「ほええ~!? こ、これ、全部知世ちゃんのお家なの!?」
「だよね、そうなるよね。俺も最初ビックリした」
日曜日、大道寺の相談に乗る約束をした姉さんのお供で、俺も久しぶりに大道寺の家にお邪魔することになった。最近は学校で製作するのを手伝う衣装を受け取って家で作業ってのも多かったし、本当に久しぶりだな。
いや~……。それにしても、何度見ても「発見! こんなところに大豪邸」である。最初どこぞの迎賓館かな? とか思った。噴水とか薔薇のアーチとか普通にある手入れされた庭園とかあるし、なんつーか個人の家って規模に見えない。
友枝小は私立だし、いいとこの子供もそれなりに居るけど、大道寺はその中でもダントツでお嬢様だと思う。本人のあの気品も頷けるというものだ。
家の外観に惚けながら玄関先まで進むと、大道寺が中から出て来て迎え入れてくれた。お、今日は薄い桃色の清楚なワンピースに、ピンクのリボンを頭の上で結んでるのがいかにもお嬢様って感じだな。
「いらっしゃい! さくらちゃん、梅倖くん」
「お、おじゃまします」
「おじゃまします!」
「おーう知世! ワイもおるで~! こにゃにゃちわ~!」
「まあ、ケロちゃんも来てくれたんですね! 嬉しいですわ。さ、入ってください」
大道寺の案内で彼女の部屋まで行くと、姉さんがその広い部屋に驚きつつも、好奇心が刺激されたのかキョロキョロ見回し始めた。うんうん、俺も最初同じ反応した。この部屋、シアタールームまでついてるしな。
なんというか、言い方は変だが見ごたえがある。本当、見ごたえとか友達の部屋に使う言葉じゃない気はするんだけど。
大道寺んちに来た時は、毎回シアタールームで姉さんの活躍を見せてもらってる。大画面だと姉さんの凛々しさ可愛さ美しさ、その他全てもろもろがより鮮明に見ることができるのだ! 最高ったらない。
それにしても、親友の姉さんが初めて大道寺の家に来るってのに、先に俺が何回もお邪魔してるってのも不思議な話だ。俺がここに来るのは毎回衣装制作が中心だから、遊びに来てるのとはちょっと違う感覚なんだけどさ。
そして大道寺のお部屋案内が終わった頃合いで、俺はわざとらしく咳払いをした。
「うおっほん!」
我ながら咳払いって言うよりまるっきり台詞なわざとらしさだった。それにちょっとばかり恥ずかしくなりながらも、俺の期待通りに大道寺、姉さん、ケロ吉がこちらを見る。
自分に注目が集まった事を確認した俺は、表情がニヤニヤと緩みそうになるのを必死で抑えるべく顔の筋肉を総動員する。ふっふっふ! ……なんといったって、これから俺は大道寺に"新たなる俺の力"を披露するんだからな! にやけた締まらない表情じゃかっこわるい。ここはキリリと引き締めていかねば!
「大道寺。あのさ、お前の悩みを聞く前にひとつだけいいか? ちょっと報告があるんだ」
出来るだけクールを意識しつつ、俺は言葉を続けた。
「実はだな、まだ言ってなかったことがあってな」
「? なんですか? 梅倖くん」
「ふっふっふ。えーとな、実はな」
いかん、いざ話そうとするとどうしても顔がにやけそうになる。言ったら大道寺驚くかなって考えると、早く言いたいのに言うのがもったいないような、なんか変な感じだ。大道寺、どんな反応するかな!
「もうっ、早く言いたくて仕方がないくせにもったいぶるんだから。梅くんが知世ちゃんにはまだ内緒にしておいてほしいって言うから、わたし言わなかったんだよ?」
「そやで。来る前からソワソワしとったんやから、はよ言いや」
俺が言うのを勿体ぶっていると、俺がお願いしたせいで親友に話したくても話せなかった姉さんと、口では急かしつつも俺と同じくどことなくソワソワした態度のケロ吉が促してきた。
そして大道寺はといえば目をぱちくりさせたものの、いつもの笑みを浮かべて穏やかに問いかけてくれる。
「ふふっ。なんだか落ち着かないご様子でしたから、気になっていたんです。いったいどうしたんですか? 梅倖くん」
大道寺に促されて、俺はようやく彼女への報告内容を話すことにした。もしかしたら、この力が今回役に立つかもしれないし! だったら、大道寺の悩みを聞く前に先に話しておかないとな!
