で新たな騒動に飛び込むとは、本当に気が知れない。

 

まったく…アイツときたら、本当に向こう見ずな阿呆だ、ド阿呆だ。

奴の在り方は死ぬまで変わらないだろう、否、なんなら死んでも変わらない。

きっと来世でも、転生しても、変わらないだろう。

 

 

なればこそ、そこに俺がいなくて、誰がいるというのか。

 

 

だが、そんな思考は、女郎のゆっくりと持ち上げられる瞼の動きを見て、中断された。

次いで、ゆっくりと開かれる口から溢れた言葉を聞いて、俺は眉をひそめた。

 

 

 

 

警察組織に加わるつもりはない。

 

 

 

 

 

「勘違いしないことね。私は政府の犬になる気はない。私は彼の、狩生くんの側に在りたいの。政府のために働くつもりなんて毛頭無いわ」

 

「……ほお?」

 

「だから、組織の敵になるつもりもない。もちろん彼と一緒に居る以上、もう組織の人間としていられないことも承知しているわ。けど、私は組織を裏切ったわけではない。身を置き、背を預けたい本当の場所を見つけた。ただそれだけよ」

 

「…戯れ言だな」

 

「傑作かしら?けど、なんとでもお言い。こんな甘っちょろくて温い考えでも、きっと彼は笑って是と言ってくれるハズだから、私は胸を張って言うわ。私は、彼が見せてくれる景色を、彼と共に見たい」

 

 

 

これが私の答えよ。

 

 

 

そう言って、女郎は本当に胸を張った。

恥ずかしげもなく、どうだと言わんばかりの笑みを見せての堂々とした宣言。

 

裏切らない、つまり組織とは敵対しないということ。

そのくせ警官である狩生の側には居させてもらう。

奴が、俺たちが行き着く未来を見させてもらうと言いやがる。

 

ふざけている。

手前勝手も甚だしい。

暴論の極みだ。

 

そんなんで相手(こちら)が納得するとでも本気で思っているのか。

 

ふざけている、本当にふざけている。

自分で言うのもなんだが、激昂して殴り掛かっても不思議ではない発言だ。

もはや潜在的な敵性因子を抱え込むようなものだというのに、コイツはあろうことか堂々としていやがる。

 

その姿が、その誇らしげな顔が、異様に腹立たしいハズなのに。

 

 

その姿と、そんな言葉が、何故か狩生と重なって、不思議と俺の感情は凪いでいた。

 

ああ、そうだ。

確かにコイツの言う通りだ。

 

アイツなら、こんな暴論も易々と口にするだろう。

アイツなら、こんな暴論も笑って受け入れるだろう。

 

似ている、とかではない。

きっと感化されたのだろう。

奴の破天荒さとか、出鱈目さとか、そういった非常識的なナニかに、コイツも惹かれたのかもしれない。

 

だからこそ、臆することなくそんな戯れ言を宣ったのだ。

 

そう思えばこそ、いっそ潔いとも言える突き抜け方を見て、聞いて――

 

 

「ッ、く、くくッ、ふくく……!」

 

 

訝しむように此方を見つめる女郎を無視して、俺は喉をくつくつと鳴らし続けた。

 

ああ、爽快だ。

愉快で、痛快で、爽快だ。

 

あのド阿呆は、こうも人を振り回すのか。

こうも人に影響を与えるのか。

 

本当にムカつく奴だ。

俺もその一人かと思うと本当にむしゃくしゃする。

本当に、本当にッ……腹立た(たの)しい奴だ!

 

 

「ふう~…あぁ、済まなかったな。お前の宣言、確と聞き届けたぞ。なに、笑ったのは愚弄故でも挑発故でもない。安心しろ」

 

「…そう」

 

 

眉をしかめて此方を見る女郎に対し、俺は咳払いを一つして言った。

 

 

「俺は宇治木だ。東京警視本署麾下組織、特別捜査部隊は副隊長、宇治木義孝だ。貴様の先の回答にこう応えるが、如何か?」

 

 

今度は奴が目を瞬かせ、数秒間停止した。

だが数秒後、俺の意を汲めたのだろう、朗らかに笑んでから応えた。

 

 

「私は本条鎌足。無所属の…ふふ、強いて言うなら貴方の隊長に射止められた、一人の()よ」

 

「ふ、そうか……本条鎌足、もう一つ問う。あそこの倉庫の火災騒動はお前と関係あるか?」

 

「断言するわ。無い、と。横浜での正体不明の敵勢力、つまりは貴方たちのことなのだけど、それを迎え撃つ戦力はここにあるのが全て。それ以外は、私たちとは無関係よ」

 

「なるほど…」

 

 

やはり奴の勘の通り、あれは偶発的な騒動なのだろうか。

S捜査とは関係のない、まったく別の事件。

 

ならば、その捜査はS捜査と比べて楽なものか?

