58話
はいどうも。現在、自宅からお送りしている一夏だ。え、ウェルキン先輩の歓迎会?ハハッ……感の良いガキは嫌いだよ。いや、まあ普通に片付け手伝って普通に寝て普通に朝起きて家に帰ってきただけだぞ?俺は体内のナノマシンをいい感じに動かしてアルコールも速攻で分解出来るから全く酔わなかったし。ていうかほぼ酒飲めなかったし。
「行ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい姉さん。はいこれ弁当。夕飯は?」
「ありがとう一夏。山田君と飲みながら食べるからいい。そして遅くなる」
「了解。山田先生にあんまり迷惑かけんなよ」
「……もちろんだ」
「あ、ちょ……逃げたな」
早足で姉さんは家を出て学園に向かって行った。全く……山田先生、お疲れ様です。今度ちゃんと締めときますんで。
そして一通りの家事を終えた俺は冷蔵庫から取り出した炭酸を飲んで一息入れた。
「ふぅ…………さてと、じゃあ顔合わせにでも行くか」
IS学園の制服に着替えた俺は、家を出た。忘れた教科書類を取ってこないといけないし、今日はなんといってももう一つ大事な案件がある。
モノレールに少し揺られて到着したIS学園。俺はユニコーンでとある電波をキャッチしたことを確認するとタイミングが合うように校門へと向かった。
「ん?……セシリアじゃん」
「い、一夏さん!?奇遇ですわね」
「そうだな」
そこには、イギリス貴族らしい上品で、尚且つ嫌味ったらしくない、彼女によく似合う私服を着たセシリアがいた。その少し後ろにはセシリアのものが入っているであろうスーツケースを運ぶ1人の女性の姿もある。
「ッ!?」
「…………」
「……一夏さん?」
「ああ、なんでもないさセシリア」
セシリアの専属メイドであるチェルシー・ブランケット。彼女にしか見えない角度で携帯を見せてやると一瞬驚いたような顔をした後、憎悪に満ちた目線を向けてきた。はは……お可愛い殺気だな。宇宙にある剣の形のモノを見せてやっただけなのに。
「一夏さんはどうして学園に?」
「いやー……教科書を忘れちゃってな。家にないから焦ったよ。セシリアは?」
「わたくしは、イギリスの実家で貴族としての仕事や代表候補生としての仕事がひと段落ついたので戻ってきましたの……その、ウェルキン先輩のこともありましたし」
少し暗い表情をしたセシリア。俺は労いの言葉をかけつつ、世間話に移行した。
ウェルキン先輩はイギリス代表候補生を辞任した。理由はまあサイレント・ゼフィルスの防衛任務の失敗の件だ。彼女自身はもう吹っ切れているどころかイギリスの上層部に酷い暴言を吐く始末だったが、あちらからすれば大損だろう。国家代表に並ぶ実力を持つ彼女を辞めさせてしまったのだから。たかが試作第3世代兵装が使えないくらいで優秀なIS乗りを捨てるとはバカな国だよ全く。まあ、そのおかげで堂々と先輩も行動出来るんだけどな。イギリス内部に潜んでいる亡国のスパイによれば、後から後悔しているとか。アーカワイソウダナー。
「お疲れ様。俺は今日家でやらないといけないことがあるからすぐ帰るけど、セシリアもしっかり休めよ?」
「はい!久々に皆さんともお会いしたいですし!!学園寮に残っている方がいれば良いのですが……」
「箒とシャルロットは学園に残るって聞いたから行ってみたらどうだ?」
「あら、そうでしたのね。ではそうさせていただきますわ」
「んじゃ、またなセシリア!」
「ええ、一夏さんも御元気で!」
軽く挨拶をして俺はセシリアの横を通り過ぎた。その時にチェルシー・ブランケットに声を掛けることも忘れない。
「ーーーーーーー、私のアドレスだ。1人になったら連絡しろ」
「ッ…………分かりました」
俺はそのまま寮の自室から教科書類を取り出してカバンに詰めた。ついでだから置きっぱなしの漫画やらラノベやらも持って帰り、そのまま学園を出た。姉さんに会わなかったけど職員室か?
