明治の向こう   作:畳廿畳

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あの、いや違うんです。
みんな聞いて?
サボってたわけじゃないんです。

常に頭のなかには話の流れが出来上がっていたんです。
文字に起こすことも出来るようになってたんです。

ただちょっとタイミングが、ね?
仕事で爆発したりとかね?家庭が出来たりとかね?コロナに関係なくお医者様にお世話になったりとかね?
いろいろあるじゃん。
そんか感じだったんですサーセン。



とまれ、読んで下さいお願いします。どーぞ






66話 白猫跋扈 其の拾肆

 

 

 

 

 

 

宇治木を潰した後は当然他の部下らも相手にした。

どいつもこいつも宇治木と似たり寄ったりの実力だが、連係プレーが確実に上達していたのは素直に嬉しかった。

 

けど流石に全員を一気に相手にするのは面倒だなぁ。

そう思い、一欠片の逡巡もすることなく右の義手を起動。

 

一瞬にして蒸気機関が唸りを上げ、右腕から全身へと伝播する高熱により一気に身体能力が底上げされる。

視界に映る景色、耳に届く音、すべてがスローに感じる世界のなか、臓腑の底から激しい怒りと殺意が込み上げてくる。

 

進んで殺す意思は無いけれど、必死になって手加減をするつもりもない。

だから遺憾なく力を発揮した結果は、推して知るべしだ。

 

 

全員、身体の随所からぷしゅ~と煙を上げ、泡を吹きながら倒れ伏している。

 

 

 

……やり過ぎたとは思わんが、少し大人気なかったかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

この世界は現実だ。

 

 

人間離れした技や体躯をもつ達人、或いは化け物はそれこそ数多くいるが、それでも世の理を越えたご都合主義的な事は起きない……と考え(ねがっ)ている。

 

何が言いたいのかと言うと、つまり金を生み出し続けずに組織など存続できるわけがないということだ。

人間が生きる以上は金が必要であり、その人間の集合体である組織となれば、目的がなんであれ大金が常時必要になる。

 

横浜港での奴等の資金調達方法は、脅迫による搾取だ。

しかも会社相手ではなく、個人からの巻き上げである。

獲物に事欠かない横浜港とはいえ、これはあまりに非効率的で非生産的だ。組織を養うには不十分といえる。

 

無論、巻き上げる対象がバカみたいに多ければ資金調達も無視できない規模になるだろうが、それでもやはり武器調達や諜報活動の拠点とするのがメインだったのだと思う。

 

此度の大規模討伐先となった摂津鉱山もまた、フェイクの可能性が高い。

生き残ったクソ上司曰く、志々雄含め数多の十本刀が姿を見せたとのことだが、あまりに「ここが重要拠点である」と示してる感が強すぎる。

 

志々雄という存在をセンセーショナルに見せつけたい、という意図を感じざるを得ないのだ。

 

実際問題、あすこの寂れた鉱山から採れる鉱物資源で組織を賄えるとも思えないし、ましてや裏ルートから鋼鉄艦を買い付ける(原作では、奴等は国軍が有するハズだった軍艦を金で奪い取ったのだ)ほどの金を得られるとも思えない。

 

 

つまり、本当の資金源は他にある。

 

 

そう考えるのが妥当だ。

そして、潰せれば個々人を討たずとも組織そのものを瓦解させることができるという意味に加えて、なによりその資金源は───俺にとってあまりに()()()()

 

 

 

「お疲れ様だ、師よ。役立たず呼ばわりしていた部下も随分と──何かを悪巧みしてるな?ものすごい悪い笑顔をしてるぞ」

 

「……なんで此処にいんの、外印?」

 

「そりゃあもちろん、今日が宇治木らの出立の日と聞いたからね。師も来ると踏んで見に来たのだが、どうやら正解だったようだ」

 

 

で、実際なにを企んでいたのだ、と小首を傾げながら濡らした手拭いを手渡してくる外印。

それを受け取ると、顔の血をコシコシと拭き、曖昧な表情をする。

 

