女外印の登場でお気に入り数が一気に増え、今では6100超!
不思議だ~、でもありがとうございます!!
今話少しお見苦しいです
克己し、超克してもらいたいので、ご容赦を
では、どうぞ
深い、腹の底から込み上げてくる深い溜め息を吐き出す。
それと共に口から溢れたなんだこれは、という呟きが思いの外大きく頭に響いた。
「だから何で今なのよ!お互いに合意があれば行為については私だってとやかく言わないわ、けど何で今のボロボロの狩生くんに迫っているのよ?!」
「しかしな鎌足。男は戦闘で昂った気持ちを性欲にして女にぶつけるというのはよくある話だろう。それに、師はこの程度で消耗などするものか。なんなら一緒にどうだ?」
「それはッ……いやいやいや!靡くな私!そんなのダメに決まってるでしょ!貴女考えがさっきから不埒過ぎるのよ!」
俺が外印に襲われそうになった時、話し声を聞き付けて最初に部屋に飛び込んできたのは鎌足だった。
俺と目が合うと花が咲いたような笑みを浮かべたのも束の間、瞬時に事態を把握したようで一切の躊躇も無しに外印に豪快な右ストレートを放った。
が、外印もさるものヒラリと避けると寝ている俺を挟んで鎌足と対峙するように台から降りた。
その後、続々といろんな人たちが騒ぎを聞きつけて部屋に雪崩れ込んで来たのだが、渦中の二人はそんなことに気を取られることはなく。
鎌足は怒濤の拳を繰り出し、外印は尽くを避けていく。
「だいたい貴女、子供を作品か何かとしか見ていないでしょ。伴侶も子供も愛せるようには到底思えないわ。そんな奴に十徳くんの子種を授けさせるもんですか!」
「否定は出来ないな。だが私とて女だ。実際に授かれば心境に変化が訪れるかもしれない。何よりこのまま老い枯れるよりかは、ものは試しとして孕んでみようと思うのは正道だろう?」
「試しで子を授かるなんて邪道以外のなにものでもないわよ!その腐った性根、叩き直してあげるわ!」
猛り狂う鎌足を宇治木が後ろから抱き止め、必死に制止している。
が、拘束している腕に力が入っていないというか、触るのを躊躇っているように見える。
男相手に何を……まさかアイツ、まだ明かされてない?
部下らも間に割って仲裁しようとするが、綺麗に鎌足の拳がクリーンヒットして一人、また一人とダウンしていってる。
コイツらの弱さ役立たずさは承知の上だったが……ちょっと弱すぎじゃね?それとも鎌足が強いのか?
「こいつはまた……なんつう部屋だ」
「お頭、これは……」
「ああ。先代の残した記録に似たようなものがあったが、恐らく外法の術だろう。見るに留めた上で、確と調べておけ」
「はッ」
今度は蒼紫を筆頭に庭番ども(!)が入ってきた。
順次興味深げに部屋を観察し始めやがる。
般若は書物をパラパラと捲っては「ほお……」と感心の声を呟き、式尉は瓶詰めにされた奇々怪々な物を見ては「うへぇ……」と眉をしかめ、癋見は壁に凭らされてる人形たちを見て「すんげ……」と頻りに笑っている。
当の蒼紫はと云うと壁に寄りかかり、腕を組んで目を閉じていた。
なんでコイツら居るの?
確かに蒼紫は勧誘したが、戦いの約束は当然まだ果たしてない。
だから此処に居る必要なんて無……まさか、直ぐに戦おうと近くでスタンバってるのか?
