明治の向こう   作:畳廿畳

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前話からこんなに間が空くなんて……すみませんm(_ _)m


今話含め、あと二~三話は神谷サイドの話です



とりま、どうぞ




54話 白猫跋扈 其の弐

 

 

 

 

 

件の席には二人が加わり、今は六人が車座となってお茶を飲んでいた。

加わった二人とは無論、神谷活心流が師範代、神谷薫であり、そしてその唯一の門下生、塚山由太郎である。

 

由太郎を謝らせ、自分の不徳の致すところでもあると言って自らも謝った薫に対し、好感を抱いた冴子が声を掛けたのだ。

 

なぜ由太郎がここまで十徳に嫌悪感を抱いているのか。

勇子は聞きたがらなかったが、冴子は十徳が“しでかした事”に興味津々だった。

無論、それは乙葉と晴子も同じである。

 

渋る勇子を宥め、薫に相席を求めて昼食を済ませてもらい、そして何が起きたのかを話してもらった。

所々に薫の注釈が入り、総じて少し時間が掛かってしまったがため、店内もかつての騒がしさを取り戻していた。

 

 

「……なんですか、それ。そんなの逆恨みもいいとこじゃないですか」

 

 

話を聞き終えて真っ先に口を開いたのは勇子だった。

 

最初は聞く耳も持たなかったが、席が近ければ嫌でも声は耳に入るもの。

今では頬を膨らませて由太郎をジト目で見ていた。

 

 

「薫さんのご苦労がお気の毒です。自分で言ってても分からず、薫さんに矯正されても悟らないなんて。貴方は念仏を耳元で唱えられるお馬さんですか?」

 

「なんだとこの──ッ?!いった~!」

 

「だからイチイチ騒がないの、まったく……この通り視野狭窄で困ってるのよ。言い聞かせて叩き込んでいるのに一向に変わらずで」

 

 

もはや慣れた手つきで由太郎の頭頂に拳骨を叩き込んだ薫は、頬に片手を当ててため息を吐く。

 

 

「その警官……狩生くんなる人がどうしてウチを勧めたのか分からないけど、いい迷惑な気持ちと、門下生となってくれて嬉しい気持ちとが半々、てのが正直なところね」

 

「なるほど。確かに、何も知らずにいきなり復讐を胸に秘めた少年が入門を希望したら複雑ですね。少しは巻き込まれた薫さんに迷惑を掛けて申し訳ない、という意識があってもいいもの」

 

「いえ、それはむしろ……ううん。そう、だよね……あはは」

 

「?」

 

「狩生さんのことだから、きっとちゃんとした理由があったんだと思います。教えない理由もきっと。ですよね、冴子さん?」

 

「わ、私?ん、んーどうだろう。確かに、有名どころの道場じゃない所を勧めたのには、何か考えがあったのかも知れないね」

 

 

未だ面識の無い薫は言わずもがな、冴子も十徳の真意を把握しているわけなどない。

だが薫の説明から、薫同様に十徳の雑な心遣いというか気遣いは理解できていた。

 

不器用な激励。

俺を越えてみろという、自分の命を賭けての発破。

そう言う彼の姿は、小雨が降る中で起きた浅草でのあの騒動で、部下の一人を抱えた時に見せた笑顔を思い起こせば何故か容易に想像できた。

 

 

「筋はいいのよ。真面目にやれば将来きっと日本で指折りの剣道家になれると思うわ……ただ、動機があれだから素直に喜べないのだけれどね」

 

「狩生さんに復讐するために竹刀を握るなんてねぇ。でも、狩生さんはそれを認めてるし、存外そこは矯正しなくてもいいんじゃないの?」

 

「晴子ちゃん、話を聞いていたのかしら?その動機は剣道を励む者としてはダメだから直さなきゃいけない、て薫さんが言っていたでしょう?」

 

「ええ。私も師範代の身とはいえ、まだまだ至らぬ部分がある事は分かっている。でも、それでもこの子に竹刀を握らせる以上は、このネジ曲がった性根は絶対に叩き直さないといけないの。しっかりと改心させて、人様に見せても恥ずかしくない子にする。それで、狩生くんという人に小言ついでに見せてやるの、どんなもんよって」

