なんでもできるうちの娘は、異世界ライフを落下からスタートさせる 作:オケラさん
次回くらいに主人公{美少女(異形)}視点に戻ります。
「やめろ!何をする!」
「クソガキ!大人しくしろ!」
「くっ、くそ!」
洞窟内部のある所にてひとりの子供が、ガラの悪い男に捕まりそうになっていた。
子供は上質な防具を身につけており、体系は太り気味。そしてその態度からして、ある程度裕福で上位の家の生まれだと推測される。
一方で男は、軽装で汚れた装備。腰と手にはいくつかの刃物といった、山賊風の格好である。しかし、見るものが見れば、彼は冒険者であると分かるだろう。その身のこなしや技術から、偵察などに優れた泥棒:シーフなどに類する職業であると推測できる。
「くそ!お前たちは護衛のために雇った冒険者のはずだ!こんな事をしたら、お前らどうなるか分かってるのか!」
「ひひひ!分かってるとも。ええ、分かっていますよ?お坊ちゃん?」
「おい!僕を助ける奴は居ないのか!執事は?お父様からの護衛は?お前ら、どこにやった!」
未だに威勢の衰えない坊ちゃんが、護衛たちのことを訪ねるが…
「ん?あぁ、こいつらの事かい?おい。」
「へい。カシラ」
「ぐぅ…申し訳ありません。個々人では勝てても…数に負けてしまい」
男の合図で、物陰から出てきた手下が少年の護衛と執事を引きずってくる。その体はボロボロであり、しばらくは動けそうにない。
そしてさらに、その後ろから複数の盗賊風の男が出てくる。その中には、ダンジョン街でリンたちに絡んでいた男たちもいた。
「よし、連れて行けお前ら。護衛はどうしようもない。身ぐるみ剥いだら殺してしまえ」
「まっ…待ってくれ。我らはどうなってもいい。だが、お坊っちゃまだけはどうか…どうか助けてほしい」
「ほお?いい部下をつけてもらえたな坊主?安心しろよ。命までは取らねえし、俺らがこれ以上傷つける事はない」
「へへへ。良かったなぁ、ボウズ?お頭のご厚意に感謝しな」
「ふん!誰が貴様らに感謝などするか!それに、護衛がボクを守るのは当然だ!」
少年の、未だに自分が優勢だと思っている態度にキレたのか、盗賊は彼らを引きずって無言で進みはじめた。
そして、大きめの亀裂の前で足を止めた。
「ふん!」
いうなり、男は少年の供回りを全て亀裂に蹴り落とした。
「これでボウズ一人になったなぁ?いいか?これ以上騒ぐんじゃねえ。大人しくしてろ」
「ひっ…か、金か?金が欲しいのか?や、やる。父上に頼んで…」
「黙れってんだろ!」
「待て!」
身分が高い人達の意地なのか、それとも根本からそういう考えなのか。とりあえず、少年の上から目線な態度に腹を立てた男が、少年に殴りかかろうとした。
だが、そこに制止の声が割り込み、全員がそちらに注目する。
「大の大人が…子供を傷つけようとは情けないな。そこまでにするんだ!君たち!」
そう言って登場したのは、茶髪の優男風な高身長。リンたちとギルドで話したり、ダンジョン街で助けてくれた男だ。
「子供を襲っては誘拐する。近頃注意が出ていた盗賊団だな?その子を離せ!」
「ふん。偽善者か?ヒーロー気取りか?数の差が分からないのかよ?」
「お前らなど、私一人で十分だと思わないのかね?」
「ふざけやがって…行くぞ!お前たち!」
「「「うおぉぉぉぉ!」」
「今朝の恨みだ!」
「あの時はよくも止めてくれたな!」
短気なのか、誘拐団はすぐに攻撃に転じた。
あまりにトントン拍子で進みすぎて、都合が良すぎるようにも思えるのだが、少年しかいないこの場では、それを口にするものはいなかった。
◇
迫り来る男たちを前に、優男は涼しげな顔だ。
「中位召喚
男の前にゴーレムの様な土色の狼の群れが登場した。
それらは、迫り来る男たちに次々と襲い掛かり、男たちは沼化した地面に絡め取られて動けなくなっていった。
