キャプターサポーターうめゆき   作:丸焼きどらごん

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二十三話 うめゆき、苺台風に出会うの巻(2)

「外国って、すごいな……」

「いきなり「婚約者よ。手を出さないで!」だもんね~」

「びっくりした~」

 

 月並みの感想をこぼしつつ弁当のエビフライを頬張る俺。

 今日は姉さん達に交じって弁当を食っているので、必然的に女子に囲まれている。いや、なんか例の子がず~っと姉さんを睨んでいるもんだから、視界の盾になろうとついてきたらそのまま。

 

 李の従妹……までは、まあ昨日の様子で親族だろうなって思ってたし、すぐ納得できたけどまさかの婚約者。ドラマみたいだ。

 そうか、そういえば従妹って結婚出来るんだよな。漫画で読んだ。

 進んでるな李の奴……。振り回されてそうだなってのは、あのぐったり具合から察したけども。

 

 とかなんとか言ってたら、件のぐったり李がやってきた。山崎と一緒だ。

 ぐったり李か……ぐったり李……ぐった李……なんてな。ふふ。おっと、これは口に出したら場が冷えるやつだな。心にそっとしまっておこう。

 

「わあ、美味しそうだね!」

「あ、山崎くんに李くん。これからお昼?」

「うん。李くんと食堂で食べようと思って」

 

 山崎はいつものニコニコ笑顔だが、対して李の表情は相変わらず浮かない。眉毛がまだ八の字だ。

 しかしこいつに安息の地はないようで。

 

「小狼~! お弁当作ってきたの! 一緒に食べましょう?」

「!!」

 

 ぱたぱたと随分大きな弁当箱をもって駆け寄ってきたのは李苺鈴。そんな彼女を前にして、李は慌てたように「ちょっと話が」と彼女を連れてすばやく移動していった。早い。

 あ、あの李が月城さん以外のことでこんなに慌てるとは……! 李苺鈴恐るべし、と思わず顎に手を当てて唸ってしまった。

 

「う~ん。これは馬に蹴られないように、一人で食堂に行くべきかな?」

「話長そうだし、その方がいいかもな……。じゃあ俺も弁当の残りは食堂で食べよっと」

 

 ぽつねんと残されてしまった山崎。本人は気にしてなさそうだけど、なんとなく俺は食べかけの弁当をもって山崎についていった。そしてお得意の「婚約者っていうのはね……」から始まったうんちく風の山崎の嘘に耳を傾けながら考える。

 

 ……李苺鈴か。正直、騒がしくはあるけど今のところ悪感情は抱かない。カード集めに関しては李側に厄介な助っ人ふえちゃったなーとは思うけど。

 

 なんというか、あれだ。姉さんが月城さんに向ける感情と一緒で……李のことがすっごく、すご~く好きなのが伝わってくる。だからかな。姉さんに「手を出すな!」みたいなこと言われても、なんとなく腹が立たなかったのは。そもそも姉さんは月城さんが好きなわけで、勘違いもいいところだし。

 姉さんをずっと見ているから、もしかしたら俺って恋する女の子に寛容なのかもしれない。初期の李のように直接姉さんに手を出そうものなら話は別だけど。

 

(……んんん? いやいやいや。でも李も月城さんの事が……。…………。これ知ったら、あの子どうするんだろう)

 

 むむう、これは初恋もまだな俺には難しい問題だ。人の事情だし考えないでおこうっと。

 

 

 

 そして件の李苺鈴だが、どうも最初の勢いのまま姉さんに対抗意識を燃やしているようで、その後も一日中視線が強かった。めちゃくちゃ睨んでくる。

 ……ものすっごい既視感なんだけど、これ月城さん好きになったばかりの頃の李と一緒だ。さすが従兄妹。似てる。

 

 体育でのマット運動では素晴らしい身体能力を披露していたので、この辺も李と同じだな~とも思ったり。女の子だからか体が李より柔らかい印象だけどな。イメージとしては李と姉さんの動きの中間。

 くそう、それにしても俺の周りどいつもこいつも身体能力たけぇ……! ちょっと悔しい。いや、俺だっていつかはムキムキマッチョに! 

