仮面ライダーハッカー   作:六界の魔術師

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大変遅くなりまして、すみませんでした。
9/22に前話の最後の方を改編していますので、ご覧になっていない方は、そちらからご覧下さい。


DISK38浅はかな考えと力の差(後)

「……わかった。

そういうことなら、根拠を言わせてもらう。

まず一つ目は、あまりにも見立てがずさん過ぎることだ。

だろう。とか、はずだ。とか、希望的観測が多すぎる。

これがもし、周りに根回しや情報収集をやった上での発言ならば、まだ良い。

だが、聞いた限りではそんなことも一切せず、周りが勝手に動いてくれるだろうという、浅はかなものだった。

そんな他力本願丸出しの考えなんて、上手くいくはずがないだろ、って話だ。

二つ目、あらゆる部分の準備が、あまりにも不十分すぎること。

何人で反乱を起こそうとしているかはわからないが、そんなに人数は多くないんだろ?

だからこそ遠吠えをして、周りの奴らに呼び掛け、巻き込もうとしたんだ。

しかしだとすれば、なおのこと周りに話を通しておくべきだったのさ。

でなければ、襲撃に成功できたとしても、そっから先は繋がる可能性は限りなく低いからな。」

「なんでそんなことが言えるの?

もしかしたら、彼らと同じ様に不平不満を持つ者達が同調してくるかもしれないでしょ?

それとも君は、それすらもあり得ないとでもいうの?」

「そこまで言った覚えはない。

人狼に限らず、今の世の中の在り方に不平不満を持つ奴は、多かれ少なかれいる。

それによって反社会的な行動をしたら問題だが、その考えまで否定する気はないさ。

ただ、いきなり上から目線で、【俺について来い!】って言われたって、大多数は不信感しかもたれないから、ついて行こうとは到底思われない。

それにな、他の人狼族にあいつらと同様に不平不満を持つ奴らがいたとしても、それはほんの一握りにすぎない。

でなければ、人狼族という種はとうの昔に消えていたはずだからな。」

俺のその言葉にほとんどの者が?を浮かべる中、目の前の天慢寺だけは、興味深そうに目を細めるだけだった。

「……まあ、それは今は関係のない話だからな、話を戻すぞ。

そもそもの話、あいつらが攻めようとしている場所は、あいつらの生活圏内から大きく離れた場所なんだぞ?

そこへ勝手に入ってきて、好き勝手暴れた上にいきなり上から目線で物を言ってきたら、俺だったら間違いなくそいつらをぶっ飛ばしに行くね。

そして三つ目、お前らは人間を舐めすぎで、知らなすぎだ。

なるほど、確かにお前らの身体能力は驚異的だ。

並みのセキュリティ程度では止められないだろう。

だがしかし、お前らが襲おうとしている二ヶ所に仕掛けられているやつは特別製でな、許可書を持ってない奴はもれなくレーザーでなます切りにされるんだ。

それも奥に行けば行くほどそのセキュリティは強固になり、最終的には地を這う蟻や飛ぶ蚊一匹すら入れない状態になる。

例えお前らがどんだけ強かろうと、あそこに張り巡らされた強固なセキュリティの前では無意味だ。

いや、仲間を盾にしながら突っ込めば、あるいはたどり着くことは出来るかもしれない。

だが、その際は確実に無傷ではないだろうし、GGの人達がいるはずだから、そこで終わりだ。」

「GG?」

「グレート・ガーディアンズ。

要人護衛のための組織でな、軍や警察、消防にガードマン、果てはプログラマーからサラリーマンまで、優秀な人材を業種問わずに集められた、国内最強のスーパーエリート集団なのさ。」

「ふん、ガーディアンだかなんだか知らんが、下等種ごときが束になった所で、我々に敵うわけが「ライオンと素手で組み手をする人達だぞ?」………はい?」

「だから、ライオンと素手で組み手をする人達だぞ、って言ったんだ。」

「……こうちゃん、それマジか?」

「ああ、初めて見た時は流石にびびった。

人ってここまで強くなれるんだな。っと、遠い目をしながら幼心に思ったもんだ。」

「……まあ、なるわな。」

とはいえ、初めて見たあの時に、ここまでじゃなくていいから、誰かを守れるぐらいに強くなりたい。と感化はさせられたんだけどな。

「……っていうか、なんで君がそんなことを知っているんだ?」

「知り合いにそれ関係の人がいてな、本当は駄目なんだけど、特別に見学させてもらったことがあるんだ。

あの時は、ライオンとも戯れさせてもらったな。」

「た、戯れ…る?」

「おう、後ろにSPのおじさん達がいたからか、大人しかったぞ?

