キャプターサポーターうめゆき   作:丸焼きどらごん

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十一話 うめゆき、ちょっとだけ自分を知るの巻

 (ソード)の事件翌日、俺の行動は早かった。

 

 まず朝登校してきた時から李小狼に狙いを定め呼び出す機会を窺い、昼休みにやっとそのチャンスを作り出すことに成功した。姉さんや大道寺に気取られないようにするのは苦労したぜ。知られたら心配かけちまいそうだし。

 そしてチャンスを作った後、貧弱な俺にしては火事場の馬鹿力じみたもんを発揮し、半ば無理矢理人気のない所に李小狼を引っ張っていった。その後俺は(はや)る気持ちを押さえられずに、色々過程をすっ飛ばして「俺に魔法を教えてくれ」と、自分の要求だけつきつけてしまった。当然その結果、理由やら他に聞きたかったことを口にする間もなく、はあ? というような顔をされた後「何で俺が。断る」とばっさり切られて終わる。俺が呼び止める間もなく、李の奴はさっさと教室に戻ってしまった。

 

 ファーストミッション、失敗。どうやら俺に交渉事は向かないらしい。

 

 

 

 しかし俺は諦めなかった。休み時間や放課後、タイミングを見計らっては李にお願いし続けたのである。

 が、反応はけんもほろろというやつで……今のところ心底鬱陶しそうな視線しか向けられていない。

 

 しかし奴が断ろうと、嫌がろうと、まずは話を聞いてもらおうと……俺はしつこく食い下がった。幸いにして最近すこぶる体調がいいので余計にやる気も出ている。

 なんとしても、李にクロウカードを使わない魔法を教えてもらわなければ!!

 

 最初は身近な魔法の専門家とはいえ、姉さんに敵対の意志を向けライバルでもある李に何か教えを乞うのは嫌だった。でもあれ以来……姉さんに(ソード)の剣先が迫った場面を見てから、そんな事言ってる場合じゃないと思い直したんだ。

 その前からも危険な場面はたくさんあったけど、刃物という比較的身近に感じやすい脅威が迫った事で、俺はより生々しくクロウカード集めの危険性を思い知ったのだ。だから一刻も早く、俺は姉さんの助けになれる力が欲しい。

 

 だけど李は一行に捉まらない。もういっそ奴の家までついていって、押しかけてから頭を下げようかとも思った。だが俺の尾行は李にとってバレバレだったようで、それもなかなかうまくいかない。

 あの野郎、俺が追い付けない速度の全力ダッシュで毎回簡単に撒いてくれる。チックショウむかつく!

 

 だけど、それなら俺にだって考えがある!

 

 

 

 

 

 

 結果、公衆の面前での土下座である。

 

 

 

 

 

 

 

「頼む! 俺は姉さんを助けられるようになりたいんだ! だから俺に魔法を教えてくれ!」

「馬鹿! こんなところで何を言い出すんだ!? おい、人が見てるだろう!」

「頼む!」

「頭をあげろ!」

「お願い! 一生のお願い!!」

「恥ずかしいからさっさとそれをやめろ!!」

「お願いします!」

 

 なりふり構ってられなくなった俺は、自分のプライドも何もかも放り捨てて日本の伝統芸能(?)土下座を発動した。だけどそれだけじゃ足りないと、衆目の視線という脅しもセットである。どうだ、俺と一緒に見られて恥ずかしかろう! 俺はもっと恥ずかしいけどな! 正直ツライ!!

 俺が土下座をしている場所は兄貴の通う高校……星條高校の近く。友枝小と星條高校は隣り合っているのでちらほらと友枝小の生徒からの視線も集めているが、そんなものはどうでもいい。姉さんと大道寺はそれぞれ部活の時間だし、少なくとも二人に見られる心配は無いからな。あとで人づてに伝わったらその時はその時。直接見られてなければ、いくらでもごまかしようはある。

 

 そして土下座を続ける事しばらく。あいつにしたら俺を無視して帰ればいいだけなのに、その場に留まってただただ土下座をやめろと言い続ける李小狼は、つきあってくれているだけ結構律儀な性格なのかもしれない。とかなんとか、俺が思い始めていた時だ。

 

 俺の期待したお願い大作戦最終兵器が、期待の通り現れたのだ!!