「……」
少年が、その光景に呆気にとられていると
「大丈夫かい?今助けてあげるからね」
どこから現れたのか、黒色の服を着た男が、少年の高速を解き、少年を抱えて優男のところまで移動する。
その動きはまるで、その場にいないかのように、不感知、不干渉で察知する事は困難であった。
「くっ!くそ!」
「お頭!人質が!」
「うるせえ!分かってる。ひくぞ!」
「逃がさないよ?」
「なっ…」
慌てて逃げようとする男たちを、土塊の狼が拘束する。
「さて、ボク?もう大丈夫だからね。安心して。僕たちが安全なところまで連れていってあげるよ」
「か、感謝するぞ」
「コイツらは狼に見張りをさせて、取り敢えずギルド本部に応援を呼んでこよう」
そういうと、優男と黒色の男は少年を抱えて歩き出した。
「ボク?一人かい?他の人たちはいないのかい?」
「そ、そうだ。亀裂に蹴り落とされたんだ。全く情けない…」
「亀裂?どこか分かるかな?」
「あ、それは。アイツらがいたとこの亀裂だ…」
「戻る事になるけど…まあいいか。全く面倒だな…」
◆
「…。…!」
「……!」
土に縛られた盗賊たちが、戻ってきた一行を見て何かを叫んでいる。
しかし、口を塞がれているためにその声は届かない。
「さて、この亀裂かい?」
「そ、そうだ。」
「よしよし。じゃあまずは、コイツらを先に送っておいてしまおうか。おい、狼たちよ」
優男の合図に従い、狼が誘拐団たちを連れて何処かへ去っていく。
「じゃあ、そっちは頼んだ。早いとこその子を届けてくれ。」
「分かった…」
優男が指示を出し、狼と黒服がそれ従い各々を連れて歩いていく。
姿が見えなくなったところで、優男が
「狼たちよ!これを破壊せよ!」
優男の声に応え、狼たちが戻ってきて亀裂を攻撃し破壊する。
当然、崩れた瓦礫で埋もれてしまい出入りは出来なくなった。
◆
黒ずくめの男と少年、そして誘拐団一行はしばらくするとひらけた場所に出た。
「…ここは?」
「……」
黒服の男は答えない。
が、かわりに答える声があった。
「ここは俺たちのアジトだ。そしてオマエが行くのは奥にある大部屋だ」
「なっ…何言ってるんだ!おい!コイツらがおかしいぞ!それに何で拘束も解けてる?」
「……」
「おいってば!」
「…うるさい」
拘束が解け、部屋に広がっていく誘拐団達と、少年を煩わしそうにしている黒服の男、そこへ──
「やあ!何してるんだい?こんなところで」
「あ、お前!おい。コイツがおかしいんだ!誘拐団の奴らも奥に入っていったし…」
「そうかそうか。よし、君がいるべきはここじゃなくてあっちだ」
そう言って、優男は奥にある一際大きな扉を指差した。
「は?何を言ってるんだよ?取り敢えず、コイツら止めろよ!というか、僕の執事や護衛はどこだ?一緒に戦えばある程度の戦力にはなるはずだ」
「ん?あぁ、あの亀裂かい?狼達に崩させたよ?」
何でもないことのように出た男の言葉に、少年は目を見開いて動きを止め、なにも喋れなかった。
「え…?何してるんだよ?それじゃあ助けに行けないだろ…?」
「ん?何ってそりゃあ。助からない様に亀裂を崩したんだけど?」
「え…え、え?な、なんで…」
「そりゃあ、邪魔が入らないようにするためと…口封じ?ほら、誘拐団がダンジョンにいるってバレたら面倒なことになるじゃん?」
「─っ!」
少年は、一直線に大部屋の出入り口へと駆け出した。だが、所詮は子供足、あっさりと捕獲されてしまった。
「じゃあ、おやすみ。
男が魔法を発動し、少年は意識を失った。
洞窟内には、まるで不安を煽るかのような、はたまたこの事態を警告するかのような、低く、鈍く、重い音が響いていた。
ではまた来週。
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