だからかな?

ちょっと調子に乗ってしまって、要らんことやっちゃったよ。」

「要らんこと?」

「ああ、なんでも好きなことして良いって言われたから、一通り芸を仕込んできちゃった。」

「………なにやってんの、お前?」

「いや本当に、なにやってんのだろうね。」

そう言いながら、過去の自分の行動が恥ずかしくなり、赤くなった顔を隠す様に手で押さえながら俯いた。

ちなみに、ライオン達が大人しく言うことを聞いてくれたおかげか、見学していた数時間の間に教えた芸に関しては、全て覚えてくれた。

そのおかげか、隊員の方々には大変可愛がってもらい、隊長さんに至っては、『将来、うちで働かないか?』とまで言っていただいた。

無論、お世辞だっただろうし、自分の実力がそこまであるとは到底思えない。

そしてなにより、自分の夢があったため、その場で丁重に断らせていただいた。

とはいえ、評価してもらったのは純粋に嬉しかったけどね。

 

―閑話休題ー

 

「そんで四つ目、こいつらはあらゆる意味で、人間社会の一般常識を知らないすぎだ。

そんなんで、よく人狼達の国を作るなんて戯言を言えたもんだ。」

「戯言だと!?

貴様、我々をどこまで愚弄するつもりだ!

それに言ったはずだ!

貴様ら下等種か、なにを仕掛けてこようとも、力で粉砕「できるわけないたろ、アホ垂れ。」……なんだとぉぉぉ!!」

「じゃかあしい!

そんな猪みたいに、力任せに突撃すれば大丈夫!って、アホなこと言っていれば、アホ垂れとも言いたくもなるわ!

もし、力任せだけで物事が万事上手く回るなら、今頃この世は世紀末覇者が闊歩する世界になっている。

しかし、この世がそうなってないというのは、力任せだけで物事が上手くほど、世の中甘くないということを示しているんだ。

基本的に、戦術で戦略を覆すことはできない。

お前らの力任せな戦術など、人々が練り上げ、積み上げてきた戦略の前に潰されるのがオチだ。

 

それに、ターゲットを確実に葬るためにも、情報っていうのは必要なんだ。

なぜなら、苦労して奥まで行ったのに、そこにターゲットが居なかったら、骨折り損もいいところだからな。」

「……それがどうした?

なにが言いたい?」

「勘の悪い奴だな。

今のお前らがそうだって言ってんだよ。

お前らが無理をして突撃したところで、無意味なんだよ。

なぜなら、お前らの目的の人物はその時間、基本的にはそこに居ないんだからな。」

「……はぁ?

なにを言っているんだ、貴様は?

そんな言葉に引っ掛かると思ったか!?

自分の住みかから離れる奴がどこにい「それが間違っているってんだ。」……る?」

俺の言葉に目を点にしながら固まる男を無視して、俺は言葉を続ける。

「あそこは仕事場であって、住んでいるわけではない。

そんな一般常識すら、お前らは知らないんだ。

そして五つ目、これが最後にして最大の根拠。

それは、お前ら人狼族は夜しか行動できないことだ。

仮に襲撃が上手く行き続けたとしても、やがて夜は明け、お前らは変化を維持できなくなる。

命を削れば維持できるそうだが、お前らの為に命を削るやつは、いったい何人いるやら。

で、お前らが約半日動けない間に、こちらは警備態勢の立て直しと、襲撃時のデータを元に警備の強化を図る。

まあ、政府がよっぽど無能ではない限り、半日もあれば準備は十分間に合う。

そうなれば、お前らは終わりだ。

攻めたところで強固になった守りに阻まれ、それ以上進めないだろうし、攻めずに逃げたところで、いずれ特定されて消されるだけだ。

なんにせよ、この世で正確な情報ほど重要なものはない。

それさえあれば、よほどのことがない限りは、負けることも失敗もない。

かつて孔子もこう言った。

【彼を知り、己を知らば、百戦危うからず。】とな。

お前らの場合、彼を知らなきゃ、己もきちんと把握出来ていない。

そんな状態で戦おうなんて、例え冗談でも笑えねえよ。

以上が奴らの失敗する根拠なのだが、なにか質問はあるか?」

「……なら、一つだけ。

もし仮に、彼らが今すぐ行動を移すのを止め、あなたの言う通りに周りと連携をとり、準備を万全にすれば、計画は成功するの?」

「……ん~、まあ、成功率は多少上がるだろうな。

ただし、それでも限りなく0に近い上、計画が実行されない可能性が非常に高い。」

「んん?