「…………待たせたな」
「いえ……それほど待っていません」
私不機嫌です、みたいなオーラをこれでも放っているチェルシー・ブランケット。まあどうでも良いので無視してとっとと本題を進めるとしよう。
「何か言いたいことがあるなら言っても良いぞ?」
「いえ……まさかあの織斑一夏が亡国に所属しているとは夢にも思わなかったので……」
「ククッ……だろうな。ああ、今月の分は私が回収する」
「……どうぞ」
彼女からUSBメモリをもらいしっかりとケースの中に収める。オルコット家の情報だ。宇宙にあるオルコット家の最後の力、エクシア・カリバーン。衛星軌道上に存在するそれは、亡国の指示でいつでも砲撃を放つことができる本当の意味での『力』だ。その正体はチェルシー・ブランケットの実の妹であるエクシアが操縦するIS『エクスカリバー』なのだが……セシリアの両親によってエクスカリバーの生体ユニットのような状態にされている。なんとかして妹を助けたいと願うチェルシーに、我々亡国企業は協力を申し出る対価としてオルコット家の情報を渡しているのだ。
まぁ、今の彼女が勘違いしていることと言えば、エクシアは生体ユニットとされたのではなくならざる負えなかったと言うことだ。心臓病を患っているエクシアは生体同期型ISを使うことでしか延命出来なかったからな。何より、その生体同期型ISのコアは亡国が所有していた物を使用している。我々の管理下にあるのは当然と言うことだ。
「用件は済みました。私はこれで失礼させていただきます」
「待て、もう一つある」
「……なんでしょうか?」
「BT二号機サイレント・ゼフィルスが強奪された件に関しては知っているだろう?」
「ええ、亡国の仕業だと聞いていますがそれが何か?」
「では極秘裏に開発中のBT3号機の事は?」
「ッ……いえ、初耳です」
BT3号機。1回目にて彼女が強奪したIS『ダイヴ・トゥ・ブルー』。その単一能力は『空間潜行』と言って、ISのハイパーセンサーでは影も形も捉えられない、本当の意味で別の空間に潜ることができる能力を持つ。もちろんそれを発現させたチェルシーは相当の実力者でもある。そして何より、BT兵器適性がセシリアよりも高い。
「知っているぞ。BT兵器適性がセシリアよりも高い事はな」
「……知られていて当然でしょう。世界の情報など亡国にとっては全て筒抜けでしょうし」
「その通りだ。さて、そこで提案……というか命令なのだが、BT3号機の完成次第、強奪してこい。そのためのISも貸し出すし援助も惜しまない」
「それは構いませんが……」
へぇ……不可能とか言うかと思ったら、構いません、ねぇ。どうやら随分と自信があるらしい。
「成功の暁には、エクシア・ブランケットの救助を行うことを約束しよう。丁度、我々もISで宇宙に飛び立つ計画を進めているからそこまで先延ばしにすることではなくなったのだよ」
「ッ!!……本当ですね?」
「ああ、その代わりと言ってはなんだが……」
「妹を救ってくれたら……私も亡国企業に所属しましょう。私は、妹のために生きていると言っても過言ではありませんので」
話が早くて助かる。無駄な血も流さなくて済みそうだ。
「ほう……では交渉成立だ。BT3号機の情報はイギリスに潜入中のスパイから定期的に送るから心配しなくて良い。貴女は安心していつもの仕事をしてくれ」
「了解しました……」
もう帰っても良いという合図を出したが、少し悩んだ様子で彼女は立ち去ろうとしない。……ああ、なるほど。
「セシリアの気持ちなら理解している……もちろん、受け入れる事はできないから申し訳ないがな」
「ッ……でしたら何故ッ!!」
「……俺にだって、情くらいあるんです。俺と話すたびに笑顔になる彼女のことを……冷徹に拒絶する事なんて出来るわけ無いでしょう?」
「……申し訳ありません。出過ぎたことを……これからもお嬢様の事、よろしくお願いいたします」
『織斑一夏』としての本音を少し言うと、彼女は同情したような声音でメイドらしい所作で礼をして来た。俺が敬語を使ったのは、彼女が18歳で俺より年上だからだ。目上の人には……敬語……レインとオータムは例外、いいね?
