キャプターサポーターうめゆき   作:丸焼きどらごん

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二十五話 うめゆき、お父さんと眠りの粉の巻(1)

「家事を俺たち三人で?」

「うん!」

 

 ある日姉さんが俺と兄貴を呼んで、ひとつの提案をしてきた。その内容を聞いた俺と兄貴は顔を見合わせる。

 

「……みんな考えてることは同じだな」

「ね。親父、今大変そうだし」

「あれ? ってことは……」

 

 俺たちの会話で姉さんも気づいたのか、俺と兄貴を交互に見る。

 

「丁度話してたんだけど、俺たちも家事の分担考えてたんだ。親父の学会が終わるまで」

「そうなんだ! じゃあ、決まりだね」

「ああ。ま、三人も居るんだ。こんな時くらい、父さん休ませないとな」

 

 ……とまあ、実に短くスムーズに提案は可決された。いつも頑張ってくれている親父のためとあらば、木之本家三姉弟、腕まくりして張り切るってもんだよな!

 

 近々親父は大学で大事な発表があるらしく、ここ最近その準備に追われていた。

 発表は来週の月曜日。だから今週は特に忙しそうにしている。……そんな中でもきちんと自分の当番の時は家事をこなすんだから、我が父ながらいい男すぎるんだよな。俺も親父みたいになりたい。

 でもそれで親父の眠る時間が削られてしまうのは、俺たちにとって本意ではないのだ。だからこそ発表が終わるまでは、家事の全部を俺たちでやろうってなったわけだな!

 そのことをケロ吉に話すと「ええ子らに育てたなぁ、親父はん……」と涙ぐんでは俺と姉さんの頭をぽんぽんと撫でてきた。ちょっと気恥ずかしい。

 

 早速翌日の朝ごはん、親父の当番だったけど早起きして俺たちで準備を整えた。

 まあ今日は三人分担サイクルでは兄貴の担当だったんだけど、俺と姉さんも張り切って早く目がさめちゃったからな。そのままお手伝い! 姉さんは特にお弁当も作るとやる気満々だ。

 

「お兄ちゃん、お弁当はわたしがやる!」

「ん、ならこれも詰めてくれ」

「わかった! あ、でも他のおかずはわたし作るね!」

「おう、任せた」

「兄貴、俺は俺は!?」

「朝から元気だなぁ、お前達。なら梅は食器と飲み物の用意」

「オッケー! コーヒーマシンのセットは任せろ!」

 

 朝食を作る兄貴の後ろでお手伝いをねだれば、兄貴は苦笑しながら役割を分担してくれる。お弁当係になった姉さんはルンルンと鼻歌を歌いながらおかずを作り綺麗に弁当箱へつめこむと、何かメモを添えていた。きっと親父を気遣う言葉が書かれているのだろう。

 さっすが姉さん! こんな嬉しいサプライズがついてたら、きっと親父の疲れも吹っ飛ぶさ!

 

 ともかく、ちょっと忙しくなるけど俺も頑張らないとな! 俺たち三人で親父を助けるぞ~!

 

 

 

 

 

「まあ、皆さんで家事の分担を?」

「えへへ。三人で話し合って決めたんだ。お父さん、すっごく大事な論文を発表するんだって。だから今週だけでも、わたしたちで家事を分担して、お父さんを助けようってことになったの」

「親父、普段も忙しいのに美味いものたくさん作ってくれるし、なんでもしてくれるからさ。協力しなきゃなって」

「研究発表はいつなんですか?」

「来週の月曜日! だから今が一番忙しいみたい」

「そうですか。ふふっ、素晴らしいチームワークですね。素敵ですわ!」

 

 学校帰りに寄った本屋で事情を話せば、大道寺が手放しで褒めてくれる。照れくさいけど褒められると嬉しいな、やっぱり!

 姉さんも照れくさそうに「そんな、たいしたことじゃないよ」と言いながら、それを隠すように「これはどう?」と、大道寺が探しているような本を渡していた。お花の本だ。

 ちなみに大道寺、すでに買う予定の本が山積みになっている。姉さんが何に使うのかと聞けば、新たなコスチュームのモチーフにするようだ。

 常に研鑽を怠らないその姿、まさしく尊敬する大道寺大先生である!

