キャプターサポーターうめゆき   作:丸焼きどらごん

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一話 うめゆき、キャプターサポーターになるの巻

 友枝小学校に通う普通の小学四年生、木之本桜には三人の家族が居る。

 

 一人は父、木之本藤隆。大学で考古学の教鞭をとる、四十三歳には見えない若さを備えた柔和な笑顔が魅力的な紳士である。桜が三歳の頃に母、撫子は亡くなってしまったが、それ以降も彼が父親兼母親役をこなしてくれた。裁縫も料理も……というか、基本的に何でもできる優秀な男性だ。

 もう一人は木之本桃矢。星條高校に通う高校二年生であり、桜の兄。学業、家事、アルバイトをそつなくこなすこちらも優秀な男であるが、いかんせん妹の桜にやや意地悪だ。が、それも愛情の裏返しであり、傍から見ればからかう桃矢とそれに憤慨する桜の様子は非常に微笑ましい。

 

 

 そして、もう一人。

 

 

「はうぅ~! ね、寝過ごしたー!」

 

 平日の朝、学生である桜は当然学校がある。しかし朝の起床があまり得意ではない桜は、かなり頻繁に寝坊によって悲鳴を上げていた。もちろん遅刻してしまうような時間になる前には起きるし、父藤隆が起こしてもくれる。しかし桜は「ある理由」のために、出来るだけ兄の桃矢と同じ時間に家を出たいのだ。

 そして余裕を持って起床し朝食を食べ終えていた桃矢は、慌てた様子でバタバタ階段から下りてきた桜を「怪獣」と称す。それに対していつか兄よりも大きく……否、電柱サイズくらいになって、いずれこの小憎たらしい兄を踏んでやるという野望を持つ桜は、いつものように「さくら、怪獣じゃないもん!」とくってかかった。乙女に対して怪獣とは、とんだ侮辱なのである。

 しかし一方で、そのすぐ横。…………桃矢の隣の席に座っていた"少年"がガタッと席を立ち、突然祈るように手を組んで膝をついた。それを見た桜はいつもの事でありながら、桃矢に怒るのも忘れて困ったような笑みを浮かべる。そしてその少年……桜とそっくりな顔をした、黒髪の彼に声をかけた。

 

「う、梅くん。どうしたの?」

「今日も可愛い姉さんの奇跡の愛らしい寝癖を見られた幸運に神に感謝してる姉さん可愛い」

 

 ノンブレスである。

 

「え、寝癖ついてる!?」

「ああもうっ! 気づいてない姉さん可愛い!」

「いや、いつも言っとるがお前ほぼ同じ顔だろうが」

 

 少年の言葉に慌てて後髪を撫でつける桜。それを見てたまらないとばかりに身悶える「梅くん」と呼ばれた少年を、桃矢が軽いチョップでもって落ち着かせた。しかし落ち着いたと言っても、実はその後が面倒くさかったりする。

 

「チチチッ。兄貴は分かってないよ。確かに俺達は男女の双子にも関わらずよく似てるよ? でも、姉さんの愛らしさと比べてもらっちゃ困るな! 俺なんか足元にも及ばないよ! だって姉さんのミルクティーみたいな可愛い色の髪の毛に輝くキューティクルは天使の輪どころか後光ってレベルの神々しさだし、まつ毛だって俺より二ミリ長いし、瞳の澄み具合はニューカレドニアの海もかくやって感じだし、桜の花びらみたいな可憐なかんばせときたら妖精って言われても信じちゃうくらいだし! 何より内側の元気さと清らかさがあふれ出すようなハツラツとした笑顔をはじめとする表情が素敵だよ! とにかく! 姉さんは可愛いん……げーっほゲホッ、ゲホゲホっ、ゴフッ!」

「へいへい。分かったから無茶すんな」

「梅くん大丈夫!? も、もう! 褒めてくれるのは嬉しいけど、そんなになってまで言わないでってば」

 

 舞台役者のようにポーズを決めながら、意気揚々と語る途中で苦し気にむせだした弟。それを見て桃矢と桜は左右から彼の背中をさすった。そしてそこに父、藤隆が「おやおや、梅倖くん。あまり無茶してはいけませんよ? それにしても、今日もみんな仲良しさんですね」と声をかけるまでが、木之本家ではごくごく普通の、日常の中の光景である。

 

 

 

