では本編をどうぞ。
「はっ!!」
「どこを攻撃している!!」
「ぐぅ!」
これで何度目だろうか?
そんなことを思いながら大津は、殴られてぐらつく身体を踏ん張らせた。
「ぬぅぅおおおお!!」
先ほどから攻撃で背中が痛みを訴えていたが、大津はそれを無視して反撃の一撃を放つ。
だがそこには梅沢の姿なく、大津の一撃は今までと同様に空をきってしまう。
またか。と、心の中で毒づく大津ではあったが、静かに目を閉じながら細く息を吸いこんだ。
それとほぼ同時に再び後ろに現れた梅沢が、大津に向けて右手を降り降ろした。
たが次の瞬間、大津は素早くしゃがみこんで梅沢の攻撃を避けると、立ち上がる勢いを使って梅沢の顔に向けて鋭い後ろ蹴りを放った。
「うるぅあぁぁ!!」
「むっ!!」
迫る蹴りに対し、梅沢は咄嗟に左足に更に重心を寄せ、身体を左側へと倒したため、蹴りは僅かに頬掠めただけに終わり、避けた梅沢は素早く離れて大津と距離を取った。
「ちっ、外したか。」
「馬鹿言うな。
むしろ掠ったことに驚き、誇れ。
この姿になった俺に攻撃を当てられたのは、お前で四人目だ。」
「……ちょっと微妙な人数だな。」
「まあ、この姿で本気で戦うのは、お前が四人目だがな。」
「全員じゃねえか!
ふざけんな!!」
「ふざけてはいないが……、まあいい。
…さて、では行くぞ!」
そう言った瞬間、大きな音と共に梅沢の姿が消え、それとほぼ同時に大津が少し横へと移動した。
その数瞬後、大津より少し離れた後方に背を向け、しゃがんだ状態で再び現れた梅沢は、少し驚いた表情をしながら大津の方へ向き直った。
「……ほう、あれを避けるか。」
「舐めんな、目の前で動かれれば、流石に見えるさ。
まあ、あんだけ散々やられたからな、慣れた部分も大きいかな。
位置も大分掴める様になったし、……次は当てる!」
「……ふっ、おもしろい。
……なら、やってみせろ!!」
そう言った瞬間、再び大きな音と共に梅沢の姿が消える。
しかも、さっきみたく一回だけではなく、連続して何回も現れては消え、消えては現れていた。
大きな音も連続して鳴り響く中、その中心にいる大津は横に下に上にと、踊りを舞う様に動き続ける。
そして、一際大きな音が響くのとほぼ同時に大津も強く踏み込み、右フックを放つ。
「ぐおっ!!」
バキッという音が周りに響くのとほぼ同時に、梅沢が砂ぼこりをたてながら転がっていった。
大津が一撃を与えた時より、さかのぼること約一分ほど前。
「……やっぱ速いな。
全然見えなかったし。」
「……うん、一人納得してないで、きちんと解説してくれないか?
なにが起きているか、いまいちわからないだが?」
「ん~、なにがわからないんだ?」
「梅沢はなんで消えるんだ?
それに、さっきまでぼこぼこにされていた大津は、なんで急に避けられる様になったんだ?」
「梅沢に関してはさっきも言ったが、そのための身体の変化だ。
大津に関してはあいつ自身が言った通り、見えているからだ。」
「……うん、すまん。
答えになってないから、もう少し詳しく言ってくれないか?」
「ん~、……まず梅沢だけど、あれは単純に動きが速過ぎて、俺達の目に映らないだけだ。
まあ、某幕末剣士漫画の縮地と同じもんだと思えば良い。」
「ああ、あの目にも映らない速さ、ってやつな。」
「そうそう、それ。
だからあれは見えてないだけで、別に消えているわけではないんだ。」
「ん~、なるほど。
……しかし、前々から思ってたんだけどさ。
真の縮地との最終交差の時、見ていた二人が色々と考えていたけど、あの距離で放ったら瞬く間に終わってないか?
更に言うなら、主人公も駆け出していたけど、タイミング的には相手とはほぼ同じはずなんだよ。
そう考えると、決着は瞬く間もない内に着いたと思うんだけど、どう思う?」
「……そこら辺はあれだろ、某死神技術班長や某暗殺一家のじいちゃんが言っていた達人の感覚とか、時間の凝縮ってやつだよ。
……きっと、…うん。
……多分、……うん。」
「……ん~、そうだとしても、悪一文字の方はまだわかるけど、女性の方は……。」
「うん、わかっているよ。
だから、皆まで語るな。」
閑話休題
「…で、結局大津はどうして避けられる様になったんだ?」
「それはさっきも言ったけど、単純にあいつには見えているからだ。」
「はい、ダウト。」
「…は?」
「いやいや、君はさっき自分で目にも映らない速さ、って言っていただろ?
それなのに見えているとか、わけわからないぞ!?」
「ん?
いや、別に嘘は言ってないぞ?
