キャプターサポーターうめゆき   作:丸焼きどらごん

9 / 32
九話 うめゆき、初めてのライバルの巻

「「はぁ……」」

 

 ため息が二つシンクロする。俺と姉さんの口から吐き出されたそれは、現在非常に重い響きを伴っていた。

 俺と姉さんは今、二人そろって落ち込んでいる。原因は香港から来た李小狼とかいう小僧のせいだ。

 

「俺あいつ嫌い」

「わたし、ちょっと苦手……」

「苦手ですませてあげる姉さんは天使なの!? あんな酷いこと言われたのに!」

「で、でも一応アドバイスしてもらったし……わたしがクロウカードの事を良く知らないのも、本当の事だし……」

「それにしたって、あいつの態度は無いと思う」

 

 昨日、俺たちのクラスに転校してきたらしい李小狼。ケロ吉によればあいつはクロウカードを作ったクロウ・リードの親戚にあたる人間のようだが、だからといってあいつが姉さんから無理やりクロウカードを奪っていい理由にはならない。だって、姉さんが不慣れながら一生懸命集めたカードだぞ! 中には危険な目に遭った事だってあったんだ! それを横取りしようなんて、虫がいい話だぜ!

 ケロ吉だって姉さんが集めたクロウカードの主は姉さんだって言ってたし、カードたちもそれに賛同するような雰囲気を出していた。だからあれは、姉さんのもの。姉さんは李がクロウ・リードの親戚だと知った時「あの子に渡した方がよかったのかな?」と慌てていたけど、そんなことあるわけない。カードたちが認めたのは姉さんだ! あいつじゃない。

 

 しかし情けない事に昨日は突然の体調の悪化によって、カードを奪われそうになっていた姉さんを助けに入ったつもりがぶっ倒れ、よりにもよってにっくき李小狼に保健室に運ばれるという最悪の事態になってしまった。まさかあんな奴に借りを作ってしまうなんて!! ホンットに最悪だッッ!!

 

 でも、俺があいつを嫌いな理由はそれだけじゃない。姉さんに対する態度はもちろん気にくわないし許せないけど……それと同時に、嫌いな理由がもう一つ。

 

 あの野郎、俺のコンプレックスをことごとく刺激してくるのだ。

 

 

 

 

 

 

 昨日の放課後、姉さんと大道寺は帰宅途中で突然の落雷に襲われた。そして原因はクロウカードだったようで、その日の夜にカードを捕獲することになったのだ。

 

 

 俺は午前中に兄貴に家に連れ帰られて寝込んでいたのだが、夕方にはかなり体調がよくなっていた。自分でも連日の不調が嘘のように楽になり、不思議なほどの回復具合に首を傾げた。けどこれ幸いと、俺は姉さんにクロウカード捕獲に連れて行ってもらえるように頼み込んだ。

 当然姉さんには猛反対されたのだが、俺としても引けない。だって、クロウカードがあるならあの李小狼が同じものを狙ってやってくるかもしれないじゃないか! 姉さん一人じゃ危険だ! いや大道寺も居るだろうけど、でも女の子二人じゃ危険だ! こういう時に男の俺が頑張らないと。

 午前中に無様な姿をさらしたこともあって、俺は汚名返上、名誉挽回に燃えていた。

 

 そんなわけで、猛反対する姉さんに俺も猛烈に頼み込んだ。でもって最終手段として泣きわめきながら駄々をこねて姉さんの服を掴んで放さないという最高にかっこ悪い方法で同行する権利を勝ち取った俺。………………俺。

 ……ううっ。どんどん格好いい男からかけ離れていく。でもこうでもしないと姉さん絶対連れて行ってくれなさそうだったんだ。しょうがない。

 

 でも、俺の意地は今回物凄く悪い方向に作用してしまった。

 

 町中からクロウカードを誘導し、最終的に広い学校の校庭でクロウカード……(サンダー)を迎え撃つことになった姉さん。そしてそこには、案の定あの李小狼も現れた。

 

 

 

 そこで見せつけられた、李小狼の身体能力、魔法、クロウカードの知識。あいつの魔法なのか、緑色の中華服を纏った李が剣から電撃を放ち攻撃して、(サンダー)を雷そのものから雷獣の姿に変えた様は……間違いなく「戦う者」としての姿だった。

 

 体力で劣り、運動能力で劣り、魔法も使えず、クロウカードの事もよく知らない。そして俺はいつだって、誰かに「守られる者」にしかなれないのだと。李小狼とは何もかもが違うのだと。思い知らされた。

 

 俺は目の前の事実に打ちのめされ、李小狼に嫉妬した。

 

 

 

 そして俺は姉さんを助けるどころか、先走った行動をとった結果危うく(サンダー)が放つ電撃の餌食になりかけたんだ。そんな俺はこともあろうにまた李小狼に助けられ、思いっきり睨まれて「足手まとい」の太鼓判を押されたのである。屈辱極まりないが、事実だ。

 

 それにしてもあいつ本当にずけずけ言ってくる。言葉をオブラートに包むってことを知らねーのかよ!

