今日は兄貴と月城さんが通う学校、星條高校の文化祭。姉さんが月城さんから文化祭のチケットをもらったので、姉さん、俺、大道寺の三人はその文化祭に遊びに来ていた。学校がお隣とはいえ、高校生の中に混じって歩くのはちょっとドキドキする。
……いいなぁ、みんなおっきいなぁー。俺も高校生になるころには背、のびてるかな? いや、大丈夫だ。案ずるな俺。絶対のびる。だって親父や兄貴はでっかいし! 俺だって成長期がくればにょきにょき伸びるはず! 目指せ百八十cm!
いや~、それにしてもいい物もらった。このチケット、模擬店のものが食べ放題になる夢みたいなチケットなんだよな。他のお祭りとかだと食べたいもの、欲しい物あってもお小遣いに限りがあるからなかなかそうはいかない。月城さん様様である。
でも何で兄貴はくれなかったんだろう? 去年はこれと同じチケットくれたのに。姉さんも不思議がってたけど……。……ん~、まあいっか! こうして月城さんにもらえたわけだし! 今日は楽しむぞー!
そして俺以上に楽しそうに「わーい!」とはしゃぐ姉さんを大道寺と共に至福の気持ちで見守りつつ、ふいにカバンの中でゴソゴソと動く気配がして少し慌てた。ちょ、おま、動くなって! ストラップフォームオフにしてカバンの中に入れた意味無いじゃん!
そんな俺を見て、大道寺が「お祭りは賑やかですから、気になるのでしょうね」と言いながらクスクスと笑う。
ま、まあ言われてみれば好奇心旺盛気味なこいつが、この楽しそうな雰囲気にじっとしてられるはずも無いのは分かるんだけど。まずった。やっぱり今日はもうちょっと大人しめのクロウカードを連れてくるんだった。本当は
今日のお供には
どうも
……それに、いやホント嬉しいんだけど、基本的に
いや、李の方は俺の限界をちゃんと分かってたからまだましだった。
そう、反動だ。
力を貸してくれるのは本当に助かるし嬉しいけど、実はその一件で「クロウカードが好意的に力を貸してくれても、自分の能力を超えすぎた力を使うと反動が来る」という事実が分かったのだ。
最初はどうやったって自分では持てない重いものを持てるようになったりと俺も浮かれてたんだけど、
これは体に直接作用する能力だからこそ、かもしれないけど。本来の持ち主である姉さんのように、クロウカードをノーリスクで使うのは難しそうだということを改めて考えさせられた。好意的に力を貸してくれるカードでこれなのだから、そうでないカードに力を借りる場合は、もっとリスクをよく考えなければいけないかもしれない。以後、気を付けよう。
まあ力を借りる以前に動物園の時の
動物園の時は何故か妙に大人しかったから油断してたけど、その結果があれだよ。ものの見事に振り回された。……それぞれ性格が違うから、クロウカードと仲良くなるのも一苦労だ。
姉さんのために頑張るけどな! いつまでも足手まといじゃいられないぜ!
「梅倖くん?」
「っと、ごめん。ちょっと考え事してた」
俺がクロウカード達との人間関係(?)について考えていると、大道寺が俺の顔を覗き込んできた。どうやら考え事をしてそのまま止まってしまっていたらしい。
ふと視線を大道寺の手元に向ける。そこにはすでにおなじみ、大道寺の必須アイテムビデオカメラ。
(姉さんの可愛い姿in星條高校文化祭ver撮れてる?)
(うふふ、バッチリですわ。月城さんにチケットを頂いた時の思い出にひたるさくらちゃんも、すでにフレームにおさめています!)
