「ふぅ~、流石に疲れてきたな。」
「かれこれ2時間近く歩いたからな、丁度あそこに売店があるし、なんか飲み物買って一休みするか?」
「そうだな、そうするか。」
そう言いながら俺達は近くの売店に向けて歩きだした。
「……しかし、便利な世の中になったんだよな~。」
「なんだよ、唐突に?」
「いや、この展示物を見てるとな、そんなことを思ったんだ。」
「…まあ、確かにな。」
そんな会話をしつつ、俺達は目の前の展示物を歩きながら眺める。
今展示されているのは、今より3つ前の年号、「平成」と呼ばれていた頃の物が並んでいた。
「この年号の最後の頃にマイナンバー、っていうが始まったんだよな?」
「そうそう、今でいう『個人認識番号制度』の先駆けだな。
あ、俺緑茶にするけど、お前はどうする?」
「あ、俺はオレンジな。
無論、お前のおごりだよな?」
「え~、……まあ、遅れてきたしな。
了解したよ。
すみませ~ん。」
『イラッシャイマセ、オシナモノハ、ナニニ、ナサイマスカ?』
売店のカウンターに声をかけると、中の売り子ロボットが反応する。
「緑茶とオレンジジュースで。」
『カシコマリマシタ。
コジンニンショウヲ、イタシマス。
タンマツヲ、オダシクダサイ。』
「ちょっと待ってね、…ほい。」
そう言いながら俺は、定期券ぐらいの大きさのカード型の端末を取り出した。
カードの真ん中辺りは少し凹んでいて、そこに親指を乗せながら、カードをかざした。
『ピピ、ニンショウイタシマシタ。
ホンジツ、オカイケイハ、200エンデ、ゴザイマス。』
「あ、このままお願い。」
『カシコマリマシタ、コチラカラ、ヒキオロシマス。
ピピ、カクニン、イタシマシタ。
アリガトウゴザイマシタ。
マタノゴリヨウヲ、オマチシテマス。』
俺はドリンクを受けとると、近くのベンチに座っていた生介の所へと向かった。
「お待たせ、ほいよ。」
「おう、サンキュー。」
生介は俺から飲み物を受け取ると、間髪入れずに缶を開け、一気に飲み込んでいく。
よほど喉が渇いていたのか、数秒もすると500缶を飲み干していた。
「すげぇ勢いだったな。」
「…ふぅ、思っていた以上に喉が渇いていたみたいだ。
ありがとうな、これ。」
そう言いながら空缶を振る彼に、俺は自分の分を飲みながら、空いてる方の手を振って答えた。
「……さっきの話の続きだけど、本当に便利になったよな。
基本的にこの端末一つあれば、身分証明も会計も、更には新聞だって読めるしな。」
「だな、これ無しの生活は考えられないよな。
もっとも、無かったら移動はおろか、マトモな生活はできないけどな。」
「認証されないと、なにもできないからな。」
緑茶を一口飲みながら、俺は生介の言葉に頷きつつ苦笑した。
「「個人認識番号制度」が始まった時は、反対派が多数だったみたいだけどな。」
「そりゃまあ、そうだろうな。
とはいえ、衆議院のやる事に文句しか言わない野党が、裏で手を回していたのが、大多数だったみたいだけどな。」
しかも、それを指示している所と証拠を記者に掴まれ、スクープとしてすっぱ抜かれて、一時期野党の信用は完全に失墜した。
当時の野党は、なにをやってんだか。
「まあ、先生曰く、野党は基本的に、文句しか言わない夢想家達の集まりである。だからな~。」
「ん?また例の大学の先生の言葉か?」
「そうそう、俺が尊敬する葉月教授の言葉。まあ、じいちゃんの言葉でもあるけどな。」
「またその人の話か、飽きないね、お前も。」
「飽きさせないのが、商い(あきない)の基本なので。」
「…寒。」
「黙らっしゃい。」
そう言いながら俺は、緑茶の最後の一口を飲み干した。
「……ところで、便利になったと言えば、あの時代と比べると、ロボット科学も大分進歩したんだな。」
「だな。
ロボットの売り子とか、割りと普通だしな。」
そう言いながら先ほどの売店を見ると、カウンターの奥でロボットは、静かに立たづんでいた。
「だよな。
こういう博物館や大手企業は、接客もロボットがやっている所が多いしな。まあ、良い所の店だと、未だに人オンリーみたいだけどね。」
「そういえばこの前、ラーメンを作るロボットが出たみたいだぞ。」
「みたいだな、ついにここまできたか!的な感じだな。」
「わかる、わかる。
下町にも遂にロボットが!みたいな。」
「そして、バイト先と、仕事先が減っていく。と。」
「まあ、そこら辺はしょうがないんじゃねえ?
サボる、文句を言う人間より、サボらない、文句を言わないロボットの方が良いに決まっているわな。」
「そりゃまあ、そうだろうな。
バイトで思い出したけど、あの時代(平成)には、まだ新聞配達をバイトでやれたらしいぞ?」
「らしいな。
今は電子新聞が普通だからやってないし、紙の新聞なんて今や金持ちしか見てねえもんな。」
「紙って高いからな、一種のステータスみたいなもんらしいな。」
「らしいな。
しかし、こんだけロボットが台頭してくると、そのうち人間が働くこと無くなるんじゃないか?」
「…かもな。
ちなみに、お前はそうなって欲しいか?」
「いや、勘弁してほしい。
お金は働いて得てなんぼだ。
そうしないで得たお金は、所詮はあぶく銭。
直ぐに消えて無くなる。」
「おぉ、立派、立派。
で、その言葉も?」
「すまん、やっぱりじいちゃんの言葉なんだ。」
「結局それかい。」
そう言いながら生介は軽く呆れたように、俺は気恥ずかしそうにしながら、互いに苦笑を浮かべあった。
「さて、そろそろ行くとするか?」
「ああ、そうしよう。」
そう言って俺達は空き缶を捨て、再び展示品を見に行くのだった。