現在俺たちは夜の学校に来ている。もちろん目的はクロウカードだ。
俺も姉さんもすでに慣れたものとはいえ、家を抜け出す時は毎回ドキドキする。
今回の相手はどうやら時間を巻き戻す相手らしくて、それに気づいたのが今日の昼間。
昨日と同じ時間割に、昨日終わったはずの音楽でのリコーダーのテスト、そして昨日と同じシチュエーションで校庭から飛んできたサッカーボールを蹴り返してゴールインさせた李。……いや、正確には最後のはちょっと違う。結果は同じだけど、李の行動だけ微妙に違っていた。
というのも、それはこの昨日と同じ日を繰り返す違和感に李のやつも気づいていたから。どうやら魔力のある者だけがこの時間の繰り返しに気づけるらしくて、俺と姉さんは首をかしげて大道寺に聞いてみても求める答えが聞けなかった理由がようやく理解できた。
俺と姉さん、李以外のみんなにとっては今日は昨日で、他の奴らにとっての今日は初めて迎える今日だった。考えてて途中でよく分からなかったが、つまりそういう事だ。
そしてこの時間の繰り返しで散々だったのはケロ吉で、丸一日かけてクリアしたゲームのデータが全てリセットされてしまったのだ。南無。
俺としては姉さんが昨日一か所間違えて落ち込んでいたリコーダーのテストをやり直す機会が出来たので、一回だけの繰り返しなら特に文句はない。今日の姉さんのリコーダーの旋律は最高だったな! これも間違えたところはテストが終わっても出来るようにしておいた方がいいとアドバイスした親父と、それを受けてちゃんと練習した姉さんの努力のたまものだ。ちゃんと吹けるようになっただけでも姉さんは嬉しそうだったけど、それを披露する機会がもう一回巡ってきたのは良かったと思う。
しかし、かといって同じ一日をもう一度なんて勘弁だ。
この一日を無事に終わらせて明日を迎えるには、今夜時間を巻き戻される前にクロウカードを封印しなければならない。どうやらクロウカードは友枝小学校にある町で一番大きな時計台と一体化しているらしく、これからそこを叩くところだ。……クロウカードの居場所を李に「そんな事も分からないのか」と言われながら教えてもらったというのが癪だが、まあ一応感謝しておこう。一応。ムカつくことには変わりないけど。
そしていよいよこれからクロウカード捕獲作戦開始、というところなのだが……その前に。
俺は今回のバトルコスチュームを着た姉さんを見て、大道寺とイエーイとばかりにハイタッチをきめた。
「今回も最高だぜ大道寺! 夜空を舞う可憐な妖精……時計台が舞台の今回にはぴったりだ! 姉さんの可愛さにはきっとティンカーベルも嫉妬しちゃうね!」
「ふふふっ、そうでしょうか。あまりに可愛らしくて、きっと妖精のお仲間と間違えて遊びに誘ってしまうのでは? フェアリーサークルの中で妖精と戯れるさくらちゃん……。 ああ!素敵ですわ……!」
「なるほど、それもそうだな! さすが大道寺大先生! 俺の想像力を軽く超えてくれるな! そこに痺れる憧れるぅ! なんちゃって!」
「いえいえ、そんな。それにしても、さくらちゃん本当に可愛いですわ……」
「ああ……!」
ほうっと吐息をつき、うっとりとした表情で頬に手を添え姉さんを見る大道寺。多分俺も同じような顔してる。
今回の衣装、実は俺も作るのを手伝わせてもらった代物なのだ!
この間大道寺んちにお邪魔した時に作りかけの衣装を見て、これの製作は是非手伝わせてほしいと申し出たのである。なんたって、今回のテーマは妖精だからな! 普段から姉さんは神様が間違えて人間に生まれさせちゃった妖精か大天使じゃないかって思ってる俺としては、力を入れざるを得ない。しかも今回から手伝わせてもらう中で、俺に出来ることが増えたのでなおさら張り切った。そして姉さんがその衣装を身に纏ったところを実際に目にして、俺達はとてつもない満足感に目を輝かせたのである。
「あ、あはは……。そういえば、梅くんのはもしかしてピーターパン?」
「ええ! 今回は梅倖くんの本格的なキャプターサポーターデビューですから、いつもより気合いを入れさせてもらいましたわ!」
姉さんに聞かれて大道寺が嬉しそうに答える。……そう、俺もいつものごとく大道寺謹製のバトルコスチュームを着せてもらっているのだが、今回は姉さんとおそろいっぽいデザインではない。姉さんが言ったように、ピーターパンをイメージしたような緑色を基調とした衣装だ。
動きやすいし、しゅっとしたデザインでかっこいい。テーマ性としてはまとまっているものの、姉さんのとは全く違うデザインというのは初めてだから実はかなり嬉しい。大道寺大先生様様である。
「今日は
「うん、ありがとう!
