李小狼への一方的なライバル心が芽生えた俺。だけどそうなると、余計に魔法が使えるようになりたいという気持ちが強くなる。
そして俺は気づいてしまった。ケロ吉はクロウ・リードみたいに一から魔術を作るのはとても大変な事で、普通は体系だった魔術を学んでいくものだと言っていたけど……それこそ李の奴は、その体系だった魔術ってのを使ってるんじゃないか? と。
となれば、俺が魔法を使えるようになるために一番の近道であるのは李に教えを乞う事だが……。
「うわあああああああ! 嫌だぁぁぁぁ!! ぜってーヤダぁぁぁぁ!! しかもあいつが素直に教えてくれるたまかよ!!」
「そらそうやろ」
自室のベッドでごろごろ転がり頭を抱える俺に、俺の分のプリンを食べながらケロ吉が言う。賄賂までくれてやったと言うのになんてそっけない態度だ。
「そもそも魔術ゆうんは秘伝のものが多い。たとえ仲良くなっても、そう簡単に教えてもらえるとは思わんほうがええで。しかも梅、お前あの小僧と仲ようする気は無いんやろ?」
「無い。ってか無理」
「じゃあ諦めや~」
「や~だ~!! 絶対ヤダー! 俺も魔法使えるようになるー!」
「お前さんホンマ駄々っ子やな」
ケロ吉に呆れられるが、俺としては切実な問題なのだ。駄々の一つもこねたくなる。
だからこうして、姉さんたちと一緒に雑貨屋へ行くのは泣く泣く辞退してケロ吉に相談するために早く帰って来たのだ。……悔しいけど、きっと姉さんは大道寺が元気づけてくれるからな。俺の事も気遣って姉さんが元気になる様子を見せようとしてくれたのは嬉しいけど、実際に見なくてもきっと大道寺ならなんとかしてくれるという信頼がある。だから俺は姉さんを大道寺に任せて、まず自分の現状を一刻も早く変えるためにケロ吉に相談を持ち掛けた。本当に、いつどこでクロウカードが現れるか分からないからな。出来るだけ早くこの状態を打破したい。
……きっと姉さんが元気ない理由に、俺を危険な目に合わせたってのも含まれてるしな。勝手に俺がついて行って、勝手に出しゃばってピンチになったのに。
だから姉さんをまた心配させることの無いように、俺が頑張らなきゃ!
でも今のところ、やっぱり八方ふさがり。李の魔術についてケロ吉に聞いてみたはいいけど、使い方となると本人に聞かないとやっぱり分からないみたいで……結局詰まった。俺の明日はどっちだよ。
とりあえず心を落ち着かせようと、手慰みに最近ハマり始めたクロウカード達のマスコット作りに手をのばした。大道寺のもとで身に着けた技術によって我ながらクオリティ高いと思う。ストラップやキーホルダーの金具も付けられるようにそれを引っかける輪っかを取りつけたりもして、お店で売ってる奴みたいだ。ふふんっ、俺だって特技が無いわけじゃないんだ! …………そのほとんどが女子みたいな特技ってのは、気にしないでおく。だって裁縫も料理も出来る親父はかっこいいと思うし。……だから全然、気にしてなんかいない、全然。
「うん、いい出来!」
今作ってるのは
そうだ、ついでに……。
と。
「ただいまー!」
「! おかえりー!」
作業を進めていると、姉さんが帰って来た。出迎えるために部屋から下りていくと、その隣には大道寺と佐々木利佳も居る。どうやら雑貨屋によった後、そのまま遊びに来たようだ。見れば朝は沈んでいた姉さんの表情に元気が戻り、大道寺と佐々木がうまく姉さんを元気づけてくれたのだと分かる。となれば、俺も元気が出てくるってもんだ! やっぱり姉さんの笑顔は世界一!
