よろしければお付き合いください。
「……もう少しか?」
そう呟きながら、暗い森の中を僕は駆けていた。
しばらく走り続けると、木々が途切れ、五階建ての建物にたどり着いた。
「ここか、どこにあいつは…!
見つけた!」
そう言いながら僕は駆けると、二階の壁に埋まった大津めがけて飛び跳ね、
「どりゃぁぁぁぁ!!」
「うぉっと!!」
飛び蹴りを放つが、寸前のところで避けられてしまい、壁を突き破りながら中へ転がりこんでしまった。
素早く立て直して、穴から外へ出ると、既に立ち直った大津が構えていた。
「ずいぶんと荒っぽいヒーロー様だな。」
「ヒーローだから、スマートにやらないといけないのかい?
お互いに生死をかけている状態で、周りに配慮とか、加減なんてそうそうできないと思うけど?
少なくとも、僕にはそんな余裕はないよ。」
「そりゃまあ、普通はそうだな。」
僕の言葉に、苦笑しながら彼は頷いた。
……なんだろう、さっきまでとずいぶんと雰囲気が違う気がするのは、気のせいだろうか?
「…ん?…ハァ、生身の体であんだけ速く移動するとか、本当にとんでもない奴だな。」
「ん?なにがだ?」
「いや、もう少しでこうちゃんがこっちに着きそうなんだ。
だから悪いけど、急がせてもらう、よ!」
そう言って動きだし、猛攻をする大津。
その速度は確かに速い。
普通の人なら数回は細切れにされているだろう。
でも、
「……さっきに比べると、大分スピードも落ちてるし、キレもないよ。」
「ぐっ!」
全ての攻撃を避け続ける僕に彼は焦りからか、大振りの一撃を振る。
それに対して僕は、一気に踏み込んで彼の懐に入ると、股下から右腕を通し担ぎ上げる。
左手で彼の首根っこを掴み、腰を左右にひねりながら、彼の体を上下左右あらゆる方向に振る。
彼は何度か僕の体を掴もうと手を伸ばすが、掴む度に強烈に揺らし、彼の手を無理矢理引き剥がす。
何十回と揺らした後、彼の体ごと数回回転して勢いをつけ、
「卍放旋火!」
と叫びながら建物の屋上へ向けて、彼を放り投げた。
回転しながら飛んで行く彼を見つつ、僕は建物の壁を駆け登る。
僕が屋上にたどり着くのと、彼が体勢を整えながら着地したのは、ほぼ同時のタイミングだった。
僕は駆け登った勢いをそのまま駆ける力に変え、彼との距離を一気に縮めて蹴りを放つ。
彼は直ぐに立とうとするが体がふらつき、立ち上がることができないため、僕の蹴りを腕でガードするが、
「ぐっ!!」
勢いを殺せず転がっていく。
「…っ、く…っそ!」
大津は立ち上がろうとするが、体をまともに動かせず、動くこともままならない状態だった。
まあ、あの技を受けた後なのだから、当然と言えば当然なんだけどね。
別に僕は、無意味に彼を振った訳ではないし、あれはただの投げ技でもない。
ああすることで三半規管を揺らし、まともな受身や行動を阻害し、優位に戦える様にする技なのだ。
分かりやすいイメージとしては、悪路をそこそこの速度で走る車に乗り、激しく揺られた後のフラフラした感覚、あれの五十倍きつくした状態をイメージしてもらえば、まず外れていない。
なので、彼みたく体勢を整えて着地したり、ガードしたりするのは、わりと凄いことなのだ。
だからだったのだろうか。
「……君、強いんだね。」
僕の口から素直な感想がでてきていた。
「……嫌味か?」
「いや、ただの称賛。
正直なところ、このフォームじゃなきゃここまで戦えなかったし、そもそも、睦月がいなきゃとうの昔にやられてたしね。」
「……まったく、普段は抜けているくせに、こういう時はしっかりしているんだよな~、あいつ。」
「昔からあんな感じなのか?」
「まあね、おかげで苦労したよ。」
