一話目。
説明回になるので、ほぼ会話文になります。
お付き合いいただけると助かります。
「で、僕に頼みたいことってなんだい?」
「俺をあの事件現場に、もう一度連れて行ってくれ。」
「君は馬鹿なのか?」
「即答で罵倒かよ!」
「でも否定は?」
「しない!」
「しないのか!?」
うん、良いツッコミだ。彼女は良いツッコミ師になれそうだ。
「そんな職ありませんよ?」
「大丈夫です、わかって言ってますので。」
「それで?
そんなふざけたことを言った理由を教えて貰おうか?」
いかにも呆れてます。
という表情をしながら、神無月は俺をじっーと見る。
だけど、その目は俺の真意を探ろうとしているのは感じとれた。
「いくつか気になることがあってな。
それに、あの時焦ってたから、ちゃんと見れなかったところの確認。」
「でも、もう警察がいて、調べるのは無理なんじゃないか?」
「そこら辺は神無月先生になんとか「無理だ。」……へ?」
「だから、無理だ。って言ったんだ。
僕だってなんでもできる訳じゃない。」
「なんかないのかよ?
例えば、時間を止める道具とか、そこにいる人間を別世界に放り込む道具とか、いっそ消滅させちゃうとかできないのか?」
「物騒だな君は!
そもそもそんなの持っているわけないだろ!」
「ねえねえ、なんか良い道具出してよ!
カンえもん!!」
「藤○・○・○二○先生に謝ってこぉぉい!!!」
閑話休題
「しかし参ったな。
割とあてにしていたんだけどな。」
「それはすまない。
だが、良い情報もあるぞ?」
「良い情報?」
「はい、私がばっちりと隅から隅まで見ておきました。
今でしたら、全て明確に答えられますぞ?」
「本当ですか!?」
「亥澄に感謝しろよ?
警察がもう直ぐ来るところなのに、お前の為に残って情報を集めてくれたんだからな。」
「本当にありがとうございます。」
「いえいえ、なんのなんの。」
そう謙遜はするが、その表情は少し嬉しそうだった。
「では、まず一通り流れを一度確認するのはどうだろうか?」
「そうだな、その後現場の状態を聞かせてもらいます。」
「ええ、そうしましょう。」
「まず、俺の元に母から電話があって、俺はそれに出た。」
「それ、本当にお袋さんだったのか?」
「その時点で偽者だったとか?」
「…否定は出来ないけど、会話は一応出来たし、そこまでやる意味はないはずだから、多分本物だと思う。」
「ふむ、なるほど。
それで?」
「その後、突然ガラスが割れる音がして、なにかが暴れる音がしたんだ。」
「暴れる音?」
「ああ、で母さんがなにかあったのか?と言って、見に行ったんだ。
そして、扉を開けた瞬間、…悲鳴を。」
未だに耳に残っている母の悲鳴が頭の中で響き、俺はその音を抑える様に手で頭を抑えた。
「……睦月。」
「……ごめん、もう大丈夫。」
数回深呼吸をして、心を落ち着かせると、あの時のことをまた思い返す。
「その後、お前に扉を開けてもらって、現場まで走って行ったんだったな。
ちなみに、その時の姿は親友に見られていた。」
「ああ、さっきの電話の人かい?」
「そうそう、あいつ。
あ、そうだ。
後であいつと会う約束したから、もう一度外へ行かせてくれないか?」
「それは構わないけど、こんな夜更けに会う約束をしたのかい?」
「ああ、あいつに確認しなきゃならないことができたんでな。」
「……わかった。」
納得いってなさそうだが、それでも不承不承ながら彼は頷いてくれた。
「ありがとう。
えーと、それでだ、自宅に着いた俺は、鍵を開けて中に入ったんだ。」
「鍵ですか。
防犯はしっかりなさっていたのですね。」
「ええ、二人共、そこら辺はしっかりしてましたし。」
「なるほど。」
「それで入ったら、犬のぷー助が『ぷー助!?』……なんだよ?
問題でもあるのかよ?」
「い、いや、でもさ、その名前は……ねえ?」
「しょうがないだろ、母さんの命名なんだから。
うちのパワーバランスは、母さんが一強なんだよ。」
『ああ、なるほど。』
理解していただけてなによりです。
いや、あの人マジで最強だったんだから。
「…話を戻そう。
ぷー助を見つけた後、俺は閉まった扉を開けて、リビングに入ったんだが、そこには首元を真っ赤に染めた両親と、両手から血を垂らした人狼がいた。」
「両手を、ですか?