「おっす! いらっしゃい」
「梅倖くん、おじゃまいたしますわね」
「おう! あげれあがれ、今日は俺が作った奴じゃないけどプリンがあるんだ。食ってけよ! 親父のプリンは美味いぜ! あ、スリッパはこれ使えな」
「ありがとう、梅倖くん」
「梅くんありがとう。あと、わたしはお茶を入れるからプリン運んでもらっていいかな?」
「もっちろん! でもお茶も俺が淹れるよ。姉さんは座って待ってて」
「え? でも」
「いいからいいから」
遠慮する姉さんを大道寺、佐々木と一緒にリビングへ行かせて、俺は鼻歌を歌いながらお茶の用意をする。キッチンから覗けば、姉さんたちはどうやら、雑貨屋で買ってきたものを見せ合いっこするつもりのようだ。俺がお茶とプリンを用意して持っていくと、ロザリオ型のブローチを身に着けた大道寺が腰を浮かせる。
「梅倖くん、手伝いますわ」
「いや、大丈夫だって。それにしてもみんなよく似合ってるな! すげー可愛い」
トレイを机に置いてそう言えば、ハートに翼が生えた形のブローチをつけた姉さんがちょっと照れたように(はにかむ姉さん可愛い!)、レイピアのような形のピンブローチを身に着けた佐々木が笑顔で「ありがとう」と言った。しかしふと、佐々木のピンブローチを見た時にパーカーのポケットで何やらごそっと動く気配。不思議に思ってポケットを探れば、さっき
あ、そういえばさっき急いで部屋を出てきたから、咄嗟に突っ込んだままだった。でも、え? これ人形だよな。なんで"何かが動いた"とか思ったんだろう俺。
そんなこと、あるはずないのに。
首をかしげながらお茶とプリンを配り終え、みんなで談笑しながらお茶の時間になる。う~ん、やっぱり親父が作るプリンは俺の数倍なめらかだな……。俺ももっとうまく作れるように頑張ろう。
それにしても姉さんのセンスは最高だな! 控えめだけど可愛らしいデザインのブローチが本当によく似合っている。そうだ、今度コサージュとか作って姉さんにあげようかな? バトルコスチュームもだけど、姉さんの私服姿ももっともっと可愛くしたい。服は材料費とかもあるしそう簡単には出来ないけど、小物なら物によってはそう時間をかけずに作れるし。そうだ、世話になってるし大道寺にもなにかあげようかな。大道寺の作るものには敵わないから、ちょっと気は引けるけど。でも大道寺は優しいから、多分喜んでくれると思う。
そんな風に俺が考えてる時だった。なにやら佐々木の様子がおかしい事に気づく。さっきまで楽しそうに喋っていたのに、突然黙り込んでしまったのだ。その瞳もどこか虚空を見ていて、俺達に反応を示さない。
「利佳ちゃん? どうかした?」
姉さんの呼びかけにも答えず、反応は無いまま。しかし佐々木はその状態で、すっと立ち上がる。
すると突然佐々木がつけていたピンブローチが輝き出し、その眩しさに目を覆う。そして目を開けた時、佐々木はピンブローチそっくりの形のレイピアを握っていた。
(クロウカード!!)
そうとしか考えられない。しかし俺が咄嗟の出来事に動けずにいる間に、佐々木はレイピアで姉さんに攻撃を仕掛けた。
「! 姉さん!」
避けた時に大道寺と一緒に倒れ込んでしまった姉さんの前に、ようやく体を動かした俺が滑り込む。手に持っているのはお茶を運んだ時に使ったトレイ。それを盾のようにして前に差し出す。が、それはたやすく貫かれ、俺の目の前にはレイピアの先端が現れた。
そのことにゾッとする間もなく、勢いに押されるままに後ろにすっ転ぶ俺。トレイは当然真っ二つだ。
しかし佐々木……正確には佐々木を操っているであろうレイピアは、転んだ俺に目もくれずに姉さんを狙い始めた。自身を封印する者だとわかっているのだろうか。姉さんは持ち前の身体能力でそれを避けつつ、なんとか外に出る。俺と大道寺も、慌ててその後を追った。
「さくらちゃん!」
「大道寺は下がってろ! 危ない!」
「ですが!」
「なんやなんや!? なんやいきなりクロウカードの気配が!」
「! ケロ吉! 大変だ、姉さんが!」
やっと異変に気付いたのか、上の階からケロ吉がすっ飛んできた。俺が外を示すと、ケロ吉は「さくら~!」と叫び一直線に姉さんのもとへ向かう。俺たちもそれに続いて外に出た。
「ケロちゃん……! 利佳ちゃんが! いくら呼んでも、答えてくれないの。利佳ちゃんどうしちゃったの!?」
姉さんが佐々木の猛攻を避けた後、一時のにらみ合いになった時にケロ吉に問いかける。そしてケロ吉の答えは、案の定!
「! あれは
「利佳ちゃんフェンシングとか習ってないのに、どうして……!」
そのあまりにも洗練された佐々木の動作に対して姉さんが問えば、ケロ吉はとんでもない事を言い出した。
「
「そんな!」
マジかよ……! 誰でも剣の達人!? ドラえもんの道具かってんだ! とんでもねぇ!