 

 まあ、姉さんのが凄いんだけどね! と李苺鈴に対しては密かにドヤっておいた。くう! 姉さんの華麗なマット運動素晴らしい! 宙を舞う姿はまさしく可憐な妖精! 友枝小のフェアリーとは姉さんの事だぜ!

 …………。なんで密かにドヤったかって、……うん。俺はまあ……うん。そのな。大人しくでんぐり返し……じゃねえ、後転とかしてたよね……。跳び箱は飛ぶ前に引っかかったさ……。

 か、かっこ悪い。今日のお供をしてくれた(パワー)に、やれやれと首を横に振られてしまったのが地味に傷つく。李苺鈴には何やら憐みの視線で見られた。ぬぐぁあああ!

 

 

 そうこうして新しいクラスメイトを迎えた一日は、長いようであっという間に過ぎてもう夜だ。当然俺たちは帰宅済みである。

 今夜はご馳走! 俺も姉さんも李苺鈴のインパクトですっかり忘れてたんだけど、今日はそんなお楽しみの日だった。うーん、楽しみ! 肉? やっぱ肉かな! ご馳走といったら!

 

「~♪」

「その子になんかしたんとちゃうか?」

「ううん、なにも」

 

 俺がご馳走に思いを馳せ鼻歌を歌う隣りで、ケロ吉に李苺鈴のこと、一日中睨まれていたことを報告する姉さん。俺はふわっとご馳走にむけて飛ばしていた意識を戻すと、人差し指を立てて仮説を話す。

 

「姉さんを恋のライバルだと思った。それか大好きな李のクロウカード集め競う相手を意識してる。こんなところだと思うよ、姉さん」

「ほ、ほええ! こ、恋!? わたし、李くんの事そんな風には……」

「うんうん、もちろんわかってるよ。でも香港から来たばかりのあの子は違う。俺たち昨日李の家にいただろ? 今日も手を出さないで、なんて言ってたしさ。もしかして姉さんが李のこと好きなのかも~って勘違いしてる可能性はあるよ。……まっ、大道寺や女……の子だと勘違いした俺の事は特に睨むでもなかったし、十中八九クロウカード集めの方だろうな」

「なんや梅、女の子と間違われたんか」

「うっさい! 今日は制服着てたし、もう誤解は解けてるよ!」

「ははは、すねるなすねるな」

「だから、ケロ吉うっさい!」

「まあまあ、梅くん」

「うう……」

 

 からかってくるケロ吉に腹がたったものの、その後の夕飯でそんなものは空気が抜けた風船みたいに吹き飛んだ。やった、ステーキだ! 肉~! お肉~! モリモリ食べて兄貴みたいにでっかくなるぞ!

 しかも今日の夕食、親父が今日家に一人だという月城さんも誘ったので姉さんが目に見えて上機嫌だ。さすが親父、ナイス! 喜ぶ姉さんを見ながら食べるステーキ……最高だな。お礼に食器洗いは俺がやろう。

 

 だけど楽しい夕食の途中、また少し不穏な話題。……今朝兄貴が話していた例の通り魔? がまた出たらしい。次々に格闘の有段者を狙っては倒しているそうだ。道場破り……は違うか。武者修行?

 そこまでなら物騒だけど変なニュースだなぁ、ですんだんだけど。

 

「でね、その女の子、妙な格好をしていたんだって」

「「妙な恰好の、女の子……」」

 

 月城さんの言葉に俺と姉さんは顔を見合わせる。

 多分、考えていることも一緒だ。

 

 

 

 

 そしてその日の夜。

 俺たちはいつものごとくこっそり抜け出して、夜の公園にいるわけで。

 

 

 

 

「さくらちゃん、今日もバッチリ決まっていますわ!」

「さっすが大道寺! 急な夜の連絡だってのに、寸分の隙も見当たらないナイスな衣装だ! 姉さん可愛い!」

「もちろんですわ! いかなる時でもさくらちゃんにぴったりのコスチュームを用意するのがわたくしの生きがいですもの!」

「あ、あはは……やっぱりこうなっちゃうのね」

 