 

「せっかくさくらちゃんに着ていただくのですもの。常に新しい着想とセンスを取り入れなければ!」

「と、知世ちゃん……」

「大道寺大先生、流石だ……! 俺も来月のお小遣い入ったら何か買うかな……」

 

 弟子たるもの師匠の背を追わねば! と俺も意気込むが、本って結構高いからな……。と考えて眉が八の字に垂れ下がる。大人しく図書館で借りた方がいいだろうか。

 

「よければ、今度うちにいらしたときにお読みになっては? それかこの本、あとでお貸しいたしますわ!」

「いいのか!?」

「ええ! 梅倖くんは共にさくらちゃんのコスチュームを作成する、かけがえのない同志。これくらい、おやすいごようですとも!」

「大道寺大先生……!」

 

 じ~んと感動してしまい、大道寺大先生と熱い握手をかわす。この弟子を気遣う寛大さ、まさに師匠。そして共に姉さんの可愛さをもっともっと引き出したい同志! 大道寺大先生から直接言ってもらえるとは光栄だぜ!

 よし、俺もまた開いてる時間に色々案を考えてみよう! 小物の案は結構溜まってるんだ。魔力を込めたおまじないの刺繍も、今度はクロウカードの模様を参考にしつつ、もうちょっとこったデザインに挑戦してみようかな!

 

「ふ、ふたりとも相変わらず仲いいね」

「ああ! 俺は大道寺ほど姉さんの事で話せる相手に今まで会ったこと無いからな! 最高の友達だ!」

「まあ、光栄ですわ。さくらちゃん、楽しみにしていてくださいね。次の衣装も、うめくんと一緒に最高のものをしたてあげますので!」

「あ、あはは。ありがとう」

 

 俺と大道寺の圧が強すぎたのか姉さんはちょっと困り顔。はしゃぎすぎたかなと反省しつつ、やっぱり大道寺とのコスチューム作りは楽しいからな。うきうきしてしまって、この情熱はすぐに鎮火することはなさそうだ。

 ちなみにそのあと兄貴の代わりに、親父が予約していた本を受け取りに来てくれた月城さんに会うという、姉さんにとって嬉しいサプライズがあった。

 うんうん、これも姉さんの日ごろの行いがいいからだな!

 

 

 

 

 そんなこんなで現在俺たちで父さんを助けよう週間真っ只中なのだが、そんな中姉さんが更に提案をしてきた。張り切っている姉さん可愛い。

 姉さんの案は週末も大学に泊まり込みをして頑張っている父さんに、差し入れと着替えを届けよう! というものだ。

 これには俺も大賛成。きっと父さんも助かるはず!

 

(あ)

 

 会話の途中、俺はふとあることを思い出す。

 父さんの講義を聞いたときや、家に招いて書庫で父さんの本を見せとき。小難しそうなしかめっ面をほぐして、好奇心に目をきらきらさせていた同級生。

 

「……なぁ姉さん。李の奴も誘っていいかな? ちょっと人数多くなっちゃうけど」

「え、李くんを?」

「? なんや梅。どうしてお父はんの大学行くのに小僧なんか誘うんや」

 

 少し驚いた様子の姉さんと首を捻るケロ吉に、俺は前に家に来た時の李の様子を語って聞かせた。

 

「あいつ父さんの教えることに興味ありそうだったからさ。差し入れだし、研究や授業を見られるわけじゃないけど……。なんとなく……その、思いだして」

 

 なんとなく、のあとに「誘ったら喜ぶかと思って」と言いそうになって、はたと気づいて飲み込んだ。別の言葉に続けたけど、ちょっと変な間だったかもしれない。

 今喋ってる途中まで気づかなかったけど……。俺、李が喜ぶかもって誘おうと思ったのか? あまりにも自然にこの思考に繋がって、自分で驚いてしまった。

 ……う〜ん。まあ李は姉さんのライバルだけど、魔力の操作方法を教えてもらったり、カード集めの時もちょくちょく世話になってはいるからな。俺の中で李の好感度、そこそこ高いのかもしれない。というか借りを返すためとはいえ、嫌いな奴を家に呼んだりしないし……ましてや親父の書斎に入れるもんか。

 

(あ、あれ? そうだよな。よく考えたら、あの書庫って俺にとっても特別な場所だし……俺ってもしかして李のことそれなりに信用してる?)