なんでだ?」

「理由は二つ。

一つ目、時間がかかり過ぎること。

もし本気でやろうとするならば、あらゆる人狼族と正しい情報を共有し、全員足並みを揃え、迅速に行動しなければならない。

それこそ、この初撃で全てを終わらせるぐらいの気持ちで、だ。

でなければ、さっき言った様に追い詰められるだけからな。

だが、それをやろうとしたら全ての人狼族に声をかけ、協力をあおがなければならない。

すんなりいけばいいが、時には受け入れなかったり、邪魔してくる奴らもいるだろう。

そいつらを説得するか潰すかまでは知らんが、それをしていたら、余計に時間がかかること間違いなしだ。

全ての人狼族と話のに、どれだけの時間がかかるかなんて、正直な所俺にも想像がつかん。

少なくとも一世代はかかんじゃねえかな?と思う。

それをやりきるだけの覚悟と想いが、お前らにあるとは到底想えん。

二つ目、あいつらがあんな妄言を言えるのは、ひとえにこちらのことを知らない、無知だからだ。相手を知るということは、相手の強さや恐ろしさを知ることでもある。

知らないからこそ、恐れずに行動できるんだ。

だからこそ、、現実を知った時に二の足を踏む。

中には、それを超えて踏み出せる奴もいるが、全ての者にそれを求めるのは酷だ。

まあ、それを超えさせるカリスマ性をトップが持っていれば、また別なんだが、あいつらにそれを望むのは、更に酷な話だ。

そんなわけで、計画が実行されないと思っている。

まあそもそもの話、省かれいたあいつらの話を真面目に聞くやつなんて、始めからいないだろうけどな。」

『……………え?』

「…やっぱり気付いてなかったのか。

妙だと思わないか?

省かれていたしょうちゃんは別として、十狼士と呼ばれている男が、自分達以外の人狼族と会ったことがない、っていうのは、普通に考えたらあり得ない話だ。

それも、声が聞こえる範囲にいるにもかかわらず、だ。

ここまでいくと、今まで偶然逢わないでいた。と言うには、少々無理がある。

そうなると、意図的に逢わない様にしている、としか考えられないわけんだ。

では、何故彼らは意図的に逢わない様にしていたか?

そして考えられる理由が、お前らも周りから省かれていた、というわけさ。」

周りの人狼達と十狼士の面子が、呆気にとられた様な表情で固まっているのを見ながら、俺はそう言い切ると、一人が徐々に顔を赤くしながら、身体を震わせ始めた。。

「き、貴様!

我々がはぶかれていただと!?

ふざけるな!!

そんな貴様のただの妄想だろ!?

そんなわけのわからん根拠で、そんなことを言うな。」

「なら一つ。聞くが、お前らは上の奴らに一切不満をもってなかったのか?」

「っ!」

「自分よりも順位が上だから。

ただそれだけの理由で、そいつらに良いように使われても、なにも思ったことがない。と、お前らは言うのか?」

俺の言葉に生介とおじいさん以外の人狼達は、顔をしかめながら顔を背けた。

「力による支配は、反感しか買わない。

それは人間の歴史も証明している事実だ。

力で縛れば縛るほど人の心は離れていき、そして縛る力を失った時、人その物が離れていく。

お前らの両親が、そうであった様にな。」

俺のその言葉に、先程まで語っていた十狼士の男と周りの数人は、更に顔を歪めた。

「睦月、今の言葉はどういうことなんだ?」

「言葉通りだよ。

あいつらの親もまた、一族の人達から省かれていたんだよ。

今のあいつらと同じく、力で色んな人を縛り、扱っていたために、な。」

その言葉に更に顔を歪める男に、俺は自分の考えが正しかったことを確信する。

「……なんでそう思ったの?」

「さっきあいつは、自分には偉大な親がいる、教材は大自然がある。

だから教えてもらう必要はない。と言っていたよな?

聞いた時は気づけなかったけど、よくよく考えてみればおかしいことなんだよ。」

「?