 

 (サンダー)に手こずり李小狼のアドバイスによって(シャドウ)(サンダー)を捕縛した姉さんも、奴に「そんな事も知らないのか」「馬鹿。(ウインディ)じゃ(サンダー)に対抗できないぞ」「しっかし本当に何も知らないんだな」「お前のその程度の力でクロウカード集めは無理だ!」などと言われ、俺は「邪魔だ」「自分の能力や体調も省みれない奴がサポート? 無理に決まってるだろ」「甘い心構えでクロウカードに関わってくるな。迷惑だ!」などなど……。凄まじい勢いで言葉の連撃をくらった。

 俺が気にしてる事全部言われて、俺が欲しいと思ってるものあいつは全部持ってた。これが落ち込まずにいられようか。

 

 …………でも言い方ってもんが、あんだろうがよ!! 俺はともかく姉さんにまで馬鹿だのなんだの……! やっぱ俺あいつ嫌いだ!! 正論だとか事実だとか以前に大っ嫌いだ!! くっそぉぉぉぉ!!

 

 でも言われた事実に言い返せない自分と、あいつに二回も助けられた自分が一番許せない。何で俺は、こんなに弱いんだろう。情けなくて泣きそうだ。悔しくて悔しくてたまらない。

 

 

 

 本当は落ち込む姉さんを励まして、元気づけてあげたい。でも足手まといの俺に、何が言えるってんだ。ただでさえ姉さんの足を引っ張っているのに。……俺に何が言えて、何ができるって言うんだよ。

 

 

 

 

「はあ……」

 

 本日二度目の大きなため息。するとふいに、ぴりっとした空気を感じてそちらを見る。

 

「ん? って、わあああ!」

 

 そこに居たのは李小狼。同じクラスに転校してきたと知ってはいても、こうして教室の中で会うのは初めてだ。あ~、ビックリした。でも何でこいつこんな真横に立ってんだ?

 

「おい」

「……なんだよ」

 

 しかも話しかけてきた。何だよ、今俺はお前のせいで落ち込んでんだよ! ほっとけよ! 話しかけんな!

 

「あ、梅倖くん。そこの席、李くんの席になったんだよ」

「え?」

 

 突然横からにゅっと現れたダチの山崎が、俺が座っていた姉さんの真後ろの席を指して言う。この席は今まで誰の席でもなかったから、姉さんのすぐ近くだしホームルーム前や休み時間によく使わせてもらっていたが……確かに転校生が座るとなればこの席しかない。

 でも。

 

(納得いかねー!)

 

 何でよりにもよって姉さんの後ろの席なんだよ!! 姉さんを上手く慰められないけど、せめてそばには居たいっていう俺の健気な心まで踏みにじられるっていうのか!? いや席に関してはこいつのせいではないけど! でもムカツク!

 

「おい、そこは俺の席だ。どけ」

「…………」

「おい」

 

 納得できない心情のままに、俺は無視を決め込むことにした。我ながらガキっぽいが、今の俺にこいつを気遣ってやる余裕などない。そっぽを向いて知らんぷりである。

 そしたら李の奴が眉間に皺を寄せた。ふんっ、しかめっ面が多い奴! そんなツンツンした態度じゃ友達なんて出来ないぜ!

 

「う、梅くん。そこは李くんの席だから。ね? どかないと、李くん困っちゃうよ」

「! …………」

 

 うぐぅ……! 姉さんから言われると辛い。でも一回無視しただけに、なんかこう、今さら簡単に引けない。……けど姉さんのお願いを無視するなんてことも俺には出来ないし……困った。

 でも結局は姉さんが困った顔をしているので、俺は姉さんのためにどくことにした。これは姉さんのためであって、断じて李小狼のためではない。断じて李小狼のためではない。

 

 しかし俺はせめてもの抵抗として、席を立つ前に李を見上げてこう言った。

 

「バーカ」

「…………。フンッ」

「な!?」

 

 む、無視された……だと!? こ、この野郎せめて言い返すなりしろよ! 相手にされてない俺が馬鹿みたいじゃねーか!! ううう……悔しい悔しい悔しい! やっぱり嫌いだコイツ!!

 俺はぎりぎり歯を食いしばりながら、仕方がなく李に席を譲った。しかしずっと睨みつけている俺に対して李の態度は一貫して「鬱陶しい」と言うようなもので……本当に俺は相手にもされていないのだと分かってしまった。それがたまらなく腹立たしい。

 

「あれ、梅倖くんは昨日早退したから李くんとは初対面だよね? なのに喧嘩?」

「え、珍しいね。梅倖くんが誰かを嫌うのって。何かあった?」

 

 俺が悔しさに思わず地団太を踏みそうになっていると、再び山崎が現れた。その隣には三原も居る。

 

「別に! なんでもない!」

 

 俺はそれだけ答えると、肩を怒らせながら自分の席に戻った。くっそ、自分がガキ過ぎて腹立つ。心配してくれた山崎と三原にまで嫌な態度とっちまった。それもこれも、みんな李小狼のせいだ!!