 

「あれ、梅倖くん……。! どうしたの!? もしかして、お腹痛い? 大丈夫?」

「!!!!!!!!」

 

 俺の土下座を蹲って腹痛に苦しんでいると勘違いしたらしいのは、月城雪兎さん。だいたい兄貴とセットでいるようなイメージのあるこの人だが、今日兄貴はバイトなので学校が終わったら早々に帰宅しているはず。だから今日は一人だ。

 兄貴に見られたら絶対何か言われるし、姉さんに乱暴した李には兄貴もかなり厳しい視線を向けているのでひと悶着あるはず。そうなるとお願いを聞いてもらうどころでは無いので、月城さんが一人で校門から出てきたのを確認した俺はニヤリと笑った。

 

 ふっふっふ、計画通り……! わざわざ兄貴がバイトの日と李が係の当番で帰宅が高校生と重なる時間になる日を選んだ甲斐があったぜ!

 そして月城さんが好きな李小狼は、実に分かりやすく顔を真っ赤に染めた。う~ん……こいつ本当に月城さんが好きなんだな。その気持ちを利用するのが、ちょっと申し訳なくなる。

 かといってやめるわけじゃないけどな! 俺だって必死なんだ!

 

「いえ、大丈夫です! お腹痛くありません! それがその、ちょっとこいつにお願いをですね……」

「! ~~~~! わかった、わかったから!! 話くらい、聞いてやる!!」

「マジ!? やったー!」

 

 ガッツポーズで喜ぶ俺と、心底悔しそうに、でも月城さんの手前何も出来ず拳を握ってぷるぷる震える李。それを見比べて何か察したのか、月城さんがちょっと困ったように眉尻を下げた。

 

「あんまり、お友達を困らせちゃ駄目だよ?」

「はーい。ごめんなさい」

 

 俺はよい子のお返事をすると、早速李に話を聞いてもらうために場所を変えることにした。

 

「じゃあ、月城さんありがとう! 俺達ちょっと用事あるから行くね! さよなら~!」

「あ、おい! 引っ張るな! あ、あの! さ、さよなら……」

「えっと、うん。バイバイ! ……そうだ」

 

 ぶんぶんと手を振りながら、もう片方の手で李の服を引っ張って走り出す俺。月城さんも手を振り返してくれたけど、ふと思いついたようにポケットを探ると、何かを取り出して投げてくれた。そして弧を描いて飛んできたその何かを、運動神経がいい李が受け取る。

 

「よかったら、二人で食べてね」

 

 ニッコリと、優しく微笑む月城さん。見れば李が握っていたのは包装紙に包まれた二つの飴玉で、受け取れた李も凄いけどよく狙って投げられるなぁと感心する。やっぱり月城さんも、運動神経いいんだよなぁ……羨ましい。

 

「ありがとうございます!」

 

 お礼を言って、今度こそ李を連れて駆け出した。そしてたどり着いたのは、大きなペンギン型の滑り台がある公園。走ったせいで息が切れたが、気分が高揚しているおかげか苦しいのも気にならない。だってやっと、李に魔法についてきけるんだから!

 

 しかしふと、ここに来るまで妙に大人しかったなと思って李を見る。

 

「………………」

 

 お、おう。顔真っ赤だな……。そしてもらった飴玉を大事そうに握っている。そうか、そんなに嬉しかったか。

 

「……よかったら、俺の分もやるよ」

「! いいのか!」

「う、うん。俺、実はそんなに甘いの好きじゃ無いからさ……」

「そ、そうか。ま、まあ……もらってやってもいい」

 

 思った以上に喜ばれた。つい嘘までついて受け取りやすくしてしまう程度には、嬉しそうに。

 ……本当は甘いの普通に大好きなんだからな、俺。

 

 それにしても、あの仏頂面がデフォルトの李を笑顔と飴玉一つでここまで変えるとは……。なんか、恋ってすごいんだな。姉さんもいつも可愛いけど、月城さんのことになるともっと可愛くなるし。

 

 と、それは今置いておいて!