どこら辺がおかしいの?」

「まずこいつ、いや、こいつらは、あまりにも常識的なことや知識、教養がなさすぎる。

さっきしょうちゃんは、あいつら以外の人狼はみんな人間社会に溶け込んでいる。と言っていた。

それはつまり、他の人達は一般教養をきちんと身につけているということになる。

また、産まれた子供は一族みんなの子供、とも言っていた。

であるなら、例え自分の子供でなかったとしても、きちんと教えているはずだ。

なのに、奴らにその様子はない。

また、奴は大自然と言っていたが、ここら辺は言うほど自然は多くない。

あってこの自然公園ぐらいだ。

なのに、奴は大自然と言った。

この二点から察するに、あいつらは幼少の頃はここら辺ではなく、もっと自然の多い場所で育ったと推測出来る。

だがそうなると、なぜ奴らの両親は一族から離れてたのか?という疑問が残る。

だってそうだろ?

普通に考えて、両親二人だけで育てるよりも、手を貸してくれる人がいた方が良いはずだ。

一族の子供はみんなの子供というなら、なおのことだ。

つまり、あいつらの両親には離れなければならない理由があった。

そして、理由として考えられるのが…。」

「一族から省かれているということ。

ってわけね?」

「ああ、そういうことだ。

しかし、両親を誇るのは良いことだと思うんだが、もう少し考えて行動しなよ。」

「なにを言っている、私は常に色々と考えながら動いているぞ?」

「どこがだよ。

きちんと考えず、言われた通りにしかやらなかったから、失敗した所まで真似することになったんだろ?。」

「ふざけるな!

俺の両親は、失敗などしていない!

たしかに、両親から人は離れていった。

だがそれは、あの二人の強さに嫉妬した連中が、周りになにかを吹き込んだに違いない!

だからこそ俺が、俺達が証明するのだ!

俺達の両親は間違ってなかったのだと!

周りが間違っていたのだと!

人狼の国を作って、それを証明してやるんだぁぁ!!」

『うおぉぉぉぉぉ!』

叫ぶ様な男の言葉に、下がっていた周りの人狼達のテンションは、一気にに跳ね上がっていく中、俺はそれを醒めた目で静かに見つめていた。

「……なにも言わないの?」

「……言っているのが親友なら、ぶっ飛ばしてでも諭すけど、あいつにそこまでやる義理はない。

なにより、借り物の言葉しか言わないあいつに、特に言うことはないよ。」

「借り物?」

「そ、借り物。

あいつは、他の人が言った言葉をなぞって言っているに過ぎない。

そこにあいつの想いがない。

だからこそ熱が感じられない。

そんなやつは早々に淘汰されるか、干される。

だから、こちらがなにかをする必要はないのさ。

……さて、これで奴らの計画の実行は無理だというのと、他の一族の人達は関係ないというのが説明できたと思うが、納得したか?」そう言いながら俺は、真剣な表情で見てくる天慢寺に対し、にやりと笑みを浮かべて見せた。

…まあ内心、冷や汗が止まらないがな。

「………確かに無理そうね。

うん、納得したよ。」

そう言ってにっこりと笑う彼女だったが、俺はその笑顔に更に冷や汗が増えていくのを感じる。

「も~、色々と言ってくるから、転覆可能なのかと、いらない心配しちゃったよ~。

それなら後は、ここにいる全員消せば、問題解決だね♪」

『……え?』

にこやかな笑顔とは真反対の物騒なことを言う彼女に、一同が疑問符を上げた瞬間、恐ろしいほどの殺気が彼女を中心に、辺り一面に広がった。

「……やっぱりそうなるのか。」

凄まじい殺気を前に周りが顔を青くしたり、驚きの表情をしたりする中、俺は一人そう呟きながらため息を吐いた。

「…やっぱりって、どういうことだ?」

「…なあ、しょうちゃん。

支配者が支配した後に望む物ってなにかか知っているか?」

「支配者が支配した後に望む物?

……金とか女か?」

「……まあ、それも望むだろうが、一番は安定なんだ。

永続的に支配していくには、問題や障害はない方がいいからな。

だからこそ、危険分子や問題の種を嫌い、憎むんだ。

それがどれほど些細で、とるに足らないものであろうとも、危険な芽は早めに摘み取るに限るからな。」

「ああ、なるほど、そうだよな。

…………って、こうちゃん。

それってつまり……。」

「…残念ながら、俺達も問題の種に認定されたらしいな。

ただ、俺や神無月、周りの人狼達はともかく、しょうちゃんと長のじいちゃんは関係ないと思うんだが?」

「そうかな?

