明治の向こう   作:畳廿畳

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いつもと変わらない一日の始まり



一匹の猫が鳴いた




謳うような



嘆くような



笑うような



怒るような






白銀の猫の、小さな鳴き声






何を見て、何を思って、鳴いたのか


分かるものは、きっといない





一匹の猫の、そんな鳴き声







それでもきっと、その声は



どこまでも遠く



なによりも高く











明治の向こうまで








静かに届く















新編、どうぞ



53話 白猫跋扈 其の壱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お巡りさんたち、なんかピリピリしてたね」

 

「警察官のみを襲う辻斬りが出てるんだから無理もないわ。下手人を逮捕しようにも尽く返り討ち……神経質になるのは当然よ」

 

「冴子、冴子。お父様から何か聞いてる?」

 

「ううん。最近はお父さんとゆっくり話せてないから。お父さんもどこか思い悩んでいる様子だから、話せても一言二言だけで……」

 

「狩生さんは?半年前に出張で出掛けたのは聞いたけど、もう帰ってきてるんじゃないの?」

 

「東京には帰ってきてるのかも知れないけど、私は見てないわ。家にも戻ってきてないし、言伝ても文も無しのつぶて」

 

 

そっか~、と冴子の言葉に唸る二人は同じ女学生の晴子と乙葉。

 

午前中で授業が急遽終わりとなった東京女子師範学校。

何があったのか学生にはとんと分からなかったが、降ってわいた暇な時間、折角だからとお昼を外で食べる事にした三人は“赤べこ”に来ていたのだった。

 

原作でも多くの登場人物が舌鼓を打っていた牛鍋が当店では有名だが、なにぶん学生が気軽に頼める値段ではない。

もとより求めていなかったため、三人は一番安い麦飯定食を頼み、それを待っていた。

 

 

「下手人は()の人斬り抜刀斎か、て新聞に載ってたわ。お父様と狩生さんは大丈夫かしら?」

 

「分からない。私が聞いても、大丈夫、心配は要らない、ぐらいのことしか言ってくれなくて。確かに役職上、もう現場に出て指示するようなことは無いから大丈夫だとは思うけど、不安が無いわけじゃないよ」

 

「無茶なことはしないでほしいね……ところでさ、人斬り抜刀斎てなに?新聞に載ってるの?てか、よく新聞なんて読めるね」

 

 

晴子の頓狂な発言と同時に、三人に定食が届けられた。

お礼を言い、いただきますを述べると空腹の三人はすぐにご飯にありつく。

 

食中、乙葉がため息交じりに答えた。

 

 

「貴女も元老院に縁のある家の娘なら新聞くらい読むようにしなさい」

 

「うわ、乙葉がお母さんと同じこと言うようになった。勘弁してよー、私だって新聞読む以外にやらなきゃいけない事があるんだから。だいたい、元老院は本家の壬生家であって、私の家じゃないんだから私は無関係だもん!」

 

「まあそれはそうだけど……でも、親戚が元老院なんて凄いことじゃない。実感は湧かないかもだけど、晴子ちゃんは十分に胸を張っていいと思うよ?」

 

「ぶー、壬生家と私は本当に関わりが無いから自慢なんて一つも出来ませ~ん。お父さんが元老院だったら、そりゃあチョー自慢したよ?“うぬら、頭が高し”っつってね。にしし」

 

「うぬら、て……」

 

 

膨れっ面を示していたかと思えば急に笑顔になる晴子。

 

良くも悪くも子供のように感情を前面に押し出す彼女は、人によっては付き合いづらい部類に入るかもしれない。

だが冴子と乙葉にとっては、この晴子の表裏の無い豊かな感情表現は非常に好ましく、話していてとても楽しくなるのだ。

 

とまれ、世間で大きく取り沙汰されているのに一切知らないままでは、しかも巷を騒がしている人斬りに関して知らないのは色々と面白くない。

乙葉が維新の頃からの話をざっくりと説明し、そして今の事件についても話す。

 

 

「なるほどね~……」

 

 

話を聞き、漸く理解が追い付いた晴子は(しき)りに頷く。

頭で情報をゆっくりと咀嚼し、そして思い付いたことを口にした。

 

 

「人斬り抜刀斎は神谷活心流の出なの?」

 