 

 

むん、と気合いを入れるような所作をする薫に、冴子ら四人は非常に強い好感を覚えた。

 

彼女たちにとって、剣道とは未知の世界である。

身体と技術、そして心を鍛えるというのは少なからず分かるが、それを鍛えさせる側の人の考えなどは露ほども知らなかった。

だからだろう、薫の決意は彼女たちにとって新鮮で、ともすれば感動すらしていたのだ。

 

そして、冴子はふと思った。

 

 

(もしかしたら、それも折り込み済みなのかな。薫さんの道場を勧めたんだから、薫さんのことも知っていたのかもしれない。正反対の感情を抱いている……というか、抱かせた由太郎くんをそこに入門させて、薫さんと衝突するのを狙っていた?)

 

 

父が言っていた、彼の本質は優しさであるということを思い出せば、なるほど由太郎くんの更生は彼の思いやりなのかもしれない。

動機はなんであれ、失意のままにいるよりいいのは確かだろう(自分が復讐として狙われることに目を瞑ればだが)。

 

だが、由太郎くんに対してだけでなく、薫さんにも何らかの要素を求めている可能性がある。

由太郎くんを慮って神谷活心流を勧めたのなら、当の薫さんを気に掛けないのは不自然だからだ。

きっと何かを求めている。

 

こうして奮起すること?

目の前の彼女の決意表明が、あの人の望んでいたこと?

 

なぜ、そのようなことを?

 

薫さんは狩生さんとは面識が無いと言っていた。

だが狩生さんが薫さんを知らないとは限らない。

 

何かを求めるだけの何かを、薫さんに見出だしている?

由太郎くんと薫さんを会わせることで、双方に何かの実利がある?

 

と、そこまで考えて冴子の頭から煙が出てきた。

「何か」が多すぎて頭がこんがらがってきたのだ。

やはり一人の頭のなかだけでの思考展開では限度がある。

 

 

頭を落ち着かせようと意識を切り替え、つと横に目を遣った冴子が見たものは、ニヤニヤとしながら此方を見てくる晴子だった。

 

一瞬にして混乱の度合いが増した!

 

晴子のあのニヤニヤ顔は、誰かをからかう時によくする顔だ。

特に冴子と十徳の仲をからかう時に乙葉とよくやる……と、思い至った瞬間に気が付いた。

 

 

(わ、私……!あの人のことを肯定的に捉えていた?!)

 

 

何か考えがあったから、薫さんの道場を由太郎に勧めた。

その考えが何かを探るのはいい。

だが、今自分は何を思った?

 

“当の薫さんを気に掛けないのは不自然だから”

 

それは、彼の思い遣りを信じていることに他ならない。

彼の優しさを前提としているのだ。

 

 

(てゆうか何で私の考えを読めてるのよ!晴子ちゃん、貴女何者?!やだ、私さっきまでどんな表情してた?笑ってなかったよね?!)

 

 

無論、晴子に読心術があるわけではないし、冴子が考えていそうなことを考察したわけでもない。

 

彼女が笑った理由は至って簡単。

冴子ってば狩生さんのことを考えていそうだな~、と考えただけだ。

ただの勘で、ただの思いつき。

乙葉ならば、冴子の思考展開を自ら考えて読み解けたかもしれないが、晴子はそんな手順は踏まない。

 

解答に一足飛びに至れるセンスがあるのだ。

当然のことだが、常にその才が閃いているわけではないのだが、そこはご愛嬌。

 

 

冴子は唖然とし、そして再び視線を転じる。

この手の感情に支配された彼女には何を言ってもニヤつかれるだけ。

到底平常心とは言えなくなった今の自分では、無視するのがベストな戦法なのだ。

 

転じる途中、道程は違えど同じ解に至れたのか同様にニヤニヤ顔をした乙葉と、不思議そうな顔をして首を傾げている勇子を無視する。

やがてたどり着いた視線の先には、とても小さな憂色を示している薫の顔だった。

 

 

「……?」

 

 

それは、些細な色だった。

先程までだったら絶対に見落としていた、微かな疲れの色。

自分の表情筋を気にしていたが故に、彼女のそれに気が付けたのだ。

 

