あの日の戦友たちは今敵となる   作:ゼノアplus+

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努力

52話

 

 

「この辺で待っていてください」

 

 

時は少し遡る。一夏が福音を撃墜する少し前の出来事だ。民間人の救助を頼まれていた簪は『流星』を量子変換し素の打鉄弐式に戻した状態で、近くの孤島に人を下ろした。

 

 

「よし……早く一夏の元に向かわないと……」

 

「簪っ!!」

 

「……鈴?」

 

 

簪の名前を呼ぶ声の方を向けば、準備が完了してやってきたであろう鈴、セシリア、シャルロット、ラウラがいた。もちろん全員ISを纏っている。

 

 

「一夏はどうしたの?」

 

「まさか……福音に?」

 

「いや、兄様に限ってそんなことは……」

 

「一人で……福音を抑えてる」

 

「何ですって?早く応援に!!」

 

 

各々が急がねば、という態度を示す中で簪は少し怯えながら言葉を続けた。

 

 

「あっちの方……『流星』を出すから、しがみついて」

 

「「「「え?」」」」

 

 

簪は少し離れてから『流星』を展開し、ブースターを吹かし始めた。

 

 

「早く捕まって」

 

「あのスピードで……しがみついていられますでしょうか?」

 

「でもその方が早いよセシリア……うん、仕方ないんだ」

 

「……私、吐かないわよね?」

 

「わ、私はすでに覚悟はできている……ぞ?」

 

 

4人は嫌々簪にしがみついた。振り落とされぬように……自分の安全を祈りながら。

 

 

「じゃあ、行くよ」

 

 

刹那、空気が震えた。特殊な推進剤のおかげでブースターの音は抑えられているが、そのスピードに空を飛んでいた鳥は驚いたのか急に方向転換している。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

圧倒的なスピードに、4人はすでに無言だ。いや、無言にならねば自分を保てないのだろう。現にラウラに関しては白目を剥きかけている。シャルロットは目に光が宿っておらず、セシリアは空を眺め、鈴は顔を青くしていた。

 

 

「…………一夏は大丈夫だったんだけどなぁ」

 

 

『流星』の完熟訓練を終えている簪だけは無事だったが、一夏は体が人外レベルなので比べる対象が間違っていたのだった。

 

 

 

 

〜箒、束side〜

 

 

 

 

「……はい……はい……了解しました」

 

 

PI……

 

 

一夏が見つけた入江で話していた篠ノ之姉妹。しかし、束は急にかかってきた電話に対応をしていたのだった。

 

 

「ごめんね箒ちゃん、大事な話の途中に……んん?箒ちゃん?」

 

「姉さんが……姉さんが敬語を……?世界の終わりなのか?」

 

「ちょっと!!姉が相手でも失礼じゃないかな箒ちゃん!?束さんだって敬語くらい使うよ!!」

 

 

敬語で話していた束を前に、不機嫌を貫いていた箒でさえ遠い目をして現実を否定し続けている。いつもネタにされている通りなのだが、束に原因があるのであまり強く言えていない。ツッコミは鋭いようだが。

 

 

「全く……ちーちゃんといい、いっくんといい、箒ちゃんといい、どうして私の身内は失礼なのかな!!」

 

「それは姉さんの普段の言動のせいです」

 

「おっふぅ……箒ちゃんもなかなか鋭くなってきたねぇ……」

 

 

これだけ見れば姉妹としての会話がしっかり成り立っているように見える。束が一方的にダメージを負っているように見えるのは気のせいだろう。

 

 

「さてと……箒ちゃん、誕生日おめでとう」

 

「え、ああ……ありがとうございます姉さん」

 

 

急な束からの言葉に少しどもる箒だが、素直に受け入れた。

 

 

「か〜ら〜の……誕生日プレゼント!!」

 

「ッ!!」

 

 

束がが元気よく言ったと同時に、何も無かったはずの空間に大きなボックスが現れた。

 

 

「……これは?」

 

「ISだよ」

 

「ッ……私の……専用機ということですね」

 

「うん。私が心血を注いで作り上げた現時点で世界最強を誇るスペックの、『紅椿』さ」

 