 

新聞に載っていた情報の一つに、人斬り抜刀斎は堂々と神谷活心流を名乗っていた、とある。

剣道に一切関わっていないから神谷活心流というものを知らない二人は、晴子の質問に首を傾げながら答えた。

 

 

「わざわざ無関係の流派を名乗るとは思えないのだし、そうなんじゃないかしら?」

 

「辻斬りの考えることは分からないよ。自身の名だけじゃなくて、流派の名も知らしめたいっていう欲求があるのかも」

 

「ふ~ん……」

 

 

なんとも釈然としない様子の晴子は天井を見上げる。

箸に芋煮を持っての行儀の悪い姿勢だが、二人は咎めない。

むしろ乙葉は、その晴子の箸からこっそりと芋煮を奪い、頬張ってしまった。

 

やがて頭を下ろした晴子は、箸から無くなった芋煮をキョロキョロと探しながら再度疑問を呈した。

 

 

「それって本当に伝説の人斬り抜刀斎なの?」

 

「もぐもぐ……ごっくん。どういうこと?」

 

「いや、だって元々人斬り抜刀斎って長州藩士、つまり倒幕側で、新政府側なんでしょ?そんな人が明治政府の側の警官を襲うって変じゃない?それより私のお芋どこ行ったの?」

 

「でも、半年前まで政府は嘗ての倒幕勢力の中心だった薩摩と戦争をしていたじゃない。なにも珍しいわけじゃ──」

 

「いえ、ちょっと待って冴子ちゃん。確かに晴子ちゃんの動物的勘は正しいかも知れないわ。ほら、よく考えてみて?もし、件の抜刀斎が薩摩と同じように政府に反旗を翻すのなら、それこそ当時の薩摩に加わるのが妥当よ」

 

「……う~ん、戦争が終わってから考えが変わった可能性もあるんじゃない?」

 

「もちろん、あるかも知れないわね。けれど、例え伝説に語られる人物であっても、一人の力量では政府に対して何も出来ない。それは西南の役で誰もが分かったことよ。例え何百人の警官を斬っても、きっと政府は変わらないわ」

 

「な、なるほど……」

 

 

乙葉の理屈を聞き、頭を必死に回転させてなんとか理解に追い付いた冴子は、感嘆の溜め息を溢した。

 

直感的に理解する晴子に、論理立てた理解する乙葉。

この二人の思考になんとか着いて行こうとする冴子だが、やはり完全に理解するには少し遅れてしまう。

 

 

「つまり、政府に対する不満ではなく、何か別の目的がある。もしくは、()()()()()()()()()()()()()、てこと?」

 

「お芋ちゃ~ん。私のお芋ちゃん、どこ行った~?出ておいで~」

 

「相変わらず、筋道を無視して結論に行き着けるこの娘の思考回路は羨ましいわ」

 

「私としては二人どっちも羨ましいんだけど……」

 

 

お新香を口に含み、晴子を羨む乙葉を羨む冴子。

 

もっとも、こういった軽い劣等感に苛まれることは珍しいことじゃない。

いつものように、この二人に対して悄気ても疲れるだけなんだから私は私なりに頑張ろう、と自分に言い聞かせ、お新香の塩味が充満した口内に麦飯を詰め込む。

 

 

「警官を襲うことで果たせる目的……それがなんであれ、行き着く先は警察の大規模捜査だけだよ?それを恐れない何かがあるの?」

 

「大きな隠れ蓑があるとか?」

 

「明治政府……にあるなら、その明治政府を弱めるこの犯行は矛盾するわ」

 

「じゃあ、また反政府勢力?」

 

「うーん……ダメね。別の目的にしろ真偽にしろ、情報が少なくて判断が着かないわ。残念だけど、これ以上の推論は無理そうね」

 

 

そう言って、乙葉がお味噌汁を啜る。

 

 

「そうだね……ところで晴子ちゃん。さっき新聞読む以外にもやることがあるって言ってたけど、何か特別な事でもし始めたの?」

 

「うん、逆立ちの練習を始めましたー」

 

「「……は?」」

 

「ふっふっふ、私は気付いてしまったのだよチミ達。ほら。逆立ちしてもかなわない、て言葉あるじゃん?逆立ちしても出来ない事も、きっと逆立ちすれば出来る事になる、と!つまり、逆立ちは全てを解決する!だから、私は逆立ちが出来るよう家に居るときは常に練習しているんだよ!」

