西南戦争編ラストです
DYATHONのLifeという音楽を聞きながら書きました
皆さんも聞きながら読んでみてください
もしかしたら面白さ倍率ドン、更に倍……かもしれません
では、どうぞ
夢を見ている。
現実では到底有り得ないものを見ているから分かる。
これは夢だ。
目の前にいるのは、俺が宿ってしまった狩生十徳がいるのだから。
ならば見ている俺は?
そう思って己の手足を見てみると、どうやら平成で失った身体でいるようだった。
鏡を見なくても分かった。
きっと顔もあの平凡なものに戻っているのだろう。
ふと周りを見てみると何もない真っ暗闇なハズなのに、何故か眼前の十徳の容姿だけは鮮明に浮かんで見えた。
男に対してこんなことを云うのは失礼なんだろうけど、本当に彼は綺麗だった。
肌は白くて、背中まで伸ばしている髪も白に近い銀色。
瞳も色素が薄くて、確かにこの時代なら異国の血を含んでいると思わせた方が納得できるだろう、そんな容貌だ。
でも、俺は彼の顔を視界に収め続けることが出来ず、つと目を逸らしてしまった。
「なんじゃぁ?いきなり目ぇ逸らしおって……あ、ここは黄泉じゃなかけん、安心せい。ここはお前ん中、否、俺たちん中よ」
細い身体のくせして似合わない仁王立ちなんかしながら、腕を組んで十徳が言った。
俺たちの……中?
つまり深層心理みたいなものなのだろうか?
じゃあ夢でもないのか。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。
ここが夢であれ黄泉路であれ、ましてや深層心理の中であっても構いやしない。
ただただ、今の俺には君を見れないほどに、申し訳なさでいっぱいなのだから。
「ま~た悄気たツラばしよるのぉ。言ったハズぞ。そがいツラなんぞ、されとおないと」
「ッ……はは、あれは本当に君の言葉だったんだな……なら、尚のこと申し訳ない」
「んん?」
ぎしり、と己の歯を噛み締める音が頭に響いた。
俺は、俺じゃあ止められなかった。
原作の流れ云々を言うつもりなんか毛頭ない。
ここが漫画の世界であったとしても、俺を含め生きている人にとっては現実なんだから。
原作に沿わなきゃいけないなんて、そんな道理は皆無なんだ。
だからこそ、俺は必死になって戦った。
前世において、人殺しはもちろん、剣も銃も持ったことすらなかったのに、それどころか人と殴り合うことなんてすることもなかったのに。
それでも必殺の覚悟で戦った。
斎藤一と鵜堂刃衞を相手に。
弱い
「だけど……だけど守れなかった!刃衞の凶行を許して、薩摩は汚名を着せられて……そして、きっと多くの仲間が政府軍の強襲を受けてッ……殺される!」
正義は我にあり、と義憤に駆られた政府軍に飲み込まれるだろう。
政府軍兵士は、抜刀隊はきっと目の色を変えて襲い掛かってくるハズだ。
きっとその勢いに薩摩軍は、大切な仲間たちは飲まれてしまう。
俺が十徳になっていたとき、彼の感情を少しだけ見れたときがあった。
最初は虐めを受けることもあったけど、今では心底大切に思っている薩摩の仲間たち。
彼らと話すだけで、他愛のない会話をするだけで気持ちが満たされる。
ただなんの気なしに話しているだけで不意に俺も満たされて、あぁ、十徳は本当に仲間を、薩摩を愛しているんだと感じていたのだ。
そんな彼らを、俺は守れなかった。
守れる可能性は十分にあったというのに、守れなかった!
彼らに、晴れることのない汚名を歴史に刻ませることを許してしまった!
しかも斎藤一との戦いの終盤、俺は何を感じた?
奴との斬り合いに高揚してしまっていたではないか!
「……お前はボロボロになっまで戦ったハズじゃろ?」
「違う!そんなことに、意味なんてないんだ!!どんなになっても、結局、守れなかったらッ……!」
意味なんて、無いじゃないか。
俺は、どうして斎藤の撤退を許した?
たかが腕一本使えなくなっただけで、どうして奴を追撃しなかった!
俺は、どうして刃衞との戦いの最中に気を失った?
何故よりにもよって最後の最後に意識を手放しやがったんだ!
ッ、あぁそうさ、言われなくても分かってる!
