「は!」
目の前の梅沢に向け、大津はおもいっきり爪を振る。
気合いの入った一撃は、本日一番の速度を引き出しながら梅沢に向かうが、
「な!?」
先ほどまでいたはずの梅沢が幻の様に消え、大津の一撃は空を切った。
なにが起こったのかわからず、大津の動きが一瞬止まりそうになるが、突然無理矢理身体を動かし、前方へ飛ぼうとする。
だが、
「悪くない反応だ。」
「っ!」
「だが、遅い!」
「ぐはっ!」
いつの間にか後ろにいた梅沢に強烈な蹴りを食らい、身体が前方へ大きく飛ぶ。
幸い前方へ飛ぶ直前だったため、ダメージ自体はなかったが、大津に大きな隙が生まれてしまった。
そして、それを見逃すほど目の前の男は甘くなかった。
「まだまだ行くぞ!」
「がはっ!」
素早く放たれた追い討ちの攻撃を今度はまともに食らい、大津は更に飛ばされそうになるが、
「ぬぅがあ゛あ゛あ゛、はあぁぁ!!」
足を伸ばして爪を引っかけ減速し、多少たたらは踏みながらも直ぐに地に足をつけると、勢いを利用して素早く回し蹴りを梅沢がいると感じた場所へ放つ。
だが、そこには梅沢はおらず、大津の蹴りはただ空を切るだけだった。
「どこを蹴っている、俺はこっちだ!」
「ぐはっ!
っ、だぁぁ!」
再び食らった背後からの一撃に顔を歪めつつも、大津は振り向きながら梅沢がいると感じた場所へ再び爪を振ったが、そこには梅沢の姿はなく、再び爪は空を切った。
「こっちだ!」
「ぐぅ!」
三度食らう背後の一撃に、大津はたたらを踏みながらも堪え、再び構えをとった。
「……ちっ、完全に遊んでやがるな。」
苦々しくそう呟く睦月の視線の先では、攻撃を避けながら背後より一撃を入れる梅沢と、それに翻弄される大津の姿があった。
今はまだ翻弄されながらもなんとか動けている大津ではあったが、このまま行けば敗北は目に見えており、その様をただ見てるだけしかない自分に、睦月はイライラが募っていた。
「な、なあ、睦月?」
「ん?なんだ?」
「あれはいったい、どういうことなんだ?」
そう言って神無月が指差す先には、梅沢に悪戦苦闘する大津をいて、今丁度強烈な一撃を背中に食らっていた。
大津はその一撃にたたらを踏むものの、直ぐ様下から蹴り上げるように後ろ蹴りを放つ。
だがその一撃が梅沢に当たる直前、梅沢は幻の様にそこから消え、数瞬後に大津の後ろに姿を現してもう一撃与えていた。
「……どういうって、見ての通りあいつが強いから、悪戦苦闘してんだろ?」
「いやいやそうじゃなくて、明らかに今おかしいかっただろ!」
「……おかしいって、なにが?」
「まず大津の動きがおかし過ぎるし、全部避けられているとはいえ、なんで大津の奴は見えない位置にいるはずの梅沢に対して、あんなに正確に蹴りを放てるんだよ!?」
そう、今まで大津が反撃していた場所には、その直前まで梅沢がいたのだが、先ほどの様に寸前で居なくなっては大津の背後に現れていた。
そのため、大津視点では見当違いの場所を攻撃している様に見えていたのだ。
「ああ、そんなことか。
そんなもん、あいつが人狼だからに決まってんだろうが。
梅沢に至っては、そのための変化だろ?」
「……い、いやいや、なんかわかって当然だろ的な返答だったけど、普通わかんないから!
わかんないから!
大事なことだから、二回言った!」
「あ~、わかったわかった。
ちゃんと解説してやるから、ちと落ち着け。」
「………それはそれで、下に見られている様で嫌だな。」
「じゃあ、解説しない。」
「うわ~、そんなことで止めるなんて、君って案外器小さいな。」
「じゃあ、どないせいと!!
どないせいと!!」
ー閑話休題ー
「まず、なぜしょうちゃんが見えない位置の梅沢を正確に攻撃できたかというと、単純に見える必要がないからだ。」
「………はい?
どういうことだ?」
「犬や狼は目が悪くてな、通常0.2~3と言われているんだ。
まあ、しょうちゃんはコンタクトをしていたはずだから、人並みはあるかもだけどな。
で、その代わりに嗅覚と聴覚が発達していてな。
それで場所を判断しているんだ、………と思う。」
「思うかよ!!」
「しょうがないだろ、俺はただの人間なんだから。
あいつの感覚をイメージは出来ても、共有は出来ん!」
「……普通それって、胸張って言えないじゃないか?」
ふんっと鼻で息を吐きながら胸を張る睦月に、神無月はジト目でツッコミをいれた。
「…しかしそうなると、このまま行くのは不味くないか?」
「まあな。
ただ、こんな単調な攻撃だけならば、そろそろ…。」
「うおぉぉぉぉ!」
梅沢からの一撃を叫びながら避け、大津の蹴りがついに梅沢の頬を掠めた。
「おぉ!」
「……これで流れが変われば良いけど。」
それを見つめながら睦月は静かに呟いた。
次回は10/8予定です。