間違いありませんか?」
「ああ、間違いない。
そいつに殴りかかったんだけど、避けられてな。
隙だらけのところを、振り上げる様に下から爪で襲ってきてな、その時に両手が血まみれなのを見たんだ。」
「殴りかかった。って、君も無茶をするな。」
「あの時は頭が真っ白になってな、深く考えられなかったんだよ。」
我ながら無茶をしたものである。
「それで、爪を避けようとしたんだけど、服に引っ掛かって持ち上げられたんだ。
まあ、服が破けて直ぐに解放されたけど、敵の目の前で腹を見せる様に倒れてしまったんだ。
あの状態で追撃いれられたら、ヤバかったね。」
「ということは、追撃は?」
「無かった。
こっちを一瞥してから、ガラスを踏みながら逃げて行ったよ。」
「ああ、それなら僕達も聞いたよ。」
「ええ、入れ違いだったので姿は見れなかったですが、ガラスを踏み荒らす音は聞きました。」
「しかし、到着が少し遅かったな。」
「むう、すまない。」
神無月様が、少々体力的に辛かった故に遅くなってしまいました。
神無月お前、ちょっと体鍛えた方が良いんじゃないか?
いざというときに文月さんを守れんぞ?
だから、人の頭で話をするな!!
そもそも、なんで馬奈美の名前がそこで出てくる!?
そりゃまあ、ねえ?
ですねえ?
くうぅぅ。
「……みんな急に黙っちまったけど、どうかしたのか?」
「ん?大丈夫、大丈夫。」
「ええ、問題ありませんよ?馬奈美さん。」
「……ん~、ならいいんだけど。」
不承不承ながらも引き下がる文月さん。
うん、脳内会話はこういうところが便利だね。
悪用は厳禁ですよ?
わかってますって。
だから人の脳内で会話するな!!
閑話休題
「奴が逃げた後は二人の知っての通り、両親の前で泣き叫んでた。
これで俺の話は終わり。」
「なら、次は僕だね。
睦月を追って家の前に着いた僕達は、なにかが落ちる音と共に睦月の声が聞こえてきて、慌てて中に入ったんだ。」
「多分、引っ掛かった服が破けて、落ちた時の音だな。」
「多分ね。
それで血まみれの扉から入ったら君がいて、亥澄に介抱をお願いし、僕は扉にリンクさせて戻ってきた。」
「そして、今に至る、と。」
まあ、一通りの流れはこんな感じかな?
「よし。
じゃあ、それを踏まえた上で、いくつか質問なんですが、亥澄さん、いいですか?」
「ええ、構いませんよ。」
「まず、……両親の死因、…わかりましたか?」
「いやいや、いくら亥澄でも、そんなの専門じゃないんだから、わかるわけ「わかりましたぞ?」…ってわかったの!?」
「ええ、薬品を使ったとかでしたら難しかったですが、今回は首にこうしょうがあったので、直ぐにわかりました。」
「交渉?」
「校章?」
「咬傷(こうしょう)、獣や蛇に噛まれた時にできる傷のことだ。」
「ええ、その通りです、睦月様。
死因は、その傷から大量の血が出たことによる失血死だと思われます。」
「まあ、あの状態ならそれしかないだろうけど、……咬傷、か。」
そう言って俺は、あの時見た人狼のことを思い返す。
俺が黙っている間三人共口を挟まず、黙って待ってくれていた。
「……亥澄さん。」
「はい?」
「傷は裂傷ではなく、咬傷だった。
間違いないですか?」
「ええ、間違いありません。
あと、お父様の腕にも同じ咬傷がありました。」
「腕に?」
「はい、恐らく初撃は腕で受け止めたのではないでしょうか?
左腕にはっきりと残っていましたよ。」
「……そうですか。
……ちなみに、ぷー助の死因とかわかりましたか?」
「はい、調べしましたよ。
彼はまず背中に爪での一撃を食らった様です。
そして、動けなくなったところを首に止めの一撃を食らい、その場で絶命したようですね。」
「……そうですか。
あいつがあそこで死んだのは間違いないんですか?」
「恐らく間違いないかと。
血も大量に出ておりましたし、あの場から動かした形跡も暴れた跡も「え?ちょっと待って!?」…はい?」
「暴れた跡がなかったんですか?」
「はい、間違いございません。
毛並みは暴れた様に乱れ、体中血まみれではありましたが、あの辺りに暴れた形跡はありませんでしたし、血はその二撃以外の飛沫血痕ありませんでした。
二撃もらったのは、あの場で間違いないありませんし、暴れてもいません。」
「…?それって、なにか問題あるのか?」
「ああ、わりとな。」
それはつまり、ぷー助は襲われる前まで自らの意志であそこでいて、あの方向を向いていたことになる。
それはつまり、………でも、そうだとしたら、あいつがとった行動の意味がわからない。
「……亥澄さん、その辺りで、他に気になったところはなかったですか?」
「気になったところ、でございますか?