だって彼はあなたを助けるためにドマーと戦ったんでしょ?

なら、あなたと同罪。

そしておじいちゃんは、彼らをまとめなければならない立場にありながら、それが成されていなかったが為に、組織に不益が生じそうになった。

その監督不届きに対する処罰だよ。

そもそもの話、君が首を突っ込まなければ、彼らは巻き込まれることはなかったんじゃない?

そのこと、自覚あるのかな?」

「…………。」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら聞いてくる彼女に対し、俺はなにも言えずにただ奥歯をギリッと噛みしめた。

実際、彼女が言っていることは事実であり、俺は返す言葉がなく、唇を噛みしめるしかなかった。

「………とはいえ、彼は人狼族の長として、今まで組織に尽くしてくれたし、有力な若手を失うのが惜しいのも事実だから、最後のチャンスをあげる。」

「最後のチャンス?」

「うん、そう、最後のチャンス。

今から反逆者達を処刑するから、その間その場から一歩も動かないこと。

それが出来たなら、今回のことは不問にしてあげる。」

『なっ!?』

「なんだ、そんなことでいいのか。」

『はいぃぃ!?』

天慢寺の言葉に驚く面々を他所に、ホッとしながらそう答える俺を、その場の一同が驚愕しながらこっちを見た。

しかし、揃いも揃って騒がし奴らだな。

「……ねえ、」

「ん?」

「君はそれ、わかって言っているの?」

「当然だろ?」

怪訝な表情をしながら尋ねる彼女に、俺がなんでもない様に答えると、彼女は表情を更に歪めた。

「………できると思っているの?」

「できるかどうか?ではない。

やるのさ。」

俺の言葉に困惑の表情を浮かべる一同を尻目に、俺は怪訝な表情をするしょうちゃんの側まで近寄った。

「…?

なんっ……!?」

しょうちゃんがなにかを言うよりも早く、俺は彼の顎を左手で固定し、右手で頭を軽く前後に振った。

すると、今まで普通に立っていたはずの彼は、糸を切られた操り人形の様に、突然その場にへたりこんでしまった。

「……なにしたの?」

「脳を揺らした。

例え、どれだけ首や体を鍛えようとも、脳を直接揺らされれば意味はないのさ。」

「………本当になんでもありだね、君。」

「そうでもないさ。

今のは不意討ちだったから出来たたけだし、本来なら片手でやる技だが、力が足らないから両手でやらなきゃいけない上、それでも成功率はたったの三割程度だ。

ほぼ運に助けられている様なもんだ。」

「……いやいやいやいや、それでも十分凄いから。」

ため息を吐く俺に、神無月がツッコミを入れてくる。

「ん~、しかしだな。

やる以上は成功率八割にはしておかないと、いざという時が怖いからな~。」

「……ねえ、君はなにになろうとしているの?」

「ん?

しゃべってギャグれる新聞記者だが、なにか?」

そう言いいつつ俺は、キリッとした表情をしながらサムズアップをした。

その表情は我ながらキマッていた感触があった。

おそらく、普段の三割増し(当社比)にキマッていたと思われる。

「……いや、睦月。

その顔は腹がたつだけだから止めておいた方が良い。」

「そうだね、思わず殺っちゃいそうだったよ。」

だが、周りには不評だったらしく、その場の全員に冷たい視線を送られた。

……解せぬ。

「そもそも、普通の新聞記者に、そんな技能は要らないだろ?」

「なにかあった時のために、習得しておいただけだよ。

……とはいえまあ、流石にこの展開までは想定していなかったけどね。」

「…まあ、そうだろうな。」

「これぞ正に、備えあれば嬉しいな!だな。」

「それを言うなら、憂いなし。だ。」

「………そうとも言う。」

「そうとしかい言わないぞ。」

呆れのため息を吐きながらツッコミを入れる神無月に、俺は苦笑を浮かべるしかなかった。

「……あ、ボケたことは言っているが、使った技はマジもんな上、上手く決まったから、本当に暫く動けないぞ、しょうちゃん。」

体を動かそうと。ぐぐっと力を込めている彼だったが、俺がそう話しかけると、彼の体がビクッと跳ねた。

……気づかないとでも思ってたのか?

