キャプターサポーターうめゆき   作:丸焼きどらごん

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六話 うめゆき、お化けに立ち向かうの巻

 鬱蒼と茂る……とは言いすぎかもしれないが、薄暗い森の中。

 鳥の鳴き声さえも不気味に聞こえるその中を、俺達は進んでいた。

 

「ね、ねえ。やっぱりやめない……?」

 

 怖がる姉さんの声を聴くなり、俺はどんっと胸を叩いて、出来るだけ明るい声で自信満々に言った。

 

「だ、だだだだだだだ大丈夫だよ姉さん! お前らも安心しろよ! いざってときはお、俺がまとめて守ってやるからさ!」

「わ~。梅倖くん、頼もしいねぇ。でも大丈夫? 顔真っ青だよ?」

「大丈夫ですわ。さくらちゃん、梅倖くん。まだ昼間ですもの」

「そうそう、お化けが出るのは夜っていうのがお約束だしね! 大丈夫大丈夫」

「ね! へーきだよ~」

 

 姉さん以外の女子全員から気遣われた&励まされた。お、お前ら……! 相手はお化けなんだぞ!? そんな呑気な心持で挑んで無事で済むと思っているのか! ま、まったく。もっと危機感を持ってもらいたいぜ。何がお化けを怒らせるかわからないし、本当は面白半分にこういうことしちゃいけないんだからな!

 

 

 

 

 現在俺と姉さん、大道寺、三原、佐々木、柳沢の五人は、学校近くの森の中を歩いている。

 

 なんでわざわざそんな場所に来ているのかと言えば、発端はおかっぱ眼鏡女子の柳沢奈緒子にある。なんでも柳沢はこの森で宙に浮かぶ光る球を目撃し、更にはそこから一つ目お化けが出てきたのを見たというのだ。そしてそれを面白がった三原が姉さんや佐々木も誘って、その未確認物体が本当に出るか確かめに来たのである。俺はそれを聞いて、姉さんの付き添いとして立候補したのだ。

 兄貴が昔から怖い話を聞かせたせいで、お化けが大の苦手となってしまった姉さんが心配だったからな! お、俺はもちろん平気だ。お化けなんて警戒はしても怖くない。

 

 だから、いざという時は!

 

「お化けが出ても、俺がやっつけてやる!」

 

 心配するな! お正月に買ってもらったお守りと図書館で借りた陰陽師入門の本は用意してきた!

 しかし声が震えないように気合を込めて言ったというのに、何故か向けられる視線がどれも生ぬるい。な、なんだよ。俺じゃ頼りないってか!?

 

「基本的に、梅倖くんもお化けの存在自体は信じてるんだねー」

「おいそこ柳沢! お、お前がお化け見たって言ったんだろ!」

「うん、そうなんだけど。でも、みんなこれくらいの年齢になるとまず「そんなの居るはずない」って言うんだよ~。低学年の時は、結構信じてくれたんだけど。だからこんなにすぐに信じてもらえると、嬉しいというか面白いというか。ふふふっ。梅倖くんて見てると楽しいよね~」

「や、柳沢。お前なぁ……」

 

 柳沢はおっとりしてるというか、つかみどころがないというか……。なんかこう、気が抜ける。せっかく気合いを入れてきたっていうのに、まったく。

 

 しかしそんな風に話しながら歩いていると、ふいに話題が三原のお母さんの誕生日プレゼントへと移り変わった。そして「何がいいと思う?」と話題を振られて、ちょっと困っている姉さんを見て思う。……やっぱり母さんがいなくて、寂しいのかなって。

 姉さんは小さかったから母さんの事はよく覚えてないって言うけれど、母さんが大好きだったって事は間違いない。そんな姉さんが母さんの死を一番悲しむ時期を、俺が奪ってしまったのだ。泣いて、死にかけて、心配かけて、甘えて。

 きっと姉さんは家族がまた一人減ってしまうかもしれないと、俺が風邪で死にかけた当時もの凄く怖かったんじゃないかと思う。そんな姉さんに甘えた自分を思うと、恥ずかしくてしょうがない。だから母さんの事を思い出すと、俺は寂しいとか、悲しい以上に姉さんに対して申し訳ないという気持ちの方が勝るんだ。

 

 そういえば、もうすぐ俺たちの母さん……撫子さんも、誕生日だ。

 いつも親父が飾っている母さんのモデル時代の写真。今度、姉さんと一緒にそこへお供えするプレゼントを考えよう。そして、母さんにも誓うんだ。小さい頃に心配かけて甘えた分、強い男になって、姉さんを助けるんだって。

 

 

 

 と、ちょっと俺までセンチメンタルな気分になっていた時だった。柳沢の案内でどんどんと森の奥へと進んでいった俺たちだったのだが、ついに森の最奥にある崖のような場所まで来た。以前は柵があったであろう場所は今は壊れてしまっていて、そのまま進めば下の道路へ真っ逆さまだ。

 ……思ったより危ないな、ここ。俺達くらいの学年なら気を付ければ平気だけど、低学年の子が遊びに来て誤って落ちたら大変だし今度先生に相談してみようかな。小さい子がこんな奥まで来るとは思わないけど、学校の近くだし念のため。

 

「ほえええぇぇぇぇぇぇーーーー!!」

「!?」

 

 考え事をしておる俺の意識を引き戻したのは、姉さんの叫び声だった。何事かと振り返れば、なんとそこには柳沢が話していた空飛ぶ光る球が!!

