仮面ライダーハッカー   作:六界の魔術師

5 / 40
長くなったので2つに別けました。
次の話で漸く怪人、ライダーが参上します。


DISK5 潜入と真実(前)

「……どこまで行くんだろうか?

っていうか、バレてないよな、俺。」

尾行を始めて約10分。

未だに大通りをテクテクと歩き続ける青年に、俺は若干の不安が過り始めた。

尾行なんて初めてで、これの追い方で良いのか正直自信がない。

どうしたものかと、考え始めた時、青年は道を曲がり、別の道に入っていった。

「ようやく進路変更か。

しかしこの道、なんか見覚えがある気がするな~。」

辺りを見渡しながらそんなことを呟きつつ、青年の尾行を続ける。

それから2~3分くらい歩いただろうか、俺の視界に見覚えのある建物が見えてきた。

「あれは……近代文化博物館?道理で見覚えがある道だと思ったよ。」

そう呟きながらも、青年との距離に気をつかいつつ、尾行を続ける。

ちなみに余談だが、俺達の行き帰りは、彼とは別の道を使っている。

大通りの方は判りやすい道筋だが、大きく遠回りをすることになるので、何度か来たことがある人は、大抵距離の短い裏ルートを使って来るのだ。

閑話休題。

 

 

青年の跡を追って道なりに進み、遂に博物館の入り口の前までたどり着いた。

どうするのか見ていると、彼は入り口に入らず、博物館を壁に沿って歩き始めた。

しばらく待ち、彼が角近くまで行くのを見届けると、素早くなるべく無音で角まで駆けて行く。

 

そして、角から向こう側を覗きこみ、

「……。」

「……。」

同じくこちらを覗き込もうとした青年と、しばらく顔を至近距離で見つめ合い、

「……。」

「……。」

お互いになにもなかったように顔を引っ込めた。

しかしあの青年、何気にイケメンだったな。

理性的な感じだったが、ああいうのってクール系っていうのかね?

まあ、何はともあれ、

「……さて、帰るとする「ちょっと待て。」…だよね~。」

ひきつった笑みを浮かべながら後ろを振り返ると、先程まで跡を追っていた青年が、俺の肩を掴みながらそこにいた。

「僕の跡を追っていたみたいだけど、僕になにか用かい?」

青年の顔はニコニコと良い笑顔を浮かべながら聞いてくるが、目がまるっきり笑っていない。

メッチャ睨んでる。

いや、俺も逆の立場なら、多分似た表情をしてただろうけど。

「……いや~、俺実は男好きでね、カッコいいお兄さんを見つけたから、つぃたたたたたたた!

ごめんなさい!ごめんなさい!冗談だから!冗談だから!だから、ツボを押すのは止めてくれぇぇぇ!」

あまりの痛みに悶えながら懇願する俺に、青年は冷ややかな目をしながら、力を緩めた。

「あ゛ぁ゛~、痛かった。」

「……まず一つ、僕の質問に答えろ。」

「あ゛ぁ゛、了解。

とりあえず、痛くはしないで。」

「安心しろ。

ちゃんと答えれば、痛くはしない。

…君はクラッカーか?」

「…………はい?」

クラッカーって、あれか?

お祝い事の時に使う、あれか?

いや、だったらクラッカーか?なんて聞かないよな~?

そんなことを困惑しながら考え、答えに困っていると、

「ふ~、その反応を見ると、違うみたいだね。」

そう言いながら、青年は肩の力を少しぬいた。

「ならば、なおのこと気になるな。

なぜ、僕をつけて来た?」

まあ、そうなるはな~。

正直に話しても良いが、隙間の無いはずの所から出てくる様な怪人物に、それをするのはあまりにも危険過ぎな気がする。

ならそもそも追うな!っていう話だが、まあ、そこは気にするな。っていう感じだな、うん。

でも、嘘や冗談が通じそうじゃ無いしな~。

っと、思考を巡回させていると、青年は軽くため息をつき、目を細めた。

どうしたのかと思った、その瞬間。

 

-ゾワッ-

 

