なんでもできるうちの娘は、異世界ライフを落下からスタートさせる   作:オケラさん

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霊体の特性と魔力

「ダンジョンを進んでいくと、深奥に巨大な黒い扉があります。そこまでがギルドの管理下です。ダンジョンの中は迷路のようになっていますが、そこもギルドの管轄なので、たとえ迷っても大丈夫です。定期的にギルドスタッフが巡回していますので。ただし、亀裂などの横道は未だ未探索となっていまして、未知の場所なので入るときは十分注意して、相応の準備と覚悟をしてください。魔物よけの結界が貼ってありますので、魔物が自分から亀裂を抜けてくる事はありません。しかし、終われた状態で逃げ込んでも効果は薄いと思いますので気をつけてください…」

 

ダンジョンに潜る前に受付でされた注意と説明である。亀裂への侵入を禁止しないのは未探索故にギルドも情報が欲しいのだろう。

今回、ダンジョンに来た目的は三つ。

・魔力を増やすため

・実戦経験が乏しいため

・面白そうだから

以上の三つを目的としてダンジョン祭に参加したのだ。考え無しで即決した訳ではない。

 

 

そんなこんなで現在はダンジョン内部。

 

「なんか、確かに迷路っぽいけど大した危険もないし、お宝もない。宝箱はあらかた開けられた後だし聞いていた亀裂とやらも見当たらないね」

「そうですね。迷路のような横道はあれど、太い幹のような道が多くわかりやすいため、方角さえ分かっていれば最奥にまでたどり着くのは造作もなさそうですね」

「つまんなーい」

 

キコは完全に飽きたようだ。

しかし、ここはなんというか居心地がいいな。まるで布団の中にいるかのような安心感がある。

こう、すっぽりと全身を優しく包み込まれているような…

 

「ただ、地上に比べ魔力の濃度が濃いため、居心地よく感じますね」

「キコもキコも!なんかね、みんなと一緒にいる時みたい!」

 

どうやら居心地のよさを感じていたのは俺だけでは無かったようだ。おそらく、地上に比べてダンジョンには魔力の濃度が高いためだろう。

俺は幽霊で全身魔力の塊だから。

アリスは眷属だし、なんだか幽霊に近いっぽい種族だし。

キコちゃんは…なんでだろ?狐獣人は獣人の中でも魔力が多く、魔力を主に使うらしいが、それも関係しているのだろうか?

 

「マスター。前方50メートル、生体反応あり。単独。サイズは縦横2メートル程。芋虫型の魔物かと思われます」

 

アリスが魔物を検知して教えてくる。

俺は集中しなければ50メートル先のことなんて読み取れないが、どうやらアリスには片手間らしいな。

 

「ありがとう。さて、キコはどうしたい?」

「やったー!キコが倒す!」

 

うん。キコちゃんも復活したようだしよかった。

リンたちは別段焦るでもなく歩みを進める。

相手がこちらに気づいてなく、さらに重鈍そうなのであれば焦る必要もないだろう。

 

「あ、あれか」

 

俺もようやく検知する事ができた。

体型はブクブクと太った芋虫型の魔物。あたりに糸を張っているな。

だがまあ、未探索の所から来たとも思えないし、もともとここらにPOPする低級の魔物なんだろう。

距離としては、一般だとギリギリ視認できないくらいの距離だ。洞窟の暗さも相まって、その視界をさらに悪くしている。

俺だって魂魔掌握が無ければ分からないだろう。

 

「キコちゃんはあれが見える?」

「見えるよ!あれだね。」

「糸を使うみたいだね」

「よしじゃあ火で燃やしちゃおう」

 

キコちゃんの周りに鬼火のような青い炎が漂い始める。

それは次第に数を増していき、キコちゃんの周りを飛び回っている。

 

「フゥー。狐火!」

「まってください」

 

キコが放った炎が突如現れた青色の半透明な壁にぶつかり弾けた。

アリスが展開した魔力の壁だ。

おそらく魂魔掌握で作ったのだろう。

 

「もー!何するのー!」

「あの魔物の側に生体反応を確認。おそらく人、冒険者でしょう。糸に絡め取られているのか身動きが取れない状態にあるようですね。あのまま燃やしていては、巻き込んでしまっていたでしょう」

「そんなぁ…」

 

うん、そうだったのか。ゴメンよキコちゃん。

俺もそこに意識を向けてみる。

確かにいるな…数は5くらいかな?