俺達は無言で視線をかわすが、その視線は口以上に雄弁にお互いの言いたいことを伝えてくれる。そしてどちらともなくサムズアップをした。
大道寺大先生、姉さんの事に関してなら、言葉にせずとも通じ合える心の友である。
「知世ちゃん、梅くん! 見て見て、クレープだって。いろんな味があるよ!」
「あ、ごめん姉さん! 今行くー!」
「クレープ、美味しそうですわね!」
クレープの模擬店の前で手を振る姉さんに、俺と大道寺はにやけた笑顔のまま、ほぼ同時に姉さんに顔を向けて手を振り返す。う~ん、本当に大道寺大先生とは息が合うぜ。ああ、それにしてもクレープにはしゃぐ姉さん可愛い……。
その後俺たちは色んな模擬店を見つつ、校舎の中へと入っていった。姉さんは月城さんのクラスの出し物絶対行きたいだろうし、そうとなれば目指すは月城さんクラス! ちなみにケロ吉が念に念を押して欲しがっていたお土産は俺がすでにいくつか入手済みである。これで姉さんも心置きなく文化祭を見れるだろうし、男として姉さんに荷物を持たせるなんて面倒はかけられないからな! ふっふっふ、これが出来る弟ってやつだ。
そしてこれまた賑々しい校舎内の出し物に目移りしながら進む俺達だったが、ふと廊下の先で見知った顔を見つける。すると途端に隣を歩いていた姉さんの雰囲気がぱあっと花が咲くように明るくなった。月城さんだ。
……姉さん可愛い、可愛いけど、しょうがないけど、く、悔しい……! 相手が月城さんだから我慢できるけど、やっぱりどうしたって俺には引き出すことが出来ない類の姉さんの愛らしさを簡単に引き出せる相手が居るってのが悔しい。うう……!
月城さんはクラスの出し物なのか、和服姿だった。けど妙に似合っているというかしっくりくるというか、違和感なく着こなしている。
「雪兎さん! こ、こんにちは!」
「あ、さくらちゃん。知世ちゃんに、梅倖くんも。こんにちは。文化祭、楽しんでくれてるかな?」
「はい!」
「月城さん、こんにちは。ええ、色んな出し物があってとても楽しいですわ」
「こんにちは! 月城さん、チケットありがとう。おかげで色々食べられてるよ!」
「そっか、よかった! そうだ、うちのクラスの出し物にも寄っていかない? 駄菓子屋さんの模擬店なんだ。ラムネとか冷やし飴とかあるよ」
月城さんがそう勧めてくれたので、俺達は教室の入り口にかけられたのれんをくぐって模擬店の中に入る。店員さんの高校生はみんな月城さんと同じ着物姿で、赤い布が敷かれた長椅子が和菓子屋さんっぽい。俺と姉さんはラムネ、大道寺は冷やし飴を頼んだ。
が、そんな中。
座って一息ついていた俺達に向けられる、強い視線に気づく。正確にはそれは姉さんに向けられたものだったらしく、その相手はよく見知った相手だった。つーか、毎日教室で顔を合わせている。
「あれ、李も来て……」
視線の主は李小狼。姉さんに対して対抗心バリバリの視線をむける奴に気づいた俺は声をかけようとしたが、その前に李の奴は教室内で高く跳躍し一回転、着地というたいへんアクロバティックな動きで姉さんの前に降り立った。思わずと言った風に、周りからぱらぱらとまびらな拍手がおこる。いや、パフォーマンスとかじゃないんスこれ……。
俺まで少しの間あっけにとられてしまったが、はっと我に返って気を取り直す。
よーし、お前の身体能力が高いのはよくわかった。天井に頭でもぶつければ面白かったけど、そうならなかった器用さも認めよう。でもな。
「近けぇよ!」
「ぶ!? な、何をする!」
「何をするじゃねー! 顔! 顔が近い! 離れろ!」
姉さんの真ん前に降り立ってガンを飛ばしてくれた李だったが、まずその距離近いんだよ! ほぼ目と口と鼻の先じゃねーか! ちょ、ちょっと押すかなんかしたら、口がくっついちゃうだろ!? ば、馬鹿!
というかお前、姉さんのご尊顔をそれだけ近くで見てよく平静でいられるな! 大天使だぞ!!
