どうぞ。
「オスッ、お疲れさーん。」
戦闘を終えて振り返えった神無月に、俺は腕を組みながら手を振った。
ちなみに、俺の戦闘は既に終了しており、二人の戦いを見守っていた。
「………………いやいやいやいやいやいやいやいや、おかしいだろ!
なんで君の方が早いんだよ!」
「なんでってそりゃ、お前のフォームみたいに学習しながら戦っているわけじゃないんだから、時間はかからないのは当然だろ?」
「……え?」
「学習能力特化ってところかな?
しかし、経験すればするほど強くなるとか、随分と俺好みの能力だな、それ。」
「……このフォームの特性、彼らはわからなかったのに、君はよくわかったね。」
「寧ろわからないっていうのが、俺には理解出来んのだが?」
そんなに難しいく、解り辛い能力ではないんだけどな?
最初と最後は明らかに能力が違っていたし、動きも洗練されていたしな。
まあ、進化が異様に早いとフォームと思えば、まあ間違ってないかな?
「まあ、頭が悪そうな人達だったしね、しょうがないんじゃないかな?」
「いいのか?
それで?」
「いいのさ、これで。」
「……まあ、割りとリスクがあるフォームぽいからな、相手があいつらで丁度良かったのか?」
「…リスク?
なんのことかな?」
「安心しろ、言いたくないだろうし、これ以上聞く気もないよ。
その代わり、そのリスクのことはきちんと把握しておけよ。」
「……うん、わかってるよ。」
俺の言葉にゆっくりとだがしっかりと答えながら頷く神無月に、俺は少し安心しながら前に視線を戻した。
その視線の先には、
「はぁ!ほぉ!」
「ふん!せい!」
二人の人狼が互いの攻撃をかわしながら、しのぎを削っいた。
「……状況はどうなんだい?」
「……一応見ての通り、」
「はぁぁぁ!!」
「おぉぉぉ!!」
『ふん!!』
互いに気合いと共に放った一撃は、真っ正面からぶつかり合い、弾き合うが、二人共すぐに体勢を整えると、再びぶつかり合った。
「互角、いや、勢いを考えるなら、生助がやや押している。
が、」
「が?」
「………相手は腐っても第二位だ。
このまま終わるとは、到底思えない。」
「……だよね。」
苦い表情の俺に、神無月も心配そうな声色で返しながら頷いた。
「はぁ!」
「ふん!」
……ちくしょ、わかっていたけど、やっぱり強いな、この人は。
そう毒づきながら俺は、第二位の男こと、梅沢 克郎(うめさわ こくろう)の攻撃を皮一枚で避け続ける。
先ほどから攻撃しては避けられ、攻撃されては避けてを繰り返していて、なかなか主導権を掴めないでいた。
もっとも、彼が強いということは第二位という順位からわかってはいた。
というのも、十狼士のメンバーは割りと変動しやすいのだ。
特に下位(八、九、十位)はかなり拮抗しており、運やその日の調子等で変動しやすく、高い頻度で入れ替わっている。
中位(四、五、六、七位)となると、そこまで大きな変動はないものの、それでも入れ替わりはそれなりにあったが、上位(一、二、三位)となると別格で、ここ数年変動は一切無かった。
ちなみに、順夜祭に一切参加も見学もしていないのに、なぜそれがわかるかというと、宴会の給仕はさせられた時に相手をさせられていたのが、だいたいが十狼士のメンバーだったからだ。
入れ替わりの激しい下位の人達の名前と顔を覚えるのが激しく面倒くさかったし、俺や母さんのことを馬鹿にされたりもして嫌な思いもしたけど、おかげで顔と名前を一発で覚えられる様になった上、香さんとも知り合えたから良しとする。
そんなわけで、奴が伊達や酔狂、運で第二位を名乗ってないことは知っていた。
だが、
「………それが、…どうした!!」
それでも尚、二人は自分を信じて送り出してくれたのだ。
神無月はわからないからともかく、観察眼が優れている好子が本当に無謀なことをさせるとは、俺には到底思えなかった。
なんだかんだで長い付き合いで、俺を信じてくれた親友は、そういう奴なのだ。
つまり、例え細かろうと勝てる見込みがあるから、俺の背中を押してくれたのだと俺は信じている。
だから、ともすれば萎えそうな自分の心を叱責しながら、俺は一歩強く踏み込んだ。
それに対して梅沢は、迎え打つ様に右手の爪で攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃を俺は敢えて避けず、左腕を盾にしてガードしつつ、更に踏み込んで奴の顎に突き上げる様に掌底を食らわした。
「ぐぅむ!!」
まともに食らった一撃に、梅沢から初めてぐもった声が聞こえてきた。
ここが好機と感じた俺は、まず左右のボディーブローを入れ、頭がこちらへ落ちてきたところへ再び顎へ左の掌底を突き上げた。
そのまま左手で梅沢の首の毛を掴むと、自分の方へ引き寄せて、その顎へ向けて膝を一閃。
そしてはね上がった頭へすかさず右の後ろ回し蹴りを放つと、バキッという音が辺りに響き、梅沢の巨体が揺れた。
「おお!!」
後ろから聞こえた声に勢い付きながら、返す足でふらついた頭へ右の上段蹴りを放とうとした、その瞬間。
「しょうちゃん、止めろぉぉぉ!!