3人くらいが動けるらしく、芋虫と戦っているようだ。

あ、一人攻撃を食らってしまった。

おそらく冒険者かな?ただ、子供のような反応があるのが気になる。

とりあえず、こっちに注意を向けて誘導するか。

 

リンは手元に剣を作り出す。

もちろん魔水晶である。

 

(やっぱり魔法を込めるのは難しいのかな?)

 

リンは出来た剣を弄りながら、魔法を込める事に失敗した事を思い出す。

 

(でも魔力の塊だしな…)

 

前回の失敗では、魔水晶の中に魔法を込めようとした。しかし、

 

(爆発したんだよな。でもそうじゃ無ければ発動しないし)

 

結果は発動しないor魔法の暴発であった。

魔法とは、術者の念などが大気中の魔力に影響して現象を起こす。

人の思念は魂と密接な関わりがあり魂とは大雑把に言えば魔力の塊のようなものであるため、そういった事ができる。

しかし魔法陣などはあくまでそれを補助するためのもの。思念が足りない者たちへの手助けに過ぎない。

よって何かアクションを起こさねば発動しない。魔法陣なら描いただけでは待機状態。蓋をされて逆さまになっている容器のようなものである。

 

では魔水晶に魔法を込めるには?当然、魔水晶は純粋な魔力の塊であるためにそれだけでは魔法は発動しない。

魔水晶に思念を送るか魔法陣を描くのだ。

魔法陣の描かれた魔水晶は、魔法を発動する僅かなアクション、少しの思念や詠唱だけでできた。が、これにも問題があった。

繰り返すが魔水晶は魔力の塊であり、魔法は思念などが魔力に影響して起こる。つまり、通常の大気中の魔力への影響で普通の威力、普通の効果なのである。

 

これに魔法陣を描き込んで魔法を使おうものなら、魔水晶の魔力を消費して魔法がその場で爆発する。指向性も何もあったものでなく、あたりに影響を及ぼす。これは、魔水晶に詠唱で魔法を使った場合も同様だった。

よって、魔水晶の使い道といえば、使い捨ての高性能エネルギー、携帯出来る魔力くらいの価値だった。

 

しかし、リンには魂魔掌握があった。

これがあれば、一定範囲であれば魔法陣の発動など造作もなく行える。

おまけに剣の形の魔水晶である。もちろん、刺さる。

 

リンは火の魔法陣を剣型魔水晶(以下、剣水晶と呼称)に施し、思い切り魔物へと投擲した。

加護がレオグリンドとの修行のおかげか、ステータスが存外上がっていたようで、剣水晶は深々と刺さった。

 

「起動!火炎(ファイヤ)!」

 

リンは魂魔掌握により魔法陣を遠隔起動した。

剣水晶に描かれた魔法陣は、剣の魔力と周辺の魔力を糧とし、その場に凄まじい熱と衝撃をもたらした。

その一撃で芋虫魔物は体の大半を失い、奇声を上げ倒れた。

 

「やばっ…やらかしちゃった?あそこまでだとは…」

 

リンはその威力に思わずビビっていた。

本来ならここまでの威力はなく、キャンプファイアーくらい、最大でも小部屋一つに及ばないくらいのサイズのはずである。

 

ところで洞窟内で火はいいのかって?

ところがどっこいお客さん。

魔法の炎は現実の炎と違い、魔力によってその事象が引き起こされる。酸素を必要とせず、密閉空間で使っても平気なのである。(まあ、中には本物の炎を起こす魔法もありはするが…)

 

 

「ズルい!」

「ゴメンってば…」

「これはマスターが悪いですね」

 

リンは拗ねてふくれっ面になってしまったキコを慰めていた。

仕方がないだろう。退屈していた所にやっときた暇つぶしの面白そうな事を先にとられたのだ。しかも、待ったをかけて止められて…

 

しかし、判断は正しかった。

狐獣人の使う狐火や鬼火は、魔法とは違い種族スキルである。より密接に魔力との関わりがあり、よりイメージに近い現象を引き起こす。

つまり、本物に近い炎なのだ。狐火自体は解除で消えるが、狐火から燃え移るのは普通の火なのである。本来、魔法であればそのような事は起こらないがスキルならば別であった。

 

「ほ、ほら。取り敢えずあっちの人たちの様子を見ようよ」

「う〜。次はキコだからね!」

「わかってるって。」

 

リン達は糸まみれとなった冒険者達に近づいていく。

 

「あの…大丈夫ですか?」

「おお、君たち。さっきの爆発は君たちが?良かったら手を貸してくれないか?」

 

元から動けた人の一人、細身というよりはしなやかと言える男が応えた。

外見は黒を基調とした軽装であり、腰には小刀に似た武器とよくわからない刃物がいくつか下がっている。

 

他に動けるのは豪華そうな鎧を着た厳つい男。騎士みたいな外見をしている。

糸で捕まっているのが、先程捕まったばかりらしい中肉中背のフツメン、僧侶風のイケメンと…貴族の坊ちゃん?