俺がサムズアップすると、俺の肩に乗っていたマスコット姿の
「そういえば、今日の衣装はいつもよりちょっと体が軽く感じるね。デザインのお陰かな?」
姉さんの言葉に俺と大道寺の目が光る。聞いてくれるのを待ってました!
「ふっふっふ! 実は今回の衣装から、俺のおまじない性能が追加されました!」
「そうなのです! この日のために、梅倖くんには刺繍を覚えていただいたんですよ!」
俺と大道寺の言葉に姉さんは大きく目を見開いて驚いてくれる。う~ん、いい反応。
「え、梅くん刺繍まで覚えたの!? こ、これはお裁縫の腕じゃ本当にもう梅くんには敵わないかも……」
「よかったら、今度一緒に何か作ろうよ姉さん。俺、教えるよ! そしたら月城さんになんかプレゼントしてもいいんじゃないかな? お守りとか」
「本当? えへへ、それは嬉しいな……。あ、そうだ。刺繍もだけど、おまじないってこの体が軽く感じるやつのこと?」
「そう! まだまだ効果は薄いけど、ちょっとでも体が軽いって感じてくれたなら俺としてはまず第一歩って感じかな。裏地にクロウカードの模様を真似て刺繍したら、今までで一番うまくいったんだけどさ!」
「梅の奴、ようはりきっとったからなぁ~。魔力があるいうても、まったく魔術を知らんかったモンがここまで出来たなら大した成長や」
俺がちまちま刺繍をしていたのを知っているケロ吉が、うんうんと頷きながら褒めてくれた。ちょっと気恥ずかしいけど、やっぱ褒められると嬉しいもんだな。
と、それよりそろそろクロウカードを捕まえに行かねば! また一日前に戻されちゃ困る!
俺と姉さんは顔を見合わせて頷きあうと、姉さんは空から
どう考えても
俺は時計塔内部に入ると、早速
しかし、そこで背後に気配を感じて振り返る。するとそこには案の定というか、李小狼が居た。
「あ、やっぱお前も来たのか」
「当然だ。……また出しゃばる気か、お前」
「出しゃばる言うな! 今日からの俺は一味違うぜ? なんたって
ふふんと得意げに笑って肩に乗る
俺は気を取り直すように咳払いすると、ビシッと李小狼を指さした(姉さんが見たら「人を指さしちゃ駄目だよ!」と怒られそうだ)。
「とにかく! 魔力の制御を教えてもらった恩はあるが、カード集めに関しちゃ話は別だ。俺は全力で姉さんを手伝うからな!」
「ふんっ、どうだかな。また足を引っ張るのが関の山だ」
「言ってろ! ……あ、そうそう。話は変わるけど、父さんが今度遊びに来いって言ってたぞ」
李小狼の皮肉に俺は好戦的な笑みでもって返すが、ふと昼間言い忘れていたことを思い出してついでに伝えることにした。そしてそれを聞いた李は小憎たらしい表情を引っ込めて身を乗り出してくる。
「な、ホントか!?」
「ああ。つーか、特別授業のあとお前色々話聞いてたじゃん? その時にも言ってたろ。あれ、別に社交辞令じゃないぜ」
今日の……まあ二回目なんだけど、今日の昼間は生徒の保護者が順番で受け持つ特別授業があったのだ。で、今回は大学で考古学を教えている俺たちの親父、藤隆さんの番。そしてその授業内容に興味津々だった李は、授業の後もあれこれ質問していた。親父も自分の教えている分野に興味を持ってもらえたのが嬉しかったらしくて、よかったら今度家に来るといいと李に言ってたんだ。
運動会の時に面識があったから李は藤隆さんが俺と姉さんの親父だって知っていて、嬉しいけどちょっと迷っているような表情をしていたけど……この様子だと、本当は色々見せてもらいたいんだろうな。……俺も親父の研究内容好きだから、興味を持たれたのは実はちょっと嬉しい。
「カード集めは別だけど、礼はしたいからな。よかったら今度うち来いよ。父さんがいない時でも、俺が色々見せてやるから。色々あってスゲー面白いぞ。本もたくさんあるし」
「……考えて、おく」
李は物凄く迷ったような顔をした後、それだけ言葉を絞り出した。へんっ、見たいくせに素直じゃない奴。お礼だったらいいかって、気軽に受けときゃいいのに。
「まあそれはそれとして、お先ー!」
「あ! この、待て!」
けどさっきも言ったけどカード集めは別の話、早い者勝ちだ!