すべては狩生十徳ではなく、
俺が弱いから、原作の知識がありながら斎藤の首を取れなかった。
俺が弱いから、原作の知識がありながら刃衞の策を防げなかった。
俺が弱いから、未来から来たのに持っている知識を使って仲間を助けられなかった。
そんな、弱い俺が
「、……勝手に身体をう、奪って……俺なんか、がッ…!」
君に成り代わってしまって
「ごめん、なさいッ……!」
大切な人たちを守れなくて
「ごめ、ん……なさい」
弱いのに、まだ生きていて
本当に
「ごめ……ごめん、な、さいッ」
胸が張り裂けそうに、痛かった。
弱いことが、こんなにも苦しいなんて。
弱いことが、こんなにも悔しいなんて。
初めて知った。
そして、それと同じくらいに、仲間が自分の所為で死んでしまうことが、怖くて、恐ろしくて、辛かった。
きっと君なら上手くやれていた。
斎藤一を討ち取り、鵜堂刃衞を返り討ちにし、もしかしたら田原坂の防衛戦を勝利に導いていたかもしれないというのに。
だのに俺は、結局なんの功も得ずに身体をボロボロにしてしまった。
むしろ災厄をもたらして返すことになってしまった。
比較すればするほど自分の不甲斐なさに憤りを感じて、己を殺したくなるほどに自分が許せなかった。
本当に、俺はどのツラ下げて彼を見ればよいのだろうか。
いっそのこと、このまま死んでお詫びしたいのに、だけどこの身体は十徳のものだから、勝手に死ぬことなんか許されるハズもなくて。
結局俺は無様な本来の姿を晒すしかないんだ。
彼を見れたのは本当に最初だけで、ここに来てからずっとボヤける足元しか見ていない。
「お
「ッ……わ、からない。けど、やっぱり、謝るしかできッ、なくて……」
「ほうか……ほうか……」
溢れる涙も嗚咽も抑えることをせず、俯いたまま、痛くて苦しくて仕方の無い胸を両手で押さえ付けながら、俺は彼の言葉を聞いていた。
次にどんな言葉がぶつけられるのかと恐々していたのだけど――
彼の口から溢れたのは、ため息だった。
ただ一つのそれだけなのに、俺の肩はびくりと震えてしまった。
体は小刻みに震えて、もはや足元を見る視界はぐにゃぐにゃに揺れて、こぼれた涙の滴が足に当たる感触しか分からなかった。
呼吸も儘ならなくて、一歩一歩、歩み寄ってくる彼が処刑人かと錯覚するほどに、怖かった。
でも
殺してほしいとすら、今は思う。
楽になりたいと、思っているのだ。
だけどやっぱり、それは逃げなんだと考えて、尚のこと胸が痛かった。
「真世、手ぇ差し出せ」
「……」
やがて、目の前に来た十徳が命じてきた。
逆らうことなんてするハズもなく、俺は震える手を差し出した。
「違わい、両手じゃ両手。こがい掌同士で輪っかば作って」
「……?」
十徳は俺の手を取って、自分で言うように俺の手の形を整えて
身に覚えのある言葉と所作にどこか懐かしいような感じを覚えて
そして
パン、と小気味良い音が鳴った。
同時に両の掌と甲がピリピリと痛んだ。
でも、その痛みが、綺麗に響いた音が、一陣の風となって心を通っていった気がした。
「あ……」
「どうじゃ、震えは収まったか?」
これを、俺は知っている。
平成の世で、母親からよく掛けてもらったお呪いだ。
怖くて震えていた時とか、緊張して動けなくなっていた時とかによくしてもらっていた。
あれを掛けてもらうと、暖かさと涼しさがない交ぜになった不思議な何かに心が満たされ、子供だった俺は馬鹿正直に元気になったのだ。
そういえば、明治の世に来てはじめて学友にやってあげたのは、つい最近のことだったか、なんて事を頭が過ったときには、先程の身体の震えが嘘のように止まっていた。
「真世。お前はほんのこてお人好しじゃな。逆に言わんがか?なし自分ん心ば勝手に他人の身体に入れたんかち。しかも時ば越えて地さえん越えて」
「……え?」
「文句一つん無いがか。