生憎だが、その事については詳しく話せない。

外印から情報が漏れると疑っているわけではない。

ただ内容が内容なだけに関与する人間を限定しているだけだ。

 

俺の雰囲気を察してくれたのか、外印もまた肩を竦めて追問することはなかった。

 

 

「ま、深くは追求せんがな。では成長の方はどうだったかな?見ていた感じ、良いように動いていたようだが」

 

「阿呆抜かせ。あんな程度の実力じゃあ一人で十本刀を討てるものか。確かに集団連携と狙撃技術は及第点かもしれないが、逆に言えばそれだけだ。一対一の肉弾戦となりゃあ確実に死ぬ。成長が遅くてほとほと呆れるぜ。付き合う身にもなってほしいもんだ」

 

「いつもそう悪し様に言うが、嫌なら捨てればいいだろうに。宇治木らから聞いたぞ。『警服を身に纏った以上は相応の貢献を為せ。為せぬ無能なればここで死ね』なのだろう?」

 

「随分と懐かしい台詞を引っ張り出してきたな……あぁ、確かに言ったぜ?だがアイツらは曲がりなりにも、力を合わせさえすれば戦力になるんだ。今さら捨てれば、今まで掛けてきた労力と時間を無駄にすることになる」

 

 

コンコルド効果、とは思いたくないがな。

 

横浜での死闘を経て、奇しくも隊員の拡充を果たした俺たちだが、だからといって余裕など欠片もない。

 

志々雄討伐隊の壊滅により、本署はもちろん周辺県警の人員がかなり減った。

組織の運営に関して致命的な支障は出てないが、二度目の攻勢は今後計画され得ない。

 

本来なら本署のデスクに身を置き、組織の機能回復に努めるのが先決なのだが、部隊の特異性に加えて人員を割けないという実状のもと、俺たちは変わらず水面下の任務遂行を優先している。

 

そんな俺たちが今さら部隊員を捨てるなど、自分の首を締めるような真似はできないのだ。

 

 

「とかいって~。素直に必要だって言えばいいのに~。ホント捻くれてるんだから」

 

「何を勘違いしてんだ。本気の損得勘定で言ってるんだよ……つうか、なんで鎌足(おまえ)までここにいんの?」

 

「観柳事件以降、ずっと此方からの連絡が一方通行の状態だったじゃない?ようやくじっくんの動向が今日だけ伝わってきたから、久しぶりに顔を見に来たのだけれど」

 

 

ほんと相も変わらず生傷の絶えない顔ね、と呆れる鎌足。

 

うっせ、ほっとけ。

 

 

「別に会いに来るのは構わねぇけど、仕事は大丈夫なのかよ。お嬢たちの様子は?」

 

「大丈夫大丈夫♪冴子ちゃんたちのおかげで薫ちゃんももう立ち直ってきたし、恵ちゃんにしても幸か不幸か慌ただしく医療活動に従事してるから、沈鬱してる暇なんて無いわ。適度に息抜きするように私が目を光らせているし、エルちゃん(エルダー女医)とも普通に話せてるそうよ」

 

「それは重畳。薫嬢につけ恵嬢につけ、色々とセンシティブな問題だからな。引き続き接触を続けてくれ」

 

「うん?せんし……?」

 

 

恵嬢の阿片に関する罪悪感は既に承知している。

だが一方で薫嬢の精神的な負担については、正直認識が甘かった。

 

原作だと苦しんでいる描写なんてなかったし、そもそも初期の作風は薫嬢がお転婆というかじゃじゃ馬というか、とにかくそんな立ち回りをする娘だったと記憶していた。

実際、偽抜刀斎事件以降も彼女の気質は変わっていなかったように思う。

 

だから、信じていた住み込みのご老夫が主犯と分かり、その弟が神谷活心流を騙って殺傷事件を起こしていたことが分かったとしても、事件さえ解決すれば問題ないだろうと考えていた。

多少のショックがあろうとも、数日もすれば回復するだろうと。

 

 

だが現実は違っていた。

 

考えてみれば当然だ。

亡きご尊父が遺した神谷活心流という剣術流派は、今や誰も歯牙にも掛けない流派だ。

そんな流派の再興を、或いは存続を彼女は第一義としてきたのだ。

 