「だろうね。」
そんな風になぜかのほほんと、お互い苦笑しながら話ていると、
ードガラシャンー
鉄板が激しく跳ね回る様な音が、辺りに響き渡る。
「な、なんだ?」
「…多分、睦月が入口の扉を蹴破ったんだろうな。」
「……あの馬鹿は、本当に無茶ばっかりしやがって。」
「まったくもって、その通りだね。
僕と一緒の時も、かなり無茶なことをしていたよ。」
「こっちの気も知らないで、本当にあの馬鹿は。」
「まったくだね。」
彼の行動に呆れながら、僕達は揃ってため息をついた。
「……ふふ。」
「……なにが面白い?」
「ああ、すまない。
いや、もし僕達が別の形で出会っていたら、けっこう良い友達になれたんじゃないかな?って思ってさ。」
「……悪友に振り回される友人同士、でなら、あり得たかもな。」
そう言い大津も、苦笑しながら頷いていた。
「……悪いけど、睦月が登りきる前に、トドメをささせてもらうよ。
流石に、友達の最後を見させる訳にはいかないからね。」
「……できるだけ、痛くない様にしてくれよ。」
「善処するよ。
……じゃあ、いくぞ。
これでトドメだ!」
そう言いながら僕は、ベストから円形の道具を取り出し、彼に投げ、
「…てっ…、言……んだ……!!」
ースッパコーンー
「へぶぅぅぅ!!」
ようとしたところを、睦月が僕の後頭部に掌底を一撃食らわせた。
「……ぃったいじゃないか!
なにするんだ!」
「…お前が!…全然!…止まんない!…からだろ!!」
「え、あ、あ、うん。
ごめん。」
息も絶え絶えにし、肩で息をする彼の怒気に圧され、僕は謝りながら引いていく。
……そういえば、こんな風に怒られたことって、あんまり経験なかったな~。
…うん、これはこれで新鮮だな。
そんなことを思いつつ、彼から離れるのを止め、話を続けることにした。
「で?なんで止めたんだ?」
「…全部、…わかったからだ。
…こいつがやったこと、…やらなかったこと、…真意まで、…全部な。」
そう言いながら睦月は、震える体を無理矢理起こし、荒い呼吸をしながらも、真っ直ぐ大津を見つめていた。
「……まず、最初に言っておくが、こいつは俺の両親を殺してない。」
「いや、ちょっと待て。
いきなりなに言ってるんだ、君は!?」
「ん?俺、なんかおかしいこと言ったか?」
「言ってただろ!!
君自身が彼がご両親を殺したと、言って「ないぞ。」……へ?」
「俺は両手が血まみれだの、襲われただのは言ったが、こいつが二人を殺したとは、一度たりとも言っていないぞ。」
「……そうなのか?」
「まあ、最初はこいつがやったと思って襲いかかりはしたけどな。
落ち着いてから考えてみたら、おかしなことに気づいたんだ。」
「おかしなことって、なにがだ?」
「こいつが殺したにしては、体が綺麗過ぎたんだよ。」
「ん?でも、手は血まみれだったんだよね。」
「手は、ね。
でも、二人は咬傷という傷跡からわかるように、噛まれたことによる出血死だ。
もし、こいつがやったのなら、口周りや体も血まみれになっていないとおかしいんだ。
でも、こいつの口も体も血まみれではなかったよ。」
「噛みついたまま血を飲んだとか?
あるいは、拭いたりしたとか?」
「あのな?
血って心臓というポンプで全身を凄まじい速度(分速約10万キロと言われてます。)で、絶えまなく送られているんだ。
その中でも特に血が流れている大動脈を傷つけると、振りに振りまくった炭酸水みたいに勢いよく血が吹き出してくるんだぞ?
そんなのこぼさずに飲めるか?」
「あー、ちょっと難しいかな?」
「だろうな。
それに、成人男性の血液の量は、およそ4,6リットルと言われているんだぞ?