「……お前は生きろ、生介。

そこのじいちゃんのためにも、人狼族のためにも、そして俺のためにも、お前はここで死ぬな。

この願いはとても身勝手で、お前が望まない願いだとはわかっている。

……それでも、…それでもお前には生きて欲しいんだ。」

そう言いながら俺は、生介から視線を外し、天慢寺を真っ直ぐ見据える。

「……じゃあな、親友。」

俺は最後にそう一言呟いて、数歩前に出た。

「…悪い、待たせたか?」

「ううん、最後の別れだもの。

それぐらいは待ってあげるよ。」

「そりゃまた優しいこって。

その優しさを、もう少しこちらに回してもらえると助かるんだけど、駄目?」

「うん、無理。」

「……だよね~。」

あ~、やっぱ駄目か。

と、内心はそう苦々しく思いつつも、表情は苦笑を浮かべ、軽い口調で返えす様に努めた。

まあ、わかっていたから、良いんだけどね。

「……さてと、じゃあ、そろそろ始めようと思うけど、準備は良いかな?」

「ま~だだよ。」

「答えは聞いていないよ♪」

『なら聞くな!!』

そんな軽い掛け合いしつつ彼女は、無数の羽根を空に向けてばらまいて両手を大きく広げると、鳥が羽ばたく時の様に両腕を勢いよく前へ降った。

すると、それに呼応する様にばらまかれた羽根が四方八方へ、弾丸の様に真っ直ぐ飛んで来る。

、先ほどの倍以上の速度で飛んで来る羽根を、俺と神無月は素早く動きながらそれ避けていた。

『ギャー!!』

「ぐはっ!」

「がはっ!」

周りから複数の叫び声が聞こえてくるが、避けるのに精一杯で、気にしている余裕はなかった。

雨の様な弾幕がようやく終わり、素早く周りを見ると、俺達の周り方にいた人狼の半数近くに、羽根が数本深々と刺さっていて、それぞれが痛みに悶えており、その姿を避けきった奴らが唖然としながら見ていた。

羽根は様々な所に刺さっており、中には両目に刺さっている奴もいて、その姿には流石に顔をしかめた、その時だった。

『………え?……あ、……あ゛、…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………!!!???』

突然奇声を上げ始めたかと思うと、彼らの目から、鼻から、口から、ありとあらゆる穴という穴から赤色の煙が登り、身体が歪にボゴボコと膨れ始めたかと思った次の瞬間、彼らの内側から突如炎が吹き出し、それと同時に突き刺さった羽根も激しく燃え出したため、彼らは一瞬の内に火だるまに変わってしまった。

『なっ!?』

業火は始め、激しい勢いで燃え続けていたが、全てを燃やし尽くしたのか、勢いはゆっくりと弱まっていき、数秒後には人狼だった物の燃えカスを残して鎮火した。

「……おいおい、マジかよ。」

「よそ見している暇はないよ?」

「チッィ!!」

彼らの死に樣に一瞬呆けそうになったが、その言葉に素早く意識を、動き出そうとした、その時だった。

「お、お待ちください、天慢寺樣!!」

「……なに?

なんの用?」

大声を上げて呼び止める十狼士を、彼女はギロリと睨みながら動きを止めた。

「な、なぜ、なぜ我々まで攻撃されるのですか!?

その場で動かないでいれば、攻撃はしない。と、言ってくださったじゃないですか!!」

「………へ?」

叫ぶ様に訴えるその言葉に、周りの人狼達もうんうんと頷いているが、俺と彼女は揃って疑問符を浮かべた。

「…ん~、孔月、そんなこと言ってっけ?」

「優秀な若手を失いたくない。と言った後に、動かなければ処刑しない。と、言ったではないですか!!」

「……うん、言ったね。

でもね、あくまでも孔月が残すと言ったのは、優秀な人であって、その他大勢の雑兵は必要ないんだよ?

それとももしかして、自分達が優秀な若手だと思っていたの?

だとしたら、勘違いにも程があるんだけど?」

表情を隠す様に、左手で口元を隠しながらそう言う彼女ではあったが、眼の形や声色、頬の動きから、嘲笑の笑みを浮かべているのが見てとれた。

「……それはつまり、我々もまた、その他の雑兵程度のレベルである、と?

強靭な肉体を持ち、鋭い爪と牙を兼ね備え、優秀な頭脳をあわせ持つ我々が、雑兵程度のレベルである、と?

他のどの種族よりも上位の力を持つ我々が、なんの力を持たぬ下等種と同じレベルである、と!?