ん~、そう言えばあの足跡、二往復してましたね。」
「二往復ですか?」
「ええ、重ねてつけられた物もあり、わかり辛いのもありましたたが、あれは間違いなく二往復でつけられたものです。
それと、電話の乗っている台の近くに数滴の滴下血痕が落ちてましたね。」
「滴下血痕がですか?」
「はい、そこそこの大きさでしたが、それ以外は特になかったですね。
その辺ではそこ以外に血痕はなく、荒らされた様子もなかったですし、電話も受話器がしっかりと置かれた状態でした。」
「……亥澄さん、それは間違いないありませんか?」
「え?ええ、間違いありませんが?」
急に目付きが鋭くなった俺に、驚きながらも頷く亥澄さん。
そんなに怖かったかな?
「…?なにかあったのか?」
「ああ、小さいことだけど、謎がね。」
「謎?」
「ああ。
とはいえ、これは電話に出てない、みんながわかんなくて当然だけどね。」
さて、通路はこんなところかな?
「じゃあ、すみませんが亥澄さん、次はリビングの方をお願いします。」
「え、ええ、わかりました。」
俺が言わなかったことを聞き出そうにしながらも、亥澄さんは頷いてくれた。
大丈夫です、ちゃんと後で話しますから。
約束ですぞ?
「えっと、まずはリビングはどんな状態になっていましたか?」
「酷い有り様でしたね。
お二人が寝かされた場所の周り以外は、なにかが暴れた様に色々な物が散乱し、倒れていました。」
「リビングには、なにが残ってましたか?
大雑把で良いので、お願いします。」
「ふむ、まず数冊の本、花瓶、テレビ、碁盤、将棋盤、駒箱と碁笥が一つずつ、ソファー、携帯電話、っといったところでしょうか。」
「碁盤と将棋盤か。
睦月のお父さんは好きだったのか?」
「ああ、家にいた頃はしょっちゅう付き合わされたものだよ。」
おかげで、そこそこの腕前には育ったけれどね。
しかし、
「一つずつ、か。」
「それがどうかしたか?」
「実は結構問題あり。
通常なら考えられないかな?」
「私の覚え違えと?」
「いや、亥澄さんの覚え間違えとは思えないから、なにかあったんだと思う。
そして、それは多分、事件と繋がっているんじゃないかな?って思う。」
まあ、ただの直感だけどね。
「他に、なにか気になることはありませんでしたか?」
「気になるところ。
そういえば、扉の近くにも滴下血痕が残ってましたね。」
「………それの大きさ、電話のやつより、少し小さくなかったですか?」
「え?ええ、幾分か小さい物でしたが、よくわかりましたね。」
「……まあ、そんな気がしただけです。」
「それと、お二人の顔の横に百合の花が置かれていました。」
「百合の花?
なんでだ?」
「百合の花は二人の思い出の花でな、大事な日には父さんが母さんに渡していた。」
「そうだったんですか。」
百合の花に気付かないとは、相当錯乱していたんだな。
今更ながら、自分の精神状態が相当ヤバかったのだと実感した。
「…あと、……父さんは、……父さんは寝ていた場所で殺されてましたか?」
「…いえ、恐らく違います。
リビングの一角に血溜まりができていたので、殺された後、あそこに移動されたのだと。」
「……やっぱり、……なのか。」
「やっぱり、っと言いますと?」
「……なんとなく、そんな気がしたんです。」
「ということは、なにかわかったのか?」
「まあ、ある程度は、ね。
ただ…。」
『ただ?』
「意図が読めないんだ。
まるでバラバラなんだ。」
まあ、それが気になっていることにも繋がっているんだけど。
「ところで、ずっと気になっていたんだけど、あんたの気になることってなんなんだ?」
「いけませんよ、馬奈美さん。
お客様に対して言葉使いに、もう少し気をつけなさい。」
「あ、いやいや、亥澄さん。
俺はこれで大丈夫ですよ?
むしろ、固くなり過ぎないんで助かります。」
「……むぅ、まあ、睦月様がそうおっしゃるのであれば。」
そう言って、不承不承ながら下がる亥澄さん。
なんだか、みんなさっきから不承不承に納得するのが多いな。
次は俺だったりして。
「で?気になることってなんだ?」
「まず、俺が生きていること。」
「いきなりド本命!?」
「そんなに驚くことだろうか?
だって、そうだろ?
俺は奴らの秘密を見ちまったんだぞ?
とりあえず、消そうとするだろうさ。
でも、あいつはしなかった。
殺すのに絶好のチャンスだったのにも関わらず、にだ。」
「案外、生かさず殺さずの生き地獄を味あわせるために、生かしたのかもしれないぞ?」
「うん、その可能性は否定しないけど、……なんて言うかな?
