仮面ライダーハッカー   作:六界の魔術師

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DISK39 逃走と別れ(前)

「それそれそれぇぇ!」

「クッ!」

あれから何分がたっただろうか?

上から、下から、横から、様々な角度から無数に飛んでくる羽根をなんとか避け続けているが、だんだん膝が震え、足が重くなりだしてきた。

…さすがにそろそろ限界が近いか。

まあ、立ち止まるなんていう選択肢はないけどな。

そんなことを思っているそばから、複雑な軌道を描く羽根が数本迫ってきたが、なんとか見切って避けきる。

だが、どうしてもスレスレを避けることになるのも数本あり、羽根の持つ熱の余波によって、いたる所が火傷でヒリヒリしている。

今もこめかみスレスレを羽根が横切り、新しい火傷が一つ生まれたところだ。

「ったく、シューティングゲームの弾幕かよ!!」

「体験型3Dだよ♪」

「生憎だがその手の物は、VR版の東方でやり飽きたんでな。

命懸けのプレーなんて真っ平ごめんなんだが?」

「残念、強制参加だよ♪」

「うぉい!

もうちっとプレーヤーの意思を反映してくれよ!」

「大丈夫、ちゃんと次回作の参考にはするからね♪」

「今すぐ反映してくれ!!」

そんな弛い会話とは裏腹に、飛んでくる羽根の数が、そろそろえげつないことになっ…て…き……、い、いかん。

ただでさえ酸欠になりかけていたのに、今のツッコミのせいで、マジでヤバくなってきたぞ!

クソッ、これも彼女の罠なのか!?

そんなあほなことを考えつつも、ギリギリながら避け続ける俺だった。

一方、神無月はというと、

「はっ、はっ、だりゃ!」

彼はフレイムガルルにフォームチェンジして、両手の剣で飛んでくる羽根をひたすら捌いていた。

流石の彼女も、神無月相手には意識を偏らせることはできないらしく、半々又は六対四ぐらいの割合で、意識を向けていた。

なので、どうしても攻撃が雑になるところが生まれ、僅かな隙が生まれることがあった。

「っ!

いくぞ!」

その僅かな隙を突き、神無月は何度も距離を縮め様とするが、

「させないよ。」

「くっ!!」

その度に今までの倍近い数の羽根を放たれ、その場に釘付けにされる。

だが、その瞬間は神無月に集中しているため、俺への攻撃はほんの僅かだが止み、その間に一~二呼吸だけだが整えることができた。

呼吸を整えながらチラリと空を見ると、空が大分白んできていた。

夜明けは間近に迫っているということか。

今までやり取りからも判るかと思うが、彼女は本気ではない。

今の状況を例えるなら、猫がネズミをいたぶって遊ぶみたいな、そんなか感じだろうか?

正直なところ、神無月が受けたあの無数の羽根を避け切る自信はないし、あの火炎で攻められたら、当たらなくても焼死体になれる自信がある。

それをやらない辺り、遊ばれているのだろう。

……まあ、おかげ生き長らえているんだけどな。

なんにしても、夜が明ければ生介達は変化出来なくなるし、人の目も増える。

そうなれば、彼女にも焦りがでるはず。

そこを突けば、逃げる算段もつけられるはずだ。

そんなことを数瞬で考えながら、俺は彼女へ視線を戻すが、こちらへは羽根が放たれておらず、一瞬疑問符を浮かべた。

だが、飛んでいないのも事実だし、もう一呼吸しておくか?と、息を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが運命の別れ道だった。

「っ、ぅえだぁぁ!!」

「!?」

誰かの声に弾ける様に上を見上げると、数本の羽根がこちらに向かって、急降下しているのが見えた。

しまった!っと思うのと同時に、身体は回避行動を始めるが、息を吸い始めたタイミングだったため、その動きはひどく鈍かった。

たかが呼吸と思うかもしれないが、これ一つで動きが大きく変わってくるのだ。

試しになにも考えず、重い荷物を持ち上げてみて欲しい。

その次に、なにも考えずに立ち幅跳びをして欲しい。

大抵の人は、持ち上げる時は息を大きく吸って、息を止めながら持ち上げ、跳ぶ時は息をおもいっきり吐いているはずである。

それを感じた後、それぞれの行動を今度は逆の呼吸でやって欲しい。

恐らく上手く行動が出来ないか、できても力を余計に使ったり、記録が悪くなっているはずである。

これは、力を外に出す動き(息を吐く行為と遠くへ飛ぶ行動)と、力を内に溜める動き(息を吸う行為と力を込める行動)に、それぞれ準じた動きをしているため、それぞれ行為と行動が逆の動きをすると、相対し合って思うように力を発揮出来なくなるのだ。