 ……でも、助けられたのも事実だからどっかで借りは返さねーとなぁ……。ああ、嫌だ嫌だ。これがジレンマってやつかな。李小狼が嫌いだって気持ちと、その嫌いな奴に礼をしないといけないっていう感情の板挟みで気分が悪い。

 

 そんな風に俺がブスくれていると、俺の心境とは対照的な柔らかい声がかけられた。

 

「梅倖くん、大丈夫ですか?」

「大道寺……」

 

 俺を心配そうにのぞき込んでいたのは大道寺で、俺はばつの悪さに思わず目をそらした。こいつにもかっこ悪いところ見られたな……って、大道寺にはかっこ悪い所ばっか見られてるか、俺。昨日もぶっ倒れた後、姉さんと一緒に保健室で付き添っててくれたみたいだし。愚痴もたくさん聞いてもらってるし……。

 しかし俺のぎこちない態度を気にした風もなく、大道寺は優しい声色で話しかけてくれる。相変わらず大道寺は大人だ。

 

「今日の放課後、さくらちゃんと利桂ちゃんとで雑貨屋さんに行くんです。よければ梅倖くんも一緒に行きませんか?」

「え? いや、そういうのは女の子同士の方がいいだろ。俺は遠慮しとく」

「そうおっしゃらずに。とても可愛らしいお店で、さくらちゃんが好きそうな物もたくさんあるんですよ」

 

 大道寺の言葉にぴくっと耳が反応する。姉さんが好きそうなものがたくさん……。……そうか、大道寺は姉さんが元気ない事を気遣って、元気づけようとしてくれてるんだな。でもって姉さんが元気になれば俺も嬉しくて元気になるから、誘ってくれたって事は俺の事も気遣ってくれたわけで……。

 

 ………………。

 

 大先生!!

 

 くそう、俺は何て小さい人間なんだ。自分の事だけでいっぱいいっぱいで感情に振り回されて……だっていうのに、大先生のこの包容力を見ろよ。なんか意地になってる自分が馬鹿みたいで、恥ずかしくなってきた。

 俺は大道寺へますます敬服の念を抱きつつ、力強く頷いた。

 

「行く! 大道寺、ありがとう。それと、ごめんな。気ぃ使わせて」

 

 そして俺は大道寺にお礼をした後で勢いよく席を立つと、山崎と柳沢に「さっきは嫌な感じになってごめん」と謝ってから李小狼の前に仁王立ちした。姉さんはまた俺が李小狼につっかかろうとしたと思ったみたいで慌てているが、心配しないでほしい。大先生に導かれた俺は数十秒前の俺ではないのだ。

 

「おい、李小狼! 昨日はありがとな! でも姉さんに変な事したら俺が許さないからな! 覚えとけよ!」

 

 でも言った後に後悔した。チックショー! ここは大人な態度でスマートに「ふん、世話になったな。けどそれとこれとは話は別だ。今度姉さんに何かしたらだたじゃおかないぜ。覚えときな」とか言うつもりだったのに! 何だこの箇条書き感!!

 結局俺は恥ずかしくなってすごすごと再び自分の席に戻ることになった。

 

 ……あとで姉さんに「ちゃんとお礼を言えたのは、偉いと思うよ」と言ってもらえたのがせめてもの救いだぜ……。

 

 

 

 

 

「何なんだ、あいつ……」

 

 そう呟かれた、李小狼の一言で余計に居たたまれなくなったけどな! 悪かったな! 俺だってもうよく分かんねーよ!

 

 けど俺は決めたからな! 李小狼、お前は今日から俺のライバルだ! 負かす。絶対にいつか負かす。何かしらで負かす。覚悟しとけよ!!

 

 

 

 

 

 この日、俺に生涯初のライバルが出来た。一方的だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かなり一方的にライバル認定。色々コンプレックスを刺激されて、現在主人公の心は荒れ模様。しっちゃかめっちゃかです。


この度くわせふじこさんから主人公のイメージイラストを頂きました!しかも二枚ですようっひゃあああ嬉しい!!(大歓喜


【挿絵表示】

思い描いていた主人公ドンピシャなイメージイラスト。いたずらっ子っぽい表情やらさくらちゃんよりやや髪が短めなところとか、正にこんな子を想像して書いていました。しかもさくらちゃんとセットで描いていただくという贅沢……!可愛すぎて見た瞬間悶え転がりました。不審者と呼ばれようが、私はこの絵を見るたびにニヤニヤするのをやめない!!


【挿絵表示】

一変してこちらはムキムキになった主人公を描いていただきました。主人公が理想に掲げている似非マッチョと違ってなんて安定感のあるいい筋肉をしたイケメンなんだ……!だっていうのにドヤっとしたポーズや表情が可愛すぎるんですが。さりげなく服に描かれたケロちゃんがまたいい味出してます。主人公もいつかこんな筋肉を手に入れられたらいいなぁ……。

くわせふじこさん、この度は素敵なイラストを本当にありがとうございました!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。