そう、力だ。
俺は、俺はついに!
「俺は魔法を使えるように「ただいま!! 知世、知世~! 入っていいかしらー!?」
「「「「!」」」」
俺が言い切る前に、ノックと共に聞こえてきた声に全員固まった。そしてドアノブが回ったのを見て、ケロ吉があわててハギレの中に姿を隠す。その素早さのお陰もあって、ギリギリ部屋に入ってきた人物……大道寺のお母さんに姿を見られる事は無かった。セーフ。すごくセーフ。
ちなみに俺は自分に関する大々的な発表に意気込んで、膝を片方まげて片方伸ばし拳を天高く掲げるキメッキメなポーズのまま固まっていたのだが……。それを見た大道寺のお母さんに「あら、変身ヒーローごっこ?」と微笑ましそうに言われてしまい、羞恥心で死んだ。
恥ずかしい。
+++++++++
桜は現在、弟の梅倖、親友の知世、そしてその母である大道寺園美と大道寺宅の庭でティータイムを過ごしていた。
しかし庭と言っても、薔薇をはじめとした手入れされた花々が咲き誇る立派な庭園があるにもかかわらず、何故かここは水辺である。どうやら大道寺家は庭に蓮池まで完備しているらしい。清楚な蓮の花が浮かぶ池の上に四方から板が渡され道が作られており、その中心にある広いスペースにセッティングされたテーブルとイスが、今回のお茶会会場だ。
庭とは言うが、ちょっとした公園レベルの広さである。
テーブルクロスの上には園美が購入してきたホールケーキと、お手伝いさんが用意したお茶が並ぶ。ケーキを切り分ける園美は鼻歌まで歌い、非常に上機嫌だ。
小鳥のさえずりが耳に届き、水辺に吹く爽やかな風が庭園から花の香まで運んできてくれるなんとも素敵な空間である。……それだけに、部屋に置いてきてしまったケルベロスを思うとちょっとばかり後ろめたい桜ではあるのだが。
先ほど桜と梅倖が遊びに来ていることを知った園美が急きょ会社から帰って来て、三人を外でのお茶会に誘ったのだ。そのため当然ケルベロスは部屋でお留守番。おそらく、ケーキが食べられないことを今頃嘆いていることだろう。
園美は桜と梅倖をとても嬉しそうにもてなしながら、彼女の従妹であり親友であった撫子の事を語った。甘いものが大好きで、ホールケーキ一つならぺろりと食べてしまった事。だというのにまったく太らなかった事、非常にのんびりしていて、桜と違って運動神経はよくなかったらしい事。
「ふふっ。桜ちゃんは撫子にとってもよく似てて可愛いけど、運動神経は似なかったみたいね~。あの子、素早さとか機敏さとは無縁だったから」
桜がチアリーディング部で、なおかつ運動神経に優れていたことを知世に聞いていた園美が、過去を思い出しながら楽しそうに語る。その様子に本当に園美は母である撫子が大好きだったのだと感じた桜は嬉しくなるが、ふと今の台詞を聞いて思い当たることがあったのでチラッと横を見る。するとそこには双子の弟……梅倖がケーキを口に含んだまま固まり、笑顔をひきつらせていた。見れば知世の視線も梅倖にむいている。
(ああ、梅くんはお母さん似だったんだなぁ……)
実はこの弟、単純に体力が無かったり病弱であることを除いても、運動神経が壊滅的に悪いのだ。
ボールを投げればノーコン、何もない所でもよく転ぶ(気づかれたくないのか、すぐに起き上がって何もなかったふりをするのは上手い)、跳び箱では跳ぶタイミングをはずしそのまま跳び箱に突撃……などなど。
本人も自覚しているため、今の話を聞いて何とも言えない気持ちになったのだろう。母親に似ているのは嬉しくも、その内容自体は嬉しくない複雑な心境であることが窺えた。
彼の運動神経を知る二人からの生暖かい視線に気づいたのか、園美は今度は梅倖に話しかける。
梅倖は男の子だが髪の色が撫子とよく似た黒髪なため、見た目だけなら桜以上に小さい頃の撫子にそっくりなのだ。成長期が訪れればいずれ変わっていくだろうが、それだけに今の姿が愛らしい。双子の桜と並ぶことによって、いっそう可愛く見える……というのが、まず園美が梅倖に抱いた印象である。
