明治の向こう   作:畳廿畳

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ちょっと無理やりかもしれません


まぁ盆明けですし(?)、許してつかーさい




では、どうぞ











60話 白猫跋扈 其の捌

 

 

 

 

懸垂降下

 

 

高所から安全に身を落としていくテクニックで、事前に垂らしたロープを伝って目的地に降りる術を指す。

登山者が壁面や急峻な崖を降りる際に用いるし、ヘリコプターから降りる軍人、もしくは特殊部隊がよく用いる技術だ。

 

言ってしまえば、それは当たり前の技である。

階段や梯子もない高所から降りるには、この方法が一番シンプルで確実だから。

特別それを実行することに驚きを覚えることはないだろう。

 

その存在を知っている者ならば、という前提があるが。

 

建物に侵入するのは入りやすい場所から。

そうでなくとも、三階から突入するなら足場のある場所を選ぶだろう。

況してや相手の本丸が居る場所にいきなり突っ込むなど、普通は考えない。

 

 

「なっ……?!」

 

 

だが、その技術の存在を知っている十徳にとっては、至極当然のようにこの方法を選んだ。

 

最短経路で本陣に突っ込み、一気に形勢を此方に傾けるため。

 

 

顔の半分近くを包帯で隠し、右腕も同様に包帯によって包まれている。

かつてと違う白銀の短い髪から以前の凛々しさは鳴りを潜め、代わってどこか冷酷さを醸し出している。

 

その隣には黒髪短髪で長身痩躯の男、四乃森蒼紫がいた。

 

 

「お頭……!」

 

「火男。無事なようでなによりだ」

 

 

観柳を挟んで向こう側にいる火男を見つけ、表情には出さないが蒼紫は内心で相好を崩した。

 

裏切られた時点で火男が人質として利用される危険性は把握していた。

故にこうして急いで駆けつけてきたのだが、それが功を奏したようだ。

 

そんな二人を尻目に、観柳と十徳は互いに視線を切ることなく微動だにせずにいた。

それもそのはず、観柳はその明晰な頭脳をフル回転させて事態の把握に努めているのだ。

一方の十徳も、まるで何かを待っているかのように、その耳を研ぎ澄ませていた。

 

やがて徐に口を開いたのは観柳だった。

 

 

「ふ、ふふ……お久し振りですね、狩生くん。今までも珍奇な方法でいらっしゃった事はありましたが、今回は輪を掛けて珍奇ですな」

 

 

眼鏡の掛かり具合を調整して観柳が話し掛ける。

 

思考を巡らせる傍らで会話にも注力している。

会話の内容や言葉の隅々にある単語、或いは話し振りの仕草から情報を得ようとしているのだ。

 

だが、十徳はその言葉に対する返答を述べるでもなく、どこかやっつけな感じで言葉を溢した。

 

 

「お前が阿片を使って暴利を貪っているのは知っていた。廃人を作り、意のままに操る人形を作っていたことも。その人形が政治家や高級軍人、大物資産家だったということも」

 

「……阿片?なんのことを言っているのか分かりませんな。私は貴方が紹介してくださった人たちと仲良くなっただけですよ?ただ少しギブアンドテイクの強い関係で、これといって疚しいことのないただの親しい友人ですよ。すべては貴方のおかげです」

 

 

人形にさせようと選んだ人間は、すべてお前の人選に依っている。

(とが)を問うならば、お前にこそ求められるだろう。

 

そう言外に告げる観柳。

だが十徳は眉一つ動かさずに続けた。

 

 

「阿片なんぞに手を出しちまう輩の末路になんざ興味も無ェ。そんな奴について考えるなんて思考の無駄だ。勝手にすればいい……なんてな。実際そう思っていたんだが、事情が変わった」

 

 

ぴく、と最後の言葉に肩で反応した観柳。

用済みとして暗殺されかけた事を指しているのだろうと判断したのだ。 

 

確かに、(いち)警官として自分の身に降りかかってきた火の粉の元を断つべく動いたのならば、この事態も理解できる。

共に裏切られた者同士、蒼紫と手を組んだのだろう。

 

だが、ここで実力行使に動くとは今でも納得できない。

 

自分の息が掛かった人脈がどれ程広くなっているか、それを分からないほど馬鹿ではないハズだ。

そもそも人選は十徳がしたことなのだ、知らぬ訳がない。

 

故にこそ、なぜ動いた?

