仮面ライダーハッカー   作:六界の魔術師

18 / 40
まさかの三編構成に(汗)
楽しんでいただければ幸いです。


DISK18 力の戦士と音撃の戦鬼(中)

「………ぬぅ。」

屋上の端で話す三人を見ながら、ドマーは一人唸っていた。

先ほどのダメージや諸事情で動けなかった身体も、すでに回復して動ける様になっており、いつでも仕掛けることは出来たが、避けられることも考え、手を出さずに様子見に徹していた。

 

だが、

「……ぬぅ!

またしても、あの小僧は!!」

時折睦月がこちらを見ては嘲笑をしてきて、その度に鞭を全力を振りたくなる衝動を抑えて我慢してきたが、それもそろそろ限界を近かった。

そんな風に苛立っていると、ようやく話が終わったのか、三人がこちらの方に向き直った。

「……ようやく内緒話が終わったようだな。

で?私を倒す算段でもついたのかな?」

「……なんか勘違いしてないか?

俺達は別に、お前のことなんか話してないぞ?

ただ世間話をしてただけだ。

自意識過剰過ぎるぞ?

偽筋ハゲ野郎。」

 

―ピキー

 

睦月の言葉に、ドマーの眉間に青筋が走る。

「まあ、自意識過剰になるのも無理ないか。

今まで自分で自分を激しく励まし、励んできたんだろうからな。

そういう風になるのも、しょうがないか。」

 

ーピキピキー

 

睦月の追加の言葉に、ドマーの眉間の皺と青筋の数が増していく。

「ここまでいくと、むしろ同情してしまうよ。

どんだけ人望がないんだ、てな。」

 

ーブチ、ブチー

 

睦月の言葉を聞くドマーの眉間は青筋と皺で埋まり、身体は小刻みにプルプル震え始めた。

『君(お前)は悪魔(鬼)か?』

「ハモりながらツッコミを入れんな。

それにこの程度、まだまだ入り口、序の口、宵の口だぞ?」

『うわぁー。』

睦月のトンでも発言に、さすがの二人も、表情を歪めながらドン引きしていた。

「あいつが俺の家族にしたことを考えたら、まだ足りないぐらいなんだけどな。

とはいえ、「…ふ、ふはは。」……これ以上はとりあえず止めておくか。」

「ふはははははははは!!

ひぃはははははははははははははははは!!!

殺す!

殺してやる!!

欠片も残さず、殺してやるぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「やべ!」

「うおぉ!」

「くそ!」

今までの中で一番速い速度で振られた鞭を、三人はぎりぎりではあったが、なんとか避けることができた。

だが、

「逃がすかぁぁぁぁぁ!!!」

そう言いながらドマーは、睦月に対して連続で鞭を振り続ける。

「うお、お、お、お、お!

全、部、俺に、か、よ!」

かなりの速度で飛んでくる鞭を、睦月は紙一重で避け続けていく。

「ぬぁはははははははは!!!

さっきまで調子の良さはどうした、どうしたぁぁぁ!!」

「ちぃ!!」

勢いついたドマーは、更に鞭の速度を上げていくが、睦月はそれらも避け続けていく。

「そらそらそらそらそらぁぁぁ!!」

言葉と共に高速で飛んでくる鞭、嗜虐の笑みを浮かべるドマーとは対称的に、睦月は悲しげな表情を浮かべていた。

「んん~~?どうした、そんな表情をして?

怖いか?

辛いか?

悲しいか~?

後悔しても、もうおそいぞ~?

さあ、私の好きな絶望に染まった顔に変わるまで、踊り続けろぉぉぉ!!」

睦月の表情に嗜虐心が煽られたのか、笑みを深くしながら振る速度を更に上げていく。

一つしかないはずの鞭の先が、あまりの速さに残像を残し、まるで無数に飛び交う様に見えた。

風切り音を鳴らしながら襲いかかるそれを、睦月は表情を変えずに避け続ける。

そんな中、

「睦月!」

「しょうちゃん!」

『今助けに「行かせるか!」な!?』

睦月を助け様とする二人だったが、その二人に犬達が再び襲いかかってきた。

犬達の妨害により、二人共睦月に近くことが出来ないでいた。

「ふはははははははは!!