近すぎる二人の距離に俺が無理矢理間に入って姉さんから李をひっぺがすと、ちょうど少し場を離れていた月城さんが戻ってきて李にラムネのお代わりを差し出した。すると李のしかめっ面が一転。ほんのり顔を赤くして瞳をキラキラさせた李は、それを大事そうに受け取る。……くっ、これを見てしまうとなんだか毒気が抜かれるな。ったく。月城さんへの反応が姉さんと似てるから調子狂う。……俺にはまだよく分からないけど、恋すると人ってみんなこうなるのかな。
そのあと俺達は、交代時間になったらしい月城さんに文化祭でまだ見ていない部分を案内してもらうことになった。ちなみに李も一緒である。意外とちゃっかりしてるよなコイツ。
談笑しながら校舎内から出て、最初に目についたのは校庭でバスケ部が行っているミニゲーム。その景品である羽の生えたぬいぐるみに「可愛い!」とはしゃぐ姉さんを見た俺は、ふと
(高校生のバスケ部レギュラーを五人抜き出来たら景品、とか、同じ高校生でも難しいだろ。ぜってー景品とらせる気ないじゃん。……でも
李が「こんな子供っぽいのが好きなのか」などと姉さんに無礼な口をきいていたのでさりげなく肘でどつきつつ、姉さんの前で活躍する自分を思い描いて、顔がにへっと緩みそうになる俺。
が、そんな俺の肩をぽんっと叩く手が一つ。姉さんだった。
「梅くん。ずるは、ダメだよ?」
「ゴメンナサイ」
ニッコリ笑顔だけど、有無を言わせない力強さ。俺の考えていることなど、姉さんに容易く見透かされていたらしい。俺のヒーロー計画が終了した瞬間である。
そ、そうだよな……。ズルはいけないことだ。自分の力でとれなきゃ、姉さん喜ばないよな……。
いや、でもそれなら!!
「お、俺! 挑戦します!」
「梅くん!?」
俺は
俺は顔を両手でパンっと挟んでおじけづきそうになる自分に渇を入れると、姉さんと荷物を預けた大道寺にサムズアップする。
「俺は困難に立ち向かう男らしい男でありたいんだ! 行ってくるよ!」
「梅倖くん……ご立派ですわ! ご武運を!」
「おう! まかせろ大道寺!」
「梅くん……。わかった、わたしも応援する! 頑張ってね!」
「もちろんだよ姉さん! 俺頑張る!」
姉さんが応援してくれたし、大道寺大先生もサムズアップをかえしてくれた。よっし、これで百人力だ。やってやるぜ!
はい、無理でした。
小学生だからってあからさまに手加減してもらったんだけど、走り回って体力切れをおこした俺の完全敗北です、ハイ。
し、しかも……! しかも李の野郎が! 膝をついて息を切らした俺を鼻で笑ったうえで、ゲームに挑戦して景品かっさらってきやがったぁぁぁぁ! 渾身のドヤ顔でぬいぐるみ片手に俺を見おろす李が憎い! あの野郎め!