俺は涙を拭うことなく、顔を上げた。
きっと、俺の今の顔は醜悪極まりないだろう。
涙と鼻水で顔はグショグショになっているのが自分でも分かる。
でも、涙が止まっていることも、同じように分かる。
漸く目を見ることができた十徳の瞳は、やっぱり美しく澄んでいて、まるで、さっき心を通った風が作った雲の切れ間から覗く、青空のようだった。
気付けば胸の痛みもすとんと消えていた。
「んん……んん、良か!そんお人好しこそ良か!そいこそ俺の願い通りじゃっどん、そがい優しくてん生きていけっ世とは、未来はさぞ
「なよなよて……否定は、できないけど」
「あ~日ん本の未来が怖かなぁ。こがい民どもで溢るった国になってしもたら、御国が心配じゃあ……ふふっ、じゃっどん、お前でんここで死ぬ目に会うまで戦えた。あがいボロボロになっまで戦えた。心配なんぞ消し飛んだわい!ならば、なればこそ!」
俺はそん温い未来が欲しか。
彼は屈託の無い笑顔で言った。
「ど、ういう……」
意味かと問うとするより先に、彼は続けた。
「知っちょっじゃろうが、俺ん親父は維新志士じゃった。
維新の最中ですら、この国の民は藩ごとに別の人間だとすら思っていた。
それを乗り越え、一つになれるのが攘夷であり、尊皇であると説かれていたと言う。
一つになり得る切っ掛けでさえあればいい、と。
「親父ん夢は叶った。じゃっどん、今ん薩摩を見てみぃ。西郷先生一人を祭り上げ、国家に比肩しうる武力を持っちょっ。そげんの、国家とぶつかったぁ誰ん目にも明らかじゃろう。そいじゃっどん、そいもやむ無しと考えゆっほどにッ……薩摩は熱うなりすぎた」
だからこそ、と彼は続けた。
「お前が来るんを待っちょった。弱い、じゃっどんまだまだ強かなれる。温い、じゃっどん熱うもない。良か。そいくさ、俺が求めてた薩摩隼人じゃ」
なんて。
俺の頭を撫でながら微笑む十徳の顔を見て、どうしてかまた目に涙が溜まってきた。
反則だろ、その笑顔は。
聞きたいことは山ほどあるっていうのに。
待ってたとは、どういうことなのか。
こんな俺でも強くなれるというのか。
こんな俺でも、君は許してくれるのか。
そんな言葉は彼の顔を見て吹き飛んでしまったじゃないか。
「あ~あ~、ま~たベソば掻きよっからに。しゃんとしぃや。お前は俺ぞ、俺の身体でそがいめそめそされっと示しが付かんど?」
「うん……」
「泣ったぁは
「うん……うんッ」
良か。
そう言って、彼は俺の頬に付いた涙と、目尻に溜まっていた涙をその手で拭ってくれた。
そして、笑顔のまま俺から次第に離れていく。
驚きは……なかった。
どうやら時間がきてしまったようだと、漠然とだが分かったのだ。
本音を言えば、待ってと言いたかった。
まだ君と話がしたいと言いたかった。
だけど、それら全てを飲み込んで、俺も無理矢理笑顔を浮かべた。
こうするのが、せめてもの挨拶だと思ったからだ。
「ん、良か笑みじゃ。えいが?薩摩兵子はいつでんこれじゃ、忘るるったらあかんぞ」
彼は朗らかに笑みながら、手を握り、軽く曲げてその甲を見せるように掲げ、言った。
泣こかい
跳ぼかい
「「泣くよかひっ跳べ」」
彼の励ます声と、俺の呟く声が重なった。
そんな、お互いの言葉が契機になったのか、漆黒の世界は徐々にその暗闇を晴らしていき、彼の姿も足元から霞んでいく。
もう行ってしまうのかと、寂しく思う気持ちもある。
けど、彼はずっと言っていた。
俺はお前だと。
なら、きっとまた会える。
またここで必ず会える。
だから、その時に胸を張って言えるように、今はギクシャクした笑顔でもいいから、笑って見送ろう。
そしていつか、無理矢理つくった笑顔なんかじゃなくて、
君の望んだ未来をつくったよ、と。
だから今は、泣いてる暇ないんだ。
まだまだ、諦めちゃダメなんだ。
俺はまだ、跳べるんだから!