 

 

自信満々、喜色満面の晴子の宣言に絶句する二人。

 

勉強は普通に出来るし、常識だって備わっている。

先程の人斬り抜刀斎に関する考察の時でもそうだが、ある種の勘も冴えている。

 

所謂、馬鹿ではない子のハズ。

 

なのに、今の宣言は明らかに常軌を逸していた。

馬鹿ではないが、とてつもなく阿呆なのだろう。

 

 

「晴子ちゃん、それは……」

 

「まあまあ冴子ちゃん。真実は時に人を傷付けるものよ。ここは温かく見守ってあげましょう」

 

 

冴子を優しく止めた乙葉は慈母の如く微笑んでいる。

だがその瞳は爛々かつ煌々と輝き、まるで晴子(おもちゃ)を与えられた犬のようだった。

 

冴子はため息を吐いた。

晴子をそれとなく誘導し、面白可笑しく仕立て上げ、その様を見てニンマリするのが乙葉の趣味なのだ。

しかも今回は、鴨が葱を背負って笑顔で手を振りながら勝手に近付いてきた来たパターンである。

乙葉がロックオンしないわけがなかった。

 

気付かずに掌の上で踊っている晴子も楽しそうだし、誰も不幸になっていないのだから、止めはしない。

だが見ている此方が少し複雑な気分になるため、あまり乗り気になれない冴子だった。

 

 

「はあ……何やってるのだか」

 

 

誑かすため歯の浮くような言葉を浴びせる乙葉と、誑かされてもはやデレデレとなった晴子。

その二人を無視して綺麗に定食を平らげる。

 

先程、二人に対して悄気ても疲れるだけと評したのは、まさにこれがあるからだ。

突然阿呆の子になる晴子に、その阿呆を至上の笑みでいたぶる乙葉。

 

凄いと思わせる頭脳を二人とも持ち合わせている反面、お互い子供っぽいことをするのだから、どうにも100%の敬意を示せないのだった。

 

 

「それにしても。お父さんも狩生さんも、やっぱり忙しいのかな」

 

「……狩生、さん?」

 

「え?」

 

 

彼女のうわ言のような独り言に反応したのは、予想外の人物だった。

 

声の方を見ると、通りからお茶のお代わりを注ぎ回っている女中、否、まだ幼いから奉公人だろうか。

10歳前後の女の子が急須を持って固まり、冴子を驚きの目で見ていた。

 

 

「あ、えと……すみません。お話に割り込んでしまって。失礼します」

 

 

慌てて謝罪しながら頭を下げ、下がっていこうとするのを冴子もまた慌てて止めた。

 

 

「あ、や、大丈夫だから、ちょっと待って。少しだけ話を聞かせて」

 

「えと……でも、」

 

「お願い。少しだけでいいの。貴女、狩生さんのお知り合い?警官の狩生十徳と知り合いなの?」

 

 

衝動的に詰め寄る冴子。

 

冴子自身、なぜ自分がここまで十徳の関係者に首を突っ込もうとしているのか分からなかった。

彼が持つ繋がりの一端を見たいと思う理由が、まったく分からなかった。

ただ今は、目の前の少女が十徳の知人であることを、本心から願っていた。

 

そんな願いが通じたのか、目の前の少女は困惑の顔から一転、満面の笑みを見せて頷いた。

 

 

「やっぱり狩生さんだったのですね。はい、存じてます!以前、千葉にいらした際にお世話になりました。狩生さんは、私にとって憧れのお人なんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

 

「申し遅れました。私、畠山家が長女、畠山勇子と申します。赤べこのご主人の下で、奉公させていただいております」

 

「千葉から東京までわざわざ、しかも一人で……行動力が凄いわね」

 

「東京に来れば狩生さんに会えると思ったので、この機会に居ても立ってもいられず」

 

「っか~。狩生さん一筋か~、見上げた根性してるねぇ。最近の女の子にしては立派だよ!」

 

晴子(あなた)も最近の女の子に分類されるんだけどね……勇子ちゃん。それで、狩生さんには此方に来て会えたの?」

 