それに運動会で会えなかった上に、聞けばこの少年は家に何回か遊びに来ているのだという。そのため園美の瞳は好意と興味で輝いていた。
ちなみにそれを受ける梅倖は更に笑顔をひきつらせた。主にこれから振られるであろう話題が原因で。
「そういえば、梅倖くんも運動部なの? 男の子はサッカーとか野球とか好きよね。梅倖くんは何が好きなのかしら」
「い、いえ。俺は美術部です。その、俺は姉さんみたいに運動とか得意じゃなくて……。でも、絵を描くのは好きですよ! 得意です!」
言い辛そうにしながら、本人としてはさりげないつもりで自分の得意な事をアピールし話題を変えようとする梅倖。しかしこれは運動音痴を深く突っ込まれたくないこと以上に、彼なりの園美への気遣いなのだ。
運動が得意か聞いてきたと言う事は、園美は梅倖の体があまり丈夫でないことはまだ知らないはず。ならば、病気で大好きな従妹を亡くした彼女に、わざわざその息子まで体が弱い事を知らせて心配させる必要もないだろう……と。
きっとそんな事を考えてるんだろうなぁと、桜は思いつつ口を噤む。余計な事を言って、弟の気遣いを無駄にしないために。
そして梅倖の言葉を聞いた園美は一瞬驚いたように目を見開くと、嬉しそうに微笑んだ。
「まあ、素敵ね! よかったら今度、絵を見せてもらってもいいかしら」
「もちろん! ……そうだ。よかったら今度、園美さんを描かせてもらってもいいですか?」
「それは素晴らしいですわね! お母様、梅倖くんはとっても絵がお上手なんですよ。きっと素敵に描いてくださいますわ」
梅倖の提案に、真っ先に知世が賛成の意を示す。それに照れつつも、梅倖は園美の反応を窺う。
ちなみに「大道寺のお母さん」や「知世ちゃんのお母さん」では長いので、梅倖も桜も今は「園美さん」と呼んでいた。これについては、兄である桃矢も同じ呼び方である。誰もおばさんと呼ばないあたり、園美の若々しさのたまものなのか、はたまた木之本家の教育のたまものか。
「あら、いいの? こんなおばさんがモデルで」
「おばさんだなんて! 園美さん華があってすっごく美人だから、描きがいがあります!」
「ふふっ、嬉しい事を言ってくれるのね。ありがとう。じゃあ、今度お願いしちゃおうかしら」
その申し出に微笑ましそうに了承の意を返した園美だが、ふいに視線をそらして呟く。
「…………くッ! せっかく可愛いお願いなのに、また木之本先生を思い出してしまったわ。もしかして、こうやってサラッと褒め言葉を言うところは木之本先生似なのかしら……」
「? どうかしましたか?」
「いいえ! なんでもないのよ梅倖くん! ……そういえばね、撫子も絵がうまかったのよ」
「! へえ、母さんが! 兄貴……兄から母さんは音楽が得意だったってのはきいてましたけど、それは初めて知りました!」
「あのね、と~っても優しい絵を描くの。見る人の心を和ませるような、撫子の人柄を表すような絵だったわ……」
言葉にしながら、園美の視線はどこか遠くへ向いていた。思い出を懐かしむように。
そして話題は次々移り変わってゆき、楽しい時間はあっという間に過ぎてゆく。
途中で桜があまり自分の事を話さない父・藤隆のことについて聞く場面があったが、それに対して園美は「撫子の事を好きだった人から見れば、すっごく、すっごく嫌な人」と言いつつも「優しくて料理もうまくてかっこよくて、何でも出来て……。欠点と言えば、欠点が無い事かな」と、ウインク付きのお茶目な様子で藤隆のことを話してくれた。
自分が言っていたことは内緒にしてくれと言われたが、運動会にて園美が藤隆に対して険悪な雰囲気を出していたのが少し心配だった桜としては、それが聞くことが出来て嬉しかった。桜から間接的に運動会の時の事を聞いていた梅倖もまた、それを聞いてほっとしたように息を吐く。