 

 思いがけない考えを発掘してしまったようで、それを振り払うように首をぶんぶん横にふった。

 

「なんや急におかしな動きしよってからに。ほんま忙しないやっちゃな~」

 

 あきれ顔のケロ吉の横で、姉さんは納得したようにパンっと手を打った。俺の奇行は見ないふりしてくれたらしい。

 

「そっか、李くんお父さんの研究に興味あるんだったよね! なら誘ったら喜ぶかも。お仕事の邪魔さえしなければ、きっと平気だよ! わたしも知世ちゃんを誘うつもりだし」

「そ、そっか!」

 

 俺が飲み込んだセリフをあっさり言ってしまう姉さんの善性が眩しい。さ、さすが姉さん! ライバルにも寛容だぜ……!

 

「そしたら明日声かけてみる」

「うん! えへへ。お父さんのお仕事に興味もってもらうのって、嬉しいね。それだけ学校でのお父さんのお話が、面白かったってことだもん!」

「! そうだよな! あ、そしたら姉さん。差し入れは何持ってく? 俺もなにか作る!」

「ええとね、ちゃんと考えてあるんだ! 忙しいだろうから、片手間に食べられるかんじでね……」

「ほんま、仲のええ双子やな。ええこっちゃ」

 

 ……とまあ、そんな一幕があって翌日李を誘ったら「行く」と即答だった。

 お、おう。誘っといてなんだけどそんなすぐ返事されるとは思ってなかったぞ。

 

 

 

 でもって差し入れに行く日はあっという間に来た訳だが。

 

 

 

「なんでその子もいるんだ?」

「これ以上大人数になると迷惑だから、と……。止めたんだが……悪い」

「ひどいわ小狼! おでかけするのに仲間外れにしようとするなんて!」

「ああ、うん。納得はした」

 

 大道寺とも合流して李との待ち合わせ場所に向かうと、そこに李といっしょに居たのは李苺鈴。今の会話でだいたいの様子は察した。たいへんだな、お前。

 まあ、あれだけ李にべったりの李苺鈴だ。考えてみれば当然というか。

 いつも李の傍にいるから出かける誘いを言い出しづらくて、学校では体育の着替えの時声掛けて誘ったんだけどな……。出かけようとする李を見れば、どこにいくか気になるってもんだろ。そして今に至ると。

 

「ところでなんで木之本さん達? どこへ行くの? ……はっ! まさかクロウカード!? だったらなおさら……」

「お前、李の話ちゃんと聞いてたか?」

「なによ失礼な言い方ね」

「ちゃんと聞いてたら何処へ行くか知ってるはずだぞ」

「うっ……」

 

 大人数になると迷惑だから、と話したってことはどこへ行くか李が説明したと思うんだけど。

 こりゃー仲間外れにされるかもって気持ちが大きくて、聞いてなかったんだろうなぁ多分。

 

「……はぁ。俺たちの親父が行ってる大学だよ」

「え、木之本さん達のお父さんって学生なの!? たしかにお若かったけど……」

 

 あ、そういやこの間のマラソン大会の練習で俺がぶっ倒れた時、家まで運んでもらったから親父と会ってるんだっけ。

 

「ちがうって。そこの講師。……そういえば特別授業の時、お前まだいなかったっけ。友枝小にも来て授業してくれたんだぜ」

「へぇ~。すごいのね」

「へへっ、まあな」

 

 そんな会話をしつつ、来てしまったものはしょうがないとそのまま大学へむかった。

 五人となるとそこそこ多い人数になっちゃったな。……まあ、静かにしてれば大丈夫だろ! 李苺鈴にも李が「ちゃんと静かにするように」と言い含めていたし。

 

 そして俺たちは大学という、同じ学校でも小学校とは全く違う大人の空気を感じる場所に、やや緊張しながら足を踏み入れた。高校の文化祭に行った時とも、また違った感じだ。

 お、大人……!みんな学生ってより、俺たちにとっては大人だ……!