「紅……椿……」

 

 

プシューという音と同時にボックスが開いた。そして中から現れた赤い機体。その美しさに箒は放心しているようだ。そのまま何分か眺めていた箒は、目線を下に向けた後しっかりと束の目を見て言った。

 

 

「受け取れません」

 

「…………どうしてかな?」

 

 

キッパリと拒否した箒に、少し悲しげな表情になった束が問う。

 

 

「私は一夏やセシリア達に並ぶ実力もありませんし、ISの適性もC……この学園の入学条件の一つでさえ満たせていません。それに……過ぎた力は人を人あらざるものに堕としてしまいます」

 

「……そうだね」

 

「ッ……分かっているのなら、なぜ!?」

 

「束さんはさ、こんな浮浪者だからIS学園を覗き見ることしかしなかったんだ……何を見てたと思う?」

 

 

入江から覗く空を見上げながら、束は言った。箒は少し考えるが、答えが出せないのか何も言わない。

 

 

「箒ちゃんがいっくん達と訓練してる光景だよ。第二世代の打鉄で必死に専用機持ちに喰らい付いて、負けて、落ち込んで、それでも刀を握ってまた挑んで……箒ちゃんの努力は見てきたつもりなんだけどな」

 

「…………」

 

「束さんが言っても説得力がないよね。天災なんて呼ばれてさ、なんでも出来るみたいに言われてるけど……私だってISを作るまでにたくさん勉強して、努力してきたんだ。その結果が今のこの世界だよ。私の努力は実ったって、ISが世に出回った時思った。

それでも……その努力は今否定され続けている。『ISは兵器』なんて現実がある限り、『宇宙に行くための夢』を開発した私の努力は全て無駄であるって言われてる。

 

ふざけんな!!って思っちゃった」

 

「姉さん……」

 

「最近気づかされたんだけどね……凡人には凡人にしか見えない世界があるってことも知った。私が異常であることは自他共に認めてるから何も言及しないけど、私は人と関わろうとしなかったから私の世界しか見てなかった。

私、最近いろんな人とお話ししてるんだ……って、箒ちゃん驚き過ぎ」

 

「いや……その……イメージが出来なくて……」

 

 

黙って束の話を聞いていた箒も、彼女の記憶とは違いすぎる束の態度や言葉に表情を崩している。

 

 

「あはは……ねぇ箒ちゃん。箒ちゃんはどう?」

 

「私……ですか?」

 

「自分の努力を、認めてる?」

 

「ッ……」

 

 

箒の核心を突くような束の言葉で、箒が目を逸らした。

 

 

「私は私の努力を認めてるよ。どんな結果であれ、私の努力が世界規模で認められてる。とっても嬉しい……だからさ、箒ちゃんも、自分の世界に引き篭もってないで、他の人の世界……客観的に箒ちゃん自身を認めてあげて?」

 

「わ……たしは……」

 

「専用機持ちが強いのは当たり前。いっくんは例外だけど、それ以外の人は全員努力して専用機を勝ち取ってきた。

 

……ダメそうだね。よし!!お姉ちゃんがズバッと言ってあげる。

 

箒ちゃん、君の努力は本物だ!!よく頑張ってる!!」

 

「あっ……」

 

 

立ち上がって片手を腰に当て、ビシッと指を指しながら言った。

 

 

「…………」

 

 

言葉が出てこない。しかし、その感情はすでに束にバレている。箒の目から涙が溢れているからだ。

 

 

「資格なんてどうでもいい。箒ちゃんのお姉ちゃんとして、ちゃんと初めての誕生日プレゼント……受け取ってくれないかな?」

 

 

箒に近寄った束は、正面から箒を抱きしめた。

 

 

「ッ……姉さん。服が汚れてしまいます。離れてください」

 

「ヤダッ、服なんてどうでも良い。当分離さないよ」

 

「……我儘な姉だ」

 

「今更じゃない?」

 

「……今更でしたね」

 

「箒ちゃんはこうされるの嫌い?」

 

「いえ……すごく、心地いいです」

 

「ふふっ……やっと笑ってくれた」

 

 