ヤバい、前回に引き続き今回も殺傷能力がかなり高い相手の上に、友達である佐々木が操られているという最悪の事態。姉さんはとりあえず
しかし俺も、ただその説明を聞いて突っ立っていたわけではない。俺はガレージにある水道に親父がよく庭の水やりで使用している長い長いホースを持ってきて大道寺に設置を頼むと、ホースの先を持って道路に出る。そしてホースの設置を済ませた大道寺に合図を送った。
「大道寺、頼む!」
「はい!」
俺の意図を察して手伝ってくれた大道寺が蛇口をひねると、少しの間をおいて水がホース内を通って俺の手元にやってくる。そして俺はシャワーの設定になっていたノズルをひねり、一点集中になるように調節してから水を放出するための引き金を引いた。
(濡れちゃうし、佐々木には悪いけど、これが当たればケガさせずに意識をこっちに向けられる! そしたらその隙に、姉さんが
しかし。
ヒョイっ
避けられた。
「ぅえ!?」
「機転としてはナイスやけど、今のお嬢ちゃんは
あ、はい。それは佐々木が
「く、くっそぉ! でも、でも俺だって!」
ケロ吉の言葉にくじけそうになるけど、でもまだ一回外れただけだ! 俺は再び佐々木を狙ってノズルの引き金を引く。そして避けられる。それを何度も繰り返した。
しかし流石に何度も邪魔されて
俺は再度、ノズルの引き金を引いた。
「……」
「!」
しかしなんと、佐々木……
「梅倖くん!」
後方から大道寺の叫び声が聞こえるが、俺はただただせまってくる剣先を硬直したまま見つめ返すしか出来なかった。
が、次の瞬間。
「!?」
佐々木が足をもつれさせるようにしてよろけた。その足元には、信じられないことにうねる様にして水が絡みついている。それはすぐに
「梅倖くん、さくらちゃん! ご無事ですか!?」
「う、うん。なんとか。それより、今のは姉さん?」
「? ええと、今のって言うと……!」
呆然と問いかけた俺に姉さんが困惑した様子を示すが、すぐにその表情はきりりと引き締められる。ああ、姉さんかっこいい……って、それは事実だけど今はそれどころじゃなかった!
獲物を失った
「クソッ、結局俺はまた足引っ張っただけかよ……! 姉さん!」
「いや、そうとも限らへんで」
「え?」
悔しさのあまり拳を地面に叩きつける俺に、ケロ吉が言う。
「見てみぃ。さっきより嬢ちゃんの動きが鈍くなってるやろ? いくら身体能力が増して達人になったっちゅうても、
「そ、それ本当か?」
「ああ。けどやりやすくなった言うても、
ケロ吉の叫びに姉さんたちの方へ視線を向ければ、さっき切り落とされたカーブミラーに躓いて体勢を崩す姉さんの姿。そしてそこに
「姉さん!!」
しかし、それは新たに現れた闖入者の剣によって防がれる。
「! 李くん!」
「李小狼!!」
「弱い!」
「うっ」
しかしその矛先は姉さんに次いで俺にもまっすぐ飛んできた。それも姉さんに言ったよりきつめの声色で。
「あとお前! 無駄な魔力の使い方をするな! あちこちに拡散しててやり辛い! ったく……制御も出来てないのか」
「は?」
な、何言ってるんだあいつ。魔力?
混乱する俺を置いてけぼりに、李は例の中華服スタイルのまま剣を構える。しかしそこに佐々木を傷つけさせまいと、姉さんの待ったがかかった。姉さんは剣を持った方の李の腕に抱き着くと、そのまま李ごとジャンプして離脱。李は「何をする! もうちょっとでこっちがやられるところだぞ!」とご立腹だが、友達を守ろうとする姉さんも李の気迫に負けじと「利佳ちゃんに怪我させちゃダメ!」と言い返す。姉さんは自分が何か言われたりされたりする時より、誰かがピンチの時の方が強いのだ。いつも言われっぱなしというわけでは無い。
しかしその途中で、姉さんははたと何か思いついたような表情になる。そしてジャンプの着地で茂みに沈み込むような体勢になっている李を置き去りにして、佐々木の真正面に躍り出た。
「あの馬鹿」
李が追いかけようとするが、その前には俺とケロ吉が立ちふさがる。
「姉さんを助けてくれたことには礼を言う。すっごく礼を言う。でも今は黙って見とけ! 姉さんは何か思いついたんだ!」
「せや。お前さんはそこで見ときぃ!」
「このっ。そこをど」
「彼の者の!」
退けと、言いかけた李の台詞を姉さんの力強い声が打ち消す。
「一番強く想うものの姿を映し出せ!