覗きこまれてる様な、そんな妙な悪寒が走り、咄嗟に青年の手を弾いた。

弾かれた青年は驚きの表情を一瞬するが、

「へぇー。」

直ぐに興味深い物を見るかの様に、笑みを浮かべながら目を細める。

そんな青年に警戒しつつ、俺は直ぐに逃げられる様に構えた。

「……ねえ、もう1つ別の質問して良いかい?」

「…なんだ?」

「なんで僕の手を弾いたんだ?」

「………別に深い意図があったわけじゃない。強いて言えば直感だな。」

「直感?」

「ああ、これ以上触らせていたら不味い様な、そんな気がした。」

もっと言うなら、彼を追いかけたのも直感である。

電車に乗り込んだ時も、彼を追いかけた方が良いと感じたのだ。

「もっと別の答えを期待していたのなら謝る。

すまん。」

「いや、そんなことはないさ。」

そう言いながら彼は構えを解き、さっきまでとは違う、柔らかい笑みを浮かべる。

「君は面白いな。

興味がでてきたよ。

名前を教えてくれないか?」

「……普通こういう時は、名前は自分から名乗るべきじゃないのか?」

「ふむ、そういうものか。

僕の名前は神無月 犬正、君の名前は?」「……睦月 好子だ。

変な奴だな、お前。」

「失礼だな、君には言われたくないよ。」

「……まあ、だろうな。」

苦笑しながら言う彼の態度に毒気を抜かれた俺は、ため息をつきながら構えを解いた。

「…で?改めて聞くけど、なんで僕を追いかけてきただい?」

「たまたま建物と建物の間から出てきたお前を見つけてな、なんとなく追った方が良い気がしたからだ。」

「ふむ、あれを見られていたか。

それは気になるよね。

しかし、君は直情型なんだね。

危険だとか、考えなかったのかい?」

「考えたさ。

でも、俺は直感を信じるタイプでな。

だから行動した。」

真面目な話、直感はわりと馬鹿にできないと思う。

その時の雰囲気や流れ、気配など、その場にしかわからないものを掴み、感じたものが直感の本質だと俺は思っている。

常に感覚を研ぎ澄ましている人の直感が当たりやすいのは、そういう情報を的確に掴んでいるからだと思う。

なので、直感で動くこと自体は悪いとは思わない。

まるで考えず、直感だけで行動のは問題だけどね。

閑話休題

 

「まあ、将来ジャーナリストになりたい。って思っている奴が、こんなことで戸惑っていたら、話にならないしな。」

「ジャーナリスト?」

「しゃべってギャグれるジャーナリスト、が俺の夢なもんでな。」

「……ギャグれる必要はないんじゃないか?」

「……よく言われる。」

夢を語るとみんな必ずと言って良いほど、ツッコムんだよな~。

なんで理解してもらえないんだろう(泣)

「…まあ、夢を見るのは自由だしな。

とりあえず良いか。

…ふむ、ジャーナリストか。」

そう言うと彼は顎に手を当てて、しばらく思案にふける。

「……ねぇ、睦月さん?」

「ん?なんだ?」

「僕はこれから、この研究所に忍び込むつもりなんだけれど、もし良ければ、このまま僕と一緒に行動してみないか?」

「……へ?」

一瞬彼がなにを言っているのか、理解出来なかった。

少しの間考え、彼の言ったことを理解したが、意味がわからなかった。

「いきなりなにを?と、考えていると思うよ。

僕もなにを言っているんだろう。って思っているし。」

「おいおい、自分でそんなツッコミを入れる様な場所なのかよ?」

「うん、危険しかない危ない場所。」

「そんなところに軽いノリで誘うな!!」

「しょうがないだろ?

君を連れて行った方が良い。って感じたんだ。

他でもない僕が、ね。

それに、君にメリットが無いわけでもない。」

「メリット?」

「……この世界の真実、見てみたくない?」

「…真…実?」

「そ、僕について来るなら、見せてあげるよ。どうする?」

そう言い彼は、笑みを浮かべながら俺を見つめる。

正直な所、胡散臭いことこの上ない。

危険であることも理解している。

それでも、

「……わかった。

ついて行こう。」

彼は嘘をついてない、一緒に行った方が良い。って感じた。

「OK。

じゃあ、さっそく行こうか。」

そう言って歩き出した彼の跡を、俺は頷きながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「……ところでさ、研究所って、どこにあるの?」

彼に従って歩き出した俺だが、彼はさっきから博物館の外壁に沿って歩くだけで、辺りにはそれらしい建物は一切見えなかった。「ん?研究所?目の前にあるだろ?」

「え?どこに?」

「だから、ここだよ。」

そう言って彼は、博物館の方を指差す。

「……え?えぇぇ!?