 木之本梅倖。小学四年生。

 

 双子の姉である桜にそっくりな顔立ちの、ちょっと病弱な黒髪少年。彼を含めた三人が、桜の大事な家族である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は木之本梅倖(きのもとうめゆき)。友枝小学校に通う普通の小学四年生である。

 

 俺には三人の家族がいるけれど、その中に母さんは含まれない。俺が三歳の頃に、すでにこの世を去ってしまっているからだ。

 寂しくないと言えば嘘になるけど、でも母恋しさにめそめそ泣くようなことはない。だって俺には最高の家族が居るんだから。

 

 親父は基本的に何でもできるし、すごく優しい。悪い事をしたらちゃんと諫めてくれる芯の強さだってある。大学教授で、頭も物凄くいいんだ。尊敬している。

 兄貴の桃矢は頼もしい。姉さんによく意地悪言うけど、実は俺と同じくらい姉さんを大事にしてるって知っている。勉強もスポーツも出来るし、友達にも自信を持って「うちの兄貴かっこいいだろ」と言える人だ。

 

 そして、俺の双子の姉であるさくら姉さん。

 

 多分俺みたいなのを世間はシスコンと言うのだろうけど、事実だから否定しない。だって俺、姉さんの事大好きだし。

 俺の姉さん愛が確立されたのは、俺と姉さんが三歳の時だったと思う。覚えている限り一番幼い頃の記憶だけど、今でもその記憶は俺の心に鮮明に刻まれているのだ。

 

 母さんが亡くなった時、俺はわんわん泣いた。泣いて泣いて、泣きまくった。そしてもともと体があまり強くなかった俺は、あろうことか風邪をこじらせて死にかけたのだ。体力全部使って泣いて弱っていた俺は、きっと風邪菌にとって最高の獲物だったのだろう。

 けど、そんな時だ。母さんが死んで自分も悲しいだろうに、姉さんはず~っと俺の事を励ましてくれた。「だいじょうぶだよ、うめくんにはさくらがついてるから。だからぜったい、だいじょうぶだよ。ぜったい、げんきになるから」って言いながら、風邪がうつってはいけないと離されそうになってもいやいや首を振って、ずっとずっと手を握っていてくれた。それを今でもはっきりと覚えている。俺はそれまでさくら姉さんのことを「さくら」と呼んでいたらしいのだが、そのことがあってからは「ねーちゃ」と呼ぶようになっていたんだとか。幼い俺は、完全に姉さんに甘えることにしたらしい。

 

 けど、それは小さい頃の話。

 

 いつしか俺は、姉さんに甘えるんじゃなく、大好きな姉さんを守れるようなかっこいい男になりたいと思うようになっていた。だから今でも体は弱いけど、親父にお願いしてスイミングスクールに通わせてもらっている。ガンガン体力をつけて、いつか兄貴より大きくなるんだ! そして姉さんに「梅くんかっこいい!」と言ってもらうんだ! 言葉遣いだってちょっとづつ男らしくしていってるんだぜ。前までは「僕」って言ってたけど「俺」に変えたし、「お姉ちゃん」を「姉さん」って言うようになったし、お父さんは「親父」に、お兄ちゃんは「兄貴」と呼ぶようになったし。……完璧だ。男らしいぜ、俺。

 

 今だって頼りにしてもらいたいけど、運動神経は圧倒的に姉さんのが上だからな。俺に今出来るのはせいぜい、姉さんが苦手な算数を俺が頑張って、姉さんに分からないところを教えてあげることくらいか。もっともっと頼りになる男になって、姉さんに頼ってもらえる強くてカッコイイ男の中の男になる。それが俺の目標だ。

 

 

 

 しかし現在、そんな俺を打ちのめす存在が居る。

 

 

 

「おはよう、さくらちゃん。早起きなんだね」

 

 急いで朝食を食べ終え、自転車で先に家を出た兄貴の後をローラースケートで追いかける姉さん。俺はその後をキックボードで追いかける。そしてその先では兄貴が学友と合流していた。…………そして姉さんはそいつを見るなり「はにゃ~ん」と目をハートにしながら顔を赤らめた。その様子はさいっっっっっこうに可愛いのだが、俺はそれを見るたびに地面に崩れ落ちそうになってしまうのだ。

 

 

 月城雪兎。兄の友人であるこの人に、姉さんは恋している。

 