コイツの戦闘意欲は凄まじいな。
いや最初から分かっていたが、こうも俺を殺したいとは。
『……よくこんな部屋で手術できてたわね。気持ち悪くて仕方がないわ。日本人の部屋はこんなものなの?』
『こ、ここが特別なだけだと思います。オペをしていた時は集中していたので気にならなかったんですが……改めて見ると確かに気味が悪いですね』
『あの女の部屋よね。どういう神経しているんだか』
『でも腕は確かでした。それに、置いてある人形も不気味なほど精巧です』
そして続いて入ってきたのはエミーと……また知らない女性だ。
しかも白人、原作では見たことのない人だ。
英語で会話しながら入ってきた二人は、俺と目が合うと明らかにほっとした様子の顔をして近付いてきた。
『十徳……目が覚めたんだね。よかった…』
『エミーさん。私が訳しましょうか?』
エミーの安堵の呟きに答えたのは隣に立つ女性だった。
日本語を解せるようだが、やはり顔に見覚えがない。
だが先程のエミーとの会話から察するに医者、しかも俺に手術をしてくれた医者のようだ。
『ううん、十徳には通じてるからいいよ』
『え?』
『うん……上手く、話せない けど』
喋るだけでも相当の体力を消耗する。
上体を起こすなんてできるわけもなく、寝そべったままの姿勢で失礼させてもらう。
『手術……ありがと。おかげで、たす……かった』
『あ、い、いいんです、無理して話さなくて。それに、私は手伝っただけですからお礼なんて要りません。でも……助けられて本当に良かったです』
西洋人にしては小柄で、顔立ちもかなり若いその女性は心底ほっとしたような顔で言った。
『えと、自己紹介がまだでしたね。私、エルダーといいます。流浪の医者で、流浪人さん……緋村さんと横浜で出会いました』
『
『お礼ならあの女性……外印さんと緋村さんに言ってください。彼、血相を変えて私に頼みに来たんですよ。助けてほしい人がいる、て。昼間に敢然とした強さを見せてくれた彼が、すごく慌てていたの』
少し嬉しそうに話す女性、もといエルダー女医。
『緋村さんのこと、私はまだよく分かっていません。けど、私と同じ流浪の生活をしていたらきっと誰か一個人に深い思い入れをすることはないと思うんです。況してや剣を振るうことを生業としていたサムライなら、なおのことでしょう?そんな彼が、貴方を失うわけにはいかないと叫んでいたんです』
『……』
『貴方と緋村さんの縁は、私と緋村さんの半日というそれよりも短いと聞きました。それでも、彼の心をあんなにするまで影響を与えた。そんな貴方を助けられて、本当に良かったです』
そう言って、エルダー女医はありがとうとお礼を言った。
見ず知らずの俺を助ける為に出会ったばかりの者に頭を下げる緋村さんが緋村さんなら、助けた患者にお礼を言うこの人もこの人だ。
なんでこんなにも周りの人たちはお人好しなのだろうか。
先程の外印といい、エルダー女医といい、純粋な感謝の言葉があまりに胸に痛い。
緋村さんの己を省みない行為があまりに胸に痛い。
弱い俺は感謝される筋合いも、必死になって助けられる義理も無いんだから。
ありがとう。
俺のその言葉に、嘘はない。
でも敢えて続けるなら、ごめんなさい、と付け足したい。
俺は助けられるに
強くなれない弱虫で、泣き虫で、半端者なんだ。
そんな奴に労力を割かせてしまったことを、本心から詫びたかった。
なにより辛いのが、こんな風に純粋に感謝の念を抱けない自分の邪さを自覚してしまうこと。
いっそ底抜けの馬鹿なら、いっそ度を越した阿呆なら、何度苦汁を舐めても立ち上がれるのだろう。
けど、心の弱い俺はこうもうだうだと自己を嫌悪し続けてしまう。
と、胡乱な目を天井に移したときだった。
『ねぇ、十徳。貴方は何のためにそこまで頑張るの?』
まるで天気の話をするかのように、軽い調子の質問が耳に飛び込んできた。
エミーからの質問だった。
急に何を言い出すのかと思い視線を再度転じたら、エミーが両手の親指と人差し指で自らの眼前に長方形の輪を作っていた。
それは、カメラの写界を模したポーズだ。
それを俺に向けていたのだ。
『私ね、いつか誰もが目の前の景色を気軽に写真で収められるカメラが出来ると思うの。誰もが、どこでも、どんなタイミングでも自由に写真を撮れて、世界中の人たちと共有できる……まあ最後のはただの妄想だけれど、いつでも写真を撮れる小さなカメラは、必ずできると思うの』