「いえ、それが……沢山のお巡りさんに聞いたんですが、白猫ならどっか行った、としか教えてもらえず。最近はお巡りさんも何かと慌ただしそうで……」

 

 

しょぼんと肩を落とす少女は、以前十徳が千葉で知り合った畠山勇子である。

 

京都や大阪を中心にして行われるイメージのある丁稚奉公は、東京の商家でも普通にある。

10歳前後の少年少女が商家に住み込みで、凡そ四~五年働く。

奉公先によって違うが、基本は掃除や子守り、一般的な礼儀作法を学んでいくことになる。

 

勇子もここ“赤べこ”に丁稚奉公として働いているとのことだ。

 

 

それはさておき。

 

 

(((白猫……?)))

 

 

話の流れから察するに、十徳のことを指しているのだろう。

官内ではそう愛称されているのか、或いは蔑称されているのか、ともあれ女学生三人は十徳の顔を思い出し、次いで猫を思い描いた。

 

そして、幾ばくの時が過ぎると、ほにゃりと三人の頬が弛んだ。

特に縁側で夜酒を嗜む十徳の姿を知る冴子は、もしそれが昼時で、昼寝をしてようものなら本当に猫ちゃんじゃないの、と顔に出さずに心で悶えている。

 

 

白猫……さもありなんと、三人は思った。

 

 

「んん!……そっか、会えずじまいなんだね。でも、不思議な縁ね。千葉で狩生さんに出会った勇子ちゃんと東京で会えるなんて、スゴい偶然」

 

「はい。あの……冴子さんは、」

 

「ん?」

 

「狩生さんのご令室なのでしょうか?」

 

 

にまにまと笑みを湛えて見てくる晴子と乙葉にかなり苛立ちを覚えるも、ヒクつく笑顔で押さえつけて冴子が答える。

 

 

「……違うから。あの人は父と同職で、その縁で家に住んでもらっているだけだよ。婿養子に迎え入れたわけでも、狩生さんの家に私が嫁いでいるわけでもないの」

 

「そうなのですか。ホッとしたような残念なような、よく分からない気分です」

 

「んぐッ、んぐぐッ、んぐぐぐ!」

 

「そうそう。よく堪えてるじゃない晴子ちゃん。こんないたいけな子どもをからかうなんて良くないのだからね。それはそうと勇子ちゃん。憧れの人、て具体的にあの人のどこに憧れたのか教えてくれるかしら?」

 

 

冴子ら三人のお願いにより、勇子は少しの休憩を貰って三人の席に座ることとなっている。

四人が車座になって座っていて、手に手に湯飲み茶碗を持っている。

 

 

「えと……色々と教えてくれたんです。日本の歴史とか、世界の事とか。今までもずっと知りたくて、でも誰に聞いても良く教えてくれなくて、むしろ邪険にされて。家にも色々と迷惑掛けちゃって……でも、狩生さんが教えてくれたんです。一つ一つ優しく、分かりやすく、地図まで描いて下さったんですよ」

 

「地図?」

 

「はい!世界の地図です。日本が描いてあって、異国が描いてあって。それで初めて、私は世界を知れたんです!」

 

 

こーんなに大きいんですよ、と言って両腕を広げて示す勇子はどこか誇らしげ。

 

当然だが、この時代の日本では世界地図など一般的ではない。

軍上層部か政府関係者ぐらいしか見ることのない代物だ。

 

地図とは為政者や軍人などの“国家意識”を有する者が利用するのであって、一般人が使用することはほとんど無い。

否、そもそも必要ないのかもしれない。

日本が此処にあって世界は斯様に広い、などという情報は、維新を経るまで「農民」という自意識が主だった者たちにとっては不要なのだ。

 

だが、勇子だけはその例に漏れた。

もともと聡明な子である。

俯瞰的な視点である「地政学」は、彼女を魅了して止まなかった。

 

 

「狩生さんのお話は本当に勉強になりました。宿題も出して下さって、あれからずっと勉強も続けて……えへへ。また、頭を撫でてほしくって。だから、あの人は私の憧れの人なんです」

 

 

はにかみながら、嬉し恥ずかしそうに言う。

 

純真無垢かつ天真爛漫な様子の彼女を見て、自然と三人にも笑みが溢れる。

小さな子の誇らしげな幸せを目の当たりにして、その暖かさに周りの心が感応したのだ。

 

