途中、謎解きもありますので、暇な方は解いてみてください。
わからなくても、特に支障はないので、飛ばしていただいても構いません。
「お待ちくださいませ、天慢寺(てんまんじ)様。」
後ろから聞こえたその言葉に彼女は動きを止め、ゆっくりと後ろを向くと、
「そやつら程度、貴女様のお手を煩わせるまでもございませんよ。」
そう言いながら扉の影から、髭を生やしたヨボヨボの白髪のおじいさんが出てきた。
「……へ~、人狼族の誰かが来るとは思っていたけど、あなたが来るとは思ってなかったな~。」
「一族の者が迷惑をかけたのです。
まず、きちんとお詫びを申し上げようかと思いまして参りました。
今回の件、本当に大変申し訳ございませんでした。」
そう言いながらおじいさんは、頭を深々と下げた。
「今回の件は、我が一族の者の不始末でもあります。
けじめをつけるという意味でも、どうか我々にお任せください。」
「………わかったわ。
そこまで言うなら、あなたに任せるわ。
その代わり、しっかりやりなさいよ?」
「ありがとうございます。」
そう言いながらおじいさんは再び頭を下げた後、ゆっくりとこちらを向いた。
その瞬間、凄まじい殺気が俺達に襲いかかってきた。
その殺気は、目の前のヨボヨボなおじいさんが出しているとは信じられないほどに、強烈なものであった。
……なるほどな。
人は見かけによらない。って言うが、このおじいさんも、ってわけか。
「……恩を仇で返すとはな、生助。」
「うるせえよ。
普段は気にもしないくせに、偉そうに言ってんじゃねえよ。」
「……知り合いなのかい?」
「……あのじいさんは、この一帯の人狼族の長でな、一応俺の保護者だ。」
「あぁ、あの人がお前の言っていた人か。
見たことがなかったから、わからなかったよ。」
「まあ、保護者っと言っても、名義上で必要だから名前を借りているだけで、基本的に一人暮らしだからな。
見たことないのは当然だな。
で、その名義上の保護者様が、なんの用だ?」
「保護者としてお前を連れ帰りに来た。
それ以外の理由があるか?」
「はあ?
なにを言っているんだ、あんた?
今まで放っておいて、今更保護者面するな!」
「……ふぅ、予想通りの反応、か。
……ならば、仕方ない。
力づくで連れて帰るとしよう。」
「おいおい、力づくとは穏やかじゃねえな。
そんな暴力的な方法じゃ、なにも解決しないぞ?」
「黙れ、小童!!
なにも知らん者が、横から口をだすんじゃない!
そもそも、貴様が余計なことをしたから、こんなことになったのだぞ!!
わかっているのか!!」
「……たしかに。」
「……ごもっともな意見だな。」
「お前らはどっちの味方だぁ!!」
『正しい事を言っている方の味方だ。』
「……さいですか。」
間髪入れずに声を揃えて返された答えに、俺はガクッと肩を落とした。
視界の端の方では、天慢寺とおじいさんが酷く戸惑った表情をしていた。
いやまあ、気持ちはよくわかるけどね。
「と、とにかく、無理矢理連れて行かせる気はない!
もちろん、神無月も同じ気持ちだろ?」
「……ん~、僕としては別にあなた達が彼を連れ帰って、なにをしても別に構わない。と思っている。」
『いやいや、よくねえだろ!!』
「だが、あんた以外に誰もいないんだが、僕達を相手にあんた一人でやるつもりなのか?
そうだとしたら、僕達を相当舐めてるとしか思えんのだが?」
「ふん、慌てるな、小童。
言ったであろう、我々に、と。」
そう言いながらおじいさんが手を二回ほど叩いたかと思うと、ビルの壁を登ってきた八人の人狼が俺達を囲う様に現れた。
「な!?