 ビックリしすぎて、思わず俺まで叫んでしまった。

 

「ふわああぁぁぁぁーーーー!! で、でたー! い、いいいいいいや、俺に任せりょ! り、りりりりり臨兵闘者かひひんへつひゃいへ」

「言えてないよ梅倖くん! に、逃げよう!?」

「きゃあああああああ!」

 

 俺が勇ましくも覚えたばっかりの九字を切ろうとするも、言い切る前に三原に腕を引かれてみんなと一緒に逃げ出す羽目になってしまった。

 しかし逃げる直前、俺には光の球があるものに変化したのが見えたのである。そこに見えたのは、信じがたいもので……。

 

 俺達は森の入り口付近まで逃げた後、口々に今見たものを報告しあった。

 

「か、髪の長い女の人が!」

「もやもやして、とんがった耳の!」

「目が一つでぐるぐる!」

「ピンクで口が裂けて牙が!」

「大きな肉まん……」

「ほえ?」

「「「え?」」」

「マッチョな俺が……」

「ほええ!?」

「「「え!?」」」

 

 抱き合い震えていた姉さんたちが、俺と女子の中でも一人泰然としていた大道寺の発言にキョトンとする。しかし俺は大道寺の肉まん発言も気になりつつ、たった今見たものを話したくてしょうがなくて、走った事であがった息も気にならないくらい早口でまくし立てた。

 

「だから、マッチョな俺が見えたんだよ! 体長はおそらく2メートル越えで、健康的に日焼けして褐色になった肌をした、盛り上がる分厚い胸板に六つに割れた腹筋で、脚も腕も丸太みたいでさ!! 肉体美を余すことなく海パンいっちょで晒しだす凄く強そうな俺の理想の俺が見えたんだ!! な、なあ。このお化けって、もしかして未来を見せてくれるとかそういう感じの能力を持ってる可能性は……」

「やめて! 梅倖くんの顔がそんなボディービルダーみたいな体にくっついてる姿は想像したくないよ!?」

「う、うん。凄くワクワクした顔しているとこ悪いんだけど、千春ちゃんの言う通りあんまり想像したくないというか、むしろお化けに悪い夢でも見せられたんじゃ、というか……」

「え~。でもちょっと見てみたかったかも。マッチョな梅倖くん」

「奈緒子ちゃん!?」

 

 何故だか三原と佐々木に心配され、俺に賛同してくれようとした柳沢まで心配された。え、何で!?

 

 俺は姉さんや大道寺ならもっと興味を持ってくれるかと思って期待して二人を見た。すると姉さんは「大きな肉まん……マッチョな梅くん……長い髪の女の人……ほええええ!?」と、入ってきた情報が混雑して再び混乱の渦に陥っており、大道寺には両肩を掴まれて今までにないくらいの真剣な表情で「梅倖くん。男の子ですし、強い肉体に憧れるお気持ちは分かりますわ。ですが、その方にはその方に見合った最適な肉体美があるのです。梅倖くんが目指すべき目標は、もっと別の形であるとわたくし思いますの」と言われた。真剣過ぎて思わずコクコクと何回も首を縦に振って頷いてしまった。え、何が大先生をここまで真剣にさせたの!?

 

 こうなってはもう何が何やら分からなくなり、結局俺たちはモヤモヤした気分を抱えたまま帰宅することになった。

 何つーか、俺もその場の妙な空気に一役買ってしまった感があるので俺が言えた事ではないのかもしれないが、グダグダここに極まれりって感じだったな。

 

 

 

 なんか。スマン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の夜。俺達は再び例の森に居た。今度はケロ吉も一緒だ。

 ちなみに兄貴はバイトで親父は出張なので、今回家を出てくるのは実に楽だった。

 

 何故ここに居るかといえば、お化けの正体を本格的に突き止めるためだ。

 帰宅後、夜になって大道寺から電話がかかってきたのだが、なんでも三原が果敢にも今度は別の部員と同じ場所に行ったらしいのだ。で、そこでまた例のお化けが出たと。意外と見境なく出てるっぽいな、あのお化け。

 そしてお化けに驚いたことで転び、怪我人が出たと聞くと、姉さんは怖いはずなのにクロウカードが幽霊の正体だったら捕まえなければと勇気を振り絞って森に行く事を決めたのである。涙目なのに頑張る姉さんかっこいい優しい。そして、そしてぇぇぇぇ!!