それは、確信に満ちた宣言だった。
確かに今のカメラは持ち運びに不適で、撮影にも相応の技術が要される。
白黒だし、高価に過ぎる。
でも。
エミーの語る夢物語は、平成の世では当たり前の代物となる。
カメラも、世界中の人と写真を共有できることも、全てが当然のものとなる。
エミーはポージングの腕を下ろして、力無く笑った。
『でもそれは、
『エミー……?』
『だから、したためる。今はまだ陽の目を浴びなくても、いつかあんたの頑張りが衆目を集める。その時は私の書いた伝記が最重要文書になる……いえ、そうさせてみせる。私とした約束、忘れてないでしょう?あなたの伝記を書かせてもらうこと。そして、私の好奇心を刺激した責任、ちゃんと取ってもらうこと』
『そんな状態のときに申し訳ないけど、そんな状態のときだからこそ教えてほしいの。たった一つの、あんたの答えを』
『あんたがそんなになるまで追い求めるものは、一体なんなの?』
呼吸が、止まった。
何気ないエミーの質問が、全身を駆け巡って脳髄を打擲した。
稲妻の如き鮮烈な衝撃が背筋を貫き、比喩でもなく文字通りに呼吸が止まった。
そして、明治に来てからの日々と平成で過ごした日々の記憶がフラッシュバックのように濁流となって意識を埋め尽くす。
必死になって戦う理由。
仕事だから?否。
警察になったのは、それが一番効率的だと判断したからだ。
かつては軍人や政治家、商人、なんならテロリストになることだってバカ真面目に検討した。
でも結局のところ警察を選んだのは、それが一番最短ルートになると結論を下したからだ。
だから、こう言うと語弊があるかも知れないが、仕事に対する熱意は無い。
ボロボロになるまで頑張る理由。
歴史に名を刻みたい?否。
そんなものに興味なんて鼻クソの欠片ほども無い。
元来、警察や軍人などの公人が名を輝かせる時は決まって人の命が関わる重大事の真っ只中と相場が決まっている。
この弱肉強食の世の中においてでも、誰かの命の上に自らの名を輝かせるなど、そんな厚顔無恥なことはしたくない。
ならば、なぜ?
どうして俺は足掻き続けてきた?
決まっている。
約束したんだ。
平成の世と同じ、温くて強い世を明治の向こうに作ると。
もう泣かず、悄気た顔をせず、胸を張って莞爾として告げるんだ。
だから俺は戦ってきた、頑張ってきた。
歯を喰い縛って走り続けてきた。
「俺は……」
きっと誰にも理解されないだろう。
きっと誰にも共感されないだろう。
けど、俺にとっては何よりも大切な御旗なのだ。
進むべき己の道標になってくれる、拠り所となってくれる。
ああ……そうだ。
俺の掲げる旗は、俺が自ら折らない限り決して折れないんだ。
掲揚する旗が地に落ちるのは、いつだって持ち手が先に折れた時だけだ。
裏切るのは、いつだって
「俺の、求めるもの……は、変わらない」
俺は弱い。
そんな弱い俺が嫌で、自分を嫌っていた。
もしここで己の弱さを許してしまったら。
強くなることを諦め、弱いままの自分であることを許してしまったら。
きっとこの先、己の弱さを嘆くことすら出来なくなってしまう。
そんなことが許されるのか?
弱いままの自分で叶えられるほど、掲げる旗は軽いものなのか?
諦めて投げ捨てていいほど、自分との約束は小さなものなのか?
夢見る世界は深遠にして膨大。
そんなの、最初から分かっていたことだろうが。
己は救いようの無いほどに虚弱にして惰弱。
そんなの、いつも分かっていたことだろうが。
それでも今、こんな状態になっていても、夢は、約束は、叶えたいと思っている。
果たしたいと願っている。
真に白人国家と対等にあり続けられる、強くて温い国を望んでいる。
弱さは認める。
ならば、弱さを許すか?
失った腕と目を、傷だらけにした身体を、仕方のないことだったと許容するのか?!
自分が弱かったからと、諦めて終わりでいいのか?!
本当にそれで、いいのか?!
「が、ぁぁぁぁ、………ぁぁあああ!」
「ちょ、お、おい!狩生!」
「え、なに?狩生くん?!」
『十徳!あ、あんた何してんのよ!』
いつしか掌に込められていた力をそのままに、己の頭蓋を掴み締める。
ぎしぎしと頭蓋骨が軋みをあげる音が脳に直接響き、激痛が中枢神経を犯す。
瞑っていて見えていない視界のハズなのに、その真っ黒に映る視界が更に黒い明滅に塗り潰されていく。
痛い痛い痛い痛い痛い!