「わあ、すごいね! 運動得意なんだ」
「い、いえ! これくらい……」
「小学生に負けた……」
…………まあ、月城さんの賞賛の言葉にドヤ顔から一変、顔を真っ赤にさせてあわあわしてる李を見たら悔しがるのも馬鹿らしくはなったんだけどな。あとそれはそれとして、小学生に負けて落ち込んでいる高校生たちが少し哀れだ。でも仕方が無いぜ、お兄さん。李の奴の身体能力ヤベーから。月城さんも運動得意の一言で済ませていいレベルじゃないんだぜ。あいつ平気で屋根の上から飛び降りたりする奴だから。
「じゃあ、次は僕が挑戦しようかな。はい、百円」
「え゛?」
「おてやわらかに」
「…………いや、それ多分こっちの台詞……」
そして落ち込むバスケ部に爽やかな邪気のない笑顔で追い打ちをかます月城さん。おそらく悪気もゼロである。結果は言わずもがなであり、その後俺と姉さん、大道寺の手に景品のぬいぐるみがおさまることになった。
……うーん、それにしても。小学生相手と油断もとい手加減してくれた時と違って最初から本気のバスケ部を相手に息切れもしないで華麗に計三回も五人ぬいて、毎回一発でゴールをきめる月城さんも運動得意ってレベル越えてるよな。何でこの人運動部じゃないんだろう。
ちなみに先に自分でぬいぐるみをゲットしてしまった李が俺たちの腕に抱かれる「月城さんからプレゼントされた」ぬいぐるみを呆然とした表情で見ていたので、いたたまれなくなったからこっそり交換してやった。……さっき姉さんに子供っぽいとか言ってたくせに、今はひしっと胸に抱き込んでるお前はなんなんだよ。捻くれてるんだか素直なんだかはっきりしろとだな……。
まあなんだかんだで、李も交えて俺たちは高校の文化祭を満喫していた。
そしてしばらく見て回った後、月城さんが「あ」と声をあげる。
「あ、そろそろ劇の時間だ」
「劇、ですか?」
「うん、僕たちのクラスの劇だよ。体育館でやるんだ」
「じゃあ、お兄ちゃんも出るんですか?」
「桃矢? ……ふふっ。うん、出るよ。でもなんの役かは、見てからのお楽しみかな」
姉さんの問いに何やら含みをこめて楽しそうに笑う月城さんに、俺達は首をかしげる。更に月城さんの役がサバの缶詰だと聞いて更にかしげる首の角度が深く傾いた。え、サバの缶詰が出てくるってどんな劇なんだ? そしてサバ缶役の月城さんが思わず笑ってしまう兄貴の役って、なんなんだろう。すげー気になる。
当然俺たちはその流れのままに、劇を見に行く事にした。これで見なかったら損だもんな!
そして体育館に移動し劇を見た俺たちは、何故兄貴が文化祭のチケットをくれなかったのかを悟った。
「しんでれら……」
「兄貴が女装……」
「まあ、お似合いですわ」
俺たちの視線の先にある舞台の上で「しくしく、しくしく、しくしく」と棒読み極まりない声で演技をしていた物語の主人公……シンデレラは、我らが兄である木之本桃矢だった。兄貴ー!?
タッパある兄貴のスカート姿は、なんというか迫力があった。それをさらっと笑顔で褒めた大道寺大先生凄い。姉さんと俺はずっこけたよ。
兄貴が顔をこちらに向けた瞬間女子生徒から「キャー!」と歓声があがり、その後サバ缶こと魔法使い(何故か付喪神のような設定だった)として現れた月城さんにも同じく歓声があがる。それによって二人がとても人気者だということは分かったが、いかんせんその恰好が気になって素直に誇らしい気持ちになれない。……こりゃ兄貴がチケットくれないわけだよ。
「あはは……」
「はは……」
姉さんと顔を見合わせて苦笑いしつつも、気を取り直して俺達は劇を鑑賞することにした。
にしても演じる役のせいか分からないけど、兄貴の演技が大根すぎてちょっと笑える。基本的に兄貴って何でもできるから、意外な一面を見た気分だ。
そして劇は順調に進み、いよいよクライマックスへと近づいてきた。つーか、このシンデレラの配役考えたの誰だよ。継母と二人の姉も男じゃねーか。王子様役の女の人綺麗だけど、素直に逆の配役じゃダメだったのか? ……いや、面白いのは事実なんだけどさ。
「…………?」
階段とバルコニーっぽいセットを見て「すごい、結構大掛かりな舞台セット作ってるんだな」と思っていた時だ。何かぴんっと感覚に引っかかるものを感じて、ついきょろきょろと周囲を見回してしまった。するとそれは姉さんと李も同じみたいで、怪訝そうな顔であたりに視線を巡らせている。大道寺は変わらず劇を見ていたので、そうなると……これはきっと、クロウカードの気配。
「
何があってもいいように、俺は小声でカバンの中にいた
杞憂だったらいい。劇がちゃんと平穏無事に終わってくれたらいい。……そんな願いは残念ながらクロウカードはきいてくれなかった。
突如俺たちの目の前で、兄貴と王子役のお姉さんがのった舞台セットの一部が崩れ落ちたのだ!