ふざけるなぁぁぁ!!」

そう叫びながら十狼士の一人が駆け出し、彼女に向けて鋭い爪を降り下ろした。

だが、彼女はそれを特に慌てることもなく、ヒラリと避ける。

「ぬぅぅうおぉぉぉぉぉ!!」

余裕を持って避ける彼女の姿に、男は速度を上げながらラッシュを続ける。

だが、凄まじい風切り音を上げながら繰り出されるそれを、彼女は眉一つ動かさず、先ほどと一切変わらぬ様子で避け続けていた。

その間俺はというと、彼女の気が一瞬でも俺から逸れたら、即動き出せるように、ラッシュが始まった時からその場に留まり、彼女の動きを注視していた。

………そう、つまり彼女は、あれだけの激しい攻めの中でも、一瞬たりとも俺から気を逸らしていないのだ。

しかも、意識の比重はこちらに多く向けられている。

その比率はだいたい八対二といったところだろうか。

………我ながら、この比率はおかしいだろ、ってツッコミをいれたいのだが、飛んでくる殺気の強さが、俺の考えを肯定する。

しかし、彼女も無茶をするよな。

今彼女がやっていることを、分かりやすく例えるならば、マシンガンが乱射される中を、大音量の音感をイヤホンで聞いている様なものだ。

はっきり言う。

あれは俺でもできないし、やろうとも思わない。

なんにしろ、今は動けないには違いない。

さて、どうする?

そんなことを思っていると、天慢寺が避けるのと同時に身体をひねり、数瞬力を溜めた、次の瞬間。

 

ードゴッー

 

という鈍い音と共に、男の胸に彼女のローリングソバットキックが突き刺さり、男の身体をきく後ろへ蹴り飛ばす。

男が苦悶の表情を浮かべながら吹き飛んでいくのとほぼ同時に、俺に向かって無数の羽根が飛び交い、辺り一面に突き刺さった。

だが、羽根が飛んできた時には、既に俺はその場から駆け出していたため、それが突き刺さることはなかった。

「…ったく、ローリングソバットをかましながら、羽根でこちらを牽制するとか、随分と器用な真似をするもんだな。」

「…逆だよ。」

「ん?」

「さっきの攻撃、蹴りの方がついでで、君への投撃の方がメインだよ。

悪いけど、君になにもさせるつもりはないよ。」

「……おいおい、ただの人間相手に、随分な警戒のしようだな?

ちょっと過分に対応し過ぎじゃねえか?」

「うん、そうかもね。

でもまあ、念には念をって感じかな?

なにもないことに越したことはないでしょ?」

「……そりゃまた、身に余る光栄ですな。」

そう軽口で返しながら苦笑を浮かべて見せるが、内心は若干焦っていた。

今まで上手くいっていたのは、相手が俺をただの人間と心のどこかで侮っていたから、その隙を上手くついていたが、今の彼女からはそれを感じられない。

恐らく今なにかをしようとしたところで、彼女の言葉通り、する前に潰される公算の方が高い。

……ヤバいな、手詰まり感が半端ないぞ。

……まあ、だからと言って諦めるという選択肢はないけどな。

そう思い、なんとか手を探そうと構え続けていると、彼女の後ろで動く影があった。

「……へ~、生きていたんだ。」

そう言いながら彼女が振り返ると、先ほど蹴り飛ばされた男が、胸を抑えながら立ち上がっていた。

「一応殺すつもりで蹴ったんだけどね。

言うだけあって、身体だけは頑丈みたいだね。」

「……ぬかせ。」

とはいえダメージは大きいらしく、荒い呼吸を繰り返しながらも、なんとか立っている。っという感じだった。

「……おい、お前ら。

なにぼーっと突っ立っているんだ。

とっとと構えろ。」

『…え?』

「ぼーっとしてないで、貴様らも戦えと言っているんだ!」

『ええっ!?』

周りを見回しながら叫ぶ男の言葉に、周りにいた若い人狼達は目を白黒させながら驚きの声を上げる。

「ちょっ!?

なにを馬鹿なことを言っているんだ、お前は!?

ふざけたことをいうな!!」

「ふざけたことを言っているのはどっちだ!!

ここであいつを殺らなければ、俺達が殺られるんだぞ!