…いや、そうとしか言えないのだ。

 

騎士と僧侶を供回りにつけてダンジョンに来た貴族の子供、しかも嘲笑というか、こちらを見下すような視線を向けてくる。

 

「何をしている?早く僕を助けろ。冒険者ども。おい、そこの半霊は来るなよ?穢らわしい」

 

仕方ない…無視して先に進もう。あんなに拒絶されたんじゃどうしようもないな。

まったく、この世界の半霊人の扱いときたら、侮辱か壊れ物扱いの二択だな。まだ他の半霊人にあった事はないが、世間的にも常識となるくらい余程に弱い種族らしいな。

 

リン達は無言のまま横を素通りして前へと進む。途中、アリスが坊ちゃん一行に魔法を打ち込もうとしたが、慌てて止めて連行する。

しばらく進んで、リンが口を開く。

 

「何するのさ?いきなり他人に攻撃魔法を撃ち込もうとするなんて」

「彼はマスターを侮辱しました。ヒトへの態度が成っていないと判断し、その助長原因と思われる人間もろとも痛い目を見てもらおうかと」

「いや、怪我するよ?ふつうに攻撃魔法を直撃したら小さくはない怪我負っちゃうよ?」

「はて?それが何か?」

 

アリスの反応は、惚けているという様子ではなく、むしろこちらの言っていることが心底不思議でならないというようだった。

どうやらアリスは、自分の身近なヒト以外はどうでも良いというスタンスらしい。

これは、制作者であるリンがこれに近い性格をしており、これがより顕著になったという事だろう。子供は親の背中を見て育つとはよく言ったものである。

 

「相手、明らかに良いところの坊ちゃんじゃん?怪我させたらマズイでしょ」

「マスターが助けたのですから、感謝こそされても侮辱を受ける謂れは無いかと思いますが?」

「うーん…」

 

たしかにアリスの言うことは間違いじゃ無いだろう。それにここはダンジョンで、人が死んだとて不思議では無い。むしろ、死なない若しくは重傷者なしの方が不気味かもしれない。

 

「まあいいか!よし!進もう!」

「次はキコが倒す〜!」

「……」

 

取り敢えず気を取り直して探索再開と行こう。

アリスのキコによる灯りが辺りを照らしながら浮遊する。リンが再び魔水晶を作って弄っている。

 

「何をしているのですか?」

「さっき魂魔掌握で魔水晶の利用ができたから、他にも出来ないかと思ってね」

 

そう言うなり、リンは閃光:フラッシュの魔法陣を描き魔水晶を起動した。

その時、不思議な事が起こった。魔水晶は眩く輝き出し、周囲を白く染め上げる。思はずリンは目を固く閉じ、キコは手で目を塞いで蹲った。

 

「うわっ!」

「眩しい!」

「やれやれ、何をしているのですか…」

 

眩しく無いのか、アリスが発光し続ける魔水晶をひったくり、地面に投げつけ破壊した。

次第に、あたりに元の薄暗さが帰還する。

リンとキコがゆっくりと目を開いた。

 

 

普通なら網膜が焼けていてもおかしくないほどの閃光。

だがしかし、幽霊、幽霊少女、狐獣人は希少種も希少種。

魔法に対する耐性もさながら、物理的な事象は魔力の高さ故に体が変質しており、ある程度のことならば問題にならない。

 

「うぅ〜。まだチカチカする〜」

「うーん。私は大丈夫だよ」

「やっと一人称を私にしましたね」

「うん。やるからには全力で演技をしよう。そう思っただけだよ」

「ひょっとして元から女の子になりたかったんじゃ無いの?」

「い、いや。そんな事は…」

「鋭いですね、キコ。実はマスターの趣味はTSものが多いのですよ」

「ねぇ!ヒトのパソコンの中身を勝手に暴露するのは酷くない?」

「ほら見なさい。キコ、この反応は事実を隠すためのものです」

 