 胸元と腰の大きなリボンがアクセントな、ピンクを基調としたふんわりとした衣装。それに身を包んだ姉さんが苦笑するが、俺と大道寺は満面の笑みだ。

 ちなみに今日の俺は普通の服。大道寺は申し訳なさそうにしてたけど、あくまでメインは姉さんなのだ。添え物の俺の衣装なんて無くてもまったく問題はない。

 そして今日のご馳走がよほど嬉しかったのかニコニコと嬉しそうなケロ吉に促されて、姉さんがあたりの気配を探れば……案の定クロウカードの気配。俺も集中して探ってみれば、場所までは分からないが近くにクロウカードがいることだけは感知出来た。

 俺の今日のお供は昼間に引き続き(パワー)。聞いた話からして、こいつと同系統のカードだと思ったからだ。夕方に魔力を込めなおしたおかげで夜になってもまだまだ元気である。

 

「……うん、クロウカードの気配。わたしも感じる」

「ということは、やはり格闘家の方達を襲った妙な恰好の女の子というは……」

 

 

 

「クロウカードよ」

 

 

 

「!」

「まあ」

「苺鈴ちゃん!?」

 

 随分上から声が降ってきたと思ったら、なんと相手は街灯の上に立っていた。そこから中華服の袖をなびかせて危なげなく飛び降り、着地。す、すごいけど……のぼる必要あったか?

 李もそうだったが魔術師専用の衣装か何かなのか、学生服とはがらっと印象が変わる中華服は白と赤。夜の中その色はよく目立つ。胸元には陰陽の刺繍が施されていた。

 

「ケロ吉、あれが李苺鈴。李の婚約者だってさ」

「ほへ~……。あれが小僧の」

「ちょっと、あれとは何よあれとは! 失礼ね!」

「わ、悪かったって」

「ふふん、わかればいいのよ」

 

 一応ケロ吉に説明すれば耳ざとく聞こえていたのか、ぷんすこと怒られる。馬鹿力に加えて地獄耳……!

 その李苺鈴に俺たちもクロウカードを探しに来たのかと問われて姉さんが頷けば、当然ながら李苺鈴もカード目当てで来たらしく……満面の笑みで「私が捕まえて小狼にあげるの!」と言われてしまった。

 で、そのままこっちをビシッと指さして「カードは小狼のものよ!」と言……って、おい!

 

「おい、お前の方が失礼じゃないか! 人を指さしちゃいけないんだぞ!」

「ふんっ。なによ、ちっちゃい事で大きな声だしちゃって。えっと……その子の弟、だっけ? 男のくせにみみっちいわね~」

「なにー!?」

「せやせや! それに勝手な事言うんやない! さくらはわいが認めた唯一のカードキャプターやで!?」

 

 失礼を返されたので俺も怒るが、それに便乗して聞き捨てならんとケロ吉が李苺鈴のそばに飛んでいって抗議した。……が、このお風呂のスポンジみたいなのが封印の獣!? と驚かれはしたものの、邪魔とばかりに横にどかされてしまう。け、ケロ吉ぃぃぃ!!

 

「ま、封印の獣がついていようと小狼には私がいるんだから。小狼の勝ちよ!」

「なんだとぉ!? 確かにケロ吉はいまいち頼りにならない時が多いし風呂のスポンジと言われたら確かに! って納得しちゃうような見た目してるけど、いざという時はけっこうやるんだぞ! それに姉さんには俺だってついてるんだ! お前ひとり増えたって姉さんが負けるわけないだろ!」

「ちょ、梅お前さりげなくわいをけなしよったか!?」

「ごめんって! でも今はこっち!」

「あら? あなたがついていたところで、何か変わるの? 見てたわよ体育の時。ずいぶん運動が苦手のようだけど。クロウカード集めの役に立てるなんて思えないわ」

「んな!?」

 

 う、うううううううるせぇやい! 俺は身体能力どうこうでなく魔法で……。

 

 などと抗議しようと思った時だ。

 突如公園の池から水しぶきがあがり、何かの陰が天高く舞い上って……手すりの上に軽やかに着地した。

 それに真っ先に反応したのはパーカーのフードに入っていた(パワー)で、飛び跳ねるようにして俺の頭に乗る。それに李苺鈴がびくっと肩をはねさせた。

 

「きゃわっ!? え、なに、またぬいぐるみ!? ……ととっ、今はそれどころじゃないわね」

 

 驚く李苺鈴だったが、その意識はすぐ正面に向けられる。……その先には夜闇の中ぼんやりと光る、空色の服を着て白髪を二つに結わえた女の子。光っている所からしてもう人間でないのは確定だ。