暗殺はし損ねたが、それでもあらゆる手を使えば無罪放免を勝ち取ることは容易いし、正当性の天秤を此方に傾けることは直ぐにできる。

なんなら自分の機嫌を損ねたという理由だけで、多方面から警視本署ないし十徳個人に圧力を掛ける事すら可能だ。

 

百歩譲って逮捕されても簡単に抜け出せるし、その腹いせに十徳に今後とも執拗に暗殺者を差し向けることもできる。

 

というか自分を逮捕したら十徳の悪行だって陽の目を浴びる事になるのだ。

 

わけが分からない。

 

 

「分かっているとは思いますが、私を無理やり逮捕しても意味なんてありませんよ?道づれも不可能、貴方が勝手に堕ちるだけ……それを知らない貴方ではないでしょう。何を考えているんですか?」

 

 

本気で分からないが故の、混じりっけのない疑問。

それを十徳は、苦笑一つで受け流した。

 

 

「俺はてっきり、誰かに作らせた阿片を使っているんだと思っていた。協力者が居て、そいつが阿片を作っているんだと思い込んでいた。それが一番安全で、無難な方法だからな」

 

 

てっきり?

協力者云々について十徳は最初から看破していたハズだ。

何を言っている?

 

 

上層部(うえ)なんかは何も把握していないだろう。精々が、なんか法に抵触している事をしている可能性がある、ぐらいだろうな。そんなことで捜査に出るのは、せっかく世界に名を知られている商人の機嫌を損ねることになる。そんなリスクは取りたくはないだろうよ」

 

 

それは当然だ。

日本の国際市場を切り開いているのは他の誰でもない、この武田観柳だ。

そんなことは自分がよく知っている。

 

政府は動かないし、警察上層部も動かない。

 

もっとも、阿片の製造についても武器の密輸についても、そしてこれらの販売・賄賂についても証拠は一切残していないのだから、そもそも動ける道理はないのだ。

 

十徳が自分の違法行為について確信を抱いているのは承知しているし、仮に高荷恵の証言を得ていたとしても逮捕に動けば必然的に高荷恵も牢獄の中。

二人の会話を盗聴した者の報告によれば、十徳は高荷恵に対して情を持っている可能性があるとのこと。

 

故に目の前の男はなおのこと逮捕に動けないでいる。

大なる可能性として、上層部への報告もしていない。

 

 

詰まるところ、どう考えようと自分が窮地に立たされる展望は見えないのだ。

自分は順風満帆、むしろ狩生十徳という男の生殺与奪の権を握ってすらいる。

 

 

「当然です。今の私に逮捕はおろか、捜査も不敬なほど。気分を害したという理由だけで、警察組織に貴方を締め上げるよう圧力を加える事も可能なんですよ?いえ、それどころか社会的に圧殺することも」

 

「くわばらくわばら。友達がたくさん居るってのは羨ましいねぇ、取れる行動の選択肢に幅が広がる」

 

 

警察としての生命どころではない、純然に命を狙う事も可能と言っているのに、十徳の顔に変化は見受けられない。

脅しをまったく意に介さず、そして徐に懐から一枚の紙を取り出して、それを投げた。

 

その紙はひらひらと舞い、すんなりと観柳の胸元へとたどり着く。

そして観柳が無造作に受け取って紙面に目を落とし……

 

 

 

 

絶句。

 

 

 

 

 

 

 

「お前を逮捕して生じるリスクは、国が犯されるリスクに比べれば無きに等しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  これでお前を、国賊として消す  」

 

 

 

 

 

それは、日誌だった。

 

内容はすべて英語で書かれているが、観柳はそれを驚愕の思いで読み進めていく。

何度も何度も、一言一句見落とすことのないよう目を皿にして読み進める。

 

 

だが何度読み返そうと、内容に変化は無かった。   

 

 

 

 

 

