キャプターサポーターうめゆき   作:丸焼きどらごん

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八話 うめゆき、香港からの転校生に出会うの巻

 (イリュージョン)の件が終わった後、改めて強くてかっこいい男になるぞと決意した俺。

 

 しかしその意気込みとは裏腹に、最近どうも体調を崩しやすい。どうやらこの間引いた風邪が原因で、治りかけてはまた別の風邪菌に、治りかけてはまた別の風邪菌にという具合に俺の体の中で嫌な風邪菌マラソンだか風邪リレーが開催されているらしい。人様の体で運動会してんじゃねーぞ風邪菌共が!!

 出来たら長距離でなく短距離でスパッと終わってくんねぇかな……。それのせいで楽しみにしていた美術館での写生会にも出られなかった。美術部の俺の活躍しどころが減ってしまい、大変遺憾である。悔しい。

 

 代わりと言ってはなんだが、風邪で休んでいる間ケロ吉をいろんな角度から描いてやった。この贅沢なぬいぐるみは練習とはいえせっかく姉さんが描いてくれた自分の姿が気に入らなかったらしく、姉さんの絵を赤ペンで上書きするという暴挙に出やがったので、最初の数枚はかなり遊んでやったけどな。たこ焼きの具になってるケロ吉の図とか、下から見た不細工アングルなケロ吉とか、金髪縦ロールのかつらをかぶせてリボンとふりふりフリルとレースたっぷりのドレスを着せられたケロ吉とか。「無駄に上手いのが腹立つわ!」と怒っていたけど、姉さんが一生懸命書いた絵にらくがきしたケロ吉が悪い。しかるべき罰である。

 

 ま、その後で世界の文化遺産背景(親父の書斎にあった写真集を見ながら描いた)付きでかっこよく描いてやったら機嫌直したけどな。相変わらず単純な奴。

 

 

 

 

 

 そういえば写生会があった美術館にもクロウカードがあったらしい。もう普段行かない場所に姉さんが行ったら絶対クロウカードが居るくらいの認識で良いんじゃないだろうか。

 

 俺は風邪をひいていたので参加できなかったのだが、大道寺大先生がばっちりクロウカード封印の様子を撮影しておいてくれたので姉さんの活躍を見る事が出来た。大道寺大先生様様である。

 今回美術館に身を潜めていたカードは「(サイレント)」。うるさいのがとにかく嫌いらしく、音を消す能力の他に大きな音を立てた者を外に追い出すという芸当も出来るんだとか。その能力のせいで、姉さんたちは何度も美術館の外に追い出されては入って……を繰り返したらしい。しかも今回は小さなお客さんが現場に居たおかげで、大っぴらに封印することも出来ず苦労したようだ。

 その小さなお客さんというのは橘優希ちゃんという子で、どうも画家である彼女のお父さんが亡くなる前の最後の家族旅行で描いた絵に(サイレント)が住み着いていたらしく、本来優希ちゃんが描いてあった場所に(サイレント)の姿が重なっていたのだという。優希ちゃんは「お父さんの絵に誰かがらくがきしたんだ」と怒り、それを剥がして修正するために姉さんたちと同じく夜の美術館に忍び込んだらしい。その気持ちは分からなくは無いけど、低学年だっていうのに行動力が凄いな……。

 

 けど、行動力と言えば大道寺大先生だ。

 

 夜の美術館に忍び込むために警備員の見回り表まで手に入れられるとか、大道寺大先生のアグレッシブさが相変わらず突き抜けている。え、どうやって手に入れたの? 普通に頼んでもくれるようなものじゃないよな? 警備員室に忍び込んで写してきたとか? え、なにその一人ミッションインポッシブル。大道寺大先生すげぇ。

 …………。でも、あれ、おかしい。彼女は姉さんの親友だけど姉さんと俺は双子なわけでつまり大道寺大先生は俺の同級生でもあるわけでだから小学四年生…………あれ? え、おかしくないか。今さらではあるけど、大先生が頼もしすぎて同級生という言葉の意味を見失いそうになるんだが。無意識かつ自然と尊敬してしまう同級生ってなかなか居ないと思う。大道寺大先生すげぇ。

 

 

 しかしキャプターサポーターうめゆきというケロ吉がつけた適当極まりない役職名ではあるが、このままではキャプターサポーターの名折れ……! くっ、早く風邪を治して俺も何か姉さんの役に立ちたい!