そしてわずかな心配事も消え、お茶会は続いたのだが……園美に彼女の会社から連絡が入った事で、用事がすむまでの間、桜、知世、梅倖はいったん知世の部屋に戻ることになった。
さて、お茶会は楽しかった。楽しかったが、今日桜たちが大道寺邸に来たのは、知世の困りごとを聞くためである。そのため本番はこれからだ。
しかしその本番前に、どうしても言いたくて言いたくて仕方がないのに、お預けをくらっていた少年が再び拳を振り上げた。そして声も高らかに言い放つ。
「大道寺聞いてくれ! 俺はついに、魔法を使えるようになったぞー!」
++++++++++
大道寺の部屋に戻るなり、窓からお茶会を見ていたらしいケロ吉が恨めしそうな顔で「ケーキ! ワイのケ~キ~!」と突進してきたが、そこは流石の大道寺大先生。さりげなく確保してきたケロ吉分のケーキを渡すことで、ケロ吉はあっさり笑顔になった。毎度毎度、変わらず食い意地のはったぬいぐるみである。
そして、俺はようやく大道寺に俺の新たなる力について報告することが出来た。いや~、園美さんと話すのも楽しかったんだけど、さっきから言いたくて仕方が無かったんだよな。溜めも無しで部屋に入るなりノータイムで言ってしまった。もうちょっと、もったいぶってもよかったかもしれない。
「まあ! それは本当ですか? 素晴らしいですわ、梅倖くん。いったいいつの間に?」
けどこうして大道寺がいい反応してくれるもんだから、俺も嬉しくなっていそいそとカバンの中からあるものを取り出した。それは姉さんの鍵やクロウカードのように特別なものではなく……。
「お裁縫セット、ですか?」
大道寺が言うように俺が取り出したのは、何の変哲もないどころか、学校で他のみんなも使っている裁縫セットだ。家庭科の授業で使っている、ちょっと大きめの箱に入ったやつ。布切狭、糸切狭、針各種、ゆびぬき、チャコペン、メジャー、糸数種類などなどが入っている。
「そう! 話せばちょっと長いんだけどさ……」
そう前置きをして、俺は李小狼に聞いた自分の体質の事から順を追って話し始めた。
俺に魔力はあるけど、その魔力が納まる器より大きいために引き起こされる体の不調。それを解決するには、ケロ吉曰く意図的に自分の魔力を消費する必要があるとのこと。だけど俺には魔法を使うための媒体が無く、まずはそれを探すところから俺の魔法使いへのロードは始まった。
俺の体が弱い原因の一つに魔力が関わっていると知ると、ケロ吉とうんうん唸りながら模索していた俺と一緒になって、姉さんも一生懸命何かいい方法は無いかと考えてくれた。物は試しと言う事で姉さんの鍵に魔力を注ぐイメージをしてみたが、俺が力不足なのか、契約者が姉さんだからか鍵を杖にする事すら出来ず撃沈。まあ、これは本当にダメもとだったからいいんだけど。
そういえば。
「にしても、梅の魔力についてあの小僧に分かってワイに分からんかったやなんて悔しいわ……!」
ケロ吉はこんな風に悔しがっていたけど、どうも姉さんと似た俺の魔力は、俺よりもっと魔力があるらしい姉さんの近くに居るとそれに隠れてしまうのか分かり辛いらしい。ケロ吉が俺に魔力があることは分かっても、それが体外にこぼれている事まで気づけなかった原因はそこにある。
それと李小狼に魔力を押し付けられたのならもしかして、姉さんやケロ吉にも俺の魔力は渡せるのでは? と、俺が魔法を使えるようになるよりも俺の体調優先な姉さんが提案した。もしそれが出来れば、魔力不足のせいで小さい姿しかとれないケロ吉が元の姿を取り戻すための助けにもなれるかもしれない。
……だけど、これは何故だか上手くいかなかった。ケロ吉によるとなぜかケロ吉にはいくら触ろうと俺の魔力は入っていかないし、姉さん相手でもまったく変化は現れない。なので人に魔力を渡すには状況か渡す相手によって、何か条件があるのかもしれないとなって、とりあえずは保留案。姉さんは残念がっていた。でも俺の事心配してくれる姉さん優しい可愛い! 大好き!
