「んで?
征服って、具体的にどうするつもりなんだ?」
「フン、良いだろう、答えてやろう。
まず都庁を襲撃し、この地を掌握。
そして、その勢いのまま国会議事堂を襲撃して、この国のトップの首をとる!
その頃には我々が決起したことが他の所にも伝わり、同じ考えを持つ者達がそれぞれの地域で決起し、その地を掌握しているはずだ!
その者達を取り込みながら、掌握した地をまとめあげていく。
そしてこの国の全てを掌握した暁には、決起した俺達を褒め称える言葉を背に、俺達をトップとした人狼のための国を、この地に建国するのだぁぁぁ!!」
『おぉぉ!!』
「………。」
「………。」
「…………………。」
宣言をするかの様な男の言葉に、テンションがうなぎ登りに上がっていく人狼達に対して、俺達はなにも言わず、ただ冷めた視線を送っていた。
「……どうした?
我々の壮大な計画に、言葉もでないか?」
「……そんなわけないだろうに。
……まあいいや。
いくつか説明が足りなかったから、聞かせてもらうぞ。」
俺はそう言ってため息を一つ吐き、言葉を続けた。
「まず一つ、都庁を襲撃するって言ってたけど、どうやって入って襲うつもりなんだ?」
「そんなの入口から入って、受付からに決まってんだろ?」
「……………は?
ごめん、今なんて言った?」
「だから、入口から入って、受付からに決まってんだろ?って言っているんだ。
なに当たり前のことを聞いてんだ、お前は?」
男の言葉をいまいち理解できず、俺は男に聞き返したが、呆れ顔で返されてしまう。
周りの人狼達も白けた目で俺を見ている。
あれ?
今の俺がおかしいのか?
「……いや、そういうことじゃなくてな、セキュリティとかガードマンがいるだろ?
それをどう「必要ない。」……はい?」
「下等種の貴様らが作ったものなど、恐るるに足らず!
なにが来ようと、我らの力で打ち砕いてくれるわ!」
自信満々に宣言する男の言葉に、力強く頷く周りの人狼達。
……今ので、なんで頷けるんだ?
理解出来ない俺が悪いのか?
軽く目眩を感じつつも、俺は話を続けることにした。
「……わかった。
とりあえず、それで成功したとしよう。
次に議事堂まで行くって言ったけど、移動手段はあるのか?」
「そんなもん、走ってに決まってんだろ?」
「はい!?」
いや、行けなくはないけど、5~6kmはあったよな?
「なに驚いているんだ?
我々ならばあの程度の距離、15分あれば十分だ。」
「……しょうちゃん、そうなのか?」
「ああ、それぐらいの距離なら余裕かな。
本気出せば、15分切るんじゃないか?」
「……マジか。」
人狼が身体能力が高いことはわかっていたけど、そこまでとは思わなかった。
ん~、やっぱり真っ当に当たらなくて良かったか。
普通にやっていたら、確実に負けていたな。
「…で、国会に着いたとしよう。
その後はどうすんだ?」
「そんなの決まっているだろ?
そのまま国会に強襲をかけ、トップの首を取るのさ!
そいつがどれだけ強いかは知らんが、俺の手にかかれば赤子の手を捻るより容易いことだ!」
……まあ、今の総理は大分恰幅の良い人だからな。
サシでやれば、間違いなくあいつが勝つな。
「……で、その後に他の奴らが地域をまとめ上げる、と。
……ちなみに、どうやってまとめるつもりなんだ?」
「そこのトップと戦って打ち勝ち、その一族を我が一族に編入していくのだ。
無論、多少の不平不満はでるかもしれんが、そこは力で捩じ伏せるまでだ。」
………こいつらに、話し合いで平和的に終わらそう、って発想はないのか?
……いや、そんな発想ができるなら、そもそもこんなこと考えないか。
「そして、全てをまとめ上げたその暁には、この国に俺達の国を「そこはどうでも良い。」……良くなぁぁぁぁい!
それが一番重要なことだぁぁぁ!」
「はいはい、さいですか。
…しかし、お前らは特別な連絡網でも持っているのか?」
「…いや、持っていないが、なんでだ?」
「なんでって、仮に都庁ないし国会が襲われて制圧されたとしても、そんな重大な情報は箝口令が敷かれ、一般には伝わらない様にされるはずだぞ?
その状態で他の場所に情報が伝わるとは、俺には到底思えないんだが?」
「別に我々が情報を共有できれば良いのだから、貴様らに伝わらなくてもよかろう?」
「いや、そりゃそうだろうけどさ、連絡手段もないのにどうやって伝えるんだよ。」
「本当になにを言っているんだ、貴様は?
