「
俺は姉さんが手に入れたクロウカードを並べて、一枚一枚確認していく。そしてこの間水族館で捕まえた
水で出来た体と、長い髪の毛。捉えどころのない水という存在でありながら、はっきりとした存在感を主張していた。
強気そうなちょっと吊り目で神秘的な碧い瞳。額には鱗を模したような飾りがあって、耳はまるで魚のヒレのようだった。彼女は牙をむいて威嚇してきたけど、その、すごく綺麗で可愛かっ……
「あれ、梅くん。顔赤いよ? …………! もしかして風邪!? だから夜の水族館は寒いから、ちゃんと温かくしてきてねって言ったのに!」
「へ!? いや、違っ」
姉さんの言葉に慌てるが、
しかし俺が風邪ではないと否定する前に、ケロ吉が余計な事を言いくさってきた。
「ちゃうちゃう。さくら、こいつ
「え?」
「ケロ吉この野郎! 適当な事言ってニヤニヤしてんじゃねーよ!」
「へえ~……。梅くんって、
「ね、姉さんまでニヤニヤしないでよ! そうじゃなくって、初めて見たクロウカードだったし、だから、その! 感動して!! ………………か、可愛いなとは、思ったけど……」
最後でちらっと本音が漏れる。すると我が意を得たりと言わんばかりに姉さんとケロ吉が食いついてきた。
「やっぱり!」
「ほっほ~う!」
「ケロ吉! 姉さん! だから、違うってば!!」
ううう……! 何だか変な誤解をされてしまった。いや、
「一番可愛いのは姉さんだから!! ……!?」
言った途端、何故か背筋がぞわぞわっとした。まるで冷水を浴びせられたような感覚だ。まさか本当に風邪でもひいたかとビビった俺だったが、どうも長年の付き合いであるそれとは違う。もっとこう……。
「あれ? なんだか、
「あ、これ怒っとるな。せっかく褒められたのに梅倖がいらんこと言うから」
「怒った? カードが?」
「せや。言うたやろ? カードにはそれぞれ意志が宿ってるって」
ケロ吉の言葉に改めて
「ごめんな、
言っていたら段々と恥ずかしくなってきた。最後の方は俯いてもごもご言うような形になってしまい情けない限りだが、俺が話しかけると段々と睨まれている感覚が薄れていく。その事にほっとして息を吐くと、ケロ吉は珍しいものでも見たようにクロウカードを眺めた。
「攻撃魔法で気が荒い奴さかい、可愛いなんて言われる事めったに無いから嬉しかったんやろな。それだけに、違う言われて怒ったんやろ。多分封印されてなかったら、今頃ずぶ濡れになってぶっとばされとるで梅倖」
「お、おう……。そうなのか……」
やだ
「それにしても、怒るっちゅうことはそんだけ興味持たれたゆうことや。無関心じゃそうはいかん。梅倖の魔力はさくらと似た感じやからな。新たな主人とそっくりな魔力の持ち主として、ひょっとしたらカードたちも興味を持っとるのかもしれん。よかったなー」
「よかった……のか?」
「いいんじゃないかな? 梅くんならきっと、カードさん達ともお友達になれるよ!」
「そうだねいいことだよね! 俺カードさん達とお友達になる!」
「切り替え速いやっちゃな」
ケロ吉に呆れられるが、知らん。あああそれにしてもカードにさん付けする姉さん可愛い!