ここが!?」

「そう、ここが。」

そう言われ、俺は博物館を改めてまじまじと見た。

確かに相当なデカさだし、無いとは言えないよな。

とはいえ、昼間いた建物の裏側で、そんな世界の真実があるなんて、ちょっと信じられないと思うところある。

…まあ、世の中絶対なんて存在しない。って、先生にもじいちゃんにも言われてるし、案外そんなもんなのかもしれん。

などと自己完結させつつ、彼の跡をついて行く。

 

 

 

 

 

 

「……あった。」

「ん?なにが?」

「研究所に入るための入り口。」

更に彼に従って歩いて数分後、彼は壁を触りながら、嬉しそうにそう言った。

彼の触っている壁を見るが、別段他の壁と変わりなく、本当なのか?と思っていると、彼はおもむろに左腕からコードを一本伸ばすと、壁に突き刺した。

そして、慣れた手つきで左腕の機械を操作すると、

 

-ピピッ-

 

という電子音と共に壁がスライドし、中に入れる様になった。

「ほら、呆けてないで行くよ。」

「お、おぉ、おう。」

その様子をポカーンっと見てた俺は、我に還ると、慌てて彼の跡をついて行った。

中に入ると、そこはいかにも研究所。的な廊下と扉だった。

某ゾンビゲームの実写版映画の研究所をイメージしてもらえば問題無い。

そんな廊下を彼はスタスタと、普通に歩いて行く。

「お、おい、俺達忍び込んでいるんだろ?

そんな普通に歩いて大丈夫なのかよ?」

「ん?ああ、問題無い。

さっき扉を開けた時にウイルスも一緒に送って、システムを乗っ取っているから、監視カメラも警備システムも作動しないよ。」

「え?あの一瞬で!?」

「ああ、あの程度なら数秒あれば十分だよ。」

事も無げに彼は言うが、それ普通に凄くないか?

そんなことを思っていたら、彼は左腕の機械をまた弄りだした。

数秒後、機械音と共に見取り図が浮かび上がってくる。

どうやらここの見取り図らしく、彼は見取り図を指差しながら場所を確認しつつ、なにかを探していた。

「……ここと、ここだな。

よし、行こう。」

その言葉と共に歩きだした彼を、俺は感心しながら跡を追った。

 

 

 

 

「えーと、……よし、ここがコントロールルームだな。」

歩きだして数分後、一つの部屋の前に立ち止まり、見取り図を確認しながら彼はそう言った。

「中に人はいないのか?」

「ん?ちょっと待ってくれないか?」

そう言うとプラグを一本伸ばし、近くにあった監視カメラに投げ刺した。

そして、左腕の機械を操作し、画像を映し出す。

「……いや、いないみたいだな。」

「いやいやいやいや、ちょっと待った!!」

「ん?どうかしたか?」

「どうかしたか?じゃねえ!

なんで指し口のない機械に突き刺さってんだよ!!」

「ああ、それのことか。

別に、さっき壁にも刺してたじゃないか?」

「……ああ、そうだったな。

あまりにも自然にやってたから、指し口があったのかと思ってたよ。」「…まあ、それも含めて中で説明するよ。」

ガクッと肩を落とす俺に、青年は抜いたプラグを扉の横の機械に突き刺し、操作しながら苦笑をしていた。

しばらくして、機械音と共に扉が開き、彼と共に中に入りこんだ。

中には、大小様々なコンピューターが並び、画面には俺にはちんぷんかんぷんな文字の羅列が並んでいた。

目の前には大画面のスクリーンがあるが、今はなにも映ってなく、真っ暗な状態だった。

俺が物珍しそうにキョロキョロ見回す横で、彼はノートパソコンを取り出すと、プラグを繋げ席に座って操作し始めた。

「…ねえ、睦月さん。」

「ん?なんだ?」

「人間。

いや、ありとあらゆる物って、なにで出来ていると思う?」

しばらく横で彼を見ていると、彼はパソコンの操作を続けながら、そんな質問を俺に投げ掛けきた。

「ん?なにって……、たんぱく質とか、鉄とか、そういう類いことか?」

「いや、もっと根本的なことで。」

「ん?ん~~、………原子、とか?」

「おしいけど、ちょっと違う。

正解は情報。

ありとあらゆる物は、原子に記載されている情報を元に構成されているんだ。

つまり、その物質の原子構造の情報があれば、全ての物質は生み出すことが可能であり、仮に情報をデータ化し、原子を電子で表現出来れば、電脳世界に具現化することも可能となる。」

「ん、まあ、理論上はそうだよな。

でも、そんなこと不可能だろ?」

「なんでそう思うんだい?」

「なぜって、例えば人間なら同じ経験をしても、受け止め方は違うだろ?

タイミングによっては、同じ人でさえ受け止め方が違ってくる。

受け止め方が違えば、後に起きたことの受け止め方や行動が違ってくる。

そんな風に変化していくわけだから、同じ人や事柄を生み出すことは、不可能じゃないか?」

「なるほど、確かに君の言う通りだね。生き物の事柄については、僕も同意見だよ。

でも、例えば見た目だけなら、あるいは服や物だけなら、真似たり、同様な物を作ることはできるよね?」

「ん、まあ極論を言えばな。

んで?