我々には貴様ら下等種とは違い、遠吠えという連絡手段があるから、特別な連絡網なんぞ必要ないぞ?」
「…遠吠え?」
「ああ、そうとも。
我々はその気になれば、20キロ先から会話ができるからな。
特に俺は、その気になれば50キロ先まで声を届かせられるぞ。」
「………そうなのか?」
「……50キロ云々はわからないけど、20キロ先っていうのは本当だよ。
それで指示を受けることもあるしな。」
「……それって、お前やこいつらが特別、ってわけでは?」
「ないよ。
人狼族にとっては、普通の連絡手段だからね。」
「…………それ、こっちにとっては、十分特別だから。」
「だよね。」
大きなため息を一つ吐く俺に、生介は苦笑を浮かべながら頷いていた。
自分の普通、相手の特別。ってやつだな。
確かにこちらには、そんな連絡手段は無いし、できない。
強固な肉体を支える強靭な内臓と、発達した聴覚があってこその連絡手段と言える。
……とはいえ、随分と不確かな連絡網でもあるがな。
「強襲を成功させたのちに、俺はこう叫ぶのだ。
【我、強襲成功せり。
今までの恥辱に耐えし我が同胞達よ、時は来た!
眼前の敵を討ち滅ぼし、今こそ我々の悲願を成し遂げよ!
我に続け!!】
とな。
そして、その言葉に感化されて決起した者達を引き連れ、この地を「それもどうでもいい。」……よくなぁぁぁい!
貴様はどうして重要なところをおなざりにしようとするのだ!」
「確かに結果も大事だけど、今の場合は過程の方が大事じゃねえのか?」
騒ぎたてる男に、俺は呆れながらため息をもう一つ吐いた。
しかし、まいったな。
こいつの話を聞いていると、ある可能性が頭をよぎるんだけど、普通に考えてあり得ないんだよな、それ。
どうしたものか?と思いながら空を見上げると、満月が上をとっくに通りすぎり、西の中頃まで沈み始めていた。
……なんだかんだで、大分時間が過ぎていたんだな。
そんなことを考えた瞬間、俺はあることに気付き、それと同時に、先ほどまで考えていた可能性が現実味をおびたのを感じた。
しかし、仮に俺の想像通りだとしても、いくつかわからないことがある。
そして、それを知るためには踏み込むしか無いのだが、……こっから先は色々と少し危険なんだよな~。
大丈夫なんだろうか?
だけど、なにもしないわけにはいかないんだよな~。
………しょうがない、少し危険だけど踏み込むか。
俺はそう思いながら頭をボリボリと掻き、大きくため息を吐いて覚悟を決めた。
「で、話は変わって若干今更な質問なんだが、人狼には昼でもなれるのか?」
「……なれなくはない。
が、昼の変化は命を削るため、基本的には禁止されている。」
「命を?」
「ああ、理由はわからないが、昼に変化すると、急激に生命力を失っていくのだ。
だから、昼に変化することは禁止されている。
だがその代わり、夜であればいつでも変化は可能だ。
そこの出来損ないと違ってな。」
『………。』
その男の言葉に、俺達は揃って渋い顔をした。
こいつは本当に、とことん人の親友を馬鹿にしているのな。
人を見下してないと、生きていけない病気なのか?
「………で?
それがどうしたと言うのだ?
今それは特に関係なかろう?」
「ところがどっこい、そうじゃないんだな、これが。
あ、ついでにもう三つ確認な。一つ目、さっき都庁を落としたのちに叫ぶと言っていたけど、その先の連絡系統はしっかりしてんのか?」
「……ん?
どういうことだ?」
「あんたの声は50キロ先まで届くと言ったが、その先は届かないわけだろ?
だから、その先に伝えるための準備を、あんたは当然しているはずだ。
更に言えば、周りの集落ともそれなりに打ち合わせ済みなんだろ?
そこら辺の話を聞きたかったんだが?」
「……なぜする必要がある?」
「聞いたのはただの興味本意だ。
深い意味はないよ。」
「違う、そうではない。
なぜそんな面倒なことをする必要があるのか?