おいおい、マジかよ。
……っ、この人達を呼ぶとか、じいさん本気みてえだな。」
「ん?こいつらがどうかしたのか?」
「…俺達人狼族は実力社会でな、それぞれ順位が決まっているんだ。
そして、例え若くて問題が多い奴でも、順位が上ならば低い者に対してなにしても、ある程度は許されてしまうんだ。
もちろん、一族内での話だがな。」
「……まるでカースト制だな。
文句あるなら、こいつよりも強くなれ!ってか?」
「ああ、その通りだ。
順夜祭てのが満月の夜にあって、この辺りの人狼族が集まって実力を競い、そこで順位を決めるんだ。
そして、上位十位の奴らを、俺達は十狼士と呼んでいて、この人達はそのメンバーだ。
特に、じいさんの右隣にいる奴は、その中でも第二位の実力者だ。」
「……へ~。
これで、ねえ。」
グルルっと唸り声を上げる人狼達を、俺がそう呟きながら一通り一瞥すると、心なしか唸り声が強くなった気がした。
「お~、お~、殺気だっているねえ~。」
「お、おい、いつもの調子で、あんまり挑発するな。
冗談抜きで強いんだぞ!」
「ん~、と言われても「おい、人間。」……な?」
「さっきから聞いていれば、べらべらと好き勝手言いやがって!
貴様ら劣等種は、俺達の言う事を全てハイって言っていれば良いんだよ!!
むしろ、ハイ以外言うんじゃねえ!!」
生助の言葉に微妙な表情をする俺に、周りにいた人狼の一人がそう言いつつ、肩を揺らしながらこちらに近づいて来た。
……なんて言うかこの人、そこら辺のヤンキーみたいな人だな。
「ん~、どうした?
怖くて声もでないか?」
そんなことを考えていたら、どうやらこちらがビビっていると勘違いしたらしく、上機嫌になりながら喋ってくる。
「お前らの生死与奪権は、俺達にあるんだよ!
だから、俺達に大人しく従っていれば良いんだよ!
わかった?理解したか?
わかったんなら、返事しやがれ!!」
「はい、はい。」
仕方なく、という感じが満載の返事で返すと、上機嫌だった笑みがピシッと固まった。
「……テメエ、小さい頃に親に返事の仕方を習わなかったか?
ハイは一回で良いって言われなかったか!?」
「はい。」
「そうか。
なら、もう一回聞いてやる。
お前らは、俺達に大人しく従っていれば良いんだよ!
わかったか!!」
「は~~~~~~~~~~~~~~い。」
…おや?おかしいな?
注文通りに一回しか返事してないのに、なんか怒っているぽいぞ?
「……お前な。」
「…君って奴は。」
そして、友人達は俺を見て呆れた表情をしていた。
しかし、そういう台詞は、頬をピクピクとしながら言う台詞ではないぞ?「テメエェェ、馬鹿にしてんのかぁぁ!?」
「ハイ!(断言)」
「テメエ、ふざけんなぁぁぁ!!!」
おもいっきり降り下ろされた手を避けて距離をとると、俺はため息を一つ吐いた。
「はい、はい。
はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい、はい。
はいはいはいはい、はい。
、
はい、はい。
はいはいはいはいはいはい、はいはいはいはいはい。
はいはいはいはいはい、はい。
はいはいはいはいはい、はいはいはいはいはい。
はいはい、はい。
?」
「………は?
なんだって?」
「はい、はいはい。
はいはいはいはいはいはいはいはい、はい。
、
はい、はい。
はいはいはいはいはいはい、はいはいはいはいはい。
はいはいはいはいはい、はい。
はいはいはいはいはい、はいはいはいはいはい。
はいはい、はい。
。」
言い終わった俺を、彼は困惑した顔で見ていた。
まあ、わからないだろうな~、とは思っていたけどね。
「……お前、それはひどくないか?」
おや?
流石親友、よくわかったな?
「長い付き合いだからね。
前に似た問題だされたから、すぐわかったよ。」
なるほど。
……って、俺一言も喋ってないけど、よく俺の考えていることがわかるな?
「表情見れば、なんとなくわかるさ。」
さいで。
「~~~、だぁぁ!
さっきから、勝手に話してんじゃねえぇぇ!!
だいたいテメエは、さっきからなにわけのわからないことを言っているんだ!」
「……それは多分、さっきあなたが言った、ハイ以外は言うな。っていうのを、律儀に守っているだけだと。」
「はい。」
「そんなこと知るかぁ!!
っていうか、そんなもん、臨機応変に切り替えやがれぇぇ!!」
「はいはいはい、はいはい。
はいはいはいはいはいはいはいはいはい、はい。
はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい、はい。
はいはいはいはいはいはいはいはい、はいはいはい。
、
はいはいはい、はいはいはいはいはい。
はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい、はい。
はいはいはいはいはい、はい。
はいはい、はいはいはいはいはい。
はいはいはいはい、はいはいはいはいはい。」
無茶苦茶な相手の言葉に、俺がため息を吐きながら答えていると、神無月が呆れ顔でため息を一つ吐いた。
「………そろそろ終わりにしておきなよ。
僕の方も、そろそろ解読するのが面倒になってきたよ。」
「……ん、わかった。」
まあ、俺も濁点や促音を外した文を考えるのが面倒になってきたし、丁度良かったかな?