 

 

(ははッ!そんなわけがない。奴が首を突っ込んだのだ、片手間で終わるハズがなかろう。であればこそ、俺が行かなくてどうする!?)

 

 

俺は傍らに転がる死体からぼろ刀を剥ぎ取り、手に持って鎌足に言った。

 

 

燃え盛る倉庫(あそこ)に行く。狩生が既に行っているが、どうにも俺も行かなければならない気がしてならなくてな。もしもの時は貴様にも戦ってもらうぞ」

 

「組織が相手じゃないなら構わないわ。けど、いいのかしら?」

 

「何がだ」

 

「話し振りから察するに、私を連れてあそこに行くことは当初の予定ではなかったようね。此処で私が起きるまで待っていたということから、私をどこかに連れていくのが目的だったんじゃないかしら?」

 

「ほお、慧眼だな。ズバリ、その通りだ」

 

「特殊とはいえ警察組織。副隊長が独断で行動するのはいいのかしら?」

 

 

脳筋だと思っていたが、いやはやどうして。

造りの良い顔にもちゃんとした頭があるようだ。

 

だが、その頭脳でもっても俺と狩生の関係までは分からないようだな。

 

 

「それこそ戯れ言だ。アイツの命令を鵜呑みにしてたら身も心も保たん。それに、これでいい」

 

「?」

 

「奴の想定外の行動をして、肝を冷やしてやる。上手くいけば奴が死に、そうでなくても降格処分で俺が隊長になる。これほど楽しい話はあるまい?」

 

「……はぁ?」

 

 

すっとんきょうな声を上げる女郎、改め鎌足を無視し、狩生が出ていった壊れた門扉を俺もくぐる。

 

 

そうだ。

俺と奴の関係など、誰も理解できまい。

されたくもない。

 

仲良くする?はッ、ふざけている。

そんな反吐が出る所業、できるハズもなかろう。

 

俺は奴を、そして奴も俺を嫌い、憎んですらいる。

それでいいし、それがいいと思っている。

 

否、もうそれしか俺たちには気持ちを表すことができないのだ。

敵意と殺意、嫌悪と愚弄をぶつけるしか術を持たない不器用者なのだから。

 

 

 

俺は再び込み上げてくる笑いをこぼしながら、遠くに見える紅蓮の倉庫に向け歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

膝をついて俯く原作主人公にそう声を掛けた。

 

まさかこんな形で貴方に会うとは想像だにしなかったよ。

そしてこんな形とはいえ、主人公の貴方に会えて嬉しく思う。

 

 

ああ。

 

できれば貴方とはゆっくり話をしたい。

 

貴方の見ているもの、考えていること、その他諸々を聞きたい。

貴方の口から、直接聴きたい。

 

そして是非語らいたい。

 

 

貴方たち原作主人公勢に会いたい気持ちなんて今まで無かったが、こうしてお目に掛かれたら、そんな考えは霧散してしまった。

 

 

 

貴方の思う日本は、どんな姿かたちをしてますか。

 

 

これから日本に起きる出来事は、貴方にとってどう映りますか。

 

 

 

俺の思う日本は、貴方にとってーーーー

 

 

 

けど、それは今じゃない。

 

今の疲弊混乱している緋村さんに必要なのは、ゆっくりできる時間だろう。

 

 

現場を見て類推するに、どうやら蒼紫との共闘…いや、外印を含めると三人か。

その三人で刃衛と争っていたようだが、()の緋村さんじゃあ荷が重かったようだな。

原作では人斬りの本性を再現して初めて打倒した相手だからな、無理もない。

 

いや、むしろ奴を前にして誰も死なせなかったのは凄い事だ。

やっぱり俺なんかとは次元が違う。

 

 

ふう、と俺は息を一つ吐くと緋村さんの向こうにある顔ぶれに声を掛けた。

 

 

『久しぶり、エミー。こんな場所で会えるとは奇遇だな。大事ないようで良かった』

 

『じ、ジットク、あんた……!』

 

『分かってる、分かってる。色々と聞きたいこともあるだろうけど、今は勘弁してくれ。申し訳ないが、そのジャーナリズム魂は今暫し抑えていてくれると助かる』

 

『あ、あんたね~!』

 

 

腰でも抜かしているのだろう、女の子座りをしたままで此方を涙目で睨んでくるエミー。

 

悪いが、もう少しそのままそこで大人しくしていてくれ。

 

ていうか多分だけど君、わざわざこの人気の無い倉庫街に来たのはまた向こう見ずなジャーナリズム精神に突き動かされた結果でしょう?