そら、踊れ、踊れ、踊れぇぇぇ!!」

辺りに笑い声と鞭の風切り音を響かせながら、ドマーは上機嫌で鞭を振り続けた。

しかし、

「………ぬぅ。」

それから二分ほど経つ頃には、その表情は焦りと苛立ちに変わっていた。

なぜなら、ドマーがあれから何百回と振り続けているにもかかわらず、睦月には未だに掠りすらしていなかった。

「………なぜだ、なぜ当たらん!!」

「……当たるわけないだろ。」

「なんだと!?」

「何度でも言ってやるよ。

偽物の力に頼るあんたの技が、本物の技を使う俺に当たるわけがない。」

「本物の技、だと?」

睦月の言葉にドマーは怪訝な表情をしながら、鞭を振るその手を止めた。

「俺が今避け続けられたのは、見切りの技術とダブルダッチやブレイクダンスの技術を合わせ、一つの技にしたからだ。

どの技術も俺自身が行動し、体験し、時に汗を、痛みを感じながら会得した、生きた技術達だ。

片やあんたの今の力は、他人から借りた大きな力を、ただ振り回しているに過ぎない紛い物だ。

そんな奴の技なんて、一生やったところで掠りもしねえさ。」

 

「……偽物、…だと?

…私の鞭の技が、…偽物だとぉぉぉ!?」

「ああ、そうさ。

なんの価値もない、ただのガラクタだ。」

「……ふ、……ふ、……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ドマーはそう叫びながら、血が出そうな勢いで握りしめた鞭を再び振り始めた。

その鞭の技は、今までにないくらいのキレと速度で、睦月も避けようとするが、避けきれずに鞭が掠り始める。

「貴様に、貴様なんぞに私のなにがわかるというのだ!

本部の者には無能とどやされ、下の者には影で鞭だけの無知男と笑われ、そのストレスで禿げたせいで妻に逃げられた私の気持ちが、血へどを吐きながらも鞭の技術を磨いた私の苦労が、私の言うことを聞いてくれる動物達だけが唯一の支えとなった私の気持ちが、貴様なんぞにわかってたまるかぁぁぁぁぁ!!!!」

そう叫びながら鞭を振る手を捻りつつ、素早く切り返すと突然鞭が不規則な動きをし、跳ねる方向までもが変化した。

 

「なっ!?

ぐぅぅ!」

なんとか反応し避けるが完全に避けきれず、頭を掠めた衝撃で強く揺らされ、一瞬ではあったが、動きが完全に止まってしまった。

「睦月!!」

「こうちゃん!!」

「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!」

ドマーは腕を振り上げ、全力の力を持って鞭を振り下ろす。

鞭は今までのを遥かに超えた速度で落ち、爆音を轟かせながら地面に激突した。

その衝撃は地面を揺らし、辺り一面に土煙を舞わせた。

「……ふん、たわい無い。

私に逆らう者は、全てこうなるのだ。」

モウモウと土煙が舞う中、ドマーは一人ごちる。

「ふむ、しかし、やり過ぎたか。

恐らく跡形も残って「いるけど、どうかしたか?」……なに!?」

ドマーが驚きの声を上げるのと同時に強い風が吹き、辺りの土煙を吹き飛ばす。

土煙が無くなった先に、睦月が変わらない姿で立っていた。

「なっ!?

あ、あれを避けたというのか!?」

「技術を伴わない力任せの攻撃なら、どんだけ速かろうと、数が多かろうと物の数じゃないさ。

それよりも、俺だけに集中して良いのか?