 

「ほえー! あれがニュースで言ってた妙な恰好の女の子ね!?」

「あら、そんな妙な恰好ではないと思いますが……」

「大道寺のデザインはすごく綺麗で可愛いけど、普段着と比べたら独創的だぞ? だからそれに通じるあれを一般的かっていうとちょっと違うかな……」

「まあ! そうなのですか?」

「ちょっとあなたたち、のほほんとしたやりとりしている場合!? 来るわよ!」

 

 つい大道寺につっこんでしまったが(ちなみに彼女、李苺鈴の勢いにも臆することなくずっとカメラをまわしている。さすがだ)、李苺鈴の鋭い言葉が飛び同時にピリッとした空気。……クロウカードを目される少女が、手すりの上を駆けてこちらに向かってきた!

 

「!?」

「わわっ」

 

 少女はそのまま拳を振るい、ちょうど姉さんと李苺鈴の間の地面を拳で突いた。

 遊歩道のレンガが砕け、宙を舞う。

 

『!』

「あ、おい(ぱわー)!?」

 

 それに驚いて体をよろけさせた俺が体勢を整える前に、目の前に飛び出す小さなピンクの影。(パワー)が意気揚々とばかりに、少女に飛び掛かったのだ!

 

 

 けどすぐにぶっ飛ばされて戻ってきた。

 

 

『~~~~~~!?!?!?!?』

(パワー)ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ほええええええ!?」

 

 俺はそれをスライディングでキャッチする。な、なんなんだよお前……。めちゃめちゃ膝擦りむいたぞ……!

 

「気ぃつけさくら! あれは(ファイト)のカードや。格闘専用のカードで、より強い相手に戦いを挑む性質をもっとる!」

「ええ!? わたし格闘技なんてできないよ! と、というか(パワー)に梅くん!? 大丈夫!?」

「……ちなみに(パワー)とは結構仲良かったはずなんやけど……主に好敵手みたいな感じで。でも今は依り代に入ってる(パワー)より強い相手見つけたんやろな。眼中に無いみたいや」

「強い相手って、だからわたしは……」

 

 言いかける姉さんの前で少女……(ファイト)が構える。しかし構えた先、視線が捕らえるのは姉さんではなく李苺鈴だ。

 李苺鈴はそれに対し臆することなく、逆に挑発的に笑って拳法の構えをとった。……その自信の理由を、俺たちはすぐ目にすることとなる。

 

「すげぇ……!」

 

 なんと李苺鈴、(ファイト)の攻撃をうまく受けたどころか蹴り飛ばして(ファイト)を手すりに叩きつけたのだ! あんまりにもスムーズに動くもんだから、ついつい素直な感嘆の声が出てしまう。……李にしろこの子にしろ、香港の魔術師は格闘が必須科目なのか? 強すぎだろ!

 俺はこのままじゃカードを李苺鈴にとられてしまう……と思いつつ、動けないままそれを見るしかできなかった。動体視力に優れる姉さんもそれは同じ。

 格闘家同士の攻防が激しすぎる! 割って入る隙が無い!

 

 しかしそれも途中まで。

 いい感じに(ファイト)を追いつめた李苺鈴だったが、途中まで優位だったからか……隙を見せてしまう。そこに(ファイト)の拳が迫り、俺が「危ない」と叫びかけた時だ。

 

 第三者が李苺鈴と(ファイト)の間に入り、(ファイト)を蹴り飛ばした!

 

「李!」

「李くん!」

「しゃ、小狼!」

 

 現れたのはいつもの緑の中華服を身に纏った李小狼。李に蹴飛ばされた(ファイト)が、手すりを飛び越え派手な水柱を立てて池中に沈んだ。

 李はそれを確認すると……李苺鈴を 責した。どうもあの子、李に黙って勝手に行動したようなのである。それも李のクロウカード探索アイテムである羅針盤を、無断で借用した上で。

 今みたいに危ない目に遭うことだってある! と怒る李は、どことなく……俺のことを心配する姉さんを想起させた。

 

(形はどうあれ、あの子は李にとって大切な相手なんだろうな……)

 

 俺は水中に沈んだ(ファイト)と手の中で頭をぷるぷると左右にふっている(パワー)を気にしつつ、その会話を聞いていた。そして発覚した事実に目を見開く。

 