 人もたくさんいるだけあって、敷地内の面積も広い。これは迷う前に人に聞いた方がよさそうだとなって、学生さんたちに目的地を聞いて道を進む。その途中の雑談で大道寺がこの間買った本のおかげで良いコスチュームの案が浮かんだと言うと「あなたがあのお洋服作ってたの!?」と、李苺鈴が驚いていた。うんうん、普通そうは思わないよな。あのクオリティだもん。

 

 小学生五人ってなると目立つのか、途中で会う人みんなこちらを見てきた。こそばゆいけど、声をかけて事情を話せば、皆さん親切に教えてくれてとても助かる。

 

「どうかしましたか?」

 

 と、今度は向こうから声をかけてきてくれた。後ろをふりかえれば女の人が一人に、男の人が二人。

 

「あ、あの。文学部に行きたいんですけど」

 

 姉さんが答えると大学生のお姉さんが「誰にようがあるのかしら?」と聞いて来たので、「史学科の木之本です」と答える。すると男の人が「え、木之元先生?」と声を上げた。親父の事知ってるっぽい。

 

「お父さんのこと、ご存知なんですか?」

「ええ! あなた木之元先生の娘さん……達?」

「はい! 木之本桜です。あとえっと、でもこの子は娘じゃなくて……」

「息子です! 木之本梅倖っていいます! あと、こっちは付き添いに来てくれた友達です」

 

 ちらっと俺を見て頬を緩ませたお姉さんだが、そこはしっかり訂正させてもらった。

 く……っ。ついこの間も間違えられたばかりなのに!

 

「あら、そうだったの。ごめんなさいね、そっくりだし可愛かったからつい……」

「へぇ、男女の双子っていったら二卵性だろ? それでもこんなに似る事ってあるんだなぁ」

「木之元先生、こんな可愛いお子さんたちいたのか。お友達も、よくきたね。いらっしゃい……って、俺が言うのも変か。はははっ」

 

 優しそうな雰囲気に、ちょっぴりとがった心もおちつく。

 う、うん。まあ姉さんの隣にいれば間違われるのは茶飯事茶飯事……。

 

「そうだ! ねえ、さくらちゃん。梅倖くん。お父さんの授業見てみたい?」

「「いいんですか!?」」

 

 姉さんと声が重なったのは俺ではない。李小狼だ。めちゃくちゃ目がキラキラしている。

 

「しゃ、小狼。あんなに目を輝かせてどうしちゃったの?」

「李くん、本当にさくらちゃんのお父様のお話が好きなんですね」

「うん……。みたい」

 

 な、なんか誘ったかいがあるってもんだけど、ここまで素直に喜ばれるとちょっぴりおもはゆい。

 

 お言葉に甘えてお姉さん達についていくと、窓から親父が講義を行っている様子が見えた。

 いつも見ている親父だけど、学校でお仕事している様子を見るとやっぱりいつもと違った感じで……。こう、いつもかっこいいけど、もっとかっこよく見える!

 案内してもらった場所では声も聞こえるから、李の奴が真剣に、そして楽しそうに耳を傾けていた。その様子に周りから微笑ましい視線が向けられるが、李が気付いた様子はない。

 

「あはは、夢中だな」

「ね。あのね、木之元先生の講義って人気あるのよ」

「そうなんですか!」

「すごく面白いんだよ」

「わかります!」

 

 男の人が言えばそれまで真剣に話を聞いていた李が、ぐるんっと顔を振り向かせて頷いていた。うわ、びっくりした!

 

「さっすが木之元先生。小学生の心までばっちり掴んでるな。……かくいう俺も、大学入るまでこんなに考古学にはまるとは思ってなかったんだけど」

 

 実際に授業を受けている人たちからの親父の高評価に、とっても誇らしい気持ちになる。やっぱり親父ってすごいんだな……! ますます今度の発表、頑張ってほしくなった。

 聞けば俺たちを案内してくれた三人は、親父の手伝いをしてくれている学生さんだったらしい。授業はそろそろ終わるからと、親父の研究室に案内してくれた。

 

「わ、私もごあいさつしていいのかしら……」

 

 ここにきて急にそわそわしだした李苺鈴。今さら「大人数だと迷惑かも」って李の言葉を気にし始めたのかもな。一度会ってるし、ここまで来たなら気にしなくていいのに。

 そんな李苺鈴の背中を「大丈夫だって」といって軽く叩くと、親父の仕事部屋に入って差し入れと着替えを渡す。親父はちょっと驚いたようだけど喜んでくれたし、初対面の李苺鈴にもにこやかに挨拶してくれた。李に対しては以前も考古学に興味があると言っていたのを覚えていたようで、「よかったら」と言って一冊の本を差し出した。

 

