予定日より大幅に遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
色々とありまして、遅くなってしまいました。
今後、このようなことが無い様にしっかりやっていきます。
では、本編にどうぞ。
「………ほぉ。」
「うっくぅ。」
顔面に向けて降り下ろされた一撃を、大津は身体と首を無理やり捻って避けていた。
だが、やはり完全に避けることは出来ず、肩口から鮮血を流しながら大津は梅沢を睨みつけていた。
感心した様に呟きながら梅沢は、手首まで埋まった右手を引き抜き、身体を起こした。
「まだ足掻くか。
だが…、」
「……っぅおぉぉぉ!」
「…いつまで続くかな?」
大津は左手で梅沢の左足を掴み、足首に一撃を与え様と右の拳を振るが、梅沢はなんでもない様に足を持ち上げてかわし、右腕ごと胸を再び踏みつけた。
「ぐはっ!」
強い衝撃に肺から空気が強制的に排出され、更に圧迫されているために息を吸うこともままならないために、脳が酸欠状態に陥り、大津の頭はぼーっとなりはじめていた。
だが、霞む視界の先で降り下ろされる右の抜き手が見え、もう一度身体と首をひねって避ける。
「……ふむ、これも避けるか。
しかし残念だが、俺の手は二本ある。」
そう言いながら梅沢は、反対の手も抜き手に構える。
「……これで終わりだ。」
その言葉と共に降り下ろそうとする梅沢に対し、大津は口を大きく開けながら、首を反対側に向けて梅沢の腕に噛みつこうとする。
それを察知した梅沢は、素早く右手を引き抜きながら左の抜き手を放つが、それに合わせて大津も反対側に首と身体を捻り、梅沢の一撃を避けた。
「……しぶといな。」
「当たり前だ!
なにもしないで、むざむざ殺られて堪るか!」
「……それもそうだな。
ならば、どこまで耐えられるか、見せてみろ!」
そう言って梅沢が両手を抜き手に構えた、その時だった。
「…せ、…月!」
「……だ…て、……てん…ろ!」
言い争う声が聞こえ、不審に思った梅沢は後ろを振り返った。
時間は少し遡り、梅沢が大津の胸を踏みつけた頃。
「大津!」
「っ!待て!」
大津のピンチに駆け寄ろうとする神無月を、睦月は彼の左腕と右肩を掴みつつ、左足で左足を踏んで動きを止めていた。
「離せ!」
「嫌だね。
離したら、助けに行っちまうだろ?」
「当たり前だろ!
黙って見てられるか!」
「なら駄目だ。
ここで俺達がでしゃばったら、あのじいちゃんが今までしてきたことが、全て無駄になる。」
「そんなこと知るか!
命あっての物種だろが!
死んじまったら、なにもかも意味をなさないんだぞ!」
「ああ、そうだな。
その通りではあるが、これは駄目だ。」
「なんでだよ!」
「……言わなきゃ駄目か?」
「当たり前だろ!
むしろ、なんで言わないんだよ!」
「気分!!」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
そう言いながら動こうと、じたばたする神無月だったが、身体が動く気配はなかった。
「離せ!
っていうか、なんで身体が動かないんだよ!」
「そりゃそうだ。
そういうツボを押しているんだし。」
「随分と便利なツボだな!おい!」
「ん~、そうでもないぞ?
ピンポイントで押せなきゃ意味ないし、わりと全力で押さなきゃいけないから、けっこう疲れるんだな、これが。」
「……だったら離せよ。」
「ん~、そうしたいのは山々なんだが…。」
「……これ以上は暴れない、約束する。
だから、頼むよ。」
「……ふむ、俺も疲れてきたし、そろそろ良いかとも思う。」
「なら「だが断る!」…うおい!」
「そんなこと言ったって、お前がさっきの言葉の意味は、「これ(今暴れている力)以上は暴れない。」っていうことだろ?
今はツボを押しているから動けないけど、本当はけっこうな力で暴れているからな。
離したら、その力で割り込む気なんだろ?」
「わかってんなら離せよ!」
「だから、駄目なんだって!」
そんな会話をしている内に、梅沢が大津に両手で抜き手を放った。
それをなんとか避ける大津だったが、圧倒的に不利な状況は変わらなかった。
「っ!くそぉぉぉぉぉ!」
「っぅぅぅ!!
あ、ば、れ、る、なぁぁぁ!」
「っっっ、離せ、睦月ぃぃぃ!」
「だから、嫌だって言ってんだろぉぉぉ!」
必死に拘束を外そうとする神無月を、睦月は更に力を込めて押さえ込む。
「大事な友達の危機なんだぞ!
それなのに、なんで邪魔をするんだぁぁ!」
「必要がねえから、止めてんだろうがぁぁ!
