では、後編です。
「なにをいきなり言っているんだ、あんたは。」
「……確かにいきなりだな。
正直なところ、今までお前を半端者と見ていて、舐めていたところはあった。
そのために、正当な評価を出せてなかった。
それに関しては謝ろう。
すまなかった。」
そう言い、深々と頭を下げる梅沢の姿に、俺はかなり動揺していた。
むしろこの状況下、動揺しない方がどうかしていると思う。
梅沢の真意が読めず、なんとも言いよどんでいると、頭を上げた梅沢がゆっくりと口を開いた。
「大津、お前は強い。
俺に届かないにしても、今から十狼士の上位に食い込める位の実力はある。
だからこそ、今ここでお前を失うのがおしい。
もし、お前が俺の右腕になると言うのなら、命は救ってやれる。
無論、完全にではなく、多少の制限はあるだろう。
だが、ここで命を失うよりは良いはずだ。
それに右腕になれば、今の立場からも脱却できるはずだ。
今までのことを全て水に流してくれとも言わない。
だがもし、お前も望んでくれるのであれば、どうか俺と共に人狼達のために戦って欲しい。」
「………今まで散々人のことを色々言っておいて、随分と虫の良い話だな。
それにあんたは良くても、他の奴はどう思うかな?」
「虫が良いのは百も承知だ。
だが俺は、どんな奴でも必要ならば受け入れることにしている。
周りの奴に関しては、俺に任せておけ。
第二位の権限において、文句は絶対に言わせない。
もし必要ならば、そこの人間達も助けられる様に尽力しよう。
だから意地を張らず、力を貸してくれ。
もし力を貸してくれるのであれば、この手を取ってくれ。」
そう言って梅沢は、笑みを浮かべながら右手を前に差し出した。
それに対して俺は、その手をただ見つめるだけだった。
突然のことだったから、戸惑いは確かにあった。
だが、それ以上に梅沢の笑みがなぜか引っ掛かり、二の足を踏んでいた。
「……別に、嫌なら取らなくてもかまわない。
ただし、その時はお前を敵と見なし、容赦なく殺す。
命乞いもその時心変わりしても、なにも聞く気はない。
後ろの奴ら共々血祭りに上げてやろう。」
そう言いながら梅沢は、先ほどの柔らかな笑みとはうって変わって、高圧的で冷たい笑みを浮かべていた。
それを見ながらようやく察した俺は、ため息を一つ吐いた。
つまりこれは、勧誘に見せかけた。
「………最後通達ってわけか。」
「どう受け取ってくれても構わんが、これが最後であることは違いはないな。
そして、お前を失うのがおしいと思ったのも本当だ。
そうでなければ、問答無用で既に始末している。
お前達がどういう仲なのかは知らんが、あんな奴のために命をかける必要があるのか?
そこまでする価値があるのか?
それよりもこれからは、同じ人狼族として、俺達と共にやっていこうじゃないか。
死か?共に生きるか?
好きな方を選ぶと良い。」
そう言い答えを迫る梅沢を見ながら、俺は答えに迷っていた。
これが俺一人なら問題ない、即否定する。
だが二人の、好子の命がかかってくると、話はまた違ってくる。
梅沢の右腕になるなんて嫌だったが、正直なところ、このまま戦っても梅沢に勝てる気がしなかった。
そして俺は、たとえどんなことがあったとしても、あいつだけは、好子だけは絶対に死なせる訳にはいかなかった。
だから、たとえ本意でないとしても従うべきか?と思った、その時だった。
「ふわぁぁぁぁぁぁ。」
誰かのなんとも間の抜けた声が、辺りに響いたのだ。
……いや、誰かなんてわかっているんだよ。
長い付き合いだから、それこそ気配だけでわかるさ。
お前がどんな奴かも重々承知だ、それなりに考えがあんだろう。
だけどな、だけど、
「今このタイミングで、なんで欠伸こいてんだよ、お前は!」
「んあ?」
しかも大欠伸で、悪気も一切なさそうである。
「……なにを考えておるのだ、あの男は?」
「流石にあり得ない反応ね。」
「なにやっているんだ、君は!」
その行動には敵味方問わずに非難し、
「………あれがお前の守ろうとした男、か。
なんとも随分な反応だな。」
「…………。」
梅沢の皮肉に、俺はなにも返すことができなかった。
とても残念なことに、梅沢の言葉は俺の心境その物だった。
ちなみに、言った当の本人の反応はというと、
「……うわ~、なんかスゲーボロクソに言われてんな~。」
と言いながら、ケタケタと笑っていた。
……うん、そろそろこいつを殴っても良いと思うんだけど、構わんよね?