 

 

 

 でも、それはそれとして。

 

 

 

(サイレント)のカードを(シャドウ)を使って封印するとか姉さん賢いかっこいい!」

「せやろ、せやろ。これはワイも感心したで~」

「う、梅くん。そろそろ終わりにしない? もう十回目だよ?」

「ええ!? も、もう一回。もう一回だけ! 大道寺もいいだろ?」

「もちろんですわ! ふふっ、さくらちゃんの勇姿を目に焼き付けたいそのお気持ち、よく分かりますもの」

「ありがとう!」

 

 大道寺が撮影してくれたビデオを喜々として巻き戻し、もう一回最初から再生する俺。

 今回は音を立ててはいけない条件やら優希ちゃんの件やらであまり長くは撮影できなかったようだから、撮影された映像自体は短い。しかし暗い中で撮ったにも関わらず美しく撮影されている様子に、大道寺大先生の情熱が窺えた。姉さんは何度も見られるのが恥ずかしいようだけど、俺はもっと見たい。ああ、何度見ても凛々しく封印の決め台詞を言う姉さんかっこいいなぁ! 杖を使ったポーズも大道寺大先生監修というのだから恐れ入る。俺は今まで姉さん愛なら誰にも負けないと思っていたが、大道寺大先生の姉さん愛は認めざるを得ない。本当に姉さんの魅力を分かってて姉さんが大好きだな大道寺大先生! まあ認めはしても俺も負けてないけど!

 

 しかし興奮しながらビデオ鑑賞をしている途中で、はたと思い出す。そうだ忘れてた!

 

「そうそう、そういえばさ。休んでる間暇だったから、これ作ったんだ。見て見て~」

「暇って、お休みしてる時はちゃんと体を休めなきゃ駄目でしょ? ……って、これって」

「まあ、かわいらしいですわ!」

 

 お説教モードに入りかけた姉さんだったが、俺が手渡したそれを見てほやっと眉間の皺が和らいだ。

 

(ウインディ)に、(ウッド)に、(ウォーティ)。あとおまけで(ジャンプ)

 

 俺が取り出したのは、クロウカード達を模したぬいぐるみだ。ここ最近休むことが多かったから、コツコツ作っていたのである。デフォルメされてマスコットチックになったクロウカード達は、我ながらなかなかいい出来だと思う。手のひらサイズだから場所もそんなとらないしな!

 ケロ吉も感心したようにしげしげとぬいぐるみを眺めている。

 

「ほうほう、なんやゴソゴソ作ってるな~思てたらこれやったんか。特徴掴んでてなかなか上手いやないか。……(ジヤンプ)だけちょっとばかし適当やけど」

「いいんだよ、あいつはこれくらいで。でさ! 今はこれだけだけど、他のクロウカードのも作ってるんだ。(イリュージョン)とか(フライ)はどうしようか迷ってるんだけど……。あ、今回の(サイレント)もまた作るよ。姉さんこういうの好きだろ? 俺、大道寺のコスチューム作りには正直そんな役立ててないけど、色々教えてもらって手先は前より器用になったと思うんだ。だからいつも頑張ってる姉さんに、プレゼント!」

「梅くん……。ありがとう! 大事にするね」

「へへっ。よかった、喜んでくれて」

「喜ぶよ! だって、すっごく可愛いもん!」

 

 ああ、ぬいぐるみを抱きしめる姉さん可愛い。

 そして俺が作ったぬいぐるみを見て、我が師たる大道寺大先生にもお褒めの言葉を賜った。

 

「なかなかやりますわね、梅倖くん。とっても素敵だと思いますわ!」

「あ、ありがとう」

 

 大先生から褒められると、ちょっと照れるぜ。

 しかし大道寺は「でも」と続ける。

 

「役に立ててないなんて言わないでください。梅倖くんとさくらちゃんの可愛さについて話しながら衣装案を考える時間や、志同じくして一緒にひとつのものを完成させるために針と糸を手に取る時間が、わたくしとても好きなんです。それに梅倖くんのさくらちゃん愛からくる発想にはインスピレーションが刺激されますし、裁縫技術も日に日にレベルアップしています。だから梅倖くんが居てくれて、本当に助かっているんですよ?」

「だ、大道寺……! でも俺、最近風邪で休んでばっかりで、ほとんど手伝えてないのに……」

 