生き残りたいなら、戦え!!」

唸り声を上げながら飛ばされた男の激に、周りの人狼達が呼応する様に唸り声を上げながら構えをとる。

天慢寺はその様を、目をぱちくりさせながら見ていたが、その数瞬後ニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべた。

「……へー、孔月と戦う気なんだ。

たかだか身体能力が少々優れている程度で色々と勘違いしている人達が、孔月に勝てると思っちゃっているんだ。」

「うるせえ!!

てめえら、一斉にかかれぇぇ!!」

男の号令と共に、十狼士の二人を除いた周りの人狼全員が動き出し、男は高く跳び上がった。

周りから距離を詰める者は全員で六人。

その六人も同時に詰めるのではなく、前後に三人づつ別れて詰めているため、仮に最初の三人を避けても、直ぐ波状攻撃ができる様に布陣されていた。

しかも、上に飛んで逃げようとしても、先に跳んでいた男がいるため、無傷で避けるのは難しいと言わざる得ない。

仮に無傷で全員を倒せる実力があったとしても、あれだけの数になると、意識を嫌でもあちらに向けなければならないはず。

それが例え数秒だったとしても、この場から逃げるきっかけには十分だ。

つまり、逃げるなら今が絶好のチャンス!というわけなのだ。

そう思いながら神無月を見ると、向こうもこっちを向いていて、こちらへ頷いてきた。

うん、考えが一緒の様で助かる。

よし、なら後はあいつらが攻撃を仕掛けた瞬間、動きだせば……、

「……邪魔。」

………たった一言と一動作だった。

「……え?」

先ほどの一言と、払う様に大きく腕を振る動作の一つだけ。

たったそれだけで、周りにいた六人の人狼は突如生まれた火炎に呑み込まれ、数瞬後には黒ずみの物言わぬ塊へと変わっていた。

「なっ!?」

跳んでいたがために炎に呑まれなかった男は、一瞬驚きの表情を浮かべるも、直ぐにギリッと歯を食い縛ると、落ちる勢いをそのままに腕を思い切り振る。

「ぬおぉぉぉ!!」

 

ーグシャバキッー

 

振り下ろした右手がぶつかった瞬間、辺りに肉と骨が砕ける音が響いた後、二人はその場で固まった様に動かないでいた。

俺の方からでは男の背中しか見えず、天慢寺がどうなったかまでは見えなかったのだが、存命であることは断言できた。

何故ならば、

「……これで終わり?」

先ほどから変わらず、彼女の殺気がビンビン飛ばされてくるからだ。

男の身体が後ろへぐらついたかと思うと、彼女は送り足払いの要領で足を払い、男の身体を背中から叩きつけた。

「がはっ、ゴッポッ!!」

叩きつけた時の音と共に、グチャっという肉を時の音が辺りに響き、男の口からは赤黒い血が大量に吐き出された。

見ると彼女の左手は男の右手首をがっしり掴み、右手は男の胸に深々と刺さっており、彼女の右腕を赤く染めていた。

恐らく振り下ろされた右手を左手で捕らえ、カウンターの右手で胸を貫いたのだろう。

「……ねぇ?

本当に勝てると思っていたの?

その程度の実力で、本当に勝てると思っていたの?

投撃ばっかりだから、接近戦に持ち込んで、数で攻めれば勝てるなんて、浅はかな考えだったの?

……ねぇ、孔月は聞いているんだけど!!」

その言葉と共になにかが握り潰される音が辺りに響き、男は赤黒い血を再び吐き出した。

「………まあ、良いや。

とりあえず君、いらないから。

じゃあね。」

彼女が笑顔でそう言うと、突然男の身体がガクガクと痙攣し、先ほどの男達以上の火が口から吹き出して男を呑み込み、数瞬後にはただの炭の塊が転がっていた。

その炭から手を抜き、パンパンっと払うと、こちらを見てニッコリと笑って見せた。

「ところで、さっき君は面倒くさい案件がどうのこうの言っていたけど、なんのことかな?」

「……いや、すまない。

どうやら俺の勘違いだったらしい。」

「そう?

それは良かった。」

ニッコリと花が咲くような笑顔を浮かべる彼女に対し、俺は自分の浅はかさを呪った。

さっきの彼女の態度は、本心からだったのだ。

例え奴らが暴れたとしても、直ぐに鎮圧させられるだけの力を有して入れるからこそ、あんなに余裕だったんだ。

そして、今自分の置かれている状況の不味さも理解した。

……マジで、どうするかね?

俺はそう思いながら静かにため息を吐いた。

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