『 経由地インドより購入した阿片を日本に売却する。

もって石見の山より銀を買い取り、英本国へと輸送する。これは、貿易量の低下が著しい清国の銀資源が枯渇している可能性を考慮した上でのものである。

 

 本貿易の日本の仲介業者を武田観柳とし、日本人への阿片の積極的流布を確約せしめる。

対価として旧東インド会社が所有していた現二線級の各種武器兵器の在庫を特価で買わせる。

武器兵器の地下組織への流布も同様に確約せしめる。

 

 国家戦略上、清国同様に阿片を日本国中に蔓延させることにより生じる利益はほぼ無い、という本国政府の結論は周知徹底している。

なれど、ロシアの南下政策の最終防波堤を当列島に築く目的を鑑みるに、阿片浸けされた民衆による衆愚国家とさせておくことのメリットは、実利に見えないメリットを本国にもたらす可能性があると考える。

 

 すなわち、阿片常用者の多い当無法地帯において、キリスト教徒を保護する名目による武力進出の検討案を仔細に纏め上げ、パークス領事に提出する 』

 

 

 

 

 

 

『 計五回に渡る阿片の売買に関する途中詳報

 

当方:ジョン・ハートレー

先方:武田観柳

 

第一次売買:完了

阿片総量:五十三トン

銀総量:百二十一トン

備考:武田観柳との初接触を果たす。名誉欲と自己顕示欲が非常に強く、おしなべて御し易し。

 

第二次売買:完了

阿片総量:四十九トン

銀総量:百五十四トン

備考:当人には愛国心の欠片もなく、国を崩壊させる一助を担うことに躊躇は無い様子。すべての意識が目先の金銭に指向している。

 

第三次売買:完了

阿片総量:七十六トン

銀総量:百八十六トン

備考:率先して国民に、しかも政府高官や高級軍人に配布している模様。また、もはや欧州では使い物にならない火器類も喜んで買い取った。売却リストは別添を参照のこと。

 

第四次売買:完了

阿片総量:三十トン

銀総量:二百十トン

備考:囲っている女性、高荷恵について問うたところ、本件には一切合切関わっていないとのこと。当方の調査結果と符合することから偽証でないことを確認。

 

第五次売買:予定

阿片総量:九十八トン(予定)

銀総量:百五十八トン(予定)

備考:(空白) 』

 

 

 

 

 

なん、だ……これは?

 

知らない、知るわけがない。

 

こんなもの、まったくもって身に覚えがない。

 

 

 

先程までも多少の混乱はあったが、ここに来てそれはひとしおとなった。

 

頭の中は真っ白となり、心臓が激しく脈打つ。

口を金魚のようにぱくぱくと動かし、声無き声で喘ぐ姿は、いつもの観柳を知る者ならばそのあまりの豹変ぶりに当惑するだろう。

 

そうなるほどに、観柳は混乱の極みに達していた。

 

そして、働かない頭に微かに過った嫌な予想が、全身を寒からしめた。

 

 

「こ、こんなもの……なんの、証拠にも……」

 

「なるさ。主犯のジョン・ハートレーが大量の阿片を持っていたのは確認している。日本への複数回の往来もな。状況的にその書類─まあ実際には写しだが─の内容は信憑性が高いと言えるだろう。それに、お前らが交わした契約書もここにある」

 

 

そう言って、ひらひらと一枚の紙を見せびらかす十徳。

 

それを見て、更に心臓が一つ跳ね上がった。

 

やらせだ、出鱈目だ、でっち上げだ。

そんなもの、この日誌同様に捏造したものだ!虚偽の証拠だ!

 

こんなのはジョン・ハートレーなる当人に確認すれば……かく、にん……すれば

 

 

「当人に確認したかったんだが、もう英国本土に身柄が移送されて手が出せねぇんだ。英国領事館に協力を請うてもどうせ門前払いだろうし。つまり、だ。奴が残していったこれらの書類の内容を捜査するには、もうお前の側からしか進められねぇんだ」

 

「わ、私に捜査権を行使など……!そんなことをすれば!」

 

「お仲間が黙ってないと?まだ事態を理解していないようだな」

 