誰もが見向きもしてこなかったからこそ、彼女にとって唯一の寄る辺となっていったと考えても不思議ではない。

故にこそ、その流派を汚され、貶められ、辱しめられ、あまつさえその流派で培ってきた己の武と技が偽物に鎧袖一触にされた。

 

その辛さと悲しみは、いったい如何ほどだろうか。

 

 

なればこそ、原作と現実では些か乖離があるように思える。

 

本来なら偽抜刀斎は本物の抜刀斎(原作主人公)によって討伐される。

緋村さんの圧倒的かつ鮮烈な飛天御剣流の剣技が、薫嬢をピンチから救い出すのだ。

 

だが現実では薫嬢は未だ緋村さんと接触していないし、逆に当分先に会うはずだった由太郎と既に接触して、あまつさえ門下生にすらしている。

 

その辺りが彼女の機微に変化をもたらしているのだろう。

緋村さんではなく、俺(厳密に言えば俺を象った人形だが)なんつう主人公の要素なんて欠片もない奴にピンチを救われれば、そりゃあ心情に雲泥の差があるだろうからな。

 

 

閑話休題

 

 

ともあれ、鎌足にはそんな薫嬢と恵嬢のカウンセラー擬きとして働いてもらっている。

専門的なことは俺が知らないから教えられていないのだが、それでも人は内心を吐露するだけで相当心的負担を軽減することができる。

 

なまじ性同一性障害という辛く苦しいものを背負っている鎌足だ、存外相手の気持ちに寄り添って話を聞くのは上手なのかもしれない。

 

 

「ところで師よ。私は師の指示通り、比留間兄弟の背後関係を洗っているのだが、先だって報告したように進展はないぞ。このまま続けるべきなのか?私としてはいい加減、師の傍に侍りたいのだが…」

 

 

一方で、外印はひとり偽抜刀斎事件を捜査してもらっている。

特に比留間兄弟の背後にいたであろう、志々雄の工作員について調べてもらっているのだ。

 

 

凡そ一年前、比留間兄弟は正体不明の男らから今回の計画を持ち掛けられたらしい。

もともと神谷道場を乗っ取るという漠然とした思惑があったのだ、利害が一致したうえ、少なくない額の金子も貰えたということもあり、彼らの言いなりになっていたとのこと。

 

が、凡そ半年前から男らは姿を見せなくなり、計画の細部を練ることができなくなったという。

結果、業を煮やした兄弟は自分達の力だけで、詳細を煮詰めていない計画を実行に移したのだ。

知能犯という印象が強かった比留間兄だが、実態はあの弟と似たり寄ったりの短気直情型だったということだ。

 

と、捕縛した兄弟の口を割らせてここまで情報を絞ったのはいいものの、それ以降の進捗は良くなかった。

 

俺たちが関東一円の通信拠点を潰し回っていた頃と時期的に重なるため、姿を見せなくなった男らは工作員と見ていいだろう。

だが、当の男らは俺たちが通信拠点ごと始末してしまったか、或いは逃げ延びて運よく難を逃れたのか、ともあれ男らまで辿ることは出来そうにないと判断したのだ。

 

つまるところ捜査の道筋が絶たれた外印は、現在手持ち無沙汰。

だからこその、さっきの提案なのだろう。

 

 

「あの会合で師が言ったことが、お偉方にどう響こうとやることは変わらないのだろう?現実問題、大久保を筆頭に政界の重鎮共は警護しなければならない。だのに先の陸軍省襲撃を撃退した白猫隊は多くを攻勢に割き、東京に残るは師と私と鎌足のみだ」

 

「鎌足は組織との非戦を条件に隊に入れたからな、白猫隊で動けるのは実質俺とお前だけだ」

 

「なればこそ、やはり私は師の近くにいるべきではないか。京都と東京に戦力を分散しているうえ、更に東京で分散するのは如何なものかと思うが」

 

 

外印の危惧は、よく分かる。

 