「お兄ちゃん!」
「行くぞ、
「! 梅くん!?」
それを見た俺の初動は早かった。すぐに立ち上がり、舞台への最短距離を駆け抜ける。
兄貴はかろうじて崩れていない部分にとどまり、下に落ちそうになっているお姉さんを片手で掴み支えていた。でもあの様子じゃ、いくら兄貴の力が強くてもセットのほうが先に崩れちまう。崩れていない部分といったって、かろうじてぶら下がってるような足場なんだから。
さっき褒めたの取り消し! 誰だよ高校の演劇であんな高さのセット作ったやつ!
「飛び込むぞ!」
誰かが下したのか、それともクロウカードの仕業なのか。急に舞台の厚い幕が下りてきたので、俺は
俺の脳内をよぎっていたのは、
「熱ッ!?」
しかし意気込んで舞台に乗り込んだ俺を待っていたのは、セットにまとわりつく緑色の謎の気体。それに触れた途端、俺の足には熱いような痛いような感覚が走った。急いで飛びのけば、触れた部分が火傷で膿んだような見た目になっている。すごく痛い。
「あの緑のもやもやが、クロウカード……! セットが崩れたのはあいつの仕業か!」
痛みと怪我による恐怖より、俺の頭を支配したのは怒りだった。だってこのままじゃ、兄貴とお姉さんは緑のもやもやのど真ん中に落ちてしまう。あんなセットを壊してしまうような危険なもやもやに落ちたら、きっと怪我だけじゃすまない。
だけど今の俺に出来ることは限られている。もし一緒に連れてきていたのが
この場には姉さんと李がいる。俺がこのもやもやをどうにかできなくても、きっと二人がどうにかするはずだ。いや、してくれる! だったら俺が今するべきことは!
「兄貴!」
「! 梅!? お前、なんで」
俺は
俺は兄貴が何かを言う前に、兄貴の腰を掴んで自分のすべての魔力を
「月城さん! 二人を、お願いしま……す!! どっりゃあぁぁぁぁ!」
「んな!?」
「キャッ!?」
「え、えっと! うん、まかせて!」
高校生二人を小学生がぶん投げる。そんな異常な光景にも動じず、俺が投げ飛ばした二人を下敷きになりながらも受け止め? てくれた月城さん。やはりできる男である。さすがは俺が姉さんの婿に認めたお方だ。
けど俺はこの後のことを、よく考えていなかった。二人を投げ飛ばした反動なのか、強く踏みしめてしまったからか、それとももやもやの浸食のせいか。……多分その全部が重なって、俺が避難する前にセットが崩れ落ちてしまったのだ。
でも俺にくっついて慌てている
だって、姉さんの声が聞こえたんだ。
「影よ、すべての霧をその中に包み込め! 影《シャドー》!!」
落ちるのがやけにスローモーションに感じる中で、舞台の横上にあった窓から黒い何かが飛び出てきてそれが緑のもやもやを覆いつくした。そして黒い球体となったそれから、光る何かが飛び出していく。きっと封印がうまくいったんだ。
「李くん、お願い!」
「まったく、あの馬鹿! 風華、招来!!」
次いで床にぶつかる寸前だった俺を抱きとめてくれたのは、
俺は助かった安心感か、魔力を使いすぎたフィードバックか、それとも両方なのか……。ほっと一息ついた後、俺の意識はブラックアウトした。
「俺がんばったのに……」
俺が気を失っていたのはそう長い時間ではなかったらしく、目が覚めたのは高校の保健室に運ばれた直後だった。そして先ほど足に包帯だけ巻いてもらって「大丈夫です」と言い張り校庭に出てきたところで、付き添ってくれていた姉さんと兄貴からダブル説教をくらったばかりである。内容は二人とも「無茶しすぎ」だ、とのこと。足に変な怪我をしていたこともあって、滅茶苦茶心配もされた。それは嬉しいし、まあ反省もするけどさ……。俺、自分としては今回頑張れたって思うんだけどな。ちょっとくらい、褒めてほしかった。