「なん……だと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは国家存亡の危機なんだ。清国の二の舞にならないためにも、他国の軍隊による東京の占領を阻止するためにも、この英国の侵略の第一歩は徹底的に潰さなければならない。故に、もはや警察(おれたち)だけの問題じゃないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔の手の一端に加担した全ての者を裁く。徹底的に、容赦無く。少しでもお前に関わった者は売国奴だ。きれいさっぱり終わらせてやる。いいか?官公職に就く者すべてがお前を、お前の仲間とお友達を怨敵と見なしている。お前らは、この証拠を警察が手にした瞬間から、日本の永遠の敵になったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻覚か、錯覚か。

目の前にいる十徳が、いつもの十徳とは到底見えなかった。

 

口角が三日月の如く吊り上がり、覗ける歯がまるで獣のそれ。

隻眼の蒼い瞳が鋭利な刃物の様に煌めき、辺りの気温を氷点下にまで下がったような感覚を相対する者の脊髄に叩き込む。

 

手ぶらで隙だらけのハズなのに、空間を握り締めるような所作をする掌が、まるで今にも心臓を握り潰さんとする悪鬼羅刹のようだった。

 

 

紛れもない、今目の前にいる十徳は観柳にとって初めて見る十徳だ。

 

これが奴の本性か、あるいは別個の人格なのか。

そんなことは分からないし、観柳にとってはどうでもよかった。

今はただ、恐怖に身が震え、思考が霧散する。

 

 

「なに、安心しろ。特に政治家のお友達は皆意義のある幕引きとなる。なにせ()()()()勢力で固まってるんだ。排除は国益にこそなれ、混乱はほとんどない。むしろ好都合さ」

 

 

内務卿大久保利通の政敵は、実は結構数いる。

 

そんな政敵も平成の政治家よりかは遥かに日本を真に憂いているものの、強権的かつスローペースの内務卿の政策に業を煮やしていた。

現状を打破できる何かを求めていたのだ。

 

大久保利通の一声で政策は始まる、或いは終わる。

自分達の声は議会を通しても意味を成さない。

 

そんな鬱憤が溜まっていたときに、観柳が紹介されたのだ。

 

観柳も入りやすい派閥としてそこに加わったのだが、惜しむらくは派閥について無関心だったことか。

自らのイエスマンとして塗り替えたその派閥が、本来は何と敵対していたのか、それを知ろうとはついぞしなかった。

 

 

 

阿片の密輸入。

 

高荷恵を精神的に追い詰めて作らせた阿片という事実を、英国の商人が持ち込んだ阿片という虚構にすり替える。

加えて高荷恵の関与も否定させ、観柳が単独かつ率先して阿片をばら蒔いたことに仕立て上げる。

 

観柳が広げた人脈も風呂敷を畳むが如く綺麗に回収することを宣し、あまつさえ得られる大義名分は輝かしい経歴として残っても可笑しくない。

反面、有罪となれば最後、仲間も同様に消えて釈放の手回しも不可能、それどころか極刑ものの犯罪者として外界はおろか看守との接触をも一切絶たれた場所に放り込まれる。

 

 

そして現状、十徳と蒼紫を前にして、後方の扉も火男によって計らずも塞がれている。

 

もはや考えるまでもない。

 

これは万事休すだ。

 

 

そう、万事休す。

 

 

まだ「詰み」ではない。

 

 

十徳の策は確かに巧妙かつ周到、奇策にして大胆だ。

だが、それ故に粗も目立つ。

 

この場における敗北を悟った観柳は、しかし後々に逆転を図れると見当づけ、言った。

 

 

「……ッ、なるほど。確かに、事ここに至れば認めざるを得ません。その偽りの証拠をもってすれば、私たちはお縄に着いてしまうでしょう。ですが!」

 

 

審判の時まで猶予はある。

その間に自分を無実だと証明、或いは根回しをすることは不可能ではない。

 

眼鏡を掛け直し、観柳は続けた。

 

 

「司法の場に至れば貴方の築いた策の粗を突きましょう。そして貴方の不義を白日の下に晒してご覧にいれます。貴方と私の関係を示す証拠が私にはあるのですから!たかだか紙切れ数枚で私たちを……ッ?!」

 

 

観柳が己を鼓舞するために発していた大きな音声を更に上回る轟音が、地響きとともに耳朶(じだ)を打った。

 