気持ち悪い、吐きそうだ、吐瀉物が込み上げてくる。
ああ、そうだ。
己の弱さを許すのなら、いっそここで自害しろ。
嫌だ、死にたくない。
まだまだ生きていたい。
強くあろうとすることを諦めるのなら、ここで自決しろ。
強くなりたい。
弱くあり続けたくなんてない。
俺は変わりたいんだ。
くよくよするだけなら、ここで自殺しろ。
自分との約束を守りたい。
もう二度と自分を裏切りたくない。
戦うことを放棄するのなら、ここで自死しろ。
戦う、どんなになっても戦い続ける。
戦って死ぬなら受け入れよう。
けど、戦う前から死を選びたくなんてない!
「ああああああああああああああ!!」
死ね、去ね、息絶えろ。
弱いままの己に如何程の価値があるというのか?
果たせぬ夢は身も心も滅ぼすだけ!
克服できぬ弱さを抱え続けるぐらいなら、潔く消えろ!
嫌だ、死にたくない、生きたい。
生きて、生きて、生き続けたい!
強くなりたい、強くありたい、強く強く強く!
死んでたまるか、死んでたまるか、死んでたまるものか!
弱さを変えられないなんて絶対に信じない!
克服できない弱さなんて、あるハズが無いんだから!!
「ああああああああああああ!!」
頭蓋骨が悲鳴をあげ、形容し得ない激痛が全身を駆け巡る。
このまま続ければ、間違いなく死を迎えられる。
もう嫌だと投げ出したいのなら、その甘さもろともここで潰れてしまえ。
未だ変わりたいと囀ずるのなら、約束の旗を掲げ続けるのなら。
醜く生き足掻いてみせろ。
本気で強くなることを望むのなら。
絶対に、絶対に、絶対に。
ずるり、と頭部から掌が抜け、勢いそのままに握り拳となった手を寝そべる手術台に叩きつけ、そして一部を叩き割った。
衝撃が室内を揺らし、轟音が残響する。
直後に、しん……と無音という名の騒音が耳を伝ってくる。
そして俺は、無音のなか一息に上体を起こす。
血が脳から一気に落ちていき、ぐらりと視界が暗黒に染まる。
平衡感覚が狂い、同時に喉元までせり上がってきた胃液を嚥下し、そして襲い掛かってきた全身の激痛を歯を喰い縛って耐える。
漏れ出る苦悶と悲鳴を噛み殺し、全身に巻かれた包帯の至るところが赤く滲むもお構い無し。
腹の底から外に出さない咆哮を上げ、そしてなんとか座る姿勢に身を持ってこれた。
次いで、輸血のチューブを噛むと躊躇なく引きちぎった。
チューブと針の刺さっていた箇所から血が溢れ落ちるのを無視して、今度は下半身をずらして足を台から下ろしていく。
苦しい、痛い。
たったこれだけの動作で既に青息吐息だ。
肩は大きく上下して、呼吸は凄まじく荒い。
額からボタボタと大きな水玉の汗が落ちてくる。
けど、意地と根性を総動員したことによって、ようやく立ち上がることに成功した。
なんてことはない。
俺は、自らの死を拒んだ。
ただそれだけ。
たったそれだけのこと。
醜く生き足掻くことを選んだ。
もう四の五の言わない。
強くなれないなんて絶対に信じない。
自分が如何なる最期に至ろうと、死の瞬間まで強くなることを求め続ける。
「……きょう、ほー……こ、」
ぽつりと呟くような音量で声を出す。
静かな、俺の荒れる呼吸以外は全く音の無いこの静かな部屋において、俺の呟いた声は何よりも大きな声として響いた。
だが、誰からもリアクションは無い。
みな固唾を飲んで、微動だにできずにいるのだ。
この場にいる全員の視線が俺に刺さっていることはよく分かっているし、なんなら全員が呼吸すら忘れていることだって分かっている。
今度は腹に力を込めて叫んだ。
「じょー……きょー、ほーこく!」
歩き続けることを決意したのだ。
なら、もうゆっくり寝ている暇はない。
先ずは状況確認だ。