 そう。最近は学校に行くだけで精一杯で、放課後大先生のお手伝いに行けていないのだ。しかし大道寺は一冊のスケッチブックを取り出すと、それを手にニッコリ微笑んでくれた。

 

「でも、こうしてスケッチブックに描いたアイディアをたくさん見せてくれるじゃありませんか。わたくし、これを見るのいつも楽しみなんです」

「それを言うなら大道寺のだって絵上手いし、俺も見るの楽しみにしてるぜ!」

 

 大道寺に褒められたのが面はゆくて少し焦りながら、俺もスケッチブックを取り出す。しかしそこで姉さんから困惑したような声がかけられた。

 

「えっと、知世ちゃん、梅くん。それは?」

「え? 姉さんの衣装案だけど」

「ほえ!?」

「あ、そっか。これ出すのって、だいたい衣装づくりの時だもんな。姉さん知らなかったんだ」

 

 このスケッチブックは、以前大道寺と姉さんにはどんなコスチュームが似合うか盛り上がった時に「時々互いのアイディアを見せ合おう」という考えのもと発案された物だ。二冊あって、それぞれに思いついたコスチューム案などを描いて時々交換している。

 

「梅倖くんは絵がとてもお上手ですから、わたくしもいい刺激を頂いてるんですよ。いくつか採用して製作していますし」

「いやいや、俺の案を大道寺がブラッシュアップしてくれるからこそだよ。俺の発案だけだと、どうも野暮ったくて」

「いえいえ、そんなことありませんわ。梅倖くんの案は押さえるところを押さえていて、こう、ぐっときますもの!」

「そ、そうかな? そう言ってもらえると自信がつくぜ。サンキューな!」

 

 やはり姉さんと大道寺が親友になったこと、そして俺もまた彼女と出会えたことは天命であったか……! それくらい息が合うというか、俺の姉さん可愛いのパッションを理解してくれるというか……!

 俺は感極まって「これからもよろしくお願いします大先生!」と言って大道寺と固く握手した。そして二人で目を輝かせながら姉さんを見る。

 

「と、いうわけで! これからもバトルコスチュームもろもろ楽しみにしていてくださいね! さくらちゃん!」

「ああ、俺達に任せておいてくれ! これからも姉さんの魅力をよりいっそう、もっともっと輝かせてみせる!」

「う…………うん! あ、ありがとう! 知世ちゃん、梅くん」

 

 ああもう! ちょっと困ってる控えめ姉さんも可愛い! この謙虚さがあるから姉さんの可愛さはより引き立つんだよ! でもたまには自分の可愛さをもっとアピールしてもいいとも思うけど! 姉さん可愛い!

 

 

 

 

「あいつら一人でも凄い熱量やのに、二人そろうと二倍どころか二乗やな……。梅の奴は風邪ひいてるっちゅーに、元気な事や」

 

 

 その数分後。盛り上がる俺たちの声を聞きつけて部屋に顔を出した兄貴に、「お前風邪なんだからあんまはしゃぐな」と怒られた。

 ご、ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして姉さんが持つクロウカードが順調に増えていきつつ、なんだかんだでカードキャプター誕生から二か月経ったころ。

 香港から一人の転校生が、俺たちの学校にやってきた。

 

 後々思えば、その出会いが俺にとってひとつの転機だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、俺はまたもや風邪の野郎に邪魔されつつもなんとか学校には登校した。

 しかし今回の菌はなかなか強いようで、ホームルーム前に辛抱たまらなくなって保健室に行くことになってしまった。無念である。姉さんには心配かけちゃったな……。

 そして仕事中の親父に迷惑もかけたくなかったから、保険の先生にお願いしてそのまま家に帰らず保健室で休ませてもらうことにした俺。

 次に起きた時はぐっすり寝たのと薬のおかげでだいぶ楽になっていた。この分なら自力で歩いて帰れそうだな。よかった。

 

 そんな風に、気分良くベッドから体を起こした時だった。何気なく窓から外を見た俺の目に、許しがたい光景が映ったのである!

 

「姉さん!?」

 

 隣の星條高校との境目にあるフェンスの前。そこでなんと姉さんが、同い年くらいの男子生徒に掴みかかられてるではないか! 見たことないやつだが関係ない。同い年だろうが年下だろうが先輩だろうが、姉さんに無体を働く不届き者はこの木之本梅倖が成敗してくれる!