罠だぁぁぁ!!」
好子の声が後ろから響き、俺は慌てて蹴りを止めて後ろへ下がった。
なんで下がったのか?と問われれば、なんとなくとしか返せないが、あの時は下がってしまった。
結果として、それは正解だった。
なぜならば下がったその直後に、凄まじい勢いで梅沢の蹴りが、俺の居た場所を通り過ぎたからだ。
「………後ろの男に感謝するんだな。
とはいえ、これを避けるとはな。」
それを驚きと喜びが混じった表情で言いながら梅沢は足を下ろし、コキコキと首を鳴らした。
「……おいおい、マジかよ。
わりと本気の攻撃だったんだけど?」
「ほぉ~、そうか。
まあ、なかなか良かったぞ?
だが、その程度で第二位たる俺を倒せると思うのは、いささか舐めていないか?」
「………ごもっともで。」
そう言いながら構える二人は、ジリジリと距離を縮め始め、再び詰め合って打ち合いを始めた。
「………ふ、普通に動いているけど、あのラッシュが効いてないのか?」
「まるっきりってわけではないだろうが、ほとんど効いていないみたいだな。」
上擦んだ声を上げる神無月に、俺は苦虫を噛んだ様な表情をしながら頷いた。
予想してたとはいえ、実際に目にすると結構きついな。
「だ、だけど、あんなに頭を揺らしまくっていたのに、なんで無事なんだ!?」
「………なあ、神無月。
相撲って知っているか?」
「え?あ、ああ。
日本の国技だからな、知っているけど。」
「その人達の突っ張り、威力どのくらいか知っているか?」
「い、いや、知らんけど。」
「およそ一トンって言われている。」
「トン!?」
「ちなみにぶちまかし(ぶつかっていくやつ)は、軽自動車に跳ねられたのと、ほぼ同等の威力らしい。
なんにしろ、どちら共本気の一撃を普通の人が受けたら、ほぼ確実に即死する。」
「そ、それはすげえな。
だけど、それとなんの関係が?」
「そんな一撃を日常的に顔面とかに受けて、なんであの人達は無事なのかというと、鍛えられた首のおかげなんだ。
当たった威力を、あの野太い首の筋肉がクッションになって、打ち殺しているんだ。」
「………つまり?」
「……簡単にいうなら、あいつにも同じことが起きているんだ。
しょうちゃんの蹴りは、あいつの首の筋肉のせいでほとんど効いていないんだ。」
「だけどあいつ、相撲選手みたいに太っていないぞ?」
「別に太っていないといけないわけではない。
首の筋肉がかなりついていれば、それでいいのさ。
……しかし、相手が人狼だとわかった時点で首のことを気づくべきだったな。
しょうちゃんの方も、そこら辺に実戦不足の弊害がでちまったか。」
「ちょ、ちょっと待って。
ど、どいうことだ?
なんで人狼だと首の筋肉が強いになるんだ?
意味がわからないぞ?」
困惑気味の神無月を横目で見たあと、俺は人差し指をおでこに付けながら口を開いた。
「……いいか?
噛む力っていうのは、咀嚼筋という骨格筋が、首や頭の他の筋肉と連動して生まれるんだ。
また、頭っていうのは意外と重くてな、体重の十%は頭の重さと言われている。
なので狼を始め、四足歩行の生き物は頭を支えるために首の筋肉が発達しているんだ。
それが結果、噛む力が上げることに繋がっているんだけどね。
そんな訳で、狼の頭を持つ彼らの首や噛む力がかなり発達していると想定するのは、ある意味当然と言えば当然なことなのさ。」
「な、なるほど。」
そう言いながら頷く神無月を横目で見つつ、俺は第二位の男と生助の攻防を見続ける。
「だから人狼を倒そうと思ったら、お前の時みたいに圧倒的な力か、俺の時みたいに色々な技能を持ち合わせていないと、かなり厳しい。
また、同じような体格の人狼同士の戦いは、僅かな力や技能の差によって勝敗を決する可能性が非常に高いと思う。」
「なるほどな~。
………!?
な、なあ睦月?」
「ん?」
「それって、さ。
…………もしかして不味くないか?」
「ああ、もしかしなくても不味い。」
なんせ相手は百戦錬磨の第二位様、片やこちらはなんの予備知識もない新人。
どう考えても旗色が悪すぎる。
「それで勝てとか、無理なんじゃないか?」
「……いや、なくはない。」
「え!?
本当か!?」
「ああ、とても細い細い道筋だが、一つだけある。
が、問題はあいつがそれに気付き、実行できるかどうか、だな。」
そう言いながら俺は、組んだ腕を強く握りながら二人の攻防を見続けた。
「おらおらどうした!?
さっきまでの勢いはどこへ行った!!」
「くっ!」
梅沢の猛ラッシュに俺は呻き声を上げながらも、なんとか捌き続けていた。
どうにかして攻撃に転じなければ、とは思うも、俺はそのタイミングを図れずにいた。
「……ふっ。」
そんなことを思っていると、突然梅沢は攻撃を止めると、俺から距離を取る様に一跳びして離れた。
怪訝な顔をしながら見つめる俺を見ながら、梅沢はため息を一つ吐いた。
「……おしいな。」
「……は?」
「…なあ大津よ。
…俺の右腕をやる気はないか?」
唐突過ぎるその言葉に、俺は一瞬呆気にとられ、そして、「はぁぁぁぁぁぁ!?」
と叫んでしまった。
次回は9/7予定です。