今回の俺を例にするなら、避けるために駆ける行動(力を外に出す動き)と、息を吸う行為(内に力を溜める動き)を同時にした為、思うように動けないのだ。

……簡単にいうと、大ピンチなんだな、これが。

「……って、ボケてる場合か!!」

ノリツッコミをしつつ、力の入らぬ身体に無理やり力を込めるが、全て避けるには僅かに足りない。

このままでは、一~二本は直撃する。

そう考えた瞬間、俺は片足に力の比重を強くかけ、横へ転がる様に跳んだ。

その動きで僅かに身体が加速し、その僅かのおかげで俺は羽根を避け切ることに成功する。

だが、その代償は大きかった。

転がりながら避けたため、体勢は大きく崩れ、動きも緩慢な隙だらけの状態になってしまったのだ。

その隙を彼女が見逃すはずもなく、

「もらったぁぁぁぁ!!」

そう叫びながら、こちらへ振り向きざまに左と右の二回、足を止めて身体を捻り、数瞬力を溜めてからの右の一回。

計三回の投撃を仕掛けてきた。

本当ならもう一回、左の投撃がくるところだったのだが、

「はっ!!」

「くっ!」

そこは神無月が斬りかかり、彼女はそれを羽根で受け止めたため、それは未然に防ぐことができた。

だが、それでも俺を殺すには十分と言えた。

彼女の投げた羽根は一回一回の量は少なかったが、波状に投げられている為にそれぞれの隙間をカバーし、逃げ道を塞いでいた。

もし、これが駆け回っている間にやられたのならば、まだ避けられる可能性はあったが、ほぼ止まっている状態の俺では、駆けて避けるのはまず無理な話である。

「……なら、動かないでどうにかするまでだ。」

俺はそう呟き、右手で懐に入れていた青のシャツを取り出しながら、左手で上着の表前立てを掴むと、ボタンを引きちぎりながら上着をはだけさせ、素早く袖から左腕を抜きながら、迫り来る第一波に向けて、右手の青のシャツを右から左へ薙ぎ払う様に振った。

振ったシャツで、飛んでくる羽根を次々と巻き込みながら払っていくが、シャツが羽根の温度で直ぐに燃え始めた為、振り切った瞬間にそれを手放す。

目前にまで迫る第二波に対し、振った勢いで右手首まで移動していた上着の袖を掴むと、今度は左から右へ薙ぎ払う様に振った。

先ほどと同様、シャツは第二波の羽根を巻き込みながら払っていくが、こちらも羽根の温度で燃え始めた為、振り切った瞬間に手放す。

第三波は身体を捻ったり、力を溜めた時間があった分、ほんの僅かではあったが間が空いていたが、力を溜めて放った分、スピードは今までの中で郡を抜いていた。

だが、ここまでの間に体勢は立て直すことができたため、第三波はしっかり見切って避けることができた。

「う、嘘ぉぉぉ!?」

これには彼女も予想外だったらしく、本気で驚いている様だった。

「はぁぁっ!!」

「しまっっ、あぁ!」

その一瞬の揺らぎを見逃さず、力を込めた刃は受け止めていた羽根を切り裂き、彼女へ痛烈な一撃を与える。

当たる寸前に右手から生み出した羽根のおかげで、刃が直撃こそしなかったが、それでも身体を吹き飛ばされ、俺達と大きく距離が開いた。

「よし!」

「今だ!

神無月、走れ!」

「え?

あ、ああ!!」

階段へ続く扉へ向かって駆け出す俺の後を、神無月は慌てて駆け出した。

扉までの距離はこちらの方が近く、例え今羽根を投げられたとしても、こちらの方が早く逃げ込められる。

そう思いながら扉まで後数歩の所まで来た、その時だった。

 

ーゾワッー

 

今まで感じたことがないぐらいの殺気を背に感じ、反射的に後ろを振り返ると、小型の火の玉が高速でこちらへ飛んで来ていた。

『うおぉぉ!?』

神無月も殺気を感じとって振り返っていたらしく、慌てて左右に別れてそれを避けた。

高速で抜けていく火の玉に安堵するのもつかの間、さらに強い殺気を上から感じて見上げると、いつの間にか高く跳んでいた天慢寺が、急角度かつ、高速でこちらへ向かって来た。

「うおぉああぁぁ!?」

俺は慌てて足に力を込めて加速し、素早く彼女の攻撃の軌道から外れた。

そして、軌道から外れたその瞬間に彼女は高速で扉へ突っ込み、

 

ードガラガラガラガラー

 

という凄まじい音と共に階段への入り口は崩れ、階段で下へと降りることが不可能になってしまう。

入り口が砂煙を上げながら瓦礫の山になるのを見つつ、俺は彼女から距離をとり、どんなことをされても良い様に身構えた。

やがて砂煙が晴れると、無傷の彼女が砂ぼこりを払いながら立っており、無表情ままの顔をゆっくりとこちらへ向けてきた。

「………へ~、これも避けるんだ。」

「……別にあれぐらいで驚くこともないだろ。

今の攻撃も、羽根の投撃も、いくらスピードがあっても、軌道の変化のない、ただ真っ直ぐ飛んでくる攻撃ならば、如何様(いかよう)にも、蛸様(たこよう)にも対応できるさ。」

「ふ~ん。

……で?