お前の相手は、俺だけじゃないんだぞ?」

 

ドマーはそう言われて、反射的に差された方向を見ると、神無月が既に肉薄し、強く踏み込んでいるところだった。

咄嗟に腹筋に力を入れ、先ほどみたいに跳ね返そうとするが上手く力が入らず、神無月の拳はドマーの腹に深々と捻り込まれた。

「ぐほぉぉ!!??」

殴られた勢いで僅かに宙に浮き、よろよろと後退りしていく。

痛みで腹を押さえながら前屈みになった瞬間、神無月のアッパーが顎にまともに決まり、ドマーの頭が跳ね上がった。

「……なるほどね。

睦月の言った通り、偽筋だったわけか。」

 

そう言いながら神無月は、先ほどの会話を思い返した。

 

 

 

 

「……うん、君の要望はわかった。

なんとかやってみるよ。

だけど、問題はどうやってそこまで持っていくか?だな。

下手に攻撃しても弾き返されるだけだ。」

「まあな。

だから、俺が隙を作るから、その一瞬でラストまで繋げろ。」

「隙って簡単に言うが、どうするんだ?

なんだかんだであいつ、隙ないぞ?」

「そうでもないぞ?

なんせ、あいつに本気で筋肉を使わせれば良いだけなんだから。」

『……はい?』

なんでもないように答える睦月の言葉に、二人は揃って首を傾げた。

「……恐らくだけど、あいつがあの筋肉を手に入れたのは、つい最近なんじゃないかな?」

「なんでそう思うんだ?」

「鞭の技術と筋肉の使い方がバラバラだったからだ。

本来のあいつは、相当な腕前の鞭の使い手のはずだ。

でも、筋肉に振り回されているから、力を上手く使えてないし、上手く鞭の技術を活かせてないでいる。

だから、全力で振った後の少しの間、力を上手く入れることができないから、その間なら弾かれることはないはずだ。」

「なるほどね。

でも、そこまでいう根拠はなんだい?」

「あいつが鞭の使い手の根拠は、お前が弾かれた時に拳ではなく、鞭を使って攻撃したことだな。

あの距離で、あの筋肉ならぶん殴った方が早いのに、鞭を使って攻撃した。

人は咄嗟の時は普段やっている行動、身体が覚えている行動をとるものだ。

つまり、あいつは拳よりも鞭の方が使い慣れている、ってわけだ。

筋肉に関しては、あいつが全力で振った後、短い間隔で鞭を振った時があっただろ?

その時のは楽に避けられる程度の威力と速度しかなかった。

つまり、あいつはその時は全力で振れなかった、ということになる。

そして、その理由として考えられるのが……。」

「全力で振った後は、しばらく上手く筋肉を扱うことができない、ってわけか。」

 

「そういうことだ。

俺達が話している時に攻撃しないのも、インターバルと外れた時に大きな隙ができてしまうから、それを避けるためだろうな。」

「なるほどな。

それはわかったが、お前が囮になるのは反対だ。

囮には俺がなる。」

「……残念だけど、それは承諾しかねる。」

「なんでだ?

お前は生身の人間なんだぞ?

なにかあったらどうするんだ?」

「それは違うぞ、しょうちゃん。

生身だからこそ、俺がやるべきなんだ。」

「……どういうことだ?」

「せっかく改造して人を超えたのに、ただの人に馬鹿にされたり煽られたら、中々くるものがあるだろう?

そういう意味で、俺がやるのが一番効果的なんだ。

それに、そもそもこれは俺が果たすべき復讐なのに、俺は煽るだけで肝心の所は人任せだ。

だから、これくらいのリスクは負って然るべきなんだ。

むしろ負わせてくれ、頼む。」

真っ直ぐ自分達を見つめる睦月を、二人は少しの間見ていたが、

「はぁ~、まったく。

こういう時は、絶対引かねえもんな~、お前は。」

「良くわかっているじゃねえか。」

「付き合い長いからね。」

ニヤリと笑う睦月に対し、大津は苦笑で返すしかなかった。

「まあ、そんな感じで隙を作るつもりなんだが、神無月。

お前にあらかじめ一つ言っておくが、あいつに隙ができたら、例え俺達になにがあろうと、振り向かずに必ず仕留めろ。

チャンスは必ず物にするんだ、良いな?」

「………わかった、必ず仕留めるよ。

その代わり、約束してくれ。

けして無理はしない、と。

それが約束できるなら、やってみせるさ。」

「……わかった、無理はしない。

約束する。」

睦月はそう言って二人に頷いてみせた後、ドマーの方に目を向けると、ニヤリと笑ってみせた。

「さて、待たせるのも悪いし、そろそろ始めますか。

じゃあ、頼んだぜ?