そんなに飲んだら、体がおかしくなるというか、そもそもそんなに飲めるか!」
「……それもそうだね。」
「それに、床が血まみれになるぐらいに血が出てたから、飲んだっていうのはないだろうな。
ついでに、俺が母さんの悲鳴を聞いてから、こっちに来るまでの時間を考えると、体や口を拭いたと考えるのは現実的ではないよ。
それにその場合、手も綺麗じゃないとおかしい。」
「じゃあ、なんで彼の両手は血まみれだったんだ?」
「……こいつが二人にやってくれたのは、血溜まりから運びだし、見綺麗に整えてくれたことだけだ。
あと、二人に添えてあった百合の花を置いてくれたのも、お前だろ?
あの花が特別であることを知っているのは、家族以外ではお前ぐらいだ。」
俺の問いに生介はなにも言わず、胡座をかきながら俯いていた。
「ふむ、彼が殺していないことは納得した。
しかしそうなると、外から侵入した別の誰かがやったってことか?」
「いや、それもない。
なぜならあの時、俺の家は完全な密室だったからだ。」
「ん?でも、窓ガラスを割られたんだろ?
そこから侵入したんじゃないのか?」
「…なんか勘違いしているみたいだが、あれは中から割られたものだぞ?」
「………な、なんだって!?
いやしかし、なんでそんなことがわかるんだ?」
「動いている物が静止した物にぶつかった時、一体になって動くことを運動量保存の法則っていうんだ。
ボウリングとか、ビリヤードをイメージしてもらえば分かりやすいかな?
で、ガラスもその例に漏れず、物がぶつかって割れると、ぶつかった物と一緒の方向に破片も飛んでいくんだ。
もし、外から割られたのならば、破片は部屋の中に散らばっていないといけないのだが、生介がガラスの破片を踏み鳴らしながら逃げたことから、破片は外に散らばっていたことになる。
そのことから、ガラスは外からではなく、中から割られたということになるのさ。」
「な、なるほど。
でも、そうなると誰にも殺せなくなるぞ?」
「そんなことはないさ。
…………一人だけ、……いや、一匹だけいるだろ?
人を殺せる牙を持っている奴が。」
「………!?
え?いや、でも、それって!?」
「……全ての不可能を除外して、最後に残ったのが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる。だ。
……正直なところ、俺自身が信じたくないさ。
だけど、あいつしか考えられないだよ。
………我が家の愛犬、ぷー助しかな。」
その言葉に反応する様に、生介の方からギリッ、という歯ぎしりが聞こえた気がした。
その反応から、自分の想像が間違っていないことを確信しつつ、心が重たくなっていくのを感じた。
「い、いやいや、ちょっと待て、なんでお前の家の犬がそんなことを?
それ以前、飼い犬に人が殺せるのか!?」
「犬の噛む力は約100キロ近くだと言われている。
事実、昔幼児が同じゴールデンレトリバーの頭を噛まれ、死亡する事件があった。
やろうと思えば、彼らは俺達を噛み殺すことなんてわけないのさ。」
「そ、そうなのか。」
「だけどそんなんの、なんの根拠にもならないだろ?」
『え?』
声の方に目をやると、俯いていた生介が顔を上げ、こちらを真っ直ぐ見つめていた。
「それ自体はなんの根拠にもならないぞ?