話が落ち着いた所で、キコがあることに気づく。

 

「あれ?…リンおねーちゃん?右手、どうしたの?」

「右手?」

 

一同がリンの右手に視線を移す。

そこには、手首から先が綺麗に消失した右腕があった。

 

「え?…え?手、手が…」

「大丈夫だよ。回復薬持ってきてるの」

「…ふむ。マスター、痛みはありませんか?…」

「ひっ、痛み?あれ?痛くない…」

 

リンは消失した右手から痛みが生じていないことに気づいた。と同時に疑問も浮かぶ。

なぜ痛みすらないのか?普通なら、右手が消失すれば、相応の痛みや出血が伴う。

しかし、リンの右手からは痛みはおろか出血も無い。それに、大きな混乱も無く比較的落ち着いていた。

 

「…?」

「簡単なことです、マスター。マスターは自身の種族を覚えていますか?」

「半霊人?」

「いえ。マスターは本来、幽霊です。それに、ご自身の種族を確認してみてください」

「うん?自己鑑定:セルフステータス」

 

リンは、自身の種族を確認する。

 

リン・フォール・ヴァルナ

種族:幽霊

(半霊人 半竜人 霊竜 アンデット「骸骨:スケルトン、動く重鎧:リビングアーマー、腐男:ゾンビ、etc...」 蝙蝠 etc…)

加護

竜神の加護【竜の権能】『混沌』

スキル

【種族】

反響定位(エコーロケーション) new!

超音波 new!

etc…

【エクストラ】

竜人化

高速思考

暗視 new!

etc…

 

以下省略

 

 

うん?前と表示形式が変わってる?

リンが首を傾げていると、アリスが説明を始めた。

 

「表示形式が変わっているのはマスターがこの世界に馴染み、尚且つ魔力量が多い事に原因があると思われます。自己鑑定は魔法に近いものですので、自分のイメージする表示形式となったのだと。」

「成る程…」

「そして、種族を確認しましたか?」

「うん。幽霊だった」

「おそらく、マスターが今まで行っていたのは魂魔掌握による形状の変化だったのだと推測されます。よって、体は高濃度純度100%の魔力体。よって、閃光の魔法が魔水晶からそのままマスターの体を消費して発動を続けたものと思われます」

「体を削って発動する魔法とか嫌だわ…でも、発動時間の割に部位欠損が小さいのは?」

「発動時間については、魔力の濃度故でしょう。閃光はたしかに多めの魔力を消費しますが、それを数秒維持するにも、マスターの右手だけで足りたという訳です」

「右手だけなのか右手までなのかは疑問に思うけど、発動し続けてたらどうなってた?」

「おそらく、体の全てを使い切って最低限、魂だけとなったでしょう。まあ、幽霊であるマスターならばその状態からでも元に戻ることは可能ですが」

「消滅寸前までいったわけか…危なかったぁ」

「マスター?口調が男っぽいですがどうなさいましたか?それでは立派な女性になれませんよ?」

「なるつもりは無いから。いや、別に女児のフリをする以外なら成り切る必要は無いと気づいたんだ。確かに他の人から見れば違和感があるかもしれないが、事情を知ってる人しかいないなら大丈夫じゃない?ところで、右手が欠損したままなんだけど、直す方法は無いの?」

「回復薬かけてみる?」

 

そういうなりキコがリンの元右手に回復薬をかける。しかし、いくら待っても効果は現れない。

 

「ま、それも当然か。体が魔力で出来ているのに、肉体を修復する回復薬が効くわけないか」

「魔力液もあるよ?」

 

魔力液とは、名前の通り魔力の溶け込んだ液体で、飲むと魔力が回復するアイテムである。

キコがリンの元右手にそれをかける。先ほどと違い、変化は一目瞭然だった。魔力液はかけたそばから腕先に集まり、固まりだした。

これなら手の欠損も元に戻りそうだと安心したリンであったが、一瓶使い切る頃には、まだ手首の半分くらいしか回復していなかった。

 

「うーん。まだ瓶はあるけど、このままじゃ足りないよ?」

「さて困った。どうしよう」

「マスター。戻す方法はございます」

「え?あるの?」

「はい。ですが、その…」

「アリスおねーちゃん?どうしたの?」

「戻れるならなんでもいいけど?」

「それをすると、マスターが成長する可能性が…」

「よし!今すぐやろうか!」

「待って!そんな方法ダメだよ!アリスおねーちゃん!」

 

待て、待て待て待て。アリスもキコも、何故そこまで俺にこのままの姿を望む?