まるで隠すようなその表情が、由太郎に関するものではないということは直ぐに分かった。

由太郎に関する疲れだけならば、話の流れから隠すとは思えなかったから。

 

ならば一体どうしたのだろうと考え、そしてふと思い至る。

最初の歯切れの悪かった回答を、その時の様子を。

 

 

「薫さん、もしかして……由太郎くんに何か、後ろめたいことが?」

 

 

本来の冴子ならしない、不躾で突っ込んだ質問。

他所様の事情に遠慮なしに踏み込むなど、失礼と考えているだからだ。

 

だが、今の冴子は少しテンパっていた。

言葉にされずともからかわれたため、その羞恥から逃れようと知らず知らず焦っていたのだ。

 

 

「え…っ…」

 

 

問われた薫は言葉に詰まる。

泳ぐ瞳と困惑した笑みの様子から、答えは明白だった。

 

気付けば冴子以外の全員も薫を注視していた。

全員踏み込んだ質問であることは自覚しているが、それでも知りたいという意欲があった。

 

それは十徳が絡んでいるからか、それとも他の理由があるからか。

とまれ全員の聞き出そうとする視線に晒された薫は、由太郎を躾けていた堂々とした姿とはかけ離れ、今では肩身を狭めて俯いてしまった。

 

やがて薫の口から答えがこぼれるより先に、由太郎が口を開いた。

 

 

「神谷活心流なんだよ、うちの流派は」

 

 

 

 

 

 

 

===========

 

 

 

 

 

 

神谷活心流の理念。

それは、剣で人を活かすという活人剣のこと。

 

剣は凶器、剣術は殺人術。

 

この一般概念と相反する神谷活心流の理念は、ともすれば甘い戯言に聞こえるかもしれない。

なまじっかその道を歩んできた者からしたら、侮蔑の対象となっても可笑しくない。

 

それでも薫の父である越路郎は、かくあれかしと願い、そしてその理念を形にしたのだ。

その理念を幼き頃より教わってきた一人娘の薫にすれば、それはただの理念ではなく信念にすらなっているだろう。

 

故に薫にとって、散々愚痴を溢そうと諦めるつもりは毛頭無かった。

例えどれだけ月日が掛かろうと、絶対に改心させてみせる。

急に押し付けられた荷物であっても、その意気込みは色褪せることなく薫の中に有り続けているのだ。

 

 

もっとも、信念であれ理念であれ、いかなる思いも変わらずに持ち続けるというのは、簡単なようで実は難しいもの。

人の心は簡単に移ろい行く。

思いの強さは、ころころと変わってしまう。

 

殊に薫の場合、その根幹たる神谷活心流が汚されている状況なのだから、愚痴のみならず弱音も溢れてしまうのは致し方ないだろう。

 

 

「うん……あの人斬り抜刀斎が名乗ってる流派は、ウチのこと、だよ」

 

 

可愛らしい姿から一変、泣きそうな顔にありながらも無理して笑って答える薫。

 

 

「でも……信じてほしい、かな?抜刀斎は神谷活心流を騙ってるだけで、ウチとは関係無いの……」

 

 

警察からは事ある毎に問い質され、問い詰められた。

 

本当は関係あるんじゃないか。

そもそも関係が無かったら名乗られなんてしないだろう。

お前のせいで警官にも犠牲者が出ているんだぞ、どうしてくれる。

 

言外に、或いは直接的に。

周りからの目だって優しくない。

突き刺さるような視線はもちろん、冷たかったり、むしろ無視されたり。

 

そんなことが長く続けば、先に薫の心が折れてしまう。

父から受け継いだ大切な道場を守ることもできず、参ってしまう。

 

理解者も協力者も居ない。

たった一人で戦ってきたのだ。

愚痴の一つや二つ、弱音の一つや二つも零れよう。

 

だが、そんな弱々しい言葉は。

 

 

「はい、信じます」

 

 

あどけない、されど芯のある可愛らしい声によって掻き消えた。

驚いた顔をする薫に、張本人の勇子は真顔で続ける。

 

 

「このお馬さんは嫌いですが、薫さんは好きです。だって狩生さんの考えを否定しないで、しっかりとお馬さんを躾けようと頑張ってくださっているんですから。薫さんはいい人です。いい人の言葉を、疑いたくはありません」