なら現場の声には素直に従うもんだぜ。

 

俺は目線をずらし、今度は近くの男に問い掛けた。

 

 

「観柳の手勢の駆逐は、もう済んだのか?」

 

「あぁ。あの狂人を屠った後直ぐに貴様の所に馳せ参じようとしたのだがな」

 

「予想以上に手強かった、てか?ま、だろうよ。アイツとやり合うには命の一つや二つを捨てる気概が無いと、狂気に呑まれるからな」

 

「貴様は……」

 

 

鎌足を降した倉庫で見たときよりも、かなり手傷を負っている様子の蒼紫。

いつもいつも涼しげだった顔はもはや見る影も無く、頬や額、口端から垂れる血、あまつさえ腹部を押さえていて大分痛々しかった。

 

けど、どうしてかその顔は、どこか晴れ渡った心境を映しているようにも見えて、苦痛は一切表に出ていなかった。

 

 

「悪い、コイツとの決着はお前との約束よりも先約なんだ。だから、また後でな」

 

「……貴様を殺すのはこの俺だ。奴に殺されるのは認めんぞ」

 

「ははッ。なら安心しろ、俺はアイツに殺されない。無論、お前にもな」

 

 

蒼紫がここにいる理由は……なんとなく察する事ができる。

大方、血の臭いに誘われて強者たる刃衛に嬉々として挑んだんだろうよ。

で、予想外にも苦戦を強いられた、か。

 

俺は更に目線をずらし、近くの髑髏マスクに問い掛けた。

 

 

「で、だ。教えろ外印。この乱立する刀に貫かれている無数の俺の頭は、一体全体なんなんだ?おおん?言ってみろ、おおん?」

 

「おお…師よ。これは師の心を解する為の第一歩として作った師の人形たちだ。無惨な姿になってしまったが、これはこれで映える景観ではないか?」

 

「自分の頭が大量に串刺しにされていて、それを良い景色などとほざける輩がどこにいるってんだ。気持ち悪いってレベルじゃねえぞ」

 

 

お前らならともかく、ゆとり世代の俺には苦々しい光景だ。

 

本当にこいつの価値観は謎だよ。

 

いや、謎といえば何故こいつが此処にいるのかも謎だ。

こいつはどちらかというと後方支援型だろう、前線に出張るような奴ではないハズだ。

ほら、肩口に切り傷なんか作りやがって。

 

よもやお前もこの地獄に惹かれて来たとでも?

 

……あれ、なんかそんな気がしてきた。

もしかして俺の死に様、というと語弊があるが、俺の生死を懸けた戦いを見ようとでもしたのではないだろうか。

 

 

そうだとすると、なんか三人とも自業自得な気がしてきたぞ。

流石にエミーは一般人で可哀想だから擁護するけど、他二人はなんか…まぁいいや。

 

 

しかし、なんと錚錚たる顔ぶれだろうか。

 

原作主人公の緋村剣心に、後に心強い味方となる四乃森蒼紫。

ヒロインの死体の人形を作り、原作主人公を精神的に追い詰めた人形師、外印。

 

 

 

そして。

 

 

 

俺は再び四人に背を向け、そこを見る。

 

けたたましい哄笑を上げながら壁を蹴り抜き、姿を現した奴を。

 

 

原作初期にて、最強最悪の敵として立ちはだかる死神、鵜堂刃衛。

 

 

「あああぁぁああはっははははははは!はははは、はははははははははははははは!!!」

 

 

相変わらず気色の悪い奴だ。

 

先程の車を利用した全力の蹴足を受けてなお狂笑満面でいられるとは。

ホント嫌になるぜ。

 

せっかく手に入れた(観柳の野郎、まだ見通しは立ってないとか抜かしていた癖にちゃっかり持ってきてやがって。恐らく、俺を亡き者にしてから独占しようとしたんだろう)車も、一度の使用でオシャカになってしまったのは勿体なすぎる。