あいつからは、殺意は感じられなかったんだよな。」
「爪で襲われたのに?」
「それもなんだけど、あいつが俺を殺そうと思うなら、もっと別の上手い手がいくらでもあるんだよ。
例えば、体格差を生かして体ごと突っ込んでくるとか、上から覆い被せる様にして俺を掴むとか、横から払う様に攻撃するとか、いくらでもあるんだよ。
なのに一番避けられそうな、下からの一撃をしてきた。
それもギリギリ避けられる間合いで、だ。」
「……もし、狙ってやったのでしたら、攻撃を当てる気はなかった。ということですかな?」
「避けて体勢が崩れている内に逃げるつもりが、偶然服に引っ掛かってしまった、ってわけか。」
「多分、そうだと思う。
それに、俺に電話掛けさせたことも気になるんだ。」
「それは、今お前の端末から位置情報を得られないから、誘き寄せるためにやったんじゃないか?」
「位置情報?」
「ああ、この端末にはGPSみたいに位置情報を自動送信していたらしいんだけど、蜘蛛男から逃げている時に壊してもらったんだ。
だから、誘き寄せるために電話掛けさせたのはわかるけど、それなら何故二人は綺麗な状態にされたんだ?
ただでさえ位置情報が掴めない奴なんだ。
誘き寄せたのなら、そのまま俺も殺ればいいのさ。
だから見せしめのために、わざわざ死体を綺麗にする必要はないんだ。」
「そうだよね。
運んだりするのも大変そうだし、もがき苦しんだ顔も直すのが大変そうだよね。。」
「確かに、全てやろうとしたら時間も労力もそこそこかかるからね。
一家惨殺にするなら、そんな手間をかける理由がないか。」
「なのに奴はそれをやった。
そこら辺が、妙にちぐはぐなんだよ。」
そう言い俺は、自分の頭を右手でガシガシと掻きながら、ため息を一つ吐いた。
「そいつ、まるで多重人格者だな。」
「どうしてだ?」
「いやだって、行動が食い違っているんだろ?
それがまるで、別々の人格が動いているみたいだったからさ。」
「……まったく、そんなわけ「うん、確かにそれに近いかもしれない。」って、なんだって!?」
「それはどういうことですかな?」
「二つの異なる意志が存在したのは、確かなんだよ。
ただ、」
『ただ?』
「…理由、動機がわからない。
いや、片方はわかるんだけど、もう片方がわからないんだ。」
そう言う俺の頭を掻く手の回転数が、どんどん上がっていく。
その時だった。
―ピピ、ピピ、ピピ、ピピー
セットしていた携帯のアラームがなり、俺に時間がきたことを伝える。
「……行くのか?」
「ああ、俺の想像通りだろうと、違ったとしても、あいつにはきちんと筋を通さなきゃならんでな。」
それがあいつに対する礼儀だしな。
「そんなわけで、悪いがまた開けてくれないか?」
「かまわないよ。
その代わり、その場に僕も同行するからな。」
「いや、ちょっと待て。
それは勘弁して欲しいんだ「なら開けない。」……それ、ズルくね?」
「ズルくないさ。
全うな交渉だよ。」
ニヤリと笑みを浮かべながら、俺をじーっと見つめる神無月。
助けを求める様に亥澄さん達を見るが、ゆるゆると首を横に振るだけだった。
「それに、君と約束したしね。」
「約束?」
「ああ、君をこの戦いに導いた責任として、君と一緒に見続ける。
その誓いを果たす為にも、僕も君と一緒に行かせて欲しいんだ。」
そう言いながら彼は、先ほどとは違う力強い目で俺を真っ直ぐ見つめる。
やれやれ、そんな真っ直ぐ見られちゃ、頷くしかないって。
「……はぁ、わかった。
一緒に行こう。」
そう言いながら苦笑して頷く俺。
それに微笑み、頷き返しながら神無月はコードを扉に刺し、機械を操作し始める。
数秒後、カチャっという音と共に扉が開き、神無月は扉へ歩を進める。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「行ってきます。」
『いってらっしゃいませ。』
亥澄さん達の言葉を背に、俺と神無月は扉をくぐり抜けた。
こぼれ話
「ところで亥澄さん。」
「なんですか?馬奈美さん。」
「飛沫血痕と滴下血痕ってなんですか?」
「……わからないで聞いていたのですか?」
「聞くタイミングがなくて。」
「…まあ、良いでしょう。
飛沫血痕とは、動いた時、飛び散った時に出来る血痕です。
イメージとして「!」みたいな血痕が飛沫血痕です。
逆に滴下血痕は、静止した状態で垂れた血痕を差します。
落ちると円形に広がる血痕で、高ければ高いほど、その円は大きくなります。」
「へー。」
「睦月様は滴下血痕で、なにかに気付いていたようですな。
さて、どうなりますことやら。」