 

 

薫と由太郎は驚きで勇子を見つめる。

 

由太郎も、薄々と薫は無関係なんじゃね?と思うぐらいにはよく知る仲になってこれていたが、それでも薫と人斬り抜刀斎が無関係だと確信はしていなかった。

つまるところ、信じていなかった。

関係が有ろうと無かろうとどっちでもよかったのが本心だが、それ故に即断で信じると言い切った目の前の少女が信じられなかったのだ。

馬という単語には額に青筋を立てていたが。

 

だが、見ると驚いているのはその二人だけだった。

冴子も、晴子も、乙葉も頷いて同意していた。

 

 

「私もそう思うな~。なんでって聞かれると答えられないけど、なんかそんな気がするんだよね」

 

「多分だけど、意味が無いからじゃないかしら?例えば薫さんが誰かを使って、この場合は辻斬りの浪人を人斬り抜刀斎と名乗らせて、かつ神谷活心流を名乗らせても、薫さんには迷惑しか掛からないからだと思うわ」

 

「んん……じゃあ薫さんに迷惑を掛けるのが抜刀斎の目的?それじゃあ他の流派の人がやってること?」

 

「いいえ、冴子さん。それは違うと思います。大変失礼ですが、話を聞く限り神谷活心流はここら辺ではとても小さい流派のようです。他の流派が潰しに掛かっても、それこそ意味がありません」

 

「あ~確かに。それでバレたら、それこそ道場が潰れちゃうもんね。そんな博打な事しなくても潰そうと思えば潰せるもんね」

 

「晴子ちゃん。それは思ってても口にしちゃダメなやつだよ……じゃあ流派関係無く、本当に無関係な人が薫さんの流派の評判を落とすためにやっている?」

 

 

ぽかん、と口を開けたままの二人を他所に四人は思い思いの事を述べていく。

今まで考えたこともないことを我先にと発言し、考察していくのだ。

 

二人はその言葉の奔流に飲まれて呆気に取られていて、そして薫は四人のその姿にひどく頼もしさを感じ、忘れて久しい暖かさが胸に生まれて目尻が熱くなっていることに気が付いた。

 

 

「無関係な人が評判を落としても得られるのは自己満足……無いとは言えないけど、私怨に依るものの方が可能性は高いわ。でも、それなら迂遠に過ぎるわね」

 

「遠回りしているということですか。つまり、評判を落とすことも目的の一つということですね。評判が落ちればどうなりますか?」

 

「まず周りからの目が厳しいものになるね。今は一般人に被害が無いから何もないけど、もし被害が出たらそれこそ薫さんに対して良くない事が起こるかもしれない」

 

「ん~……あ、そっか。それで薫さんが警察を頼っても、今の警察じゃあ良い顔されないんだ。それどころか門前払いされても可笑しくないかもしんないしね」

 

「迂遠に見える評判を落とすという行動も、下手人にとっては必要な行動と考えるのが妥当ね。つまり、遠回りをしなきゃいけない理由があると言えるわ」

 

「何か他の目的があるということですね」

 

「その可能性が高いと思うよ。でも、そこから先は……ううん、ちょっと待って。少し整理したい。それってつまり……」

 

「……ええ。その通りよ、冴子ちゃん。これはただの辻斬りじゃない。外堀から埋めていく狡獪な手段を選んでいるわ。下手人はとても理知的で、それに多分一人じゃない。大きな計画を大勢で練って動いている」

 

 

ブレーンストーミングというものがある。

一つのテーマを多人数で議論し、より良い案を絞り出すための集団的思考術である。

 

これは集団で解を導き出すものだが、慣れれば自らの頭で同様の思考展開が可能になる。

そのため平成の世でこれをしばしば使っていた十徳は、旧剣客警官隊が部下になってから事ある毎にその方法で議論をさせていた。

部隊の性質上、一人で正答を導き出さなければならないときがあるから、その時のために常日頃から脳を養わせていたのだ。

 

だが面白いことに、半年前にその議論をしているところを見つけた署長が興味を示し、冴子ら三人に紹介したのだった。

 