お前はなにを根拠に、彼が二人を殺した犯人だと言うんだ?」
「……父さんの腕の傷と、ぷー助が死んでいた場所だ。」
「腕の傷?」
「死んでいた場所?」
「ああ、まず傷についてだが、もしお前みたいな奴に襲われて噛まれてたら、腕はひとたまりもないし、なにより噛み殺す以外にも殺る方法はあるのだから、それに固執必要がない。
なのにそれをしなかった。
いや、出来なかったんだ。
それしか殺す術を持っていなかったんだからな。
またあいつは、玄関で背中から一撃を受け、のどにトドメの一撃を食らって死んだらしいが、動かされた形跡はなかったそうだ。
もしそうだとしたら、おかしな点がある。」
「おかしな点?」
「ああ、俺が家に入った時、あいつはこちらの方を向いて死んでいた。
もし、あいつがあの場所で背中から襲われて、死体を動かされていないのなら、あいつはリビングに背を向け、玄関の扉の方を向いていたことになる。」
「…?それがどうしたんだ?」
「それはつまり、あいつは母さん達が襲われているにも関わらず、無視して玄関の方を見ていたことになるんだよ。」
「!!」
「絶対ないとは言わないが、それはあまりにも不自然過ぎる。
だからこそ、俺はあいつが犯人だと思ったんだ。
それに、物的証拠も一応ある。」
「物的証拠があるのか?」
「ああ、父さんの腕の咬傷と、ぷー助の歯形と合わせれば良いんだ。
歯形は指紋と同じで、同じ物はないからね。」
「…そう、…か。」
俺の言葉に、生介は苦虫を噛んだ様に苦い表情をしながら、そう呟いた。
「……あれ?
でも、なんでぷー助は玄関の方を向いていたんだ?
それに、いったい誰がぷー助を殺したんだ?」
「……ぷー助を殺したのは生介だ。
割れた窓ガラスから入って、玄関にいたぷー助を後ろから襲ったんだ。」
「へ?
でも君はさっき、彼は誰も殺してない。って言って「ないよ。」……はい?」
「俺は、両親を殺してない。とは言ったけど、誰も殺してないとは、一言たりとも言っていないぞ?」
『………………。』
「……なんだろう。
凄く納得いかない、このもやもや感は。」
「ああ、凄く良くわかるよ、その気持ち。」
そう言いながら、ジトーっとした目で、二人は俺を見ていた。
っていうかお前ら、いつの間に仲良くなったんだ?
「…続けるぞ?
昨日あったことをまとめると、こうなる。
まず、警察から電話する様に言われた母さんから、俺宛に電話がくる。
さっきから騒がしいっと言っていたことから、恐らくこのタイミングで、ぷー助は父さんを襲いかかったんだと思う。
初撃を腕で止め、抵抗する父さん。
多分、物を投げたりして応戦したんじゃないかな?
そして、投げた碁笥が窓ガラスに当たり割れた。」
「なんで碁笥だと思うんだ?」
「碁っていうのは、白い石と黒い石を交互に打ちながらやる、陣地取りゲームなんだ。
だから、石が混ざらない様に碁笥も二つ用意するんだけど、亥澄さんの話だと、碁笥は一つしかなかった。
つまり、なんらかの理由で無くなったことになる。
そのことから、窓ガラスを割ったのが碁笥と考えられるわけだ。」
「でも、それで本当に割れるのか?」
「碁笥自体はプラスチックとかだから、そんなに重くはないよ。
でも、中に石が入っていると、それなりの重量になるのさ。
おもいっきり投げたら、窓ガラスが粉々になったよ。」
「…………やったことあるのか?」
「…………あの時は、メッチャ叱られたな~。」
軽く笑みを浮かべながら、俺は遠い目をしていた。
閑話休題
「話を戻そう。
父さんを襲い、殺したぷー助は扉の近くまで行き、電話を切り上げてきた母さんが扉を開けるのを待って、あの人に襲いかかったんだ。
扉の近くに落ちてた滴下血痕が、待っていたことを裏付けているし、血溜まりから母さんがあそこで襲われたのも明白だ。
また、俺が開けっ放しにした扉を、亥澄さんと神無月が血まみれの扉と言っていることから、扉が開いた状態で襲われたことがわかる。」
「なるほど、確かにそうだね。」
「ぷー助は母さんを襲った後、土間まで移動した。
そこに生介がやってきて、ぷー助を殺害。
その後、ぷー助の足跡を踏み潰す様に足跡をつけながら、落とした受話器を戻した。
違うか?」
「受話器?」
「ああ、母さんとの電話で、あの人は受話器を本体に戻さずに、父さんの様子を見に行った。
なのに、亥澄さんが見た時は受話器は本体に戻っていた。
つまり、誰かが受話器を本体に戻したということだ。
多分、お前がぷー助を殺った時の振動で落ちたんじゃないかな?