「……笑い事じゃないと思うんだが?」
「いやいや、こんな小芝居や茶番劇を見てたら、誰だって笑いたくなるし、欠伸もでるさ。」
「……茶番劇?」
「小芝居だと?」
「ああ、こんな答えや結果が見えている問答なんて、見てるだけ退屈ってもんさ。」
「ほぉ、それは興味深い。
是非どんな結果になるかを教えて欲しいものだ。」
「敵になんでもかんでも情報をやるほど、俺はお人好しではないさ。
ただ強いて言うなら、ある奴の答え次第で味方と敵の数が上下する、ってぐらいかな?」
「ほぉ、ある奴の答え、ねぇ。」
そう言いながら梅沢は、俺の方へ視線を向けてきた。
いや、梅沢だけではない。
今この場にいる全員の目が、俺に集中していた。
正直、勘弁して欲しい。
「あ、あと生助。」
「ん?」
「お前に一言言っておくが、人を負けの理由にするのは止めてくれ。」
「………は?」
「だから、人を負けの理由にするのは止めてくれ、って言ったんだ。
はっきり言って迷惑だ。」
「……いきなりなにを言っているんだ、お前は?
誰もそんなこと言って…。」
「言ってなくても、それき近いことを思っただろ?」
「………なんでそう思うんだ?」
「むしろ、なんで気付かねえと思ったよ?
長い付き合いなんだ。
お前がなにを考えているかなんて、気配でなんとなくわかるわい。
まあ、お前があいつの軍門に下るのは別に構わんよ。
お前の人生だ、好きにしろ。
ただ、その理由はお前が弱かったからで、間違っても俺のせいにすんじゃねえぞ。
………まったく、自分の弱さを棚に上げて、人のせいにするなん「………せえよ。」……ん?」
「うるせえよって言ったんだよ、この馬鹿野郎!
黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって、お前はそんなに俺に喧嘩を売りてえのか!?」
「それは心外だな、俺は欠片だって売った覚えはないぞ?
俺はただ事実を言ったまでだぞ?」
「ふ・ざ・け・ん・な!
なにを持ってそんなことを言ったのかは知らないが、そんなことは欠片だって思っていない!!」
「ほぉ、あくまでも白をきるってわけか?」
そう言いながら詰め寄る俺に合わせて、好子も合わせて詰め寄ってきた。
「だいたい、負けると思って戦う訳がないだろうが!
適当な事を言ってくんじゃねえよ!」
「ほぉぉ、耳を情けなくへたらせていたやつが、なに偉そうに言ってんだ?
そういう台詞は、一切折れない心と覚悟を持ってから言うんだな!!」
「ほう、つまりなにか?
俺には覚悟が足りねえってか?」
「ああ、本気で覚悟があるのなら、親友の命も一緒賭けて、相手に打ち勝つぐらいのくそ根性を見せてみやがれ、このすっとこどっこい!!」
「なんだと!?
ふざけんじゃねえぞ!!
実際に戦う訳じゃねぇのに、よくもまあ、そんな好き勝手言えるな、お前は!」
「そんなの知ったことか!!
そもそも、俺はお前の前では常にこんな感じだろうが!!」
「ああ、そうだったな!!
お前はいつも無茶や馬鹿な事を言って、俺を困らせてくる、そんなひでえ奴だったな!」
「なんだと!
てめえはそれ、本気で言っているのかよ!!」
「ああ、本気も本気、超本気!!
お前なんかもう知らん!!