その直後、十徳と蒼紫の向こうにある割れた窓の向こうから、一際大きな咆哮が響いた。

大勢の人間による喚声だった。

 

 

「なッ、にが……?!」

 

 

何が起きたのか皆目見当も着かず、確認したくも膝が笑って動けないでいる。

よしんば動けても、十徳の横を通りすぎて窓辺に確認しに行くなど、今の観柳には出来ようハズもなかった。

 

そんな様子を見た十徳は嗤い、自ら足を動かして観柳の襟首を掴むと、ぞんざいに窓際まで引き摺ってきた。

 

抵抗してもピクリとも動かない十徳の腕力に恐れをなし、洩れ出る悲鳴をなんとか噛み殺す。

この腕は、きっと何の武器を持たずとも人を殺せる。

剣も銃も要らず、ただ己の身一つで何人も殺せる。

 

その事実を間近で察知したのだ、戦いに慣れていない観柳が怖がるのは致し方ないことだろう。

 

だが幸か不幸か、観柳の恐怖心は一時的に霧散した。

無理やり引っ張られてきた窓際から見た景色に、驚愕したのだ。

 

 

 

 

そこで見たものは、手に思い思いの武器や灯りをもって屋敷に入り込んでくる、飼っている浪人ども。

 

松明や篝火を投げ捨て、()()()()()()()()()()

 

門衛や使用人に襲い掛かり、手当たり次第に屋敷の物を()()()()()

 

奇声を上げて、まるで理性を失ったかのように()()()()()()()()()()

 

 

「惨めだな。飼い犬に手を噛まれるとは正にこの事よ。もっとも、飼い慣らしていたつもりが、その実奴等はお前を飼い主とは見なしていなかったようだな。お前にとって奴等が使い勝手のいい駒なら、奴等にとってお前はただの金をばら蒔く案山子だったようだな」

 

「な……ぜ?」

 

 

わけが分からなかった。

敷地に住まわせている浪人どもはしっかりと手綱を握っていたハズだ。

況してやこの最悪の瞬間に裏切られるなど……この、最悪の瞬間に?

 

 

「観柳は今日で終わる、そうなればお前らも道連れだ。そうなりたくなけりゃ最後は好きなもん奪って逃げてみせろ。なんて事を言えばこの有り様だ。見上げた共生関係だったな。もっとも、最後まで渋ってはいたが……ッはは。スゲェな、()()()()ってのは」

 

「ッ……!」

 

「やがてこの屋敷は火に包まれる。まぁその前にかなりの金品や高価な物が略奪され、破壊されるだろう。だが残りの全ては灰と煤に変わる。お前が大事にしていたその証拠とやらも一切合切が、だ」

 

 

あまりに雑把な手法、あまりに乱暴な手段。

最後は燃やしてハイ終わりなど、まるで証拠を隠蔽しようとする犯罪者のようだ。

 

さりとて、それはなんら間違いではない例え話と言えよう。

観柳との癒着など警察官にあるまじき行為だ。

犯罪を取り締まるべき官警が進んで犯罪を犯しているのだ。

 

だが十徳がただ保身を考える犯罪者と明らかに違うのは、もはや言うに及ばないだろう。

 

 

「けど、そうなる前にお前がどうなるかは別の話だ。燃えて焦げる前に、お前はあの浪人どもに何をされるんだろうな。楽に死ねると思わねぇ方がいいぜ?なにしろ、今のアイツらは獣だ。鬱屈した生活を強いられてきたんだ、今はそれを晴らす絶好の機会だと思うぜ?」

 

「ひッ……な?」

 

 

いつの間にか、十徳は肩を組むようにして観柳に接触していた。

 

そして徐々に強くなるその締め付けと、耳に直接語りかけてくる十徳の低い声が、観柳の心臓を鷲掴みにする。

 

 

 

まるでその心臓を握り潰すほどの圧力が、観柳の胸にのし掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、恐怖が最高潮に達した瞬間は、十徳の顔面の包帯が捲られ、隠されていた瞳が覗いた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








政敵というわけじゃないですけど、よくぶつかった板垣退助とか伊藤博文はノータッチです


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