いつしか世界は真っ白になって、俺の意識は天上へと浮かび上がっていった。
==========
首筋に当たる、ひやりとした感覚。
重い瞼を上げれば、煙草を燻らせながら斎藤一が俺を見下ろしていた。
「遺言はあるか?」
首筋には、鈍く光り輝くサーベル。
何やら知らぬ間に可笑しな状況になっていたようだ。
刃衞をぶん投げたとこまでしか記憶がないから、その後何がどうなってこうなったのか、さっぱり分からん。
けど、例え状況が分からなくても、質問の意図が読めなくても、答えなんて決まっていた。
寄りかかる木の幹に体重を掛け、俺は重い腕を持ち上げてその刀身を掴む。
口を開くだけで、唾を飲み込むだけで身体中至るところに激痛が走るが、それら全てを飲み込んで俺は不敵に笑いながら言う。
「……あるわけねぇだろ、阿呆」
ぴくり、と斎藤の眉が一瞬動くのを、赤黒く染まった視界でも見逃さなかった。
ハッ、ざまァねぇな。
「自分の置かれた状況すら把握できんほどに――」
「刃衞をけしかけたのは……お前だろ?お前なら今でもッ、繋がりがあるハズだから」
大方、戦争があるから楽しく人殺しができるぞ、とでも言ったんだろう。
奴の嗜好を考えれば、上手くいけば戦線の撹乱が出来るし、悪くても薩摩軍に混乱をもたらせる。
クソッたれだが、最高な鬼札だったぜ。
あぁ
それにしても寒い。
頭が割れそうに痛い。
身体の節々が悲鳴を上げてる。
吐瀉物が喉まで込み上げてくる。
自分の語る言葉が途切れ途切れにしか己の耳に入らない。
俺は、上手く話せているのだろうか。
「やられた、よ……これで政府軍は、薩摩軍を強襲する大義名分を得た」
「……言いたいことは、それだけか?」
ぐい、と押し付けられる刃。
それを俺は更に強い力で握り締め、斎藤の瞳を見据える。
掴む手の指はもとよりあらぬ方向を向いていて、実質親指と掌でしか掴んでいなかった。
気を抜くとまた全身が震えてしまうだろうほどに、血が足りない。
無性に堰したいが、一度すると二度と止まらないのではと思えるほどに、臓腑を抉るような不快な感覚がする。
それら全てを、俺は必死の思いで身体に喝を入れて押し止める。
「殺したくば殺せッ、けど…刃衛は、どうする。…ッ、お前に、刃衛が狩れるの、か…?」
刃衛は、もう逃げているだろう。
そんなこと、血の巡っていない頭でも考えればすぐに分かる。
アイツをボロボロにしたのは俺だ。
俺と同じく、もはや戦うことはできないだろう。
ならば、奴の取れる選択肢は逃げの一手のみ。
そう易々と政府軍ないし薩摩軍に捕まるとは思えないし、そんなことを許すほど保身をかなぐり捨てて趣味に走り続けるハズもないから。
「……何が言いたい?」
「アイツは、俺を殺しに来る……俺が餌、になって、アイツを殺しッ、てやる」
傷を癒すために姿を隠せば、斎藤でももう見つけられないだろう。
自分との接点を持つアイツを生かしておくのは、今回の大義名分の根底を揺るがす事態を招く危険性がある。
だが、探せない以上はどうすることもできない。
常にその危険性を野放しにするのならどうでもいいが、そこに俺という餌があったら……話は別だ。
ポタポタと掌から新しい血が溢れ、既にどす黒い血が乾いてこびり付いている腕を伝って地に滴り落ちる。
そんな小さな痛みをもはや懐かしく感じながら、俺は斎藤一を見上げ言葉を紡ぐ。
もはや戦うどころか動かすことすら儘ならないほどに身体は使い物にならなくなっている。
だけど、口は動く。口なら動く。
約束したから。
死ぬわけにはいかないから。
口しか動かないのなら、口だけで生き延びてみせろ!
