「っ!
まだ足掻くか!
まだ諦めないのか!」
「当然!
あの馬鹿はな、俺を焚き付けのが昔から得意なんだよ!
あんなこと言われたらなぁ!
意地でも負ける訳にはいかないんだよぉぉ!!」
と、啖呵はきったけど、さて、どうしたものかな?
ヒートアップする心と状況とは裏腹に、俺こと大津生介は頭の一部でそんなことを呑気に考えていた。
貫かれた腕と肩からは血が滴り、俺と梅沢を血で濡らしていく。
打開策もないまま足掻き続けても、いずれ破られるのは明白だった。
それなのに俺は焦るどころか、勝ち筋だかなんだか知らないが、あいつはもう少し分かりやすく、具体的に伝えろよ!
ジャーナリスト志望なんだろうが!
と、こうちゃんへの文句を垂れていた。
だが、頭の中でそんなことを思いつつも、俺の表情は不敵な笑みを浮かべていた。
喧嘩にしろ、賭け事にしろ、勝負ごとの最中、特に劣勢の時に浮かべられる笑みほど、気味が悪いものはない。
というか、今までそれのせいで、こうちゃんに賭け事で何度も煮え湯を呑まされてきたのだ。
先日のポーカーでもそうだった。
ブラフと思った笑みに幾度となく引っ掛かり、ぼろ負けしたのだ。
……って、こら、そこ!
勝手に自滅しただけじゃない?とか思わない!!
自覚はあるんだから、ツッコムな!!
あぁ!思い出したらまた腹がたってきた!
これが終わったら、絶対に殴ってやる!
と、そこまで考えて、今自分が終わった後のことを、死ぬことを一切考えていないことに気がついた。
さっきまで苦しさに悶えていたのに。
痛みや酸欠で死すら覚悟していたのに、だ。
そこに至って、自分がいつも通りの思考に戻っていることに漸く自覚する。
そこに気づくと、もう笑う他無かった。
あんな無茶苦茶なことを根拠にした親友が、あいつの思惑通りに立ち直り、信用されていることを嬉しく思っている自分自身が、なんだか笑えてきて、気がつけば本気の笑みを浮かべいた。
その本気の笑みと俺が諦めることなく足掻き続けることに、流石の梅沢も焦りを覚えたのか、顔が僅かに歪んで見えた。
「っっ!
忘れている様だな!
さっきも言っただろ!
手は二本あると!」
そう言って左の抜き手を構える梅沢だったが、俺はその瞬間、え?と思いながら僅かに動揺してしまった。
その動揺を不味いとかヤバいとかの負の方と捉えのか、梅沢は迷いなく抜き手を放った。
だが、放たれたその一撃に先ほどまでのスピードが存在せず、俺は自分の考えが間違っていないことを確信する。
そう思うのとほぼ同時に、強く握っていた左の握りこぶしの人差し指と中指のみほどき、第二関節が突き出る形に握り直すと、右の抜き手が突き刺さったままの左で、放たれた梅沢の左の抜き手を殴りつけた。
「ぐむっ!」
俺の尖らせた指の関節が上手い具合に梅沢の左手首の関節に入り、梅沢が痛みに顔を歪ませるのとほぼ同時に抜き手を弾いた。
抜き手を弾かれて体勢を崩して倒れそうになる梅沢だったが、俺の顔の横に手を着くことで倒れるのをなんとか堪えた。
だが、その不安定な体勢のせいで右腕を踏んでいた足の押さえつけが僅かに緩む。
その一瞬の隙を見逃さす、力を入れて腕を引き抜くと、がら空きになった左脇腹に向けて抜き手を放った。
「ぬおぉぉぉぉ!」
その攻撃に反応した梅沢は左腕に力を込めて無理矢理動かし、体勢を更に崩しながらも素早く間に挟みこむ。
挟み込ませた左腕に右の抜き手が深々と突き刺さるが、目的であった左の脇腹には届かず、それを阻んだことに梅沢は僅かにホッとした様に顔を綻ばせる。だが、
「……ぉ。」
俺の攻撃はまだ終わっていなかった。
「うおぉぉぉぉ!」
「なに!」
肩と足を支えにし、ブリッジをする様に腰を跳ね上げつつ、右腕に更に力を込めた。