「魔力が、ない?」

「李家にしてはほんま珍しいこっちゃで」

 

 うんうんと頷くケロ吉。……李苺鈴は李に似ていると思っていたが、それは身体能力だけのようで。どうにもからっきし、魔力というものがないとのこと。

 だから魔術アイテムである羅針盤も、李の世話をしているウェイさんに使ってもらってこの場所をつきとめたんだとか。

 

 

 ふと、李苺鈴の姿が自分と重なる。

 

 

 ____姉さんが大好きで、姉さんの役に立ちたい。

 ____体が弱くて大したことは出来なくても、自分に出来る事ならなんだってやりたい。多少危ない目に遭ってでも。

 

 

「………………」

 

 幸い俺には魔力があった。李苺鈴には卓越した身体能力が。

 その違いはあれど、大好きな人の役に立ちたい……そう思ってる部分は、共通している。

 

「なんだかな……。おい(パワー)、大丈夫か?」

 

 共通点を見つけてしまった事をなんとなく居心地悪く思いながら、頬をかきつつようやく吹き飛ばされた衝撃から立ち直ったらしい(パワー)入りのマスコットを見る。……すると何やら睨まれていた。更には手の上でぴょこぴょこ跳ねて『もっと魔力をこめろ』と要求の意志。でもって『もっと魔力があったら簡単に負けなかった!』……と。

 

「おいおい……」

 

 ……ケロ吉が言うに、好敵手(ライバル)みたいな相手だったようだからな。本体でないとはいえ、ぶっ飛ばされたのが相当悔しかったみたいだ。

 う~ん……! でも(パワー)に力を込めたのは今日で二回目。つまり入れたてほやほやなわけで。今の俺が依り代に込められるだけの魔力は、現時点で満タンなのだ。これ以上となると難しい。

 

 もし(パワー)が今以上の力を発揮するためには、それこそ……。

 

「なあ、ねえさ……。!!」

 

 言いかけてから、ばっと池とは反対方向の茂みを見る。丁度李の羅針盤もまた、その方向に反応を示した。同時に飛び出す影!

 

「小狼!」

 

 いつの間に移動したのか、茂みから現れた(ファイト)に李苺鈴をかばった李がふきとばされる。さっきと逆だ。

 さっきは李苺鈴が(ファイト)を手すりに叩きつけたが、それの意趣返し……というわけでもないんだろうけど、今度は李がその再現のように手すりに叩きつけられる。

 それを見て今度こそうろたえるだけではいけないと、俺は慌てて姉さんに提案した。

 

「姉さん、チェンジ! (パワー)(シールド)!」

「! わかった」

 

 短いやりとり。でも夏休み中……工作をしながら雑談していた内容を思い出してくれたのか、姉さんは即座に応じてくれた。

 俺は未だ不満そうな(パワー)にひとこと「ごめんな」と言ってから、その依り代に込めていた魔力を解除する。すると俺の魔力を用いてマスコットを遠隔操作していた(パワー)とのつながりが途切れ、マスコットはぱたりと動かなくなった。

 その代わりに取り出したのは、ビーズで作った(シールド)を模したブローチ。昼間大道寺大先生に見ていただいたノートにもデザインがのっている、俺の新作である!

 まだ(シールド)自体からあまり協力的な意志は得られていないが、場合が場合だ。ほんの少し、力を貸してくれるだけでいい。

 

 その間、李を傷つけられたことで怒った李苺鈴が再び(ファイト)に戦いを挑んでいる。が、怒りのせいか勢いこそ落ちていないが精細さに欠けているようだ。

 

「力を貸してくれ、(シールド)!」

「我が杖に力を宿せ、(パワー)!」

 

 夏休み中何を話していたかといえば、それは俺がサポーターとして活動するにあたって欠かせない事。俺が力を貸してもらっているカードの力を姉さんが使いたいとき、すぐに借りている力を解除する方法だ。

 

 俺がカードの力を借りている間、姉さんはそのカードの力を使えない。これは場合によって相当なネックになるはずだ。

 もしそんなことがあった場合、俺はすぐに借りてる力を返すからね……と。そんな話をしていたわけだな。

 

 でも解除するだけでは俺が姉さんの役に立つ力を使えない。なのでその時は別のカードの力を借りることにした。魔力運用面での効率よくないが、まったく使えないよりましである。

 

「でやぁ!」

 

 俺は(シールド)の力を借りて猫の額程度の盾を作り出すと、それを依り代のブローチごと李苺鈴と(ファイト)の間に放り投げた。

 

『!!』

「なっ」

 

 ちょうど李苺鈴に迫っていた(ファイト)の拳を、その盾が受け止め拳を弾く。

 やった、いい具合の場所に飛んでった!