と聞いているのだ。
そんな面倒なことをしなくとも、周りの奴らも我々と同様に今の現状に不満を持ち、反乱の準備をしているに違いない。
今だに動きがないのは、機を見ているからだ。
だからこそ、我々が先頭をきって行動し、他の者達を奮い立たせ、この間違った世を正すのだ!」
堂々と言い放つ男の言葉に頷く人狼達。
それを見ながら俺は、呆れ顔を隠すことができなくなっていた。
「……ちなみに、決行日って決めているのか?」
「無論、決めている。
詳しくは教える気はないが、近日中とだけ言っておこう。」
「他の人狼族と会ったことはあるのか?」
「いや、ない。
だが、叫びなら聞いたことはあるぞ。」
「叫び?」
「ああ、そいつは早く自由になりたくて、あがらい、逆らい続けていたそうだ。
そんな同胞のためにも、我々は立ち上がらなければならないのだ!」
「あがらい、逆らい続けた、…か。
……他になにか言っていなかったか?」
「他にか?
他にはたしか………、強さが一番だからと、強さを競い合ったり、夜の校舎って場所の窓ガラスを壊して回った、って言っていたな。」
「………一つ聞くが、そいつは最後に“卒業”って言ってなかったか?」
「ああ、言っていたぞ。
なんで知っているんだ?」
『………………。』
……やっぱりそうなのか。
「……なあ、睦月。」
「……ん?なんだ?」
「今僕の頭の中で尾○豊さんの歌が響いている気がするんだけど、気のせいかな?」
「俺もだから気にするな。」
そう言いながら俺は、僅かに頭痛を起こし始めた頭を抑えながらため息を吐いた。
なんか、どっかで聞いたことがあるから、もしかしてとは思ったけどさ。
どう考えてもあの歌だよな、それ。
恐らく、どこかの人狼が酔っ払って歌って、真に受けたんだろうな。
あの歌に影響されて事件を起こした中学生がいたのは知っているが、まさかそれを現実に見るとは思わんかった。
……というか、
「…なんで校舎がわからないんだ?
あんたも学校に行っていたはずだよな?」
「学校?
ああ、貴様らが色々と教わりに行く所だったか?」
「ああ、その学校だ。」
「……なぜ行かなければならない?」
「…………はい?」
「だから、なぜ我々が貴様ら下等種に教えを乞わねばならないのだ?と言っている。
貴様らが、【どうか教えさせてください、お願いします。】と、懇願するならまだしも、我々から行く必要はない!」
人間、あまりに想像を超えたものに遭遇すると、自然と口が開くらしい。
俺にビシッと指をさしながらそう言い切る男と、周りで頷く人狼達に対し、俺はポカーンと口を開けて硬直していた。
「だいたい、我々には偉大な父と母がいる。
大自然という素晴らしい教材がある。
貴様らに教わらんでも、我々は十分なのだ!」
そう言いながらドヤ顔をする男と何度も頷く周りの人狼達に、俺は呆れてため息がでた。
しかし、同時に奴らの偏った思考になった理由も、俺の疑問もようやく得心がいった。
恐らく奴らの閉鎖的思考は、代々受け継がれてきたものなのだろう。
それこそ、奴らの始祖ぐらい遥か昔からにちがいない。
その手の思考は時代と共に廃れていくものだが、人狼達の実力主義の社会と相まって、途切れることなく受け継がれてきたのだろう。
………とはいえ、
「………なあ、しょうちゃん。」
「…ん?」
「他の人狼族の人達も、あんな感じなの?」
「そんなわけねえだろ。
あいつらがみたいなのは、ほんの一部だけで、それ以外は普通に人間社会に溶け込んでいるよ。」
「…そっか、ホッとしたよ。」
いや、本当マジで。
あれが人狼族の基本的な考え方だったとしたら、本気で笑えないところだった。
……さてと、疑問も解けたことだし、じゃあ本題いくか。
「二つ目、あんたらの言う夜の定義は時刻か?
それとも太陽の有無か?」
「……太陽の有無だ。
太陽が出ている間は、変化をしないことになっている。」
「なるほど。
つまり、今までのあんたの話は、夜の、日が暮れてからの話、ってことでいいんだな?」
「そんなの当然だろ?
奇襲は夜やるのが効果的な上、我々のゴールデンタイムも夜だ。
それに合わせてやらん手はないだろ?
それがなんだというのだ?」
俺の意図がわからず、イライラしながら聞く男と対照的に、周りの何人かは何かに気づいた様に、ハッという表情をしていた。
うん、あんたの考え方は別段間違ってない。
間違っていないが、これに限っては間違っている。
「三つ目、あんた、都庁と国会議事堂って、どういう所だと思っている?」
「なんだ、その質問は?
そんなのこの国の偉い奴らが仕事し、住んでいる所に決まってんだろ!」
その答えに対しては、反応が二つに別れた。
一つはその答えと同意見なのか、訝しげな表情で俺を見ている者。
十狼士と周りの人狼達がそういう反応だった。
残りの者は、信じられないとか、呆れた様な目で男を見ていた。
しかし、やっぱり勘違いしていたか。
今時そんな勘違いは小学生でもしないけど、まあ奴らの置かれていた環境を考えれば、わからなくもないな。
……さて、聞くべきことはこれくらいかな?
