なんでもできるうちの娘は、異世界ライフを落下からスタートさせる 作:オケラさん
まだまだ続きます
─キィィン!
あたりに、硬質なもの同士がぶつかり合ったかのような甲高い音が響き渡った。
バガスと山刀の間に薄く半透明な壁が出現し、山刀を防いでいた。
「やれやれ。なんとか間に合ったか?」
そう言いながら登場したのは、長身細身で暗い緑のローブを着た老エルフと、
「危機一髪って感じでしょう」
ゴツい大きな全身鎧を身に纏った壮年のおっさん。
「…!ゲイルさん、デルミカル!」
「よお!苦戦してんな。救援だ」
「大丈夫ですか?潜殺領域〈ハンター・チェーン・レンジ〉」
今ゲイルが発動したのは、タンク職などが敵の攻撃を引きつけるスキルで、この範囲内において対象は術者を無視できなくなり、仮に無視をした場合には強烈な攻撃を受けることになる。
この世界には職業・ジョブがあり、ジョブに就く就かない、どのジョブに就くかなどは人それぞれであるが、ジョブにはそれぞれ恩恵をがあるため、この世界においてはジョブに就くのは一般的である。
因みにバガスは近接戦闘系の職業である武闘家:モンク、デルミカルは魔法万能型である魔術師:ウィザード、バガスは近接支援系である重鎧戦士:タンクウォリアーである。
それぞれが長所を活かすようにジョブについているため、その点だけ見れば大男にも劣らない性能であるだろう。
つまり、今の段階ならば協力して大男を止める事も可能ではある…はずである。
「家に居たんだがお前が化け物と戦っていると聞いてな。おまけにその化け物は死体を取り込んで強くなっていくそうじゃないか。不安に思って様子を見に来たんだが、正解だったな」
「他の盗賊は全滅したとの事だったから、俺もこっちに来たんですぜ」
「すまない。助かったよ。デルミカル、ゲイルさん」
「なんだ?お喋りは終わったか?救援が来たところで結果は変わらねぇが、まあせいぜい俺を楽しませてみな!」
バガス達を眺めながらニヤニヤして待っていたらしき男は、ゆっくりと山刀を構えた。
◆
キィィン─
ギィン─
あたりに、戦闘の激しさを物語るかのような激しい音が響き渡る。
バガス、ゲイル、デルミカルの即席パーティ対キマイラや狂人盗賊を吸収した大男。
もともと防御性能が高いバガスと、タンク職であるゲイルが前、デルミカルが後ろからの支援でバフやデバフをかけている。
攻撃の殆どをゲイルが受けもって耐え、バガスが隙をついて攻撃をする。
男はゲイルを無視できないために、バガスの対応に苦しんでいる様子。時々、反撃を繰り出しているが、バガスはその俊敏性の高さで殆どを躱していた。
稀にあたる反撃も、鱗による防御力故にゲイルとバガスに意識を向けた状態の攻撃では、ダメージを与えられていなかった。
(よし。このまま行けばなんとか勝てる!)
戦いは、バガス達に有利に傾いてきていた。
「っ!くそっ!」
男は顔を歪ませながら、必死に対応していた。
しかし、そのままだとジリ貧だと理解しているだろう。焦りからか、だんだんと動きが荒くなくなってきていた。
いくらステータスが上昇しようと、所詮は人の身。可動域や死角、反射や処理能力まではどうしようもない。
それに、もう男が強化に使う死体も残っていないと思われた。
勝負はもはや、ついたも同然だろう。
◆
バフやデバフ、タンクによる相手の釘付けに加えて三人がかりで相手をし、何とか優位を取ることが出来た。
「がっ!くそっ!クソが!」
男はまだ悪態をつくくらいの気力は残っているようだが、蓄積していくダメージを考えれば、もうすぐ決着がつくと思われた。
それは、キマイラや狂人盗賊を吸収した事による規格外の体力を計算に入れても、ゲイルを無視できず、逃げられず、バガスとデルミカルによって妨害され、異常なステータスも機能せず、まともな攻撃も出来ない状態であれば、男に勝ち目は無かった。
「うぉ。くっ!上位狂…」
「はぁっ!」
「ぐ!うぐ…がふっ」
疲労からか、男に出来た致命的な隙をバガスが手刀で貫く。
バガスが手を抜くと同時に、男は血を吐いて倒れた。
「はぁっはぁ…」
「やっと終わった…」
「こりゃあ、脅威度AAは確実にあったな」
激闘の終了を告げるかのような静寂に、三者三様の反応が響く。
辺りはすでに暗闇と静寂が支配しており、もしかすると、もうすぐ辺りが白んでくるかも知れない。そう感じるほどの激闘であり、体感時間ではとても長く感じられた。
「だが、殺しちまってよかったのか?」
「玖苑さんが何か情報が聞けるかもと仰っていたが、おそらくこいつは何も喋らなかっただろうし、問題はないんじゃないか?」
「そうですね。しかし、土地の荒れ方が凄くて、ダンジョン祭に影響が出ないか不安です」
「土地については、我らがなんとかしよう」
戦闘により荒れた土地の心配をしていると、いつのまにかバガス後ろに立っていたレオグリンドが、声をかけてきた。
「出来るのですか?」
「無論。玖苑!」
「はい。レオグリンド様」
レオグリンドの呼びかけに、これまた何処からともなく現れた玖苑が応える。
「想造魔法〈オリジナルマジック〉:大農家」
「竜神の寵愛と祝福を〈ブレス・オブ・エンプレス〉」
玖苑とレオグリンドの二人が同時に技を唱える。
玖苑の唱えた想造魔法は、事象を強くイメージする事で魔力に干渉する、その個人専用の魔法。
いわば、ユニーク魔法とも言える代物である。
これを他の誰かが真似しようとしても、結果や効果は人それぞれとなり、コピーするには、相当高い魔力適正とイメージ、才能などが必要とされる。
「大農家」の効果は、あたりに魔力を散らしてその魔力から空間や土地などに影響を及ぼすといったものだ。
レオグリンドの「竜神の寵愛と祝福を」は、レオグリンドのユニークスキルであり、その効果範囲は広大で、山一つを軽く包み込む。
効果範囲内にいる味方の能力の上昇+魔力的効果の増幅、フィールドの形成などその他様々な支援を含むスキルである。
みるみるうちに土地が修復され、あたりが整地されていく。
それは、もともと荒れてなどいなかったというような様子であった。
ルビ、このままでもいいですか?