なんでもできるうちの娘は、異世界ライフを落下からスタートさせる 作:オケラさん
ズズン…という音を立て、キマイラの一体が崩れ落ちる。
周りからは「おおっ…」という歓声がもれた。
既に残り二体のキマイラを引きつけて圧倒しているレオグリンド。
冒険者達の間にも落ち着きが戻ってきた頃、
「キヒィヒヒヒヒ」
「ヒャヒャヒャヒャヒャ」
「シャアアアアア」
いくつかの奇声が道の端にある闇の中から聞こえてきた。
現れたのは盗賊のような集団で、数は30近くと少し多いが、冒険者達だけでも十分に対処できる数であった。
これに玖苑は手を出すつもりはなかった。
というのも、その盗賊風の男たちの後ろから漂う気配に警戒をしていたためだ。
「氷晶槍〈アイシクルランス〉」
玖苑が、盗賊たちの背後、その闇にむかって魔法を放った。
─キィィン
硬質で甲高い音が響いて、氷の槍が砕かれた。
そして、闇から山刀のような武器を手にした大男がでてきた。
◆
「おいおい。危ねえじゃねえかよお嬢さん?いきなり人に向かって攻撃魔法を飛ばしてくるたぁ、失礼な奴だな?」
「黙りなさい。礼を求めるなら最低限度、そちらを礼を尽くすものですよ?それにその殺気を警戒しないほうがおかしいと思われますが?」
「ハハハ。良いねぇ。強気な女は嫌いじゃないよ?」
ここでもう一発、無言で魔法を飛ばす玖苑。
「おおっと。無詠唱か?やるねぇ」
男は山刀でそれを易々と砕いてみせた。
表情には出さないが玖苑は内心、苦々しく思った。
攻撃魔法はよほど強力で無ければ、不意を突いた方がいい。
なので相手が隠れていた段階で撃ち込んだし、その後無詠唱でも放った。
最初から無詠唱をしなかった理由は、二発目のために油断させる目的と、単に詠唱した方が安定するためだ。人間が儀式魔法などで魔法陣を描く理由もこれにある。
しかし、どちらも易々と防がれた。
発動から着弾を計算し、早い魔法を選択したにも関わらず、だ。
普通、戦いに身を置く者でも回避は容易ではない。盗賊ならば尚更である。
しかし、現実は目の前にあった。
「おっと?キマイラと戦ってるのは誰だ?二体同時相手とはやるじゃねえか。どれ…」
「ッ!」
男がキマイラに手を向けて魔法を放とうとしたのを感じ取った玖苑は、咄嗟に魔法を撃ち込む。
二連の氷の槍、頭部と腹部を狙って無詠唱だ。
「っと!危ない危ない。─狂獣創作〈クリエイト・バーサークアニマルズ〉─」
男は易々と氷を弾き、キマイラ達に魔法を掛ける。
すると、二体のキマイラが互いにくっつきあい、そこから溶けるようにして融合した。
体が倍以上に大きくなり、眼は紅く煌めいて、動く度に残光を残していく。
そして何よりの違いが、頭と尾が三つなのは変わらないが、鬣が小さい蛇のようになっており、尾のヘビは最早もう一種類の魔獣とも言えた。
皮膚も赤黒く変色し、隆起した筋肉は、所々溶けているような箇所もあった。
「ふむ。活動時間は残り三時間といったところか」
「お、おい…もうだめなんじゃないか?」
「そうだな。遅いかもしれないが避難を呼びかけて来た方が…」
「馬鹿!いま抜けられると手が足りない!」
「で、でもよ。あんな化け物に、そこの大男もいるんだぜ?」
「そうだな。もう無理そうだ」
男が言った活動時間を聞いて、周りからは絶望の声が漏れる。
当然だろう。あんな化け物が三時間といえど活動すれば、この町はおろか、山、湖、隣町なども跡形もなく消えるだろうから。
◆
周囲に絶望感が漂い始め、冒険者たちの連携は明らかに崩れ始めていた。
中には、町へ戻ろうとする者なども出る始末である。
「…っ!落ち着いて下さい!皆さんは確実にそいつらを仕留めて下さい。あのキマイラはレオグリンド様であれば問題ありません!」
「で、でもよ…」
「大丈夫です!」
「し、しかし。あの男は?」
「あれは私が潰しましょう。どうやら、少しはやるようですし?」
そこで再び無詠唱により、男にこんどは電撃の魔法を放った。
しかし、男がとっさに構えた山刀に防がれてしまい、効果は無さそうだ。
(おかしいですね。武器などで防げる魔法では無いはずなのですが…)
電撃系統の魔法は、通常の武器や鎧では防ぐことはできない。
となると、あの山刀は魔法武器の可能性が高い。
玖苑が、対策を巡らせながら男を睨む。
玖苑の気配が変わったのを察知してか、男は玖苑に向き直った。
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少しの間、週一投稿とさせて頂きますので、次回投稿は来週の水曜日となります。