そう思ってしょぼくれていると、隣にいた大道寺がこそっと耳打ちするように声をかけてきてきてくれた。ちなみにその手に持つカメラは、がっちりとキャンプファイヤーを囲う円の中で踊っている姉さんと月城さんを映している。体を動かしてもカメラは微動だにせず固定されているのが流石の大先生。後で見せてもらおう。
「みんな、梅倖くんが大好きなのですわ。だから本気で心配するし、怒るんです」
「……わかってる、けど」
「……今回、梅倖くんは最適な行動をされたのだと思います。クロウカードについてはさくらちゃんと李くんを信頼して任せ、お兄様たちを助けることに集中した」
でも、と大道寺は言う。
「だからと言って、梅倖くんが危険にさらされることを喜ぶ人なんていませんわ。わたくしも、すごく心配しました。……足は大丈夫ですか?」
そう言って、眉尻を下げた大道寺が包帯がまかれた俺の足を心配そうに見てきた。……それに対して、なんだろう。姉さんを心配させてしまった時と似ているけど、ちょっと違うような。そんな心苦しさを覚えた。
俺は心配してくれている大道寺を見て、すねている自分が急に恥ずかしくなってきた。今回は
今回の事態を引き起こしたクロウカードは
「……ごめん、大道寺。やっぱ俺、まだまだだ!」
バツの悪さを感じながら謝って、後ろめたさから怪我した足を隠すように後ろに組み替えると、反対側から深いため息が聞こえた。
「まったくだ。この先走り馬鹿め」
「ぐっ……」
李だ。助けてもらった手前言い返せねぇ……!
「ま、まあ……その、だな。助けてくれて、ありがとな」
一応、さっき言ったけどもう一度お礼を言っておく。しかし李の視線は踊る姉さんと月城さんに羨ましそ~に向いていて、もうこっちの話なんて聞いちゃいない。おい。
俺は気を取り直して、月城さんと姉さんが踊りを終えてこっちに戻ってくるのを確認するとぱっと大道寺の手を取った。
「え?」
「せっかくだし、俺たちも踊ろうぜ大道寺! 足の怪我、実際大したことないからさ。それを証明してやるよ!」
「まあ」
大道寺は驚いたように目を見開いたけど、すぐに柔らかく微笑んで「よろこんで」と受け入れてくれた。さっすが大先生! のってくれると思ってた!
姉さんたちと入れ替わるようにして踊りの輪に加わった俺たちは、高校生に交じって踊る。振り付けも何も知らないから、周りを見ながらまねっこで。
大道寺はさすがお嬢様なだけあって踊りがうまいから、リードしてもらう形になってしまったが。……ちょっぴりそれは情けないと思いつつ、心配そうな、悲しそうな顔だった大道寺が笑って一緒に踊ってくれたことにほっとした。せっかくの楽しい文化祭、あんな顔させたまま終わらせたくないもんな!
こうしてハプニングがありつつも、星條高校文化祭は終わった。
ちなみに俺が発揮した突然のマッスルパワーに関しては「兄のピンチに火事場の馬鹿力が出た」と説明して事なきを得た。信じてくれた高校生のお兄さんお姉さん達は良い人である。でも一応の納得を見せつつも、多分信じてくれてないだろうな~という兄貴からの視線が痛かった。昔から俺の嘘ってすぐ兄貴にばれるんだよな……。
ううっ、俺のせいで姉さんが魔法少女だって兄貴にばれたらどうしよう。
人の目に触れる時の行動は、これからもうちょっと気を付けようと思う。
…………緊急時を除いて。