姉さんの呪文と共に、かつて俺たちを惑わせた
その最大の隙に、姉さんが佐々木の手をはたいて
「汝のあるべき姿に戻れ! クロウカード!」
そして
「よっしゃ!」
「やりましたわね、さくらちゃん!」
姉さんが無事にクロウカードを封印したのを見て喜ぶ俺達。そして俺は嬉しさのあまり勢い余って、やっと立ち上がって体勢を整えた李の肩に腕を回して自慢げに言った。
「どうだ、見たか今の! 姉さんはすごいんだぞ!」
「! はなせ!」
すぐに振り払われたが、今の俺は上機嫌だ。これくらい許してやろう! はーっはっは!
「どや! さくら一人でも、ちゃーんとカード捕まえられたで!」
「ふんっ。
「なんやて!?」
「痛ッ!?」
李の奴が何やら不満そうに言いかけていたが、怒ったケロ吉に噛みつかれて最後までそれを聞くことは出来なかった。しかしそこで、俺もふと先ほど言われたことを思い出す。
「なあ、さっきお前俺に魔力がどうのって……」
「! 誰か来る!」
が、俺の言葉もまた、最後まで言う事は出来なかった。これほど騒いでて近所の人が出てこなかった事の方が不思議ではあるが、いざ来られると非常にまずい。しかし倒れた佐々木も居ることから動くことも出来ず、俺達は固まった。
「こんにちは。桃矢居る? 借りてたCD返しに来たんだけど……」
しかし現れたのは、なんと月城さん。いや、月城さんであっても今の状況をどう説明すればいいのかよく分からないけど……! えっと、どうしよう!?
だけど月城さんは深くは聞かず普通に倒れていた佐々木を心配してくれて、家の仲間で運んでくれた。さ、流石俺が認めた姉さんの婿……! 出来た男だぜ。前の
けど月城さんにケロ吉に噛みつかれた傷を心配してもらった李の奴が、逃げるように一目散で去って行ったのが気になる。顔赤かったけど……まさかな。
だが、俺が杞憂だと思っていたことは次の日現実となる。
「どうやら、李くんも月城さんの事が好きみたいですわね」
「ほ、ほええええ!?」
「何だと!?」
翌日、昨日のお礼にと姉さんは兄貴経由で月城さんを呼び出しお菓子をあげた。すると何故かそこに李の奴が現れ、まるで姉さんに対抗するように月城さんに自分が持っていた菓子を差し出したのだ! 顔を赤くして!!
極めつけにそれらを見て結論を出した大先生のお言葉である。なんてこったい。
「さくらちゃん。カード集めも恋も、ライバル登場ですわね!」
「楽しそうに言わないでくれよ大道寺! え、なんであいつが、え!? だって月城さん男……」
「梅倖くん。恋に性別は関係ないのですわ」
混乱極める俺の肩にぽんっと手を置き、大道寺が何故か物凄く説得力を伴った響きで諭すように言う。俺はその言葉がすとんっと胸に落ちて不思議なくらい納得してしまったのだが、しかしだからといってその内容を見過ごせるわけでは無い。
「あ、あの野郎……! 何処までも姉さんの邪魔を!」
あいつが誰に恋しようが勝手だが、相手が月城さんなら話は別だ! あの人は将来俺の義兄さんになる男だぞ!
俺はガシッと姉さんの手を掴むと、熱のこもった声で宣言する。
「姉さん! 俺、これからもっと頑張るから! 姉さんのカード集めも恋も、もっともっと応援するから! だからあんな奴に負けないように気張ってこう! えいえいおー!」
「え、えいえい、おー!」
俺につられてえいえいおーしてくれる姉さん可愛い! こんな可愛い姉さんが、あの小僧に負けるはずがない。けど邪魔されたら姉さんが可哀想だ。こんなに純粋に恋してるのに!
だから李小狼、覚悟しておけよ。もしお前が姉さんの恋路を邪魔するのなら、俺がお前の恋路の邪魔をしてやるかんな!
けど、それはそれとして。
「お願いします俺に魔法を教えてください」
数日後。李の前にプライドをかなぐり捨てて土下座する俺の姿があった。