「……敢えて返事はしない。必要とあればいつか殺すだけだからな。あぁそうだ。言い忘れていたよ」
「……なんでしょうか?」
「ウチに1人、貴女の妹と同じ生体同期型ISを使用している者がいる。上手くいけば、宇宙にいることなく生活が出来るだろう」
「そうですか……それは良かったです」
「今更だが聞いておく。貴女がやろうとしている行為は主人であるセシリア・オルコットと祖国イギリスに対しての明確な裏切りだ。貴女に、家族の為にそれ以外の一切合切を捨てる覚悟はあるか?」
1回目で彼女は結局、中途半端な選び方をしてエクスカリバーもダイヴ・トゥ・ブルーも持ったままセシリアに帰属した。詰まるところイギリスが所有……いや、セシリア・オルコット個人が所有するISが3つに増えたと言うことになる。今回もそんなことになるのはいただけない。
「それは…………」
どうやら彼女の中でかなり揺れているらしい。以前、ウェルキン先輩にも言ったが裏切ってすぐに、はい分かりましたって身内殺すような狂人は要らないんだが。
「はぁ……分かった。答えはまたいつか聞こう。だが、どのような結果であれBT3号機だけは渡してもらう。いいな?」
「……はい。それで構いません。いえ、私に選択肢を頂けるだけ感謝しています」
それだけ言い残して彼女は去った。メイド服で出歩いて目立たないのだろうか?
「あーあぁ……無駄に悪者演じるのも疲れるな。でもBT3号機だけは俺でも捉えられないから厄介なんだよ。
…さて次だ。もしもしレイン。今いいか?」
『あぁ?一夏か。今オレの部屋なんだけどまあ良いぞ』
……そういやコイツ学園では『オレ』って言ってたな。
「そうか……覚悟を決めろレイン」
『……何の話だ?』
「フォルテ・サファイアの勧誘だ」
『なっ……アイツまで巻き込む気か!!』
何を言ってるんだレイン。
「……は?お前、今世界中で情報と戦力を握ってる組織を考えろよ。ギリシャとウチがやり合ったら一瞬で滅ぼせるぞ?」
『ッ………でも、オレの部隊長はスコール叔母さんだ。お前にはオレに対する命令権はねえ!!』
「そういえば言ってなかったな。緊急事態に対応する為、両部隊長は互いの部隊員に対する命令権が与えられてるんだよ。だからやろうと思えば姉御がマドカやウェルキン先輩に命令できる。つまりだ、レイン・ミューゼル」
『ッ!!』
「フォルテ・サファイアを亡国に勧誘しろ。期限はIS学園の修学旅行終了日までだ。これはモノクローム・アバター隊長Sによる命令である。現在の私はフォールン・ワールド隊長スコール・ミューゼルと同等の権限を持っている」
『…………任務、了解しました』
「成果を期待する」
そして通話を切った。
『優しいね一夏』
『ええ、甘すぎるくらいには』
「……何のことだよ」
携帯をしまった直後に白式と白騎士が話しかけて来た。恐らくユニコーンも居るだろう。今罪悪感でいっぱいだから後にして欲しいんだけどなぁ。
『勧誘させるだけで、強制的に加入させるわけじゃないもんね〜』
『断られた場合の口封じを命令してませんし、入ってくれたら良いなレベルでしか考えていませんね?成功か失敗かは問いてません』
『マスター……優しい』
「いや、当たり前だろ。結局はレインがどう受け取るかだし。俺が言った通りギリシャからの招集命令で亡国殲滅とか言われてもフォルテ・サファイアくらいなら瞬殺出来るしな。フォルテ・サファイアの生存はレインにかかってると言っても良い」