じゃあ、何のためにダンジョンに来たんだよ?

 

「え?いや、何で?それで戻るならいいじゃん?」

「小さいままの方がかわいい!キコがたくさん魔力液買って治す!」

「その姿は、マスターの理想の姿。ならば、問題は無いかと」

 

ダメだ…コイツら俺をこの姿のまま止める気満々だ。自分で考えるしか無い!

リンの体は魔力の塊である。それは、魔力液で僅かに手が修復されたことからも確かである。ならば、体を修復するには魔力があればいいわけだが、リンの体は高純度高濃度の魔力体である。先ほどの回復が軽微であった事からもわかるように、生半可な量じゃ部位修復には至らない。

先ほどの魔力液も、一般冒険者の魔力を全快、上位冒険者の魔法職であろうと八割以上回復させる逸品であったのだが、それでも僅かに手首が修復されただけである。

この事からも、リンの魔力量がどれだけ多いか分かるというものだ。ただ、それはダンジョンに入ってからどんどん上昇しているのだが…

つまるところ、リンを治すためには大量の魔力が必要という事だ。そして、ダンジョンに入ってから上昇し続ける魔力。その事が意味するのは…

 

リンの思考がそこに達した時、

 

「しかたありませんね。マスター、簡単な話、一定時間ダンジョンにいれば良いのです」

「アリスおねーちゃん⁉︎」

「大丈夫です、キコ。それまではこの姿のままです。おそらく、マスターの魔力量であれば右手を修復するのにも相当な時間を要します。さらに成長など、一ヶ月あっても足りないと思われます」

「いや、普通にこうすれば良くない?」

 

言うなりリンはどこからともなくこぶし大の魔水晶を取り出した。

 

「そちらは?」

「ん?ここって魔力濃度が濃いじゃん?魂魔掌握で魔力を集めて魔水晶にした」

 

先ほどまで作っていた魔水晶は己の魔力を固めたもの。こちらは空気中の魔力を固めたものである。

説明が終わるなり、リンは魔水晶を食った。…そう、文字通り食べた。拳ほどの大きさの魔水晶を、大きく端が裂けて大きくなった口を開いて、一飲みにした。

そして、リンが右手に意識を向けると、リンの右手がみるみる再生していく。

 

「よっし。予想通りだ」

「い、一体…」

「ん?手を治すには魔力が必要で、ここにいれば1日ほどで治ると思う。でもそれだと時間がかかりすぎるから、手っ取り早くここらの魔力を取り込むために、固めて食った」

 

そう言い終え、リンは再び魔水晶を生み出す。リンの手を見ると、まだ指などが戻りきっていなかった。どうやら足りなかったようである。

 

(お、そうだ)

 

リンは唐突に魔水晶を放り投げて右手を向ける。そして、落下のタイミングで右手が伸び、大きな蛇のようになって魔水晶を食った。

これには、アリスもキコも呆然である。

 

「な?凄いだろ?」

「出来れば知られたくなかったのですが…」

「そういうところを見ると、リンおねーちゃんはやっぱり幽霊なんだなって思うよ」

 

どうやらアリスは既に出来ることを予想していたらしい。

こうしてリンの右手は元に戻ったのだが…

 

「よし。後はこれを何回か繰り返して…」

「お待ちください、マスター。キコを見てください」

「もう少しこのままでいよ?いろんなリンおねーちゃんも好きだけど、今はせっかく可愛くなってるんだから…」

 

どうやらリンの女性化を諦めていないらしい二人の必死の哀願により、もう少しこのままにする事になった。

 

「わかったから。わかったから。そんな目しないで。泣かせたみたいになってるじゃん」

「事実、マスターが泣かせたのでは?」

 

子供には弱いらしいリンはキコの攻撃にオロオロし、アリスがさらに追い討ちをかけた。

 

「じ、じゃあ。ダンジョン出るまではこの姿でいよう。で、後は出てから考える」

「やったー!」

 

リンは、元に戻れなかった事に「まあいいか」と内心思いそう言えば自分が男に対して未練が薄いことを思い出した。

この姿で一ヶ月以上過ごしているが、別に違和感など無いし、男の姿になればどうなるか試してみたかっただけである。まあもっとも、魔力量が足りない状態では、またショタ化するのが目に見えているのだが。