箒も束を抱きしめ返す。今この場にいるのは、世界を騒がせた天災も、IS学園に通う生徒もいない。ただの仲のいい姉妹が居るだけだ。

 

少し経って、束は箒を離した。その目からは涙が溢れている。

 

 

「箒ちゃん。答えを聞かせて?」

 

「姉さん……ありがとうございます。紅椿、姉さんの初めての誕生日プレゼント。しっかり受け取りました」

 

「うん!!大事に使ってね!!」

 

 

お互いに涙を流しながら笑い合う。いつかの日はこうしていつも笑っていたはずなのに、それすら思い出せない。そんな思いが束の中で溢れかえるが、今この瞬間を一番大事にしているのもまた束だ。

 

 

「箒ちゃん、私、今度お父さんやお母さんに会いに行こうと思う」

 

「ッ!!姉さん……」

 

「ちゃんと謝って、ちゃんと怒られて、ちゃんと家族になってくる」

 

「姉さん、その時は私も連れてってください。家族だから」

 

「もっちろん!!家族だからね!!」

 

「「ふふ!!」」

 

 

今までの険悪な仲はどうした?……千冬や一夏が居れば確実にそう思うような光景であるが、おそらく2人は祝福するだろう。

 

 

「よし……じゃあ箒ちゃん。早速紅椿で出撃しようか」

 

「…………へっ?」

 

 

気の抜けた声が入江に響き渡る。

 

 

「ね、姉さん?それはどういう……」

 

「いや〜実は今さ、いっくん達が暴走したISと戦ってるんだよね〜。雰囲気が雰囲気だから言えなかったけど」

 

「そんな!?じゃあ早く行かないと!!」

 

「うん。だから箒ちゃん、私が調整するから紅椿に乗って。箒ちゃんの努力の成果、見せてもらうよ!!」

 

 

束に催促され、箒は紅椿に乗り込んだ。

 

 

「…………」

 

「不安かい箒ちゃん」

 

「……はい、私が上手く戦えるのでしょうか?」

 

「もう!言っとくけどね、専用機を持ってない一年生の中だったら箒ちゃんがナンバーワンだよ?この私が太鼓判を押すんだから自信を持って!!はい終わった、いつでも出れるよ!!」

 

「早ッ!?……姉さん、分かりました」

 

「機体や武装のデータは全部移動中に確認してね。ちーちゃんには私から言っとくからさ。箒ちゃんは安心していっくんを助けに行って」

 

 

束は今、敢えて一夏だけを呼んだ。それに気づいたのか気づいていないのかは不明だが、箒は少し不機嫌そうな顔をして言った。

 

 

「一夏達、ですよ姉さん。姉さんと違って私には背中を預けられる友達も居ますから」

 

「……ふふっ、そっか。じゃあ行ってらっしゃい!!」

 

「行ってきます、姉さん。すぅ……篠ノ之箒、紅椿、推して参るッ!!」

 

 

空気が爆ぜ、紅椿が展開装甲を使って急激に加速し空へと消えていった。途中、私にだって友達くらいいるもん……という呟きが箒の耳に聞こえた気がした。箒は少し苦笑しながら、束を背に真紅の閃光を放ちながらさらに速度を上げたのだった。

 

 

「……赤月はあるべき主人の元に戻った。彼女は箒ちゃんの願いを叶える為にその機械の体を最大限動かす。でも、今の箒ちゃんなら『コード』は要らないかもね。任せたよ赤月、箒ちゃんを守って」

 

 

箒を見送った束は、ステルスを使いながら自らのIS、『群紫』を展開した。

 

 

「ねぇ群紫、この世界は楽しい?……うん、そっか。私は楽しいよ……じゃあ、もっと楽しむ為に動こうか。さて!ボスの指示通りにヒカルノちゃんと合流しよう!!あ、ちーちゃんにも会わないと!!

 

じゃあ、いっくよー!!」

 

 

今後の進行における重要事項『アンケート結果がそのまま反映されるわけではありません。あくまで参考にさせて戴きます』

  • 凍結し、リメイクのみを制作、順次更新
  • リメイク版無しでこのまま継続
  • リメイク版ありで両方継続
  • この作品のまま加筆修正
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