そして俺が姉さんに横からくっつきながら「姉さん共々、お前らこれからよろしくなー」と言うと、なんとなく……なんとなくだけど、カードたちからも「よろしく」と言われた気がした。すると何故か無性に心の奥が温かいというか、むずむずするような感覚を覚える。変な感じだけど、嫌じゃない。
そしてくっついてもたれかかってきた俺の髪を手で梳きながら、姉さんが何とはなしに言った。
「……あのね、ちょっと思うんだ。梅くんは小さい頃から書斎が好きだったでしょ? 特に小さい頃はず~っと入り浸ってて、お父さんよりあそこに居る時間が長かったの。だから、気づかなくても……梅くんはこの家の中で、一番カードさん達の近くに居たんだよ。ケロちゃんは寝てたけど、クロウカードのみんなは本の中から梅くんを見ていたのかもしれない。だからきっと、小さい頃から見てた梅くんと仲良くなりたいんだよ」
「そ、そうかな?」
「うん! わたしの魔力と似てるからって以上に、そうなんだとわたしは思うよ。だってなんとなくだけど、梅くんに見られてるカードさん達嬉しそうだもん」
…………。どうしよう、照れる。でも凄く嬉しい。
「仲良く、か。……うん」
俺はまだ魔法を使えない。
けど、こいつらと仲良くなれるんなら……今はそれだけで十分かもな。
が。
「前言撤回だぁぁ!! うわーんチクショー! また一から全部やり直しだぁぁぁぁ!!」
「その気持ちようわかるで梅! わ、わいの努力が水の泡やぁぁぁ!!」
「ほえええぇ! せ、せっかく終わったのにぃぃー!」
「まあまあ、わたくしもお手伝いいたしますから」
悲鳴を上げる俺とケロ吉と姉さん。そして女神みたいなこと言ってくれる大道寺。
俺達がどうして嘆いているかと言えば、さっき終わったばかりの家事がクロウカードのせいで全部振り出しに戻ったどころか、家具はひっくりかえるわ書斎の床は水浸しだわの大惨事になってしまったからだ。
日曜日、姉さんは大道寺と俺とケロ吉とで森林公園にピクニックに行く予定だった。ちなみに親父は学会、兄貴はバイト。
しかし先週姉さんはクラスメイトの佐々木利佳のピアノの発表会に行くために兄貴に家事当番を変わってもらっていた。その代替えが今日だったわけだ。
家事分担が書かれたホワイトボードを見れば、確かにそう記されている。やべっ、俺よく見てなかった……!
掃除の他に洗濯物も連日の雨で溜まっていたため、ピクニックから帰って来てからそれを終わらせるのは不可能。姉さんは泣く泣くピクニックを諦めた……が! まさかそんな姉さんを放っておく俺ではない! ようは二人でやって終わらせてしまってからピクニックに行けばいいのだ!
そこでケロ吉も戦力に加えて家の掃除や服の洗濯が始まったのだが……姉さんが掃除の途中で二枚もクロウカードを見つけたんだ。しかもカードのままの状態で。
だけど見つけた後、名前を書かなかったのが悪かった。ケロ吉いわく、クロウカードは封印した後カードの状態で所有者が名前を書かないと完全に封印したことにならないらしいのだ。そのうえ見つかったカードは「
家が壊れなかっただけマシだと言えるが、俺達の気力ポイントは瀕死だ。ツライ。悪気があったわけじゃないにしても、ちょっと怒りたくなってしまうのも仕方がないと思う。
だけどピクニック用に用意してくれただろうサンドイッチと、森林公園での撮影に使う予定だったからと姉さんのコスチュームを持ってきてくれた大道寺大先生に大分心が救われた。しかも家事が早く終わるように手伝うつもりで来てくれたとか、聖母か。
彼女としては思いがけずいい映像がとれたからと満足してたけど、それにしたってデカい恩だ。
サンドイッチ美味しいし、姉さんは可愛いし、片づけまで手伝ってくれたし、姉さん可愛いし! 大道寺大先生様様である。
というか、大道寺大先生料理も上手だな! サンドイッチ最高に美味しい。疲れてたからってのを抜きにしてもスゲー美味い。なんだか今日の努力が報われるようだ。