俺達の仮面ライダー。」

そう言って睦月は、ドマーの方へ向き直った。

 

 

 

 

そんなことを思い返しつつ、一気に決めるべく、ベストからステッカーを取り出そうとしたその瞬間、鞭を持つ方の手首が僅かに動く。

それに釣られ、鞭の根元から先端へ動きが伝わり、

ーピシャンー

 

と鞭の音が辺りに響いた。

「な!?」

「ふぅぅ、この状態でも、これぐらいの芸当できるわい。

そして、今の鞭の意味するものは……。」

「っ、こっちに来るな!」

「こうちゃん!」

その声に神無月は、ステッカーを取り出しながら横目で声の方を見ると、睦月に向かって犬達が迫っている姿が見えた。

「さあ、早く助けにいかなぁぁ!?」

しかし、それもドマーの言葉も無視してステッカーを投げると、両手に炎を纏わせながら強く踏み込み、

「散々漆憑思(さんさんななびょうし)!!

そーれ!」

技名を叫びながら、ステッカーを殴り始めた。

 

―ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドンドンドンドンドンー

 

後ろからなにかが崩れる音が響く中、神無月は一定のリズムを繰り返しながら、ドマーを殴り続ける。

「な、なぜだ!?

なぜ助けに行かない!?」

「約束したんだ。

なにがあっても、助けに行かない、ってね!

それに、僕まで行ったらお前を自由にしてしまう。

そっちの方がよっぽど危険だ!」

「ぐむぅぅ。」

「なにより、僕の狙い通りなら、もうそろそろ……。」

「ぬう?

どういうことだ、犬達が!?

貴様、なにをやった!?」

ドマーの反応から、自分の技が上手くいっていることを確認しつつ、神無月は殴り続ける。

「敵に教えてやるほど、僕もお人好しじゃないよ。

それに、なにがあってもあの二人なら大丈夫だって、僕は信じてる。

だから、僕は僕にしかできないことをやるんだ!!」

後ろで二人がなにかを叫びあっているのが、音の端端から聞こえてくるが、神無月は構わず殴り続ける。

「ぐぉぉぉ、お前らなにをやっている!

早くそいつ等を殺すんだぁぁ!!」

ドマーがそう叫ぶが、後ろの犬達に動き出す気配は感じられなかった。

技が上手く効いていることに安堵しつつ、神無月は更に一歩踏み出しながら腰を落とすと

 

ードドドドドドドドドドドドドドドドー

 

再び崩れる音が後ろから聞こえる中、連続で殴り始め、100発ぐらい殴ったところで、

 

ードン、ドン、ドンー

 

再び踏み込み、やや大振りの締め一撃を三発打ち込むと、ドマーはよろよろとしながら後退った。

 

 

 

時を巻き戻すこと、少し前。

 

「ふぅ、これでなんとかなるかな?」

ドマーの腹部に神無月の一撃が決まるのを見ながら、睦月は一人呟いた。

「…っ、あいたたた。

……やれやれ、あれは危なかったな~。」

そう言いながら、先ほど掠めた部分を軽く撫でると、軽い痛みを感じた。

頭も揺らされたため、未だに多少のふらつきが残り、先ほどああ言ったものの、避けられたのは本当にギリギリで、ほとんど偶然に近かった。

「このままでいるのも危険かな?

早めにしょうちゃんと合りゅ…ん?