だから、お前は受話器を本体に戻した。
そして、その時に滴下血痕が残ったんだ。」
「ふむ、なるほどね。」
「そして、母さんと父さんを運んだ後、二人を身綺麗にし、百合の花を置いた。
そして、そこに俺が来た、ってわけだ。」
「………うん、確かに筋は通っているけど、彼はなぜ、そんなことをしたんだ?
そもそも、ぷー助はなんでこんなことをしたんだ?
虐待とかしていたのか?」
『そんな訳ねえだろ!!』
俺と生介の声がハモったことに、驚きの表情をする神無月を見ながら生介を横目で見ると、しまった。っという表情をしながら、横を向いていた。
……まったく、本当にお前って奴は。
そう思うと、自然と笑みが浮かんできた。
「………なんだよ。」
「いや、お前は本当に良い奴だな、って思っただけさ。
なのに、……いや、だからこそお前は、罪を全部被ることにしたんだろ?」
「罪を被る?どういうことだ?」
「……それは、…ん?」
話を続けようとする俺だったが、扉の方から気配を感じ、そちらを見つめる。
「ん?睦月、どうかしたか?」
「……いやどうやら、お前が聞きたがっていた理由が、向こうからやって来たみたいだ。」
「やって来た?」
そう言って、神無月が扉の方に目をやった瞬間、数個の影が扉の奥から飛び出し、俺達を取り囲んだ。
「…こいつらは!」
「………犬?」
そう言いながら見渡し先には、ドーベルマン、ブルドッグ、ダックスフント、果てはチワワまで、様々な種類の犬が唸り声をあげながら、俺達の周りを囲む様に身構えていた。
「ど、どういうことだ、これ?
僕は犬に怨まれる様なことはした覚えはないよ?」
「いや、これは…。」
生介が口を開こうとした、その時だった。
ーピシャンー
鋭い鞭の音が鳴り響いたかと思うと、犬達は急にお座りをした。
『な!?』
「……どういうことだ?
どうしてあんたがここにいる?
ドマー。」
「ふん、そんなの決まっているだろ?
我々に反抗する愚か者を処刑するためよ。」
そう言いながら扉の奥から、スキヘッドに顎髭をたっぷり生やした軍服姿の男が、丈夫そうな鞭を持って現れた。
「ちょっと待ってくれ!
こいつは必ず役にたつ!
無理矢理にでも組織に連れて、従わせる様にする!
だから、もう少しだけ猶予をくれ!」
「聞けんな~。
我々に刃向かう者には、一切の情け容赦なく死あるのみ、だ。
そもそも、そこの訳のわからん輩に押されていたではないか。」
ドマーと呼ばれた男は、そう言いながら鼻を鳴らし、高圧的な態度で生介を睨らみつける。
「……えーと、誰なんだ?こいつは?」
「……ドマーって言って、一応、この地域で一番偉い奴だ。」
「へー、…あれが、……ねえ。」
「……お前も苦労してんだな。」
「…わかるか?」
「まあ、あれを見れば、なんとなくな。」
「あ~、納得。」
「なに無駄話を喋っている!!」
そう怒鳴りながら、ドマーが鞭を何度か振ると、その度に犬達は立ったり、お座りをしていた。
…お前らも苦労してんな。
…しかし、
「……やっぱり、そういうことなんだな。」
「やっぱりって、どういうことだ?」
「……お前さっき、なんでぷー助がこんなことをしたのか、と聞いたよな?」
「え?ああ、聞いた。」
「虐待されていた以外で、襲う理由があるとしたらなんだと思う?」
「ん?