 

その後はちょこちょこモンスターの数も増えてきたが、対して苦戦することもなく先に進んでいた。当然だろう。アリスが索敵して、キコがストレス発散のために狐火やら魔法やらを連打して倒す。そして使った魔力の補充という名目でリンが生成した魔水晶を奪い取り、リンの成長を阻止しようとしていた。

まさに、ナイスコンビネーションだと言える。

 

前衛となったリンは、する事もなくそこら辺の採取に勤しんでいた。キコが対応出来なくても、アリスが援護して近寄られる前に倒してしまうのだ。前衛の出番などない。おまけに、作ったそばから魔水晶を取られるのではやる事もなく採取担当というのも仕方ないだろう。まあもっとも、リンは元々採取部門で登録しており、アリスとキコは討伐部門だ。なんら間違ってはいない。

 

(お、この薬草は使えそうだな。ん?あっちには鉱石がある。天然の魔水晶はあるかな?)

 

そん感じで、あっちこっちへフラフラしながら周囲の薬草や鉱石を刈り尽くしていた。

魔力の多いダンジョン内では、地上と比べて効能が良いものが多く取れる。それらは魔力を多く蓄えており、微量ながら魔力回復の効果もある。

そんなダンジョン資源を、リンは一部を除き片っ端から食べていた。魔水晶を作ったそばから取られるので、効率は絶望的に落ちるが、魔力を含む資源を回収していこうと考えたのである。もちろん、根こそぎ回収しているわけではない。ちゃんと生態系が維持できるよう、ある程度は残してある。他の冒険者が採取できない程度に刈り尽くしているだけであって…

 

(うーん…なんら変化が無いような)

 

ある程度の魔力を取り入れ、改めて自分の体を確認するリンであったが、変化がなく落胆していた。

その時、戦闘が終わったキコから声がかかった。

 

「あ!リンおねーちゃん!髪が伸びてる!」

「おや、本当ですね。マスターがより女性的になりました」

 

身長などは大した変化ら無いが、肩甲骨辺りまであった青白い髪が、腰の辺りまで伸びていた。

 

「なんでだよ…」

 

リンが落ち込むが、その程度の魔力しか取り込めてなかったという事だ。それに、髪に魔力が使われたのは、今のリンが女性体だからであって、男性体であれば、平均的な身長の小学生が高身長の小学生になったくらいの変化はある。

 

「ねえ見て!亀裂があるよ!ここが未探索の所じゃない?」

「本当ですね。どうしますか?マスター」

「やめといた方がいいと思う。俺たちはまだ実戦経験が少ないわけだし、迂闊なことするより、そのまま進もう」

「えぇ〜。キコは大丈夫だよ?」

「実戦経験が少ないのはマスターだけでは?」

「いや、でも行かない方がいいと思う。奥に進むにつれてモンスターの強さも上がってるし、危険だよ」

「うぅ~。わかった」

「っ!キコ、またモンスターが来ますよ。構えてください」

 

キコとアリスが再び戦闘を開始し、リンは採取に戻った。小犬程の大きさのアリの群れで、なかなかにすばしっこく攻撃が当てづらいらしい。おまけに数が多く、1、2匹倒した程度では止められない。

アリたちによる蟻酸攻撃がとんでくる。これをアリスが魔力の障壁で受け止め、キコが狐火を放つ。しかし、アリたちは統率のとれた動きで犠牲を最小限に向かってくる。

 

「ああぁぁぁ!もう!」

「落ち着いてください、キコ。攻撃が乱れています」

「こうなったらぁ![[rb:火流円環 >フレアサークル]]!」

 

苛立ったキコが範囲型魔法を使った。広範囲の炎に、焦ったアリたちが四方八方に逃げ出した。

そして、その半数近くがリンたち一向に突撃してきたのだ。アリたちは恐怖からかキコを避けて進み、アリスは自分にぶつかってくる個体をいつのまにか取り出した剣で滅多斬りにしていた。

そしてリンは、バラバラになったアリの死体が命中し、




ここまで読んでくださりありがとうがございます。
いえ、気付いたらここまで長々と書いておりまして、途中から分けようとも思ったんですが、区切りが見当たらず...
次回もこのくらいになってしまいそうでございます(すでに2000文字)

アドバイスや感想、意見などお待ちしております。
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