そして三人でうんうん唸っていたのだが……。
ものは試しということで、「魔力を込める」という意思を今度は無機物にむけてみたのだ。だけどいくら意識しても、何に対してもなかなかうまくいかない。やっぱり魔術的な媒体が必要なのだろうかと思ったが、けど諦めずやり方を変え品を変え……たどり着いた結果が、裁縫セット。なんとも身近な品物だった。
だけど今回の場合、身近だからこそよかったみたいだ。
どうやら俺は裁縫している時が一番集中力があるらしくて、試しに糸と針に「魔力よこもれ、こもれ」と念じながら裁縫してみたら……なんか、出来てしまったのだ。物に魔力を込めて、自分の魔力を消費するということが。
だけど、これだけでは魔法を使う事は出来ない。ただ魔力を消費する方法を見つけただけ。……やはり魔力を魔法という形で使うには、それなりの手順か、李の剣や姉さんの杖みたいな特別な媒体が必要なのだろう。
俺は落ち込んだ。やっと魔法少年デビューかと思ったのに、と。
だけど、そこで思いがけない事が起きたのである。
「魔力を込めて裁縫すれば、軽いおまじない程度の効力があるアイテムは出来るらしいんだ。あれだよ、ゲームで言うなら魔道具の職人っていうか、生産職。どっちかっていうと、主人公パーティに居る奴じゃなくて鍛冶屋とか店に居る系の役職」
「! ということは、梅倖くんが手伝ってくれたさくらちゃんのバトルコスチュームには、魔法的な加護が加わると言う事ですね!?」
「え? あ、うん。そうなるけど、でも本当にそっちの効果は大したことなくて……」
俺はこの魔力を込める方法によって得たもう一つの力について話そうとした。というかそっちの方がメインだったのだが、大道寺が思いがけず話に食いついてくれたのでタイミングを逃してしまう。
「素晴らしい、素晴らしいですわ梅倖くん! わたくし達の作った衣装に、魔法の力が宿るだなんて! これでよりいっそう、可愛さだけでなく耐久面でもさくらちゃんをサポートできますもの。まさにキャプターサポーターに相応しい能力ですわね!」
「そ、そうかな? えへへ……」
がしっと手を握られて熱く語られれば、俺としても悪い気はしない……というか、嬉しい。そうか、大道寺大先生はそんなに喜んでくれるのか。裁縫の腕ではまだまだかなわないが、ちょっとでも大道寺作品の役に立てることが増えたんだと思うと嬉しいな。
今のところ本当にささやかなおまじない程度しか効果が無い、俺だけの力で使える魔法。例えば寝起きがスッキリするとか、ちょっとだけアイスのクジに当たりやすくなったりとか、それくらいの効果しか無さそうなんだけど……。もう一つの力とは別に、こっちもレベルアップ出来るように頑張ろうかな。
と、そうだった、そうだった! もう一つの力も紹介しないと!
「あ、あとな! 俺だけの力で何か出来るわけじゃないんだけど……。もうひとつ、この裁縫のお陰で使える魔法が増えたんだ」
言いながら、俺は姉さんを見る。すると姉さんはニコリと笑って頷くと、自分のカバンにつけていたマスコット付きキーホルダーを取り外して俺に渡してくれた。自分のカバンにつけるのがちょっと恥ずかしくって、今日は姉さんにつけてきてもらったんだよな。元は姉さんにあげたものだし。……これからはそうも言ってられないかもしれないけど。
俺はそれを受け取ると、深呼吸してからケロ吉と一緒に考えた「お願いの言葉」を告げる。ちなみに俺が持っているのは、俺が初めてであったクロウカードである
『美しくも猛き水の乙女に契約者さくらの弟、梅倖が願い奉る。我が作りし依り代に宿りて、我に力を貸したまえ!』
…………。う、うん! 姉さんが魔法を使う時の台詞に雰囲気を似せて考えたつもりだったけど、いざ大道寺に披露するとなるとちょっと恥ずかしいぞ!