 

もっとも、刃衛といえども無傷とはいかなかったようだな。

顔面には夥しい量の血糊が付着していて、身体の至るところからも、築材が刺さったのか血が滴っている。

 

だが、それすらも奴にとっては楽しめるものなのだろう。

 

 

「狩生、狩生十徳!遂に、漸く、いよいよ相対できた!!あははははははははは!宿敵よ、怨敵よ、我が好敵手よ!再び相まみえて嬉しいぞ!!うふわはあははははは!!」

 

「テンションたっけぇな……一つ聞きたいんだが、どうしてお前まで横浜に?」

 

「うふ、うふふふ!なに。薩摩でお前につけられた傷を癒してからずっと、ずっと、ずうっと!お前を探し求めていたんだ!見つけた場所がここだったという話だ!」

 

 

すんごい執念だこと…いや、もはや怨念か。

 

 

「さあ、ご託はもういい!死合おう、殺し合おう、喰らい合おう!!あのときの滾りを、昂りを、迸りを!もう一度味わわせろおおお!!!」

 

 

びりびりと、肌を貫き骨身を震わす狂声。

 

こんなものを発する奴、普通なら近付きたくないし、戦いたくもないわ。

しかも、どうやら心の一方を自分に掛けて強化しているようだ。

体格が一回りか二回り大きくなっていやがる。

故にその狂気の度合いもまた一回りも二回りも大きくなっている気がする。

 

 

 

 

ま、だから何だって話だけど。

 

 

 

「まッ、待ってくれ!あやつを相手にするのは危険でござる。拙者も……」

 

 

ふと、背中に緋村さんの声が掛けられた。

 

凄いな。

 

見なくとも声音から大分弱っていることが分かるのに、それでも戦うと言うのか。

強大な敵を前にして、例え自分がどれほど被害を受けていようと屈さないその精神は、本当に立派だ。

 

 

けど

 

 

「いいって。アイツは俺一人で相手するから、手出しは無用だよ」

 

「しかし!お主も相当の怪我をしているではござらんか。ここは皆でーーッ!」

 

大丈夫(だーいじょーぶ)!」

 

 

俺は緋村さんの助言を一蹴する。

その心遣いは有り難いし、加勢してくれれば確かに心強い。

 

けど、それはダメだ。

全ッ然ダメだ。

 

だってーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国民を守るのが警察(おれ)の仕事だから。貴方は後ろで、どんと座って見ていてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言うと、俺は不知火を抜いた。

空気を切る小気味よい音が響き、とんと肩に当ててゆっくりと刃衛に向かって歩き出す。

 

 

四つの視線が背に刺さるのを感じながら、ちらと己の武装を確認する。

 

不知火とは別に、観柳が所有していた倉庫から車を奪った際に、そこにあったいろんな物もパクって来たんだ。

 

 

左腰には無銘のポン刀。

恐らく輸出用に保管していたのだろう。

あまり質の良くない刀が結構数あったから一本だけ貰ってきた。

 

そして後ろ腰に拳銃。

替えの弾は無い上に、一発しか入ってない。

ま、奴に銃は通用しないだろうから、あくまで保険だ。

 

次に右腰に懐刀。

本来の用途は戦闘用じゃないから殺傷能力は非常に低い。

だが、頸動脈等の人体急所を裂く分には申し分ない。

 

最後に背にククリ。

おそらく、ちょうど今年に英国が傀儡化したインド帝国から持ってきたのだろう。

それを観柳が買ったのだろうが、ありがたく使わせてもらうぜ。

 

 

 

 

さて。

 

 

準備は万端。

 

身体の損傷はままあるが、泣き言を言っても仕方無い。

 

 

それに戦意も高揚だし、殺意も顕揚だから大丈夫。

 

 

 

 

「待たせたな」

 

 

 

 

 

軽い言葉に、奴は笑顔で吼える。

 

 

 

 

 

「ああ、ああああああああああ。待っていたぞ、本当に待っていたぞ!ああ、始めよう!始めよう!!殺し合いを始めよう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

腰を落として駆け出せる準備を取った俺は、刃衛に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。とっとと終わらせよう。俺たちの因縁に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ケリを着けようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次話にて横浜激闘編は完結です


次話の投稿と時を同じくして活動報告を更新します
そこにも目を通していただけると幸いです
また、少しばかりのご協力もいただきたいです



では、また


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