唯一の逃げ道塞がれたけど、まだ君は逃げるつもりなの?」

「そりゃ当然だろ?

生きることを諦める選択肢がない以上、どこまでも抗うさ。」

そう答えながら俺は、軽く笑みを浮かべてみせた。

……と、なんでもない様にする俺ではあったが、内心は冷や汗だらけだった。

先ほどの投撃は、第四波が来ていれば間違いなく詰んでいたし、今のだってわりとギリギリだった。

それでも、彼女を少しでも揺さぶるために、わざと余裕がある様に見せるが、そんな内心を知ってか知らずか、彼女は表情を崩さないまま俺を見続けていた。

「………君は、危険な人物だね。

普通、こんな絶望的な状況下にいたら、膝を折ったっておかしくないのに、君は未だに諦めず、生き残る道を模索している。

それ自体は、本当に凄いことだと思うよ。」

「…過分に評価してもらって、ありがたいとは思うが、それは買いかぶり過ぎだろ?

俺は所詮はただの人間なんだぞ?」

「そう、君はただの人間でしかない。

だからこそ凄いし、危険なんだよ。

もし仮にこの場で君を逃してしまったら、君は必ず力をつけ、組織に、ご主人様に仇なす可能性が高い。

だから力の無い今、君を確実に殺す!!」

「させるかぁぁ!!」

強い意思を込めながら構える天慢寺に、神無月は素早く切りかかった。

が、

 

ーガキッンー

 

「なっ!?」

「……あなたの相手は、後でして上げます。

ですので、今はすっこんでいて下さい。」

「うわっ!?」

先ほど吹き飛ばすことができた一撃を、彼女は羽根で微動だにせずに受け止めた上、今度は先ほどと真逆に弾き飛ばされてしまった。

「はっ!!」

「くっ!」

そして、再び投げられた羽根を素早く避けていくが、先ほどまで以上に余裕が無くなっていた。

だから、

「……もらったよ。」

「なっ!!??」

いつの間にか近くにいた彼女に気づけないでいた。

「これで終わりだよ!」

そう言いながら彼女は右手に炎を纏わせ、俺に向けて拳を放った。

白色の混じった炎を見ながら、俺は背筋が凍った。

通常の炎の色は橙色であり、温度が上がる毎に白、青、無へと変わっていく。

通常白炎は五千~七千℃の間と言われ、それ以上だと青色に変わっていく。

原爆の爆発時の温度が三千~四千℃と言われ、太陽の表面温度は六千℃と言われていることから、彼女の炎のとんでもなさがわかると思う。

ちなみに、市販のガスコンロの炎が青色なのは温度が高いのではなく、ガスに使われている気体に化学反応起こしているだけである。

こういう化学反応を炎色反応という。

……つまり、なにを言いたいか?というと、彼女の手にある炎は炎色反応でない限り、あの炎は超高温であり、あれがカスっただけでも、俺はこの世から影や塵すら残さず消滅してしまうということだ。

つまり、大ピンチpart2ってわけだ。

……え?

その割には余裕だな。って?

そんなわけねぇだろうが!!

これでも選択肢2を選ぶ為に、必死に考えているんだよ!!

……え?

選択肢ってなんのことだって?

おいおい、マジで言っているのかよ?

この状況下で選択肢っていったら、

1,誰かが助けに来てくれる。

2,俺が天才的な閃きをして、自力でこの場から脱する。

3,逃げられずに消滅、現実は厳しいのだ。

の3つに決まってんだろ?

とりあえず3は除外するので、1か2になるわけだが、残念ながら1は望み薄だろうと思う。

何故なら、人狼達は恐怖で動けず、生介はあと20~30分は動けない、もとい動いちゃいけないし、神無月は吹き飛ばされているので不可。

あとはおじいさんだけなのだが、あの人も動いちゃいけない上、俺を助ける義理も無い。

つまり、誰かが助けに入ることは期待できないわけだ。

そうなると必然的に2になるわけで、さっきから色々考えているんだけど、こういう時に限って妙案が閃かない!