……これは、…気をつけて動かなきゃ、かな?」

そう呟きながら動き始めた、その時だった。

 

ーピシャンー

 

という鞭の音が辺りに響いた。

音の方に目をやると、ドマーがこちらを向きながら笑みを浮かべていた。

その意図に気付き、周りを見ると既に犬達がこちらへ駆け始めていた。

瞬間的に彼は、自分の現状のヤバさを感じる。

彼としたら犬が襲いかかること自体は、別に大したことではない。

弾き飛ばせは良いだけなのだ。

だが、彼が今さっき感じた異変を考えると、今ここに来られるのは、非常に不味かった。

しかも、その後ろには彼を守るために大津が駆け寄っていた。

「っ、こっちに来るな!」

「こうちゃん!」

大津に向けて言った言葉を、彼は犬に向けて言った言葉と解釈したらしく、更に加速する。

「っ!」

無音の気合いと共に睦月は犬達に向かって走り出した。

自分に向かって飛びかかる犬達に対し、彼は急所を守りながらも犬達を受け止めるかの様に腕を広げ、腕や肩を噛みつかれながらも走り続ける。

睦月の行動に驚きながら、大津がなにかを叫ぼうとしたその瞬間、睦月のいた辺りの足元が突如ぐらつき始め、襲いかかろうとしていた犬達は足を止め、反転して離れていく。

「うぉぉぉ!!」

一方睦月は、噛みついた犬達の顎の付け根を軽く叩いて外しては投げ、外しては投げを繰り返しながら走り続けていた。

そして、最後の一匹を外したその瞬間に足元が崩れ、睦月の身体が落ち始める。

「だりゃぁぁぁぁ!!」

瓦礫を蹴って、ジャンプしながらも最後の一匹を放り投げ、崩れていないところへ手を伸ばすが、僅かに届かずに空を切ってしまう。

だが、

「うぉぉぉぉぉ!!」

駆けて来た大津が伸ばした手を掴み、身が乗り出した状態ではあったが、なんとか踏み留まることができた。

建物も半壊にはなったものの崩壊も止まり、二人は安堵のため息を一つ吐いた。

とはいえ、壁がなくなったのでよじ登ることも出来ず、自分達のいるところもいつ崩れるかわからない上、いつ犬達に襲われるかわからない危険な状況であることには変わりなく、二人の顔には焦りの色が浮かんでいた。

そこに、

 

ードンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドンドンドンドンドンー

 

神無月の音撃の音が、こちらまで響いてきた。

「始まったか。

……ん?」

「…?どうかしたのか?」

「い、いや、犬達が突然伏せ始めたんだ。」

「犬達が?」

そう言われて耳をすますと、確かに太鼓の音とは別に、なにかが座る様な音が混じっていた。

「なんでかわからないけど、今がチャンスだな。

待ってろ、直ぐに引き上げる。」

そう言いながら大津は力を入れるが、手を置いている辺りからミシミシと不吉な音が響いていた。

「しょうちゃん、手を離せ!

お前まで落ちるぞ!!」

「馬鹿言うな!

離したら落ちて死んじまうだぞ!」

「死神の数字を持つスナイパーは35階建てのホテルから落ちても死ななかったぞ?」

「あれは小さい用水路の水を使ったからだろ!!」

「五点着地を使えば、なんとか無傷で…。」

「いけるか!

それにあれは二階くらいまでだろうが!」

「……なら、フリークライミングで壁づたいに登れば…。」

「壁がないだろうが!!

そもそもあれは、ロケットの発射口からフリークライミングで登りきることができるぐらいの技術が必要らしいが、お前はそれができるのかよ?」

「あはは、無理無理。

あんなの人間技じゃねえ。」

「出来ねえ技を言うなよ!!」

縁を掴み、ツッコミながら力を入れて引き上げようとするが、力を入れ辛い体勢と踏ん張りが効かないため、睦月をなかなか持ち上げられない上、ミシミシという不吉な音はどんどんに大きくっていく。

そして更に、

「ぐぉぉぉ、お前らなにをやっている!

早くそいつ等を殺すんだぁぁ!!」

ドマーの叫び声が辺りに響き、その言葉に睦月は絶句した。

「なにを言っているんだ、この馬鹿野郎!!