 

 俺は咳払いをして仕切り直すと、公園のベンチを指して李に座るよう促した。

 

「つきあってくれて、サンキューな。とりあえず、まず俺の話を聞いてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は姉さんを助けられるようになりたいんだ。だから、魔法を覚えたい」

「フンッ。姉を危険な目に遭わせたくないなら、あいつを説得してクロウカードに関わらせないようにすればいいだろう。残りのカードは俺が集める」

 

 まず俺が魔法を覚えたい理由を話せば、当然李が返す言葉は分かり切っている。そして予想通り、李は姉さんにクロウカード集めを諦めさせろと言ってきた。だけど俺はこれに否と返す。

 

「それは駄目だ。今まで頑張ってきた姉さんの頑張りを無駄にしたくないし、第一クロウカード自身が姉さんのいく先々で出てくるんだぞ? 関わらないって方が無理だよ。なんたって家の中でも出てきたし、この間は姉さんの友達を操ってたし……」

 

 俺がそう言えば、李が少し詰まる。まさかそんな身近にクロウカードが現れていたとは思わなかったか……。が、すぐ気を取り直すように首を振るとこう言ってきた。

 

「だが、あいつは何も知らなさすぎる。もう一度言うが、クロウカードはあんな子供の手に負えるようなものじゃないぞ」

「お前だって子供じゃん」

「揚げ足をとるな。俺は昔から魔術を学んでいるし、クロウカードについての知識もある。あいつに任せていたらいつ集め終わるかもわからないが、俺ならすぐに集められるさ。邪魔さえなければな」

「いつ姉さんが邪魔したってんだよ! だいたい、お前が来るのって前もその前も姉さんより後だったじゃねーか」

「それは……」

 

 少々ムキになったような物言いの李に、更に揚げ足を取りに行く俺。いや、揚げ足じゃねーよ事実だよ。

 しかし李は、俺が思ってもみなかったことを言った。

 

「前々回はともかく、前回はお前が邪魔してただろう。あれが無ければ、俺はもっと早くにクロウカードの所へ行けたんだ!」

「はあ? ……あ、そうそう! 俺もそれが聞きたかったんだ。なあお前さ、その時俺に魔力がどうの邪魔がどうのって言ってたよな。あれってどういう事だよ」

 

 俺が問うと、李は腕を組みながら難しい表情を作った。いちいち仕草が偉そうな奴である。

 

「……そういえば、魔法を教えてほしいというくらいだから無自覚だったか」

「おう。だから教えてほしいってのに、お前いっつも逃げるんだもんよ」

「逃げてない。鬱陶しかっただけだ。それに散々噛みついてきてるのはお前の方のくせに、自分が知りたい事だけ教えろとは図々しいと思わないのか」

「うっ。そ、そりゃあ自分でも図々しいのは分かってるし、正直お前の事はムカツクし嫌いだけど……」

「おい、それが教えてもらう側の態度か?」

「あ、ごめん、つい本音が」

「…………」

 

 ま、まずい。李の機嫌がどんどん悪くなっている。ただでさえ無理矢理突き合せたのに、真正面からムカツクだの嫌いだの言われたらそりゃあ気分を害すよな。原因はコイツだけど。姉さんに掴みかかってた時の事は忘れない。

 

「と、とにかく! 俺にも魔力があるってんなら、それをちゃんと使えるようになりたいんだ! そしたら無意識に使ってお前の邪魔になる事も無いだろ? ……俺にも魔力があるのはケロ吉に聞いてたから知ってるけど、使い方ってなるとさっぱり分からない。お手上げだ」

「無意識で邪魔しなくなっても、今度は意図的に邪魔するかもしれないだろう。そうと分かっていて何故教える必要がある。そもそもそうしてやる義理も無い」

「邪魔しないよ。お前が最初の時みたいに姉さんに乱暴するならともかく、クロウカードに関しては早い者勝ちでいい。姉さんの動きを助ける事はあっても、お前を攻撃して邪魔するとかはしない。約束する」

「口では何とでも言える」

 

 む、むう……。分かってはいたけど、こいつの説得は相当難しいぞ。だけどせっかく話を聞いてもらえるところまできたんだ、そう簡単に諦めてたまるかってんだ!