すると、先ほどまでどうやっても動かなかった梅沢の身体がぐらつき、ゴロンっと一回転しながら俺の上から離れていく。
その隙に俺は素早くひっくり返ると、腕と脚の力、そして全身のバネを使って跳ね起きながら梅沢と距離をとる。
ちなみに、突き刺していた右手は転がり始めた時に、突き刺さった右手は梅沢が転がっている最中に左腕の力を抜いて外しており、お互いの左腕からはポタポタと血が垂れていた。
互いになにも言わずに睨み合っていると、突然梅沢がふっと笑みを浮かべる。
「……本当に強いんだな、お前は。」
「……いきなりなにを言ってんだ?」
「素直な称賛だ。
まさかあの状態から、この状況にするとはな。
しかも、手傷まで負わされるとは思ってもみなかったよ。」
「……そいつはどうも。」
若干訝しげにしつつも素直に礼を述べる俺に、梅沢は数瞬だけ笑みを深めるが、直ぐに真顔に変わり、膝を更に深く沈める。
「……だが、勝ちは譲らん。」
「そこは譲りましょうよ。」
「断る!」
そう言うが早いか、駆け出した梅沢は一気に距離を縮め、俺に向けて右爪を振る。
それを俺はギリギリの間合いでかわしながら、カウンター気味に左のボディーブローを梅沢の右脇腹に入れる。
『ぐぅぅ!』
梅沢は苦悶の表情を浮かべながら後ろへ飛ばされ、俺は噴き出す血と痛みに歯を食い縛りながら耐え、離れていく梅沢との距離を詰めると、着地して体勢が整う前の梅沢に追撃を放つ。
「はぁぁぁ!」
「…ぬぅぅ!」
殴る、蹴る、ど突く。
殴る、蹴る、ど突く。
と、間を開けずに攻撃を続ける。
殴る度に左腕から血が噴き出るが、そんなことに構っている暇なんてなかった。
とにかく今は得た好機を逃さぬ様に、反撃の間を取らせない様に、がむしゃらに攻め続けた。
「ぬぅぅ、なめるなぁぁぁ!」
そう叫びながら梅沢は右フックを放つ。
それを俺は左腕で受けるが、当たったその瞬間に左腕を反時計回りに回し、梅沢の一撃を外側に弾いた。
「なぁ!?」
予想外のことが起きたせいで梅沢は動揺し、数瞬の間固まってしまう。
俺はその間を見逃さず、弾いた流れのままに踏み込み、無防備になった胸に向けて抜き手を放つ。
「っ!!」
だが、それに気づいた梅沢は素早く左腕を動かし、胸との間に入れて俺の抜き手を受け止めると同時に腕に力を込め、先ほどと逆に俺の指を絡め取った。
絡み取った瞬間、梅沢はニヤリと笑みを浮かべるが、次の瞬間困惑した表情になる。
なぜなら、同時に俺もニヤリと笑みを浮かべたからだ。
「……ありがとうよ。」
「…なに?」
「しっかり掴んでおけよぉぉ!」
そう叫びながら俺は腰を捻り、梅沢の右のあばら骨に斜め下から打ち上げる様に掌底を食らわす。
「ぐほっ!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
ミキッという骨の音を手のひらで感じながら俺は更に力を込めると、梅沢の身体が掌底に押されて浮かび上がった。
そして梅沢が着地したその瞬間、俺は梅沢の左肘を左手で掴み、右手はその場に固定したまま、肘を時計回りに捻りを加える。
すると、俺の右手を支点にして梅沢の身体も時計回りに回り始め、梅沢の頭が三時のところにまで回ったところで、待ち構えてた俺の膝に勢い良くぶつける。
「ぐおぉ!?」
「もらぁがは!?」
膝にぶつけた勢いのまま地面に叩きつけようとするが、突然左側からの一撃が襲い、たたらを踏んでしまう。
その隙に梅沢は力を抜いて腕から右手を引き抜くと、俺から素早く離れて距離を改めてとる。
互いの左腕からは止めどなく血が溢れ、地面に赤色の花を咲かせていく。
荒い呼吸を繰り返しながら、俺達は先ほどと同様に睨み合っていた。
遅くなってすみませんでした。
次回は11/23~28の間にアップ予定です。