ん~、だとしたら、命令されたか、操ら…れ?」
そう言いながら神無月は、なにかに気づいた様に、周りの犬達を見回す。
首輪を着けてない野良が多い中、首輪を着けた犬もちらほらいた。
「……まさか?」
「…ああ。
……ぷー助は、あいつに操られて、父さんと母さんを殺したんだ。」
真っ直ぐ睨み付ける俺のことをどこ吹く風と言わんばかりに、ドマーは余裕の笑みを浮かべながら、鞭で自分の手ををペチペチと叩いていた。
「なるほど、貴様が我々に楯突く愚かな一般人か。
確かに、私はこの鞭で犬を操る能力は持っているが、無理矢理操っていると思われるのは心外だな。
私は、貴様ら俗物の元から彼らを解放してやっているだけだ。」
「解放だと?」
「ああ、貴様の犬には感謝してもらいたいものだ。
ここにいる犬達の様に、愚かな俗物から自由になり、我々という素晴らしい主人の物となるチャンスをいただけたのだからな。
しかし、それを大津!
貴様が無にしたのだ!」
そう言いながらドマーは、さっきとは真逆の怒りの形相をし、ビッと鞭の柄で生介を指した。
「無にしたって、どういうことだ?」
「……。」
「反逆者には死を。
貴様とて、例外ではないぞ?
大津よ。」
「……。」
神無月の言葉にも、ドマーの言葉にも、生介はなにも言わず、ただドマーを睨み付け続けていた。
「……反逆者、か。
……やっぱり、そういうことだったんだな。」
「……やっぱりって、どういうことなんだ?」
「……神無月、確認なんだが、この事件の本来の標的は誰だ?」
「それは……君か?」
「ああ、その通りだ。
まず、そこが第一前提。
では、その標的である俺が、今も生きている理由は?」
「理由?んん?」
「質問を変えよう。
ぷー助が玄関に向かった理由は?」
「ぷー助がか?
ん~、………成り行き?」
「違う、明確な意思を持って、あそこへ移動している。」
「そうなのか?
えーと……。」
「……聞き方を変えようか。
もし、俺達が駆けつけたあの時、生介がぷー助を殺してなければ、一体なにが起きていたと思う?」
「なにが起きたって、それは……………!?
ま、まさか、ぷー助が玄関に来た理由って!?」
「ああ、その通りだ。
ぷー助は、玄関から入って来る俺を襲い、殺すために玄関まで来たんだ。」
「そんなことって、……ん?
でも、おかしくないか?
君を殺すのが組織の目的だったなら、なんで大津はぷー助を殺したんだ?
なにもしなければ目的は達成したはずだろ?」
「ああ、その通りだ。
生介の目的が、本当に俺を殺すことだったら、な。」
「ん~?それはどういうことだ?」
「発想を逆転させるんだ。
殺すための行動を邪魔し、俺を殺させなかった。
それはつまり?」
「……君を死なせる気がなかった、っていうことか?
でも、それは…。」
「ああ、組織の意向に背くことになる。
だからさっき反逆者、って呼ばれていたんだ。
そうだろ?」
「……ふん、反乱分子にしては、頭が働くではないか。
そう、その通りだ。
その男は愚かにも、我が組織の命令を無視し、なんの価値もない愚か者の為に、その命を捨てたのだ。
……愚かといえば、貴様の所の犬もだったな。
大人しく私の言葉に従っていれば良いものを、散々抵抗していたな。
まあ、結局は私の言いなりになったのだから、無駄な足掻きであったがな。
そうそう、貴様の親の最後をスパイカメラで見ていたが、あれは中々良かったぞ?