 そこで俺は情に訴える作戦に出た。効果あるかどうかなんてわからないけど、出来ることは何でも試してやる。

 

「…………俺、この間は本当に怖かったんだ。姉さんが切られそうになってるの見て、ゾッとした」

「なら関わって来なければいい」

「だから、無理だって言ってるだろ!? いつクロウカードが出てくるかなんて、分からないんだから! ……前もさ、クロウカードのせいで姉さんが崖から落ちた時も、手を掴むのは間に合ったのに俺の力不足で結局二人とも落ちちまった」

 

 同情心に訴えかける作戦だってのに、ついつい感情的になってしまう。だけどせめて自分が思ってることだけでも最後まで伝えたくて、俺はそのまま言葉を続けた。李にしてみればいい迷惑なんだろうな。

 

「俺さ、姉さんを守りたいだなんて、今のままじゃとてもじゃないけど言えない。だって姉さんは、おれよりずっとずっと強いから。そして優しくて可愛い。でもそれなら、助けになるくらいはしたいじゃんか……。ちょっとでもいいから頼ってもらって、助けられたらって、思う。…………結局は俺の我儘なのかもしれないけど、俺、強くなりたいんだ……」

 

 そこまで言って、ふと思い立って問いかけてみた。

 

「お前兄弟っている?」

「……姉が四人居る」

 

 まさか答えてくれるとは思っていなかったうえに、俺と同じで姉さんが居るのか。しかも四人!

 

「だったら、俺の気持ちも少しは分かってくれよ! 同じ弟として! だからお願い魔法教えてください!」

「お前本当に図々しいな」

 

 何とでも言え!

 再度深く頭を下げた俺の頭頂部に、李の視線が突き刺さるのが分かる。

 

 

 

 

 そして、そのまま数十秒。

 

 

 

 

 深い。深いふか~いため息とともに、李は言葉を吐き出した。

 

「…………確かに無意識で邪魔されるのは、もう勘弁だ」

「じゃあ!」

「勘違いするな! 魔法は教えられない。最低限、俺にわかる範囲でお前の魔力について教えてやるだけだ。それを知って、制御できるかは自分で考えろ」

「え~! いいじゃんケチー! 教えてくれるならもののついでに魔法くらい教えてくれても~」

「帰る」

「ごめんなさいすみませんでした調子に乗りました! だからお願い帰らないで!」

「だから引っ張るな! 服が伸びる!」

 

 背を向けた李を服の端を掴んで泣きつけば、いい加減堪忍袋の緒が切れたのか李にお返しとばかりにほっぺを引っ張られた。

 

「ごふぇんなふぁい……」

「まったく……」

 

 本気で引っ張ってはいなかったのかすぐに手は離された。そして李がベンチに座り直したのを見て、俺はやっと自分が知りたかったことを聞けるのだと分かりそわそわし始める。

 魔法を教われないのは残念だが、李の言い分を聞けば俺は無意識に李の邪魔をするような魔力の使い方をしていたことになる。となれば、自分の魔力について知れたら自己流でも魔法が使えるようになる可能性は無いわけじゃない! ……かも。

 期待を込めて、俺は李を見つめた。

 

 

 しかし李から発せられた言葉の内容は、俺の期待を裏切るものだった。

 

 

「小さい器に無駄に多い魔力。それがお前だ」

「え」

 

 いきなり器が小さいと言われた。そう言う意味じゃないと分かってるけど、地味に傷つく。

 しかし李は俺が落ち込んだのにも気づかず言葉を続けた。

 