それがどうしたんだ?」

「………勘の良い君なら、気付くと思ったんだけどな。

あるいは、気付いているけど、気付いていないフリをしているだけなのか?」

そう良いながら彼は、俺の方をジーっと見つめてくる。

「……イケメンに見つめらると照「今はボケるタイミングではないよ?」…。」

さっきよりも幾分かキツくなった視線を受けながら、俺は言葉を繋げられず押し黙ってしまう。

……いや、その考えが無いわけではないんだ。

頭の隅っこの方でもたげる、彼の言葉からあり得る一つの可能性。

……でも、あり得ないだろ?

…だって、

……それって、

「………あり得ないだろ、…そんな、………俺達が電子で出来ていて、この世界が電脳世界だなんて。」

 

「なんであり得ない、なんて言えるんだい?」

「何故って、俺はここにいるし、今生きている!

…それに、…それに!

……信じられっかよ、……いきなりそんなこと言われたって!

……信じられっかよ、……今までの行動が、……ただのプログラム通りに動いてただけだなんて。」

 

自分の足元が、ぐらぐらと崩れていく感覚に襲われる。

足の力が抜けそうになるので、必死に力を入れるが上手くいかない。

頭がふらつき、目眩がしそうで、頭を手で押さえて必死に考えようとしても、考えがまとまらない。

自分の信じてた物、事柄、出会ってきた人達、全部偽物だった気がして、涙が溢れて弾け出しそうだった。

いや、多分あと数秒後には泣き叫んでいたと思う。

「……あ~、どうやら、なにか勘違いしてるみたいだね。」

「……へ?」

彼の言葉に疑問符を浮かべながら彼の方を見ると、真面目な表情をした彼が、こちらを真っ直ぐ見ていた。

 

「僕はさっき言ったはずだ。

生物の事柄については、君の言う通りだ、と。

実際君の言う通りなんだ、例えば同じAIに同じ体験をさせたとしても、同じようになるとは限らない。

むしろ、時を追う事に違ってくるものだ。

確かに外見、器は同じかもしれない。

だけど、重要なのは中になにが入っているかだろ?

君が経験してきた物、出会ってきた人達、その一つ一つが今の君の中身を作り出しているんだ。」

「だけど、俺達はスイッチ一つで消されてしまう様な存在なんだろ?」

「それが君が勘違いしている所だ。

いいかい?

さっき僕はこう言ったはずだ、原子を電子で表現出来ることが出来たら、と。

あくまでも僕達は原子の変わりに、電子で表現されているだけなんだ。

肉体だって、遺伝子という情報によって構成されているし、なにかあれば死んでしまう。

君のいうスイッチ一つで消されてしまう存在と、なんら変わりはないのさ。」

「……っ、だけど。」

「だけども、なにも無い。

体が電子だろうと、原子だろうと関係ない。

大事なのは、なにを考え、行動し、成し遂げてきたか?だ。

そして、もう一つ君が勘違いしていることがある。

さっき君はプログラム通りに動いてきた、と言ったね?

だからこそ、君は全てが偽物だった様に感じたのだろう。

だけど、そんなことはないんだ。

さっきも言ったけど、僕達は原子が電子になっただけで、他はなんの変わりはない、そう意味では電脳も現実も違いはないんだ。

だから、君が今まで見てきたこと、感じたことは、偽物なんかじゃない。

それは君だけではない、この世界全ての者に言えることなんだ。

だから、君が出逢ってきた人も人形なんかじゃない。

君が信じてきたものは間違いなんかじゃないんだ。

……君の名前と夢はなんだ?」

「…睦月、…好子。

夢は、しゃべって、ギャグれるジャーナリストになること。」

「そのためにやってきたことは?」

「何事も、経験することが大事だ。と、尊敬する人達に言われたから、色々なバイトや企画に参加したり、色々な場所を見て回ってきた。」

「他に同じことやってた人はいるか?

同じ考えになった人はいたか?

又は、君が人から話を聞いて共感したその人と、全て同じになった人はいたか?」

「いない。

共感をしたり、されたりはしたことけど、俺の考えと全て同じ人は、誰一人いない。」

「ああ、そうだろうさ。

僕は僕でしかないし、君は君でしかない。

それ以上でも、それ以下でも、そして、それ以外でもない。

唯一無二の存在。

それが僕であり、君なんだ。

違うかい?」

「…いや、その通りだ。」

彼の言葉を俺は胸を張って答えた。

若干視界が歪んでいた様な気がしなくもないが、まあ気のせいだろう。

「……ありがとな。」

「……僕の言葉が足りなかったせいもあるからね。

気にするなよ。」

そう言って彼は、再びパソコンに向き直し、再び打ち込み始めた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。