俺は
これは某未来に行ったり過去に行ったりする映画の未来編で出てきた、浮遊するボードを参考にした。
本当は体力が無くて機動力に欠ける俺としては
でもって、その結果編み出された俺の機動力をあげる方法がこれだ!! なんたって、バランスが危うくてもそれも
う~ん、でも李のやつを置いてけぼりに出来たこの快感、最高だな! いよいよ魔法少年出来てる実感がわいてくる。
よ~し、きっと姉さんも今頃塔の上に向かってるはずだしこのままさっくりクロウカードを挟み撃ち! 今日が俺と姉さんの初共同作業カードゲット日となるのだ!
「わーっははははは! 追い付けるものなら追い付いてみろ! 俺のが先に上についちゃうもん……」
言いかけている途中、当の上部から生暖かい風のような奇妙な波動が押し寄せてきた。その感覚に体が硬直する。
「ね……。え?」
その波動に絡めとられるようにして、俺と李の動きが鈍くなる。その感覚に思わず顔を見合わせれば、李が悔しそうな顔でこう言った。
「くっ、やはり
「え、ちょっ、ちょっ、何だよ!? どういう……」
言いかけたまま、体が今まで動いていた方向とは別の方向へ動き出すのが分かる。否、今までの動きをそのままなぞるように戻されて……。
「はわあああああああーーーーーー!?」
こうして、一回目のクロウカード
俺達は再び今日の朝にまで時間を巻き戻されて、同じ一日を繰り替えず羽目になった。
その後もう一度父さんの講習をうけてもう一度笛のテストをうけてもう一度ケロ吉がゲームを最初からやり直す一日を過ごした俺たちは、その日の夜再び学校へと来ていた。
また失敗すれば、また同じ一日だ。クロウカードが凄いのは本当によく分かったから、勘弁してほしい。
今度は
ちなみに少しでも気配を殺すために、俺と
しかし、俺は何故李が下からついてこなかったのかもっとよく考えるべきだった。
あいつ、
つまり俺と姉さんの初共同作業カードゲット日という素晴らしき記念日が、初めて李にカードをとられた日になったわけだ。
最初
でも。
「ぐやじいぃ~~~~~~~~!」
「わたしも悔しいけど、梅くんの様子を見てると落ち込めなくなっちゃうなぁ……。ほら、元気出して? また次頑張ろうよ!」
「そうですわ、梅倖くん。今回は李くんの方が一枚上手だったというだけです。今日の経験を、また次の機会に活かせばいいのですわ」
「でも、でもぉぉぉぉ!」
「しゃあないやっちゃなぁ~。ほれ、男の子やろ? そう簡単に泣くもんやない」
「ぐぅ……!」
涙目で地団太を踏む俺を、みんなが慰めてくれる。嬉しいけど、自分の情けなさがいっそう際立ってますます涙が浮かんでくる。
負けた。かんっぜんに、李に負けた!!
ちょっと魔法を使えるようになったからって、多分俺は浮かれすぎていたんだ。もっと頭を使ってよく考えれば、また別の結果になっていたかもしれないのに。
「姉さん、ごめん。俺また役に立てなかった。あと大道寺もごめんな。せっかくかっこいい服作ってくれたのに……」
いつまでも駄々をこねているのも恥ずかしいので、なんとか気分を落ち着かせてその言葉を絞り出す。それに至るまでにケロ吉に「どうどう」と馬のように宥められてしまったが。恥かしい。
だけど、そんな俺に二人は優しいわけで。
「ううん! 役に立ってないなんて、そんな事無い。最初はちょっと不安だったけど、今日梅くんがついてきてくれて頼もしいと思ったよ」
「! ほ、ホント!?」
「うん。だって、
「あ、あれは……。それくらいしか、出来る事が思いつかなくて……」
そう。塔を上って最初に
けど「でも、その」とごにょごにょ言っている俺の肩に、大道寺が手を添えてこう言ってくれた。
「李くんが入って来た時に砕けたガラスの破片も、梅倖くんが
「だ、大道寺ぃぃ~」
姉さんと大道寺の優しさに、さっきとは別の意味で涙が出てきた。そんな俺に、肩に乗っかった
「……! 俺、俺次はもっと頑張るからな!
ぐいっと涙をぬぐってそう言えば、
クロウカード達は凄い。だったら、その凄さを十分に発揮できるように、その力を借りてる俺が自分で色々考えないといけないんだ。
俺はまだまだ未熟で、あまり役にはたてない。でも、手数は確実に増えた。
みんなの優しさに応えるために、次はもっともっともっと頑張る!
「頑張るぞーーーー!」
気合を込めて叫んだ俺の声で、危うく巡回していた夜勤の用務員さんに見つかりそうになったのはご愛嬌である。