 

「李くん、ここはまかせて!」

 

 そして今度は姉さんだ。傷ついた体で李苺鈴を助けに行こうとしていた李を押しとどめて、(ファイト)に向かう。(ファイト)も姉さんの杖に宿った本来の(パワー)の魔力を感じ取ったのか……姉さんに標的をうつした。

 

「ほ、ほええええええ!? い、いや。大丈夫、ぜったい大丈夫だよ! 苺鈴ちゃんや梅くんが頑張ったんだもん。今度はわたしの番!」

 

 (ファイト)の威圧に悲鳴を上げながらも、自身を奮い立たせ構える姉さん。

 

「さくらちゃん、かっこいいですわ!」

「いっけぇ! 姉さん!」

 

 疾風のような(ファイト)の攻撃が姉さんに迫る! しかし杖はその動きを読んだかのように振り上げられ……一瞬、そこに(パワー)の姿が重なった。姉さんの身体能力と、(パワー)の力が合わさったのだ!

 

「てえぇぇぇぇぇい!!」

 

 そして勢いよく振り下ろされた杖は見事に(ファイト)の脳天にクリーンヒットし……(ファイト)は倒れた。

 

 

『汝のあるべき姿にもどれ、クロウカード!!』

 

 

 すかさず姉さんが封印の呪文を下し、いつものように杖の先に光が収束した。それはカードの形をとり姉さんの手に収まる。

 

「な、なんとかなった~……。……そうだ、苺鈴ちゃん、李くん! 大丈夫!?」

 

 先ほどまでの凛々しい表情をへにゃっと崩した姉さんが二人の心配をするが、見れば李も何とか立ち上がっている。大丈夫そうだな。

 ふ……。勝てたのは李苺鈴が戦って(ファイト)が疲れてたおかげだと謙遜する姉さんの優しさがまぶしいぜ……! 実際それがあったにしても姉さんの気遣いよ!

 

 俺はそうした感動を胸に(シールド)のブローチを回収して、姉さんの側に歩いていく。すると。

 

「少しはやるみたいね。でも、クロウカードを集めるのは小狼なんですからね!」

 

 ……李苺鈴が、再び姉さんに宣戦布告していた。抱き着かれている李がぐったりしてるってのに元気だなこいつ!ま、まあ……あれくらい元気あるなら、李苺鈴も大丈夫そうかな。

 そう思って呆れと安堵が入り混じったため息をついた時だった。

 

「それと、あなた!」

「は、はい!?」

 

 思いがけず水を向けられて何故か敬語になってしまった。そういや明確に俺に意識向けられたの、もしやはじめてでは? さっきのは別として。

 正面から受けると改めて圧の強さを感じる。

 

「あのままでも大丈夫だったけど、一応。一応! お礼くらいは言っておくわ!」

「れ、礼ぃ~? 今のが!?」

「なにか文句でもあるの?」

「や、ベツニ……」

「含みあるわね……。……ともかく、お礼は言ったからね。ちょっと魔法が使えるからって調子に乗らないでよね!」

「ああ、すねてるのか。役立たずと思ってたやつが魔法使えたから」

「すねてなんかないわよ! さっきから失礼ね!」

「だからお前の方が失礼だって! 指さすな!」

 

 

 

 

「なにやら人間関係がまた複雑になってきましたわねぇ」

 

 ぎゃーぎゃーと夜の静寂に喧騒をもちこむ俺たちを見て、大道寺がそんな感想をこぼしていたなど……それは近くでうんうん頷いて「これもカードキャプターとキャプターサポーターの試練や……」とか適当な事ほざいていたケロ吉だけが知っている。

 

 

 

 こうして新たな台風が香港から上陸した。

 

 俺たちのちょっと不思議で賑やかな日々は、まだまだ終わらないらしい。

 

 

 

 

 

 

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