 

 俺はそんな相手が現れる時、真っ先に嫉妬すると思っていた。けどふたを開けてみれば、月城さんにはまったくそんな感情は芽生えない。多分月城さんが凄くいい人で、そしてどことなく親父に似た雰囲気を持っているからだと思う。まるで警戒心がわかない。

 だけど辛くないわけじゃない。何処の馬の骨とも知れない相手でないだけましだが、姉さんが恋を知ってしまった。ツライ。今から姉さんが花嫁衣裳を着て嫁いでいく場面が浮かんできてツライ。俺の大事な姉さんが遠くに行ってしまう。姉さんの恋心を知った時は、一週間くらい涙で枕を濡らした。

 

 俺が姉さんに頼られるようになる前に姉さんが他の男性を頼るようになってしまったらどうしよう。

 そんな想像が、俺を打ちのめしてくるのだ。月城さんが悪いわけじゃないんだが。

 

(けど、俺は応援してるからな姉さん!)

「梅倖くんもおはよう。二人とも早起きなんだね」

「あ。お、おお、おはようございます!」

「何緊張してんだ? お前。どもってるぞ」

「緊張してないって。ただ、考え事してたから声かけられてびっくりしただけ」

「ごめん、驚かせちゃった?」

「いえ、月城さんのせいじゃないですよ!」

 

 姉さんの幸せが最優先! 俺の勝手な目標をしまい込んでそう思い直していると、急に声をかけられて慌ててしまった。そして兄貴はいちいち突っ込んでこなくてよろしい。わざとかもしれないけど、そんなだから姉さんを怒らせるんだぞ。

 う~ん……。それにしても、いつ見ても親父の笑顔を彷彿とさせる柔和な笑顔だな月城さん。そしてそこらのガキ臭い高校生男子とはかけ離れた包容力よ。この人だったらまあ、義兄さんになってもいいかもしれない。

 今は姉さんの片思いだが、姉さんと月城さんの年齢差なんて成長すれば誤差も誤差。あんな可愛い姉さんから慕われれば、月城さんもいずれころりと行くに違いない。

 どうか姉さんが友達の妹ではなく、女の子として意識してもらえる年齢になるまでこの人に彼女が出来ませんように。

 

 

 

 ところで最近、姉さんの様子がちょっとおかしい。

 

 

 

 俺の部屋は姉さんの部屋の真上にあるのだが、どうにも最近姉さん以外の声が下から聞こえる気がするのだ。姉さんはテレビの音だっていうんだけど、どうにも姉さんと誰かが会話してるように聞こえる。電話は一階にあるから、誰かと通話しているという可能性も低いだろう。姉さんは嘘があまり得意ではないから、何か隠してることは丸わかりなんだよな。

 

 ちなみに俺の部屋だが、三階にある屋根裏部屋の一部をリフォームして部屋仕様になった場所を使っている。小三まで姉さんと同じ部屋だったのだが、二人とも体が大きくなってきたからってことで親父が用意してくれたのだ。

 初めは体が弱い俺のためにちゃんとした部屋を使わせてくれようとしたのか、兄貴が屋根裏にうつって自分の部屋を使えと言ってくれた。でも屋根裏と言ったって、ちゃんと親父が個室になるように壁と扉を用意して冷暖房完備にしてくれたので、かなり快適である。少し狭いけど、屋根裏という秘密基地感も悪くない。それに何と言ったって姉さんの部屋の真上! 兄貴の気遣いは嬉しかったが、俺は迷わず屋根裏部屋を選択した。

 

 けどまあ、そんなこたぁいいんだよ。問題は姉さんの部屋から声が聞こえる事! でもタイミングを見計らって突然扉を開けても、姉さん以外誰も居ないんだよなぁ……。不思議。最近姉さんのお気に入りなのか、変なクマみたいなぬいぐるみが姉さんの対面に座っているだけで、人の気配は感じないんだ。そのクマと喋っていたと言われても違和感ないくらい姉さんは可憐だけど、もしリアルに一人芝居してたならそれはそれでちょっと心配だ。姉さんには可愛くあってもらいたいが、不思議ちゃん路線に行ってほしいわけではない。いやどんな姉さんでも俺は受け入れるけど。でも姉さんには健やかであってほしいんだ。

 

 