確かに人の目では映らないし、追えないけど、人狼のあいつには追えるんだよ。」
「どういうことだ?」
「イヌ科の動物の目は、視力自体は悪いけど動体視力は非常に優れているんだ。
一例を挙げると、シェパードは静止した物なら500メートル、動いている物なら800メートル先の物も認識できるそうだ。」
(ちなみに、牧羊犬は1500メートル先の人の指示を認識できるそうです。)
「目が良いのか悪いのか、よくわからないな、それ。」
「まあ、人間の立体的に物を見るためにあるのと違って、彼らのは広範囲を物を見るためだからな。
そこら辺はしょうがないだろうさ。」
(人の視野が180度に対し、犬は250~270度と言われています。)
「……ん?
でも、それならなんでさっきまで避けられなかったんだ?」
「それは梅沢が常に死角に居たからだ。
どんなに視野が広くて動体視力良くても、見えなきゃ意味がない。」
「なるほどぉぉ!
見ろよ睦月!
大津がやっと一撃が入ったぞ!」
そう言って喜ぶ神無月の視線の先には、大津の一撃を受け土煙を上げる梅沢がいた。
「……あの馬鹿!
中途半端にやりやがって!」
「……へ?」
「あれは悪手だ。
一番やっちゃいけないやつだ。」
「へ?
それは…、」
「どういうことだ?」
睦月の言葉に神無月だけではなく、大津も反応し、こちらの方を向いてしまう。
だがそれは、
「ば、馬鹿野郎!
あいつから目を離す……!」
「まったくだ。」
「っ!!」
なによりもしてはならない、悪手だった。
梅沢の声と共に、砂煙の向こうから数本の銀色の紐が伸びて来て、大津の体をぐるぐる巻きにする。
その紐から逃れ様ともがく大津だったが、どんなに暴れてもびくともしなかった。
「この程度で勝ったつもりか、小童(こわっぱ)?
俺も随分と侮られたものだな。」
左腕を真っ直ぐ大津の方に向け、そう言いながら梅沢は口から流れた血を腕で拭いつつ、ゆっくりと大津へと歩み寄っていく。
大津に巻き付いた紐は、梅沢の腕からフリンジの様に伸びていた毛であり、左腕のそれを伸ばして大津の身動きを封じたのである。
「……忘れている様だが、これは順夜祭ではない。
ただの殺し合いだ。
……とはいえ、俺もそこまで本気でやっていなかったからな。
その点では俺にも非はある。
だからここからは…、」
ドン、っという叩く音と共に大津の腹に梅沢の右の拳が突き刺さり、大津は身体をくの字に曲げる。
「ぐっ…はっ!」
「……本気で殺しにいく。」
そう言って梅沢は、右の拳を引き抜きながら大津の側頭部へ左肘を叩きつける様に打ち付けた。
それにより、ぐらりと崩れ落ちそうになった大津の顎に梅沢の右膝が突き刺さり、大津の頭が大きく跳ね上がる。
「…あ、…が。」
そのまま後ろへ倒れそうな大津に対し、梅沢は左腕の毛を自身に巻き付ける様に反時計回りに回りだすと、大津に巻き付いていた毛が引っ張られ、彼の身体は無理やり真っ直ぐ立っている状態にさせられる。
そしてその流れのままに梅沢が放った、左の後ろ回し蹴りが大津の側頭部に決まった。
蹴り飛ばされた大津を、梅沢は巻き付いた毛を引っ張って無理やり引き寄せると、今度は時計回りに回転して左の回し蹴りを大津の右腹へ放った。
「ご…ふっ!」
強烈な一撃に、大津の身体が視界の果ての方まで飛んで行きそうな勢いでぶっ飛んでいくが、巻き付いた毛が限界まで伸びたところで大津の身体が止まり、そこから重力に従って地に落ちていく。
その毛を梅沢がぐいっと引っ張ると、大津の身体がバウンドしながら梅沢の方へ寄せられていき、その身体を梅沢は上へおもいっきり蹴り上げた。
再び毛の限界まで勢い良く飛んで行く大津に対し、梅沢は腕をぐいっと引くと、巻き付いていた毛がほどけて大津の身体が自由になった。
とはいえ、散々殴り蹴られた今の大津が反応できるわけもなく、解放された腕を重力に従ってだらっと下げていた。
その大津へ、梅沢は飛び跳ねて前方回転しながら近づき、回転で勢いついた身体で大津の腹にかかと落としを叩き込んだ。
強烈な一撃により大津の落下速度が加速し、ズドンっという音と共に地面に叩き落とされた彼は、身体を地面にめり込ませながら呻いていた。
「つ、強い。」
「……これがあいつの本気なのか。」
静かに呟く二人を他所に、大津の近くに着地した梅沢がゆっくりと近づき、大津の胸に足を踏み降ろした。
「ぐはっ!!」
「……その程度か?
いささか期待外れだな。」
「ぐあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
踏みつけた足に力を入れられ、彼の身体からミシミシと骨が軋む音が響く。
「………苦しみに悶えさせるのは趣味ではない。
止めを刺してやろう。」
そう言って梅沢は抜き手に構えると、大津の顔めがけて抜き手を放った。
次回は10/22の予定です。