それぐらいわかれぇぇぇ!!」
「………必要ない?
どういうことだ?
なにを根拠に君は言っているんだ?」
「……別に言う必要はねえだろ。」
「そう言うな、俺も聞きたいんだ。
だから言ってくれ。」
突然の声に二人は驚きながら声の方を向くと、梅沢が大津に足を乗せたままにしながら、睦月達の方を向いていた。
「ここまで圧倒的な不利な状況下で尚、こいつが勝つと言い切るお前の根拠が知りたいな。」
「……敵であるあんたの目の前で言わなきゃ駄目か?」
「ああ、駄目だ。
………それとも、急に怖じ気づいて、適当な理由を付けているだけ、か?」
梅沢のその言葉に、神無月と大津は睦月に目を向けた。
睦月には二人の表情はわからないが、不安や疑惑の念を抱いているのを雰囲気で感じ、一つ大きなため息を吐いた。
「……わかった、言えばいいんだろ。
っていうか、神無月はともかく、しょうちゃんにまで疑われるとはな。
そんなに信用ないか?」
「いや、信用してないわけではないんだが、お前は冗談が過ぎたり、勢いで言ったりする節があるから、あんまり信用出来ん。」
「失礼な!
俺がいつ度を越えた冗談を言ったり、勢いで物事を言ったってんだ!」
『自分の胸に手を当てて、今までの自分の行動を鑑みろ!』
「なんで全員(敵含め)ハモってんだよ!!」
人間、普段の行動が物を言う。
ー閑話休題ー
「……で?
お前はなにを根拠に、そこまで言い切るんだ?」
「根拠は三つ。
一つ目は、勝ち筋が未だに健在であること。
これが残っている限り、ある程度の勝機はある。
二つ目は、しょうちゃんが未だに諦めていないこと。
勝機はあっても、やる奴にその気が無ければ無いのと同じだ。
……そして、最後の三つ目は…。」
そこまで言って一度言葉を切り、睦月は大津に目を向けた。
「……未だに俺があいつが、しょうちゃんが勝つと信じているから、だ。」
なんの淀みも迷いもなく言い切った睦月の言葉に、一同は言葉を無くし、辺りに沈黙が漂った。
「……ふ、…ふふ。」
「ん?」
「ふわっははははははは!!」
突然笑いだした梅沢に、一同は驚きながら彼を見つめる。
梅沢はひとしきり笑うと大きく息を吐き、キッと睦月を睨んだ。
「どんな大層なものが出るかと思えば、それが根拠ぉぉぉ!?
笑わせるなぁぁぁ!」
先ほどと真逆にそう言いながらぶちギレる梅沢を、睦月は不思議そうな顔をしながら見つめる。
「ん~、そんなに変なこと言ったか?
俺としたら、真面目に答えてたんだが?」
「…まあ正直なところ、最初の二つはともかく、三つ目のを根拠に挙げるのは、僕としてもどうかと思う。」
「う~ん、そうか?」
「ああ、むしろ君がなんでそれを根拠に挙げたか、僕にはわからないんだけど?」
「もっともな意見だな、貴様はなにを考えてそんなことを言った!」
そう言いながら犬歯を剥き出しにする梅沢に、睦月は人差し指を額に付けながら片目を瞑る。
「……なあ、梅沢……さん?」
「………なぜ疑問系なんだ?」
「いや、敵だから呼び捨てにしようかと思ったけど、年上を呼び捨てにするのは憚れるし、なんか収まり悪くてな。
呼んで欲しい呼び方があれば、そっちにするが?」
「………好きに呼べ。」
一同が呆れ半分脱力半分的な表情をする中、若干毒気を抜かれた梅沢はそう言いながら大きなため息を吐いた。
「そうか。
なら、梅ちんに聞「それは止めろ。」……オッケー、ふざけ過ぎたことは謝ります。
すみませんでした。
だから、そんなぐるぐると唸らないでいただきたい。」
歯を剥き出しにしながら唸る梅沢に対し、睦月は両手を挙げながら詫びを入れていた。
「んじゃまあ、気を取り直して梅沢さんに聞きたいんだが、あなたは信用していない奴に、自分の命を預けられるか?」
「………そんなもの、答えなんぞわかりきっていると思うが?」
「まあそうだろうけどさ、一応答えてくれると助かるかな?」
睦月のその言葉に梅沢はもう一度ため息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「…なにを考えて聞いたかは知らんが、そんなことあり得んな。」
「うん、まあそうだよね、普通。
仮に信用があったとしても、命を預けるということは、それ相応の覚悟がいることだ。」
「ああ、その通りだ。
それがどうかしたのか?」
「……あんたの足元にいる男はな、あんたと戦えと言った時、戸惑いこそすれど、否定も拒むこともせずに戦うことを決意してくれた。