 

「大道寺大先生! やっぱりあなた天才だ!」

「ふふっ。お褒め頂き嬉しいですわ」

 

 今回もいつものごとく姉さんの衣装を用意してくれた大道寺大先生。しかし、しかぁしッッッ!! いつも可愛いのはもちろんなんだが、今回はまた一味も二味も違う! だって、だって……うさ耳が姉さんの頭にくっついてるんだぞ!? ぴょこんとくっついた長い耳がもうこれどうすればいいんだってレベルで可愛すぎて! あああ姉さん可愛い! それにそれに、お尻にくっついた丸いウサ尻尾とか! もう! 大道寺大先生!! あなたって人は! 俺が手伝ってない分もこんな素晴らしい衣装を用意してたなんて!! この人本当に分かってる! 姉さんの魅力を分かってる! うさ耳姉さん可愛い!!

 しかも俺用に用意してくれた分が、夜も寒くないようにと配慮してくれたのかもこもこのウサ肉球手袋と、姉さんとおそろいの配色でありながら温かい素材のフード付きパーカーとかな。俺のにもしっかりウサ耳がくっついてるのとか、ちょっと男には可愛すぎるデザインの手袋とか、気になる所がないわけではないが俺も姉さんとおそろいならもう慣れたものだ。むしろ大先生のお気遣いに尊敬の念しかわかない。何だこの服超温かい。

 

 

 

 

 

 しかしこの時姉さんの可愛さに浮かれに浮かれていた俺は、この後ざっと肝を冷やすことになる。

 

 

 

 

 

 

「さくらぁ!!」

「さくらちゃん危ない! そっち崖ですわ!」

「姉さん!!」

 

 叫ぶ俺たちの目の前で、姉さんが光に向かってふらふらと歩いていく。その先には大道寺が叫んでいるように道はなく、あるのは崖。

 

 先ほど崖に行くまでもなく森の入り口で現れた光を追って姉さんが(フライ)を使って先行したのだが、それが良くなかった。俺達が追い付いた頃には、姉さんは夢の中を歩くようにおぼつかない足取りで光の球がある方向……崖へと歩を進めていたのである。

 俺には相変わらず光の中に見えるのは身長2メートルの褐色マッチョな俺なので、そいつが手を広げて姉さんを崖に招き入れているように見える。なんてことだ、理想の俺が大事な姉さんになんてことを!!

 

 当然、俺達は姉さんを止めようとした。しかし何かバリアのようなものに阻まれる形で、まずケロ吉がそれにぶっ飛ばされた。続いて俺。何か強烈な力に押し返され、踏みとどまれず尻もちをついてしまった。……けど、一度跳ね返されたくらいでへこたれるもんか! クソッ、マッチョな俺め! 姉さんを崖から落とそうとしてる上にケロ吉にまでなんてことを! あいつ小さいんだぞ! あんな風にぶっ飛ばされたら、怪我するだろうが!! 絶対許さないからな! お前の思い通りになんか、させるもんか!

 

「姉さん! 姉さん姉さん姉さん!!」

 

 もう一度不可視のバリアにつっこむ。今度も物凄い抵抗を覚えたが、ずっと姉さんの名前を読んでいると次第にそれが弱くなっていく。これなら行ける!

 

 しかし俺がバリアを抜けて姉さんのもとに走った時……すでに姉さんの足は地面を離れ、宙の上にあった。それを見て一気に血の気が下がる。

 俺は飛び込むようにして、姉さんの手を両手でつかんだ。しかし非力な俺の足腰の力と腕力では踏ん張ることも引っ張る事もままならず、逆に姉さんが落下する力に引っ張られて俺の体もまた、崖の上に放り出された。

 

 

 ああ、こんなのってあんまりだ。

 

 

「さくらちゃん! 梅倖くん!!」

 

 大道寺の悲鳴が遠くで聞こえたが、当然俺に答える余裕は無かった。落ちる姉さんと迫ってくる道路のアスファルトで頭の中が真っ白になって、妙に落下速度がゆっくりに感じるくせに体が動かない。

 

 どうしようどうしようどうしよう! 姉さんが、死んじゃう!!

 

 ぶわっと涙があふれる。

 しかし、そんな時だった。……温かい何かに、手を掴まれたのだ。

 

『大丈夫よ』

「え……」

 

 優しく掴まれた腕を辿って視線を上げた先に見えたのは、マッチョな俺じゃなかった。そこに居たのは、写真でしか見たことが無かった美しい人。

 

「母……さん……?」

 

「! さくらちゃん! 梅倖くん!」

 

 それは一瞬の出来事。泡沫のように消えてしまったその光景の後、下から聞こえた月城さんの声。

 その記憶を最後に俺もまた……姉さんと一緒に意識を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 

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