 

 そして俺は布団を取っ払うと、保健室の窓から飛び出したのであった。

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

 

 

 李小狼は大魔術師たるクロウ・リードの母方の親戚筋にあたる李家の人間である。数ヶ月前、この日本でクロウカードの封印が解かれた事を知り香港からクロウカードを手に入れるために来日したのだ。

 しかしいざ来てみれば、なんとクロウカードの守護者たるケルベロスに認められカードを集め封印しているのは魔術とはなんの関係もなさそうな一人の少女だった。

 小狼は少女……木之本桜を呼び出すと、残りのカードは自分が探すと言い彼女が持つカードを奪おうとした。しかし、その途中で邪魔が入る。

 

「「おいテメェ!」」

 

 突然横からぬっと出てきた足が小狼と木之本桜の間に割り込んだかと思うと、フェンスの網がガシャンっと大きな音を立てる。小狼は邪魔されたことにムッとしつつその突然の闖入者を見るが、くだんの相手……精一杯粋がっているのか、ポケットに両手を突っ込み片足でフェンスを蹴るような形で自分と木之本桜の間を遮るように立っていた相手の顔を見て少々驚く。何故なら相手は木之本桜とほとんど同じ顔をしていたからだ。着ている制服は男子生徒のものなので性別は違うだろうが、まず間違いなく木之本桜の兄弟だろう。そして先ほど小狼に向けられた声は二人分……すぐにもう一人の邪魔者が、今度はフェンスの向こう側からやってきた。

 

「人の妹になにしてやが……、」

 

 そう言いながらフェンスを飛び越えてきた高校生らしき男は、しかしすぐに言葉を切った。そして小狼もまた、言葉を発する機会を奪われる。

 

 

 

 

 

 何故なら、目の前の木之本桜似の少年がいきなりぶっ倒れたからだ。

 

 

 

 

 

「きゃああ! 梅くん、梅くんしっかりー!」

「おい梅倖! 馬鹿お前、こんな熱あるじゃねーか! なんで朝言わなかった!」

「桃矢ー! お待たせ……って、梅倖くんどうしたの!?」

「え……、は?」

「あれ、君も顔が赤いよ。大丈夫?」

「!!!!」

 

 事態を把握する前にまた更に新たな人間まで加わって、しかもその眼鏡をかけた高校生に熱があると思われ額に手を添えられる。するとほぼ無意識に眼鏡の彼に見惚れていた小狼の体温が一気に急上昇した。そうなると、その謎の発熱に困惑が押し寄せてくるばかり。

 

 

 結果、小狼は逃げ出した。眼鏡の青年に悪印象を残さないようにと咄嗟に判断したのか、ていのいい退場の口実を見つけながら。

 

 

「ほ、ほほほほほほほほ保健室に連れてってやる!」

 

 そう言うや否や、小狼は自分とは対照的に真っ青な顔でぶっ倒れた少年を持ち前の身体能力を生かして担ぎ上げ、脱兎のごとく駆け去ったのだ。そして呆然とそれを見送ってしまった桜もまた、それを追いかける。

 

「え? ちょ、ちょっと待って! 保健室の場所分かるの!? 私も行く!」

「おいガキ! 弟にまで何を……って早ぇ」

 

 すぐに高校生その1こと、木之本桃矢もその後を追いかけようとしたのだが……すでに少年少女の姿は校舎の中に消えていた。スタートダッシュの速さだけでこれだけ引き離すとなると、どちらともなかなか将来有望である。

 そして高校生その2こと月城雪兎は、手に肉まんの入った紙袋を抱えたまま目をパチクリさせた。しかしすぐに笑顔になると、自身の友人に声をかける。

 

「あの子、凄い力持ちだね。でも良かった。梅倖くんが倒れててどうしたのかと思ったけど、すぐに保健室連れていってもらえて。あ、そうだ。桃矢この後梅倖くんの様子見に行くよね? よかったらこの肉まんあの子たちにあげて。僕はまた新しいの買うよ」

「いや雪、あのガキは……、……はぁ」

「? どうしたの?」

「なんでもねぇ。気ぃ抜けた。ま、後で詳しく聞くか……」

 

 

 

 そう自身を納得させると、桃矢はとりあえず病気の弟を家に送るからと早退の旨を担任に伝えるべく高校の校舎へ戻るのだった。

 

 

 

 

 これが香港からの転校生、李小狼とカードキャプター さくら、そしてキャプターサポーターうめゆきとのファーストコンタクトである。

 

 

 

 

 

 

 

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