現在俺は、筋肉痛によってうめいている。何故かと言えば、
数日前、通学路の途中に新しい雑貨屋が出来た。姉さんはそこの店長の真樹さんと仲良くなって、他の女子と一緒になかなか片付かないお店の掃除や商品の陳列を手伝ったりしたのである。優しい姉さん優しい可愛い。二回言っても足りなく感じる姉さんの優しさ、プライスレス。
俺は丁度男友達と約束があったのと、流石に女子ばかりで可愛い雑貨屋に行く中に入るのは気まずいので行かなかったんだけどな。それをケロ吉が知ると「なんや、いつもさくらにべったりかと思っとったけど、学校ではそうでもないんやな」と失礼なことを言ってきたのが腹立つ。
そりゃあ俺は姉さんが大好きだし、出来るだけ一緒に居たいな~とは思っているさ。でも俺にだって友達とのつきあいがあるし、男同士でしか盛り上がれないこともある。それはきっと姉さんだって一緒だと思うから、そこの線引きはしっかりしているのだ。
気遣いが出来るのもいい男の条件だしな! ……けして。けして、前女子に「え~、でも梅倖くんだったら私たちの中に混じってても違和感無いよー」と言われたのがショックだったわけじゃないからな!!
相手に悪気が無いのは分かってるけどさ……。もっと体鍛えよう……。
で、その店にはクロウカードがあったのだ。姉さんのフラグ力が相変わらず凄い。
真樹さんのお店「TWIN BELL」は以前他の町で営業していたのだが、不穏な噂が広がって客足が遠のいてしまったらしい。そのため今回、友枝町に引っ越してきたんだとか。
噂の中身は「あの店で買い物すると、泥棒に入られる」というもので、実際にクラスメイトの三原千春が被害に遭った。……店で買ったパンダのぬいぐるみが居なくなったのだ。しかもそのパンダのぬいぐるみ、店に戻っていたというのだから真樹さんの気持ちを考えるとやりきれない。きっと色々疑われたりしたんだろうな……。
でもって事の真相はそのぬいぐるみに憑依した
しかもあの野郎……最後にはぬいぐるみを集めて巨大化する始末。スライムキングじゃねーんだからお前、とは思ったけど、実際目にすればツッコミどころじゃない大きさだった。大きさとはパワーなのである。
ただでさえ店の中を飛び回る
けど潰されそうになった俺を見て、姉さんが
そしてそんな姉さんによって片足をあげていた
ああ……そこで終われば、めでたしめでたしだったよ……。
俺達に待っていたのは、散らばった大量のぬいぐるみをお店に戻す作業。筋肉痛の主な原因はこれだ。
俺達が店の中で
このままではケロ吉と同格、また役に立たないままで終わってしまうと焦った俺は、とにかくぬいぐるみを運んだ。お店のカートも借りて背中にもぬいぐるみをくくりつけ、運んで運んで、運びまくった。
その結果は分かっていたけどはい筋肉痛。
ちっくしょう
…………とまあ、そんな事があったわけで。
「兄貴、筋トレ教えて!」
「嫌だ。無茶すんな」
「断るのと気遣いが早いよ!」
ばーんと扉をあけ放ち決意も硬く叫んだ俺に、兄貴の対応は甘じょっぱかった。
「筋トレって、お前なぁ……。昔より丈夫になったっつっても、今やる運動は水泳で十分だろ。言いたかないが、無理しすぎても体壊すだけだ」
「じゃあさじゃあさ、俺が出来る範囲の奴でいいから教えてよー」
「じゃあストレッチを教えてやる。体にいいぞ」
「ヤダ! もっとこう、筋肉に訴えかける奴がいい!」
「あのな……。何したか知らんが、昨日まで筋肉痛で苦しがってた奴がそれ言うか? 死にそうな顔してたぞ」
「ううっ。で、でも俺、もっと強い男になりたいんだ!」
握り拳を作って、兄貴を見上げる。きっと決意が宿った俺の瞳はメラメラ燃えてるに違いない。
そんな俺の本気を感じ取ったのか、兄貴もまた真剣な瞳で見つめ返してきてくれる。おお、流石男兄弟! 俺の気持ちを分かってくれたか!