あんたと戦うことが、どれだけ困難で危険なことは生介自身もわかっていたはずだ。
それでも尚、こいつはあんたと戦うことを選んでくれた。
だから、俺はどんな状況になったとしても、こいつを信じ続ける。
それが、俺を信じて戦うことを選んだこいつに対する礼儀だからな。」
「……危険とわかっている割には詰めが甘かったり、油断して隙が多かったりするがな。
それに、それが根拠にどう繋がる?」
「まあ、そんなに焦るなよ。
俺はあいつが勝つと信じている。
だから一つ、あんたに約束しよう。」
「約束?」
「ああ、もしあんたがあいつに、生介に勝ったら、次は俺が一人であんたに挑む。
他の誰にも邪魔はさせない。
小細工無しの、正々堂々真っ正面から挑んでやるよ。」
「…ほぅ、随分と面白いことを言うな。」
「そうかな?」
「ああ、そうとも。
つまりお前は、親友の仇を討つため戦い、そして勝つ。と言うわけか。」
そう言いながらニヤリ笑って見せる梅沢だったが、その目には憤怒の色が灯り、今にも爆ぜそうであった。
しかし、
「いや、全然違う。
そもそもの話、俺があんたに勝てるはずがないだろ?」
「………ならば、なんのために戦うのだ?」
睦月のその言葉に、先ほどまで見せていた憤怒の色は潜め、逆に困惑の表情をしながら問う梅沢に、睦月はため息を一つ吐いた。
「……生介は俺を信じて戦たかってくれた。
自分の命を賭けてな。
もし生介が敗れ、命を失ったのなら、次は俺が命を賭けて戦う番だ。
それが俺を信じて戦ってくれた親友に対して出来る、俺の唯一のことだからな。」
「…こうちゃん。」
「…睦月、君は。」
「……しょうちゃん、俺はお前が勝つって信じている。
だからこそ、こんな無謀なことを言えるんだ。
だからこそ、命を預けられるんだ。
だから負けるな、勝ってみせろ!」
そう言いながらニヤリと笑って見せる睦月に対し、梅沢はふんっと鼻で笑うと、大津を踏む足に力を込めた。
「……その程度で勝てるなら苦労はしない。
そんなに死にたいなら、こいつを始末して、直ぐに相手してやる!」
そう言って右手を抜き手に構え、大津に降り下ろした。
大津の利き手である右手は未だに足の下。
狙う大津は満身創痍。
逆転できる要素はなく、梅沢はこれで終わった。と、思いながら肉を貫く感触を感じた。
だが、
「~~~っ!」
「な!?」
次の瞬間、梅沢は自分の目を疑った。
梅沢は確かに肉を貫いていた。
但しそれは大津の顔ではなく、直前に割り込ました大津の左腕であった。
しかも、指の第一関節まで貫いたその瞬間に大津が左腕に力を込めたため、梅沢の右手は筋肉と骨に絡み取られ、それ以上進むことも、抜くことも出来なくなっていた。
ならばと、貫いた指先で大津の顔を左腕ごと貫こうと力を込めるが、大津は貫かれたその左腕に噛みつき、それ以上近づけない様にする。
また、無理に動かそうとすると、素早く口を放して腕を使って指を逆関節に極め、動きを妨害する。
「っ!
まだ足掻くか!
まだ諦めないのか!」
「当然!
あの馬鹿はな、俺を焚き付けのが昔から得意なんだよ!
あんなこと言われたらなぁ!
意地でも負ける訳にはいかないんだよぉぉ!!」
貫かれた腕と肩からは血が滴り、大津と梅沢を血で濡らしていく。
しかし、大津は諦めることなく足掻き続ける。
「っっ!
忘れている様だな!
さっきも言っただろ!
手は二本あると!」
そう言って梅沢は、大津の右手を踏みつけながら左手も抜き手に構える。
「~っ!」
「……行くなよ。」
「わかってる、わかっているけど!!
この状況は……!」
「……そう悲観することはない。
むしろ、チャンスでもある。」
「チャ、チャンス?」
「ああ、下手したら一発で形勢が変わるぐらいの、な。
大丈夫、勝機はまだあるよ。」
「……なんでそんなに自信満々に言えるんだ?」
「信じている、って言っただろ?
大丈夫だ。
あいつに有って、梅沢に無いものが、あいつが気付いていない勝ち筋に導いてくれるから。
あいつはそれに気付けるはずだから。
だから、ここであいつが勝って戻ってくるのを、待っていよう。」
そう言いつつ睦月は神無月から手を放し、飄々とした態度で彼の横に立つ。
「……ああ、わかった。」
横に立つ睦月の手が、ギュッと強く握られているのを神無月は見ない振りをしながら、静かに頷いた。
次回は11/9予定です。