とりわけ異様に食いついたのが乙葉だった。

彼女の頭脳は、従来の教師→生徒の一方通行の勉学では限界があるという考えに無意識に至っていたのだ。

そもそも「議論」というものに初めて触れた乙葉だ、今までにない脳の使い方に感銘すら受け、砂漠に落ちた雨水の如くどんどんと吸収していった。

 

そして今では、冴子たちから波及して東京女子師範学校の生徒ほとんどが活用している事態になっている。

もっとも、それを使いこなしている彼女らにも驚嘆するが、いきなりそこに加われる勇子も勇子だった。

 

 

「朧気ながら見えてきたねぇ。件の人斬り抜刀斎は完全な偽物。そして目的は、神谷活心流に絞っている」

 

「同意するわ。人斬り抜刀斎は倒幕勢力の出。間違っても、東京府の片隅の剣術道場の出じゃない」

 

「当の目的は……潰すつもりか、奪うつもりか。どっちでもかなり厄介ね」

 

「えっと……つまり。ただの辻斬りじゃない、てこと……?」

 

 

薫が小さな声で問うた。

 

人斬り抜刀斎は神谷活心流(ウチ)と関係ない。

奴が好き勝手騙っているだけなんだから。

 

そんな誰も聞いてくれなかった自分の言葉を、会ったばかりの年若い少女たちが信じると言った。

そして、本気であることを示すかのように、彼女らは自分が考えたことの無い領域にまで踏み込み、話し合いをした。

 

彼女らの訥々とした、けれど決して冷めていたわけではなく、なんとも形容し難いが確かに“熱のあった話し合い”の内容を、薫は否定することなく受け入れた。

 

 

「薫さん、これはかなり根が深い問題です。用心するに越したことはありませんし、どうでしょう?お父さんに相談しますから、これから私の家に来ませんか?」

 

「……へ?」

 

「会ったばかりの私たち小娘の話を鵜呑みにするのは癪とお感じでしょうけど、お願いします。勘違いだったら後で怒ってください。でも今は、起きるかもしれない危険に備えさせてください」

 

 

遺伝されたものなのか、それとも環境がそうさせたのか。

とまれ父親に似たその御人好しが炸裂し、いきなり頭を下げたのだ。

薫が面食らうのも致し方ないだろう。

 

 

「冴子のお父さんは警察官で、署長なんですよ。だから大概のことは冴子に頼めば万事おーけーです!」

 

「その言い方はどうかと思うけど、事が事なのは確かよね……薫さん。どうでしょうか?私からもご一考を推奨します」

 

 

晴子と乙葉も重ねて勧める。

 

彼女たちは自分の推論が正しいと確信しているわけではない。

間違っていることも考慮しているし、なんなら見当違いであってもいいとすら思っている。

 

ただ今は、浮き彫りにした一つの可能性に備えることを優先しただけ。

正誤の確認が「取り返しのつかない事態」になってからしか出来ない、では意味が無いのだから。

 

間違っていれば笑い合えばいい。

被害のない誤りならば、それは許し得る結果なのだ。

間違えたという一つの情報もまた、材料に加味すればいいのだから。

 

考え続けることを前提としたこの在り方は、奇しくも十徳から似たようなアドバイスを受けた勇子にとっては馴染みのあるものだった。

 

 

しかし結局、薫はこの誘いを丁重に断った。

 

 

警察という組織そのものによくない印象を抱いている薫である。

三人の提案はとても魅力的で有り難いが、署長本人に直接頼むのは最後に手段にしたい。

それまでは、自分の力で下手人を取っ捕まえる。

 

そう判断した上での回答だった。

 

 

 

三人は考え直すよう食い下がるも、最後は薫の意思を尊重して渋々ながらも引き下がった。

そして、もし少しでも危ないと思えることがあったら直ぐに頼ってほしいこと、これからは自分達も気に掛けるようにすること等を伝え、この場は御開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

薫がこの時の判断を後悔するのは、その日の夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















ガチガチの敬語が乙葉

~だねぇ、みたいに砕けてるのが晴子

~だよ、みたいに無垢っぼいのが冴子

乙葉に似てて、更に幼げな感じなのが勇子



分かりづらいですよねスミマセン…






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