なにがあっても、後悔すんなよ!!」
そう言って俺は、肩を怒らせながら梅沢の方へ歩き始めた。
「っ!
ああ、そうかい!
それなら敵にでもなんでもなっちまえよ!!」
後ろで怒鳴る好子の声を無視しながら梅沢の前に立つと、奴はニヤリと笑みを浮かべた。
「どうやら、心を決めてくれたようだな。」
「まあな。」
「ふっ、そんな顔をするな。
所詮奴らとはわかりあえないのさ。
あんな身勝手な奴は、切り捨てて当然だ。
これからは同じ種族同士、共にやっていこう!」
そう言って梅沢は改めて手を差し出してきた。
俺はその手に向けて手を伸ばし、
掴まずに梅沢の手の甲に裏拳を打ち込み、その手をおもいっきり払った。
「………なにをしている。」
「手に裏拳を打ち込んだ。」
「そういう意味ではない!!
なぜこんなことをしたのか?と聞いている!!」
「……言わなきゃわからないか?」
そう言いながらニヤリと笑って見せると、梅沢は苦虫を噛んだかの様に顔を歪めながら、ギリッと歯ぎしりを鳴らした。
「……なぜだ、なぜあんなに身勝手な奴を選ぶ!」
「たしかにあいつは身勝手だ。
だけど、今まで人のことを省いたり、散々貶したりしておきながら、利用できるとわかれば、コロリと手のひらを返す。
俺からすれば、あんたの方も十分に身勝手さ。」
「ならばなぜ、なぜ同族の俺ではなく、奴なんだ!
身勝手であるのは、同じはずだろう!?」
「そんなもん、あんたとあいつじゃ積み重ねてきた物の違いだよ。」
「……?
どういうことだ?」
「別に俺達は、今までずっと仲良しこよしでやってきた訳じゃない。
価値観も考え方も違うのだから、今まで何度も言い争ったり、衝突もしたさ。
でも、その度に相手の考え方を知って、思いを知って、互いに互いを理解し合っていったんだ。
今でも口喧嘩ぐらいはするさ。
でも、それと同じぐらいに危ない時、間違えそうな時に互いに助け合っているんだ。
だから俺達は、今さらどうこうなるような一朝一夕の間柄じゃねえんだよ!!」
「っ!」
真っ直ぐ睨みながらそう言い切る俺を、梅沢は顔を更に歪ませながら睨みつけていた。
「そういう訳だ、こうちゃん。
悪いけど、最後まで付き合ってもらうぞ?」
「え~~~~。」
「………お前が煽ったんだよな?」
「わかっている、そんなに怒んなよ。
ただの冗談だろうが。
……しかし、奴さんはまだかくし球があるみたいだけど、この決断で良かったのか?」
「良いからこの決断をした。
それとも、俺に敵に回って欲しかったか?」
「さっきから言っているが、お前の人生なんだから、俺からは口出しする気はないよ。
……ただ、………。」
「ただ?」
「…ただ、お前相手に技は使いたくなかったからな、少々安堵している。」
「………お前も素直じゃないねぇ。」
「……うるせえ。」
そう言いつつ、互いにニヤリと笑って見せると、俺は梅沢に目を戻した。
梅沢は頭を垂らしながら、なにかをぶつぶつと呟いていているのだが、彼からなんとも言えないなにかが醸し出されており、背筋に寒気が走っていた。
その数秒後、梅沢がゆっくりと顔を上げたのだが、その顔は無表情で瞳はどんよりと濁っていた。
そのまま少しの間、梅沢は俺の事ををじーっと見続けていた。
「……そうか、お前達母子(おやこ)は、なにがあっても俺を拒むというのだな。」
「……は?」
「……もういい。
そっちがその気なら、全て……。」
その瞬間、梅沢の中で溜まっていたなにが膨れ上がり、
「全て終わりにしてやる!!」
その叫び声と共に、それがが弾けたのを感じた。
「冥土の土産だ、見せてやろう。
なぜ俺が第二位であるかを!
俺の本気を!!」
次回は9/17予定です。