 しかし、ある時その謎は解けた。

 なんとそのクマのぬいぐるみがガチで喋っていたのである。

 

 

 ある日風邪で学校を休んだ時、こっそり部屋を覗いたらそいつが動いて喋って、お笑い系のテレビ番組に突っ込みを入れていたのだ。音が漏れないように配慮してかヘッドホンをしていたが、自分の声がデカくてはそれも無意味。けっこう間抜けな奴だよな。

 

 そのぬいぐるみは「ケルベロス」という名前で、クロウカードという魔法のカードの番人なんだとか。羽の生えた黄色いクマみたいな見た目しといて、地獄の番犬と同じ名前とは生意気な。俺は「ケロ吉」と呼ぶことにした。怒られたが無視した。

 そしてなんと姉さんは、ケロ吉の管理がずさんなために町のあちこちに散らばってしまったそのクロウカードってやつを集めるために「カードキャプター」……カードの捕獲者になったらしい。学校から帰って来た姉さんも交えて全部聞かせてもらった。

 カードが散らばることになった原因は姉さんが風魔法のカードをうっかり読み上げて発動させてしまったかららしいが、基本的にケロ吉がしっかり管理をしていなかったのが悪いのだ。だからそんな危険な事姉さんがする必要ないと、俺は猛烈に反対した。だってつい最近あった、学校での怪現象もクロウカードの仕業だと聞いたんだ。あんな、学校中の机や椅子を一晩で無茶苦茶にするような相手を姉さんがしているだって? そんな危険な事、俺は絶対反対だ!! ケロ吉め。純粋な姉さんの罪悪感につけこむなんてなんて奴だ。まぬけだし可愛い見た目をしているが、騙されちゃならねぇ。

 

 しかし、ある一言を聞いて俺の意見はころっと変わってしまった。

 

「ほなら、梅倖がさくらを助けてやればいいやないか」

「え?」

 

 きょとんとする俺。しかし今度は姉さんが猛烈に反対した。

 

「だ、駄目だよケロちゃん! ……梅くんは体があんまり丈夫じゃないの。カード集めに連れまわしたりなんて、出来ないよ」

 

 最後の方は俺に気遣ってかこしょこしょ耳打ちしている姉さんだったが、この距離では丸聞こえである。その気遣いと姉さんの愛らしい仕草にほっこりするも、俺はケロ吉にずずいと迫った。

 

「その話詳しく」

 

 姉さんに危険な事はしてほしくない。けど姉さんは自分のせいでカードを散らばせてしまった事に加えて、それによって誰かが危険な目に遭うかもしれないってのもあってカードキャプターを引き受けたんだろう。…………押しに負けてなんとなく流されちゃったっぽい所も否めないが。でも優しい姉さんが、誰かが危険な目に遭う事を良しとするはずがない。だから俺がいくら言っても、きっと姉さんはやめないと思う。

 

 でも、それなら!

 そんな姉さんを、俺が支えればいいんじゃないか!?

 

 俺の頭を本音と建前が行きかうが、どうしたって、姉さんに頼ってもらえたらという欲が出てきてしまう。ああ、俺悪い子。でもケロ吉の言葉がもう耳から離れない!! 俺に姉さんを助けることができるのか!?

 

「な~に、今気づいたんやけどな。どうやらお前さんにも魔力があるようや。しかもわいが目覚めた時に比べて、その力が強くなっとる。どうやら、さくらがカードを捕まえるたびに何故かお前さんの力も強くなるようやな。原因はよく分からんが、双子やからかもしれんなぁ~」

「じゃ、じゃあ俺も魔法使えるのか?」

「知らん」

「おい」

 

 期待していただけに、思わずずっこけてしまった。姉さんもケロ吉を呆れた顔で見ている。呆れ顔の姉さんも可愛い。

 もしやこいつ、俺を説得するために適当な事を言っているのでは? 俺は訝しんだ。

 

「でも多分才能はあるで。クロウカードとの戦いを見たりしてれば、そのうちなんか出来るようになるかもしれん。……ちゅーわけで」

 

 そこで言葉を切ると、ケロ吉はビシッと俺を指さして(指無いけど)こう言った。

 

 

 

「カードキャプターを助け、支える者! キャプターサポーターうめゆきの誕生や~!」

「お、おおー!」

 

 

 

 

 その適当な名称と言葉に乗せられた俺も、姉さんの事は色々言えないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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