「……余興は終わったか?」
そう言っておじいさんはため息を一つ吐きながら、俺達を呆れ顔で眺めてた。
……まあ、気持ちはわからんでもないけど。
って、そう言えば、
「今更だけどお前のじいちゃん、なんて名前なんだ?」
「ん?
ああ、そういえば言ってなかったな。
じいちゃんの名前は「言う必要はない。」…っえ?」
「これから死に行く下等種に、我らの名前を教える必要はない、と言ったのだ。」
そう言いながらおじいさんの横にいた男が、ゆっくりと数歩前に出る。
「やれやれ、随分とう「黙れ。」……え?」
「貴様の言葉など聞いていないし、聞く必要もない。
そもそも貴様の様な下等な輩が、我々と一緒の場にいること自体がおこがましい。」
男は蔑む様な目をしながら、俺達に向かってそう言い切る。
しかし、
「………ん~、随分と偉そうだけど、そんなに大層な存在なのか?
正直、さっきの奴とあんたを見てると、そこら辺のヤンキーや、チンピラが良いところだけど?」
「まったくだ。
っていうか、まだそんなくだらないこと言ってのか、あんたらは。」
「ふん、優れた肉体と能力を古(いにしえ)より受け継いできた我々の偉大さを、貴様の様な混ざりものや、ただの人間にわかるはずもない。」
「古?混ざりもの?」
「ああ、そうだ。
我々は古き時代より、高貴で優れた純粋な血筋を受け継ぎ続け、それに誇りを持っていた。
だが、お前の隣にいるその男の母は、あろうことか下等な人間の男に恋をし、駆け落ち当然で一族から飛び出した後、一人の赤子を産んだのだ。」
「それがしょうちゃん、ってわけか。」
「もっともその二人は、数年前に事故で死んだがな。
まあ、我々の血筋を汚した天罰が下ったんだろうな。
その後、一族でこいつを引き取り、育ててやったのだ。
とはいえ、弱くて気がきかないため、召し使いとしても人狼としては使えぬし、しかもこの男、満月の夜にしか満足に狼化ができない出来損ないときた。
出来損ないは出来損ないらしく、そのまま大人していれば良かったものを、よりによって人間につくなんてな。
所詮は誇りを捨て、人間の男と一緒になった馬鹿な女の子供、っていうわけか。」
男がそう言うと、周りから下卑た笑い声が漏れ、辺りを包んだ。
その笑い声を生助は黙って聞いていたが、先ほどよりも眉間の皺は増え、両腕はプルプルと小刻みに震えていた。
「それに、ドマーとか言ったか?
貴様ら程度にやられるぐらいだ、大した奴ではなかったんだろうな。
そもそもただの人間が、我々の上であったのが間違いだったのだ。
初めから我々に任せておけば、今回の無様な結果にはならなかったにちがいない。」
周りの奴らも男と同意件だったらしく、その言葉に何度も深く頷いていた。
そんな彼らを尻目に、俺はため息を一つ吐くと、おじいさんの方に向き直った。
「………なあ、おじいさん?」
「ん?私か?」
「おい、てめえ。
なに長に気軽に話しかけているんだよ!」
「はい、二つ聞きたいことがあるんだけど、構いませんか?」
「無視するんじゃねえ!」
自分の言葉を無視して話を進め様とする俺に腹がたったのか、取り巻きの一人が俺の襟を右手で掴み上げた。
それに対し俺は、掴んできた手の手首を右手で掴むと、合気道の要領で腕を逆関節に極めながら頭に足を乗せると、震脚の要領でおもいっきり踏み込んだ。
ードゴーンー
という音と共に床に頭を叩きつけられ、男は床を陥没させながら気絶してしまった。
叩きつけた時の足の裏に感じた骨の砕ける音や、感触に僅かに眉をひそめるが、特に気にせずに足をどかしながら極めた腕を離すと、体の横に沿うように力なく倒れた。
一瞬、死んでしまったか?と思ったが、ぴくぴくと痙攣している辺り、恐らく死んではいないだろう。
まあ、踏んだ時の感触から、顎は粉砕骨折になっていると思うから、人狼としては終わったかもだけどね。
………しかし、
問答無用でこれをやる辺り、そうとうキテるな、俺。
こりゃ、早めに話しを終わらせた方が良いな。
そう思いながら顔を上げると、目の前のおじいさんと以外は、目を丸くしながら唖然としていた。
特に周りの人狼達と天慢寺は、なぜだかかなり困惑していた。
……まあいっか、気にするほどのものではないしな。
さてと、
「二つ聞きたいことがあるんですが、構いませんか?」
改めて言い直しながら、俺はニッコリと微笑んだ。
うん、大事なことだから、二回言わないとね。
周りは若干引きぎみだったけどね。
なんでだろう?