もっとこう、ババーンと派手で短い感じにした方がよかったかな? 「
でもお願いして力を貸してもらうんだし、お礼代わりに褒め言葉みたいなのは入れたいんだよな。でも格好良さは損ないたくない。んー、難しい。
恥ずかしがる俺をよそに、俺のお願いを聞いてくれたのかふわりとした水色の光が姉さんが持つ
大道寺はそれに驚いたようで、口元に両手をあてて目を見開く。俺はコホンと咳ばらいをすると、頭の上でちょっと偉そうなポーズをとるその子を指さしながら説明した。
「理屈はよく分からないんだけど、なんか俺が作ったクロウカードの人形をクロウカード達が自分で動かせるようになるみたいなんだ。……で、よかったんだよな? ケロ吉」
「おう、せやで! なんや知らんけど、梅が作った人形はカードたちの依り代になるらしゅうてな~。ちゅうても、直接カードたちが宿るわけやない。言うてみれば、遠隔操作やな。梅がカードたちにお願いして、相手がそれを了承すれば力の一部を人形に移して力を貸してくれるみたいや」
「といっても、使うのは俺の魔力だからか、姉さんがクロウカード使うみたいにはいかないんだけど」
チラッと上を見れば、ミニウォーティがぴゅーっと手先から水芸のように水を出してアーチを作っていた。…………うん、だいたいこれが今の俺が意図的に使える魔力の限界です……。
でも実はこの力、ちょっと前には使えていたらしい。使えたというか、使ってもらったといった方が正しいか。
……佐々木が
でも基本的に人形を作った俺の意志とクロウカードの意志が一致しなければ、クロウカード側が一方的に人形を動かすのは無理みたいだ。逆もしかり。佐々木の時は、俺に佐々木を止めたいという意思があったからこそ
とりあえず、魔法を使えると言っても俺に出来る事はまだとても少ないってのは確かだ。
「で、でも! 慣れたり、カードともっと仲良くなれたらパワーアップするらしいから! な? ケロ吉!」
「おう、多分な!」
「多分だったの!?」
言いたくて仕方が無くて、意気揚々と披露したはいいけど、いざ見せるとその規模の小ささにちょっと恥ずかしくなる。いや、まったく使えなかった事を思えば進歩なんだけど。だから取り繕うように言えば、まさかのここに来てのケロ吉による多分発言をくらった。ちょ、おま、出来るってこの間言ってたじゃん!? 検証する中でクロウカード守護者のお前の発言は貴重なんだから、ちゃんと考えて言ってくれよ! がっかりするだろ!?
「せやかて、こんな例見た事ないしなぁ。カードの契約者はあくまでさくら。カード封印して、持ち主になったのもさくらや。なのに一部とはいえ、梅がカード以外のものを通してその力を借りれるのがそもそもおかしな話なんやで。手探りで頑張ってくしかないやろ」
「そ、そうだけど……。で、でも、とにかく! カードの手助けが無いと無理だけど、使うのが俺の魔力なら俺が魔法使えるようになったって言ってもいいよな!? ってことだ大道寺! これからがキャプターサポーターうめゆきの本格始動! 姉さんも大道寺も、期待しててくれよな! ……でだ。大道寺、今日の困りごとってなんだ? 俺にも何か出来るかもしれないし、何でも言ってくれ。いつも世話になってるし、お前のためなら何でもやるぜ。任せろ!」
自信満々に発表した割に先行き不安な俺の力。それを誤魔化すように、今日の本題へと無理矢理話を変えてみた。
ま、まあなんだ……。微力だけど、使い方によっては俺にもきっと何か出来るさ! だから、さあ。さあ! 俺に何でも言ってくれ大道寺! キャプターサポーターうめゆきが力になるぞ!
数分後、俺は部屋の隅で体育座りをしていた。
「ほら、そろそろ元気出して。梅くんが張り切ってたのは知ってるけど、また今度助けてくれたらいいから。ね? 園美さんが夕飯もご馳走してくれるって言うから、お手伝いに行こ?」
「梅倖くんが力になってくれようとするお気持ち、とっても嬉しかったですわ。今回はそのお気持ちだけ頂ければ十分です。だからどうか元気を出してください」
「う、うん……。わかった。次がんばる……」
姉さんたちの言葉に励まされてなんとか脱・体育座りはしたが、それでもまだ少しの間落ち込みそうだ。
なんつーか、ものの見事に出番が無かった。いや、しょうがないんだけども。
大道寺の困りごとと言うのは、彼女と園美さんの大事なものが入った宝石箱が開かなくなってしまった……というもので。鍵で開けようと試みても、その鍵を鍵穴に入れた途端何かに弾かれてしまい不可能だったらしい。
その鍵を弾いていたものの正体は、
けど姉さんがすでになんでも切れる
う、うわあああ! 駄目だやっぱ恥ずかしい! こんなことならもっと普通な感じに言えばよかった!
で、でも! 俺はようやくキャプターサポーターへの本当の一歩を踏み出せたのだ。
大先生にも報告した事だし、これからもっと頑張るぞ!
ちなみにこの後、込めた魔力がきれて動かなくなった人形をうっかり頭にくっつけたまま食堂に行ったら園美さんとメイドさんに温かい目で見られてしまった。
キャプターサポーターへの第一歩は踏み出せたが、格好いい男への道のりはまだまだ長いらしい。