今崩れ落ちる一歩手間のギリギリの状態のなんだぞ!

彼らまで来たらここは崩壊し、彼らまでそれに巻き込まれてしまうだろうが!!」

「……いや、多分それが狙いじゃねえか?

なんにしろ、急ぐぞ!」

そう言いながら大津が更に力を入れると、掴んでいるところにもヒビが走り始める。

「お、おい!止めろ!

ヒビが走ってんぞ!」

「そんなこと言ってもしょうがないだろ!

なら、どうしろっんだ!」

「……っ、しょうがねえ、ちと賭けるか!

おい!

俺を前後に振れ!なるべくおもいっきりだ!」

「なにをするつもりだ?」

「説明している時間はねえ!!

早くしろ!」

「っ、わかった。

いくぞ!」

その言って大津は、勢いをつける様に数回腕を上下させ、おもいっきり降り下ろした。

その勢いに乗って大津の寝転がっている床の反対側、下の階の天井に足をつけ、おもいっきり蹴って勢いをつけると、大津の肩を支点にして円運動をしながら屋上に着地した。

「っしょ!

すまん、助かった。」

「……本当になんでもありだな。」

そう言いながら苦笑する大津に、睦月はニヤリと笑って見せてから辺りを見渡すと、未だに殴り続けている神無月と、伏している犬達が見えた。

「今の蹴りで崩れるかもしれない、早く移動しよう。」

そう言いながら睦月が手を差し出すと、大津は頷きながら手を取った、その瞬間。

突然床がピシッ、ピシッと音を立てながら亀裂が走り、大津のいた床が崩れ落ちた。

「うわぁぁ!?」

「だぁぁ!?」

睦月のいた床が崩れ無かったことと、たまたま繋いでいた手のおかげで大津は下まで落ちずに済んだが、それでも危ない状態であることには変わりなかった。

しかも、睦月の足が上手く床に引っ掛からないため、力を入れて動かない様にしているが少しずつ身体が滑り、徐々に睦月の身体が端へ乗り出してきていた。

「っ、しょうちゃん早く手を離せ!

お前まで落ちちまうぞ!!」

「断る!

お前だって離さなかっただろうが!!」

「馬鹿野郎、俺とお前じゃ力も体重も違うだろうが!!

お前じゃ無理だ!!」

「成せば成るさぁぁ!!」

「成るかぁぁ!!」

懸命に力を入れる睦月だが、踏ん張りの効かない現状では今を維持するのが精一杯であった。

むしろ、どんどんずり落ち、既に上半身の三分の一が端から出ていた。

「俺のことは、もう良いんだ!

だから、手を離してくれぇぇぇ!」

「絶対に嫌だぁぁぁ!!」

「なんで離さない!?

死にたいのか!?

俺にお前を殺させたいのか!?

俺はあの人達を、本当の両親の様に慕い、大好きだったあの二人を守れなかった!

ぷー助も救うことが出来なかった!

だからせめて、せめてお前だけは守ると決めたんだ!

だから、頼む。

手を離してくれ、俺にお前を殺させないでくれぇぇ!!」

叫びながら懇願する大津を、睦月は少しの間だけ見つめた後、薄く笑みを浮かべた。

「少し思い違いをしてるぞ?しょうちゃん。」

「…え?」

「二人が殺されたのは、俺のせいだ。

お前のせいじゃない。

それに対して、お前が罪を感じる必要はない。

それにな、俺だって大事な人を死なせたくないんだ。

だから、この手は離さないからな。

絶対に、だ。」

強い意思の籠った目をしながらそう告げる睦月に、大津はなにも言えずにいたが、そんな二人の思いとは裏腹に、睦月の身体は既に二分の一ほど出始めていた。

 

「クソッ、せめて踏ん張りさえ効けば!」

睦月がそう言いながら更に力を込めた、その時だった。

 

ードンドンドンー

 

一際高い音を鳴らして、睦月の連撃が終了する。

身体をぐらつかせながら数歩下がるドマーだったが、

「…、…にを、なにをやっているぅ!