「私が答えられる範囲でよければ、良いぞ?」
「ありがとうございます。
では、まず一つ。
この子達、逃がしても構いませんか?」
そう言いながら俺は、生助の足元にいる犬達を指差した。
「彼らは巻き込まれただけだ。
そちらも、自分の眷族をこれ以上巻き込みたくないはずだ。」
「……ふむ。
……一つ尋ねるが、構わんか?」
「どうぞ。」
「私自身は構わない。
が、それをしてお前になんの得がある?」
「ん?いや、ないよ。
強いて言えば、多少動き安くなるぐらいだ。」
「ならば、なぜ得にもならないことを聞いた?」
「彼らには、さっき救ってもらったからな。
そのお礼だよ。」
「……そんな理由で、か?」
「それ以外に、なにか必要か?」
肩をすくめるながら言った俺を、おじいさんは眉をひそめ、顎に手をやりながら静かに俺を見つめてきた。
その目は、俺の真意を探っている様にも見えた。
「………天慢寺様。」
「なあに?」
「この小童の願い通り、我らの眷族を逃がしたいのですが、構わいませんか?」
「うーん。
………ま、いっか。
良いよ、逃がしても。」
『ありがとうございます。』
了承した彼女に、俺とおじいさんは揃って頭を下げた。
「……いや、なんでお前まで頭下げて、お礼を言っているんだ?」
「そして、なぜ敬語?」
「ん?
いや、お願いを聞いてもらったら、普通お礼を言うもんだろ?
それに、初対面の女性にタメ口をきけるほど、俺の器量はでかくねえよ。」
「……なるほど、君らしいよ。」
「ああ、そうだな。
お前はそういう奴だったな。」
「なんか、私も調子が狂いそう。」
そう言いながら三人は、ため息を一つ吐いた。
……あれ?
俺なんか変なことしたか?
……まあ、いっか。
「では、許可を得たので、…エフン。
わん、わんわんわんわん。
わわわわわわわん、わわわん!」
俺がそう言うと、ほとんどの子達が扉に向かって歩き出したが、二匹の犬が俺のズボンの裾を噛んで、ぐいぐいと引っ張ってきた。
俺を見つめる目から、一緒に行こう?って言っているのがわかった。
「バウ!
わうわう!」
「クゥ~ン?」
「グルッ!
わぅん、わわわん。」
「キュ~ン?」
「グルッ。」
『クゥ~ン。』
「……わん、わんわんわん。
わぅん、わわわん。」
俺の最後の言葉に、二匹は項垂れながらゆっくり扉へ向かって行った。
そして、扉を潜る直前にこちらをチラッと見た後、タッと走り出して行った。
「……達者でな。」
俺は最後にそう呟くと、改めておじいさんの方へ向き直った。
「………では、もう一つの質問なん「ちょっと待って!」…で?」
「で?じゃないでしょよ。
なんなのよ、今の!?」
「?
会話していただけだけど?」
「なに変なことを聞いているの?的な顔をしながら言うな!
どう考えたっておかしいでしょ!
あなた達だって、そう思うでしょ!」
そう言って、彼女は周りを見た。
が、
「犬語を話せるのって、そんなに変なのか?」
「俺達は普通にしゃべっているしな?」
「僕は二回目だから、そこまでは、って感じかな?」
「昔からなので、今更な感じです。」
「あ、あれ?
なんでみんな普通なの?
あれ?
私が違うの?」
そう言いながら彼女は、片手で頭を抑えながら頭をふらつかせていた。
訳のわからないことでダメージをあたえたみたいだけど、周りが人狼プラス敵の状態なら、まあこういうことになるわな。
後編は来週の土曜日(7/28)を予定しています。
今回の謎解きの答えもその時に。
ちなみに、謎解きのヒントとしては、睦月の最初の言葉は一番最初の単語、二番目は一番最後の単語、といったところでしょうか。
では。