しかし、兄貴の真剣な表情は次の瞬間ニヤリと意地悪そうな笑顔に崩れる。
「じゃあ強い男になるために、栄養たっぷり取らないとな。今夜はピーマンの肉詰めにしてやるよ」
「ぅえ!? い、いや、そうでなくて! 俺は食べ物じゃなくて筋肉の話を……」
「それはまた今度な。中学までにもう少しゆっくり体作って体力ついたら、そしたら見てやる。もうちょっと我慢しろ」
「うー……」
くっそう……。兄貴がちゃんと俺の体を心配してくれてるのが分かるから、俺もこれ以上言えねぇや。
いや、でも! ぴ、ピーマンの肉詰めだけは……! ていうか、ピーマンだけは勘弁……! 嫌いなものがガキ臭すぎて、もうとっくに食べられるようになったって姉さんには嘘ついてるけど、我慢して食べてるけど……! 俺、今でもピーマンは……!
「喜べ。お前にだけサービスして一個多く作ってやる」
「あ、兄貴の意地悪ーーーーーー!!」
キャプターサポーターになってから、少し経つ。でも未だに活躍らしい活躍が出来ていない俺は、どうにか姉さんの役に立てないかと頭を悩ませていた。そしてそれを相談できる相手は一人しか居ない。
「う~ん、そうですわねぇ……。でも梅倖くんの存在は、さくらちゃんの心の支えになっていると思いますわよ?」
「それは大道寺の方だよ。俺はなんか、こう、後片付けとかしか出来てないし……。それと、主に足引っ張ってるし……」
「そうとも言い切れませんわ! この間、巨大なぬいぐるみから梅倖くんを助けたさくらちゃんは、王子様みたいに凛々しくて素敵でした。あの時のさくらちゃんは、確実にいつも以上の力を出せていたと思います。それはきっと、梅倖くんのおかげですもの!」
「それって俺が姫ポジションってことだよね!? 守る者がいると強くなる王道パターンだよね!? 俺は守られるんじゃなくて姉さんを助けたいんだよ!?」
瞳をキラキラさせてこの間の事を回想しているらしい大道寺を前に、俺は涙ながらに訴えた。すると「まあ、泣かないでください。よしよし」と頭を撫でられて慰められた。……あれ、俺って大道寺にどういうポジションで見られてるんだろう……? よくよく考えると落ち込みそうだから、やめておこう。
「で、でさ! やっぱりさ、魔法だと思うんだよ。ゲームとかの魔法使いって言えば、体力や防御力、物理攻撃力が低いのがお約束だろ? まさに俺だ。だけどその分魔法でドカーンと敵をやっつけたり、味方を回復するのも魔法使い! やっぱり俺は魔法を覚えるべきなんだよ!」
「う~ん、結局そこに落ち着くわけなのですね。でも魔法を覚えるためにはどうすればいいか、何かヒントはつかめましたか?」
「……無い」
「振出しに戻ってしまいましたわねぇ……」
熱く語ってみたものの、やっぱりそこでつっかかる。
「お役に立てなくてごめんなさい、梅倖くん。せっかく相談してくれましたのに」
「いや、そんなことないよ。ありがとうな、大道寺。話聞いてもらっただけでも助かったよ。自分だけで悩んでてもモヤモヤするだけだからさ」
「そうですか? 少しでもお役に立てたのなら嬉しいですわ」
にっこり笑う大道寺は、やっぱり大人だなぁ……。俺もあれくらい落ち着きが欲しい。そしたらまた一歩、かっこいい男に近づけるのに。
しかしそうとなれば!
「じゃあ今俺に出来るのは、姉さんを助ける大道寺大先生の手伝いですね! 今日も裁縫のご指導よろしくお願いします!」
「! おまかせあれ、ですわ! さあ、梅倖くん。糸と針の準備は十分でして?」
「もちろん!」
相変わらず俺がクロウカード捕獲に役立てる目途はつかない。
しかし放課後大道寺家のお屋敷に時々お邪魔するようになった俺は、着実に裁縫の腕だけは上がっていた。
うめゆき は レベル が あがった !
木之本家での裁縫の腕はすでに一番。裾上げやボタン付けなどなんでもござれ。