東京に来る瀬田宗次郎を俺が迎え撃つと同時に、京都にあてがった宇治木ら旧剣客警官隊と蒼紫ら旧御庭番衆で、京都に残る全ての十本刀に逆撃を喰らわす。

これが対志々雄戦における作戦の第一段階の骨子だ。

 

決して勝算が高いわけではないが、なにも博打というわけでもない。

十分に練った計画のもと実行に移しているのだ。

無論、絶対に成功する完璧な策だとは、まぁ言えない。

 

だからこそ、東京に残る俺の戦力を上げようと外印は言ってくれるのだが、さて。

思ったより比留間兄弟の捜査が進展しないようだし、外印と歩調を合わせるべきか…?

 

もともとは俺の人形を使って捜査を続け、東京に残る通信拠点を探ってもらうつもりだったんだが……

 

 

「……そう、だな。うん、これ以上時間を掛けても徒労に終わりそうだな。東京に通信拠点はまず残っていないということで切り上げよう」

 

仮に少数が残っていても、奴等の本拠地である京都及び関連地域で騒動が起これば、東京からの通信は重要度は下がるだろう。

俺はそう判断して外印に作戦変更を告げた。

 

 

「了解した。では直ぐに身辺整理を済ませて師の傍に侍ろう。そうだな、敵がいつどこに来るか分からない以上、常に連携を取れるようにしないといかんからな。行動を共にするのはもちろん、寝食の時や風呂もなるべく一緒の方がいいと思うぞ。距離も出来うる限り近い方が意志疎通もしやすいし、なんなら布団の中では身体をかさnだだだだ─」

 

「調子に乗るな」

 

「ちょっとッ…、なにふしだらなこと言ってんのよ外印(アンタ)!そんなことするんなら話は別よ!私だってアンタから貰った人形で我慢してんのに、それじゃあ話が違うわ!じっくんと身体を重ねてあんなことやこんなことできるんなrだだだ──」

 

「お前も張り合うな」

 

 

バカ二人のこめかみを片手ずつで握り込み、掴み上げる。

かつては義手と生身の腕との間に大きな腕力の差があったのだが、今ではほら、この通り。

機械仕掛けの左腕に負けず劣らずの腕力を右腕にも身に付けられたのだ。

 

 

「鎌足、いま不穏な言葉を発さなかったか?俺の人形を使う?外印との話?なにか密約でも交わしたようだなぁ?」

 

「ッ、ち、違う…わ。いまのは、いだだだ、」

 

「人間は、意外とはんでぃたいぷ、だったのか…いだだだ」

 

 

ぶらんぶらんと眼前で揺れる二人を、自覚できるほどに冷めきった目で見ていると後ろから音がした。

ちらと振り返ると、今まで煙を上げて倒れていた部下らが、各々悪態を吐きながら立ち上がっていた。

 

 

「ッ~、頭がまだくらくらする……くそ、なんか以前も同じことされて同じこと言った記憶があるぞ」

 

「あ~そういえばそうだったか。関東一円遠征の出立日か。あははは。成長遅ェな、お前ら。カタツムリかよ」

 

 

ああん?!と(まなじり)を決して睨んでくる宇治木らに肩を竦める。

ついでに阿呆二人をポイ捨て。ぽいッ

 

 

結果は然して変わっていない。

それは確かだ。

以前も今回も全員フルボッコにしたのだし、今回の宇治木相手だって、別に傷を負わないで済ませることだってできたのだから、やはり結果は同じなんだ。

 

 

 

まぁ、あの時は教育を意識して手加減していたのに対し、今回は餞別の意味でブッ潰す覚悟を持ってやったのだが。

 

それでも全員、急所だけは回避したり反撃を試みたりと、前回見せなかった行動を取っていたのだから、はてさて。

 

 

俺が無意識に手加減したのか、それともコイツらが少しだけ成長したのか。

 

 

 

 

 

 

それから少し休憩した後、痛みに悶えて散々愚痴と呻き声を溢す部下らの尻を蹴っ飛ばして、早々に出発させた。

 

 

 

 

 

 

次に会うのは敵の本拠地、京都だ。

 

 

 

 

 













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