「普通は魔力があったとしても、それが収まる器に見合った量しか備わっていない。だっていうのに、お前の魔力はその器からこぼれ出てる。それのせいなのかは分からないが、お前が触ったものには少しの間、こぼれ出た魔力が留まるようだ。この間は(ソード)を止めようという強い意思があった分、余計に水に魔力がこもったんだろう」

「え~と。じゃあ、あの時は俺の魔力がこもった水をまき散らしてたから、李の邪魔になったのか?」

「ああ。そのせいでクロウカードの気配を察知するのが遅れた」

「そ、そっか。悪い」

 

 ばつが悪くなって謝った俺を構わず、李は更に自分の考察を話してくれる。

 

「お前、この間ぶっ倒れただろ」

「そ、その節はどうも保健室に運んでいただきまして……」

 

 李が姉さんに乱暴した時の事だから本当は謝りたくないんだけど、今俺は教えてもらう立場だ。癪だが下手に出ておこう。

 

「多分そのこぼれた魔力は、お前の体にも悪影響を及ぼしているぞ」

「え!?」

 

 思っても見なかったことを言われて驚く俺。え、俺の魔力が俺の体にってどういうことだ!? 自分の物で自分に悪影響とか、そんなことあるのか!?

 

「自分とは異なる魔力や、自分より大きい魔力に触れると稀に影響を受ける事がある。惹かれたり、悪酔いしたり、嫌悪したり。……この辺については本で読んだだけだから、俺も良く知らない。でも、多分お前のはそれだと思う。といっても、自分の持つ魔力で影響を受けるなんて聞いたことないが」

「な、何でそう思うんだ? 第一、なんで魔力がこぼれてるだとか分かるんだよ。ケロ吉には何も言われてないぞ?」

「近くに居すぎて分からないんだろう。俺も最初のきっかけが無ければ、多分気付かなかった」

「きっかけって? 水で魔力まき散らした時か?」

 

 我ながら聞いてばかりで情けないが、分からないんだから仕方がない。もう説明をすると腹をくくったからか、李も辛抱強く答えてくれる。

 

「お前を運んだ時だ。魔力が俺にまで入ってきたぞ」

「李に?」

「ああ。そしてお前はこぼれ出た余分な魔力を俺に押し付けた後は、すっきりした馬鹿面ですーすー寝てた。わざとかと思ったからあの時は腹が立ったぞ」

「お、おう。……なんか、すまん」

 

 そういえばあの後急に体調がよくなったんだよな。それのせいか。

 魔力を相手に与えるとかゲーム的に考えると便利っぽいけど、李の言い方を聞くにあまりいいものじゃなかったんだろうな。そりゃ、悪い事をした。

 

 

 

 

 

 …………って、ん? んん!?

 

 

 

 

 

「お、おいおい! ってことは、俺が今まで体調を崩しやすかったのって魔力のせいなのか!?」

「そ、そういうことになるな。言っておくが、確証があるわけじゃないからな! 少なくともこの間は、ってことだ!」

 

 俺が思わず身を乗り出して訊ねると、李がのけ反る。しかし俺としてはそんなこと気にしてる場合じゃない。

 小さい時からの付き合いとはいえ、この弱弱しい体にもし理由があったのだとすれば……。

 

「ムキムキも夢じゃなくなる……!?」

「は?」

「ああいや、こっちの話」

 

 でも、そうか。つまり俺は、そのこぼれてる魔力を何らかの形で発散できれば体調がよくなると。簡単に言えばそういう事だよな? なんてこった! ってことは、魔力をコントロールできるようになれば体調も良くなって姉さんも助けられるって事か!? 一石二鳥じゃないか! ヤバいテンション上がってきた!