「アイツが、生きて……たら、いつの日か
それが嫌なら、俺にアイツを殺させろ。
アイツは今後、俺の命を狙ってくる。
戦中戦後を問わず、朝昼晩、四六時中、年がら年中、常に俺を殺そうと機会を窺ってくるだろう。
刃衛にとって、俺は狩り損ねた獲物で、楽しめた相手だから。
あぁ。
上等じゃねぇか、受けて立ってやるよ。
俺だってなぁーー
お前は取り損ねた首なんだから。
首筋に添えられた刀から手を離すと、自らの身体にムチ打って木から上体を離す。
支えの無くなった重体の身体はなんの抵抗もなく、どしゃりと倒れた。
顔面が突っ伏した場所はちょうど水溜まりだったようで、泥と泥水が口内に入り込んでくる。
「……ふッ、ぐぅぅ、ッ」
肩と肘を使って、なんとか上体を微かに浮かせると、
もう一度、もう一度だ。
今度は無事な足の膝と顎も使って、自らの身体を水溜まりから押し退ける。
「ぅぅ、はッ、はッ……が、あぁぁッ、ああああ!」
斎藤との距離など、指呼の間だ。
二・三歩ほどの距離なのに、今の俺にとっては遠く、そして険しい。
「俺の命は、刃衛を殺してから……くれてやる。俺をどうしようと、好きにしていいし、生かしてくれたらお前の知らない知識も、日本の未来に役立つ知識だってくれてやる、本当だ!……だから、だからッ!」
じりじりと、膝と、肘と、肩と顎を使って匍匐全身するかのように、斎藤の足元へとすがり寄る。
一刻みに進める距離は本当に短く、ともすれば数センチ程度だろう。
それでも、芋虫のように腹這いのまま必死になって身体の動かせるところを動かして、前へと進む。
みっともない姿なのは自分でも分かってる!
でも……でも!
みっともなくても、頑張るんだよ!
「だから、今だけは、田原坂への、攻撃は止めてくれ!薩摩の誰も、約束は破ってないからッ!アイツは、俺が必ず殺すからッ!だから……刃衛に殺された、抜刀隊には、目を瞑っでぐれ!」
そして、ゆっくりと、だけど確実に奴の足元に這いすがり、ようやく辿り着くことができた。
苦しい、辛い。
もう視界なんて何の輪郭も捉えることが出来ず、斎藤の靴を見ているハズなのに、もう何も見えなかった。
それでも
ひしゃげた手で、なけなしの力で斎藤の足首を掴んで、訴える。
「……自分が何を口走っているのか、分かっているのか?」
「分がってるよ!でも……でも、お前の奸計で俺を半殺しにできて、それでッ、此度は良しとしてくれ!!」
己の胴と地の間に膝を入れ、斎藤の足を掴んでいた手を、今度は奴の膝に回す。
それだけの動作なのに激しい痛みに襲われる。
そして一息に膝を立たせて片膝立ちになると、再度手の位置を変える。
今度はズボンのベルトを掴んだ。
「……ッぅぅぅぁぁああああ、ああああ!」
震えが始まった身体に必死に喝を入れて、立ち上がる。
手は奴の服を掴んで、徐々にその位置を上げていき、遂にはその肩に手を置いた。
呆と霞む視界には、朧気に斎藤一の顔が映っている。
ようやくまた同じ目線でお前を見ることが出来た。
「それ、でも……俺の話が、聞けないって言うのなら……ここでもう一度ッ、俺とッ、戦え!」
「……」
「そんで!……今度こそ、その首を貰うッ! もう、ゼッテェ逃がさねェ!!」
出鱈目を。
きっと奴はそう思っただろうし、俺もそう思っている。
けど、死ぬつもりなんてさらさら無い。
そう簡単に首をもらえる相手じゃないのは身をもって知っている。
だけど、だからと言って戦うことを捨てたりはしない。
たとえこの首が落とされても、喰らい付いて噛み殺してやる。
覚悟しやがれ。
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俺は、狩生十徳だ。
望む未来を掴むまで、生を諦めない。
明治の向こうに新たな世を作るまで、死を拒み続けてやる。
はい、お粗末さまでした
如何でしたでしょうか、拙作「明治の向こう」は
最後、斎藤一が主人公に対してどう行動するか
それは皆さんのご想像にお任せします
ただ、悪いようにはしないだろうと、そう思えるように書けていたら嬉しいです
本作に対する筆者の考えや、読者の皆様にお伝えしたいこと等は後々、活動報告に上げる予定ですのでたまにはそちらにも足を運んでください
なお、次章投稿は未定です
でも遅くとも四月には開始したいです
オリ主の絵とか頂けたら奮起するかもしれないんですが(チラチラ
なんて言ってたら本当に頂いちゃいました
鮎川ノミ様、本当にありがとうございます!
とりあえずプリントして額縁に飾って拝めますね
(まだ他にも募集してるよチラチラ
では最後に、読者の皆様本当にありがとうございました