聞いている限りでは、奴らを相手にする必要もなさそうだし、あとはこの場から逃げる算段をすれば良さそうだな。
………うーん、しかし、どう切り出すかね?
切り口があり過ぎて、どれから言うべきかと悩むんだが。
こういうのを贅沢な悩みと言うのかな?
……いや、どう考えても違うか。
などと、脳内で一人ノリツッコミをしながらため息を一つ吐いた。
「……おい。」
「…ん?」
「先ほどから貴様は、なに難しい顔をしているんだ?
だいたい、我々を無視するとはどういう了見だ。
貴様ら下等種はいつもそうだ。
我々が貴重な時間を使ってやっているのに、それに対する感謝がまったく無い!
どれだけありがたいことなのか、わかっているのか!
だいたい~~~~~~!」
……うん、こいつ、本気でなに言ってんだ?
そもそも、こうなったのは誰のせいと?
俺はそんなことを思いながら、今まで抑えていたものが、噴き出す寸前であることを感じた。
しかし同時に、今からやることを考えれば丁度良いとも感じていた。
なので俺は、未だにまくし立てる様になにかを言い続ける男の言葉を右から左に聞き流しながら、自分の中で溢れかえった感情に身を委ねた。
「貴様ら下等種は、我々の言うことだけを黙って聞いていれ「そろそろ黙っておけや、腐れオ○ニスト。」……なに?」
「だから、黙っておけって言ってんだ、腐れ野郎。
こっちが黙っていれば、好き勝手ぬかしやがって。
てめえらの妄言なんて、もう飽き飽きなんだよ、こっちは!」
「な!?
我々がいつ妄言なんて言った!」
「徹頭徹尾終始一貫、最初から最後まで!
むしろ、あの中で妄言じゃないところを探す方が大変じゃい!
もしお前ら以外で、さっきの一部始終聞いた上で賛同する輩がいるのなら、今すぐ会ってみてえよ!
そんなに自分の妄想でハアハアハアハア興奮したいなら、今すぐお家に帰ってマスかいていやがれ、このスカタン!!!」
一気に言い切ったため、若干息を切らしながらも睨み続ける俺に対し、男は怒りで顔を真っ赤にさせながら唸り声を上げていた。
「……貴様、そこまで言ったからには、覚悟は出来ているんだろうな!?」
「……てめえらをぶっ飛ばす覚悟なら、とうの昔に出来てんよ。」
「減らず口を!」
その言葉と共に十狼士と周りの人狼達が俺に襲いかかろうとした、その瞬間。
「待て。」
突如天慢寺の声が、静かに響き渡った。
その声は静かではあったが、形容し難いなにかがそこには込められており、全員がその場に縫い付けられる様に動けなくなってしまった。
その中を彼女は、特に気にすることもなくてくてくと歩き、俺の前まで近寄ってきた。
「………君、彼らが今まで言葉は妄言だ。って言ったよね?」
「ああ、言った。」
「それがなんで今のが妄言だと言えるの?
もしかしたら、可能かもしれないでしょ?」
『!?』
彼女の言葉に十狼士と周りの人狼達の表情が喜面に染まり、俺は訝しげな表情を彼女に向けた。
「難しい顔をしているけど、どうかしたの?」
「……仮にも部隊長を名乗る者が言う台詞とは思えなくてな、真意を計りかねてる。」
「ん~、深い意味は無いかな?
ただ、そこまで言うからには、それなりの根拠があるんでしょ?
それを聞きたいかな?
……まさか嫌なって、言わないよね?」
そう言いながら、彼女はにっこりと笑みを浮かべた。
………例によって、目は一切笑っていなかったけどな。
しかし、まいったな。
あいつにあまりにも腹がたったので、プッツンした流れのままA(煽りに煽って)R(乱戦の途中で)T(とっとと、とんずら)に繋げようと思っていたんだが、見事にぶった切られてしまった。
奴らの問題点自体はわかっているから、話せと言われれば話せるが、彼女の狙いがなんなのかがわからないぞ?
………最悪の場合、乱戦に無理矢理にでももっていって、逃げるほかないかもしれないな。
あの事を確認したのち、タイミングを逃さない様に、話しながら周りの様子に気を張るしかない、か。
あとは、覚悟を決めて行動あるのみだな。
昔の人もこう言った。
【為せばなる、成さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり。】と。
……よし、いくぞ!
そんなことを数瞬の間に考えて腹を決め、俺は静かに頷いた。