「え、あの。これって……」

「もう使わなくなった教本なんだけど、興味があるならよかったら。少し難しいかもしれないですけどね」

「いいんですか!?」

「うん。興味をもってもらえて、とても嬉しかったから」

「あ、ありがとうございます! あ……そうだ。これ、よかったら俺からも、その……差し入れです」

 

 さすが親父、粋なことするぜ! と思っていたら、李が何かを差し出した。

 そういえば大きな紙袋なんだろうなって思ってたんだけど……差し入れだったのか。

 

「小狼、朝から桃まん作ってると思ったらこのためだったのね」

「桃まん!? へぇ、すごい。李くんって料理もできるんだ……」

「すばらしいですわ。それに手土産を忘れない礼儀正しさ……ふむ。李くん、なかなかやりますわね」

{ふふん、当然よ! 小狼はなんでもできちゃうんだから」

 

 まるで自分の事のように胸をはる李苺鈴。さっきまでの緊張はどこいったんだか。

 

 

 あまり長居して邪魔するのもいけないので、俺たちは早々に親父の研究室をあとにした。李は親父に貰った本を大事そうに抱えている。

 ……うん。今日、やっぱ誘ってよかったな。

 

「なにか……もう少し、手伝いできることはあるか」

 

 と、李がそんな事を呟くように言う。差し入れしたんだし本のお礼はそれでいいと思うんだけど、本人いわくあれはお邪魔させてもらったお礼だから本はまた別らしい。律儀なやつだなぁ。

 で、李の言葉に最初に反応したのは姉さんだ。

 

「わたしも、ほかに出来ることないかなって考えてたの。う〜ん……なにができるかな」

「でしたら、眠気覚ましにコーヒーを差し入れては? お父さま、とても眠そうでしたから」

「! 知世ちゃん、それいいかも! ならお手伝いしてくれてる人たちの分も持ってこうかな」

「だったらコーヒー代半分出す。本のお礼には足りないかもしれないが……」

「本のことなら気にしなくていいと思うよ? 李くんが考古学に興味持ってくれて、お父さん本当に嬉しそうだったの! だからそれをあげたんだと思う。李くんが喜んでくれたら、もうそれがお父さんにとってお礼だよ!」

 

 姉さんの言葉に、俺もこくこくと頷く。

 

「俺も姉さんと同意見。まあ手伝ってくれるってんなら、金よりその抜群の運動神経で運ぶ手伝いしてくれよ。李なら絶対零さないで運んでくれるだろ?」

「当然よ! 小狼の体幹はすごいんだから!」

「だからなんでお前が偉そうなんだよ、李苺鈴」

「だって小狼は私の自慢の婚約者だもの。おーほっほ!」

「ふぁ〜あ。なんや騒がしいなぁ」

「ケロちゃん、寝てたの?」

 

 寝ぼけ眼で姉さんの持つバスケットから顔を出したケロ吉の言葉に、まだ大学構内だって思い出してジェスチャーで「し〜」と合図した。話してるうちに、少し声が大きくなっていたかもしれない。とくに李苺鈴、お前もうちょっと静かに!

 ……にしてもケロ吉め。しっかり寝てたな……? 顔にバスケットの網目模様がついてやがる。

 

 ケロ吉に呆れつつ、俺たちは大学近くのドーナツ屋でコーヒーを購入した。父さん、学生さん三人の分で計四つ。

 会計は俺と姉さんで半分ずつだ。リーズナブルな価格のドーナツ屋のコーヒー、小学生の財布には優しくて助かるぜ。

 で、運ぶ係は李。一応袋の中にコーヒーを固定する紙製の台が入ってるけど、それでも揺らせばこぼれる可能性はある。だけど流石というか、コーヒーを運ぶ李の姿勢は全くぶれない。中身は見えないけど、きっとコーヒーには波ひとつたってないんじゃないか?

 

 喜んでくれるかな、とか。帰りにさっきのドーナツ屋さんでおやつを食べていかないかとか。そんな話しをしながら俺たちは再び大学の中へ入って行ったのだが……。

 

 

 

 

 なんでピンポイントでそれ? と嘆けばいいのか、もっと被害がデカそうなものでなかったと安心すればいいのか……。

 俺たちはこの後、とんでもないおじゃま虫に遭遇することになる。

 

 

 




※2023.10.9一部修正
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