いや、案自体は思い付くのだが、どれも現状を打破するに至らない案ばかりなのだ。

例えば、

案1,彼女にハイキックを当てて蹴り飛ばす。

神無月の一撃に耐えられたことから、不可能と思われる。

仮に飛ばせたとしても、彼女は構わず右手を振り、俺を消滅させるだろう。

案2,全力でバック走をする。

一番現実的な案だが、恐らくこれも無理だ。

一応、百メートルを十秒で走ることはできるが、初速はどうしても鈍くなってしまう。

今から駆けた所で恐らくぎりぎりカスるか、当たらなくても恐らく余熱で燃える。

なので、この案もボツ。

案3,彼女を踏み台にして反対側に逃げる。

押して駄目なら引いてみろとばかりに、彼女の身体に足をかけて駆け上がるという、これ以上ないぐらいに単純な案なんだが、恐らくこれも駄目だろう。

駆け上がる間に自由な左手で抑えられたらアウトだし、仮に成功しても近くに居たら回転して炎をぶつけられるし、遠くに跳んでも羽根で追撃を喰らう可能性が高い。

なのでこちらもボツ。

その他に瞬間脱衣で全裸になって、相手の隙を作るとか、キスをして混乱及び動揺させる、といったとんでも案から、しゃがんでやり過ごすや、右側にひたすら逃げるなどの現実的な案まで、様々な案が浮かんではボツになり、浮かんではボツになっていく。

………え?

そんな色々と考えていないで、とっとと逃げろよ。って?

残念ながら、そんな時間の余裕は無い。

……いや、正確にはそんなに時間は経っていない。と、いうべきだな。

今まで色々と考えていたけど、実は現実の時間はコンマ数秒も経っていない。

人は死の危険が迫った時や感情が高まった時、今までの出来事が、洪水の様に溢れ出ることがある。

それをパノラマ記憶(いわゆる走馬灯)というのだが、その時に周りの時がゆっくりと流れ、思考は高速化すると、現在進行形でその状態で色々と思考しているんだがな。

しかし、俺も色々と体験してきたし、走馬灯自体は何度か見たことはあるけど、身体や周りの時が完全に止まるほどのものは、今回が初めてだな。

……まあ、そんだけヤバい状況である、ってことなんだけどな。

とはいえ、炎を目の前にして動けないのも、なかなかキツいものがあるな。

DIOの時を止める+無数のナイフの投撃を受けた丞太郎の心境は、こんな感じだったんだろうか?

……さて、あれこれ考えてみたが、やっぱり右後ろへ全力で駆けるのが、助かる見込みが一番高そうだな。

あとは万事を尽くすのみだな。

……よし、行くぞ!

 

ー時は動きだす。(子安武人さん調)ー

 

そんなことをノリで思った瞬間、本当に世界は突如動き出し、彼女の炎は俺へと迫ってきた。

マジか!?っと内心若干焦りながらも、それとほぼ同時に炎から逃れる為に、俺は素早く右後ろへと全力で駆け出していた。

そのおかげか、彼女の間合いからわずかに外れだした為、なんとかなるかもしれない。っという考えが一瞬頭に過った。

だが、それを見た彼女が目に力を入れた次の瞬間、手のひら大の炎が突如膨らみだし、一気にバスケットボール大の大きさにまで変化した為、彼女の間合いが広がり、逃げ切れなくなってしまう。

「なっ!?」

これには俺も驚きの声を上げてしまい、少しでも離れようとするが、どう考えても逃げ切れるわけがない。

あと考えられるのは、腕で顔をガードしつつ炎を耐えることなのだが、人狼達ですら数秒で消し炭に変えられる火力を、ただの人間である俺が耐えられるわけがない。

……これは、さすがに詰んだか?

そう思ったその時、視界の右端になにかが見えた気がして、反射的に腹筋を絞めた。

その瞬間。

 

ードゴッー

 

っという鈍い音が身体の中から響くのと同時に、

凄まじい勢いでタックルを喰らい、身体が同じ速度で移動しているのを感じていた。

誰がタックルをしてきたのかわからなかったし、気にもなっていたが、右腹部から感じる痛みが激し過ぎてそれどころではなかった。

その数瞬後、ザザッという音と共に身体の動きが止まったので、状況を確認するために顔を上げ、痛みで未だに歪む視界で周囲を見渡すと、そこには驚きの表情を浮かべる天慢寺とおじいさん、神無月とその他の人狼達が目に映った。

しかし、その中に映るべき人物が居らず、嫌な予感がしながら横にいるタックルした人物に目をやると、

「……良かった、今度は間に合った。」

そう言って安堵の笑みを浮かべる親友の、大津 生介の姿がそこにあった。

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