 

「あ、でもそれが原因だとすると……俺が触ったものに魔力がいくなら、何で今まで体調がよくならなかったんだ?」

「魔力が一つの要因とはいえ、もともとの体質もあるんだろう。俺としても全部わかるわけじゃない」

「そ、そうかー……」

 

 そううまい話では無かったらしい。

 

「それに、お前と同じく魔力がある俺だから"受け取る"状態になったんだろう。魔力が無い相手なら物と同じくそう長くは留まらず霧散するはずだ。受け入れる器が無いからな」

「な、なるほど? えっと、じゃあ姉さんとケロ吉は?」

「だから、全部わかるわけじゃないと言ってるだろ。そうポンポンと聞いてくるな」

 

 俺が次から次に湧いてくる疑問をそのまま口に出してい居ると、流石にちょっと嫌そうな顔をされた。けど俺としては思いついた疑問を忘れないうちに、全部聞いておきたいのだ。李には悪いが我慢してもらおう。

 

 

 そして、思いついた疑問がもう一つ。

 

 

「そういえば、魔力が留まった物を操ったりってできるのかな。この間、一瞬だけ水がグミみたいに固形化? して佐々木の足止めをしてくれたんだけど」

「水が? ……いや、いくら必死だったとしてもそれは無理だろう。見間違いじゃないのか」

「何でそう言い切れるんだよ」

「お前は魔力を持ってはいても、使えるわけじゃないからな。こぼれた魔力もすぐに霧散するから、探知の邪魔にはなっても現象を引き起こすまでの強さには成りえない。少なくとも魔法という形にするには俺の剣や札、あいつの杖やクロウカードにあたるもの……触媒が必要だ」

「う~ん、そっか……。見間違い……なのかなぁ?」

 

 専門家に言い切られると自信が無くなる。しかしふと、今の台詞の中で気になることを聞いた。

 

「じゃあショクバイってのがあれば俺でも魔法使えるのか!」

「そう簡単なもんじゃない」

 

 ばっさり切られた。ぐ……! そりゃ、分かってはいるけど。

 

 しかし今日はずいぶんと色んな事を聞けたな。魔法こそ教わることは無理そうだけど、なんとなくのきっかけは貰えた気分。それに、まさか俺の体調不良の理由に魔力が関わっていたとは。

 でも、まだ尋ねたいことはいっぱいある気がするけど、なんか色々聞きすぎて今はお腹一杯だ。多分これ以上聞いても頭に入ってこない。

 

 

 ので、丁度日も暮れてきたから、今日はここでお開きにすることにした。

 

 次の機会があるかどうかわからないけど、今日の李を見てたら無理ではない気がする。その時はまた月城さんをだしに使わせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

「しょくばい……かぁ」

 

 李と別れ、帰り道をとぼとぼ歩きながらつぶやく俺。

 ……実は李が当たり前のように言うので恥ずかしくて聞けなかったのだが、しょくばいってなんだろうか。

 

 たまにファンタジー系の小説でそんな言葉が出てきたような気もするし、李の言い回し的に魔法を使うための道具って感じでいいとは思うんだけど、いざ考えると意味がよく分からない。わりかし本の虫であり、それなりに言葉を知っていると思っていた俺としては由々しき事態だ。

 間違った解釈をしていたら、せっかくヒントをもらったのに遠回りになる。これはちゃんと調べないとな。

 

 

 

 

 その日俺は家に帰ってからまず辞書を引き、化学反応うんぬん出てきてチンプンカンプンになって兄貴に助けを求めることとなった。

 そして一晩中悩んで、朝。部屋で一人「杖とか剣のことなら触媒じゃなくて媒体って言えよ!! そっちのが意味近いじゃん! 化学反応うんぬんを魔法に置き換えればいいのかとか一晩中悩んじまっただろうが!!」と涙目でキレることになった。我ながら理不尽もいい所だが、兄貴に教えてもらって中学の化学の本を借りたり、辞書で媒の字を使ってある似た単語を探してみたりで頭が沸騰しそうだったんだ。李本人に向かってキレなかっただけマシだと思いたい。

 

 

 とりあえず、中学に行った時の化学の授業が少し楽になったかもしれない。

 

 …………そう思う事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 




難産説明回。だらだら長くなってしまい申し訳ない(´・ω・`)
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