まぁ……俺に殺されたくなかったら意地でも勧誘するだろうさ。まずボスの命令でもないから別に遵守する必要もないし。
「そして知ってる中だと次は、イタリアか……行きたくないな〜。今回はやめとこっかな。あの人キャラ濃いし。あの人、某ゼノン並みに腕ない方が強いし。ああでもシャイニィには会いたいよな〜」
迷うけど辞めよう。ま、とりあえず今日やる事は終わったし家に帰ってゲームでもしますかな。いや……昼飯は弾のところでも……うーん……
「あれ、一夏。アンタなんでここにいんのよ」
「鈴か。部屋に教科書忘れてな〜……今し方暇になったところだ」
「あっそ。じゃあさちょっと付き合ってよ」
「おう、暇だから良いぞ」
ふと、近くのショッピングモールであるレゾナンス方面から歩いてきた鈴と出会った。今日は色んな人に出会うな……今のニュアンスは買い物に付き合ってよ、とかの奴だ。俺だって成長してるからな?
「どこに行くんだ?」
「五反田食堂よ。数馬も呼んだから久しぶりに皆で集まりましょ」
「良いじゃん。弾には連絡したのか?」
「してないわよ。アイツのアホヅラ拝むのも楽しみだわ」
「良い趣味してるなお前。俺も見たい」
弾は呆けた顔が面白いからな。俺と鈴で散々弄り回した記憶がある。
「蘭も元気してるかしらね……」
「弾と連絡取ってるけど元気らしいぞ?なんでもあのお嬢様学校の生徒会長らしい」
「え……あの子が生徒会長?人って変われるのね……」
「いや、猫被ってるかもしないけどな?とりあえずさっさと行こうぜ。おっさんの料理考えてたら腹減って来たわ」
「ん……そうしましょうか」
やっぱりコイツとは波長が合うのか、遠慮しなくて良い仲だから楽で良い。とっとと全部終わらせて返事を返さねえとな。
「……どうかした、一夏?」
「いや、なんでもねえよ。そういや、ラウラから連絡が来たんだけどな。この写真見てくれよ」
「あら……良い表情してるわねあの子」
鈴とするたわいもない会話は、それだけで俺を織斑一夏に引きとどめてくれる。もうすこし……このままでいたい。どうせ今度はドイツで殺戮ショーだからな。今くらいは楽な時間があっても良いだろう。
このあと五反田食堂に行った俺達は久しぶりに会った弾や数馬と一緒に大騒ぎしながら飯を食って、店主の厳さんにお玉を投げつけれられた。それすらも懐かしいと思えるから時が立つのは本当に早い。そういえば蘭ちゃんにもあったな。やっぱりまだ俺のこと好きみたいだし、いつかは断らないとなぁ……いや、断ったら断ったで厳さんと弾に殺される気がするけど。
弾に可愛い子はいるかって聞かれたから虚さんの写真を見せてやったよ。めっちゃ気に入ってたなアイツ。やっぱ今年の学園祭もチケットはアイツに渡そう。弾が一番乗りで彼女作るのはちょっと腹が立つけどな。
あーあ……数少ない休みも終わっちまったなぁ……さて、任務の時間だ。
「S、次の命令を与える。モノクローム・アバターを率いてイギリス、中国、フランス、ドイツにある女性権利団体支部を破壊しろ。所属する人間の生死は問わない」
「任務を受諾します。ISが出て来た場合は如何いたしましょう?」
「周辺の街に被害が出ない程度の戦闘行為なら許す。モノクローム・アバターよ、ISを過信する雌豚共と世界に示せ。我々の力をな」
「はっ!!」
取り繕うのは止めようか。楽しい楽しい大虐殺の始まりだ。
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