そして全ての片づけが終わると、俺は「そうだ!」と思いついて、慌てて階段を駆け上がって自分の部屋に向かった。そしてあるものをひっつかむと、それを持ってリビングに戻る。
「今日はサンキューな、大道寺! サンドイッチスゲー美味かった! だからさ、これやるよ。お礼!」
「まあ、そんな。気を使わないでくださいな。わたくしが好きでやったことですから」
「いいから。ほら」
遠慮する大道寺に持ってきたそれを握らせる。
「……これは?」
「この間の社会科見学の時、俺のグループは博物館に行ったんだけどさ。その時こっそりお土産買ってきてたんだ。姉さんとおそろいなんだぜ!」
俺が差し出したのはデフォルメされた恐竜(多分トリケラトプス)のマスコットがくっついたキーホルダー。可愛いし、姉さんが喜ぶかと思ってお土産に買ったんだ。そして大道寺にあげたのは、姉さんとおそろいにしたくて買った俺の分。でも凄く可愛い感じのキーホルダーだし、男の俺が持つより女の子が持ってた方が似合う。
「でも、これは梅倖くんのでしょう?」
「いいんだ、俺より大道寺の方が似合うよ。それに俺は他にも姉さんとおそろいの物持ってるから」
手のひらを広げて両手で大事そうにキーホルダーを持つ大道寺が、気遣うように見てくる。だけど俺が再度お礼だから受け取ってほしいと言うと、嬉しそうに微笑んでその手に納めてくれた。
「……ありがとうございます、梅倖くん。大事にしますね」
「ほっほう、梅! お前どさくさに紛れて女の子にプレゼントやなんて、やるやないか! こりゃあ将来すけこましになるで~」
「ばっ! け、ケロ吉! 変な事言うなよ! お、お礼だって言ってるだろ!?」
「照れんでええ、照れんでええ」
「だからちが~う!」
+++++++++
バタバタとケルベロスを追い回す梅倖を見ながら、桜は呆れたようにため息をついた。
「ごめんね、知世ちゃん。騒がしくて。もうっ、梅くんったらあんなに走ったら絶対後で疲れてつぶれるのに。それにケロちゃんもケロちゃんだよ」
「ふふっ、ケロちゃんと梅倖くんは仲がよろしいんですわね」
「う~ん、いいはいいんだけどね……。あ、そうだ! 知世ちゃん、わたしからも手伝ってくれたお礼! よかったらおやつ一緒に食べて行かない?」
「いいんですか?」
「もちろん! えへへっ、実はさっきお父さんに書類届けるために外出たんだけど、その時雪兎さんに会ったんだ! そしてそして、パフェおごってもらっちゃったの。あ、これケロちゃんには内緒ね?」
「まあ! よかったですわね、さくらちゃん!」
「うん! お父さんに感謝だよ~。……えっと、だからね。わたしの分のおやつ知世ちゃんにあげる! アイスがあるんだ~。知世ちゃんのサンドイッチも食べたからお腹一杯だし、遠慮しないでね」
「ふふっ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきますね」
「じゃあ、そうと決まれば……。二人とも、ストップスト~ップ! せっかくお掃除終わったのに、また埃がたっちゃうよ! おやつにするからおとなしくしなさい!」
「「はい!」」
桜の鶴の一声で、追いかけっこをしていた梅倖とケルベロスはぴたっと停止する。一人は愛する姉のため、一人(一匹)はおやつに釣られて。
それを見た桜と知世は、顔を見合わせてクスクスと笑うのだった。
その後一緒におやつを食べ、知世は疲れて眠ってしまった双子を見届けると、起こさないようにそっと木之本家をあとにした。そして帰宅後。自室の大スクリーンに映し出された双子が寄り添って眠る姿を見て、うっとりと感嘆のため息を漏らす。
「はあぁ~。もうっ、さくらちゃんも梅倖くんも、超絶可愛いですわ~!」
映像を記録したビデオカメラ。隣にはそれを持ち運ぶためのケースが置いてあったが、そこにはさっそく梅倖からもらった桜とおそろいのキーホルダーがつけられていた。
そして今日の映像を巻き戻して最初から見直しながら、ご満悦な知世の日曜日の夜は更けてゆく。
そんなあるドタバタ日曜日の一コマ。
「可愛いですわ~」