 

まったく。何やってるのよ、あの人は。

 

 

お互いの顔を見れば、声に出さずとも何を思っているかは十分に分かった。

それぐらいには三人の間に確かな絆がある。

 

一人の少女の笑顔に三人がほっこりしているときだった。

 

 

「お前ら……あの悪徳警官の知り合いかよ」

 

 

一人の竹刀袋を肩に掛けた少年が詰問してきた。

 

 

「え……?」

 

 

突然の闖入者に固まる四人。

彼女らが視線を転じた先にいたのは、勇子と同い年か少し歳上ぐらいの年若い少年だった。

 

少しだけ茶色掛かった黒色の頭髪に鋭い目付き。

剣呑な雰囲気を醸しているのは、その目付きに加えて顔中に出来た傷や手当ての跡があるからだろうか。

洋装に身を包み背に竹刀袋を負う少年は、どこかの道場の門下生だろうことが窺えるが、それにしては少々痛々しい姿をしていた。

 

 

(誰……?)

 

(知らないわ。ていうか、悪徳警官て……もしかして狩生さんのこと?)

 

(十中八九そうでしょうね。でも、急に何なのかしら)

 

(見るからに嫌悪感を顔に出してるわ。狩生さんのこと、明らかに嫌ってる感じがする)

 

(はは~ん。だから狩生さんの話題に割り込んできたんだ。自分の嫌いな人の話で盛り上がってたから……ん?これってマズくない?)

 

 

三人が小声で話し合い、ふと晴子が首を傾げた。

どうしたの、と冴子と乙葉が疑問符を頭に浮かべた。

だが、晴子の直感的な危機意識が信号を灯したときには、既に遅かった。

 

 

「狩生さんは悪い人なんかじゃありません!」

 

 

甲高い、悲鳴にも似た幼げな声が店内を駆け、一切の音をかっ浚っていった。

 

客も、他の店員も動きを止め、全員が目を白黒させて勇子の方を見ていた。

しん、と耳に煩い無音が三人には酷くツラく感じ、年甲斐もなくおろおろとする。

 

だが、当の勇子は変わらない。

(まなじり)を決して廊下に立つ少年を睨んでいた。

 

 

「訂正してください!狩生さんは悪い人じゃありません!」

 

「……ッ、ふん。訂正するわけないだろ。アイツは悪徳警官だ。権力を傘に好き勝手する悪い奴なんだよ」

 

「そんなんじゃありません!何でそんな酷いこと言うんですか!?狩生さんのこと、よく知りもしないで!あの人はスゴく優しい人なんですよ?!」

 

「知らないのはお前の方だろ!アイツが何をしでかしたのか教えてやろうか?!アイツはなあ――!」

 

「嫌です、聞きたくありません!狩生さんを悪く言う人の事なんて、絶対に聞きたくありません!」

 

 

涙目になって抗議する勇子に対して、少年もヒートアップして対抗する。

 

常に年不相応に理知的な会話をしていた勇子にしては珍しく、まるで駄々を捏ねる子供のようなリアクション。

耳を塞いで聞きたくないという仕草をし、それを払い除けて直接聞かせてやろうと少年が手を伸ばした瞬間だった。

 

 

少年の頭上に鈍い音とともに拳が叩き付けられ、少年が沈んだ。

 

 

「まったく、あんたって人は……どうして席を取っておくだけで周りに迷惑を掛けるのよ」

 

 

溜め息を一つ吐き、振り下ろした拳を解くのは一人の女性。

 

可憐な着物を身に付けて可愛らしいリボンで髪を括るその女性は、頭を抑えて唸りながら踞っている少年を無理やり立たせ、そして頭を強引に下げさせる。

 

 

「ごめんなさい、この子が迷惑を掛けてしまって。色々と教育しているんだけど、反骨精神というか負けじ魂というか。その塊みたいのものだから、なかなか上手くいかなくて」

 

 

困り果てたような顔で、少年と同じく頭を下げるその女性は誰あろう。

 

 

 

神谷薫

 

 

 

 

原作ヒロインである。

 

 

 

 

 

 

 












こんな多人数が一堂に会する描写は初めてだから、とても難しい……

後程修正するかもです



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