信じていた者に裏切られ、絶望に染まりながら死を迎えていく様は見物だったな。
もっとも、スパイカメラは大津の一撃の巻き添えを食らって壊れてしまったため、貴様のペットの最後は見れなかったが、さぞかし無様な最後を迎えていたのだろうな。
まあ、飼い主と同じく、我々に楯突く愚か者だ。
我々の所にいたところで、邪魔にしかならなかっただろうさ。
まったく、飼い主もペットも、揃いも揃って愚かな「そろそろ黙っておけ、おっさん。」……なんだと?」
「黙れって言ったんだ、このクソ野郎。
黙って聞いてりゃ、俺の親友と家族のことを好き勝手言いやがって、ふざけんじゃねえぞ、このハゲ頭!!」
「なあ!!」
『ブフゥ!!』
俺の横で吹き出した二人を他所に、ドマーの顔がみるみる赤くなっていく。
「ち、違う!
これは剃っているだけで、断じてハゲているわけで「じゃかしい!」!?」
「これでも理髪店のバイトをやっていたんだ、ハゲか否かなんか見ればわかるわ!
そのくせ、顎髭がフサフサとかアンバランスなんだよ、このハゲ助!
だいたい、偉そうに能力だの云々言っているけど、本当はお前の髪並みに人望が無いだけだろうが!
自分より弱い者を操って戦うことしか出来ないスットコドッコイが、偉そうに言うじゃねえぞ、このハゲタコ!!
それに「もう止すんだ、こうちゃん。」なんでだ!!」
怒りに燃え、荒い息をしながら後ろを振り返ると、
「こ、これ以上は、お、俺達がもたないぃぃぃ。」
口角をひくひくさせながら、笑うのを必死に堪えている生介と、腹を抱えながら口を押さえる神無月の姿があった。
………あいつを散々罵倒しまくった俺が言うべきことでないかもしれないが、お前らのその反応は、ちょっとひどくないか?
ちなみに、罵倒された本人は?というと、顔を茹で蛸の様に真っ赤にしながら、プルプルと体を震わせていた。
しかし、
「そんなに笑うことか?」
「い、いや、すまない。
君の言うことが一々ツボに入ってね。」
「俺は、みんなが思っていることを良く言ってくれた!って感じだな。」
「おいおい。」
そう言い、ため息を一つ吐いた、その瞬間。
ーパーンー
という破裂音が突然し、慌てて振り返ると、
「……さん。」
―パーンー
再び先ほどの破裂音を響かせながら、両足の太ももから下の服が、突然盛り上がった筋肉により、弾け飛んでいく。
その前のは両腕だったらしく、二の腕から先の服も同様に弾け飛んでいた。
「貴様ら、絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」
―むち、むち、むち、むち、むちむちむち、パァァァァンー
その叫びと共に体の筋肉が肥大化し、激しい音をたてながら服を弾け飛ばした。
変化し終わったその姿は、世紀末な世界で主人公に挑んでくる敵キャラみたいにムキムキで、図体もでかくなっていた。
ちなみに、ズボンの下腹部の部分は無事な姿で残っていた。
そこまで弾けていたら、目も当てられない姿になっていただろう。
……とはいえ、これ。
「……流石にズルくないか?」
「後悔しても、もう遅い!
食らえぇぇぇ!!」
そう叫びながら、降り下ろされる腕。
なにかを感じた俺達は、咄嗟に左右に飛んだ、その瞬間。
ーズガァンー
「うぉぉ!?」
「うわぁぁ!?」
「どぉぉ!?」
俺達にいた辺りに、もの凄い速度で振られた鞭が降り下ろされ、建物の床に衝撃で亀裂が走った。
……うん、これは。
「……流石にズルいだろ。」
そう言いながら俺は、右手の人差し指を眉間に当てた。
「フハハハハ!
どうだ?私の力は!
私の力の前に絶望して死「うるせえよ、偽筋。」……なんだと!?」
「たかだか筋肉が増えたぐらいで、偉そうにするなよ。
そんなだから人望が無いんだろ?
まったく、呆れてくるよ。」
「………この状況で挑発出来る君も、相当なものだと思うよ。」
「同感だ。」
そう言いながら二人は、俺のことを呆れたという目で見ていた。
なんでだろうか?
「……ともかく、お前みたいな偽筋野郎は、この場で倒してやるよ!