早く奴らを殺せぇぇ!!

私の言うことを聞かんか!

役立たず共ぉぉぉ!!

拾ってもらった恩を忘れ「いい加減にしやがれ、クソ野郎ぉぉぉ!!」…なにをぉぉ!?」

「なにが恩だ!

てめえの勝手な都合で操っているだけだろうが!

てめえが本当に欲しいのは、理解者でも、妻でも、心の支えでもねえ!!

都合の良い道具だろうが!!

まるで自分が悲劇のヒーローみたいな言い方しやがって、大の大人が情けねえことしてんじゃねえぞ、この大馬鹿野郎!!」

 

上体を無理矢理持ち上げ、真っ直ぐ睨みながら叫ぶ睦月に、ドマーは一瞬顔を真っ赤にさせるが、直ぐにニヤリとイヤミな笑みを浮かべた。

「ふん、友も救えず、今にも死にそうな奴に言われたところで、負け犬の遠吠えにしか聞こえから、なんとも感じんぞ?」

「ふっ、舐めんなよ。

こんぐらい、どうにでもしてやらぁぁぁ!!!」

睦月はそう叫びながら膝立ちになると、全身に力を入れて引き上げ始めた。

だが、彼の気持ちとは裏腹に身体は持ち上がらず、膝はズルズルと端の方に近づき始めていた。

「睦つ「来るなぁ!!」…!?」

「お前はそいつから離れるな!

このくらい、どうにかしてみせらぁ!!」

「ほう、その割にはどんどん引きづられているぞ?

このままでは、手を離し一人だけ落ちるか?

または共に落ちて、二人共に果てるかしかないぞ?

それに、例え今この場を凌いだところで、貴様等にあるのは死のみ。

行き着く先が一緒なら、今この場で楽になった方が良いのではないか?」

「いらねえアドバイスをどーも!

余計なお世話だ、こんちきしょう!!

行き着く先だとか、運命だとか、そんなの知ったこっちゃない!!

目の前で助けたい人がいるから助ける。

ただそれだけだ!

それに、もしもそんな下らない未来しか待っていないなら、自分自身で新しい未来を作りだすだけだ!!

抗い、戦い続ける!

最後のその瞬間まで、絶対に俺は諦めない!!

絶対にだ!!」

更に力を込め、目に強い意志を纏わせながら叫ぶ睦月。

膝は相変わらず端へと寄っていたが、先ほどと違って少しずつではあったが、大津の身体が持ち上がり始めていた。

「……ふん、ならば抗ってみると良い、抗えるのであればな!」

ーピシャッー

 

そう言いながら鞭を鳴らすと、伏せ続けている犬達がビクッと震えた。

「さあお前ら、あそこの不届き者を噛み殺せ!!

現実という物を、教えてやるのだ!!」

睦月を指差しながらドマーは叫ぶが、犬達はぶるぶる震えるだけで、動こうとしないでいた。

「………なにをしている。

早く行かぬか、この役立たず共がぁぁ!!」

 

怒鳴り声を上げながら鞭を二、三回振り鳴らすドマーに対し、犬達は少しの間伏せ続けていたが、

「……グル。」

一匹が短く唸り声を上げて立ち上がりると、睦月に向かって駆け出した。

すると、それに続けとばかりに次々と駆け出し、結局全匹が睦月に向かっていった。

「…っ、もういい!

お前のさっきの気持ちで十分だ!!

だから、俺の手を「残念だが、無理だ」っ、なんでだ!?」

「離したところで、今更間に合わんさ。

それに、さっき言っただろ?

俺は最後のその瞬間まで諦めない、ってな。」

「馬鹿野郎ぉぉぉぉ!!」

怒鳴り声を上げる大津に対し、睦月は柔らかい笑みを浮かべ続けていた。

そんな彼の身体に、犬達が次々と噛みついていく。

「はっははは、残念だったな!

これで奴も終わりだぁ!!

ぐわぁはっははは!!」

「……それはどうかな?」

高笑いをするドマーを他所に、神無月は静かにそう呟いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。