俺じゃなく、仮面ライダーがな。」
「………。」
「………。」
「…………………、僕がか!?」
「なに当たり前のこと言ってだよ。
仮面ライダーは、お前しかいないだろ?
そもそも、ただの人間の俺が、あんな筋肉ゴリラとマトモに戦えるわけないだろ?」
「いやいや、あんだけ煽って、そりゃないだろ?」
そう言いながら生助は、呆れ果てた目を俺に向ける。
本当になんでだろうか?
「……貴様、ふざけているのか?」
「いや、至極真面目だぞ?」
「ならば、舐めているのか!?」
「いやいや、あんたなんか舐めたくないし、なにより不味いだろ?
あんた。」
「き、貴様~~、何様のつもりだぁぁぁぁ!!!」
「とんでもない、あたしゃ神様だよ。」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
「うぉっと、危ねえな。」
再び凄い速度で振られた鞭をかわし、神無月達に合流するため近付いた、その瞬間。
『チェストォォォ!!』
「ヘブゥン!!??」
二人からチョップを脳天に受け、その場にうずくまった。
なんか、出てきちゃいけない汁が、大量に鼻から出てきてる気がするのは気のせいか?
「こうちゃん、いくらなんでもふざけ過ぎ。」
「高○ぶ○さんに謝ってこい。」
悶絶する俺に容赦なく叱咤する二人。
正直、頭の痛みで話を聞くどころではないのだが、とりあえず頷いておく。
というか二人共、お前らは自分の状態を考えてから、殴るなりして欲しい。
これはマジで死ぬぞ?
「まったく、こんな時までふざけることはないだろ?」
「………あ゛いづに対じでボゲだのは認めるが、お゛前を゛指名じだのは、冗談じゃないぞ?」
そう言いながら俺は、ふらつきを抑える様に頭に手を当てながら、ゆっくり立ち上がる。
あ゛~、頭がまだ痛でえし、言葉も微妙に濁るが、さっきよりはマシか。
そう思いながら深呼吸を一つして、ドマーを睨み付ける。
「俺だって、やれるならやりたいさ。
あいつは、俺の家族の敵なんだからな。」
「……睦月。」
「……でも、俺じゃ勝てないんだ。
あいつを倒せるのは神無月、仮面ライダーであるお前だけなんだ。
だから頼む、あいつをぶっ飛ばしてくれ。
頼む。」
そう言って頭を下げる俺を、神無月は少しの間、黙って見ていた。
「……はぁ~、そういうことなら、初めからそう言いなよ。
また冗談を言っているのかと思ったよ。」
「なんだよ、それだとまるで、俺が常に冗談しか言わないみたいじゃないか。」
『違うのか?』
「ハモんな!!」
「……話は済んだか?」
そう言われて振り返ると、ドマーは手で鞭をペチペチと叩きながら、こちらを見ていた。
「……なんだ、律儀に待ってくれてたのかよ?」
「これが最後の会話になるのだ。
それぐらいの慈悲はやるさ。」
「そりゃどーも。
…さて、あいつの相手は神無月に任すとして、俺達は……、こいつらの相手か。」
「…その様だね。」
ぐるりと見渡すと、周りにいた犬達が、牙を剥き出しにしながら唸り声を上げていた。
「こっちはこっちで大変そうだな。」
「…だな。」
そう言いながら俺と生介は背中合わせに立ち、構える。
「足を狙ってくるからな、気をつけろよ。」
「ああ、わかった。」
「神無月、そっちは任せた。」
「任せろ!」
そう言いながらドマーに立ち向かう神無月。
こうして、俺達とルートキットの二回戦目が始まった。
犯人は別にいるんだ!
なんだってぇ!
的なことをやろうと思い、今回の推理小説的な話になりました。
一応、自分なりに筋は通したつもりなのですが、いかがだったでしょうか?
ここがおかしい、筋が通らない等のご意見ありましたら、遠慮なくお願いします。
次回よりバトルパート、頑張って書かせていただきます。